真女神転生VV二次創作 牛蛇相克   作:dwwyakata@2024

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色々な陰謀に巻き込まれたりしましたが、とりあえずこれでついに至高天への道、万古の神殿への鍵が煌くんの手元にそろいました。

万古の神殿は三次元世界であるアッシャー界から、二次元世界であるアティルト界に向かう道です。

其処に向かう前に。

まずは残った問題を、いくつか処理しておきます。







3、鍵は揃い

三つの鍵が合成され、形を為す。とはいっても、神々しいとかそういうことも別にない。ただの情報体として完成しただけだ。

 

皆の前で、鍵を見せる。

 

タオが鍵について説明してくれた。

 

「完成しましたね。 これは万古の神殿……至高天へつながる場所への鍵です。 古く古くには、此処を通った人と神が、創世を為しました。 それを祝うために、天にも届く神殿が作られたのです」

 

「物理的にではなく精神的な話よ」

 

ヨーコが肩をすくめる。

 

要するに人々の精神世界の深奥に、そういう通路が作られた、ということであるらしい。普遍的無意識だかの領域に存在している、ということだろう。

 

皆と軽く話をする。

 

まず万古の神殿の位置だが、此処から南。

 

北欧支部が抑えていた辺りから更に南下した先だという。

 

ただ、その前に。

 

いくつか片付けなければならない。

 

側に逞しい馬を侍らせたひげ面の男性。バトゥと名乗った。

 

欧州で暴れたチンギスハンの孫だ。眷属として従えた。これで、テングリの情報が手に入ったのだが。

 

テングリは、どうやら遊牧民の理とともに、世界に溶けてしまったそうである。

 

「蒼天たるテングリは、我らの中にあり、ともにあった。 我らが世界の果てまでと駆けた時には、ともに駆けた。 だからこそ、我らが敗れ世界から追い払われて故郷に戻った時に。 座からも姿を消したのだ」

 

「遊牧民の衰退とともに、そのまま座から離れたんだな」

 

「いや、少し違っていてな」

 

ユヅルの言葉に、軽く補足するバトゥ。

 

なんでもそもそもとして、テングリは神格としての信仰を受けていたのではなくて、現象として信仰されていたものであるらしい。

 

要するに空そのものがテングリであり。

 

遊牧民は常に父たる存在に見守られていた、という思想だったようだ。

 

ある意味原始的だが。

 

ある意味偶像崇拝を禁止しているはずの一神教が、ついに至れなかった境地のようにも思える。

 

ということは雄々しい男神が座に着いていたわけではなく。

 

座に蒼天という神が一体化していたような状態だったわけだ。

 

なるほど、理解できた。

 

更には、その理も。

 

あくまで自由に。

 

それが蒼天の理。

 

ある意味出会った頃のヨーコに近いなと思う。

 

実際問題、遊牧民は従う相手には寛容で、文化も信仰も奪わなかったし、生活様式を強制するような真似もしなかった。

 

抵抗する相手には残虐になる事も多かったが。

 

それは古くから、どこの民族も同じである。

 

実際、遊牧民が嵐のように暴れ回った地域で、人がいなくなったり、文化が消し飛んだような事はない。

 

遊牧民は確かに征服者として君臨したが。

 

文化という観点では、後の一神教よりも遙かに寛容だったのである。

 

ただその自由は徹底的な自己責任だ。

 

だから、とにかく強いことが求められ。

 

征服地で安楽な生活に遊牧民が慣れた時。その理から離れ。そしてその加護も失ってしまったのである。

 

それらが理解できたので、充分成果はあった。

 

「越水長官」

 

「なんだね」

 

「これで話に聞いている八柱のうち、六柱までの座における理が理解できました」

 

「そうか。 残るはマルドゥークとティアマトの更に前の神の理だな」

 

煌も情報は共有しているので、座に合計八柱の神がいたことは分かっている。ただ、本当に古い神々は、既に信仰も残されていない。

 

オリエント系の神々が、何か知らないだろうか。

 

だが、考え込む煌に、コンスが咳払いする。

 

「先に言っておくけれど、私は知らないよ。 エジプトの文明ですら、ティアマト以前の文明と比べてしまうと流石に後発なんだ」

 

「オリエントは文明の源流ですからね」

 

「意外だよ。 今だと、石油で年中争ってるイメージしかねえ」

 

