真女神転生VV二次創作 牛蛇相克 作:dwwyakata@2024
DSJに登場してから、陰険な陰謀屋として登場することが多くなったデメテル。
元々オリンポス十二神の一人であり、ゼウスの姉です。娘のペルセポネの関連でゼウスやハデスを恨んでいるのはギリシャ神話の通りです。
本作でもゼウスをいてこませるために、あともう一つの目的もあって、暗躍を続けてきました。
ゼウスが動き出した。
同時に日本支部も。
東に向かっている。なるほど、高所を抑えて、其処で戦うつもりか。テングリの軍勢である悪魔化遊牧民は、じっとそれを見ていた。
バトゥが言う。
「あれが人の戦いであれば愚策。 我らは高所での戦いは得意中の得意であるのですがな」
「しかしあれは人の戦いではありませんわよ」
「その通り。 我らにとっては海は天敵。 もしも海の神が動いて、我らを海で一呑みにしたら、相性関係なく全滅しましょうな」
「それを想定していると見て良いでしょう」
デメテルは知っている。
遊牧民の強さは、とにかく新しいものを貪欲に取り入れていくことだ。少なくとも、彼らが地上の覇者であった時代はそうだった。
保守的な生き方をする民族、というのは偏見だ。
そもそもシルクロードを縄張りにしていた遊牧民は、最先端の戦闘技術を真っ先に手に入れることになった。
その中に存在していたのが、膠による強力な合板の弓であり。それが圧倒的破壊力で、世界を蹂躙する原動力となったのは事実。
それから各地で転戦していく内に、遊牧民は城攻めや火薬兵器の使い方も覚えた。
残念ながら海上戦は苦手としていて、最後までそれが変わることはなかったが。
それでも遊牧民は支配下に置いた民族が逆らいさえしなければ過度に乱暴に振る舞うことはなかったし。
彼らの文化も尊重した。
今、遊牧民が蹂躙したとされる地域で、文化が残っているのはなぜか。
逆に、一神教が蹂躙した土地で、文化が失われたのはなぜか。
それが全ての答えである。
遊牧民はやがて衰退して各地から追われていくことになるが。今ここにいる者達は、皆全盛期の彼らが悪魔化したものばかり。
柔軟にものを考える事が出来る。
それぞれの弓の技量は悪魔化した際に大幅に強化されていて。
空を舞う堕天使や鳥の神魔も、たやすく打ち落として見せるほどだ。
「いずれにしても、ただ見ているだけでいいという事で間違いはありませんな」
「そうですわ」
「我らは既に座に興味はない。 ただ、あの一神教の神が座に着いたことだけは失敗だと今でも思っているのですがね」
「それは私たちも同じですわよ」
だから利害が一致した。
悪魔化遊牧民達を呼び出すのは二手間懸かったが、それでもゼウスと夏目煌がぶつかるしかない戦略的状況も作り出せた。
そして、後は。
ゼウスが負けるようにしてやればいいだけだ。
デメテルが見たところ、夏目煌の戦力は、ゼウスよりもまだ若干劣っている。
シヴァを打ち倒したとは言え、それでシヴァより強くなると言う訳でもないし。更に言えば、シヴァはルドラの秘法を使う直前でかなり弱体化していた。
ゼウスの現状の戦力はほぼ万全に近く。
シヴァの万全には恐らくわずかに届かないといえど、かなりシヴァを倒した時よりも戦況は悪いはずだ。
そこで、色々と手は打たなければならない。
伝令が来る。
「ご注進!」
「何かしら」
「こちらに来る存在あり! 恐らくは、東南アジアの神魔と思われます!」
「へえ?」
ゼウスもあちこちの支部と同盟を結んでいた。
そして、その中には、遊牧民を退けた国も存在していたのである。
ベトナム。
なんと陸続きでありながら、あの元の軍勢を退けた国家。数少ない、陸続きでありながら遊牧民の猛攻を撃退した国家である。
ベトナムの神魔は極めて野性的で、それらが丁度進路を塞ぐようにして布陣する。
あれは恐らく原始的な仏教の神々か。
いずれにしても、悪魔化遊牧民には極めて相性が悪い存在だと言える。
日本で撃退された時に、仏教神格の大元帥明王が神風を吹かせたからとか言う喧伝がされたそうだが。
それに近いものがあるだろう。
