遊戯王ARC-V DIMENSIONAL WARS 作:白銀蟷螂
扉は僅かに開いていた。
ほんの少しだが確かにそこに隙間がある。
人一人が通るには足りない身体を滑り込ませることもできない幅。
肩も入らず足も踏み込めない。
だが視線を差し込むには、それで十分だった。
柊柚子は、その隙間から室内の様子を窺っていた。
ただ足は止まり、視線は部屋の中へと向けられている。
柚子の視線の先。
遮るものはなく隙間越しに全てが見える。
部屋の中にいるのは二人の男女だった。
一人はハネ毛気味の赤の髪に緑色の前髪が特徴的な少年。
見慣れた姿、何度も見てきた顔、柚子の幼馴染、榊遊矢。
そして、もう一人はパーマのかかったピンク色の長髪をリボンで結んだ少女。
現在はランサーズに所属している海野占い塾の塾生、方中ミエル。
二人は正面から互いの視線が交差する位置で向かい合っていた。
会話をしている様子だった。
唇が動く、言葉が交わされている。
前触れもなくミエルが遊矢との距離を詰めた。
迷いなく躊躇なく彼女は踏み込む。
そして二人の唇が重なった。
――あ……遊矢のファーストキス、とられちゃった。
柚子の頭に浮かんだのは、そんな言葉だった。
それは思考ではなく反射。
整理されていない断片的な認識。
それでも最初に浮かんだのが、それだった。
ミエルの唐突な接吻に遊矢は目を見開いて身体を硬直させる。
完全に不意を突かれた反応だった。
理解が追いついておらず状況を把握できていない。
だが遊矢がミエルを拒絶することはなかった。
突き放すことも距離を取ることもない。
離れるという動きは選ばれない。
数秒間、僅かな静止。
短いはずの時間が妙に長く感じられる。
まるで時の流れが引き延ばされ歪んだかのよう。
或いはその場だけ、別の時間が流れているかのようだった。
やがて遊矢の腕が動く。
ゆっくりと確かめるようにミエルの背へと回される。
それは明確な意思を伴った行動だった。
そのまま強く抱き寄せる。
ミエルの小柄な身体が、遊矢の腕の中に納まった。
互いの間にあった空間が完全になくなる。
二人の距離は、もはやゼロに等しい。
その光景を柚子は茫然と見ていた。
自分ではない女が幼馴染の少年と抱擁を交わしている。
仮にこの先、恋人になることができたとしても、遊矢の初めてのキスの相手は柚子じゃない。
お互いにファーストキスを交わすという心の何処かで思い描いていた未来は今この瞬間に潰えた。
声が出ない。
理解が追いつかない。
何故こうなったのか。
ただ視線だけが、その光景に釘付けになっていた。