真女神転生VV二次創作 牛蛇相克   作:dwwyakata@2024

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原作だとうかつにナホビノのまま東京に戻ってアブディエルとばったりしてしまうのですが。

本作だとその辺りはツバメさんに指摘されていて、対策はしています。

もっとも衰えたりとはいえベテル本部。

しっかり見ていた天使がいましたが。





1、東京への帰還

服も乾いて落ち着いた太宰と一緒に、奥の通路に。太宰によると、前に二人いて、先に連れて行かれたらしい。

 

奥にはなんだか丸い筒状のものがある。

 

文字がびっしり書かれていて、よく分からないが。

 

アオガミが説明してくれた。

 

「これはアマラ輪転炉と言って、魔界と人間の世界をつなぐ道具だ。 特に難しい事はなく、触るだけで使うことが出来る」

 

「東京に戻れるのだろうか」

 

「恐らくは。 だが、外がどこになるかは分からない。 警戒を推奨する。 天使達のど真ん中に出た場合、厳しい尋問にさらされる可能性がある」

 

「連中は冷酷よ。 拷問くらいは覚悟しておきなさい」

 

ヨーコが言う。

 

ひっと太宰が首をすくめたので、煌はため息が出そうになった。

 

ヨーコと太宰は水と油だ。

 

ヨーコのようなタイプからすると、背は高いのに自分にまったく自信がないような太宰のような相手は、虫唾が走るだろう。

 

太宰は比較的着崩した制服と目立つ帽子もあって、見た目はいわゆる陽キャである。

 

やっていることもトンネルの中での動画撮影などを見ると今の最先端に挑戦していたようにも見えた。

 

だが、話してみて分かったが。

 

太宰は明らかに無理をして陽キャをしているタイプだ。

 

素はもっと暗くて自信もないのだろう。

 

だから敢えて明るく振る舞っているのだとすれば。それは、本人のためにもよくはなさそうだ。

 

それにユヅルとも相性は良くないだろう。

 

ハイスペックで自身を律することが出来るユヅルと、そうではなく恐らくコンプレックスも持っている太宰では、立っている土俵が違う。

 

それに見てきて分かったが、ユヅルはなんでも地力で突破してきたタイプだ。

 

そうではない太宰は、恐らくは庇護対象ではあっても、対等に会話する相手だとは思えないだろう。

 

色々面倒だ。

 

少なくとも煌も含め。この場にいる四人は、皆普通だったら接点がない存在である。

 

ともかく輪転炉とやらに触れる。

 

躊躇なく触れるのを見て、太宰が怖がったようだが。

 

一瞬、世界に光が満ちて。

 

そして、周囲を確認するが。天使が山ほどいて。槍を構えているような事はなかった。

 

ただ、武装した自衛官が来ていて。

 

煌を確認すると同時にアサルトライフルを向けてきたが。

 

「アマラ輪転炉より人間出現、数は5。 いや、一人は悪魔か?」

 

「僕はベテル日本支部の敦田ユヅルだ。 魔界から生還した」

 

「! 確認する。 その場から動くな」

 

フル武装の自衛官は流石に練度が高く、動きも速い。

 

即座に全員がテキパキと動き。

 

誰かを呼んでいたようだが。

 

自衛官達を押しのけて、現れたのは。

 

天使だった。

 

しかも見覚えがある。

 

あのルシファーが現れた時のアオガミの記憶。

 

其処に映り込んでいた、大天使アブディエルである。近くで見ると、何もかも突き刺すような凄まじい視線。

 

隙が微塵もない動き。

 

今の煌では、アオガミと合一しても勝てない。

 

それは一目で分かった。

 

というか、あのルシファー出現の後、生きていた訳だ。

 

不本意そうにしながらも、ユヅルが敬礼する。

 

「大天使どの。 ベテル日本支部の敦田ユヅルです。 魔界から生存者を連れて生還しました」

 

「大義であった。 そこにいるのはアオガミ型神造魔神だな。 全機破壊されたと聞いていたが」

 

