真女神転生VV二次創作 牛蛇相克   作:dwwyakata@2024

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万古の神殿最後に待ち受けるのは。

四文字の神の残骸。

そして最古の神そのものでした。






3、天使の残骸

其処に待っていたのは、巨大な二体の天使だった。

 

一体はロボットのようにメタリックで、関節も機械のようである。全身も白銀に近い色彩だ。

 

煌の眷属であるソロネが驚愕する。

 

「あれはメタトロン様です!」

 

「そうか」

 

意思があるようには見えない。

 

天界最強の武闘派。

 

神の化身ともされ、サタンの化身ともされる武力における最強の天使だ。

 

その隣には、金を主体とした巨大な体の天使がいる。

 

それもまた機械的な容姿をしていて。感情が一切感じ取れなかった。

 

「あちらは」

 

「サンダルフォン様……」

 

「なるほど。 そうか」

 

サンダルフォン。

 

途轍もない巨体を持つとされる天使だ。

 

メタトロンと双子であると言う話もある強大な天使である。

 

双方ともに意思が感じ取れないと言うことは。あれらは恐らくは、座からはじき出された四文字の神の残骸。

 

皮肉なことだが。

 

今まで万古の神殿で倒してきた古き神々と似たような存在として、此処にたたずんでいるのだろう。

 

ただ古き神々を切り払ってきた一神教の天使達が、今や古き神々とともに万古の神殿で番人をしている。

 

これほど皮肉なことがあるだろうか。

 

煌は皆に言う。

 

「僕がメタトロンに当たる」

 

「俺も加勢する」

 

「分かった。 ミヤズ、後方に。 僕はサンダルフォンを抑える」

 

「ああ、それは分かったが。 乱戦になるぞ」

 

越水長官が言うとおり、感情が全く見えない大量の天使達が降り立ってくる。これらもまた、メタトロンとサンダルフォンと同じ。

 

皆、四文字の神が砕け散った結果。

 

万古の神殿にて漂うだけの存在になり果ててしまった者達、と判断して良いのだろう。

 

一言も喋らないメタトロンとサンダルフォン。

 

だが、無数の天使とともに、一斉に襲いかかってくる。

 

眷属を全て展開。

 

一斉に懸かる。

 

煌が真っ先にメタトロンに突貫する。大量の天使が襲いかかってくる。意思をなくしたことで、その統率は更に機械的になっているが。だが、既に残骸の群れだ。片っ端から打ち倒しながら進む。

 

マガツヒになって飛び散る大量の天使達。

 

そのマガツヒを取り込んでいくと、感じ取れるものがある。

 

神は、どうも戦って敗れたのではないらしい。

 

それは分かる。

 

他の神も、自ら座から降りた存在がいるのは知っていた。

 

マルドゥークやテングリ、それにユピテルもそうらしい。

 

これはひょっとして。

 

一神教の理に完全な無理が生じていて。それがシャカイナグローリーの展開と同時に頂点に達し。

 

それで四文字の神が自壊したのではないか。

 

メタトロン。

 

至近。

 

拳を振り下ろしてくる。ホルスがその顔面を強襲。だが、気にせず拳が飛んでくる。

 

紙一重で回避。

 

イチロウが叫びながら、煌に横から襲いかかった天使を斬り伏せる。更には、森可成が、縦横に槍を振るって、その背中を守る。

 

「アハハハハ! 死んじゃえ死んじゃえ!」

 

アリスが死の力をばらまいて、次々に天使達をたたき落とす。上空の天使達を面制圧の力で、ヨーコが片っ端からたたき落とし。

 

更にはタオが光の力で、天使達をはじき返す。

 

もはや天使達は、光の使徒ですらなく。

 

タオの光の力を受けて、明確に押し返されている者も目立った。

 

それはそうだ。

 

天使はたくさん取り込んで、そのあり方を理解した。天使は所詮は、人間が考える霊的存在。それは死者の霊のことではなく、人間の理解が及ばない存在の延長線の存在に過ぎない。

