真女神転生VV二次創作 牛蛇相克 作:dwwyakata@2024
脅かすだけの妖怪ことわーちゃんの正体です。
この子がただ者ではないことは今までも描写してきましたが、此処でネタばらしです。
この子はそもそも、最初から話の主軸に噛んでいたのです。
シヴァのマガツヒを吸収したことで、シヴァの考えが流れ込んできていた。
シヴァはインドの地の興亡を見てきた。
長い歴史でいうと、シヴァはどちらかというとインドの信仰では新参だ。更に古くにはインドラがいて。
そのインドラは、元は中東から来た神格が受けいられた存在だ。
それ以前の主神がなんであったかはどうも判然としていない。
シヴァの原型となった神がそうだったのではないかという説もあるが、それについても情報が少なく、よく分かっていないようだ。
シヴァの前に信仰されたインドラは、邪龍の王とも言えるヴリトラと相争い続ける神話があるのだが。
このヴリトラが元の主神だったという説はあるにはあるが。
どうもそうではないらしいという情報しか今はない。
インドは0を発明した偉大な文明であり。
多くの文化的資産を作り出した文明でもあるのだが。
しかしながら、それでもやはり限界はある。
古き時代の文明の主神がなんだったのかはよく分かっていないのだ。
ただ、シヴァはアティルト界で、一つの文明起源を古くから見てきた。
主神ではなかったとしても、だ。
その結論は。
人は決して超我の域には到達できなかった、ということだ。
バラモン教にしてもヒンドゥー教にしても修行の果てに悟りにたどり着くことを目的としている。
ただ仏教と違う点は、それが苦行となっている点だ。
シヴァも苦行の結果、ルドラの秘法を行うマガツヒをためたと言っていた。
だが。
煌が越水長官と相談し。
超我の思想の矛盾を指摘した時、明らかに心は動いていた。
発言が無意味であったのだったら、絶対にあのとき即座に殺しに懸かってきただろう。こちらをある程度認めたから、戦いに応じた。
それだけだったのだ。
シヴァのマガツヒを取り込んだことで、それはよく分かった。
「悟りねえ」
回復しつつある他化自在天が、煌の中で言う。
悟りから人々を遠ざけるという点では、彼の原点となったマーラとも共通する存在ではあるし。
何より彼の支配している第六天が、欲望を全肯定する場所だと言うこともある。
他化自在天としては、馬鹿げた話だろう。
「俺は多くの人間を見てきたが、後世に聖人だの何だの言われてる連中は、ほとんど全員が裏できたねえことをやっていやがったな。 仏教にしたところで、その開祖は妻と子を見苦しいからという理由で捨てたんだぜ。 仏教で言う悟りになんか到達していなかったと思うし、慈悲とも無縁だったと思うがな」
「世界中のあらゆる信仰の開祖がそうだろうな」
「確か最近ではニーチェとか言う奴が更に過激な超越的存在になろうとか言う思想をぶち上げて挫折したんだろ? 確かに今の人間には悟りだの超越だのは無理だよ」
ガハハハハと笑う他化自在天。
そして、真面目になる。
「俺は悟りを妨げるから嫌われた。 だがな。 悟りを開けないから人間どもは俺のせいにした。 それがむしろ事実だと思うぜ」
「そうかも知れないな」
「勿論聖人に近い存在はいるにはいる。 だが人間は、そういった存在を基本的に排斥して、むしろ侮蔑してきた。 此奴は悟りに近づけるかなと思った奴は俺も何度か見たことがあるがな。 周りから徹底的に迫害されて、失意と悲しみの中で死んで行く事が普通だったよ」
「……」
シヴァが人間に見切りをつけたのもそれが原因だ。
他化自在天にはシヴァの要素も含まれている。
それもあって、結論は似るのかもしれなかった。
イチロウが来た。
龍穴の側で座禅を組んで回復していた煌は顔を上げる。
別に集中していなくても回復は進む。
「差し入れに来たぜ」
「ありがとう」
一緒に食べに来たらしい。
軽く話す。
イチロウは既に回復を済ませたそうだ。ただ森可成が今回の戦闘でも激しく傷ついて、最後まで立っていたが。その後倒れたそうだ。
立ち往生に近かったそうである。
回復はさせたが。
悲しくて仕方がなかったそうである。
「まだ力が足りねえ。 全然だ」
