真女神転生VV二次創作 牛蛇相克 作:dwwyakata@2024
真女神転生VV二次創作のお話、始まりです。
原作ではこの作品、聖書における失楽園を重要なテーマとして扱っています。
本作ではそれを神話的な観点から、様々に神話解体していきます。
原作に基本的に忠実な話の展開をしていきますが、オリジナルの展開も多く入るほか、主人公の行動でかなり展開が変わってきます。
それはご承知おきください。
重要な悪魔や登場人物については解説も入れます。
プロローグ、夢に非ず
夢を見た。
夏目煌は時々変な夢を見ることがあった。今日もそうだ。寝付けなくてぼんやりしていたら、いつの間にか夢を見ていた。
文学作品が好きだから、自然と神話には触れる。
メジャーどころの神話はだいたい中学までにはどれも目を通した。高校になった今も、時々様々な文学に触れながら、神話にも目を通している。
だからだろうか。
妙な夢を見るのだ。
歩いていると、森に出る。森、というには開けているか。其処には素っ裸の男女がたくさんいて、裸であることを恥ずかしがってもいないようだった。
声が聞こえてくる。
ここはエデン。
神が作った楽園。
人間は神の作った楽園で静かに暮らしていた。
だが、其処に蛇が現れた。
蛇、か。
楽園追放の逸話だなと、煌は思った。
別にキリスト教に興味がなくても誰でも知っている程度の話だ。
だが、だとするとおかしい。
エデンから追放されたのは、アダムとイブだけの筈だが。
また声が聞こえてくる。
蛇は人間達にそそのかした。
そのような情けない姿で良いのか。
知恵を忘れてしまったのか。
おまえ達は知恵をもってこの地上で生き抜いてきた。
様々な猛獣たちから知恵をもって身を守り。
寒さや暑さにも知恵を持って対抗してきた。
農作物を作り服を編み。
争いもあったが、それでも「文化」を作り上げてきた。
親が子に知恵を伝え。
老人は文化を広め。
そして互いに尊重し合って、子孫をつないできた。それが、そんな風に「絶対者」に飼われるままでいいのか。
蛇は煌が見える範囲にはいない。ただ声で、そういう事があったと伝えられただけだ。
だが、煌は、蛇の言葉は正論だと思った。
この森の中に食事がいくらでもあって、服を着なくても生きていける空間があるとしても。
人間はこんな姿で過ごしていたら、それこそ堕落していると言えるだろう。楽園なものか。
勿論安全に平和に暮らしていけるなら、それもいい。
だが、この光景は。
本当にそうだと言えるのか。
不意に光景が切り替わる。
森は焼き払われ。
服を着た人間が、いや鎧か。随分と原始的なものに見えるが。
それを着た人間が争っていた。
暴虐と殺戮が血しぶきをまき散らし。子供は踏みにじられ。女は凶暴な笑顔を浮かべた男に略奪され。
命乞いをする老人は次の瞬間に首を落とされ。
書物は焼かれていく。
また声が聞こえる。
蛇の誘惑のまま知恵の実を食べてしまった人間は、楽園を追放された。
知恵には神々の魂が含まれていた。
だから人間には神々の魂が入り、そして人となった。
煌は思う。
それがこの光景だというのか。
楽園を追放される前から、何かがおかしくなっていたとしか思えない。
それにだ。
聖書のエピソードはおかしなことばかりだ。
煌は昔から、神話の本を見ると、どうにも裏側から考える癖がついていた。それもあって、どうにもこれはおかしいと感じることも多かった。
そもそも一神教で。
神は人間をどうしたかったのか。
楽園で飼い殺しにしておきたかったのか。それを愛というのであれば、神はただのモンペだろう。
知恵を知ったのが気にくわないから追放したというのもおかしな話だ。
知恵は人間が生きていくのに大事なものだ。
どうしてそれを持つ事を許そうとしなかった。
今の声にも疑問が残る。
人類に神々の魂が受け継がれた。
それは本当に言葉通りの意味なのか。
また声が聞こえる。
人間よ。
罪を犯した人間達よ。
