真女神転生VV二次創作 牛蛇相克   作:dwwyakata@2024

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原作よりちょっと遅いですが、此処で悪魔合体解禁です。

ちなみに邪教の館代わりに使える邪教の世界にいるソピアーさんは、ユダヤ神秘主義に登場する存在で、一神教なのに多神教的な考えを持つ変わった思想の一翼を担っています。

その正体は、今後分かります。

四文字の神と極めて密接に結びついている存在だった……とだけ今は言っておきます。





1、新しい力

青い空間に巨大なピアノ。そして、たたずんでいる何というか。人間味のない青い服装の女性。

 

女性であるのは分かるのだが、目には瞳孔がなく、喋る時に口も動いていなかった。

 

「敵対的ではないが、とてつもない力を感じる。 煌、言葉を選んで対応することを推奨する」

 

「分かった」

 

「ギュスターヴに通されてきたか。 私の名はソピアー。 ソフィアと呼ばれることもある」

 

「……僕は夏目煌。 ギュスターヴから紹介を受けた。 貴方の名前、一神教の神の片割れだという説明。 ひょっとして貴方は、グノーシス主義に登場する女神ソフィアか」

 

くすくすとソピアーは笑う。

 

やはり表情は動いていない。口も動いていないようだった。

 

人間の形をしている極めて無機的な存在。

 

そういう印象を受けた。

 

「知識は最低限備えているようだな。 そう呼ばれることもある。 正確には私の存在は、一神教の神が疎い憎んだ半身のなれの果てだ」

 

「……」

 

一神教の神で誤解されていることがある。

 

最初からその存在は「一身」ではなかった、ということだ。

 

ほとんどの多神教では、最高神には伴侶であり対となる神が存在している。まれに存在しない場合もあるが、いる方が普通だ。実は一神教も初期ではそうだった。

 

元々一神教の神は中東にて多数いた神々……日本で神様と言われるような感覚で、バアルと呼ばれていた存在の一柱に過ぎなかった。特にカナン地方の主神としてのバアル(ややこしいが)に大きな影響を受けた存在である。

 

後に自分たちの神だけが唯一絶対という先鋭化した思想の中で、バアル起源である事を一神教は徹底的に隠すようになったが。

 

現在では研究も進んでおり、元は普通の多神教に過ぎなかった事が分かっている。

 

一神教の神は元々はモーセがユダヤ人を連れてたどり着いた地の普通の天空神に過ぎず、それは別に特異性を持っていた訳でも何でもない。

 

更には、ごく普通の神であったから。

 

当然のように伴侶もいた。

 

その存在はアシェラトなどと広義で呼ばれることもあり。天空神としての神に対する、当たり前にいる妻神だった。

 

多くの場合、天空神の妻は大地の神である事が多い。

 

一神教も初期はこの女神に対する信仰が根強く、発展の段階で徹底的にその信仰が弾圧されていった歴史がある。

 

これは別に一神教のアイデンティティがどうこうではない。

 

後に一神教内部で、天使信仰弾圧なんて事が行われた。

 

これとも共通しているが、単に一神教内部の派閥争いの結果、そういう思想が生き残っただけ。

 

一神教も所詮宗教。

 

その内容は、結局信仰している人間によって変わる。それだけだ。

 

こういった派閥争いはずっと続いていたのだが。一例として。派閥争いの結果、科学にも悪い影響が与えられている。

 

それは、いわゆる天動説の絶対視だ。

 

元々天動説は絶対の説でもなんでもなく、一神教の内部ですら絶対の説ではなかったのだが。

 

天動説を絶対視する派閥が勝った。

 

ただそれだけで、いつの間にか天動説が絶対のものとされた。

 

これが天文学の発展に大きな悪影響を与えたことは言うまでもない。

 

結局のところ、所詮信仰も神も、人間に振りまわされる存在に過ぎないのである。

 

ソピアーと今は名乗っているようだが。この存在も、そういった人間の権力争いの結果。一神教から、なかったものとされ。

 

後にグノーシス主義という、一神教でありながら多神教という不思議な思想が勃興した時。

 

闇の中からよみがえった、その一欠片であるのだ。

 

「私は四文字たる神が倒された時、分離した欠片の一つだ。 そして私は、その知恵を使って、未来を作ろうともくろんでいる。 四文字たる神は、私と思想が異なる。 私は有望な存在には、誰にでも手を貸す。 どんな存在が世界の未来を作ろうと構わないし、可能性であれば何であっても手を差し伸べる。 それだけだ」

