真女神転生VV二次創作 牛蛇相克 作:dwwyakata@2024
前回から少し時間が戻ります。
日本支部からどうしてギリシャ支部に書状が届いたか、の話ですね。
ベルゼバブがなんでわざわざ日本支部に二通手紙を届けたのかは、煌くんの誠意をみるためです。
中身を見るような奴だったら背後から刺すつもりでした。
序、調略書状
日本支部の陣地に戻り、回復を進めているタイミングで、蠅が飛んできた。書状をぶら下げていた。それも二通。
巨大な蠅。
蠅の悪魔というと、ゾロアスター教のドゥルジや一神教のベルゼバブが有名だが、恐らく後者か。
ともかく手紙を受け取って、内容を確認する。
越水長官が見る間に青ざめていた。
「まずいなこれは」
「どうしたんですか」
「シヴァがルドラの秘法を開始するとある。 世界を破滅させる最悪の秘技だ。 もう一通はギリシャ支部宛になっている。 これをわざわざ我々に渡したのにも意図があると見て良い」
「……」
確かにまずいな。
インド支部は壊乱しているが、それでもまだ全面崩壊はしていない。先に北欧支部と小競り合いをしていたが、一方的に蹂躙されることはなく、耐え抜いていた。インド神話は強力な神々を多数有していて、今は羅刹や夜叉も麾下に入れて兵として活用しているようである。
更にシヴァ。
何度も聞いているが、ベテル本部でも手を焼くほど今の時代は力を増しているという。ベテル本部が健在だった時代ですら、だ。
今はそのベテル本部が自滅した。
そうなると、今いる神魔の中では恐らく最強だろう。
アルテミスが具現化する。
「煌どの」
「どうしたんだ」
「私が父にそのもう片方の手紙を届けてきます」
「わざわざ直接行くのか」
アルテミスが頷く。
そして、アルテミスは胸に手を当てて言った。
「今まで私は、父の公認スパイとして貴方を裏から探っていました。 しかしそれももう終わりとします。 貴方こそ創世にふさわしい。 あのオーディンを倒したことで、それを確信しました。 父と決別するために、直にあってきます。 父は豪放であると同時に冷酷です。 殺されることも覚悟の上で、ですが」
「……分かった。 ありがとう」
「私の戦闘力では、以降は力になれません。 本来の姿であればもう少しはマシに戦えるのですが。 悪魔合体で、より強力な神格としていただければそれで満足です」
「それも承知した」
アルテミスは本来は狩りの神であり、拳で直に戦うような存在ではない。
それもあって、恐らくはゼウスが公認スパイとして煌に送り込む際に、何かしらの細工をしたのだと思う。
ポンなところも含めて、それがうかがえるのだ。
アルテミスが行く。
越水長官が、皆に指示。
今のうちに、出来るだけ休むようにと。
「恐らくあの手紙に書かれていることは本当だ。 ベルゼバブが何を考えているかは分からないが、少なくとも悪魔にとってもルドラの秘法は発動されるとまずいのだろう。 ギリシャ支部と連携してシヴァと戦うように促してきたと見ていい。 だが、緻密な連携を取るのは難しい。 ギリシャ支部がインド支部に仕掛けたら、別方向からインド支部に仕掛ける」
「問題はシヴァですね」
「ああ、シヴァの戦闘力は次元違いだ。 私も今回は出る。 インド神話の神々は強者が多く、総力で当たるのは難しいだろう。 少しでも敵を削るぞ」
「提案があります」
天使部隊の長が挙手。
煌は頷いて、発言を求める。
「私もアルテミスどのと同様に、合体材料にしてしまっていただけますか」
「しかし天使としてのあり方を失うが、構わないのか。 もう少しでケルビムに転化できるだろうに」
「構いません。 今の戦況では、私は天使達の部隊の長として、制空権の支援くらいしかできないのです。 戦力不足を感じ始めたアルテミスどのと同様に、より強い神魔になり、貴方を助けたい。 それが偽りのない本音です」
「……分かった」
ともかく、皆が休憩に入る。
イチロウやミヤズ、ユヅルの手持ちも、同じ事を言う神魔がいるようだ。
煌としても、休憩を取ってまずは全快に持っていき。
それからだが。
外の見張りは、この戦力であれば大丈夫だろう。
勿論ベルゼバブが何かしらの陰謀をもくろんでいる可能性はある。だが、今更だ。
オーディンを倒して、手に入れたマガツヒの中に、妙な情報体があった。