魂を失った神々はそれを取り戻そうとずっと振る舞っている。だから人間を食らおうと闇から狙っている。
気をつけろ人間。
私たちは今でも闇から見ているぞ。
ふと目が覚める。
汗は掻いていない。別に悪夢だと思ったわけでもない。ベッドの横には、昨日読んでいたロシア文学の本があった。
とにかく名前を覚えにくい難点があるが、読み応えがあるのは事実だ。
嘆息すると、本が曲がっていたりしないことを確認して、煌は通学鞄に入れる。寮生活を開始してから、学校には歩いて行けるのだが。
それでも途中の隙間時間や、休み時間にこれを読みたいと思うこともあるのだ。
煌はあまり勉強が出来る方でもない。
鏡の前で身繕いする。
女みたいな顔だな。
昔、よくそう言われた。
実際には周囲には言っていないが、それどころではない問題が体にあるのだが。それを喋るつもりはない。
ただ、元々極めて無口な煌がじっと見つめると。
相手はそれでどうしても気まずくなるらしくて、以降はからかったりいじめたりという気が失せるらしい。
地蔵とか、そういう風に言われることもある。
背はそこそこ高校までに伸びたが、平均にはだいぶ届かない。
今でも陰口が時々聞こえる。
スカートでも履いてみたらいいんじゃねえかとか。
女装が似合いそうだ、とか。
別にどうでも良い。
ほとんど周りの人間を、ジャガイモ程度にしか煌は認識していなかった。
運動もそこまで出来る方ではない。
つまり、特に取り柄もない。
ただ、じっと考える事が多くて。
それで、テストで赤点だらけとかそういうこともなく。論理的なパズル問題とかは得意だった。
着替えを終える。
煌の学校の制服は、花の模様が入っている極めてしゃれたものだ。男性用でもそれが入っているので、どうしても目立つ。
黙々と品川駅を抜けながら通学。
その先に学校がある。縄印高校。全寮制の学校だ。
品川駅は通勤ラッシュ帯には殺気だったサラリーマンが走っていることも多く、その時間帯は通行を避けた方が良いこともあるが。
基本的に早めに通学している煌は、それで遅れることもなかった。
黙々と学校に着くと、支給されたタブレットを触る。
これが苦手だ。
電子機器は特に苦手で、未だに紙媒体の本を愛用しているくらいなのである。
ともかく、四苦八苦しながら操作するが。
今の教師陣がとにかく授業が下手なこともある。
三時間目の国語の時間で、眠気がついにピークに達した。
また夢を見た。
授業中だっていうのにな。そうぼやく。
国語は得意な方だ。ちょっとくらい寝てもまあなんとかなる。それはそれとして、夢を見ている。
なんだろうな、この夢は。
ただ薄暗い闇の中に道があって、左右は奈落だ。黙々と歩いて行くと、何かが見えてきた。
それは、蛇だ。
いや、ちょっと違うのか。
蛇のような気がしたのだけれども。
中空に浮かんでいるそれは、膝を抱えている女性のように思えた。
手が届くほどの高さに浮かんでいる。
なんだか不思議な存在だ。女性だが、髪は短く切りそろえてしまっている。
無言で見ていると、言われる。
夢で聞こえる声はいつも抑え気味だが。今日の夢では、妙に大きな声で聞こえてきていた。
「それに触るな」
「……」
「それは危険因子だ。 世界を滅ぼす危険な存在だ。 触ってはいけない」
「膝を抱えて行き場をなくした女性に見えるが」
煌が答えるが。
声は、それに対して違うと言う。
「それは裏切り者だ。 光の加護を受けながら、闇に加担したもの。 ここに……世界の狭間に封印しておくべき存在だ」
「ここは世界の狭間なのか」
「そうだ。 そのまま無視して進め。 おまえは世界のために必要な存在だ。 それを無視していけば、状況がこじれることはなくなる」
「……」
こじれる、か。
ずっと黙って生きてきた。
周りがどれだけ騒いでいても、煌は静かだった。
口がきけないのかとか陰口をたたかれることもあったが。どこかで分かっていたのかもしれない。