 

「そうか。 それで貴方は僕に何の力を貸してくれるのだろうか」

 

「……ここは元は邪教の館と言われていた場所でな。 人間が多数の悪魔を人為的に合体させ、別の悪魔に作り替えていた。 其処と私は相性が良かったようだ。 東京で起きた消滅的な破壊、その後の四文字たる神の敗北のあと、私はここを見つけ、再構築した。 結果として、悪魔の存在を操作できるようになった」

 

「悪魔の存在を操作……」

 

悪魔合体だと、ソピアーは言う。

 

それによると、眷属とした悪魔を、別の存在に作り替えたり。或いは悪魔を再構築して呼び直したり。

 

更には、今なんとなく出来ている悪魔の技の再現の精度を上げたりといった事が出来るという。

 

じっと見つめると、ふふふとソピアーは笑う。

 

「背徳的に感じるか。 だが、今非力すぎて泣いている眷属もいるのではないか」

 

「その通りだ。 だが、意志について確認したい」

 

「悪魔は精神生命体だ。 人間とは思考が異なる。 この私も広義では悪魔の一人であるからそれは分かる。 多くの悪魔は、形が変わってもより強い存在になることを望む。 この邪教の館だった場所にも、東京がああなる前には多くの悪魔使いが訪れていたし、悪魔合体には悪魔達も望んで応じていたものだ」

 

とりあえず、今いる眷属達にざっと確認する。

 

スライムは、変わりたいという。他にも非力な悪魔は、多くがそれを望んだ。

 

分かった。そういう意志なら、止めはしない。

 

ただ、相手の耳元で大きな声を出すだけの女の子の悪魔。それにマーメイドは、望んでいないようだった。

 

煌は意志に反することはしない。

 

倒した悪魔についても、情報がもっと集まれば、悪魔合体にて再現できそうだとなんとなく理解できる。

 

ヒュドラも、そうやって作り出せるかも知れなかった。

 

ソピアーに話すと、頭の中にイメージが流れ込んでくる。

 

ピアノにつくと、自然に指が動いていた。ピアノなんか、幼い頃にちょっとだけ触れたくらいである。本格的に習いごとをしたことはない。音譜は読めるが、それくらいだ。

 

それでも、自然に指は激しく鍵盤をかき鳴らし。

 

眷属悪魔を、より強力な存在として作り替えることが出来ていた。更にマッカを支払えば、元の状態の眷属を呼び出すことも出来るそうだ。

 

ただし、自分以上の強さの悪魔を作り出すことは出来ない。

 

そうソピアーからの情報にはあった。

 

それについては、異存はない。

 

今は、ただ。非力に泣く眷属になった悪魔達の、願いを叶えてやりたかった。

 

ピアノを叩き鳴らす。必要な分、今は戦力を整えなければならない。悪魔から回収したマッカは、今ここで投資すべきものだった。

 

 

 

龍穴からでる。

 

ほとんど時間は経過していないようだった。

 

合流してから話したが、東京タワーの内部を、ユヅルが調べてくれていた。

 

健在だった頃も、東京タワーの内部は観光地になっていた。残念ながらそのほとんどが砂に埋もれてしまっていたようだが。

 

トイレなどはあったので、水を使える悪魔を呼び出して、それで利用しておいたという。

 

地下のバックヤードには比較的無事な糧食の類もあったそうだ。

 

悪魔合体について行う邪教の館について聞いてみると、現在でも存在しているらしい。そうなると、ソピアーがいたあの場所とは別に、まだ悪魔合体を行う邪教の館はいくつもあり。

 

その中の一つが、東京で起きた大災害に巻き込まれ。

 

存在を再構築されたのだろう。

 

何体か悪魔を新しく眷属とした。

 

その中には、対空戦闘が出来るものが二人いる。

 

そのうち一人は、スライムから変じた存在だった。スライムは、強くなれることを喜んでいた。

 

「とりあえず、まずはマーメイドの集落を襲った異変を解決しておきたい」

 

「寄り道なんてしている余裕はあるのかしら」

 

「情報収集を兼ねる。 それに安全圏を増やしておけば、損にはならないはずだ。 今、僕たちはここのことをほとんど何も知らない。 そんな状況下で、目的だけに進む方が危険ではないだろうか」

 

「やはり面白いわね。 そういう意図であるのなら賛成よ。 何も考えていないのだったら徹底的に面罵してやろうと思ったけれど、貴方はいちいちちゃんと考えて行動している。 自分で考えることをしない人間だらけになった今の世の中では、珍しい興味を持てる相手だわ」

