真女神転生VV二次創作 牛蛇相克 作:dwwyakata@2024
万古の神殿の更に奥へ。
其処には古い古い神達が、それぞれの知恵を持って待っていました。
巨大な蛇の神が襲いかかってくる。体にこけが生えていて、そして太陽を背負っていた。非常に凄まじい力を感じる。
突撃してくるその蛇の神を、テュールとガイアが連携して押さえ込む。何度も食いついてくるが、それでもどうにかする。
体にアウズンブラが突貫。
大獄丸が酒呑童子と一緒に組み付き、動きを封じる。
連携して詠唱していたフィンとアリスが、同時に火炎の魔法をたたき込む。本来なら通じないだろうが。其処に相手の耐性を無視する強化魔法をミヤズが放ち。それを更にオデットが増幅したのだ。
炸裂する火炎魔法に、蛇の神が身をよじって悲鳴を上げる。
神殿は巨大になる一方。
古代の神は大げさすぎるほどの姿で描写されることが多いが、この蛇の神も凄まじい。暴れ狂う蛇の神に、今度はマーメイドが詠唱して強化した氷の魔法が襲いかかる。高熱の後の超低熱。
蛇の神が竿立ちになると、どうと倒れていた。
「見事。 このショクイン、本来は中華の主流ではない民の主神であった。 それが妖怪と貶められ、そしてそのあり方もこのようにされた。 だが、私の力を受け入れてくれるのだろう」
「ああ、そうさせてもらう」
「良かった。 四文字の神は、ただ天使とともに、古き神を殺して回るだけだった。 だからあのような創世がされた。 二度と繰り返さないでくれ……」
「分かっている」
膨大なマガツヒが溢れる。
今回の戦闘では、煌は敢えて前に出なかった。皆が力を温存してほしいと言ってきたので、言葉に甘えたのだ。
次。
まだまだ強い気配がある。
マガツヒを吸収して、先に進む。龍穴も所々にあるが、やはり物資の減りの方が速い。
どうしても娯楽品としての食料を口にするだけで、皆気分が楽になるのだ。
煌も食べるかと言われたので、いただく。
もう味もしないし。
栄養も得られないが。
それでも、気分だけでも食べておくのはいい。
休憩を入れてから、進む。
今度はアフリカの神だろうか。非常に巨大で、凶暴そうな巨人の姿をしていた。だが、どうもおかしい。
貶められた姿なのかも知れない。襲いかかってくる巨人を、タオの光の壁が押し返す。力が強くなるにつれて、タオの口数が減っている。
それは煌も気付いていた。
はじかれて、尻餅をつく巨人。
蔵王権現が雷撃をたたき込み、悲鳴を上げて頭をかきむしる巨人に、上空から越水長官が重力の魔法をたたき込む。
体が重いほど、重力は凶悪な敵になる。
サイズによっては転ぶだけで致命傷になりかねない。
巨人はアッシャー界にいる。それを思い知らされるように神殿の床に激突して、ぐしゃりと嫌な音を立てていた。
立ち上がれずもがく巨人の首筋に、他化自在天が突貫。
文字通り、首を一気に轢いてねじ切っていた。
首がねじれて、千切れ飛び。巨人はそれで動かなくなった。
膨大なマガツヒが流れ込んでくる。
アフリカの原始的な信仰の神。如何に自然と付き合っていくかの知恵が詰め込まれた存在。
なぜ恐ろしい姿をしているか。大災害で、多くの民を失ったからだ。そんな民族だったから、神をとにかく恐ろしいものとして伝えた。怒らせるな。敬意を忘れるな。敬意を忘れた時、神はまた暴れ狂うだろう、と。
目を閉じて、その祈りと悲しみを受け取る。
自然への畏敬と恐怖が入り交じったその神は、本来は邪悪な存在などではなかったのだろう。
ただ恐怖の方が上回ったのだ。
軽く休憩を入れて、次へ。
無数の虫で体が構成されている神だ。なんだか分からないが。昔だったら女性陣が悲鳴を上げそうだなと思った。
煌としては、珍しい虫だなとずれた感想を抱いたが。まあそれはそれ。襲いかかってくる。
虫の生命力は凄まじいが、だからなんだ。
ヨーコが闇の力を展開。
文字通り、辺りが闇夜になったかのようなすさまじさだ。一瞬で虫の神がほとんど溶けて朽ちていた。
残りをそれぞれが、魔法で駆除していく。やがて形を全て失った虫の神だが。わずかな残りから、見る間に増えて再生していく。
これは本腰を入れないと駄目か。
マーメイドに頼んで、界面活性剤を作り上げる。
煌も前に出ると、詠唱。