「何かしらの形で再起動したようです。 彼のおかげで、生存帰還することが出来ました」

 

「ふん、くだらない言い訳だ。 既に報告を受けている。 使いの者が見ている。 ナホビノが出た、とな」

 

即時、アブディエルが剣を抜く。

 

稲妻のような動きだ。

 

アオガミがこちらも即座に煌と合一。剣を手刀で受け止めていた。そうしなければ、頭をかち割られていた。

 

「報告通りか。 ナホビノの禁をおかしたな。 神の定めた法を破る蛮行、許されぬ事だ。 小僧、命を持ってあがなって貰うぞ!」

 

「ひいっ!」

 

太宰が下がる。

 

アブディエルの圧力は凄まじく、ぎりぎりと押される。このまま、唐竹に割られる。そう覚悟した瞬間。

 

静かだが。

 

強烈な抑止の声が掛かっていた。

 

「其処までにしていただきたく。 大天使様」

 

「っ!」

 

飛び退いたのは、アブディエル。

 

煌は息を肩でつきながら、声を掛けてきたものを見た。

 

磯野上タオ。

 

ただ、普段の優しい笑顔ではない。厳しい、よそ行きの顔を作っていた。アブディエルがどうして退いたのか。

 

というか、そもそもここはどこで、磯野上がどうしているのか。

 

「聖女がなぜナホビノを庇う」

 

「先の話は聞こえていました。 アオガミ型神造魔神とナホビノにならなければ、魔界から生還は困難だった。 やむを得ぬ事だったのだと思われます」

 

「ほう。 それでこれほどの禁を許せというのか」

 

「アオガミ型神造魔神は、18年前の戦いにも多く参戦しました。 それを貴方は知っているはずです。 それが生還し、なおかつ人を四人も救って戻った。 貴方は人々の守護者である大天使として、まずはねぎらいの言葉を掛けるのが筋であると思います」

 

磯野上は一歩も退かない。

 

元々強い意志を持っていることは知っていたが。これほどの相手にも全く退かないのか。

 

少しばかり驚かされた。

 

やがて、アブディエルは納刀していた。

 

「後で本部宛に報告書を出すように。 それまでは日本支部預かりとする。 ただし、ナホビノの禁を破ったこと、大きな貸しとなると知れ」

 

行くぞと、精鋭らしい天使をつれてアブディエルが去る。

 

嘆息すると、煌も合一を解除していた。

 

回復したばかりだというのに。今の一合だけで死ぬところだった。

 

ただ、このアマラ輪転炉というもの。触ってみて分かったが、龍穴と同じ役割を果たしてくれるようだ。

 

その気になれば即座に回復も出来る。

 

「うそ、夏目君?」

 

「どうにか戻ることが出来た。 ミヤズさんは無事か?」

 

「ええ、無事よ。 ユヅルくんの事も心配していたわ」

 

「……」

 

ヨーコは黙り込んでいる。

 

やはり色々と気にくわないようだ。この様子だと、ヨーコは磯野上とも犬猿の仲というか。接点がないだろう。

 

程なくして、自衛官の一人が来る。

 

白衣の人たちを何人か連れていた。

 

「長官がお呼びです。 こちらに」

 

「そもそもここは一体どこなんですか。 魔界から脱出は出来たのでしょうか」

 

「ああ、それは問題ないですよ。 ここはちゃんと東京です。 ある研究所を偽装している場所です。 後は長官に聞いてください」

 

アオガミは一旦ここで別れるようだ。

 

名前の通り神造魔神というらしいので、調整をしなければならないそうである。ただ、分かる。

 

体内に悪魔の情報がある。

 

かなり力は落ちているが、眷属を展開することも出来るかも知れない。しない方が良いだろうけれど。

 

制御できる自信があまりないからだ。

 

磯野上はさっき、毅然とアブディエルに待ったを掛けた態度が嘘のように柔らかい雰囲気である。

 

自衛官数名に囲まれてエレベーターに乗って移動中も、笑顔を見せてくれていた。

 

太宰はずっと青ざめている。

 