三つの鍵とやらの一つ。
万魔会談で、アブディエルが投げ渡していたものだろう。
陣地の中では休むのはちょっと厳しい。
皆を誘って、龍穴の中の休憩所で一旦休む。アルテミスが戻ってきたら、こちらに来るようにつても頼んでおいた。
しばしベンチで休む。
向こうでマーメイドが歌っているが、喉を押さえている。それで呪いの力を中和できるようだ。
ただそれでも、どちらかというと悲しい歌である。
歌っている内容は分からないが、旋律はとてももの悲しい。
イチロウが連戦で疲れたのか、近くのボロボロの長椅子で横になっている。ユヅルは行儀良く腰掛けて、何かの本を読んでいた。
ミヤズは煌が招いたコンスと話している。
嬉しそうだ。
ユヅルはミヤズがコンスと仲良くしているのを、敢えて視界に入れていない。これは本の内容なんて頭に入っていないな。
ちょっとおかしくなったが、別に馬鹿にするつもりはない。
ミヤズは幸せそうだし。
コンスもミヤズを尊重している。
絵になる二人だ。
タオとヨーコが話をしている。
創世に関する方法論について話をしているようだ。
本来は、一人だけ残ったナホビノを座に導くのが仕事。
だが、今回の創世は、複数神格が座に着くことを想定している。
煌は既に人間からだいぶ離れ始めているが。
それでもこのままだと色々と厳しい、というのが現実として存在している。
だから、同時に創世を担う複数の神格を招くにはどうするか。
そういう話をしているようだった。
「ねえねえ煌」
「どうした」
アマノザコが話しかけてくる。
鍵を見せてというので。鍵を具現化させる。ポリゴンのような立方体。明らかに、形状は崩れていた。
三つに分けて投げ渡したこれは。
情報体であって、集めないと一つではなんら意味をなさない存在なのだろう。
それはよく分かった。
「この鍵がどうかしたか」
「古くには神々は器を必要とした。 ただ強いだけ、頭が良いだけでは神々の王など務まらぬ。 そう人々が判断したからだ」
「へー」
いつの間にか側にいたアリスが。
様子が変わったアマノザコの話を、空中に浮かびながら聞いている。
揶揄するつもりはないようだ。
「古くに人々が重視したのは慈悲、峻厳、均衡だった。 この鍵はそれら三つの名残である。 最も現在では、そもそもその思想は破綻してしまっている。 これらはただの入り口の形式的な鍵に過ぎない。 古くに創世を為した神々は、このようなものなど必要としないだろう。 だが、おまえには必要だ」
「アマノザコ?」
「心せよ。 おまえは古くに美徳とされたそれぞれを持っている。 だからこそ、私はそのあり方を尊いと感じる。 くれぐれもそれらを失うな。 失えばその時には、創世などは破綻してしまうだろう」
不意にアマノザコが元に戻る。
それでぼんやりして、周囲を見回した後。
によによしているアリスに気付いて、どうしたの、と聞き返す。
アリスは遊んでこようと誘って、アマノザコとどこかに飛んでいった。
アオガミが言う。
「アマノザコは私と同じアオガミ型神造魔神の残骸から作り出された存在だ。 だが、それだけでは今の言動には説明がつかない。 私の残骸には、何かが宿っていたのかも知れない」
「確かに今の発言は、越水長官からも聞いたことがない内容でしたね」
「煌。 私は君が今の三つを満たしていることには全面的に同意する。 だが神魔であっても堕落するものだ。 だから、堕落だけはするな。 私が側で可能な限り支えよう」
「ありがとうございます。 絶対に……堕落しません」
堕落した神々の姿は散々見た。
だから、堕落しないと決める。
あのような姿になってたまるものか。
それが素直な本音だ。
歌い終わったマーメイドがこっちに来る。地面の下を泳いで、さっと近くに浮き上がっていた。
「あるじさま。 まだ私は強くなりたいです」
「君は充分に僕を支えられている。 このまま、アマノザコと連携して、僕を支援し続けてくれればそれで大丈夫だ」
「分かっています。 それでも、これからの戦いを思うと」
「……そうだな。 では更に荒々しい神々から、戦術を教わった方が良いだろう」
テュールと第六天魔王に来て貰う。
流石にマーメイドもちょっと気後れしたようだが。
