真女神転生VV二次創作 牛蛇相克   作:dwwyakata@2024

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はいというわけでテングリの勢力……というか西洋で悪魔化された遊牧民軍団の出現です。

とにかく最終的に敗北したと言うことや、彼らが歴史を積極的に残さなかったこともあって、後の時代に野蛮と虐殺の権化みたいな無茶苦茶な伝承が残されていますが、実際のその規模は十倍以上に誇張されているとみた方が良いでしょう。

……ぶっちゃけ一神教が殺した人数の方が、遊牧民が殺した人数よりも桁一つ以上多いのが実情ですね。






1、大乱戦は馬蹄とともに

西側に突如出現した勢力を相手に、日本支部とギリシャ支部はほぼ同時に動き、偵察を派遣。

 

それはそうだ。

 

それがテングリとその麾下だというのであれば、ギリシャの神々にとっては天敵以外の何者でもないし。

 

日本の支部でも、同じように極めて危険な相手として認識しなければならない。

 

暴力性と同居する自由。

 

他人の思想に干渉することがなかった不思議な信仰。

 

蒼天、テングリ。

 

自分たちは信仰するが、他の者は別に何を信じても構わない。

 

そもそもとして、遊牧騎馬民は残虐な侵略者であったかというと。実のところ一神教徒の方が遙かに残虐さは上だった。

 

彼らは風のように速く。

 

火のように侵略する。

 

その圧倒的破壊力が故に、遊牧騎馬民は恐れられた。

 

遊牧騎馬民の英雄であるチンギスハンは残虐エピソードがてんこ盛りに伝わっている人物だが。

 

それは遊牧騎馬民が、最終的に世界のどこからも追われたから、である。

 

負けた相手には、何を書いても良い。

 

古今東西全ての歴史書がそうだ。

 

チンギスハンが虐殺したとされる人数は、年々膨れ上がっているし。チンギスハンの子孫の数も膨れ上がる一方だが。

 

それらはチンギスハンが作り上げた帝国が、今や柱一本すらも残っていないから。「研究者」が好き勝手ほざいている結果。

 

実際のチンギスハンは一般的なイメージとは全く違う。

 

抵抗さえしなければ極めて思想的にも行動的にも寛容で、戦争を起こす前には必ず相手と交流を持とうとしたし。何よりも、周囲には様々な信仰、民族、人種のブレインを従えていて。

 

シルクロードを通じて東洋と西洋をより強固につなげた存在だ。

 

「残虐で暴力的かつ貪欲淫乱な悪魔的人物」と、貶められ続けているチンギスハンであるのだが。

 

実際にはそのようなことはなかったのである。

 

手をかざして、煌も前線に出てきている。

 

江東区の西側。

 

山の方で布陣しているのは、明らかに騎兵だ。それも軽装で、強力そうな弓を手にしている。

 

いかにもな面構えなのは、彼らが悪魔化された遊牧騎馬民だからだろう。

 

彼らは海と暑さには弱かったが。

 

陸上戦ではほぼ無敗だった。

 

彼らは元々強かったが、膠を利用した強力な弓が普及したことがその強さに拍車を掛けた。

 

イチロウが言う。

 

「意外と馬が小さいんだな」

 

「ああ。 モンゴル馬は強靱なことで知られるが、体格的な観点で言うと現在のサラブレットの半分程度だ。 日本の木曽駒と大して変わらない」

 

「えっ、そうなのか」

 

「ああ。 ただしモンゴル馬に乗っていた草原の民は、皆視力が3、下手をすると4以上あったとも言われていてな。 生まれた時から馬と一緒に過ごし、馬を手足のように使いこなし、騎射を百発百中で、しかも馬が走る中で成功させた」

 

ひえ、とイチロウが声を上げる。

 

恐らく向こうからもこちらが見えているはずだ。

 

彼らは空なんか飛べないが。

 

それでも、ギリシャの神々が恐れる相手なのは間違いない。

 

