真女神転生VV二次創作 牛蛇相克 作:dwwyakata@2024
時は流れて。
進歩した人類は、神魔とともに宇宙へ旅立つこととなります。
その中には、敦田ミヤズの血縁上の孫に当たる子もいました。
ついに火星にコロニーが出来たのは、2085年。
創世が行われてから三世代ほどが経過していると、敦田カナメは聞いている。
祖母……血縁上のだが。敦田ミヤズは、既に伝説的な医師として各地で活躍していて、数度しか会った事がないが。
人工子宮生まれの第一世代であった父母は、医療と宇宙開発でそれぞれ人生を費やし。母は月で人類初のコロニー作成に従事。
それから生まれたカナメは、母の影響を受けて宇宙開発に人生を費やすことを決め。二十一になった今、火星の大地を踏んでいた。
側にいるのはトートである。
今ではすっかり極地開発用兼、神魔とともに過ごすために必須となり、量産されたデモニカを着込んで。
火星の極限環境に降り立ったカナメは。赤茶けた大地と、生命のない世界を見て、目を細めていた。
カナメは祖母に似ていると、母によく言われる。
祖母は前にあった時に話してくれた。
人としての生が終わった後は、月の神様のところに嫁ぐのだと。
古くだったら世迷い言に過ぎなかっただろう。
創世が行われ、神魔が当たり前にいて。
更には祖母が創世を実施した中心メンバーの一人である事が知られているから、誰もそれを馬鹿にしない。
随分と年を取ってしまったけれどと祖母は笑っていたが。
本来は30まで生きられないほど弱い体であったらしく。
その分の命をしっかり生き。
救えるだけの命を救ってから、後は自由にする。
そう決めているらしい。
強い人だ。
そんな祖母に似ていると言うのなら。自分も頑張らなければならない。そうカナメは思う。
遺伝子的に色々問題があったのを、後天的にどうにかしたらしい祖母だが。
祖母の血縁である父は幸い健康そのものであり。
それを聞いて、祖母は喜んでいたらしい。
カナメもそれは同じだ。
もっとも今の時代、遺伝子治療が進んでいるので。先天性の欠陥がある場合は、生まれる前に治療を済ませてしまう。
体が出来る前に治療をしてしまうと、今まで致命的だった遺伝子疾患も、全て問題なくかたがつく。
カナメがそういう治療を受けたかは知らないが。
今はともかく、火星で先遣隊になって、開発に従事しているのだった。
「事前に調査した通りの地形ですね。 まずはコロニーを完成させて、それから火星のテラフォーミングを始めないと」
「体がふわふわするのう」
「重力が地球の半分以下なので仕方がないですよ。 コロニー内は人工的に重力を発生させているから、大丈夫です」
「ああ、そうじゃったな。 それにしても寂しい土地よ」
そうだな。
まずは大気から作らなければならない。
豊穣神の手持ちがいるクルーもそれなりの数がいるのだが、まだまだそういった神格を呼び出す以前の問題だ。
火星は重力が弱くて、大気がほとんど定着しなかった。
いわゆるハビタブルゾーンの外側にある火星では、気温などにも問題があり。更には大気が薄すぎることもある。
今もデモニカを着ていなければ、強烈な宇宙放射線を浴びて、あっという間に死んでしまう。
地上に立てられたばかりのコロニーに向かう。
これを建設する前に、火星の衛星軌道上に四機のコロニーが作られ。
それらは、主にアステロイドベルトへの自動採掘船の中継基地として機能していた。
火星も金星も、まだ主体なのは衛星軌道上のコロニーである。
デブリの掃除が終わった地球の衛星軌道上に配置されたマスドライバから、宇宙船が金星や火星に飛ばされ。
更には火星や金星にあるマスドライバを利用して、更に遠くに宇宙船が向かう。
今では宇宙でロケット燃料が生産され。
地球から、馬鹿高いコストを払って宇宙船を打ち上げる時代は終わりつつある。
軌道エレベータもまもなく完全に完成するという話で。