 

キリスト教では天使の正体とはなんぞやと延々と議論が続いたようだが。

 

イスラム教では、天使の正体はアラーに仕える霊であると定義を決めている。

 

そもそも天使の概念を作り出したゾロアスター教でも似たような扱いであり、それから考えると。

 

天使というのは、結局は多神教における神々と同じ存在に過ぎない。

 

そもそも一神教などと言って、神は一つで正義は一つで、更には全知全能なら。その手足となる天使など必要がない。

 

あらゆる矛盾を内包している全知全能。

 

その無意味さを天使の存在もが示している。だから三位一体説等というどう考えても無理がある説を繰り出して言い訳をしていた。

 

これほど皮肉なことがあるだろうか。

 

メタトロンは思ったより遙かに素早く動き。豪腕を立て続けに振るってくる。それを回避しながら、背後を狙うが。まとわりついてくる天使が予想以上に多い。

 

高笑いしながら戦車を飛ばす他化自在天の背後に飛び乗る。

 

フィンがその代わりに、真正面からメタトロンに格闘戦を挑む。だが、防戦一方である。体格差も力も違いすぎる。

 

テュールが加勢しようとするが、天使の群れがまとわりついてこれ以上近づけない。

 

ホルスにも、まるで浮塵子の群れのように天使が集って、近づけさせない。

 

アウズンブラがその時、横合いから突貫。

 

メタトロンへの体当たりを成功させていた。

 

わずかに巨体が揺らぐ。

 

追い風が来る。

 

アマノザコによるものだ。

 

メタトロンがうっとうしそうに、子犬でも追い払うようにアウズンブラを蹴散らし。更には拳一閃でフィンを消し飛ばしていた。

 

凄まじいパワーだが、その時煌は、メタトロンの右斜め後ろに。

 

しかしメタトロンが首をぐるんと回すと、目から光を放ってくる。

 

凄まじい光の力だ。

 

とっさに出現したわーが、死の力で壁を作るが、それですら押し返される。

 

はじかれて、他化自在天が吹っ飛ばされる中。煌と、しがみついているわーは、メタトロンの上空に出ていた。

 

槍をそろえて襲いかかってくる大量の天使達を、義経公が八艘跳びで蹴散らして回り。

 

眷属の天使達が、必死に抑えてくれる。

 

一瞬の隙を突いて、メタトロンの肩に着地。

 

そして、首に手刀を突き刺していた。

 

メタトロンが、手を伸ばしてくるが、乱戦を突破したテュールが足に切りつける。テュールさえ片手でつかんで、放り捨てようとするメタトロンだが。

 

その顔面に、イチロウが酒呑童子と同時に蹴りをたたき込んでいた。

 

「っしゃオラア!」

 

「でかいガラクタ野郎! 隙だらけなんだよ!」

 

もはや意味をなさぬ音声を出して、また目から光を放とうとするメタトロンだが。此処で切り札を投入。

 

一瞬だけでも時間を稼げればそれでいい。

 

ガイアが出現すると。メタトロンの足をつかんで、地面に引きずり込む。地に墜ちようとする天使の中の天使。

 

煌の手刀は、その間も、メタトロンの首へと食い込んでいく。

 

メタトロンの胴が回転して、体全体を旋回させ。その腕は凶器となって一気にテュールとガイアを吹っ飛ばし、酒呑童子が必死に突き飛ばしたイチロウの至近をかすめた。酒呑童子は、ミキサーと化したメタトロンの一撃を受けて木っ端微塵。だが、その瞬間。

 

オデットが増幅した、マーメイドの術式が完成した。

 

「あるじさま!」

 

「ありがとう!」

 

メタトロンの首から手刀を引き抜くと、煌はそのまま、全ての力を嵐へと切り替える。そして、メタトロンから飛び離れつつ。己そのものを刃として、その全身を、一瞬にして切り裂いていた。