それにしても、テングリというのはどういう神なのか。これについては、そもそも遊牧騎馬民がほとんど歴史を残さなかったので分からない。

 

上空は危険すぎて踏み込めない。

 

既に煌の眷属天使やユヅルの仲魔の天狗をはじめとして、複数の神魔がたたき落とされて、生還していない。復活させるのは一手間だ。

 

また西側一帯で悪魔化遊牧民は、ほとんどの神魔を追い出してしまったようだ。

 

そうでない神魔は種類を選ばず殺されるか。

 

或いは麾下に加わるか。

 

そのどちらかを選ばされたようである。

 

逃げてきた神魔から、それらの話は聞かされている。

 

いずれにしても、一度偵察から戻る。

 

途中で偵察に出ていたらしいニンフ複数とばったり。ギリシャ神話の妖精である彼女らも同じように様子をうかがっていたのだろう。

 

煌を見ると、慌てて逃げ散っていった。

 

「追わなくて良いのか?」

 

「構わない。 日本支部も偵察に出ていると報告して貰おう。 今の様子からして、ギリシャ支部は相当慌てている。 やはりテングリは脅威なんだ」

 

ともかく、日本支部の陣地に戻る。

 

既に色々と対策会議をしているが、問題が山積みだ。

 

まず、いきなりテングリがこのタイミングで参戦してきた理由が分からないし、本当にテングリが来ているのかも分からない。

 

そして相手は遊牧騎馬民である。

 

今調べているが、台東区はいくつか高速道路の残骸や地下洞窟が通っている。防衛線を構築しようにも、高速機動する遊牧民を食い止めるのはとても難しい。

 

実のところ、遊牧騎馬民は人口が最大の弱点だ。

 

男は全部戦士、みたいな世界だが。その一方で、人間を多数養うのは苦手であり、特に草原で暮らして馬と一心同体、みたいな純粋戦士を育成するには当然大変な手間が掛かっていたのだ。

 

遊牧騎馬民の信仰を受けた国は、あまりの展開の速さから相手の数を過大評価していた。もっとも、過大評価された兵力ぶんくらいの強さを持っていたのだが。

 

それはともかくとして。

 

最悪なのは、悪魔化遊牧民が、それこそその過大評価の数で攻めてくる可能性がある、ということである。

 

会議の席で、越水長官が言う。

 

「今の時点で彼らは動かないが、陣地に近づく存在に容赦もしていない。 だが、このままでは、どのみち動くことも出来ないだろうな」

 

「またギリシャ支部と連携できませんか」

 

「既に断られた」

 

「……」

 

まあ、それもそうだろう。

 

何よりも、ギリシャ支部の方が遊牧民に対しては苦手なのだ。

 

彼らが海や暑さを苦手としていることなど、百も承知だろう。だがこの台東区の地形は起伏に富んでいて。

 

例えばギリシャ神話でいうと高名なポセイドンがいるが。

 

ポセイドンが海を作ったところで、そうでない高所を、凄まじい勢いで悪魔化遊牧民が攻めてくるのは目に見えてくる。

 

太陽神を用いて暑さで攻める手もあるが。

 

相手には天空神もいる。

 

それに超長距離からの精密狙撃を誰もが出来るような相手だ。

 

地形も悪いし相手も悪いのである。

 

ギリシャ支部としては、日本に仕掛けて戦力を削られるのも困るし。

 

それは逆に日本支部も同じ。

 

さて、どうするか。

 

今考えられるとすると。

 

敢えて、日本支部の仕業のフリをして、ギリシャ支部が悪魔化遊牧民に攻撃を仕掛ける、とかだろうか。

 

だがこの手の策略は、中華の歴代王朝が、遊牧民の様々な国家に仕掛けては、片っ端から失敗している。

 

特に北宋、南宋はどちらも複数回失敗していて。

 

遊牧騎馬民が中華を蹂躙する要因となってしまっているほどだ。

 