「そうだな。 それは僕も同じだ。 僕がもっと強ければ、戦闘を更に早く終わらせることが出来ただろう」
「……ツバメさん、もう前線には立たないってさ」
「そうか」
分からないでもない。
あのミョルニルの具現化、生半可な負担では出来なかっただろう。
そうなってくると、総力を絞り出しての行動だった。
今後、最前線に出張ってくることは、肉体的なダメージからも無理。そういうことなのだろう。
ツバメさんも年齢が年齢だ。
これ以上強さが飛躍的に上がることだってない。
それを考えると、本人も複雑だろう。
「ゼウスはもっと強いのかな」
「感じるマガツヒからして、シヴァほどじゃない。 だが……」
「おまえの消耗が回復しきってないよな。 それが不安だ」
「ああ」
ベルゼバブも、この前線基地まで煌を送るとどこかに消えた。
後は見守るだけなのか。
それともタイミングを見計らって仕掛けてくるつもりなのか。
それは分からない。
無言で回復を続ける。
イチロウは、しばらく黙っていたが。食べ終えると、言う。
「俺な。 座にいる必要があるなら、座にいるよ」
「……」
「俺も人間じゃなくなってきているのが分かるんだ。 それに、誰かが弱者が虐げられないようにって考えないと、そうはならないだろ」
「覚悟があるならとめない」
イチロウはもう立派な戦士だ。
更に言えば、弱者の気持ちをこれ以上もないほど理解できる存在だろう。
この世は弱肉強食などと、いい年をこいた大人が言うような世界だ。実際には、強者を自称する存在が出来る事など知れているのに、である。
圧倒的多数の人間は、すべからず弱者だ。
それが連携して、人間はやっと他の生物に対抗できるだけの力を手に入れたのだ。
古くには優生思想を拗らせたスパルタなんて国家もあったが。
これが滅びたのは貧富の格差の出現が理由とも言われているが、強い戦士以外はいらないとかいう理由で、子捨てや虐待を繰り返した結果、血が濃くなりすぎたのも要因としてある。
スパルタはテーバイに負けてからは、転落の一途をたどり。
ローマ時代には、観光地扱いされて、過去の栄光を内心で鼻で笑われる存在程度にまで落ちぶれた。
それが強者の理論の末路だ。
煌もイチロウの意見に反発するつもりはない。
イチロウが寝るよと言って、その場を離れる。
煌はもう睡眠も必要としない。
また座禅を組んで、回復に努め始めると。
側にわーが具現化していた。
「そろそろ話しておこうかな」
「君の正体についてだな」
「ふふ。 私の正体はね、あくまで脅かすだけの妖怪だよ。 夜道でわっと声を掛けて、びっくりする人間の様子を楽しむの。 ただそれだけ」
「だが、その中身が違っている」
今風の子供の格好をしているわーは、それを否定しない。
そして、側に座ると、見上げてくる。
「私ね、ショウヘイちゃんが最初に友達になった存在だったんだ」
「!」
そういえば。
思い出すに、国会議事堂で戦った時。ジョカはわーに脅かされて、他と違う反応をしていた。
あれは純粋な驚愕よりも、むしろ意外さに驚かされていたように見えた。
それにジョカの力だったら、脅かされる前に撥ね除けることも可能だったのではないかと思う。
それをしなかったのは。
知り合いだったから、ではないのか。
その疑念が、今晴らされた。
本当に知り合いだったのだ。
「ショウヘイちゃんね。 お父さんがお巡りさんで、お母さんがサマナーみたいな仕事してたからね。 その上お母さんの血が強くて、幼い頃から色々見えたから、周りに同年代の友達がいなくてね」
それは、なんとなく想像がつく。
人間というのは、自分が知らない事を知っている相手を尊敬などしない。する人間もいるが少数派だ。
多数の人間は、自分が知らないことを言っている相手を、なぜか無知で愚かだと考え込む傾向がある。
もしくは不愉快だからと言う理由で排斥する。
知識マウント等という言葉があるが。
そういう理屈を口にしたいなら、学校などに出なければ良いし、教育など受けなければいい。
実際問題、何かを教わるのは不愉快だと考える奴は多い。
だから学校で習ったことなど、ほとんどが翌日には忘れているのだ。不愉快で興味がないから、である。