それもそうだろう。訳が分からないことだらけなのだから。

 

エレベーターの表示もわかりにくい。

 

多分侵入者対策で、意図的にそうしているのだろう。

 

ともかく、奥に通して貰う。

 

会議室ではなく、多数のモニタが並んでいる場所だ。オペレーティングルームとでもいうべきだろうか。

 

ともかく、今までに見たことがない。

 

ガラス張りで見下ろすようになっていて。

 

下では多数の白衣の人が何かの情報を見ている。

 

自衛官もフル武装で行き交っていた。

 

長官、だろうか。

 

厳しい表情の男性が、スーツを着込んで立っている。スーツを着込んでいるだけで、顔も雰囲気も。

 

アオガミによく似ていた。

 

というか、見て分かった。

 

見覚えがある。

 

この人は。

 

「魔界から生還したと言うことで、ご苦労だった。 私は越水。 ベテル日本支部の長官をしている」

 

「敦田ユヅルです。 まだ駆け出しですが、デビルサマナーとしてベテル日本支部に所属しています」

 

「ああ、知っている。 直接話すのは初めてだったな。 ライドウから有望だと聞いている。 デビルサマナーの絶対数がとにかく足りない状態だ。 君のような有望な若者には期待している」

 

「あの……ひょっとして越水総理大臣ですか?」

 

太宰が言う。

 

それは、煌も思っていた。

 

苦笑すると、長官はその通りだと認めた。

 

「総理大臣としての役職も持っている。 国会中継などで見たことがあったかな」

 

「ひえっ! 失礼しました!」

 

「構わない。 ともかく今日は、あまりにも多くのことがあっただろう。 君は、聖マリナ女学院の生徒かな。 いずれにしても、全員軽く身体検査を受けてもらってから、家に送ろう。 何があったのか、何が起きているのかは明日話す」

 

太宰は大丈夫だろうか。

 

そう思った。

 

ヨーコは明らかに自衛能力がある。磯野上は大天使に一歩も退かず、聖女とまで言われていた。

 

何かしらあると見ていい。

 

だが、太宰は一般人だ。

 

煌も残念ながら、あの大天使の反応。それに魔界でのあのナアマの発言から考えても、これから「一般人」に戻るのは不可能だろう。

 

それについては、既に覚悟している。

 

ともかく、検査を受ける。

 

採血はちょっと苦手だが、それは仕方がない。他にも色々と計測されたが。困惑したのは、身体能力が明確に上昇していることだ。前は握力が20㎏行くか行かなかったほどだったのに、今は38㎏にまで上昇している。

 

それでも精々同年代男子のどうにか平均だが。

 

倍近い上昇をしていて、驚かされた。

 

そして、身体計測のデータを取り寄せたのだろう。検査をしていた医師は、秘密にすぐ気づいたようだった。

 

「これは、学園生活は大変だっただろう」

 

「体力や身体能力には問題はありますが、まずばれることはありませんので、特には」

 

「そうか。 他の皆には話さないでおくけれど、ただ上には報告しておくよ。 それはすまないね」

 

「いえ、当然のことかと思います」

 

ユヅルが言っていた。

 

ベテル本部はかなり強権的に振る舞ってきていると。

 

ベテル本部も相当なダメージを受けたようだが、日本支部のダメージも小さくないのだろう。

 

そう考えると、色々複雑な気分だ。

 

検査なども終わる。アオガミは調整中だと言うことで、少し心配になったが。一緒にいられるように取り計らってくれるそうだ。

 

太宰が機嫌が良さそうにしている。

 

「聞いてくれよ夏目! 俺、デビルサマナーの素質があるらしいんだ! 今までユーレイなんて見えたこともなかったのに、魔界で色々あったからかな!」

 

「あっさり魔界の存在を受け入れているんだな」

 

「そりゃ、あんなことがあればな。 天使に運ばれている間、色々見たし……」

 

そうか。

 

これから簡単な訓練をすると言っていたが、激烈に嫌な予感がする。

 

咳払いすると、太宰に言う。

 