火星でのコロニー建築が一段落したら、見に行きたいとカナメは思っていた。
コロニーに入ると、デモニカを脱ぐ。
この試験コロニーは、三百人ほどが生活する空間だ。コロニー内部はまだまだ狭くて、「宇宙船」の領域を超えない。中央部には司令部であるベースがあるが、まだまだささやかな規模だ。
現在では半年ほどで火星と地球を行き来できるが、その間の生活のためのプラントなどのライフスペースが主体になっていて、人間が暮らすための場所は想像以上に狭い。
だから火星の衛星軌道上にある、小さな街程度の規模があるコロニーについた時はほっとした。
ただ、この火星地表コロニーも、拡張をこれから進めていく。
今は宇宙船だ。
これから資材を受け取り、根を張って。
他に同じようなコロニーが増える中、データを地球と共有。
様々な実験と、試験的なテラフォーミングを開始するのだ。
あまり広くない船内を移動。すれ違うクルーは皆顔見知りで、皆何かしらの神魔を連れている。
昔はこういう空間では争いやグループを作っての対立が絶えなかったそうだが。
創世が行われてからは、それもなくなった。
今では人種の差による差別や、信仰の違いによる殺しあいは、完全に過去のものとなっている。
創世がなければ、これは起きえなかったことだ。
それは肌で感じる。
創世前の時代の映像はカナメも見たことがあるが。
どうしてこんな陰湿ないじめや、イデオロギーや信仰に基づく殺戮が平気で出来るのか、理解できなかった。
昔と今では、そういう意味では根本的に違っているのである。
船内の奥には、それなりに整った艦橋がある。
其処で外の調査を終えたことを、チームリーダーに報告。
このチームリーダーは、同じく創世に関わった八雲ショウヘイという人の遺伝子的な子孫であるらしい。
八雲ショウヘイという人は既に亡くなったそうだが。
とにかく寡黙で、厳しい人であり。
創世の過程で対立からの和解を果たしたのだとか。
その厳しい人の子孫であるらしく。
とにかく非常に険しい目をした、鋭い気配を身に纏っている女性だ。
「八雲晶子指令。 戻りました」
「ご苦労。 デモニカのデータを提出して、六時間休憩せよ」
「分かりました」
敬礼をかわす。
後はシャワーでも浴びて休憩だ。
宇宙船で火星に向かう途中も、船内には擬似的な重力が作られていたので。昔のようなシャワーが命がけ、なんて事はないが。
それでも地球に比べると、だいぶ水の挙動が違う。
水そのものも貴重だ。
シャワーを終えて、後はデータの提出をする。
レポートについては、デモニカ内蔵のAIが勝手に作ってくれるので、いちいち手を入れなくていい。
言われたとおり、仮眠を取る。
起き出すと、五時間ほど経過していた。
伸びをしていると、トートに言われる。
「先に日本の神と話をしてきたよ」
「どうでしたか」
「こんな遠くまで来て感慨深い、だそうだ。 とりあえずコロニーを広げてから、神社をたててほしいそうだよ」
「そうですね、なんとかしましょう」
今では神魔は身近にいる存在。
だから、神殿や神社は、彼らにとっての居場所である。
隣を歩いてくれる神魔の存在はとても人類にとって有用だ。だからこちらも、当然の敬意を払わなければならない。
ただ、それはまだ先のことだ。
少しだけ余裕があるので、祖母からデータで譲り受けた大昔のアニメを見る。十代前半の女の子が綺麗な服をきて戦うものだ。長寿シリーズで、休止期間もあったが、なんと今でも続いている。
祖母はマニアで、60シリーズ以上ある全てを見ているそうだ。映画なども全て見たそうだから、筋金入りである。
古い時代と今のでは、だいぶ内容が違っていて。ちまちま見ていくと、非常にそれらが興味深い。
今は誰でも博士号くらいはとれるくらいは学習のシステムが整備されている事もある。
趣味に関して、優れているも劣っているもないことは、誰もが既に知っている。