 

機械がきしんでいるのか。

 

それともそれは苦しみの声なのか。

 

メタトロンが悲鳴を上げて、全身をきしませる。

 

全身から火花が散るメタトロン。

 

その体に、光の化身となったホルスが突貫。一瞬の均衡の末に、胸に大穴を開けていた。

 

メタトロンが、胸の穴からスパークを散らしながら、動きが鈍る。まるで捨てられたマリオネットのような動きをして、周りにいる天使達を巻き込みながら、暴れ狂う。跳び下がった煌は、空に向けて、天叢雲剣を掲げる。

 

そして、その天叢雲剣に。

 

アリスとわーが、死の力を付与した。

 

もう、耳元で脅かすだけがわーの仕事じゃない。

 

今のわーは、欠片とは言え伊弉冉尊。

 

アリスとともに、死の権化として。

 

大地の力の権化として。

 

今までの煌の戦いを支えてくれた存在として。

 

側にある。

 

振り下ろす。

 

断末魔の動きをしていたメタトロンを、文字通り唐竹にたたき割る。

 

メタトロンが全盛期だったら、どうだったかは分からない。だが、今のメタトロンであったなら。

 

完全に真っ二つになったメタトロンが、マガツヒとなって消えていく。

 

その時、大獄丸と蔵王権現に押さえ込まれていたサンダルフォンの胸に、越水長官が放った光が突き刺さっていた。

 

ユヅルが呼吸を整えながら、刀を鞘に収める。

 

サンダルフォンが、ぶつんと音を立て。

 

左右に両断されたのは、その時だった。

 

まだ大量の天使達が、脇目も振らずに襲いかかってくる。雑兵ばかりではなく、元は大天使だったものもいるようだ。

 

或いは七大に数えられるハニエルなどもいるかもしれないが。

 

ほとんどの天使達は体が崩れてしまっていて、特定は難しい。

 

戦線を縮小しつつ、ミヤズの支援を受けて、体勢を立て直す。

 

ミヤズとイズンが連携して回復の魔法を使い。その力を増幅する。アールマティが前に出ると、力ある声を発した。

 

「我が末裔達よ。 ひれ伏しなさい」

 

「……っ!」

 

天使達のいくらかが動きを止める。

 

そこを、ヨーコの面制圧の力が、一斉に消し飛ばしていた。

 

それこそ幾らでも幾らでも湧いてくる天使達だが、それでも限度がある。三時間ほどの戦闘のはて。

 

天使達は。全滅していた。

 

 

 

皆の仲魔も煌の眷属も、ほとんど全滅していた。

 

煌も手傷が酷い。イチロウもだ。

 

回復を急ぐ。

 

幸い龍穴が側にあったが、持ち込んでいた道具類はほぼ枯渇してしまった。いずれもが、長年八咫烏などが蓄えてきた、それぞれに家や車ほどの価値があるような品ばかりだったのだが。

 

だが、それも創世のためだ。

 

龍穴で回復を進める。

 

最悪三日はかかるかと思ったが。

 

煌が越水長官を連れていくと、ギュスターヴと交渉してくれる。

 

「マッカは倍払うから、回復速度を速めてほしい? 別にかまわんが、せっかく膨大に得たマッカをほとんど使い切っちまうんじゃねえの?」

 

「それで構わない。 今は、出来るだけ確実な勝利を得なければならない。 この消耗の回復を早められるなら、それでいい」

 

「ふーん、まあそれでいいなら俺は良いけどよ。 なあナホビノ、いや夏目煌。 おまえさんはいいのか? 多少待っても、今更だと思うが」

 

「いや、良く分からない動きをしている存在が何柱かいる。 出来るだけ急いで、座に肉薄したい」

 

その筆頭がゼウスだ。

 

倒した時の手応えのなさ。

 

あれは恐らくだが、死んでいないと煌は見ている。死んだと此処で言うのは、長期間アティルト界から出られない事を意味する。

 