「デビルサマナーは殺しあいを大前提とするようだ。 大丈夫か」

 

「大丈夫だ! 俺、何も出来なくてさ。 それでずっと色々やってたけど。 何かの才能があるなんて言われたのは初めてだから、やってみたい!」

 

「いや、それは立派だが。 死を目の前にしたり、殺意を持って迫ってくる相手に、引き下がらずにいられるかって事だ」

 

煌はちょっとおかしい。

 

それは自分でも理解している。

 

だから、アオガミと合一して、即座に戦えた。

 

だが、太宰はどちらかというと普通寄りの存在だ。

 

いきなり殺すつもりで襲いかかってくる悪魔と相対して。悪魔を使役する力を得たところで、何か出来るか。

 

むしろ調子に乗ったところを、一閃されてしまうだけではないのか。

 

そういう不安が非常に強い。

 

少し悲しそうに太宰は目を伏せる。

 

「そ、そうだよな。 俺、喧嘩とかしたことねえし。 基本的に誰かと言い争うと、すぐに退いちまうんだ」

 

「……分かった。 明日話を詳しく聞くらしいし、多分訓練もするはずだ。 その時、僕がつきあう。 魔界には恐らくあの輪転炉で簡単に行けるはずだ。 デビルサマナーをするつもりなら、実戦を少しでも積んだ方が良い。 シミュレーターなんかじゃ、誰かを守るとか、自分を殺すつもりの相手に立ち向かうとか、絶対に経験できない」

 

「お、マジか! おまえ良い奴だな。 目がちょっと怖いけど」

 

「目が怖いのはよく言われるが、それは我慢してくれ」

 

とりあえず、戻って良いと言われる。

 

太宰については少し心配だが、煌は。

 

いや、全然疲れはないな。便意などもない。悪魔は食べたものを排泄しているような気配がなかったが。

 

或いは取り込んだものを完全活用できていると言うことか。

 

神話にも排泄の逸話はあるが、それはあくまで神の性質としてだ。そもそも神々が日常的に排泄しているような描写は滅多にない。

 

魔界で神魔と接した後は、どうにも自分がそれに近づいたのではないかと感じる。

 

それにだ。

 

さっき鏡を見たが。

 

瞳孔が少しずつ、色が薄れ始めている。

 

もしも瞳が黄金になるのだとしたら。

 

それは、あの八雲ショウヘイに近い状態になるのかも知れない。

 

ともかく、外に出る。

 

すっかり夜だ。自衛官が、それぞれ送ってくれる。寮に戻ると、ミヤズがわっとユヅルに駆け寄ってきて、散々大泣きしたので。ユヅルが困り果てていた。

 

それはそうだろう。

 

これは色々ここから大変だろうな。

 

そう思ったが、邪魔をしてはいけない。

 

太宰は、これからイチロウと呼んでくれと言う。メールのアドレスも交換した。

 

ユヅルとは、太宰はまだ流石に距離は詰められないようだ。

 

まあそうだろうな。雰囲気的に近寄りづらいはずだ。

 

ともかく太宰、もといイチロウとは、これからは連携して動くことになるのだろうか。だとすると。

 

ほとんどの人は、恐らく魔界から戻ったら記憶を消されているはず。

 

あんな過酷な場所で、働くことになるのか。そう思うと、あまりそれが良いことだとは、煌には思えなかった。

 

 

 

翌日。

 

学校を終えた後、すぐに昨日の研究所に出向く。表向きは医療研究施設となっていて、自衛官も出入りする時は私服のようだ。

 

だが、ここには残り少ないデビルサマナーが常駐し、自衛隊もフル武装で敷地内を守っている。

 

それがどれだけこの国で重要な施設と見なされているかは、煌にも理解できた。

 

イチロウはウキウキで、早速デビルサマナーの講習を受けている。講師になっているのはかなりの年配のデビルサマナーで、話によると東京での18年前の事変の時点で既に引退済みで、それが無理矢理現役復帰したらしい。

 

ただそれでも前線に立つのは厳しいと言うことで、今は講師を中心に活動しているということだ。

 