冷気の魔法を展開。更にそれを、ナホビホが手伝った。後は、雑多な悪魔達も。それに加勢する。
虫は強くてもどうしても虫だ。
氷河期を生き残った実績もあるが、それでも動きは鈍くなる。
冷気で徹底的に動きを封じた後、マーメイドが一斉に界面活性剤をその場に展開する。それで増えるどころではなくなる。
こちらは様々な神魔とやりあっているのだ。
今更増える虫くらいに足下は掬われない。
やがて虫の神は息絶えた。再生力も関係ない。ただ、全部倒し尽くせばいい。それだけの事だ。
マガツヒを吸収して、更に先に。
無数の蛇が絡みついたような巨大な神格が現れる。これもまた、相当に古い神のようだ。正体もよく分からないが、激しい戦いになる。それぞれの蛇が意思を持っているようで、群体としての神であるようだ。
苛烈な戦闘が続く。
それからも、進めば進むほど、様々な古代の神が現れ。
そのたびに、確実な消耗を余儀なくされた。
物資は減っていく。
休憩で時間が取られていく。
だが、焦って進んでもこれは恐らくどうともならない。今は、ただ確実に進んでいくしかなかった。
倒れたまま、マガツヒに変わりながら。その神は、以前来た四文字の神について語った。四足獣の神だ。荒々しい、原始的な神だった。
「四文字の神は、多数の天使を連れていた。 天使達はどれも残忍で、我らを切り払いながら、ただ邪魔者として排除だけしていた。 その中でも、メタトロンは恐ろしかった」
「煌、俺も勉強したんだけどよ、確かそれって七大の……」
「そうだ」
一神教におけるメタトロンは、圧倒的な強さが伝承に残る大天使だ。七大というカテゴリの場合はその面子がしばしば変わるのだが。四大、つまりミカエル、ウリエル、ラファエル、ガブリエルとメタトロンはそれに必ず含まれるのが普通だ。
残虐性も群を抜いていて、串刺し刑を楽しんだりとろくな逸話がないため。天界におけるサタンの姿等という説まである。
天界の最終兵器とも言える存在。
それがメタトロンだ。
「我々はそのような創世はしない。 安心してほしい」
「そうか、それは良かった。 私は人間が遭遇して記憶に残していた古い獣の神だ。 今や地上に存在しない種族。 神としてだけ残る私も、天使達は邪魔で汚らわしいとして切り払った。 同じ過ちは……繰り返さないでほしい」
「ああ」
消えた獣の神。
龍穴がある。
休憩を入れることにする。
幸い安全地帯は此処からでもアクセス出来るが、やはり光景はかなり変わっている。神殿の一角、だろうか。
噴水があって、そこから水が溢れている。
マーメイドが其処にいて、喉を押さえて歌っている。
それを聞いて、目を細めているフィン。
悲しい歌の方が、好みに合うのかも知れない。
皆も疲れたのか、それぞれに休んでいる。ユヅルはかなり疲労がたまっているのか、奥で毛布を被ってくるまっていた。
「煌先輩。 お兄ちゃん、相当に悩んでいるみたいです」
「ああ、そのようだな」
ユヅルはいつもらしくない、戦闘でケアレスミスを繰り返している。イチロウが大丈夫かと声を掛けたほどだ。
恐らくだが、既に座に残る覚悟を決めているイチロウを見て、覚悟が足りないと思っているのだ。
ユヅルはどうするのだろう。
ミヤズは戻ると決めているそうだ。どんな世界であろうと医師になって、昔の自分のような人々を出来る限り救うのだと言っていた。
ユヅルは越水長官とのコネもある。
その気になれば、すぐに政治の道に足を踏み入れることも可能なはずだ。そうすれば、新しい世界で、主体的に世界を良い方向に動かそうと出来るかも知れない。
だが、座に残れば、更に主体的に世界を動かせる。
誰か一人だけしか座につけないのであれば、此処で殺し合いになっただろう。
実際問題、煌に流れ込んできている平行世界の記憶では、そうやってイチロウともユヅルとも殺し合ったのだ。後は八雲ショウヘイとも。
タオとヨーコは、座に皆を導いた後は、現象として消えてしまうそうだ。
至高天の一部としての存在が、創世の女神だから、であるらしい。
それもまた、覚悟を決めての事。
座の力を持ってすれば、人間としてのタオとヨーコを戻すことも出来るのだが。二人はそれをよしとするかは分からない。
いずれにしても、これからやることについて、考えているのだとすれば。