あらゆる全てで周囲から劣っている煌は。
ただじっと黙っている方が良いのだと。
そうするとぼろが出ない。
スクールカーストなんてくだらないものが世界を席巻している時代だ。それに関わらないのが一番良い。
ただ、それでも。
煌は犯罪を目撃したら通報したし。
悪党を見たら相談もした。
それらが報われるとは限らなかったが。できる限りのことをしてきたつもりだ。
手を伸ばす。
中空に浮かんでいた女性らしいものは、手に気づいて。握り返してきた。
握力が20㎏少ししかない煌よりも、むしろ握力が強いかもしれない。
蛇のようだと思っていた女性は。
裸のまま降り立つと。胸を手で隠しながら、礼を言うのだった。ただ、顔は一切見えなかった。声も覚えていなかった。
また、目が覚める。
変な夢ばかり見るな。
そう思って、煌は授業が終わりそうになっているのに気づく。
なんでも煌は授業を聞いているように見えるらしくて、誰も寝ていたことに気づいていないようだ。
それはそれでいい。
黙々となれないタブレットを操作して、後の授業もやる。
とにかくあまり出来ることがないから。
苦痛ではあったが。
うまくもない学食で昼食にして、それで夕方。
担任の教師が、説明をする。
最近物騒な事件が連続で起きている、と。
そういえば煌も聞いた。
確か動物園から虎が逃げ出したとかで、数人殺されたという。虎は射殺されたというのだが。
虎を見た人間がいない。
それどころか、もっとなんだか得体が知れない存在を見たと、語っている人間が多いらしい。
よく分からない話だ。
どっちにしても煌なんか、猛獣に襲われでもしたら一発アウトだ。
「あまり役には立たないかもしれないが、群れでいると、それだけ襲われても助かる確率が高くなる。 それは人間でも動物でも同じだ。 ホラー映画なんかで、単独行動した奴から死んで行くだろう? あれはホラーはフィクションだとしても、単独行動が危険なこと自体は真理だったりするからな」
担任がそんな風に言うと。
乾いた笑いが響く。
冗談になっていないからだ。
煌も不謹慎だなと思ったが、黙っていることにした。
とりあえず授業は終わりだ。
できるだけ複数人で帰るようにと言われたが。このクラスに親しい人間はいない。だとすると、他のクラスの宛てを頼るか。
黙々とクラスを出ることにする。
煌が無言で見ると、クラスの出口を塞いでいた不良男子が、なんだか怖がったように一歩下がる。
どうしてか苦手意識が持たれているらしい。
知ったことではないが。
さて、いるなら校門辺りか。
探していると、いた。
今日も兄妹でいるな。仲が良いことである。
兄の方は敦田ユヅル。
この高校、いやそれどころではない。都内、いや恐らくこの国全てをひっくるめても屈指の俊英だ。
とにかく非常にばしりと決まった優等生タイプで、精悍な顔立ちに眼鏡がものすごく似合っている。
格闘技なども強いらしく、通称完璧超人学級委員長である。
不良などもユヅルを見ると即座に逃げ散るほどで、実際腕自慢の不良を簡単にまとめて畳んだらしい。
身体能力も頭脳も、煌が勝てる相手ではないので羨ましい限りだ。
妹の方は敦田ミヤズ。
こちらは逆に非常に穏やかな雰囲気の女子で、兄と同じように眼鏡を掛けているが、雰囲気は真逆だ。ひ弱で勉強もあまり出来る方ではない。髪の毛もそんなに整えておらず、短く切りそろえている。それで不思議なことにそこそこ似合っている。
一見すると兄に守られているだけのようにも思えるが、ただとにかく芯が強いので、煌としては話していて親近感が湧く。物静かで普段は自己主張をしないが、一度そうだと決めるとてこでも動かない。そういう強い意志を持っている。
非常に仲が良い兄妹で、絵になる二人なのだが。
本来は交友関係なんぞ持ちようがなかっただろう。
どういうわけか、煌は一年の頃からユヅルとはたまに話すことがあって、いつの間にか仲良くなっていた。三年になった今は、後から入ってきたミヤズも紹介され、三人でメールも交換してある程度の交流を持っている。