 

ヨーコはそう笑い混じりに言うが。

 

やっぱり何か裏がありそうである。

 

ユヅルも反対はしなかったので、砂丘を今度は下っていく。途中で、ヒュドラと戦うなと警告してきた、蟹みたいな悪魔がいた。そいつが、恐縮したように声を掛けてくる。

 

「見ていたぞ、いや見ていました。 貴方、どこぞの高位神格ですか。 あの龍を倒すとは……」

 

「高位神格かは分からないが、少しは安心できただろうか」

 

「お見それしましたっ! 俺は土蜘蛛というちんけな存在です。 この辺りには俺のダチがいくらかいるんですが、あなた様には手を出さないように念を押しておきますので! では!」

 

そそくさと土蜘蛛が消える。

 

ユヅルがちょっと呆れていた。

 

「悪魔は強い相手には敏感だが、あからさまなことだ」

 

「土蜘蛛というと大和朝廷の支配過程で逆らった土着民を妖怪化したものだな。 あそこまで貶めなくても良いだろうに」

 

「負けた者の姿よ」

 

ヨーコが冷徹に言う。

 

煌は、そこまで割り切ることは出来なかった。

 

マーメイドが具現化してほしいというので、そうする。

 

側に具現化したマーメイドが、こちらだと案内してくれた。

 

複雑に砂丘を下っていくと、異様な気配が強くなってくる。ユヅルもヨーコも気づいているようだ。

 

少し遅れてついてきているツバメさんが、頭にミマンを乗せていた。またミマンを見つけてきたわけだ。

 

どこから見つけてくるのだろう。

 

「何かいます。 隠れていてください」

 

「へいへい。 お手並み拝見と行きますよ」

 

「……」

 

言わなくても要領よく隠れていそうだが。

 

周囲から、黒い影が湧いてくる。

 

なんだか正体はよく分からないが、明確に敵対的だ。呻きながら襲いかかってくる人影は、どれも崩れた人間に見えた。

 

手刀で切り払う。

 

眷属を展開。

 

マーメイドには後方に下がって貰って、前衛に数体を出す。

 

一体は、大柄な巌のような人影だ。

 

妖精トロール。

 

北欧に多く存在する妖精の一派で、一口にトロールと言っても巨大で邪悪で残虐というわけでもない。

 

このトロールは、頭は弱いが気の良い力持ちという風情で。

 

眷属としては、ごく穏やかな性格だが。戦闘となると、怪力を生かして暴れ回る。

 

拳をトロールが振り回す度に、人影が粉々になって打ち砕かれる。真っ黒い液体が飛び散り、それが辺りの砂で凄まじい悪臭をまき散らした。

 

それだけじゃない。

 

砂が溶けている。これ自体が酸か。いや、どうも雰囲気が違う。これは、或いは。

 

「高濃度の呪いね」

 

ヨーコが言う。

 

そういえば、ヨーコが使っていた札がこんな感じでマガツカを溶かしていた。だとすると、浴びると危険だな。

 

無言で次々に黒い影を手刀で切り裂く。

 

返り血を浴びないように、アオガミが上手に体の制御を補助してくれる。本当に危ない時以外は、声を掛けなくなってきた。息が合ってきている。最初から相性は良かったようだが、更に、だ。

 

ヨーコの放った札で動けなくなった最後の黒い影を、ユヅルが飛ばした悪魔が切り裂いていた。

 

魔獣鎌鼬らしい。

 

粉々に黒い影を切り裂いたのは、愛くるしいイタチだったが。ただちょっと大きすぎるな。

 

ネズミのアニメで絶対的恐怖として君臨したイタチの悪党をちょっと思い出してしまった。

 

いずれにしても、辺りは酷く黒い液体で汚染されてしまっている。

 

ならば。使うか。

 

呼び出したのは、アプサラスである。

 

ちなみに、オアシスにいたのとは違う個体だ。

 

スライムが変じたのは、このアプサラスである。アプサラスは水をまき散らして、周囲を一気に浄化していく。

 

出来ると聞いていたので、任せたが。

 

ジュウジュウと音を立てながら、砂の上でまき散らされていた呪いが、見る間に消えていくのが分かった。

 

「今のはなんだ」

 

「呪いに侵された何かの悪魔のなれの果てね。 この先、とんでもないのがいるわよ。 避けた方がいいと思うけど」

 