アリスが倒したクドラクのような、アティルト界にいる本体ごと滅びるようなケースもあるだろうが。

 

それにしても、悪魔は時間が経てばアティルト界では再生できるのだ。

 

人間がいる限り。

 

その放埒な精神世界の住人である神魔は、究極的な意味では不滅である、といえる。

 

もっとも、人間がいれば、の話だが。

 

他の星で、文明を構築するほどに発展した生物がいた場合は、このような精神世界……強いて言うなら普遍的無意識だろうか。それは存在するのだろうか。

 

ちょっとばかり興味はある。

 

ギュスターヴは、まあ良いぜとぼやく。

 

そして、大量のマッカと引き換えに、回復速度を倍に引き上げてくれた。それでも丸一日使う事になるが。

 

皆のところに戻って、安全地帯に移動して、休憩を入れる。

 

ユヅルは迷いも晴れたらしく、イチロウと盛んに議論を交わしていた。イチロウは素直に話を聞いてくれるので、話しやすいようだ。

 

ミヤズは回復速度を少しでも上げられるように、倒された皆の蘇生を、魔法で行っている。

 

イズンはせっせと黄金のリンゴをすりおろして、ミヤズに渡していた。

 

ミヤズはそれを飲み干しながら、回復を続ける。

 

フィンが今はその回復を受けていた。

 

「しかしメタトロンとサンダルフォンを同時に倒すとはな。 俺もまた、凄い主についたものだ」

 

「ありがとう。 それはそれと、フィン。 済まないが、僕は少し席を外す」

 

「うん?」

 

「ソピアーのところに行ってくる。 切り札の中の切り札を、どうにか作れそうだから」

 

そうかとフィンは頷いて、そのまま治療を受け続けた。

 

今まで、大量の古代神格を倒してきた。

 

だから、今なら。

 

実際、ソピアーのところに出向くと。ソピアーは煌を見て、純粋に褒めてくれた。

 

「見事だ。 今の貴様であれば、主神であろうと従えられよう。 ガイア神も、それほどの苦労なく使いこなせる筈だ」

 

「ありがとう。 ならば今、その主神を作りたい」

 

「煌ちゃん、私が材料になろうか?」

 

「いや、わーは座にともにあってほしい。 伊弉冉尊は、天たる伊弉諾尊と対立こそしたが、生死と大地を司る偉大な神格だ。 そのあり方と情報は、創世には必須だ」

 

わーはそう、と嬉しそうに言う。

 

まあそうだろうな。

 

伊弉冉尊は、神話における「離婚」の最初の経験者だ。

 

伊弉諾尊と喧嘩別れしてからは、日本神話では出番もほぼないに等しい。描写はないが、あの世である根の国の支配権も、後に素戔嗚尊に譲った節がある。

 

そういった孤独の存在だ。

 

だから、力を必要だと言われて、嬉しいのだとすれば。

 

煌としても、ずっと戦ってきた存在がそう言ってくれるだけで嬉しくはある。

 

ホルスとガイアが、代わりに素材として立候補する。

 

ホルスは言う。

 

「太陽神としては、ミヤズどのがその力を余すことなく得ている。 私の役割は終わったと言える」

 

「今までありがとう。 助かった」

 

「私もそれは同じだ。 短い間であったが、あのゼウスめに一泡吹かせられることができた。 それだけで痛快であったぞ」

 

「ありがとうございます。 ケラウノスを退けられたのは、貴方のおかげでもあります」

 

二人に合体材料になってもらう。

 

それだけではない。

 

他化自在天と酒呑童子も、合体材料になりたいという。

 

「俺もそろそろもっと上を目指したいんでな」

 

「俺もだ。 充分に喧嘩はしたが、そろそろ残念だが力不足だ。 すっげえ強い奴にしてくれよな」

 

「二人とも、とても助かった。 その心、その力。 僕の中で、ずっと引き継ぎ続けよう」

 