学校で教わる事なんて何の意味があるのかなどと言う寝言をしたり顔でいう輩が昔から一定数いた。
本でかじった知識がどうのこうのという輩もまた。
そういうことをいう連中が、学校で学ぶことが役に立たないと実生活で証明した例は一つもないし。
本でかじるもなにも、本など読んでいないのは当然の話だ。
煌はその辺りの事情を、小学校低学年の頃には理解していた。
むしろイチロウはその点は立派だ。
知らないことは知らないと言えているし、それで他人に聞くことを何ら恥だとも思っていない。
幽霊や悪魔が実在しない世界なら。
まだ八雲ショウヘイを迫害した連中の言うことには、利はほんのわずかでもあるかも知れないが。
この世界では、実際に神魔がいるのだ。
少なくとも、其処には正当性など微塵もない。
「ショウヘイちゃんは昔は寂しがり屋さんでね。 お父さんはお仕事で忙しいし、お母さんも八咫烏の仕事で引っ張りだこ。 寂しい中で、私と出会ったの」
「そうか」
「だからこの姿にしたんだ。 最初はもっと貧しい昔の子供の格好だったんだけど、これでも周りの子供を見て研究したんだよ」
「良く研究できていると思う」
実際、わーの服のセンスは、現在の子供と比べても遜色ない。
煌の周りの女性陣も、かわいい服だとみんな褒めていた。あの口が悪いヨーコでさえ、わーのセンスを馬鹿にすることはなかった。
アリスも、最近は色々と服を換えたりしているのだが。
わーと一緒に、カタログを見て楽しそうに選んでいるのを見かける。
「事件が起きるまで、私はショウヘイちゃんとずっと一緒だった。 他にも神魔が増えていったけど、確かジョカは最後だったかな。 多分ショウヘイちゃんの素質を見抜いて、それで創世のために近づいたんだと思う。 ジョカも恐らくだけど、今の世界に……信仰に未だに頼りっきりで、他の信仰を持つ人間を排斥することばっかりな人間に頭に来ていたんだろうね」
「それで、君に何があった」
わーについては、イレギュラーだというのはわかりきっている。
この子は、もう脅かすだけの妖怪じゃない。
もっと違う何かだ。
ヨムルンガルドの力を強化したあれは、明らかに蛇の系譜の神のもの。
更にはアリスの力を増幅してシヴァの攻撃を反らした時に、その疑惑は決定打になった。
わーはただの妖怪じゃない。
「……お父さんとお母さんが殺されるちょっと前くらいから、ショウヘイちゃんの周り、きな臭くなってたんだ。 ジョカとも話し合って、どうにかできないかって話をしていたの。 その時に、ジョカに言われて思い出したんだよね。 私の存在って、元はなんだったのかって」
「夜道での孤独と恐怖だろうか」
「それもあるけれど、もっともっと突き詰めてみるとなんだろう」
「闇に対する純粋な恐怖か?」
頷くわー。
そうだろうな。
ただ耳元で脅かされただけで、名だたる神魔があれほど驚くわけがない。
わーの本質は、耳元で脅かすことじゃない。
相手の心に干渉して、恐怖を呼び覚ますこと。
そして、その力がもっと根源まで向かうと何があるか。
「まさか君は」
「んー、煌ちゃんが想像した存在そのものではないよ。 その存在が千々に砕かれて、その欠片の一つが私」
「それも、僕の眷属となって力を回復してきて千々に砕かれた存在の元の状態に戻りつつある……」
「ふふ、そんなところだね」
なるほどな。
だとすれば、アオガミと合一した煌に近づいてきて。何の抵抗もなく眷属になるわけだ。
煌もまるで違和感を感じなかった。
アオガミも驚いている。
まさか縁者が、こんな形で側にいたとは思わなかったのだ。
ふうとため息をつく。
確かにわーの立ち回りは見事だった。今までの戦闘でも、基本的に要所要所でしか出てこなかったし。
致命傷を受けることは一度もなかった。
イチロウやミヤズの訓練の際に、悪魔に襲われて見せることもあったけれど。
あのときには、既にわーの力は覚醒を始めていて。
最初の訓練に使う程度の悪魔の力では、殺すことなどどだい不可能だったのだろう。
何しろその存在は。
「どうする。 しばらくは皆に伏せておこうか」
「そうしてくれると助かるね。 でもね、最終的に完全に力が覚醒した……あくまで欠片としての限界だけれど、そこまで覚醒したのは、アリスちゃんが原因かな」
