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おれの怪獣娘としての初めての仕事は、歩くことではなく走ることから始まった。
バキシムのバッキー、ベロクロンのクロコ。超獣娘のスピードとスタミナは凄まじく、やっとの思いでついていきながら、結局おぶって運んでもらった。
──その背中の中で自分が本来ここまで速く長く走れるわけがないことに気づき、また一つ自分が超獣娘になったことを自覚していった。
「今のうちにエスさんにこれを渡します。ソウルライザーっていうんです」
形はスマホに似ている。
「これを使って変身すると暴走の危険が無いんだよ、ソウルライド!ってねっ」
「再発行手数料は二万四千八百円なので、なくさないでくださいね?」
女子高生には厳しい金額に顔をしかめるが、一つ疑問が浮かんだ。
「GIRLSからの支援はほとんどないのに、何でそこまで出来るの?」
「それだけ大事なものなんです。再発行の手続きは簡単にできるので、後は受け取りの時だけ色々と……」
「初回無料の物に毎回お金かけてるからスフィンクスはお金が無いの」
本当に、何でそこまでする必要があるのか……。二人に聞いてみてもよく理解していない様子だった。
二人が何もないところで立ち止まる。全く分からないが、どうやら到着したらしい。
「エスさんに一つ注意しておくんですが、外では変身をしないでください」
「私達は秘密裏に行動しているわけだから、少しでも目立たないよう普通の人間として活動をしているからねっ」
そう言ってバッキーが空間に裂け目を作り、クロコと共に降りていった。
──裂け目を覗くとそこはなんと空!
「はぁっ!?」
ビル十階はあるだろうか、足がすくんで動けなくなる。
「高さがGIRLSのビルから変わってないのでちょっと高かったんですよねぇ」
「エスちゃんっ受け止めるよ!」
その言葉を信じるしかなく、目を瞑り飛び降りる。
「空中で捕まえてあげた方がいいんじゃない?」
「そうしましょう。ウルトラキャーッチ!」
「受け止められる側の気持ちにもなって!」
そのまま一回転して着地した。ユーモアはあるが生きた心地がしない。
変身を解いた二人の姿は、おれと変わらない年齢の女子高生。
クロコは変身前とは違って後ろ髪を赤いシュシュで下にまとめ、バッキーは緑色のヘアクリップで分け目を変え、髪が茶髪に変わっている。
制服から学校は違うようだが、怪獣娘にも人間としての生活があるということか。
「しかし寂しい山だね」
「寂しいというより、何でこんなに荒れてるんでしょうか?」
歩いていて気づくのは、その山肌の荒れ模様。木々はどれも枯れかけている。
この先の村に超獣娘がいるそうだが、そもそも村は大丈夫なのだろうか?
「お嬢ちゃん達、旅のお方かな?」
村が見えてきた辺りでご老人と出会った。
すると突然バッキーが態度を変え
「はーい! 私ベッキーって言いますっ。実は私達、科学研究会っていうので、近頃この村に不思議な噂を聞いてやってきたんですっ」
「……」
──無理だ! ご老人は訝しんでいる。
三人共違う制服、山を登る為と言えるわけのない装備、そして何よりおれの見た目。
フードで顔を隠し、スカートの下にボトムスを履いている。
オシャレのためじゃない、
慣れたしぐさでご老人を説得しているバッキーを横目に、せめてフードを取り癖っ毛の頭で会釈した。
「入っていいって!」
「流石バッキー! おっとここではベッキーなんでしたね」
嘘みたいな話だ、信じてくれたらしい。
「バッキー、何か超獣の能力でも使ったの」
「私はちっちゃくて可愛らしいからね。子供の心が純粋だと思ってるのは人間くらいだよっ」
誰目線だ。
──村の光景はおれ達の想像とは違っていた。
荒れていた山肌とは違い周りは緑が生い茂っている。
しかしどの住宅にも生気がない。
「大きい家だねぇ」
「昔の地主かもね」
1つだけ、村一番の家のみが息をしていた。
「この世にはまだ科学なんちゅうものでは分からないものもある。お嬢さん達も恵みを貰うといい」
「私達だってそれなんですよねぇ」
クロコがボソリと笑いながら言った。
恵みとやらを貰うためにその家に入ると、そこは恐らく全ての村民が一人の少女を拝んでいる。
「苦しさと悲しさを捧げなさい。神の御手が貴方達を抱き取りましょう」