煌がそれらを説明すると。

 

ユヅルがぼやく。

 

「八方塞がりだな」

 

「あの、良いでしょうか」

 

ミヤズが挙手。

 

そして、皆を見回す。

 

「一度話し合いの席をもてないでしょうか」

 

「話し合いなんて出来るのかしらねえ」

 

「やってみないと分かりません」

 

ヨーコが冷笑的に言うが、確かにミヤズの言うことには一理ある。タオもまた、意見を言う。

 

創世の女神として覚醒している今は、過去の創世の女神の記憶もある程度あるのだという。

 

それによると、いくつか分かることがあるそうだ。

 

「テングリは激しい性質も持っていましたが、同時に寛容で自由な面も持っていました。 もしも今いる者達が、その麾下だとすると。 話し合いには応じるかも知れません。 ただし、全面降伏だけを求められる可能性もありますが」

 

「抵抗したら皆殺し、だっけ」

 

「それはかなり誇張されている。 勿論虐殺はゼロではなかったが、当時はどんな国家もやっていたし、モンゴルの虐殺は実際の十倍以上も誇張されて歴史に記録された。 何よりも本当に敵対する相手を皆殺しにしていたら、中央アジアや中東辺りは現在は無人地帯だ」

 

「でも、抵抗した相手には容赦もしなかったのも事実なんだろ」

 

それについても正しい。ただしそれだけではない。

 

チンギスハンは敵に奪われた妻を取り返し。その妻が、敵の子を孕んで戻ってきた時。その子を殺さなかった。妻も以降以前と全く同じに扱った。

 

それどころか、その子も同じように自分の子として扱った。

 

そういう人間味もある存在なのだ。

 

しばし考えた後、越水長官が決断していた。

 

「まずは話し合いからだな。 敵の規模も知りたい。 煌くん、君の眷属の中から、出来るだけ強大な存在を呼び出してほしい。 そのものを経由して情報を得ながら、会談に持ち込めるか試してみよう。 もしも敵対する気しかないようだったら、こちらとしては全面攻撃を行う。 ギリシャ支部といつまでもにらみ合いを続けてはいられないからな」

 

「しかしその間にギリシャ支部が攻めてきたらどうします」

 

ユヅルの懸念はもっともだが。

 

それには、まずは相手の戦力を見てから、だという。

 

煌が呼び出したのはテュールだ。

 

テュールは天空神であり、司法の神だ。テングリも天空神であることを考えると、相性は良いだろう。

 

それに今のテュールは、ユピテルの影響を受けた最初期の状態である。

 

理性的に相手と話をすることが可能だ。

 

「テュール、そういうことだ。 書状を持って行ってくれるだろうか」

 

「承知。 ただし、生きて帰れるかは分からぬが。 我らを信仰したノルマンの民は、ゲルマンの民の一派だった。 そのゲルマンの民ですら、遊牧民であるフン族には手も足もでなかったのだ。 私では相性が悪いぞ」

 

「分かっている。 書状を届けること、相手の実数を見極めること。 会談に相手が応じるか応じないか、相手の布陣はどうなっているか。 それらを見極めてほしい」

 

「……」

 

一礼すると、テュールが行く。

 

さて、問題は此処からだ。

 

現在では実際の遊牧民は、各地の少数民族であり、どちらかと言えば極貧生活をしている状態だ。

 

末裔の中には活躍している者もいるにはいるが、それでも世界のメインストリームからは完全に外れている。

 

信仰によるバフは受けていない。

 

ましてや日本では、遊牧民を退けた実績がある。

 

それもあって、テングリは本来ほどの破壊力を発揮できないはずだし。

 

今更になってどうして介入してきたかを見極める必要があるだろう。

 

戦闘に備える。

 

悪魔化遊牧民は、下手をするといつどこから襲いかかってきてもおかしくない。彼らは城攻めについても強力なノウハウを有しているのだ。

 

備えている間、いくつかの手を打っておく。

 