ちなみにタイなどのより苛烈で野性的な信仰をしていた国よりも、かなり中華寄りの行儀が良い信仰をしていたようだが。
いずれにしても、遊牧民には相性が悪い。
実際、バトゥも眉をひそめていた。
「勝てないとは言いませんが、厄介な切り札を用意してきていますな。 しかも明らかに熱気がましています」
「貴方方の天敵でしたわね」
「ええ。 湿度と合わさると最悪ですね。 この辺りの湿度であの暑さは……」
「ゼウスも相応に備えてきている、と。 まあいい。 切り札を切らせただけでも意味がありますわ。 それにゼウスも、夏目煌とやりあうつもりのようですし、可としましょう」
まだ切り札があるのだが、それは温存する。
今切るものではない、と判断するからだ。
さて、戦況を見るか。
いや、まて。
これは想定外だ。
ギリシャの神々はお行儀良く陣列を組み、日本支部の連中も同じく。距離を置いてはいるが、かなり秩序だって陣列を維持している。
そして夏目煌とゼウスが出て行って、それぞれで名乗りを上げたようだ。
音を拾う魔法を使う。
「眷属には手伝って貰うが構わないな」
「おう、かまわんぜ。 それくらいのハンデがいるだろ。 俺としても、ケラウノス一発で灰になられたら面白くねえからな」
「分かった。 では、勝った方に従う。 それで構わないな」
「もちろんだ。 俺としても、今の俺に勝てるのだったら、おまえが創世をするのに充分だと思うからな。 ただし俺が勝ったら、俺の半身になってもらう。 俺としても、おまえくらいの桁外れのナホビノは初めて見るんでな。 ちょっと創世をしてみたいと欲が出ちまってな」
ふむ、まずいな。
ゼウスの奴、あれは本気で言っていると見て良い。
そして面倒なことに、ギリシャの軍勢の中には、例の黙示録の獣と笛吹きがいる。
あれらを温存している様子からして、何かしらの戦略的活用をすると見て良い。
横やりを防ぐためか。
だとしても、一体何から。
あれらは悪魔化遊牧民の敵ではない。相性が最悪で、ぶつかり合っても蹴散らされるだけである。
しばし考え込んでいると。
ゼウスと夏目煌がぶつかり合い始めた。
とりあえず、今は戦闘の経過を観察する。今の時点では、日本支部もギリシャの神々も。それぞれ横やりを入れるつもりはないようだが。
ゼウスが勝ちそうになったら、切り札を切る。
今は、それだけでいい。
肉体美を誇示しながら、ゼウスが襲いかかってくる。手にしているケラウノスは凄まじい雷撃を纏っていて。飛ばすことも可能なようだ。
激しく切り結ぶ。
そのたびに、苛烈な雷撃がほとばしり。辺りに衝撃波が引き起こされた。
ゼウスは単独だが、煌は眷属あり。
ただし、ゼウスの方も、単騎とは言えその手数は一つではない。
周囲に湧き上がってくるのは、恐らく。
ゼウスとユピテルのその分身達だろう。
ギリシャ神話というのは、決して最初から決まった形があったものではない。これは他の神話と同じだ。
ギリシャの様々な民族がそれぞれの神を持ち寄り、それらの物語を統合していき。最終的に生まれたのがギリシャ神話だ。
ゼウスという存在は、最初からかなりキャラも変わっているし。
そしてその派生神格も多数出現した。
極めて行儀が良さそうなのがユピテル。
更にゼウスの原型となったらしい神もいる。
ユピテルはゼウスと違ってローマ風の衣服を身につけていて、人間らしさがほぼ感じられない。
行儀が良くなった代わりに、支配としてのツールに切り替わった。
その弊害なのだろう。
ただし、実力は本物だ。
同時にテュールとフィンを相手にして、一歩も引かない。
更には、義経公と酒呑童子も、ゼウスの原型らしい神に阻まれて、むしろ押さえ込まれてしまっていた。
後方に下がったマーメイドとアマノザコが支援の風雨を送ってくるが、ゼウスは天空神であり雷神だ。
条件は五分。
ホルスが時々突貫を仕掛けようとするが、ゼウスに隙がない。
旋回しているところに、雷の槍が襲いかかり。空中で激しいドッグファイトを繰り広げていた。
煌は激しくぶつかり合いながら、まずいなと思った。
想像以上に強い。
いや、単騎での実力はおそらくシヴァほどじゃない。