口を出すのは好ましくない。
ユヅルも悩んでいるはずだ。
煌がしゃしゃり出るのも問題だろう。
ミヤズも気付いていることは、ユヅルも分かっているだろう。どうしても悩んでいるのなら、相談してくる筈である。
「ミヤズさんも休んでおいたほうがいい。 僕は今、得たマガツヒから、やるべき創世と、今までの問題点を洗い出している。 しばらく回復も含めて時間が掛かる」
「分かりました。 うまくいきそうですか」
「そうだな。 創世は今までの情報をまとめる限り、人間が歩んできた歴史と密接に絡んでいるんだ」
「……」
ミヤズはそのまま話を聞いてくれる。
煌としても、まとめた内容をそのまま話しておきたいと考えた。
イチロウも来た。
話を聞いておくべきだと考えたのかも知れない。
「それぞれ、時代の文化圏の覇者となった文明の神が座に着いていた。 それはもっとも成功した存在の理屈がそのまま座に反映されていた、ということを意味している」
「今の時代だと、科学と資本主義が座に反映されている、感じになるのでしょうか」
「いや、それはない。 そもそも、一神教の理が機能していたのは、ほんの100年程度のようだ。 英国で産業革命が始まった頃には、一神教の理は衰え始めた。 いや、一神教の神が座に着いた頃には、既に一神教の絶対支配の理はそもそも衰え始めていたみたいだ」
「それはまた、どういうことなんだ」
テングリが座を去ってから。
座には空白期間が続いた。
一神教が世界で最強の影響力を持つようになったのは、大航海時代の頃だ。その頃にはテングリの影響力は見る影もなかったが。
同時に活版印刷が既に実用化され。
一神教を都合よく使って、家畜の群れを一部の支配者が支配する仕組みそのものが揺らいでいた。
まだその影響力は強く残っているが。
それがいびつになったのが、それ以降の時代。
どうしても自分を正義と信じる人間や、心が弱い人間は、一神教に傾倒した。何しろ自分の正義を担保してくれるのだ。
殺人だろうが強姦だろうが略奪だろうが、相手が異教徒だったら許される。なぜなら異教徒は人間ではないからだ。
一神教というのはそういう思想で。
それがモンゴルなど比較にならない圧倒的残虐さと、一神教徒以外への凄まじい迫害を作り出した。
例えばインドでは、英国東インド会社が凄まじい圧政を敷いて短期間に2000万人に達する餓死者を出す大惨事を引き起こしたが。
東インド会社の人間にとっては、「法治主義」によって「未開の蛮族をしつけた」くらいの出来事であった。その証拠に、今でも英国ではインドを英国の植民地だと思い込んでいる者が大勢いる。
南北アメリカでの大虐殺だけではない。
一神教は、世界中でこの規模の虐殺を行った。
それはモンゴルと違って、相手の存在全てを奪い尽くすものだったのだ。
「許せねえ……」
「ああ、その考えで正しい。 僕も善悪二元論から派生した、一神教の絶対正義理論は世界から最大の影響力を持つ存在ではなくすべきだと考えている。 近年では科学絶対主義なども、結局は宗教化しているが。 これも一神教に起因する絶対正義論が悪さをしていると言えるな」
「自分を常に疑うというのは、誰もがやるべき事だと私は思います。 それが出来ないんですね」
「そうだ。 一神教では疑うこと自体が罪だ。 それは、座から取り除かなければならない思想だな」
しばし話を進めていると。
起き出してきたユヅルが、話しかけてくる。
皆で、それに応じる。
タオとヨーコは。
見ると、二人とも座禅を組んで瞑想している。もう、まともに人間として話すつもりはないのかも知れない。
或いは力を蓄えて、この先の戦いに備えているのかも知れなかった。
「煌。 話がある」
「聞かせてくれ」
「僕は座に残る」
「……決断したんだな」
ユヅルが頷く。そして、ミヤズの隣に座ると、先にミヤズにすまないといった。ミヤズは首を横に振る。
良いんだと。
「私も既にほとんど人間じゃないし、人としての生が終わったら後は太陽神となってコンスさんと添い遂げようと思ってるから。 お兄ちゃんも、ここまで関わったんだから、自分がしたいことをして。 私は、もう大丈夫だから」