「煌。 これに関しては私も慎重な行動を推奨する。 ヨーコの言動は色々と問題が多いが、これに関しては私も意見が一致する」

 

「分かった。 進むにしても、相手を慎重に見極めよう」

 

再び、進む。

 

やがて水源が見えてきた。

 

風が吹き付けてくる。嫌に熱い風だった。

 

水源はまるでヘドロの塊だ。

 

ひどいと、マーメイドが悲しそうに呻いていた。

 

「……姿を見せろ。 そこにいるな」

 

「くっくっく。 どこぞの神格か? この砂漠の神パズズの縄張りに良くも足を踏み入れられたものだ」

 

「これは大物が出てきたな」

 

竜巻が起こり。

 

その中から、獅子の顔、四枚の翼、鳥の足を持つ筋肉質の男性が出てくる。股間からは蛇が生えていた。

 

メソポタミア神話の砂漠の悪神パズズ。

 

病魔を運ぶことから恐れられたが、同時に魔除けとしても使われたという。

 

降りてくるパズズは、こちらを値踏みしてから、ふっと笑う。

 

「このパズズの縄張りに入り込んでくるだけのことはある。 相応の神格と、それなりの手練れのようだな。 後ろにもっと強そうなのを控えさせているのは余裕からか?」

 

「ここはマーメイド達が身を寄せ合っていた場所の筈だが。 貴方ほどの古代神格が、何をしている。 悪戯か?」

 

「悪戯? はっはっは、面白い事をいうな。 このパズズも、最近やっといろいろあってアッシャー界に具現化する事が出来てな。 力を取り戻すために病魔の苗床を作っているところだ。 本当であれば人間どもに病魔をまき散らしたいところだが、このダアトでまずは肩慣らしよ。 まだ大天使とやりあうには力が足りぬからな」

 

「そうか。 それを聞いて、生かしておく訳にはいかなくなった」

 

すっと構える。

 

ヨーコがふっと笑った。

 

放っておけば良いのに、という雰囲気だ。パズズはこちらの力を一定認めている。それならば、交渉次第で下がることも出来る。戦闘を避ける方が危険は小さい。その考えは分かる。

 

分かるが、それを受け入れるかは、また別の問題だ。

 

「斬る」

 

「土着の神格のようだが、まあ肩慣らしにはちょうど良かろう。 砂漠の風の熱さを知れ!」

 

突貫。支援はユヅルとヨーコに任せる。

 

展開した眷属のうち、まずはトロールの肩を借りて跳躍。反応したパズズに、大上段からの手刀をたたき込む。

 

激しい火花が散るが、余裕で片手で受け止めてくる。

 

ふっと笑うパズズの顔面に、アプサラスが放った浄化の水がたたき込まれ。

 

視界が塞がれたパズズに、ヨーコの札が張り付き、爆破。

 

爆発の中に消えたパズズに、更にユヅルが様々な悪魔の攻撃をたたき込ませていた。

 

だが、爆炎を内側から吹っ飛ばして、パズズが現れる。

 

楽しそうに獅子の口があいていた。

 

手始めにトロールにつかみかかると、拳をたたき込む。巨体のトロールが、十メートルは下がる。

 

更に着地すると、手をアプサラスに向けて、何か放とうとするが。

 

耳元に出現した脅かす子供の妖怪が、わっとパズズに叫ぶ。

 

なんだか楽しそうに脅かしているが。

 

それでもパズズは一瞬だけ体勢を崩し、その隙にアプサラスが逃れる。

 

鬼がトロールと息を合わせて、パズズに迫る。その間に、煌は印を複雑に組む。組み方はアオガミがサポートしてくれる。

 

トロールと鬼の猛攻を、余裕を持って捌きながら、猛烈な風を起こしてくるパズズ。これ自体が呪いか。

 

見る間に体力が削られていく。

 

鬼とトロールも、一息に吹き飛ばされていた。

 

「カカカ、雑魚どもが! 仮にもこのパズズは古代神格よ。 もっと格の高い存在を連れて来……」

 

「ふるべゆらゆら、ゆらゆらとふるべ。 貫け、やくさの雷よ」

 

「!」

 

既に練り上げていた極大の雷撃が直撃する。

 

それはパズズが、思わず絶句するほどの火力となって、脳天を貫いていた。

 

動きが止まったパズズに、鎌鼬が斬りかかるが、手を振り払って消し飛ばす。

 

だが、その隙に。

 