悪魔は見えている。

 

講師の言うこともちゃんと聞いている。

 

やる気はある。

 

だが、講師はこれは駄目だなという目で見ている。それはそうだろう。力を得てはしゃいでいるだけの人間にしか見えないのだろうし。煌も同意見だ。

 

だから、ここから。

 

友人認定された煌が手伝う。

 

後で越水長官が来て話をしてくれるらしいのだが。それまでにやっておくべき事がある。イチロウを誘って、アマラ輪転炉というのを使って国会議事堂に。

 

国会議事堂内部は白衣の人たちが行き交っていて、色々と仕事をしていた。警備の自衛官もいる。

 

何体か、厳しく鎧を着込み、武装した人型がいた。人間離れして大きかったり、顔が人間離れしている。

 

白衣の人たちはベテル日本支部の職員であるらしい。

 

この人型達は、護衛の悪魔達。

 

日本と相性が良い仏教系の護法神だそうだ。かなり強いそうだが、それでも絶対はない。煌から見ても、力量は明らかにジョカには遠く及ばなかった。

 

研究所でアオガミと合流した時、凄くほっとした。

 

いざという時はいつでも駆けつけると言ってくれているし。アオガミも調整をして、生半可な車より速く走れるようになっているということだが。

 

それでも縄印高校や、寮までは距離がある。

 

いざという時がないと良いのだが。

 

スーツを着込めばサラリーマンに見えるので、それで学校にいる間は近くで待機して貰う手もある。

 

長身だが普通に人間の範疇だし、人目を惹くことはないだろう。

 

ともかく、国会議事堂から龍穴で移動。合一する。うおっと、イチロウが驚いていた。

 

「ちょっとだけ昨日見たけど、それが話に聞いたナホビノってのなんだな。 まるで変身ヒーローだな!」

 

「そんなに格好が良いものじゃない。 これは力だけがある存在で、正義でも悪でもない。 使い方を間違ったら、簡単にたくさんの命を吹き飛ばしてしまう危険なものだ」

 

そう言って、あの八雲ショウヘイという男を思い出す。

 

あれは明らかに、力を使うことをためらわない手合いだった。ともかくだ。先に、実戦訓練をする。

 

ユヅルはタオと一緒に話が先にあるらしい。

 

今回は煌だけが来ている。

 

ヨーコはというと、今縄印への編入手続きをしているそうである。聖マリナ女学院とやらにはほとんど思い入れもないというが。それは一応納得できる。

 

昨日調べてみたが、お嬢様学校という割には内部が腐りきっている場所であるらしく、親の政治的派閥が子供にも持ち込まれているろくでもない学校らしい。陰湿ないじめや、学校ぐるみでの虐待じみた教育までやっているようで。生徒の親の権力がそのまま生徒にも反映され。一部の生徒は成績を金で買っているという噂まであるようだ。

 

ともかく、イチロウと神谷町の辺りを歩く。

 

びくりとイチロウが怯えた。やはりな。既に片手につけて即座に操作できる小型のPC、ハンドヘルドコンピュータを渡されているイチロウだが、いきなり修羅場をこなせる訳がない。

 

空から急襲。

 

この間は気にしなかったが、鴆と呼ばれる鳥の悪魔だ。中華で古くに強烈な毒を持つと信じられた架空の鳥である。実際に毒を持つ鳥は実在しているが、これはあくまで想像の産物だ。

 

悪魔だけあって、その毒はコブラのものと遜色ない。しかも大きさも人間大。ひいっと恐れて声を上げるイチロウ。

 

「イチロウ」

 

「だ、駄目だっ!」

 

へたり込んでしまうイチロウの寸前で、煌が鴆を手刀で真っ二つにする。消えていく鴆を見て、イチロウが完全に青ざめていた。

 

分かっている。これが普通だ。

 

「かなり筋が良いのは本当だ。 まずは弱い悪魔から戦えるようにしよう。 あの鴆は悪魔としては雑魚も雑魚。 あれに勝てなければどうにもならない」

 