「イチロウ先輩」

 

イチロウが、ミヤズにたしなめられて。それですまないと素直に失言をわびていた。

 

煌もそれについては補足する。

 

例えば日本の中心地は、社会の変動とともに動き続けた。それが人類社会でも起きているというだけのことだ。

 

もしも宇宙に進出する時が来たら。

 

いずれ人類社会の中心地は地球ではなくなるだろう。

 

それと同じである。

 

「マルドゥークについては、実は宛てがあります」

 

「ふむ、聞かせてくれるか」

 

「実はミカエルの原型神を古くまでたどると、どうやらマルドゥークに行き着くらしいんです」

 

「そうだな。 それは私も知っている」

 

越水長官が頷いてくれる。

 

だから、煌も話が進めやすい。

 

「既に伝令を受けていますが、どうやらアブディエル達が四大天使を復活させるつもりのようです。 それを受けます」

 

「!」

 

「代わりとして、その情報を貰います。 それで、恐らくはマルドゥークが座に敷いた理は理解できると思います」

 

勿論、四大が復活すれば、ベテル本部を復活させようという動きが出るかも知れない。

 

だが、あくまで対等ならありだろう。

 

一神教など滅ぶべしとまでは、今の煌は思わない。

 

一神教の神が絶対正義で、他は全て悪魔とか言う巫山戯た状況を変えられればそれでいいだろうと考えている。

 

イチロウが言うように、世界には弱い人々が幾らでもいる。

 

それらのよりどころになっているのは信仰だ。

 

必ずしも信仰の先は宗教とは限らない。科学だったり、己の信念だったりする場合もある。

 

ただ一神教によりどころを捧げている人は多く。

 

それらの人の全否定までは、するべきではないと煌は考えていた。

 

「なるほど、ただし襲いかかってくる可能性もあるが」

 

「いえ、ほぼ確実に襲いかかってきます。 既にアブディエルの副官のメルキセデクに話を聞いています。 戦って一度倒す必要があるのだと」

 

「ふむ……」

 

「今、天使達は力のほとんどを失い、どこかの勢力に攻撃されればひとたまりもないでしょうね。 其処に四大が加われば、破滅は避けられるはず。 特大の貸しになります。 越水長官であれば、それを友好的に活用できるのではありませんか?」

 

苦笑する越水長官。

 

イチロウが悪い大人の話だなと、ユヅルに言い。

 

ユヅルは、あんなのは善良な方だと返していた。

 

「分かった。 そのクレバーな思考、受け入れよう。 確かに今の時代、敗者を皆殺しになどはしていないからな」

 

「では、話を進めます。 僕は回復を進めておきますが、何か片付けることはありますか?」

 

「ああ、煌くんは回復を進めてくれ。 ユヅルくん、イチロウくん、ミヤズくん」

 

手を叩いて、越水長官が三人を呼ぶ。

 

そして、何か言い含めていた。

 

煌とは違う任務らしい。別に煌が何でもかんでも把握しておくべき理由はない。それに、今はもう。

 

越水長官を、充分に信用できると煌は思っていた。

 

 

 

ユヅルが先頭に、威力偵察に出る。

 

タオが指定した地点の確認だ。

 

既に鍵がそろった。

 

これで万古の神殿とやらへの入り口が出来ているはず。

 

ユヅルは、座に残るか迷っている。

 

イチロウは残ると即答していた。

 

人間としてやることよりも、座でやりたいことがあるという。そして煌と一緒にそれをやれる。

 

だったらやりたい、というのだ。

 

イチロウは、自分と同じ現代的弱者が踏みにじられる社会にしたくないと、何度も言っていた。

 

ユヅルとしても、その言葉には何度もはっとさせられた。

 

特に、テングリの理がどこまでも駆ける自由だと聞いて、その迷いは更に強くなったのだ。

 

自由はそれぞれの多様性が最大限確保される世界だが。

 

其処には力が必須となる。

 

ある意味動物に近い理であると言える。

 

それは決して、ユヅルの望む多様性ではない。それに気づけたのだから、今はよしとしなければならない。

 

最初、とにかく頼りなくて、情けない奴だとユヅルはイチロウの事を思っていた。イチロウとそれについては話したこともある。イチロウは怒らなかった。そう思われていることを知っていると言っていた。