アプサラスとマーメイドが、詠唱を終えていた。

 

マーメイドが大雨を降らす。

 

ゲリラ豪雨の直撃を受けたパズズが、うっとうしそうにするが。その水が、パズズの全身を焼き始めると、見る間に顔を歪ませた。

 

「浄化の力か……! こざかしい!」

 

「煌!」

 

ユヅルが声を掛けて、何かの大砲みたいなのを打ち込むのが見えた。

 

煌はそれに併せて、再び突貫。

 

忌々しそうに歯をむき出すパズズに迫る。パズズはかあっと凄まじい叫び声を上げると、辺り全部を呪いで吹き飛ばす。

 

だが。今のでかなり消耗したようだ。

 

風も、さっきみたいに全身が溶けていくほどの呪いには満ちていない。

 

パズズが即座に何かの鈍器を取り出す。

 

原始的な鉄を使ったものか。

 

既に間合いを詰めていた煌の手刀を、それで防いでくる。十合、瞬く間に打ち合う。蹴りをたたき込んでくるが、すっと体を低くして回避して。更に食いついてきた蛇を、手刀で一刀両断。

 

股間から生えていた蛇だ。

 

パズズが、真っ青になって動きを止める。

 

その瞬間、飛びついたのはトロールだった。

 

地面に逆手を取って押さえ込む。

 

「お、おのれ、下等の分際で、このパズズに手を掛けるかっ!」

 

「信仰も何も歴史の果てに失われた神と、色々な形で今も語り継がれる妖精。 たいした力の差はないのかも知れないな」

 

「き、貴様ああああっ!」

 

必死に暴れるパズズ。

 

トロールの青黒い肌が焼けていくが、必死に押さえ込んでいる。

 

役に立てる。

 

だから役に立つ。

 

弱い悪魔だったトロールの、激しい決意が感じられる。頷くと、煌はそのまま、押さえ込まれているパズズの顔面に手刀を突き刺していた。

 

凄まじい悲鳴が上がる。

 

辺りを竜巻が蹂躙する。

 

体力が見る間に削られていく。

 

この形態になって戦っていると、痛みとかはほとんどない。その代わり、消耗が激しくなると力が抜けていく。

 

完全に力が抜けると、死ぬ。

 

それがなんとなく分かるから、残り時間を冷静に計算しながら戦っていくしかない。かなり今も厳しい。

 

手刀を更に突き刺す。

 

絶叫が更に激しくなり、やがてある一線を越えるとふつりと消えた。

 

パズズが呪いの捨て台詞を吐きながら消えていく。

 

「まさかこのパズズが敗れるとは……しかしこの呪いまでは簡単には消えぬ。 それにアッシャー界からアティルト界に戻るだけだ。 これだけ世界が破綻した末世だ。 すぐにでも戻ってきてやるぞ……」

 

「その時は何度でも倒す。 僕もその時は、もっと強くなっている」

 

「……」

 

パズズが消滅する。

 

辺りの凄まじい嫌な気配は、消えない。

 

どうやら、呪いが簡単には消えないというのは、本当らしかった。

 

 

 

龍穴まで戻って回復を済ませてから、水源の浄化を試みる。

 

アプサラスとマーメイドが、力を合わせて浄化の力を使うが。パズズの最後っ屁とも言える呪いはしぶとく。

 

どうにか泉は元の姿を取り戻したが。

 

ぐったりした多数のマーメイドが浮かんでいるままだ。

 

このままだとちょっとまずいだろう。

 

悲しそうにしているマーメイドが、どうにもできないと言う。アプサラスも。これ以上の力は出せないということだった。

 

パズズは疫病の神だ。

 

この水源が汚染されたままだと、下流にも汚染が広がる可能性がある。というか、放っておけば下流域全てを一気に汚染し、パズズの領土にするつもりだったのかも知れない。そうなれば、パズズの力は爆発的に増大していただろう。今倒しておいてよかったのだ。

 

どうする。

 

少し考え込んでいたが、ヨーコが言う。

 

「下流への汚染の拡散は食い止めた。 これ以上は放っておくべきよ」

 

「僕も同意する。 これ以上は力を裂けないだろう。 確かにパズズは極めて危険な悪魔で、再具現化の芽は摘むべきだが、ここに固執するのは上策とは言えない」

 

「分かった。 少し待ってほしい。 何か策を思いつかなかったら、一旦ここは離れよう。 残念だが」

 

「ちょーっといいっすか?」

 