昔はアニメを見ていると、それだけで人権がなくなる時代もあったらしいが。
今は大手を振って見ることが出来る。
カナメがアニメを見ていると、トートが言う。
「しかし時代とともにデザインと衣装が本当に違っておるのう。 この時代の最先端はこうだったのじゃな」
「そうですね。 時代の最先端のファッションを貪欲に追い求めたデザインが詰め込まれています。 思想なども、毎回攻めているのは今見ても興味深いですね」
「カナメの妹は確かアニメの研究をしているのじゃったな」
「はい。 大学をもう少しで出るので、その後は学者として、膨大なデータをまとめていくでしょうね」
ちなみにカナメは五人兄妹の真ん中である。
母は自分のおなかで子供を育てる時間が勿体ないと、子育てには人工子宮を活用した。それもあって、47になった今でも、まだまだ30代で通じるほど若々しい。
一方で、遺伝子データだけ提供して、一切子供を作る気がない人も今の時代は多い。
選択の自由が来ていて。
全体的には、既に人類の人口は安定している。
金星や火星に本格的な大規模コロニーが出来れば、その分は増えるだろうと言われているが。
まあそれは、まだ数世代は先の話だ。
アニメを見終わると、デモニカを着込んで、任務を受領しに行く。
会議なんて面倒なものはほとんど自動化されていて。船長を兼ねている晶子指令も最低限の指示をするだけだ。
今日は植物プラントの管理か。
プラントに出向く。
人工光だけで作れる植物を主体にしていて、それを加工して肉などと成分を同じにしている。
勿論ロボットや神魔も管理しているが。
人間も、しっかりチェックしなければならない。
チェックをしていると、管理をしていた神が話しかけてくる。
確か東南アジアの水の神だ。
本来は人を溺れさせたりする恐ろしい伝承があるらしいが。今では別のクルーの手持ちになっている。
ちなみに直立したタガメみたいな姿をしている。多少不気味だが、別に今は無害だからどうでもいい。
「おお。 カナメだったか。 水の調子がよくない。 調べてくれるか」
「分かりました。 どのラインの水ですか」
「この辺りだ」
「すぐに調査します」
神魔は自然とともにある存在だ。その観察力は侮れない。
すぐに調べて、確認をすると。
かなり微細だが、どうやら悪い細菌が繁殖しているようだ。すぐにレポートを回して、メンテナンスの専門家を呼ぶ。
繁殖がそれほど酷くない状態だったから、すぐに処置が出来る。
処置をしているのを横目に、報告をしてくれた水神に礼を言う。
「ありがとうございます。 助かりました。 他になにかありますか」
「いや、それくらいか。 ただ、こんな狭い場所に田んぼを作るのは、少しばかり息苦しいのう」
「資材が届き次第、コロニーを拡大します。 それに沿って、少しずつプラントも大きくしていきますよ」
「そうか。 出来るだけ早くそうしてくれ。 押し込められて憎まれていた悲しい記憶がどうしてもな」
憎まれ役はどうしてもいる。
この水神もそうだ。
この水神の信仰があった国では、稲の不作はこの神のせいだとされていた。大量にいるタガメが、うっとうしいというのも理由であったらしい。
タガメを従える悪しき水神。
そういう理由で、この神は作り出された。
最初は憎悪から。
それ以降は、この神を遠ざければ稲が豊作になると言う信仰に代わった。
そういう観点では、必要な存在であったのかもしれない。
今はデモニカの悪魔召喚プログラムで人間とともにあり。悪さなどしなくても良くなっている。
それはこの神にとっても、良いことであるだろう。
プラントの修理が終わったので、敬礼をかわして、他のチェックもしていく。
大きなミミズの魔がずるずると這っていた。
問題はあるかと聞くが、ミミズは首をもたげると、人間には聞き取れない言葉を発する。
デモニカの悪魔召喚プログラムで翻訳すると、今の時点では特に悪いところは見つからない、だそうだ。