ばたばたと騒がしい。
帽子を被り、制服を着崩した調子が良さそうな男子が、走って行くのが見えた。
それを見送ると、軽く敦田兄妹と話す。
「既に聞いていると思うが、物騒な事件が立て続けに起きていてな。 一緒に帰ろう」
「分かった」
「良かった。 夏目先輩、後、もう一人いいですか」
いいと煌がミヤズに答えると、向こうからブレザーを着た女子生徒が手を振りながら来る。
あまり話したことはないが、こちらも有名人だ。
磯野上タオ。煌と同じ三年である。
スポーツの特待生で入ってきている生徒で、ラクロスで全日本クラスの実力があるらしい。
とにかく美貌が有名で、成績も性格もいいと、とにかく周りから好かれる陽の塊みたいな人間である。
陰の塊みたいな煌からすると、どうも最初は近寄りがたかったのだが。誰にも普通に接してくるので、今では苦手意識もない。
時々敦田兄妹と一緒につるむことがあったが。今回は、一緒に帰るならそれもいいだろう。スポーツの部活でエースなのに、髪を伸ばしているが。それは要するに、それが邪魔にならない実力と自信があると言うことだ。
「ミヤズちゃん、待たせてごめんね。 部活休みだっていっても、色々と手続きがあってね」
「問題ありません。 私たちも今来たところですから」
「それはそうとさっさと戻ろう。 帰宅を急いだところで、事件に巻き込まれたらどうにもならないと思うが」
煌が淡々と言うと、その通りだとユヅルが同意。
それにしても、だ。
ユヅルがどうにもぴりついているな。
元々体は強くないのだが、どうしてかこういうのは勘が働くのだ。ミヤズを不安にさせないようにするためか、笑顔まで作って喋っているが。
おや、タオの方もか。
たまに話を振られるが、ロシア文学のことを話しても、流石に苦笑いされてしまう。これだったら日本の文豪の方がよかったか。
ただ、面白い話があるかというと、別にそんなことも思いつかない。トークデッキなんて、そう持っている方ではないのだ。
わいわいと話しながらいく三人の少し後ろからついていく。
ふと、頭が痛くなった。
なんだか。おかしなことだが。
この事が、初めてではないように思ったのだ。
いや、敦田兄妹と一緒に帰ることは初めてではない。
タオと一緒に帰ることもだ。
だが、それがどうにも妙だ。
これ自体が全て偽物。いや、一度経験したこと。
夢のように思えてきた。
いや、夢ではないはずだ。
どうもここ数日、おかしい。
普段からあまり真面目に勉学をしている方ではないが、それにしても眠くなることが多すぎるのだ。
「先輩、どうかしたんですか」
「いや、どうも最近異様に眠くて」
「私、看護師になろうと思って勉強しているんです。 素人判断だと危険だから断定はしてはいけないんですけれど、何かあるなら相談に乗りますよ」
ミヤズがそう言ってくれるので、ありがとうとだけ応じてくれる。
このときは、ただそれで良かった。
ただ、どうしても思うのだ。
このまま流されるままだと、どうにも良くないことが起きると。何か、根本的なところで、行動を起こさなければならないと。
始まりは、そんな不安感だった。
※主人公について
名前は夏目煌。原作通り縄印学園に通う高校三年生です。
原作でも非常に中性的な容姿(とド派手な学生服……)が話題になりましたが、本作での主人公夏目くんは、目力の男です。寡黙でとにかくじっと相手を見ると、相手は不良だろうが反社だろうがなんだかそわそわして落ち着きがなくなり、不思議と道を譲ってしまう。そういう奴です。
非常に読書家で、物語としての神話をたしなんでいる他、高校生でロシア文学などにも手を出しています。
このため神魔に対する知識は豊富にあります。
その代わり、ある身体上の問題があるせいで、背はそれほど高くなく、運動神経も非常に鈍いです。
そんな夏目くんが、東京受胎後のこの世界の行く末に関わっていくことになります。