「死の権化どうしで引き合った、ということか」
「うん。 ね。 煌ちゃん。 ショウヘイちゃんの事情はもう聞いたよね。 出来れば、ショウヘイちゃんが死なないようにしてあげて。 ジョカもそれを望んでる。 ショウヘイちゃん、死にたがってるんだ。 神魔を全部倒して、それで自分も相打ちになるつもりなんだよ」
八雲ショウヘイは、惰弱と言っていた。
それが自分にも向けられていることは分かっている。
ショウヘイはあまりにも様々な業を積み重ねすぎた。
償うのは難しいだろう。
だが、それでも。
もしも、再起の芽があるとすれば。
「八雲ショウヘイがいる場所は分かるか」
「うん? どうするつもり」
「話をつけに行こう。 君も同席してくれ」
八雲は台東区の端にいた。
かなりの手傷を受けている。煌がホルスに乗って近づき、降り立つと。既に軍刀を抜いていた。
「夏目煌。 何をしに来た」
「話がある。 君の師、平塚ツバメさんが前線を離れることになった。 シヴァとの戦闘で、無理にミョルニルを具現化したせいだ。 もはや戦えないとまでは行かないが、決定的に力を使い果たした」
「そうか。 それで」
「東京を守ってくれないか」
既に越水長官とも話をしてある。
八雲がやってきた事は、八咫烏とその後継存在への攻撃が主体。
その過程で貴重な日本支部の保有していた神魔を散々倒したし。
父母の死の原因となった連中も殺した。
だが、そうしなければ、八雲が逆に殺されていただろう。
そう説明して、提案したのだ。
八雲の力量は、ナホビノとして座を狙うのは難しい。
座について神魔を全て消し去ろうとしている節があるが、どうせそんなことをしても、すぐに新しい神魔が大量に生み出されるだけだ。
人間はずっと信仰にすがってきた。
信仰は人間の弱さの象徴ではあるが。逆に言うと、それくらい人間は弱いのだ。
だから今ある神魔を全て消し去り、信仰を全て消し去ったところで。
どうせすぐに神魔が出現する。
今この瞬間も、都市伝説で怪異が生み出されているように。
八雲のやろうとしていることは無駄だ。
それに、座についても。
アティルト界にある座を破壊したところで、どうせ再生する。
アティルト界は、所詮人々の意識の海。
其処にある核なんて、壊してもどうせ再生するだけだ。
というわけで、その線から八雲を説得してみる。説得に成功したら。第二十代目葛葉ライドウとして迎える事を許してほしい。
そう話したところ。
越水長官は、考え込んだ後に。
今のツバメさんの状態から見て、かなり戦力が厳しいのも事実だと冷静に判断し。
もしも説得できるなら、という条件付きで、認めてくれた。
それらの話をする。
八雲は感情がない目でずっとこちらを見ていたが。
ただ、かなり疲弊している。
「八雲。 インドラとやりあって消耗しただろう。 奴と一緒にヴリトラが襲ってきたとしてもだ。 おまえの力は合一しなければその程度。 インドラとヴリトラを倒せたのが限界だ。 残念ながらな」
「全ての神魔を倒すのだ。 この程度で足踏みなどしてはいられん」
「そうはいうがな。 小僧……夏目煌がシヴァを倒したのを既に理解しておろう。 仲間と一緒だったとは言え、あのシヴァをだ。 妾が全力を出したとしても、勝てるかはかなり怪しかっただろうシヴァをだぞ」
八雲は、じっとジョカを見るが。
ジョカは咳払い。
「出てくるが良い。 伊弉冉尊」
「別に伊弉冉尊そのものではないんだけどなあ」
ぽんと具現化するわー。
それを見て、八雲の表情が初めて動いていた。
そう。
原初の死と恐怖。
そして蛇の系譜の神。
それこそ、この国の始祖神の一つ。
伊弉冉尊に他ならない。
天之御中主神が日本神話の最原初の存在だが、そこから続いて五代目までの神は、基本的には神話ではなんら活躍をしていない。
その後に出現した伊弉諾尊と伊弉冉尊が日本を作り出し。
そして、天と地に別れた。
根の国と言われる死者の国の神として、伊弉冉尊が。
高天原の王として伊弉諾尊が。
そしてそれらの子孫の中の天照大神が、最高神としてこの国の信仰の中心に存在することとなる。
今までの全ての事が、わーの正体を告げていた。