敬礼をすると、ミミズの魔は去って行く。
カナメはプラントを丁寧に確認して、仕事が終わってから報告に出向く。
休憩を貰ったので、しばらく休む。
自室のコンソールでスケジュールを見ると、十日後……地球の時間で、だが。ともかく十日後に、アステロイドベルトからの資源が届くそうだ。
それを用いて、火星の衛星軌道にいるコロニーの工場で物資を加工。そしてある程度加工したところで、この地表コロニーの側に軟着陸させる。
その軟着陸した物資を加工して、コロニーを拡大する。
まだまだ、全て先である。
「はあ。 此処にそういえば何年いるのだったかな、カナメや」
「一年ですね。 まだ人工重力が完全ではないので、任務が終わったら地球に戻って、それでリハビリをします」
「やれやれ、過酷な仕事だ」
「人工的な引力発生はどんどん技術が進んでいるので、次の世代くらいには、宇宙開発を行うエンジニアはもっと楽に過ごせるようになります。 それまで、私たちが頑張らないとですね」
伸びをしてベッドにカナメが転がると。
トートは真面目な顔で言った。
「わしはな。 創世を行った者達と、少しだけ顔を合わせたことがある」
「!」
「そのもの達の頃は、世界が本当に行き詰まっていた。 わしの故国もテロまみれで、人々の心はすさみきっていた」
今の時代は、テロなんてない。
最後のテロ組織が壊滅したのがもう50年も前だ。
犯罪組織も世界から消えて同じくらいの年月が経っている。
それでもたまに世界には悪い人が出てくるけれど、ほとんど周囲が許さなくて、あっという間に潰される。
正しい事が、正しいとされる世界。
それが今だ。
犯罪をするような人は、息苦しいと言うけれど。
ほとんどの人は幸せにくらしているし。
努力が報われるし。
みんな客観的にものを見られる。
少なくともカナメは、今の時代に生まれられて幸せだ。
「創世に参加した若い頃のおばあちゃんにも会ったんですか」
「おお。 当時は儚くてな。 だがどんどん逞しくなっていって、戦闘でも勇敢だったようだよ」
「最初はとても体が弱かったという話は聞いています。 本当だったんですね」
「そうじゃな……」
トートは少しだけ寂しそうな目をした。
どうしてそうなのかはよく分からない。
ともかく、話を切り上げて、寝る事にする。まだまだ仕事はある。
そして人類は、地球から宇宙に旅立ち。
各地で紛争だのなんだのとは、無縁の時代が来ている。これが進歩でなくてなんというのか。
少なくとも、カナメは。
紛争やテロが当たり前で。
屁理屈を並べる人間が強者面をして、迫害と搾取を繰り返す時代が戻ってきてほしいとは、とても思えなかった。
クレーンを用いて、コロニーの拡張が続けられている。
生活ブロックが広げられ、またプラント用の棟も作られていた。既に第一陣が帰還を開始。
第二陣が到着して、仕事に加わっている。
カナメは工事中のコロニーの外に出て、調査を続行。
あちこちを調べているが。
やはり生命はおろか、その痕跡すらない。
火星には水が豊富にあった時期が存在していた。
そればかりか、今でも一部は氷の湖になり、地下に水がある程度はある。だが、それも所詮はある程度、だ。
今、火星の重力にあわせた小型の車両で、その氷の湖を調査しているのだが。
残念ながら、生物の痕跡はない。
デモニカであらゆるデータを集めているが。
それらも全てが、生物はいないと結論していた。
「なんだよ、無駄足か」
「違います。 何もいないって事が分かったのが、収穫なんですよ」
丁寧にそう言い聞かせる。
一緒に今日は護衛役として、飛行能力を持つ鳥の神、霊鳥ハンサを連れてきている。真っ白なガチョウであり、悟りに到達しようとする修行者の行為そのものを指すとか。色々な解釈がある存在だ。
このハンサはどちらかというと性格が子供っぽくて不平屋だ。
ただ能力は確かで、事故が起きた時にこの調査用の車両を持ち上げるくらいの事は出来るし。