 

器が想像以上に大きくて、逆に驚かされた。

 

長い鉄橋を渡り、高速道路の残骸を通る。

 

その先に、空間の歪みが出来ていた。

 

無数の神魔が殺到していて、我先に行こうとしている。それを、苦々しげに天使達の一団が見ていた。

 

「日本支部のデビルサマナー!」

 

「おのれ、もうここまで……」

 

「良い」

 

メルキセデクが降りてきて、殺気立つ天使達を掣肘する。

 

天使達も、それで矛を収めた。

 

そもそもやりあってももうユヅル達が苦戦する相手じゃない。アブディエルが一緒にいても結果は同じだろう。

 

「ゼウス、オーディン、シヴァ。 これらの猛者を下すとは、流石ですな」

 

「いや、ほとんどは夏目煌の力です」

 

「それは謙遜でしょう。 我々も遠くから見ていましたが、貴方方も見事な戦いでしたよ。 私が知るデビルサマナーの誰よりも優れていました」

 

そう言われると少しばかり照れるか。

 

ともかく、メルキセデクは既に準備を終えているらしく、これから日本支部に話をしに行くところだったそうだ。

 

いくつか情報を交換して、それで別れる。

 

一応、万古の神殿らしいものが出現し。大勢の神魔が殺到しているのは確認できた。それだけで、今は充分だ。

 

戻る途中で、不意に声を掛けられる。

 

物陰から覗いているのは、合一した状態の煌……によく似た格好の、なんだろう。小首をかしげていると、ミヤズが声を先に掛けていた…

 

「貴方は?」

 

「お、オイラは……銀座ぶりだホー」

 

「! 銀座にいたフロストさんですね」

 

先にミヤズが気付いた。

 

銀座であった時にはジャックフロストとはかけ離れて巨大な姿だったのだが、それが子供くらいの背丈にまで縮んでいる。煌の姿を模していると同時に、力を圧縮でもしたのか、かなりの強さになっているようだった。

 

「お、オイラ、ゴーイツ神になったホ! 見るホ!」

 

「えっと、力は確かに上がってるが、姿を変えただけ、だよな」

 

「イチロウ先輩、しっ」

 

「い、いや、分かってるホ。 確かにこの姿になっても、まだゴーイツ神とはほど遠いホ……」

 

自分でも分かっているのか。

 

ともかく、元邪悪フロストだった存在は、少し恥ずかしそうに言った。

 

ミヤズはちゃんと相手の話を聞くべく、腰を落としていた。子供への接し方は、看護師が習う基本。

 

医師としても、同じようにするのは当然だ。

 

「オイラ頑張ってみたけれど、誰も仲魔になってくれなかったホ」

 

「仲魔? どうしてまた」

 

「ゴーイツ神になるには、仲魔がいっぱいいると思ったホ。 でもこの辺りの神魔は、みんな創世だ創世だってガツガツしてて、それにおっかないホ……」

 

そうだろうな。

 

ユヅルから見ても、前に銀座でも見た時ですら力不足だったのだ。それが多少背伸びしても、元が恐らくジャックフロストだ。独力では限度がある。

 

煌の眷属にでもなれば、あのマーメイドみたいに強くなれるかも知れないが。

 

デビルサマナーの仲魔でも、ある程度悪魔召喚プログラムの恩恵は得られる。

 

逆に、そうでもしないと。

 

独力で強くなるのは難しい。

 

ミヤズはその辺り、丁寧に説明した。それに、悪魔がつるむのは、同族か、或いは相手が明確に強い場合。

 

このフロストでは、そのどちらも満たせていないだろう。

 

「あの、私たちと来ませんか?」

 

「お姉さん達と?」

 

「そうだ。 そうすれば、今よりは強くなれるし、ある程度無理も利くぜ」

 

イチロウも提案。

 

ユヅルは腕組みして見守る。

 

今は多少時間もある。このフロストは、少なくともある程度は戦力になるとみている。判断に時間を割くのは無駄じゃない。

 

ただ念の為に、伝令の天狗の一部隊を、日本支部の拠点には既に送った。

 

その辺りはユヅルも油断はしていない。

 

「そ、その。 じゃあ、テストだホ!」

 

「俺たちを試すのか?」

 