わーは、久しぶりだねと、いつもより優しい声を八雲に掛ける。
八雲は、珍しく動揺しているのが分かった。
心など、とうになくしたと思っていただろうに。
「ショウヘイちゃんと別れてから、魔界をさまよってたんだ。 それで煌ちゃんとであったの。 一目で分かったよ。 煌ちゃんが素戔嗚尊と合一していることはね。 だから、相性は良いだろうと思ったし。 話している間に、この子だったらショウヘイちゃんを理解してくれるとも分かったんだ」
「俺を、理解するだと……!」
「八雲」
いつもになく厳しい声で、ジョカが叱責する。
軍刀が震えている。
混乱する八雲の感情を見て取ったのだろう。
何が分かると言おうとして、じっとわーに見られて。そして、八雲は軍刀を納めていた。
「八咫烏の腐れ外道どもと道を同じくすることなど出来ん!」
「既に八咫烏は解体された」
「!」
「まだ生き残っていた少数の老人は、越水長官が排除した。 特別背任やら脱税やら、ぼろぼろと余罪が出てきたようだ。 此処からはツバメさんは裏方に回って、わずかに生き残っている若手のサマナーを育成しながら、八咫烏を再建するつもりだそうだ」
今更なんだ。
そう八雲が吠えていた。
怒りと悲しみ、困惑と動揺が、全て声にこもっていた。
吠え猛る八雲の腕をジョカが取る。
側にいる。
その意思を示すように。
「父さんはな、無能なキャリアどもに支配された警察に苦悩しながらも、ずっと警官として周りの人間達を助け続けた! どれだけ陰口をたたかれようと、ずっと誇り高くあった! それなのに、神魔は一体何を見ていた! 父さんは悪魔に憑依された免許も持っていない日本人ですらないチンピラのトラックに潰されて、煎餅みたいな肉塊にされた! 母さんは、持って生まれた体質のせいで、本当に苦労を続けていた! それでもその力を使って、悪しき魔どもからどれだけ人を救ったか分からない! そんな母さんを、八咫烏の外道どもは使い潰し、挙げ句の果てに「代わりは幾らでもいる」などとほざいて、悪魔の誘惑に乗って、バラバラに引き裂いた挙げ句に、悪魔どもの餌にしたんだぞ! 俺のところに帰ってきた二人の亡骸ともいえない残骸をみた気持ちが分かるか! それを届けた奴は、にやついた顔で、お気の毒ですがとかほざきながら、内心ではずっと笑っていやがった! どんな神魔よりも、醜かった! ジョカがそいつを、トラックのクソ運転手を、それに父さんと母さんを殺す命令を出した八咫烏の幹部を殺した! だが父さんと母さんは魂ごと砕かれていて、もう死者としても会うことすらもかなわなかったんだ!」
爆発した八雲の感情が、たたきつけられてくる。
そうか、それは怒って当然だ。
神魔を憎んで当然だ。
それに、神魔に好き放題される人間を。
無力な自分を嫌い抜いて当然だ。
八雲の思想は、前のヨーコと似ている。こんな世界、一度壊し尽くしてしまえ。その思想は、確かに今の言葉を聞くと、どうしても出てくる。
だが、それでも。
煌は、それをさせるわけにはいかない。
「八雲ショウヘイ。 貴方のやり方では、座を破壊してもすぐに戻るだけ。 座について神魔を消し去ったとしても、どうせすぐに神魔は湧いてくる。 今の人間にとって、まだ信仰というものは住居に近い存在で、それを奪っても新しい住居に人間は住み着くだけだ。 だから、僕が人間という種族を今の先へと強制的に変化させる。 貴方はそれまで、東京を守ってくれないか」
「知った風な口を利くな!」
「貴方にしか出来ない事だ。 シヴァの力は絶大だったが、どうも嫌な予感がしてならない。 まだもっと強大な相手とやり合わなければならないかもしれないんだ。 その間に空になった東京を襲われたら……記録的な被害が出る」
「……っ」
分かる。
八雲は人間を惰弱と吐き捨てたが。
議事堂でイチロウを斬らなかった。
怯えるばかりで、弱い人間の見本みたいだったイチロウを、だ。
まだ八雲は、人間に期待したいのだ。それが煌には分かる。
だからこそ、過激な行動に走ったのだ。
「会談は用意した。 越水長官と、腰を据えて話してくれ。 要求についても、その場で伝えてほしい。 逮捕した旧八咫烏の生き残り達には厳罰が下る。 いずれも生きている間は刑務所からは出られないだろう」