最悪助けを求めにベースに戻る事も出来る。
油断なく周囲を見張るトートと、周囲を旋回して回るハンサ。
まあ、敵対的な悪魔なんていないだろう。
それは気にしなくていい。
地表コロニーの近くに、物資が軟着陸した。
それがデモニカのログにて表示される。
カナメは黙々と調査を続けて、水のサンプルも回収する。とはいっても、ほとんど氷だし。
どんな汚染がされているか分かったものではないので、絶対に直に触ってはいけないのだが。
ハンサにもそれは注意をしておく。
「早く戻って水浴びしてえなあ」
「もう少しです。 警戒を続けてください」
「ういー。 ただよ、生命の気配なんてない……」
「気をつけよ」
トートが言う。
即時でカナメも警戒態勢に入る。
狙撃の名手であった祖母に憧れて、散々銃撃は仕込んできた。宇宙戦闘用の無反動型アサルトライフルを手に取る。
火星の大気は薄いので。地球と同じような感覚で、アサルトライフルを放つ訳にはいかないのだ。
だから無反動型が用いられる。
周囲を警戒していると、何やら黒い影が集まってきた。
即座にバックして、安全な地点まで逃れる。黒い影に積極的な敵意はないようだが、分析がいる。
側にハンサが降りてきた。
「なんだああいつら。 ぶっ飛ばすか?」
「解析が先です」
「先制攻撃もらっても知らねえぞ」
「敵意がある存在なのか、それすらわからん。 ただどちらかというと、わしらと同じ存在のようだがな」
まあ、その可能性が高いだろう。
黒いもやもやは、程なくして形を為していく。
あれは、タコか。
いや、それにしてはおかしい。巨大な頭と、長く伸びている多数の触手。触手は足の役割を果たしているようである。
それが十体ほど。
「デモニカ、解析を急いで」
「姿と一致する存在あり。 古典SF小説、宇宙戦争に登場する火星人と酷似しています」
「火星人だあ?」
「ああ、なるほど。 恐らくは、古い時代に火星人のイメージがああやって作られて、それが火星で今人間が来たことで、アティルト界から現れたんです」
ハンサに説明すると。
トートがそうであろうと頷いた。
ただ、その小説での火星人は、確か友好的な宇宙人ではなかったはず。
調べてみると、危険な兵器を用いて地球に攻め込んできて、殺戮の限りを尽くすようである。
一応ベースに連絡を入れる。
距離を保ったまま、相手とにらみ合いを続ける。
少なくとも、あまり友好的な存在ではないと考えるべきか、それとも。
しばらくして。
火星人の一人が、近づいてきた。
「私達は君たちの分類で言うと外道マーシアン。 君が分析したとおり、今アティルト界から実体化した」
「喋りやがった」
「日本でも我々のイメージは強く定着した。 だが、残虐で凶悪な侵略宇宙人というよりも、ユーモラスな姿の宇宙人としてな。 ルーツさえ知らない存在も、今では多いだろう?」
確かにその通りだ。
軽く話をする。
せっかくアティルト界からアッシャー界に出られたのだ。
ただ今は、存在が希薄すぎて、具現化すら厳しい。
今は人間が発するマガツヒを使って具現化しているが、悪魔としては最低ランクの力しかないそうだ。
さて、どうしたものか。
会話については、八雲晶子指令も聞いている。
程なくして、指示が来た。
「戦力的に後れを取る相手ではない。 まもなく応援が到着する。 契約を試せ。 襲ってくるようなら排除して構わない。 契約できたら、こちらに連れてきてほしい」
「了解しました」
「契約か。 魔石でもあるか。 とにかく腹が減ってかなわん」
「肉なども用意しましょうか。 合成ですが」
おおと、マーシアン達が声を上げる。
それにしても、だ。
デモニカのログを見ると、感嘆の声が上がっている。
火星に到着早々、まさか神魔が出現するとは。それも地球で想像していた火星人がそれで現れるなんて。
とても興味深い。
だが残念だ。