「越水長官と既に話は済ませて、生活費などは問題がないように手配されるようにしておいた。 大学についても、今のまま勉強すれば、どこの医大でも行けるだろう」
「うん。 それだけしてくれれば充分だよ。 それと、もう謝らないで。 私も自分で決めたことだから」
「そうだな」
ユヅルが嘆息する。
ユヅルも相当に悩んだのだろう。実の肉親として、ミヤズを本当に大事に思っていたのだろうから。
シスコンだとか、そういうことは言わない。
二人の環境と事情を知っていると、そのようなことは絶対に言ってはいけないと煌は思うからだ。
「座について何か意見はあるだろうか」
「僕としては君に任せる。 ただ、僕は多様性について、自分の意見を常に述べていこう。 イチロウが弱者をどう守るかを常に考えるのと同時に、僕はその中で如何に多様性を確保するかを考えていきたい」
「良いことだと思う。 それぞれ考えが違う存在がいて、それでこそ多様性だ。 見た目や人種や出身地や性的嗜好だけが多様性じゃない。 ユヅルは、えせ人権屋とは違う、真の多様性をしっかり見てくれるはずだ」
「出来るだけそれをしっかり担保するつもりだ。 僕も以前とは精神構造からして違っているのが分かる。 ただ……」
座にいれば。
どうしても人間からの影響を受ける。
そもそもアティルト界の住民である四文字の神が、どんどん腐敗していったことは。数々の証言からも分かっている。
普通にアティルト界にいるだけでそれなのだ。
座になどついたら、とんでもないプレッシャーに曝され続けるだろう。
ただし、である。
「人類を次の段階に進めたら、座が必要なくなるようにしたい」
「一応、俺にも分かるように話をしてくれ」
「ああ。 座はバアルなどの言動を見ても、時代を逆行させるために用いることも可能だ。 人類は時代を逆行してはならない。 ただでさえ、今地球の資源は尽きつつあり、このまま行くと地球を巻き込んで人類は滅びる。 人類を先に進めて、少なくとも宇宙進出を果たさせる。 問題はその先だ。 その先で、また人類が退行しては駄目だ。 くだらない戦争などもしないように出来れば良いのだが……」
「時代を逆行か。 そういうの、悪い奴が考えたりするんだろうな」
その通りだ。
実際問題、20世紀に登場した主権国家などはその最たるものだろう。
未来に専制主義を作り出して、人類をまるごと支配しようなどと考え出す輩が出てくるかも知れない。
勿論、最高の能力を持った専制君主による優れた政治というのは実在している。それが衆愚政治に勝る例はあるだろう。
だが専制はどうしても無理が出るのだ。
例えば今の時代ですら独裁者は激務で、50で70過ぎに見えるほど老け込む。
宇宙時代の独裁者なんて、それこそあっという間に過労死するだろう。
更には、君主が優秀だったほど、その反動も大きくなりやすい。
あのアレキサンダー大王やチンギスハンですら、世界の全ての支配などできなかったし。死後帝国は支離滅裂に分裂した。
それを思うと、人類世界全てを独裁するなんて不可能なのである。仮に出来たとしても、専制君主というのはいつまでも英明ではない。後の時代に暴君として知られる人間が、若いうちは名君と呼ばれていた例など枚挙にいとまがない。
一人の人間が全てを支配するなどどだい無理。
それが現実だ。
それを丁寧に説明すると、越水長官もその通りだと頷いていた。
傾いていた国政を立て直した傑物がそれを認めるのだ。説得力が違う。
しかも越水長官は政治をするために人為的に作り上げられた神造魔神だ。それですら万能ではないのである。
座など必要としなくする。
やはりそれが最適なのである。
「今までの創世の問題点も洗い出しを進めないといけないですね」
「ああ、それは任せてほしい。 ミヤズさんは何か気になることはあるか」
「医療システムはあるだけでは意味がありません。 どうにかしてそれがしっかり維持されるようにしないと……」
「それは僕たちの仕事ではなくて、政治家の仕事だな。 越水長官は、天津の神々と連携して、自分の後継型を作り出して、創世が終わると同時に稼働するようにしたそうだ。 しばらくは越水長官の後継の月読尊と連携して、その辺りはやってもらうしかないだろう」