ギリシャ支部も、今は動く様子がないようだった。

 

 

 

しばしして。

 

テュールが敵陣に到達。

 

高速道路の切れ目とトンネルの残骸があり、道が四方につながっている。敵陣は山の上だが、山の下にも布陣していて、隙がない。

 

相手は用兵を知っているな。

 

テュール経由で、それを共有。

 

そのまま、テュールが呼びかける。

 

会談を持ちたい。

 

責任者はいるか。

 

そう呼びかけると、油断なく弓を構えていた悪魔化遊牧民の中から、威厳がある男が姿を見せる。

 

モンゴルの民はモンゴル相撲などで知られる。

 

ただだからといってガタイが良いかというと別にそんなことはなく、250㎏程度の体格しかないモンゴル馬を乗りこなすために、むしろそれほど体格は良くないケースも多かったのだ。

 

だから、周囲に比べて頭一つ大きいその厳しく武装した男は、どうしても目立った。

 

「日本支部の使いか。 前のようにやあやあわれこそは、とやってくるかと思ったのだがな」

 

「生憎私は北欧の神でな。 君たちはその行為を馬鹿にしておきながら、二度の侵攻軍を敗戦でほとんど全滅させてしまったそうだが?」

 

「ふっ、まあその通りだ。 我らも海を越えるのは苦手でな。 まあいい。 嫌みを此処で言い合っても意味がない。 来られよ」

 

そのまま敵陣の奥へ。

 

悪魔化遊牧民がかなりいる。これは、最低でも数千はいると見て良いだろう。

 

陸でつながっている場合、彼らを食い止める手段がない。それくらい、全盛期の遊牧民は危険な相手だった。

 

山を上がって、奥へ。

 

奥には意外な神格がいた。

 

「デメテル……!」

 

「おや、貴方はテュールではありませんの。 夏目煌の眷属になっていると聞いていましたけれど。 使いぱしりですの?」

 

「いや、なぜ貴方がテングリを奉じる民を従えている! どういうことだ」

 

「落ち着きなさい。 話がありますわ」

 

デメテルが言う。

 

ギリシャ支部との戦闘の膳立てをしたと。

 

この悪魔化遊牧民は、テングリの眷属ではあるが、その力は実際には限定的なのだという。

 

「ある存在の支援を受けて実体化させた者達ですわ。 確かに強いですけれど、そもそもテングリが座を狙っていませんのでね。 一時的に姿を見せただけで、別段敵対するつもりも、この地を奪うつもりもありませんわ。 まあ仕掛けられたら、徹底的に反撃しますけれど」

 

「何をもくろんでいる」

 

「簡単なこと。 ゼウスを打ち倒してほしいのですわよ」

 

「……」

 

テュールが不審を募らせていくのが分かる。

 

当然だ。

 

デメテルとゼウスが仲が悪いのは分かっていたが。まさか討伐を煌に依頼してくるほどだったとは。

 

「会談は出来ませんわよ。 ただし、そうですわね。 貴方方に分かる言葉でいえば、この手紙を渡しておきますわ」

 

「これは……」

 

テュールが正体を看破したようだ。

 

不戦の契約だ。

 

これから48時間、何があっても絶対に悪魔化遊牧民とその麾下の存在は攻撃を日本支部にしない。

 

これは日本支部と協力している神魔。更にはその陣地も含まれる。

 

そしてこの手紙には。

 

テングリの力が明確に込められていた。

 

「それと、ゼウスに勝利したら、この者をそちらに譲渡しますわよ」

 

「……」

 

さっきいきなり皮肉を言ってきた男だ。

 

彼はバトゥと名乗った。

 

バトゥ。

 

欧州などをを蹂躙した遊牧民の驍将。チンギスハンの孫だ。

 

いずれにしても悪魔化しているようである。分類としては幻魔のようだが、欧州の民からすれば悪魔以外の何者でもないだろう。

 

彼を得ることには大きな意味がある。

 