宇宙人とのファーストコンタクトではなくて、結局地球の神魔との初接触との延長線上の出来事だ。
学者達がそんな風に話している。
いずれにしても、カナメとしては、マーシアンに敵意を持ってほしくはなかった。だから、地球の話をする。
「なるほど、地球はそんなに穏やかな場所へと変わったのだな」
「はい。 今では戦争は一つも起きていません。 宇宙への進出は本格化し、軌道エレベーターも建築が進んでいます」
「そうか。 我々は古い時代の恐怖として、既に時代遅れの存在なのかも知れないな」
「そんなことはないです!」
こういう形であったとはいえ。
それでも火星に生命がいたのは素晴らしい。
ある意味地球から持ち込まれた外来種に近い存在ではあるのだろうが。それでも火星の生物だ。
精神生命体であっても、それは同じだろう。
「何より、いきなり互いに殺し合わないファーストコンタクトです。 こんなに素晴らしい事、そうはないです。 元になった宇宙戦争では、侵略戦争で始まって、皆殺しで終わってしまったんですから」
「そうだな。 そういう物語から生まれた我々が、今こうして理性的に話を出来ている。 これを喜ばなければ、ならないのだろうな」
増援が来た。
すぐに契約を始める。
デモニカを用いて、悪魔と契約するのは皆慣れている。
今では幼い頃に、害がない地霊や妖精と契約するのは、義務教育で行っているほどなのだ。
マーシアン達と契約して、基地に戻る。
ただ、安全なばかりではなくなった。
帰路で、トートが話してくれる。
「分かっているなカナメ。 神魔は人の鏡。 マーシアンが出現したと言うことは、様々な想像の火星人が悪魔として出現する可能性がある。 その中には、話が通じない存在もいるだろう。 更に言えば、人間が火星に来れば来るほどその数も増えるだろうな」
「分かっています。 これからは、常に自衛に気を配らなければならないですね」
「あの基地にも対悪魔用の結界を展開する必要があるじゃろうな。 晶子とそれは相談しておくことだ」
「はい」
分かっている。
ファーストコンタクトはうまくいっても、その後はそうとは限らないのだ。
アメリカ大陸でも、そうだった。
ネイティブアメリカンは、漂着した者達を手厚く迎えて、とても親切に振る舞った。
だがそれに対して、どのようなことが為されたか。
後から後から押し寄せた者達は、ネイティブアメリカンを野蛮人と見下し、全てを奪い去っていったのだ。
文字通り最悪の恩知らずである。
同じ事があってはならない。
今、人間はそのような時代からは脱却できている。そう、カナメは信じる。そう、信じたかったのかも知れない。
火星を発つことになった。任務の期限が満了したからだ。
まずは火星の軌道上コロニーに出向き。そこから地球行きの宇宙船に乗る。ちなみにマーシアンも手持ちにいる。
戻った後、研究所で解析することになるだろう。
晶子指令や、世話になった人達と挨拶して。それで戻る途中。データを受け取った。
おばあちゃんからだった。
「火星人と接触したと聞いて驚いています。 それが人間の作り出した想像の存在だったとしても、まさか平穏にファーストコンタクトを終えられるなんて。 素晴らしい事ですね」
そう始まった文章は。
孫に対しても丁寧で、とても優しい人柄が感じられた。
健康についてとか、生活についてとかの心配がそれに続き。
それから言われる。
「私が世話になった人は、いつでもとても合理的に動くことが出来る人でした。 感情より客観と合理を優先することは、今では当たり前です。 でも、それが誰でも出来るようになったのは、創世が終わってから。 それまでは、誰にも出来る事ではなかったの。 カナメ、その人は今でも世界を見守ってくれている。 だから、その人に恥じないことを、これからもしていきましょう」
つまり、おばあちゃんもそうすると言うことだ。
カナメはふうとため息をつくと、メールを読み終える。