戦闘についての細かい講義や戦術、様々な神魔の知識を教えてほしいと頼むと。二柱は快く受けてくれた。
向こうでは酒呑童子と義経公が軽く組み手をしている。
大獄丸がやんややんやとはやし立て、武闘派の神々はその様子を楽しんでいるようだ。
イチロウが来て、飲むゼリーを口にしながら言う。
「みんな頑張ってる中、ああやって盛り上げてくれてるんだな。 ムードメーカーってのはああいうのを言うんだな」
「義経公は歴戦の名将だが、それでもこういうときはムードメーカーが大事だと分かっているということだ。 イチロウは、あの中に混じって見てはどうだろうか」
「俺が? う、うん……」
「イチロウ殿。 気後れ為されるな。 拙者も混じる故にな」
森可成がそう言うので、イチロウも決めたようだ。
武芸をつけてほしいと、義経公に申し込む。
心得たと、義経公はからっと答えて。
酒呑童子は、森可成と今度は組み手をするようだ。
見ていると、全然戦えている。イチロウは本当に腕を上げているのだと分かる。だが、流石に相手が悪いか。
ある程度組み手をしてから、義経公がいくつかのアドバイスをする。それを、真摯にイチロウは聞いていた。
しばしして、疲れもとれてきたか。
ユヅルが先に切り上げて、ミヤズもそれに続いた。
コンスは念の為に、後詰めとして日本支部の拠点を守ってくれるらしい。それだけで助かる。
コンスの話によると、ミヤズは既に太陽神として相応の力を得始めているそうだ。
確かにこの間の戦いでも、ホルスがその場面を目撃したらしい。
「今、ミヤズは医師としての勉強に本格的に取り組み始めたそうだ。 この戦いが終わったら、医者になるための大学に入るための猛勉強を始めるそうだよ」
「貴方としても嬉しい限りか?」
「もちろんだ。 ミヤズは私がすきになった人だ。 夢を叶えてくれるのなら、それは応援するのが当然だ。 ミヤズの体が弱いままだったら、私は無理にでも太陽神の権能を得て、それを引き渡すようなことを考えなければならなかった。 だが、今はその必要もない。 仮に人間である間、ミヤズが誰かと結婚しても私は構わない。 太陽神としてエジプトに来てくれた後、一緒になれればそれだけで充分だ」
そうか。
元は悲痛な覚悟をしていただろうに、ミヤズの頑張りもある。それも必要なくなった。故にコンスは余裕もあるようだ。
タオとヨーコも引き上げ。
イチロウも武芸をつけて貰ったのを終えて引き上げたので、最後に煌も引き上げる。
今、八分というところか。
そのまま、ギュスターヴに頼んで回復を続ける。無言で回復をして貰い、そのままじっと座って、魔界の江東区を見る。
東京の方の江東区は、今も人々が行き交っていて、きちんとメガロポリスの一部にふさわしい存在となっている。
此処と今のまま融合したら、大変な事になる。
それは絶対にさせてはいけないだろう。
回復が終わったのは、それから数時間後。
会議を軽く行う。
此処の守りはエジプト支部に一任。懸念する声もあったが、越水長官が、今は争う理由がないと説明。
ただ、念の為の守りがほしいというので。
配置換えをすることにした。
台東区の拠点には国津と天津の神々からは撤退して貰い、東京を守って貰う。これで東京をどうにかして貰う。
まだ定期的に大物の悪魔が来るようだが。既に信仰が戻っている事もある。
地元のアドバンテージもあり、天津と国津の神々は、余程の相手でもない限りは遅れは取らないだろう。
これで背後を突かれるにしても、煌達が退路を断たれる程度で済む。
更にツバメさんに来て貰う。
ツバメさんが前衛に入り、対シヴァ戦では共闘する。越水長官も、同じように戦ってくれるそうだ。
頼りになる。
また、エジプト支部のコンスも、今回は前線に出てくれるらしい。
これはコンスが提案してきたことで。
コンスがいなければ、エジプト支部は組織的に裏切るようなことは出来なくなる。それも見越しての提案だ。
確かに日本支部では、その提案はありがたいと、越水長官も乗った。
後は、ギリシャ支部の動きだが。
会議が終わると同時に報告があった。
偵察に出ていた天狗部隊からの報告だ。
「ギリシャ支部、動き始めました! まずは東進し、それから南下を始めています! 明らかにこの拠点を迂回しています!」