テングリの情報を得られればそれは大きい。

 

だが、問題も多い。

 

「分かった。 持ち帰って検討する」

 

「ゼウスはバカではありませんわよ。 こちらとしてはこれ以上会談を持つつもりなどありませんので、さっさと行動するならしなさい。 ハーヴェストに実った夏目煌であれば、決断は出来ると信じていますわ」

 

テュールが戻ってくる。

 

そして手紙を引き渡してきた。

 

罠じゃないのか。

 

そう言ったのはイチロウだ。言うまでもなく、煌も思った。

 

あまりにも話が出来すぎているのだ。

 

いくら何でもこれはおかしい。

 

まずデメテルが何を考えているか分からない。ゼウスに対して恨みは抱いているだろう。それは分かる。それにしてもあまりにも不可解だ。

 

デメテルの逸話を考えれば、未だにペルセポネの事でゼウスを恨んでいるのは良く煌にも分かるのだ。

 

だが、それでここまでするか。

 

そもそも、デメテルが単独で悪魔化遊牧民を呼び出せるとは到底思えないのである。一体誰が力を貸している。

 

それが分からない以上、全く油断は出来ないと言える。

 

ただゼウスと連携して動いているとも思えない。

 

会議をして、話をするが。

 

越水長官が、ガイアに意見を聞きたいと言ってきた。

 

会議室にガイアを呼び出す。

 

褐色肌のふくよかな女性だ。

 

ただ、視線などがとても厳しい。三代にわたってギリシャの神々とやりあった大御所のだけはある。

 

優しさよりも厳しさ、厳しさよりも冷酷さが目立つようにさえ感じた。

 

「デメテルがゼウスを叩くようにけしかけてきた、というのか」

 

「意見を聞かせてもらえるだろうか」

 

「くだらんな。 どちらも消耗させるつもりに決まっている」

 

一刀両断である。

 

まあそうだろうな、とは煌も思う。

 

デメテルが創世を狙っているのか、そうではないのかはちょっと分からない。ただ、ゼウスを排除はしたいのだろう。

 

だが、煌を支援しようとしているとも思えない。

 

ゼウスとつぶし合ったところを、横から悪魔化遊牧民で襲って、一網打尽にするつもりではないのだろうか。

 

策があるとすれば。

 

台東区の地形を見る。

 

かなり高速道路などが残されているのだが、いくつかの特徴的な地形がある。その中で、小高い丘になっている地点を、意見を求められた森可成が指していた。

 

「海で孤立させるという条件であれば、此処が最適であろう」

 

「なるほど。 この地点にゼウスを誘い出すことが出来れば、最悪の場合にもデメテルと遊牧民の横やりを防げる」

 

「ただあまりにも狭い。 ゼウスは百戦を経ている神だと拙者も聞く。 此処に誘引するのは至難であろう」

 

「相手が戦争に勝つつもり出来ているのであればな」

 

越水長官が言うと。

 

ガイアが、ふっと笑った。

 

「ゼウスを挑発して引っ張り出すつもりであれば、いくつか手はあるぞ」

 

「聞かせてほしい」

 

「決闘でも挑めば良い。 今、手に例の鍵とやらが二本。 ゼウスのところにも一本ある。 ゼウスは座に着いた経験がある。 実のところ鍵など必要としないだろうが、其方のことは最初から目をつけていたようだ。 恐らくだが、鍵を手放さなかったのは、万古の神殿に入り込まれるのを防ぐため。 戦いたいと言えば、来るだろう」

 

「……」

 

勿論ゼウスが一対一に乗ってくるかは分からない。

 

また、それだけではない。

 

ゼウスがどうも黙示録の獣と、黙示録の笛吹きを従えたらしいと言う情報がある。オリンポスの神々に加えて、それも警戒しなければならないだろう。

 

ただヴィシュヌとの戦闘で、ギリシャの神々もノーダメージとはいかないだろう事だけが救いか。

 