「そ、そうなのか……」

 

しばらくうつむいていたイチロウが、地力で立つ。

 

イチロウがアイトワラスと言われるリトアニアに伝わる小型のドラゴンを呼び出す。鶏くらいの大きさだが、ちゃんと燃えさかっている。基本的にドラゴンが悪とされる欧州圏では珍しく福を為す存在で、かなり人間に友好的な悪魔だ。これが護衛としてベテル東京支部に支給されたらしい。

 

だが、アイトワラスは。頼りないイチロウの様子を見て、呆れ気味のようだが。

 

「よ、よしっ! 次だ!」

 

「その意気だ。 いざとなったら僕が助ける。 ……来るぞ」

 

地面を凄まじい勢いで駆けてくるのは、角二本の馬だ。バイコーンという。有名なユニコーンを悪魔化した存在である。

 

それが突貫してくる。

 

馬は大きい。古くの馬は日本の木曽駒などが知られるが、それでも体重250㎏。サラブレッドなどは500㎏を超えるが、西洋の重装歩兵による集団突進戦法で使われた馬は更に大きい。

 

バイコーンはどう見ても体重500㎏はあるだろう。軽自動車が突っ込んでくるようなものだ。

 

イチロウは完全に腰が引けていたが、それでもアイトワラスに指示を出す。少しずつやれるようになってきている。

 

火球を連続して吐き出すアイトワラス。バイコーンはそれを無視して突っ込んでくる。必死にハンドヘルドコンピュータを操作するイチロウだが、間に合わない。何より敵から目を離したのが致命的だ。

 

炎を蹴り破って、バイコーンが躍り出てくる。

 

アイトワラスを蹴り砕いたバイコーンを、煌が斬り伏せていた。

 

「す、すまねえ、二度も……!」

 

「構わない。 これが実戦で、誰かを守れなかったとかだったら大惨事だ。 この辺りの悪魔は僕でも対処できる。 今のうちに、覚悟を決めておこう」

 

「……ああ! そうだな!」

 

イチロウの目つきが少しずつ変わってくる。龍脈で回復して、次に行く。回復用のマッカは倒した悪魔から回収できた分でどうにか出来た。

 

三度目、四度目もまだ腰が引けていた。だが、それでも七度目となると、しっかり相手を見据えて、的確にアイトワラスに指示が出せていた。

 

かなり息が上がっているイチロウに、一度帰ろうと促す。

 

これで、何も戦闘経験がないド素人より、ずっとマシになったはずだ。イチロウが、申し訳なさそうに言う。

 

「すまん。 これで戦闘に出たら、俺絶対とんでもない失態をしてた」

 

「僕もアオガミさんに助けて貰っていなければ、何百回も死んでいる。 それに……」

 

一次資料ではないのだが。

 

有る時高名な戦国武将である山中鹿之助が、戦場に出ても右も左も分からず、貴方のように勇敢に戦えないと嘆いた後輩に諭したことがある。

 

自分もそうだった。何度も戦場に出てやっと周囲が分かるようになった、と。

 

恐らくこれは実話ではない。だが、極めて実践的な作り話であるだろう。煌だって、アオガミがいてくれなければ、とても戦えなどしない。いきなり戦えるような人間は、超がつくほどの例外だけだ。

 

それを説明すると、イチロウはそうかと、少しだけ嬉しそうにした。

 

ともかく、イチロウは意外と人なつっこく、話も聞く奴なのだと分かった。







※太宰イチロウ

原作のロウヒーローです。最初に調子が良い行動を取っていた彼ですが、周りからは空気が読めない奴と認識されていたようですね。デザインも意図的に格好良くはしなかったとか。

原作での彼は、まさに現在的弱者の見本のような存在です。更に言えば、一神教がなんで世界でこんなに繁栄しているかの理由みたいな存在でもあります。

誰もが決断できるわけではないし、判断を自分で出来るわけではないのです。

そんなイチロウくんですが、本作では最初から分厚く煌くんがサポートします。

その結果、様々な運命が変わっていくことになります。






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