「い、いや、逆だホ。 オイラが使えるか、テストをしてほしいホ。 その、愛くるしいだけだと、どうしても君たちみたいなのについていって、ゴーイツなんて出来ないホ」

 

「意外と真面目なんだな……」

 

イチロウが森可成を呼び出す。

 

森可成を見て、フロストが明らかに怯んだ。

 

歴戦の猛者だ。悪魔基準で見ても。

 

森可成は、厳しい目でじっとフロストを見ていたが。まず名乗った。そして、はっとしたように、フロストも名乗り返していた。

 

「今はナホビホ、だホ」

 

「そうかナホビホ。 其方は何が出来る」

 

「そ、その、この技が出来るように特訓したホ!」

 

氷が、空に向けて吹き上がる。

 

ユヅル達が使う主力勢の仲魔に比べると貧弱だが、それでも冷気の嵐が程なく剣になっていく。

 

これは。

 

煌が天叢雲剣を使う前に、つなぎとして使っていた。

 

荒神螺旋斬。

 

それの氷版か。

 

えいやっと、ナホビホが近くの岩にそれをたたき込む。岩は哀れ木っ端微塵……とは行かず。

 

残念ながらかなり形を残していた。

 

それでもかなりえぐれている。これなら、戦力として申し分ないだろう。

 

「あ、後、色々マニフェストとか作ってきたホ! 創世をすると、世界の事を考えなければいけないって聞いて」

 

「確か公約であったな。 どのようなものがある」

 

「え、ええと。 富の再分配をして、極端に蓄えている奴のお金を、貧しい人たちにも分け与えるホ。 それと教育の機会を全体に広げて、教育を受けている人数を増やして、その水準を底上げするホ!」

 

「平均的で悪くない公約だな。 だが、それを実行するための手段は具体的に考えてきておるのであろうな」

 

そう指摘されると。しゅんとなるナホビホ。

 

そうだろうな。

 

今のは恐らくだが、他の悪魔達の会話か。もしくは何かしらのテレビか何かで聞いたことを、自己流でアレンジした内容だろう。

 

いいマニフェストだが、それを具体的にどうするか、がより重要だ。

 

それが出来ていないと、全て画餅に過ぎない。

 

森可成の視線が厳しい。

 

さらに申し訳なさそうに、ナホビノが萎縮していた。

 

「その、俺が引き取るよ」

 

「イチロウ先輩?」

 

「可成、俺と一緒にナホビホも教育頼めるか」

 

「承知」

 

真っ先に手を差し伸べたのは、イチロウだ。ナホビホはしばしイチロウを見ていたが。よろしく頼むホと、契約に応じていた。

 

森可成も、満足そうに頷く。

 

ユヅルは感心して、イチロウに言う。

 

「イチロウ、強くなっているな」

 

「ありがとう。 おまえに言われると、本当に嬉しいよ。 おまえ、世辞とか言わないもんな」

 

「そうだな。 そんなものを言っても仕方がない。 むしろ僕こそ、おまえに負けないように努力をしなければならないところだ」

 

三人で戻る。

 

途中で、大物の神魔が激しくやり合っているのを見た。

 

あれはどっちも疲弊して、それでやられてしまうかも知れない。そうして見ていると、程なく五十頭百腕の巨人がやってくる。

 

ヘカトンケイレスだ。

 

それが、拳一発という雰囲気で、二体とも瞬殺してしまう。皆が呆然とする中、異形の巨人は足音を響かせ去って行った。

 

ギリシャ支部はほぼ戦力を残している。

 

ゼウスが負けたことで、一旦は納得してくれたようだが。インド支部、北欧支部が壊滅した今。

 

恐らく最も戦力を上手に温存したのはギリシャ支部だと判断して良いだろう。

 

危険な相手だ。ヘカトンケイレスも、オリンポスの神々と遜色ない実力者。下手に近づくのは避けた方が良いだろう。

 

拠点に戻る。

 

イチロウがナホビホを紹介すると、アリスが嬉しそうにしていた。

 

ユヅルは一度東京に戻ってコーヒーを飲む。

 

ミヤズは看護師どころか、ほぼ間違いなく医師になれる。勉強を戦いの合間に教えているが、前とは次元違いの効率で覚えていく。専門書を片手間に読みこなしているほどで、かなり難しい医学用語もバンバン覚えている。

 