こちらが回復しているのと同様に、倒されていなければ回復をしている筈だが。倒された神魔をアティルト界から呼び出すのはかなり難しい筈である。

 

だとすれば、勝機はある。

 

「この間のインドの神々との戦い以上の負担を掛けることになるかも知れない。 皆、やれるだろうか」

 

「やってみせる! 俺はやれます!」

 

イチロウが、決意とともにいう。

 

既に腰が引けていたイチロウはいない。

 

悪魔と戦いを重ね、少しずつ自分のペースで強くなってきたイチロウは、すっかり歴戦のサマナーだ。

 

煌に流れ込んでくる平行世界の記憶では、イチロウは明らかに様子がおかしくなり、人間とは言いがたい状態になっていた。

 

今のイチロウは、肉体の方は恐らく人間からかなり乖離しているだろうが。精神的には前よりもずっと人間らしいし、何より自信と経験と強さも備わっている。

 

「僕も必ず相手を食い止めて見せよう。 前線に配置を」

 

ユヅルも言う。

 

ユヅルもイチロウと同じく、出会った頃よりずっと腕を上げている。元々冷静だったが、今は戦士として円熟の域に入っているかもしれない。

 

勿論、デメテルが背後から仕掛けてくるかは分からない。

 

だが、最悪の事態を常に想定しなければならない。

 

それにゼウスもどんな手を打ってくるか分からない。

 

準備は、どれだけしても足りないだろう。

 

「テューポーンがいれば言うことはないのだが……」

 

「ゼウスのケラウノス対策ですね」

 

「ああ」

 

越水長官が言う。

 

ギリシャ神話において、ゼウスの雷霆ケラウノスを受けて耐え抜いた逸話がある存在。ギリシャ神話における間違いなく最強の怪物こそ、テューポーンだ。

 

もっともギリシャ神話は編纂された年代によってだいぶ内容が違っていて、ゼウスのケラウノスでテューポーンが始祖神であるカオスもろとも滅ぼされるような話もある。仮にテューポーンが召喚できても厳しい可能性はある。

 

ガイアが言う。

 

「私に任せよ。 テューポーンは私が産みだした存在だ」

 

「アースになってくれる訳ですか」

 

「アース? ええと、何々……ちょっと今情報を調べる。 おお、なるほど、雷よけということか。 なってやろうなってやろう。 それにゼウスを直接殴る機会は最初から最後までなかった故な」

 

なんだか嬉しそうにガイアが言う。

 

煌としては、これで万全とまではいかないが、少なくともだいたいの事態に対応できると思う。

 

一応念の為、もう一つくらい手を打っておきたいところだが。

 

ともかく、ゼウスの出方を見るしかないだろう。

 

越水長官の許可を得て。

 

ゼウスに果たし状を出す。

 

今時、ではあるのだが。しかし相手は古代神格だ。名指しの果たし状など受ければ、間違いなく乗るだろう。

 

ましてや万魔会談でのあの好戦的な様子からして、ゼウスは大喜びで乗ってくるはず。ゼウスとしても、テングリの軍勢とやりあうのは避けたいはずだ。

 

ともかく、準備は終える。ゼウスと煌の眷属だけでやり合うことになったとしても、勝てるように。

 

やり過ぎなくらいに、準備はしておかなければならなかった。







※ガイア

ギリシャ神話の大御所です。ずっと大御所政治を続け、ウラノス、クロノス、ゼウスの全ての統治に関係してきましたし、ティタノマキアやギガノトマキア、テューポーンとの戦い全てにも関与しています。

それでいながらメガテンではほとんど出ていないですね。同世代に当たるニュクスはデビルサマナーに出ていますし、なんならペルソナ3でラスボスを張ったりしているのですが。

本作のガイア神は、超武闘派の格闘型の女神です。元々かなり好戦的で、ギリシャ神話の大乱にはだいたい関わっている事もありますので。まあ優しく穏やかな神様ではないですね。




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