「インド支部を狙う動きだな。 ゼウスも流石にルドラの秘法の発動は阻止したいとみて良いだろう」
「すぐに仲魔の調整を済ませます。 それが終わったら、出ましょう」
「うむ。 ユヅル君、イチロウ君、ミヤズ君。 君たちも急いでくれ」
さっと皆が散る。
マッカは惜しみなしだ。
ツバメさんが、声を掛けてくる。
「久々の共闘ッスねえ。 どれだけ腕を上げたか、見せて貰うっすよ?」
「失望はさせないですよ」
「……期待してますからねえ?」
此処で腑抜けた真似をしたら許さない。
そういう圧を感じた。
まあそれはいい。
ともかく煌も、すぐに準備を開始する。
ソピアーのところで悪魔合体をして、すぐに戦力の調整。そして作り上げられたのは、天空神と様々な意味で争い続けた大地の神。主神級の力を持つ大物である。
これでテュールに続いて、主神級の神が二柱。
更に、である。
ホルスも、雑多な悪魔の力を吸収させることにより、本来の力に近い状態にまで持っていく。
ホルスはエジプト神話で主神を務めた経験もある存在だ。本来は煌が切り札にするどころか。
煌の上に立つくらいの存在である。
まだ全ての力を引き出しきることは出来ないが、それでもありがたいくらいには力が上がる。
切り札になってくれるはずだ。
マーメイドは教わった戦術を、実用的に身につけたいというので、これまたソピアーと相談しながら、力を流し込む。
それでマーメイドは更に強くなる。
それだけではない。
煌は自覚しているが、どうも平行世界の記憶が自分に集約し始めている。その記憶の一部。
戦闘経験を、マーメイドに分ける。
これで本人が望むような強さを得られるはずだ。
同じように、アマノザコにも力を分ける。
アマノザコもマーメイドと仲は良いが、それはそれとしてマーメイドにばかり構うとすねるだろう。
それもあって、きちんとやることはやっておかなければならないのだ。
後は、太陽神の力をミヤズが得ているが。
それをコンスが儀式によってラーの権能に変えているようである。
今まで複数の太陽神を倒してきている上、そのマガツヒを吸収している事もある。もう少しでラーの権能にまで高めることが出来るそうだ。
ただ、約束通り生きている間はラーとして完全覚醒しないように調整もするという。
あくまで人としての命を終えてからラーになる。
それがミヤズとコンスの役割。
二十代半ばまで生きられれば良い方だと言われていたミヤズも、老境まで生きられると知ったのだ。
この力を、同じような苦しんできた人々のために使う。
そう決めて、必死に医師としての勉強も始めている。
ユヅルも複雑のようだが、元々どこの大学でも平気で入れるくらいの頭は持っているのだ。
妹の決意を邪魔するような野暮はせず。
どんどん勉強を見て、ミヤズもそれを真綿が水を吸い込むように吸収しているようだった。
イチロウだって負けてはいない。
自分の知識があらゆる点で足りていないことは自覚して、ユヅルからミヤズと一緒に勉強を教わりながら、森可成からも戦の講義を受けているようだ。それに本人もみるみる強くなっている。
マガツヒを吸収するだけではああはならない。
だが、煌の平行世界の記憶では、ほとんどの場合イチロウはろくなことにならなかった。
恐らく、イチロウは平行世界のほとんどで、運に恵まれなかったのだ。
ただそれだけだった。
「優秀な人間は最初から優秀」だの、「親ガチャで全てが決まる」だの。
そういった寝言を、今のイチロウは全てひっくり返しつつある。
それだけでも、イチロウはやれている。
そして、煌も多くを背負った身だ。
今更、皆の頑張りを無駄にすること。
つまり、負けは許されなかった。
準備は終わる。
皆と合流する。
最大戦力をそろえた皆と動く。皆も悪魔合体で、手札を強化していた。とくにユヅルは、自信があるようだ。
狙うはシヴァ。
ルドラの秘法を、阻止しに向かう。
対インド支部戦開始です。
メガテンで厚遇されているインド系の神格は本作でも強力。かなりの数が迎撃に来ます。
ヴァスキはあっさりやられましたが、あれはインドの神々からもどうでもいいと思われていたからああいう役目を任されていただけです。酷い話ではありますが、そもそもインド神話の世界創造の逸話でもそういう扱いを受けている存在ですので……