二人も、合体材料になってもらう。

 

そして、二柱の。

 

とても頼りになる神格が眷属に加わった。これで、そう簡単に負けることはないだろう。

 

だが、更に念には念を入れる。

 

オデットが、更に強くなりたいというのだ。

 

しかしソピアーが言うには、オデットは転化出来るという。まあ、ずっと何も出来ない無力感に苦しみ。

 

ブリギッドになってからは、ずっと広域支援で頑張り続けたのだ。

 

転化出来るのは不思議な話ではない。

 

ともかく、一度戻る。

 

イチロウとユヅル、ミヤズも合体をそれぞれ済ませていた。様々な手札を強化していたらしい。

 

煌はしばし休憩して回復に努める。

 

最悪。

 

これが最後の回復になるかも知れない。

 

それは皆分かっているようで、それぞれ意見を交換している。ただ、タオとヨーコは、もう何も喋らない。

 

特にタオは寂しそうに微笑むだけ。

 

それでさえ、精一杯の人間性の提示なのかも知れないと思うと、煌も少しばかり心が痛むのだった。

 

 

 

神殿に戻り、先に進む。

 

強大な力を感じる。メタトロンとサンダルフォンよりも更に力が上である。

 

ただ、悪意のようなものは感じない。

 

警戒しながら、ただ広いだけの通路になった空間を行く。もはや、煌達の前に立ちはだかる神魔はいなかった。

 

この辺りは、既に先に山ほど入り込んでいた神魔も、こられるようなところではなかったのかも知れない。

 

特にあのメタトロンとサンダルフォンの壁を、突破できる神魔など、そうそういるとは思えなかった。

 

それでも、前から誰かが来る。

 

腰が曲がり、白い髭を床まで垂らした、杖を突いた小さな老人だった。フードを被っているが、多分完全にはげてしまっているだろう。

 

「良く来たな、創世を望む者」

 

「貴方は」

 

「わしは名を既に失った存在。 まあそんなのは、ここに来るまでに幾らでも見てきたかな?」

 

「……そうなる」

 

皆で自己紹介をすると、老人は頷く。

 

イチロウが、煌の腕を引く。

 

アレを見ろと、視線で促してくる。

 

分かる。

 

煌の視線の先には、とてつもなく巨大な影が映り込んでいた。しかもその影は、蛇でありながら。

 

頭に一双の角を生やしていた。

 

「サタンが通したのだろう。 わしが最後の番人だ。 もっとも、戦う気などはないがな」

 

「一体何者ですか」

 

「わしは座に最初にあったもの。 オリエントの人々が、最初に世界の中心として認識した存在。 オリエントの時代にはあった牛と蛇の争いを憂いた人々が、こうであってほしいと願った存在。 強いて言うならば、「神」という概念の最初の存在だ」

 

「……っ!」

 

それは、凄まじい。

 

だが、そのような存在は。

 

そのような存在だからこそ、一神教は絶対に存在そのものを許さなかっただろうし。後に来た座に着いた神格達も、踏みにじっていっただろう。

 

それが出来る存在が座に着くというのか。

 

いや、煌は話し合うべきだと思った。

 

「この気配、覚えがあります。 新宿区で何度か見かけた凄まじい力を持つ蛇神。 あれは貴方ですね」

 

「おお、わしの体に出会ったのか。 そうだ。 あれがわしじゃよ」

 

「やはり」

 

「歴代の座に着いた存在が、わしをことごとく封じてきた。 自分こそが最高の神で、自分こそがルールであるというのを示すためにな。 その中でも最後に座に着いたYHVHは苛烈だった。 YHVHの信仰など主要な信仰に比べれば後発も良いところであるのに、自分を最古の存在としたがった。 だからわしの事は、アティルト界の深奥に徹底的に封じ込め、そして消し去ろうとした。 その一部が、九頭竜などという存在として表れているがな」

 

それは凄いなと感心する。

 

だとすると、この神格は、大地と空そのもの。

 