世界は創世で明確に変わった。
人間という生物は、一万年間一切進歩しなかった。進歩したのは技術だけだった。
今まで一切無視されていた進歩は、創世で行われた。
それは創世前後の歴史を見れば明らかだ。
今では人類は、宇宙に出るのにふさわしい文明を築いている。これは客観的に見て正しい結論だ。
或いはこの先、凶暴で凶悪なエイリアンと遭遇するかも知れない。
だがその時も、今の人類だったら、冷静に合理的な対処が出来る筈だ。
メールを送り返すことにする。
火星と地球は光速で現在地点だと五分かかる。メールも、当然送るとなると、それだけかかる。
まだ超光速通信や、超光速移動は技術として確立していないのだ。
マスドライバに宇宙船がドッキングする。発射時にかなりGが掛かるが、それでも席についてシートベルトをしていれば耐えられる範疇だ。
席について、シートベルトをして。
それからメールを送信した。
「おばあちゃん、火星で素晴らしい仕事に私は関われました。 これからも、おばあちゃんが言うとおり、皆のために頑張っていこうと思っています。 この世界をよくしてくれた人……夏目煌さん、敦田ユヅルさん、太宰イチロウさん。 他にもたくさんの神魔達。 皆に恥じないように、私も頑張ります」
まあ、平凡な文だ。
マスドライバで宇宙船が加速して、打ち出される。
後は、しばらくのんびりしていれば良い。
勿論この帰路の宇宙船でも、様々な実験はするが。それは宇宙船の速度が安定してから、である。
「カナメよ」
マーシアンが話しかけてくる。
マーシアンはすっかりカナメのコレクションであるアニメにはまって、今では一緒に見ている。
興味深くて仕方がないらしい。
まだ生まれたての魔なのである。
もしも人間が、元のままの性格で火星に降り立っていたら。こうはならなかったのかも知れない。
恐ろしい邪悪な宇宙人として、人類の敵になっていたかも知れなかった。
「地球に行った後、またどこかの星に行くのか」
「私は下っ端ですからね。 仕事先を選ぶほど自由じゃないですよ。 ただ、次は或いは金星でしょうか。 まだ金星は、危険すぎて地上には降りられないんですが」
「恐竜でもいるのか」
「え……」
デモニカが補足してくれる。
古い時代、分厚い雲に覆われて、金星は地表付近を観測できず。更には金星が地球と比べて少しだけ小さいこともあって。地球よりも少し生物の環境適応が遅く、恐竜がいるかもしれないと考えられていたのだと。
勿論今は違う。金星の地表は400℃、90気圧。強酸の雨が降り注ぐ地獄だと分かっている。
大気の99%を占める二酸化炭素による凄まじい温室効果の結果だ。分厚い雲に覆われてほとんど太陽光が届かないにもかかわらず、温室効果でそれだけの地獄になっているのである。
勿論生物などいるわけがない。
「いませんよ。 でも、夢がある話ですね」
「そうか……」
少しだけマーシアンは残念そうにした。
でも、決して不幸そうではなかった。
カナメも不幸じゃない。仕事は続くけれど、それは大いに意味がある仕事ばかりである。
創世が起きなければ、今でも人間は地球に張り付いて、資源の奪い合いと事実上の共食いをしていた可能性が高い。
そして百年もしないうちに文明を喪失していただろう。
人間賛歌は構わない。だが無責任な人間賛歌はただの現実逃避だ。おばあちゃんが、そう言っていた。
カナメもそれには同意するし。
創世されたこの世界には、否定する要素がないのだった。
まだ地球は遠い。
だが、今から帰るのが。楽しみでならない。新しいコレクションも手に入るかも知れない。
未来には、希望が満ちている。
元のままの人類が宇宙に出ていたら、確実にSF映画に出てくる侵略エイリアンとなって様々な他の星に迷惑を掛けていたでしょう。
しかし本作の人類は、ついに進歩を果たし。
星の海に出るにふさわしい存在となる事が出来たのです。