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「エスちゃん火出せないの!?」
「バッキー火出せるの!?」
ユーニことユニバーラゲスについての報告中、超獣と火についての話題に逸れた。
二人の大声も、何もない異次元の中だとさほど大きな音にはならなかった。
「超獣であるのに火が出せない……。エースキラーはやはり普通の超獣ではないのかもしれません」
「スフィンクスさんの勘が外れただけなんじゃないですか?」
クロコの問いにスフィンクスは考えを巡らせていたようだった。
「そんなに深刻なんですか」
「エスさん、見ててくださいね? イェッ!」
クロコが口から火を吐く。
「こうだよエスちゃんっ。トアッ!」
バッキーは手から火を出した。
「テェェイ!」
スフィンクスは額の蛇から……「額に蛇いた!?」
「超獣とはどこかしらから火が出るものです。
たとえばカブトガニの超獣キングクラブは両目の間から火を出しました」
「どんなところから出してるんですか!?」
「火力を誤り顔を火傷してから、超獣娘になりたくないと言いました。元々そのつもりでしたが」
「そんな極端な」
「でもですよ、おれの左手には鋭い爪がありますし、この大きな双刃刀まであるんです。
地球侵略が目的なら、これぐらいあれば十分だと思います」
「うーん、でもさエスちゃん。それ、超獣かな?」
「えっ」
「あたしと比べて地味なんじゃないでしょうか」
「うっ」
「超獣が現れる少し前に頻出した、あまり強くない宇宙人の方が近いかしら」
「そ、そんな……」
膝から崩れ落ちる。このままだと超獣ではなく、
「エスちゃん凄い落ち込み様だよ」
「今日のエスさん、口数とかリアクションとか大げさでは?」
──自覚している。
昔から自分を探し続けてきたおれからすれば、エースキラーはそれに応えてくれるような存在ではない。
「みんなが羨ましくて、つい……」
丸くなっているおれの肩にスフィンクスが手をやった。あのキフィの香りが身を包む。
「わたくしの勘に間違いはありませんでした。きっと貴女もわたくし達の仲間です。
他の超獣娘のように正体を隠してもらうつもりでしたが、ユーニの件もあります。
貴女はむしろ隠れず、二人と一緒に行動すべきでしょう」
頷きで返事をする。バッキーとクロコはもう友達だ、そっちの方がおれのためにもいいだろう。
「ではエスを正式に超獣娘の一員として迎え入れます。
とはいえ現在は新しい超獣娘は確認されていません。少しの間羽根を休めなさい」
「「はい」」
「はーい」
「そういう訳でバッキー、エスをアパレルショップにでも連れて行きなさい。
スカートにズボンそのものではなく、選べないという理由がよろしくありません。
貴女が見繕いなさい」
言われてしまった。しかしこれも大事な一歩のはずだ。
「経費出る?」
「出るわけないでしょ」
* * *
「こんな招待文で人がやって来るとでも思ってるのかな?それで来ちゃったのがあたいなんだけど……」
全ての答えはここにある!! と書かれている招待文を握り、GIRLS本部のビル前で立ち尽くしているこの少女の名前は古谷メイ。
最近、彼女自身に起こっている不思議なこと、それは彼女が怪獣娘だからだという。
銀髪で、怪獣娘としては少し幼い、日焼けした明朗快活な女の子。
「大丈夫。お姉ちゃんもいるから心配ない」
「姉ちゃん! あたい一人でやれるってば!」
……のはずなのだが、姉の前では少し弱いらしい。
姉の名は古谷メイカ。銀髪で、姉とはいえまだ幼さが残る、色白の落ち着いた女の子。
そんな二人の元にGIRLSのビルから一人の怪獣娘が出迎えをした。
「よぉ、新しい怪獣娘! オレはレッドキング、よろしくな」
GIRLSが超獣娘の捜索に力を入れていたとしても、その本来の目的が疎かになっていい理由にはならない。
本来怪獣娘の指導はピグモンの担当だが、今回はレッドキングは主導で行うことになった。
「それで、今回呼ばれたのはどっちだ?」
メイカが手でメイを指した。それをメイは目くじらを立てて見つめている。
「古谷メイです……。よろしくお願いします」
「よろしくな! 立ち話もアレだから、中を案内してやるよ!」
GIRLSの中には、怪獣娘を保護し指導するための様々な設備がある。
レッドキングはトレーニングルームを我のことのように自慢し、図書室から適当に怪獣の図鑑を手に取り、見習いにはまだ見せられない部屋を案内しそうになりながら、食堂のデザートの
施設の講義室に連れられたメイは、早速レッドキングから指導を受ける。
メイカと距離を取りながら。
「オレ達の中には怪獣の魂、カイジューソウルが宿っている。その魂を自覚した時初めて変身できるんだ」
「どうやって自覚できるんですか!? 早く変身したいです!」
「そんな焦るなって。それぞれ宿しているものが違うから、こればっかりは人による」
そう言ってレッドキングはスマホを手に取り、メイをカメラに収めた。
「こいつはソウルライザーって言ってな、スマホに似てるがオレ達が怪獣娘に変身するための大切なアイテムだ。
こいつによると……スカルゴモラか」
身長57m、体重5万9千トン。レッドキングとゴモラの二つの怪獣の特性を併せ持つ怪獣。
図書館から持ってきた薄い図鑑から項目を見つけたレッドキングの顔が、ぱっと明るくなる。
「なんだ、半分オレみたいなものじゃねーか! それなら話が早い!」
手に持っていたソウルライザーをメイ──これからはスカルゴモラ──に渡すと、その体をむんずと抱え先程紹介したトレーニングルームへと連行した。
腕立て伏せ! 腹筋! 走り幅跳び! 垂直跳び!