ティアマトやマルドゥークよりも更に古い時代の、集合的無意識の中心点。

 

そして蛇と牛が合わさっていると言うことは。

 

最初の信仰では。

 

どちらも、人々は争いなど望んではいなかったことを意味している。

 

それも時代を経ると、いずれもが富、権力、力の独占を願っていった。その浅ましさの象徴が、座に着いている存在の交代だ。

 

「さて、皆はどうするね。 皆で座に到達するつもりのようだが、わしを否定し、殺していくか?」

 

「僕にその気はありません。 生け贄などの行為、他人に自分の思想を押しつけるような行為。 それをしない限りは、どの神だって存在していて良いし、それに許しなど必要はしないと考えるからです」

 

「俺も同感だ。 この世に絶対正義なんて存在しないことは、今までの色々を見てきてよく分かった。 だったら、俺は。 皆と一緒に、この世界を、少しでも良くしたい」

 

「僕は多くの人が、それぞれの思想を持って、それでいながら他人を尊重できる神の多様性と強さをもつ存在になってほしい。 今の人間にそれは無理だと言うことも分かっている。 ならば、その先に人間が行けばいいだけだ」

 

「私は、ただ苦しんでいる誰かを助けたい。 その存在に、強いも弱いもない。 ただそれだけです」

 

大きく頷くと、老人は煌に何かの珠を手渡してくる。

 

温かく、大きな力を秘めているようだった。

 

「この先が至高天だ。 至高天には先に入り込んでいる者がいる。 本来なら、人間は至高天に足など踏み入れても、精神が耐えられない。 だがそれを持つ限りは……人間を既に超えつつある君たちでも、その珠は守ってくれるだろう」

 

「ありがとうございます」

 

「わしのあり方は、皆で仲良くしたい。 そうだな。 すき、の二文字だけで良いあり方だった。 それすらも人間は失った。 日本語で言えば、ただ二文字の情報だ。 その言葉を貶め、独占して、その先がこの時代の果てだ。 新しきナホビノ。 創世を行おうとする者達よ。 わしのありかたでは、高度に複雑化した世界をまとめるのは不可能であるのだろう。 それは分かっている。 だが、このあり方を、無駄にしないでほしい」

 

老人の姿が変わっていく。

 

新宿区で見せた獰猛な超巨大蛇に。その蛇は、頭に一双の角を生やしていて。獰猛ではあるが。

 

ケツアルコアトルと同じように、優しい理性的な光を宿していた。

 

ぱっと、マガツヒとなって消える老人。

 

そのマガツヒには、原初の獣からようやく優位性を得たばかりの人々が。争わずになんとかやっていきたいという。純粋で、複雑な社会では成り立たない。悪意にとても弱い。静かな祈りだけが、幾らでも込められていた。

 

こんな穏やかな祈りを受け止められないほど、人間はおろかなのか。

 

そう思うと、煌も悲しくなる。

 

人は争うことで進歩してきた。

 

そういう主張をする存在もいる。争いは絶対に必要だと考えている存在もいる。だが、それは本当に事実か。

 

動物でも当然同種で争いはするが。

 

殺し合いにまで発展しないこともまた多い。

 

ある種のサメは7%自分より大きいだけで、相手との接触を避けるし。

 

毒蛇でさえ、コンバットダンスと呼ばれる行動で相手との力関係を確認し、それで殺し合いを避ける。

 

動物ですらそうするのだ。殺し合いを避けるための知恵を持っているのだ。

 

仮にも知的生命体がそれを出来ずにどうするというのか。

 

それをしないでいて、何が知的生命体だというのか。

 

今の神は、それを強く強く煌に投げかけてきた。そして煌は、それを大いに受け取らせて貰った。

 

アティルト界の覇権を争う戦いは、人間の考えの縮図だと言える。ずっと続いてきた人間社会のあり方そのものだ。

 

だから、此処で終わらせなければならない。

 