「分かりました。 私もその辺りはまず医師になってから。 医師になった後は、色々意見を陳述してみます。 社会の風通しが良くなると良いんですが」
ミヤズのように、そもそもとして生きている人々の考えをきちんと見るのも大事だ。上ばかり見ていると足下が見えなくなる。それは真理だ。
勿論下ばかりを見ていても駄目だ。
多数の視野を、確保しなければならない。
それと、もう一つ。
皆に話さなければならないことがある。
「大事なことを話しておかなければならない。 世界には多数の平行世界がある。 その記憶が、僕には流れ込んでいるようなんだ」
「平行世界って、あの、SFとかで出てくるって話の奴か」
「そうだ。 世界には多数の可能性から分岐した、同じような世界がたくさんある。 僕はそれらの記憶を得て、力を得ている。 アオガミさんと合一した頃、いくつかおかしいと思うことがあった。 此処ではこうしない方が良い。 こうした方が良い。 そういうのが、なんとなしに浮かんできていた。 そしてそれは、実際大きな意味を持った」
特に大きかったのが、イチロウに先に戦闘訓練を受けてもらったこと、である。
イチロウはあれで戦闘を先に経験し、守ることの重要さを思い知った。縄印での戦闘では、おかげで随分と多くの生徒が助かった。何より、イチロウは其処で折れる事がなかったのだ。
皆が平行世界でどうなったか、の話もしておく。
最近はどんどん記憶がはっきりしてきている。
イチロウとユヅルがほとんどの世界で殺し合う、というのを聞いて。イチロウはショックを受けていた。
ユヅルがほとんどの世界で負けることについては、ユヅルもショックを受けていたようだ。
勿論煌が早々に敗れて消えた世界もある。
そういった世界は観測できないので、どうなったのかは分からないが。
「なるほど。 君の優れた判断は、そこからも来ていたのだな」
「僕はユヅルほど頭が良いわけじゃない。 数限りない繰り返しの結果、最善手を選べるようになっているだけだ。 一応知識はあるが、本来はこの知識も、今ほどはなかったのかも知れない」
「いや、謙遜だよ。 実のところさ、俺、最初の頃おまえが言ってること、一ミリも理解できなかったんだ」
イチロウが悲しそうに言う。
いや、それは別に恥ずかしいことじゃないとフォローを入れる。もっと恥ずかしいのは、知らないことを認めず。知らないことを言う相手を馬鹿呼ばわりすることだとも。
だが、イチロウはありがとうと悲しそうに言い。そして続ける。
「なあ。 そういった世界には、今聞く限り、滅んじまった世界も多いんだろ」
「ああ……」
「だったら出来るだけそういう世界も救おうぜ。 よりよい形で」
そうか。
それはそうだ。
確かに、出来ればそれの方が良い。煌は天井を仰ぐ。
やはり、一人では限界があるな。
平行世界の集約点と化している今の煌ですらも、それは強く感じる。だったら、やはり皆の意見は積極的に聞いていくべきだ。
越水長官が言う。
「奥にまだ大きな気配がある。 皆、決意を固めたら進もう。 平行世界まで救おうという気概は素晴らしい。 決して無駄にはしないと私が約束する。 私も座では、座に残る皆をサポートする」
「私もだ」
煌の中で、アオガミが言う。
アオガミは、少しだけ感情が出たようだ。
それは決意の感情だった。
「煌。 私は君とともに来られたことを良かったと思う。 合一できた存在が君で良かったと思う。 私は元々は暴風神だ。 暴風の権化として暴れ狂い全てをなぎ倒す。 破壊神に近い存在で、事実ギリシャ神話のテューポーンなどのように暴風神には主神と敵対する者だって多い。 私の力を正確に制御し、我欲のために使わなかった君であれば。 そして幾多の失敗の記憶を取り込んだ君であれば。 私は、座に着く君を、誇りとともに支えられる」
「ありがとう」
決意は、また一つ強くなる。
皆で奥を見やる。
大きな大きな気配がある。
この先にこそ。恐らく至高天が存在し。
何かの、巨大な力を持つ存在が待ち構えているのは、確実とみて良かった。
ユヅルは大きな決断をしました。
人としてあるよりも、座にあり世界を改革するべきだ。
それは賛否が分かれる行動ではあろうと思いますが。
全てを見て判断したユヅルの行動は、尊重しなければならないだろう。それもまた、事実なのです。