レッドキングはあらゆるトレーニングとスパーリングをスカルゴモラに行わせた!
スカルゴモラも体力には自信があったので卒なくこなしていく!
トレーニングは段々とヒートアップし、スカルゴモラが限界を超えたことで自然と終了した。
「ハァーッ、ハァーッ……」
「いい燃え尽きっぷりだったぜスカルゴモラ。これだけ動ければ怪獣娘になっても……」
「──あっ! あたいまだ変身できてません!」
「しまった忘れてた! しかし半分オレならこれが当たりだと思ったんだけどな、ゴモラの方に似たのか?」
頭をポリポリとかいたところで目線の端のメイカに気が付く。
どうやら一緒に動いていたらしく、スカルゴモラと違ってかなり厳しそうな様子だった。
「ゼェ……ゼェ……」
「姉ちゃん、何であたいと一緒になって運動してるんだよ」
「まぁいいじゃねぇか。しかしお前も中々やるな、怪獣娘は変身していなくても普通の人間より少しは強いもんな……ん……?」
──うつ伏せで突っ伏しているメイカの体が、光を放ちはじめている。
「何で普通の人間が、怪獣娘に喰らいつけているんだ…!?」
「私は……メイの、お姉ちゃんだから……!」
メイカの顔が上がる。その表情はすでに、どういうことかを自覚している!
「スカルゴモラ! そのソウルライザーをメイに渡すんだ!」
──スカルゴモラは理解していた。しかし心は、どうしても認めることができない。
自分が怪獣娘である証のソウルライザーまでも、姉に渡さなければならないのか──。
「メイカ! こいつを使え! ソウルライドだ!」
レッドキングは自分が持っていたソウルライザーをメイカに投げて渡す。
「ソウル……ライド!」
メイカの体が光に包まれると、途端にその体に変化が起こった。
鋼でできた巨大角、機械の腕、胸から輝くエネルギー。
「
レッドキングが呟く。ソウルライザーで調べなくとも分かるほど、その姿は仲間であるゴモラに酷似していた。
「あぁ、よかった。私も怪獣娘で……」
妹と共にGIRLS本部に訪れてから、初めて笑みを見せたメイカ──つまりメカゴモラ──だったが、スカルゴモラは今までで最も青ざめた表情で姉を見つめていた。
「なぁメカゴモラ。自分が怪獣娘だったこと、自覚していたのか?」
「いいえ。でも、そうであって欲しいとずっと思ってた」
「じゃあお前のカイジューソウル……はっ!?」
そう言い出すところでレッドキングはスカルゴモラから何かを感じ取った。
──スカルゴモラの体から光が放たれている。怪獣娘へ変身するのだ。
しかし変身するよりも先に、スカルゴモラは窓から飛び出してしまったのだ!
「メイ!」
「スカルゴモラ! くっ、メカゴモラ! 今日はこれでお開きだ、追うぞ!」
メカゴモラと二手に分かれ、スカルゴモラの捜索にあたった。
* * *
雨も降っていないのに、顔がずぶ濡れの少女がいた。
少女は物心がついた時から、常に姉がそばにいた。
自分がやることは何でも姉が先にこなしてしまう。自分が出来ることは、姉も必ず出来ていた。
そうして少女は、自分の人生は姉に先を越されるためにあると思った。それを認めないために、今までずっとやってきた。
自身に起こっている不思議なことが、怪獣娘だからと知った時は人生で一番喜んだ。
怪獣娘は誰でもなれるものではない。自分よりも優秀な姉でも、怪獣娘になれるかどうかは別だった。
人間の姉と怪獣娘の妹とで、別の人生が始まるはずだった。
「怪獣娘は……怪獣娘は……」
──彼女の人生は、姉に先を越されるためにあった。
「怪獣娘は! あたいだったのにぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!!!!」
そう叫ぶ少女の頭には、緋色の大きな角が生えていた。
続く
26.5.24修正
エースキラーの一人称を『オレ』から『おれ』に変更しました。