皆も考えは同じであるようだ。

 

先に進む。

 

やがて神殿は、うねりを見せ始めた。床だけはあるが、壁も天井もない。ただきらきらと輝く光が、渦を為して奥へ向かっている。

 

これが至高天へ続いている訳か。

 

なるほど、これは人間のままでは耐えられないだろう。どれだけ強靱であっても、人間の精神などたかが知れている。

 

至高天に……恐らくは一神教が普及する前は、別の名前で呼ばれていたのだろうが。ともかく至高天に入れば、更にきつくなるはずだ。

 

それに、待ち構えている存在もいるという。

 

見えてきた。

 

何かの穴だ。それは、意外にもとても静かにたたずんでいた。その周囲で渦を巻いている空間だけが異質だ。

 

まるでブラックホールのようだ。

 

そう煌は思った。

 

「待っていましたわ」

 

「!」

 

降り立ったのは、デメテルである。

 

今までずっと不可解な行動をしていたデメテルだが、ついに単独でこんなところに現れたか。

 

皆も警戒は当然している。

 

あまりにも、おかしな動きばかりをしていたからだ。

 

「この様子だと、天使どもの残骸も全て倒してきたようですわね」

 

「倒さざるをえなかった、が正しい。 それよりも、貴方は一体何をもくろんでいる」

 

「もう分かっているのでしょう? わたくしの目的は、最初からゼウスに創世をさせないこと。 それだけですわ」

 

「私怨にしてはあまりにも大規模すぎるように思えるが」

 

くつくつと笑うデメテル。

 

いや、待て。

 

この力、デメテルじゃない。もっと大きな何かだ。

 

そういえば、多数のバアルをデメテルの頼みで倒していった。あれは利害の一致もあったからやったが。

 

それにイシュタルの力の一部も提供した。

 

もしもバアル達の力を取り込んで、デメテルがなるとしたら。恐らくその先にあるのは。

 

「どうやらわたくしは、ようやく本来の姿に戻ることが出来るようですわ。 ガイアよりも更に更に偉大な存在へ」

 

「貴方は何を考えている!」

 

「別に何も。 一神教では、女神のあり方を徹底的に否定し、最終的に聖母マリアに閉じ込めることで、そのあり方と信仰を封じ込んだ。 彼らが恐れた女神とは、大地の神であり蛇の神である存在そのもの。 わたくしは多数のバアルの力を取り込み、更にはイシュタルの力を取り込むことで、既に影響力が消え果てた一神教のくびきを脱することが出来ますわ」

 

「……」

 

戦うか。

 

いや、戦意は感じ取れない。

 

まてよ。

 

ゼウスを座につけないというその思想。ひょっとして。根本から、何か勘違いしていたのではないか。

 

「煌、様子がおかしい。 僕が見たところ、デメテルは何か嘘をついている」

 

「ああ。 俺も感じる。 なあデメテルさんよ。 あんた嘘つきだよな。 今言ったこと、嘘入ってるだろ」

 

「どこが嘘だと思います?」

 

「ゼウスへの恨みは分かる。 俺も調べたんだ。 娘さんを遠くに連れて行かれたこと、今でも恨んでるんだろ」

 

デメテルは何も言わない。

 

イチロウは、じっとデメテルを見つめる。

 

母親と決別するように。

 

イチロウにとって、最悪の毒親だった両親とは、決別しなければならない。父親との決別は、恐らく森可成と接することで出来たはずだ。

 

そして母親との決別は。

 

今此処で。

 

しなければならないのである。

 

「あんた、ゼウスじゃなくて、「天空神主体」の創世をさせたくなかったんじゃないのか」

 

「ふふ、お馬鹿な割には本質を突いてくる」

 

「イチロウ先輩は知識は足りなかったですけれど、それを素直に認めることが出来る人です。 そういう人を、愚かとは言いません」

 

ミヤズがフォローする。

 

肩をすくめるデメテル。

 