イチロウも努力を続けていて、今ではムードメーカーと切り込み隊長を兼ね備えてくれている。

 

森可成が自分の全てをたたき込んだ、というのもあるだろう。

 

だがそれ以上に、やはりイチロウの努力が実を結んだのだ。

 

最初こそ煌が手を差し伸べていたが、それも今はイチロウには必要ない。必要な時は、イチロウが自分から言えるようになっている。

 

ユヅルは、成長できているだろうか。

 

多少不安になって、それで一気に缶コーヒーを飲み干す。ブラックなので、むせそうになったが。

 

だが、これくらいの酸味が、今は丁度良かった。

 

 

 

インド支部が陣地を敷いていた辺り。

 

その窪地の一角に、魔法陣が書かれていた。

 

煌は無言でそこに降り立つ。

 

此処がメルキセデクに言われた場所だ、

 

四大の内、ウリエル、ラファエル、ガブリエルは此処に呼び出す事が出来る、ということである。

 

問題はミカエルで。

 

ウリエルらを復活させ一度倒し。再構築を行って、その時一緒に呼び出す事になる、ということだった。

 

「良く来てくれましたね」

 

「ああ、僕としても対等な相手としてでなら、手を結ぶことが出来る。 そちらの四文字の神とも、それは同じ事だ」

 

「我々は、ずっと我らだけが信仰で、それ以外は悪魔だと考え続けていました。 それが多くの科学の芽を摘み、他への迫害になる事も承知の上で、だったのでしょう。 その報いを既に受けました。 ですが、もはや過ちは繰り返さぬようにせねばなりますまい」

 

メルキセデクは相変わらず丁寧で、煌は感心した。

 

バアルに戻りかなり弱体化しているらしいが、それでも元四大を三体相手か。少しばかり面倒ではあるな。

 

皆にも油断しないように伝える。

 

ほどなくして、アブディエルが降り立っていた。

 

「夏目煌……」

 

「アブディエル。 無事だったか」

 

「なんとかな。 やはり我らは相当に恨まれているようだ。 無数の勢力から攻撃を受け、更に生き残りは減った」

 

「当然だよな……」

 

ぼそりとイチロウが言う。

 

イチロウはアブディエルに傾倒していない。やはり平行世界のイチロウとは違っている。それでいい。

 

今のイチロウは、頑張って背伸びして、自分で考える事が出来ているのだから。

 

「私はメルキセデクの儀式が行われる間、横やりを防ぐ。 おまえ達は、早々に三大を正気に戻してくれるか」

 

「了解した。 メルキセデク、頼む」

 

「分かりました」

 

エンゼルリング、というらしい。

 

光の輪が、魔法陣に投じられる。それは最初淡い光を放ち、やがて鈍い音とともに魔法陣が動き出す。

 

三十秒もした頃には、やかましい鳥の鳴き声のようにチリチリと音がし、高速で魔法陣は回転していた。

 

視線を感じる。

 

数体の大物悪魔がこちらを見ている。仕掛けてまでくるつもりはないようだが。

 

ちなみに、日本支部の拠点には、ヨーコが居残りで越水長官とともに防御についてくれている。

 

ヨーコとしては、意地でも天使の復活なんぞには協力したくはないらしく。

 

それについては、別に構わないと越水長官も意を受けていた。

 

まあヨーコの生い立ちを考えると、仕方がないことなのだと思う。

 

無言で様子を見守ると、上空から降りてくる三つの影。

 

かなり形が崩れているが、青い肌の大天使に似た影。あれが恐らくはウリエルか。

 

また、剣を持った雄々しい影。あれは恐らくはラファエルだろう。

 

そして、花を持った美しい女性型の天使。あれがガブリエルに違いなかった。

 

実は女性型の天使は非常に珍しく、多くは男性型である。その中で異彩を放っているのはガブリエルだ。

 

一神教で、YHVHに取り込まれてしまった配偶神格の残骸。

 

その一つが、ガブリエルに宿っている可能性がある。

 

それとも、初期はYHVHの愛人か何かであったのかもしれない。

 

後世では女性の天使は宗教画に多く描かれるようになったのだが。少なくとも、初期には極めて珍しい女性天使であったガブリエル。

 

故に特定は簡単だ。

 

「来ました。 既に正気を失っています。 撃破を」

 