だが、こっちはあくまで煌と眷属のみでの勝負だ。シヴァとの戦いの時よりも、条件が悪い。
剣技については、かろうじてこちらが上か。
だがゼウスは足技や手業も、容赦なく繰り出してくる。
がっとものすごいつかみ技が飛んできたので、飛び退く。ゼウスが間を詰めながら、楽しそうに笑う。
「今のを避けるか! 俺のパンクラチオン、味わってみねえか?」
「遠慮させて貰う」
「ま、そうだよな。 現代格闘技なんかの行儀が良いのと違って、折るまで普通にやる代物だからな!」
他化自在天を召喚。
ゼウスと二面から当たるが、ゼウスはそれでも全く苦にしていない。むしろ当たれば当たるほど、勢いを増していく。
「かあー、楽しいなオイ! 俺の息子にヘラクレスがいるのは知ってるよな!」
「誰でも知っている」
「くっくっく、おまえも多分十二の難行行けるぜ! 死んだらオリンポスに招いてやるよ。 創世なんか止めちまえ、といいたいが。 俺がやりたくなったんだったな。 悪いが付き合って貰うぜ!」
他化自在天が勢いをつけてのチャージをたたき込んだが、片手でとめつつ。
煌の突進しての渾身の一撃を、軽くケラウノスで受け止めてみせるゼウス。
両者はじかれる。
まだガイアは温存する。
上空でのホルスと雷の槍との追いかけっこはほぼ互角か。ホルスがあれを引きつけてくれていないと、こっちに飛んでくる。
ゼウスが笑いながら、雷を増幅させる。
更にゼウスの力が上がっていくのが分かる。
「くっくっく! ちょっとやそっとで死ぬなよ! この国は、昔からデビルサマナーの質が高くてな。 俺も何度か呼び出されたことがある。 だからこそ、そんな連中の頂点にいるおまえとは、もっともっと殺りあいてえ!」
「好戦的だな」
「当たり前だ! ユピテルなんてお行儀が良い神にされて、鬱憤もたまっていたんでな! 俺は本来はこうよ! そもそも親父を実力で引きずり下ろした俺が、好戦的ではないとでも思ったか!」
躍りかかってくる。
これは、乱舞技か。
凄まじい軌道を描いて、振るわれるケラウノス。一発一発が凄まじい重さだ。其処に、追い打ちの蹴りが飛んでくる。
吹っ飛ばされる。
必死に耐え抜くが、至近まで迫っている。
だが、此処だ。
煌は呼び出す。
「!」
「ゼウスぅうううううう!」
「祖母上か」
浴びせ蹴りを逆にたたき込まれるゼウス。ゼウスの前に出現したのはガイアである。
ガイアが猛烈な肉弾戦をゼウスに挑む。ゼウスも舌打ちすると、その猛攻を防ぐ。まずいな。
消耗が速い。
回復用の道具をギュスターヴから仕入れておいたが、これは足りるか。全て使ってしまう。それでも回復しきれない。
アリスがふっと側に降り立つ。
此処から、一気に決める。
ガイアは強烈に強いが、消耗が激しくて長時間具現化出来ない。煌はマーメイドとアマノザコに頼んで、最大限の風雨を強化として掛けて貰う。それだけじゃない。
アリスは詠唱開始。
ゼウスがまずいなと判断したのだろう。
フルパワーでのケラウノスを準備し始める。
槍のように描写されがちなケラウノスだが、本来は雷霆そのものであり。雷というよりも雷による超範囲攻撃が正解だ。
そのためテューポーンを倒した時、まとめてカオスまで滅ぼしたなんて話が出てくるわけである。
つまり、極大火力の雷撃で辺りを一掃するつもりである。
だが、そうはさせない。
アリスが詠唱を終えて、地面に手を突く。
後は、煌とわーの仕事だ。
突貫。
同時に、ガイアがゼウスの腕をつかむ。ケラウノスを、本人がアースになって防ぐ形だ。ゼウスが明確に焦りの表情を浮かべていた。
「祖母上! いくら何でも容赦できませんな!」
「そういって貴様は、一体どれだけ私に不義理を重ねてきたァ!」
「祖父や父と一緒にしないでいただきたい! ヘカトンケイレスはあまりにも危険すぎた! 容姿を嫌っただけのあの者達とは違う!」
「結局タルタロスに追いやった点では同じであろうがァ!」
それはその通りだ。
ゼウスはティタノマキアで勝利できたが、それはヘカトンケイレスの助力があっての事だった。