その力が膨れ上がっていくが、やはり戦うつもりには見えなかった。

 

「一つ警告しておきますわ。 この先にはまだ貴方達を阻む存在がいる。 そして……ゼウスがまもなく、追撃に現れますわ」

 

「貴方は僕たちを阻むつもりではなさそうだな」

 

「わたくしはアティルト界で、姿を取り戻せればそれでいい。 本来私たち大地の守護女神は、源流を同じとする存在であった。 それはただ、豊穣への切なる願い。 その豊穣でさえも、ただ豊かな食料に囲まれて、穏やかに暮らしたいというだけのもの。 その願いを踏みにじられ続けたわたくしは、この先で……一神教でマリアと呼ばれ、ケルトではダヌーと呼ばれ、メソポタミアでイナンナと呼ばれ、古くでは源流を同一とするただ一つの豊穣に帰りますわ。 それこそが、ハーヴェスト。 牧畜でさえ、最初はその一部であったただ一つの願い」

 

デメテルが、静かに笑いながら、至高天へ消えていく。

 

そうか。デメテルは、ただ戻りたかっただけだったんだな。

 

タオが前に出る。

 

同時に、機械的な装甲が、その全身を覆っていた。ヨーコもまた、全身をどす黒い何かが覆っていた。

 

二人が手をかざすと、至高天の穴へ、階段が出来る。

 

越水長官が、スーツの襟を正していた。

 

「ここから先は、私も一切知らない領域だ。 万古の神殿については、出来る限りの情報を集めてはいたのだがな。 この先はそれこそ、一握りの存在だけしか、通ったことがないからだ。 今まで座に着いた八柱、ただそれだけだ」

 

「食えない奴だったデメテルだけど、ただあれだけの願いさえ許されなかったんだと思うと、ちょっと同情します……」

 

「イチロウくん。 君は今の問答で、原初の願いを知った。 恐らく、もはや毒親からの悪しき鎖を断ち切れたのではないのかな」

 

「……分かりません。 ただ、すっきりはしました。 あれだけ悪さをしていたデメテルの根底にあったのがただの豊穣への願いというのは驚きましたけど。 うちの母親も、ただ豊かに暮らしたかったって願いが、あれだけ醜く歪んだのかも知れないと思うと、怒りよりも先に感じるものがあります。 いずれにしても、俺はもう、家族とのしがらみは何も感じません」

 

イチロウは強くなったな。本当に。

 

皆を促して、タオとヨーコが作ってくれた階段を行く。

 

後方からはゼウスが追跡してくると見て良い。

 

そして前方には、まだ何かが立ち塞がってくる可能性がある。どちらも同時に相手にするのは危険だ。

 

煌は今まで座に着いた八柱の情報を全て手に入れた。これで少なくとも、今までの神々よりはマシな創世が出来るはずだ。

 

渦を巻く空間の中心へと、皆と一緒に歩く。

 

テュールと森可成が、最後尾を警戒してくれる。それだけで、どれだけありがたいか分からない。

 

やがて、空間の渦の先に進むと。

 

其処に待ち受けていたのは、宇宙の中をどこまでも続くかのような。

 

ただ静かな、そして永遠と続く階段だった。

 

此処が至高天か。

 

この先に。

 

座があり。

 

数多の平行世界を不幸に追い込んだ事件の元凶があり。

 

そして、人類を先に進めるための道具がある。

 

座は後生大事に守り保身につかうための道具じゃない。使って主体的に変えていかなければならないものだ。

 

煌は既にその結論を決めているし、今更皆も、その結論と外れているとは考えていなかった。







※最古の神

この神の言葉は、スピンオフタイトルであるアバタールチューナー2のラストのオマージュです。

原初の人の信仰は、ただその日本語における二文字で表される言葉で済むものだったのです。

それが社会が拡大し複雑化するにつれてそうはいかなくなった。

しかし原初のあり方を否定するのもまた、それはおかしな話ではあるのです。


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