「八雲、行こう」
「ショウヘイちゃん。 私が保証するよ。 煌ちゃんは、ショウヘイちゃんを裏切らない」
「ナミ……」
聞いたことがない名前だが。
多分、わーが昔名乗っていた名前なのだろう。
しばし、考えさせてほしいと八雲はいい。
煌は待つ。
二時間ほどして。
八雲は空に向けて、凄まじい絶叫を放っていた。
それこそ、辺りにいる神魔が恐れて逃げ出すほどの迫力だった。
そして、それが終わると。
八雲は煌を見た。
「連れて行け夏目煌。 ただし越水が……月読尊が下らん真似をしたら、合一してでも斬る」
「そうは僕がさせない。 もしも誰かがおかしな真似をするようだったら、僕もその排除を手伝おう」
「八雲。 このものは信頼できる。 ずっと見てきたであろう」
「ああ……」
手を出す。
八雲はしばし困惑していたが。
わーが八雲の手を引いた。
ジョカも八雲を押す。
手が震えているのが見える。まだ、逡巡があるのだろう。
さっき吐き出した言葉からしても、八雲がどれだけの鬱屈を抱えてきたのか。人間に失望し続けたのかは、分かりすぎるほど分かるのだ。
だから、煌は根気よく待つ。
程なくして、八雲は、煌の手を取っていた。
「ナミがここまで信用する相手だ。 だから、俺は信用する。 八咫烏や、俺の旧師、越水を信用するわけではないことは忘れるな」
「分かった。 僕のところではわーと言われている彼女には、どれだけ助けられたか分からない。 これからも、彼女に恥ずかしいことは出来ない」
「行くぞ。 連れて行け」
「ああ」
そのまま、前線基地に行く。
前線基地では、越水長官が待っていた。ユヅルとタオには外して貰っている。イチロウとミヤズ、それにヨーコに来て貰ったのは。
東京の守りを、ユヅルとタオに頼んでいるから。
そしてこの陣地も、まだ煌が回復しきっていない今、守りが必要だからだ。
会談の場を設ける。
書類は既に越水長官が用意してくれていた。
八雲ショウヘイとの契約。
国家と個人としての、だ。
法治国家としてのあり得ない八咫烏の行動。超法規的存在としても、いくら何でも許されざる事をした当時の幹部達の罪は追及され、生き残っているものは既に逮捕されている。一生牢屋から出ることもなく。
日本支部が手配した鬼神達が見張る。
八雲ショウヘイの経歴を見る限り、日本政府に対する攻撃はあったものの、それは戦争行為であったと判断。
日本支部でもサーチ&デストロイの命令を平塚ツバメに出していた事もあり、これは講和条約で無効とする。
以降は契約として、日本政府と八雲ショウヘイの間で、専属のデビルサマーとしての地位を用意する。
東京に出る邪神、悪魔、悪神の類の排除を自衛隊とともに行ってほしい。
その代わり、生活を保障し。
両親の名誉を回復し。
第二十代目葛葉ライドウとして、新生八咫烏のトップとして新しく就任する平塚ツバメとともに、東京を守ってほしい。
そういう契約書だった。
しばし逡巡してから、八雲ショウヘイは、認め印を取り出し、契約に同意。
そして、越水長官も、国璽を取り出して、契約書に押印していた。
「この契約書には、国津天津の力を込めた強烈な魔法が掛かっている。 背任は許されない。 私も、これに背けば大きなペナルティを受ける」
「そうか。 貴様が総理になったタイミングでは、あの事件は既に起きてしまっていたのだったな。 だったら貴様を此処で斬っても何も解決せん」
「すこしは冷静になったようで何よりだ。 早速だが、ギリシャ支部が何時仕掛けてくるか分からない。 東京を……頼むぞ」
「良いだろう。 ただし、守るのは東京ではなく、人間だけだ」
かくして、歴史的な講和が実現し。
第二十代目葛葉ライドウが誕生した。
わーが、幸せそうにそれを見ている。わーが呟いた誰かの名前は、きっと八雲の両親のものだった。
原作では決してわかり合えなかった八雲ショウヘイ。
此処でついに歴史的な和解をすることになります。
八雲ショウヘイが背負っていたものはあまりにも悲しい過去であり、人間の業であり、それが目を曇らせていました。
仮に彼が創世を行うことがあっても、それは決してうまくいかなかったでしょうね……