それなのに、ゼウスは恩知らずにも、ティタノマキアが終わり次第ヘカトンケイレスをまたタルタロスに門番という形で追いやってしまった。オリンポスに迎えても良いくらいの功労者なのにだ。
ガイアが怒るのも当然だ。
そして、今度は煌が至近に迫る。ゼウスは鬼気迫る表情になると、なんと組み付かれているケラウノスを持つ腕を、切り離していた。
ガイアがえっという表情で、腕ごと倒れる。
ゼウスは片腕だけになりつつも、態勢を一瞬で立て直し、煌を迎え撃ちに来る。煌に限界が迫っていることを、冷静に見抜いていると言うことだ。
勿論、アリスの詠唱にも気付いている。
アリスが撃ち放った死そのものを、文字通り喝破でかき消してみせる。
その隙だけで充分。
しかし、それですらゼウスに届かない。
ゼウスは一気にぐんと顔を近づけてくる。片腕だけで充分ということだ。実際に、凄まじい圧力である。
長い腕でのリーチ。
つかまれたら、パンクラチオンの技で瞬殺に来るだろう。それくらい、圧倒的なフィジカルを感じる。
しかし、その腕が止まった。
側で、ぱたぱたと腕をつかんで支えているのは。モーショボーだった。
「……っ」
「ユピテルの要素はどうしてもあるようだな」
「モンゴルの死霊だと」
「そういうことだ!」
手刀をたたき込む。ゼウスが呻く。それはそうだ。天叢雲剣がゼウスを貫いたのだ。それでも、ゼウスはその一撃を受け止め、防ごうとする。
しかしそれすらも、煌は想定済み。
傷を広げる剣の一撃を、押し戻そうとしているゼウスは、大量に吐血していた。
ゼウスの肩に乗っているのはわー。
本命の死は。
こっちだ。
天叢雲剣を引っこ抜く。ゼウスが吐血しながら、必死に残った手でわーをつかもうとするが。
わーは、静かな。
まるで墓場で響くような、いつもと違う声で言う。
「終わりだよ。 ギリシャの天空神。 驚いた?」
「ふっ……ここまで先の先まで読んでいるとはな」
ゼウスがマガツヒになって消えていく。
だが、どうも嘘くさいと煌は感じた。
実力はまだゼウスの方が総合力では上。その気になれば、まだやれるのに。どうして引く。
ユピテル等の、ゼウスの分霊体も消えていく。
そして消えながら、ゼウスは言うのだった。
「鍵はくれてやる。 おまえにはやはり興味が湧いた。 いずれまた、会うかも知れないな」
「……」
高笑いしながら、ゼウスが消える。
降り立つと、わーがゼウスが消えた辺りを見ながら言う。
「煌ちゃん、今の違和感気付いた?」
「ああ。 敢えて抵抗せずに最後倒されたように見えた」
「警戒した方が良いと思う。 私の死の力が体に浸透するのに抵抗している様子がなかったんだ。 多分ダメージを抑えるために、敢えて自壊したんだと思う」
わーは欠片とは言え伊弉冉尊だ。
発言には信憑性がある。
いずれにしても、厳しい戦いだった。それに、鍵も手に入れることが出来た。
皆のところに戻る。
ギリシャの神々は復讐戦を挑んでくるようなこともなく、潮が引くように撤退していった。これもまた、おかしな話だった。
ギリシャの神々の中にいた黙示録の獣と笛吹きが、ぶくぶくと内側から膨れ上がる。反転する死の力が、一気に生の力へと転化していく。
そして、二体とも破裂していた。
あふれ出す膨大なマガツヒ。
それがゼウスの形を取るまで、そう時間は掛からなかった。
「お疲れ様です父上」
「ふん。 こいつらをまさか俺の予備タンクとして従えていたとは、誰も気づけなかったようだな」
パラスアテナからタオルを受け取ると、ゼウスは復活したばかりの顔を拭う。
そして、見るからに目立たない下級神格っぽく変身する。
ゼウスの得意技は変身だ。女のところに忍び込むために、金色の雨になったこともある。あらゆる存在に変身し放題である。
そう。ゼウスは負けはしたが、今回は意図的に負けたのだ。
勿論勝てるようなら勝つつもりだったが。
それ以上に、デメテルの従えているモンゴルの兵団が気になったのである。
あれはデメテルが呼び出したり、従えられるような存在ではない。
テングリは天空神であり、全く系統が違うし。
何よりも、ギリシャ、ローマ神話系の神々にとっては天敵に等しい。
だとすると、何かが背後にいるのだ。