白く美しい髪に赤く染まった薄着の格好、角とスカートの中から覗く長い触手。一目でスフィンクスの言っていた超獣娘と分かった。
しかしロウソクの光で見える少女の顔には痩せた頬に影が落ち、照らされていても暗いままだ。
「さあさ、お嬢ちゃん達も神様を拝んで」
そういうとおれ達の返事も聞かずにご老人も座り込み一心に頭を垂れた。
あまりに目立つので仕方なくおれ達も座った。
「ユニバーラゲスだね」
この光景に言葉を失っていたおれとクロコの横で、バッキーはソウルライザーをいじりながらそう言った。
「かつて宇宙人が燃料補給のために利用していたらしい宇宙クラゲで、触手でエネルギーを吸い取れるらしいよ」
「じゃあ、今はその能力を使って村の人達にエネルギーを与えてるってことなんですか」
「宇宙人はユニバーラゲスを神様として地球人に崇めさせて侵略に使ったらしい。超獣娘になって本当に神様になったと」
──皮肉な話だ。でも心の奥で、哀れだとは思わなかった。
「村の外が荒れ果てていたのはきっとそこの植物からエネルギーを吸い取っていたから。そしてそれも尽きて、今は自分の分を与え始めてる……」
「まさか少しの遅れでこんなことになってしまったなんて……! あっ、エスさんは悪くないですからね?」
「うん、ありがとう」
──空返事をした。
感謝の気持ちはあるが、今おれは別のことに気を取られている。
心の奥にいるおれじゃないおれ、それの言葉がまるで自分のものかのように喉まで出かかっている。
……本当にそうか?
言いたいことは分かる。何者になるかを選ぶことすらできない自分にとって、彼女は少なくとも神様になり、村民に感謝されている。
おれよりもずっと立派で充実しているんじゃないだろうか?
「こうなったら多少手荒でも」
「クロコが多少なんて出来るわけないじゃん」
じゃあこの気持ちは何だ、ああなりたいと本気になって思えない。
ユニバーラゲスのあの表情に理由がある。知らなくては……。
「エスちゃん!?」
「何をするつもりですか!」
二人の声をよそに信者をかき分け、ソウルライザーに手をかける。
「ソウルライド」
──眩い光に家にいる全ての人が目を瞑る。
光の元に立っているのは赤い体に金色の鎧の超人、エースキラーの超獣娘だった。
その姿に信者達は様々な感情を取る。ユニバーラゲスと似たものを感じたのか崇める者、うるうると口にしながら震えている者。
「不届き者、何者ですか」
「すみません、嘘をつきました。おれ達は国際怪獣救助指導組織、通称GIRLSです。貴方はユニバーラゲスの怪獣娘として、保護される身にある……そうです」
怪獣という言葉に信者達がどよめきが起こった。おれ達の世代では馴染みがない存在も、この世代ではおそらく実際に見たことがある人もいるのだろう。
「そんなわけがねぇ! 神様はこの村を救ってくれたんだ! 怪獣なんて悪い奴なわけがねぇ!」
「みんな一旦聞いて!」
今まで額に手を当てていたバッキーがいつの間にか変身しそちらへ注目を集めた。クロコも変身をしている。
「そこの女の子とそして私達も怪獣娘って言います!」
「怪獣の魂を持っている怪獣に変身できる人間なんです! だから悪い人ではないんです!」
「そもそもあんたら自分の身分を嘘ついてたじゃねぇか! 何が目的だ!」
対応に追われている二人に申し訳なく目をやっていると、ユニバーラゲスが睨みつけてきた。
「一体何のつもりですか。私の邪魔をする理由が貴方にはあるのですか?」
「保護される身にあるから、というのは建前です。すみません。本当は、貴方の充足していない顔の理由が知りたいから。全部知りたい」
「何なのですか貴方は……正直に謝る心があるのに、こんな荒事を」
「おれはどうせい良い人じゃないんだろうけど、嘘は良くないと思って」
自分でも矛盾していると思う。ただこれを聞いたユニバーラゲスは目くじらを立てなくなった。
「私はここにただ登山客として来たんです。山を登っている途中に人の道が見えたので……。
ただこの村は昔怪獣の被害に遭いながらも行政からも見放され、村はもう長くない状態だったの。
私はその姿を見て何とかしたいと一心に思った……そうしたらこの姿になったの。
最初は戸惑ったけれど、不思議と自分が何をするべきか分かった。私が持っているエネルギーを、やせ細った人々や畑にやることで、私は確かに感謝された。