「皆、勝てない相手じゃない。 油断だけはしないようにしてくれ」

 

「分かった!」

 

「任せて貰おう」

 

イチロウとユヅルが、それぞれラファエルとガブリエルの前に。

 

煌はミヤズの支援を受けながら、ウリエルに進む。

 

後方ではタオが光の壁を展開して、横やりを防ぐ態勢に。これはアブディエルが言っていたような、周囲の悪魔達に限った話ではない。

 

アブディエル自身が心変わりした場合に、備えての事である。

 

やはりというか。

 

バアルに戻っても、それはかなり中途半端な状態だ。昔四大は圧倒的な力を有し、生半可な神魔では手も足も出なかったようだが。

 

今、ウリエルと戦っていて。

 

そうとはまるで感じない。

 

イチロウもラファエルを押し込んでいるし。

 

ユヅルに至っては、ガブリエルを圧倒している。

 

ミヤズが支援魔法を掛けている、というのもあるが、順調すぎる。何か落とし穴があるかも知れない。

 

ともかく、横やりを警戒。

 

間を詰めて、ウリエルに斬りかかる。ウリエルも流石の剣技を見せる。黙示録で世界の終焉の開始とともに動く大天使だ。それなりに出来る。ただし、それは信仰を十全に受けている全盛期の場合は、だ。

 

肩口から一気に切り下げ。

 

そのまま打ち倒していた。

 

その時には、イチロウがラファエルを森可成の援護を受けながら倒し。

 

ユヅルがガブリエルの回復をしのぐ火力で、ついに仕留めることに成功していた。

 

回復は、すぐにミヤズがやってくれる。

 

仲魔にも眷属にもまだ余裕がある。このくらいの相手だったら、ゼウスやシヴァと比べるまでもない。

 

ただし、まだ油断はしない方が良いだろう。

 

タオが声を掛けてきた。

 

「みんな、気をつけて!」

 

すり鉢の底である。

 

その上に、無数の悪魔達が来ていた。大天使が倒れ、そして元の姿に再構築されようとしている。

 

それを嗅ぎ取ったのだろう。

 

どう見ても、敵意をむき出しにしている。それに、話し合いが通じそうにもなかった。数といい質と言い、相当な軍勢である。

 

「天使どもだ!」

 

「生き残りがいる! 皆殺しにしてやる!」

 

「俺たちを貶めてきた! 俺たちを狩ってきた!」

 

「一匹も逃すな!」

 

これは、ここにいる全てを逃がさないつもりだな。

 

先にインド神話の神々の生き残りには、近づかないように警告をしてある。シヴァが倒れたことで今回の創世から手を引いた彼らを巻き込むことは本意ではない。それを先にやっておいたことが救いではあるか。

 

わっと襲いかかってくる雑多な悪魔達。

 

此処はすり鉢の底である。逃げようがない。

 

アブディエルが、剣を掲げていた。

 

「防御円陣!」

 

「はっ!」

 

「此処は共闘するしかなさそうだ」

 

「乱戦になります! 気をつけてください!」

 

本番だ。

 

とりあえず、ミカエルのことは後で聞く。駆け下りてきた無数の悪魔は殺意向きだしであり、倒さなければ逃げられる事はないだろう。

 

温存していたフィンや義経公、他化自在天が出ると、そのまま縦横に敵を散らし始めるが、数が多い。

 

イチロウが呼び出したアウズンブラに乗っているのは、さっき紹介されたナホビホか。氷の魔法を使って、辺りを凍らせているが、まあ微笑ましい程度の火力である。役に立つか立たないかの微妙なラインだと言える。

 

イズンとミヤズが中央で、何やら珍妙な舞を踊っているが、多分支援魔法の増幅だ。ミヤズはアーミールックに着替えてきているから、余計に珍妙さが目立つが、まあそれはどうでもいい。

 

ミヤズの支援魔法がやはり図抜けて強力で、怒濤のように襲いかかってくる悪魔の群れを、こちらも食い止めることが出来る。

 

天使の群れが作ったファランクスが一部崩れる。

 

だがアブディエルが前に出て、右左に悪魔を斬り倒した。

 

だが、悪魔達が吠えて、一斉に槍を繰り出す。

 

アブディエルが、複数箇所を貫かれていた。

 

「アブディエル様!」

 

「かまうな! この程度は耐えられる!」

 