いつの間にか側に来ていたツバメさん。相変わらず接近をまったく探知できなかった。

 

ツバメさんは、ぐったりしているマーメイド達をじっと見た後、提案してくる。

 

「話は聞こえていたッスけど、パズズを抑えたいならいい手があるっすよ」

 

「聞かせてほしい」

 

「パズズには妻のラマシュトゥって女神がいるっすけどね。 此奴がまた子供を殺す悪神で、夫婦そろってどうしようもない存在なんすわ。 それで、どういうわけか、ラマシュトゥの押さえには古くからパズズが用いられた訳っすよ」

 

つまり夫婦でありながら、相克の関係にある訳だ。

 

少し考える。

 

清濁併せのむ度量が必要だ。アオガミもそう言っていたな。

 

パズズの情報は得た。

 

恐らくパズズそのものを眷属としてソピアーのところで作り出すのは現時点では無理だ。あのパズズはかなり弱体化した状態で、それでも倒すのはギリギリだった。つまりパズズは今の煌より明らかに強い。それも遙かに、である。

 

だが弱体化したパズズの呪いを押さえ込むだけだったら今でも出来るかも知れない。

 

ラマシュトゥの力についても、分析する。なるほど、どうにか出来るかも知れない。ラマシュトゥは新生児を殺す悪しき女神であり、とにかく恐れられた。パズズよりも危険視されていたほどだ。だから毒をもって毒を制するためにラマシュトゥの力がいる。

 

それだけなら、どうにか出来るかも知れない。

 

「どうにかできそうだ。 少しだけ待っていてくれるか」

 

「凄いな。 パズズと言えば危険な古代神格だというのに」

 

「……賭けではあるが、やって見る価値はある。 ちょっとだけ時間がほしい」

 

「まあ出来るというなら止めはしないわ。 出来るのであればね」

 

ヨーコの嘲笑混じりの声。だが、純粋な興味を持っているのも分かった。

 

一度ソピアーのところまで戻る。そして、丁寧に説明する。

 

ソピアーはおもしろいと言って。

 

やり方を教えてくれた。

 

 

 

呪いが消えていく。

 

正確には、呪いどうしが相殺されて溶けていく。ラマシュトゥの護符と反発したパズズの力が、そのままかき消されていくのだ。ソピアーのところで作り出したラマシュトゥの力の一部……護符の効果は、てきめんだった。残っている呪いの総量とぴったり同じに作り上げた反発する呪いは、パズズの力全てを消していく。

 

マーメイドは、ああと声を思わず感激と感謝と感涙の混ざった声を漏らしていた。

 

最悪、この神様のおもちゃにされることすら覚悟していた。どんな手を使ってでも仲間達を助けたかったし。そのためには、どんな責め苦だって辱めだって耐えるつもりだった。

 

でも、この神様は。いや、煌という人と合一しているから、半神は。

 

大真面目に、マーメイドの願いを聞いて、叶えてくれた。

 

アイデアを出したのはツバメという人だが。それでもやったのはこの人だ。

 

水源が美しい水に満たされていく。息を吹き返したマーメイド達が、煌に礼を言っている。煌も頷くと、人間を絶対に襲わないことを誓わせ、この辺りの情報を受け取っていた。

 

この人についていこう。

 

マーメイドは決めた。まだ弱くてあまり役に立てないけど。この人のためなら、幾らでも苦労して、どれだけでも強くなろう。

 

恋なのかも知れないし、違うかも知れない。

 

ともかく、この人のことは絶対に裏切らない。今、そうマーメイドは誓っていた。

 

この人は、今マーメイドの特別になった。それだけは、事実だった。何があってもついていく。そう決めたのだった。







※パズズ

メガテンシリーズでは度々出てくる砂漠の邪神ですね。疫病を蔓延させる神です。

本人が疫病をまき散らすだけではなくて、本作でも説明している通り妻の神も邪神で、ラマシュトゥといいます。こっちはこっちで子供を殺していくろくでもない神様です。ラマシュトゥへの恨み言が発掘されているほど、恨まれて恐れられていたようですね。真面目な話をすると、昔はそれだけ子供の死亡率が高くて、邪神のせいにでもしないとやっていられなかったのです。

面白い事に、この夫婦の神は互いに相克関係にあり、ラマシュトゥから子供の命を守るためにパズズの像が使われたようです。それはつまり、その逆もまた然り。

パズズの情報を得た煌くんが呪いを中和できたのは、それが理由ですね。





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