でも……ここの人はそれで終わらなかった。いつの間にか神様として感謝され、更なる恵みを求めた。私のエネルギーは尽き、ひっそりと村の外から取ることで今まで何とかやってきたの。」
バッキーとクロコが予想していたものと大体同じだった。二人は信者達を抑え込むのに精一杯な様子だった。
「貴方は今からここを抜け出せます。」
「それはダメ! 私がいなければこの村はまた枯れてしまいます! そうなるくらいなら、私はここで神様として居続けます!」
──顔が嘘をついていた、しかし本当に枯れてしまう可能性もある。怪獣の力は、周りも本人も変えてしまうのか……。
「これは、提案ということにしてほしいのですが、やっぱりここを抜け出したほうが……!?」
ここで抜け出そうと言い切れないのが、自分でも情けなく思う。しかし振り返ったユニバーラゲスはそれどこではなかった。
「私は……ユニバーラゲス! ここの神様……! 邪魔ヲ……スルノカ!!」
目が真っ赤に変貌し、明らかに様子がおかしい。
「エスさん逃げて! それは暴走です!」
「不届キモノ!!」
ユニバーラゲスは触手を勢いよく伸ばし、おれは反応が遅れ両手と腹を巻き付けられてしまった。触手の先から力が抜けていく。
「おぉ~! 神のお怒りを買ってしまわれた! どうかお許しを~!」
──これが、暴走。彼女の中にも、そしておれの中にもいる怪獣。
嫌だ、おれはこうなりたくない。自分が何者か分からず、何でもかんでも決断が出来ないおれでさえ、こうなるのは嫌だ! ユニバーラゲスだって、あの暗い顔はそれを望んでいるものではなかったはずだ!
渾身の力を込め、なんとかまずは左腕の拘束を解こうとした、それを見たバッキーは何故か更にまずそうに叫ぶ。
「何もしないで! 今私達が助けるから!」
力が上手く出ず、自分のことで精一杯ではその言葉が理解できなかった。
「……? 何ダ!? コノエネルギー……イクツ……?」
何故か一瞬緩まったユニバーラゲスの隙を見逃さず、俺は両腕の拘束を解いた。
しかし勢いよく飛んでいった触手は、部屋を照らしていたロウソクに当たり、家に引火してしまった。
「エスちゃん! 私達はスフィンクスから、
バッキーとクロコは家から逃げ出す信者の雪崩に流され、消えていってしまった。
* * *
雪崩に流され家から出てきたバッキーとクロコは、地面に座り込み燃え始めている家を眺めていた。
「あの子は、本当に怪獣だったのか……」
そう言った村民の言葉に、バッキーは呆れ果ててしまう。
「違うよ。怒ってるのは人間だよ」
「いつもなら秘密裏に事を済ませますけど、こうなったらそうもいかないんでしょうね。後のことはGIRLSに任せてしまいましょうよ」
立ち上がろうとするバッキーに、村民が手を差し伸べた。
「すまなかったお嬢ちゃん。俺達が悪かった」
それを聞いたバッキーは安心したように言った。
「ありがとう。でも私お触り禁止なんです」
「は、はぁ……。すまねぇ」
「そうなんですかバッキー!? 私ベタベタしすぎました!?」
「……」
クロコのせいで空気が静かになったところで、家の屋根が焼け落ち、大きな音を立てた。
「……水が出せる超獣だったらいいんですけどねぇ。私達」
「エスちゃん達も超獣娘なら大丈夫なはず。これ以上燃え広がらないように、周りの家を壊すくらいはやるよ! ……あっミサイルは使わないでね」
「使いませんよぉ」
二人は村民に一礼をしてから、周りの家々を破壊して回った。
「今俺達を助けてくれているのも、怪獣なのか?」
* * *
スフィンクスの事を思い出す。あの人なら超獣のことをよく知っているから、今どうするべきかも分かるのかもしれない。
そのことを考えながら、ふと彼女がおれに名前を付けてくれたことを思い出した。
「そうか、だからおれに名前を……」
腰に巻き付いている触手を思いっきり引っ張り、おれはユニバーラゲスに角で頭突きをお見舞いした。正気に戻すなら頭が一番だろう。
「ウ……ウギャア!」
「ユニバーラゲス! 貴方の人間としての名前は?」
「ウ……ウゥ」
「おれはエースキラー。でも人間としての名前は、エキラ。……変な名前だけど、とにかく貴方にもあるはずだ!」
「……ユウ」
「おれよりずっといい名前だよ。今から貴方は、ユーニと名乗れ」
「ユーニ……」
「おれはもう人間として生きることはできないのだと……思う。でも、だからといって怪獣として生きるなんてありえない!