アブディエルの剣が、繰り出された槍を切り払う。だが、次々に悪魔が来る。

 

万古の神殿を目指していた集団の一部が、天使達を殺せると判断して、反転してきたのだろう。

 

それだけ恨みを買っていると言うことだ。

 

それについては煌は何も言わない。ただ、冷静さを取り戻してくれれば、殺さなくても済むのだが、とは思う。

 

重量級のが来る。

 

前半分が口になっている巨大な獣のような悪魔だ。それが坂をブルドーザーのように滑り降りてくる。

 

敵味方関係なし。まるごと飲み込もうという勢いだが。

 

タオが手を向けて、光の力で壁を作る。

 

否、一瞬で焼き尽くしてしまう。

 

重量級の悪魔を、あんなにたやすく。背丈はどう見ても十数メートルはあったが、それが文字通り溶けた。

 

「すげえなタオさん!」

 

「私もみんなに負けていられないから! それに、人間としてしゃべれる時間、多分もうあまりないから。 だから、少しでも人間としての意思で、みんなの役に立つよ!」

 

巨大な蛇が来る。

 

蛇の神の系譜だろうが、明らかに自我を失ってしまっている。そういえば。新宿区で、とんでもなく巨大な蛇の悪魔がいたな。あれはなんだったのだろう。

 

或いは、あれが。

 

いや、考えすぎか。今の時点では、戦闘に集中する。

 

アウズンブラに巻き付いてきた巨大な蛇だが、テュールが真上から、胴を一太刀で一刀両断する。

 

立て続けにそうやって大型の神魔が倒れる。

 

それでひるみ始めた悪魔達を、フィンの火炎魔法が一蹴。フィンが前に出ながら、更に顔に腹がある道教系の悪魔らしいのを、唐竹に斬り伏せていた。

 

敵が減り始める。

 

すり鉢の上にいる悪魔達が、不利を感じて逃げ出し始めたのだろう。後続が続かなくなり、前衛が押し戻していく。

 

程なくして、乱戦は終わった。

 

アブディエル麾下の天使達は、ほとんど生き残っていなかった。乱戦の中で、メルキセデクも左腕を落とされていた。イチロウが声を上げる。必死に戦っている間に、此処までの惨状になっているとは思わなかったのだろう。

 

「だ、大丈夫かあんた!」

 

「問題ありません。 それよりも、アブディエルどの。 例の儀式を」

 

「……分かった」

 

「治療します。 横になって」

 

ミヤズが即座に治療に懸かる。

 

残ったアブディエル麾下の天使達も、ほとんどが体を欠損している。煌の眷属の天使達が、それらを複雑な目で見ていた。

 

アブディエルが、魔法陣に手をかざす。

 

まさか。

 

この地形を選んだのは、最初から。

 

「悪魔を誘引して、膨大なマガツヒを集めるのに、この地形は最適だった……」

 

「騙したのか! こんなに被害も出たんだぞ! それに天使が人を騙していいのかよ!」

 

イチロウが激昂するが、血を吐くアブディエルを見て、それ以上は何も言えなくなった。アブディエルもこちらを騙すのと同時に、恐らく命を捨てる覚悟だったのだ。

 

程なくして、儀式が完了。

 

どうやら、ミカエルは時間を掛けて復活するようだ。そして、剣が、地面に突き刺さっていた。以前見た、カマエルが持っていた炎の剣。恐らくは、それの完全版だ。

 

「持っていけ。 約束の品だ。 恐らくマルドゥークの情報が得られる」

 

「……」

 

「その前に貴方も横になって。 治療します!」

 

ミヤズの叱責に、一番困惑したのはアブディエルだろう。

 

ミヤズはその後、助かる天使は全て助けた。騙した相手であろうと、ミヤズには関係なかったようだった。

 

その志は気高い。

 

だが、どこまでそれが届くかは。確かにヨーコが言ったように、微妙なところなのだろうなと。決して助けられても心を許していない様子の天使達を見て、煌は思うしかなかった。







この作品世界では、アブディエルは創世を諦めました。

煌くんの言葉に大いに利があると理解したこともあります。

それ以上に、同格であるのを認めるなら、煌くんが一神教勢力を滅ぼす気がないと理解したこともありますね。

だから体を張ってまで、その根が途絶えないように処置をしたのです。



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