それを見極めてから次の動きに移りたい。
北へ移動して、一旦距離を取る。デメテルが布陣している陣地とも距離を取り、充分に距離を取ったところで、元の姿に戻る。
力については問題ない。
あの死の神の力を流し込まれていたら面倒なことになっていただろうが。流しきられる前に対応したのだ。
一種のトカゲの尻尾切りである。
精神生命体であるから、出来る芸当だった。
座り込むと、ゼウスは伝令としてヘルメスを出す。勿論、ヘルメスがデメテルに通じていることは知った上で、だ。
ヘルメスもそれを知られた上で動いている。
此奴はギリシャ神話のトリックスターである。ロキほど露骨に神々に敵対する訳ではないが、それでもその性格の悪さは、ギリシャ神話においても随一。
だからこそ、似たように性格が悪いゼウスとしては、動きが読みやすい。
恐らくデメテルも此奴の動きは読めずに苦労している筈。
其処で、ゼウスは優位に立てている。
程なくして、ヘルメスが戻ってくる。必要な仕事は。それぞれしっかりこなす奴なのである。
「日本支部は回復に入りました。 鍵をまとめて、それから動き出すつもりでしょうね」
「姉上は?」
「デメテル様から、日本支部に遊牧民の将が貸し出されました」
「バトゥか。 あれは厄介だぞ……」
古くからフン族のアッティラ大王をはじめとする遊牧民に欧州は荒らされてきた。その中でもバトゥは特に強い恐怖とともに伝説となっている。
とはいっても、実のところ遊牧民は歴史的な敗者だ。完全に追い払うことが出来たから、悪魔のように語り継がれているだけである。歴史的な敗者だから、あらゆる悪行を押しつけられ、その行動は十倍も百倍も誇張され、悪魔の権化のように言い伝えられたのだ。
もしも遊牧民が欧州で土着化し、現在も支配者階級にでもいたら、それはなくなっていることだろう。
残虐さで言えば、実のところ遊牧民は、他の征服者と大して変わりがない。
ただ遊牧民は世界の征服に王手を掛けるところまでいった。其処が違った、というだけである。
ゼウスはそれを知っているが。
アティルト界の神魔はどうしても人間の精神の影響を受ける。
今は特にチンギスハンの悪行やらが拡大解釈されており、中には一億人虐殺した等という途方もない誇張がされた説まであるが。
実際には数十倍も誇張されており、その誇張を、あの悪魔化遊牧民は受けている。
だから戦いたくなかったのだ。
「それでどうするのですか父上。 日本支部の背後を襲いますか」
「いんや。 あの夏目煌は面白い。 戦ってみて、もしも本気であっても勝てるかは微妙だったな。 それを見届けられたのだからそれで構わない」
「では今回は様子見ですね」
「そのつもりなんだが、いくつかの懸念点がある」
一つ。
天使達の残党。
どうも四大を復活させようとしている節がある。今更復活したところで流れなど変わらないが、それでも警戒が必要ではあるのも事実だ。
もう一つ。
こっちが本命だ。デメテルの背後にいるやつが、何をもくろんでいるか分からない。
ただよりよき創世を求めているのであれば、別に傍観で良いだろう。夏目煌に仕掛けるかもしれないが、それはそれで試練として、だろうし。
問題はそうではない場合で。
ろくでもないもくろみがあった場合だ。
ゼウスとしても、ろくでもない創世がされることの弊害は思い知っている。座を放棄した時はこんなものはいらないと思ったのだが。
それでも一神教がテングリが放棄した座を奪った時に、失敗したなと後悔したのである。
デメテルはどうでもいい。
あれはゼウスを座につけないことが目的である事は分かっている。
ただデメテルに手を貸している存在が問題だ。
「まずは傷を癒やすぞ。 次に動くのは、夏目煌が至高天に入った後だ」
「分かりました」
「……全く姉上め。 厄介な輩と手を組んだ可能性が高そうで困る」
ゼウスは龍穴から回復を受けながら、ただぼやくのだった。
原作でもゼウスとは条件を満たすと第二戦があります。
要するに第一戦では手を抜いていた、ということですね。
本作でもその設定は採用しています。
つまりまだまだゼウスは変形を残している、ということです。