おれはある人から新しい名前を貰った、エキラとエースキラーで、エス。人間と怪獣である、怪獣娘としての名前。
貴方もそうだ、だからおれが名前をつける。ユーニ、これからは怪獣の力と人間の心を持って生きろ!」
きっとそうなんだ、スフィンクスは
「そんな……そんなことをしていいの?」
「だから、力があるからってここにいなくていい。人間なら当たり前でしょ。
おれが保証する、ユーニとして生きるんだ!」
自分でも驚いている、人生で一番の決断だ。自分どころか他者の決定をしている。しかし、彼女のためを思えば、不思議と勇気が湧いてきたのだった。
火の熱さだって、何も感じない。
「よし、ここから脱出するよ」
おれはユーニを抱え思いっきり出入り口に向かって突進した。大きな音を立てながら、おれ達は地面へ転がった。
「エスちゃん!」
「無事で良かったですよぉ~」
何故か汚れている二人に、二指で敬礼をした。咳き込んでいるユーニを落ち着かせてから立たせ、自分の言葉で話すのを促す。
「皆さん、私は若月ユウ、ユニバーラゲスの怪獣娘です。
そしてこれからは、ユーニと名乗ります。私は、もう皆さんの神様ではありません」
「あぁ。それが、それがいいんだろうな……」
和解するユーニと信者を横目に、バッキーから抱きつかれながらクロコに両手で握手をされる。
おれは今、人助けをした人になったのか。
「おれ達の活動って、いつもこんな感じなの?」
「まさか! こんなことはもう懲り懲りですよぉ」
「本来なら最後に超獣娘の子に今後について話すつもりなんだけど、ここまで大事になったし、何より村そのものにも助けが必要なはず。
だからあえてこのままにして、後始末をGIRLSに任せようかなって」
「スフィンクスに怒られない?」
「まぁ、元々対応が遅れたからって言えばスフィンクスさんも黙りますよ」
いいんだ。
「みんな、帰ろっか」
そう言ってバッキーは行きと同じように空間に裂け目を生み出した。
──そうか、走りか! これだけの大仕事をしたのにさらに動かなければならないことに、人生で今まで無いくらい天を仰いだ。
詳しいことは分からないだろうに、その姿を見ただけでユーニはクスリと笑ってくれた。
この笑顔を見れたのなら、もう一っ走り出来る気がしてきた。
黄昏時の空から、一番星がおれ達を見守っていた。
* * *
「エレキングさん、見つけました! 超獣娘がいるっていう村」
エレキングの部下、マガバッサーはユーニのいる村に立ち寄っていた。
「ご苦労様。マガバッサーとマガジャッパは村の引き続き村の調査をお願い」
「はい!」
「ピグモン、どう思う?」
ピグモンは黙り込んでしまった。
今回の件をいち早く発見できたのはスフィンクスの対応が遅れたこと、そしてユニバーラゲスの暴走騒ぎのおかげである。
しかし、今までこのような事態が一度も起こらなかったのだろうか?
そもそも怪獣娘の発見はGIRLSの本分であり、それが先んじられていることそのものが異常事態なのだ。
理由は一つしかない。それを言えず、ピグモンは黙り込んでしまっていた。
それを見たエレキングが、ピグモンの為にも、しかしハッキリと口にした。
「このGIRLSの中に、
「……」
静まる部屋を覗き込む黒い鳥のような怪獣娘がいた。
「なーにしてるのベム?」
「ゴモラちゃん!?」
「ゴモたんでいいって~」
「ちょっと、入れる気分じゃなくて」
「まー今大変みたいだし。でもだからこそ何かちょっかい出してあげるべきじゃない?」
巨大な角と尾を持つ怪獣娘、ゴモラはその怪獣娘を引っ張って会議室へ入っていった。
「何か用? ゴモラに
神様?超獣娘!? 完
26.5.24修正
エースキラーの一人称を『オレ』から『おれ』に変更しました。