真女神転生VV二次創作 牛蛇相克   作:dwwyakata@2024

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本作では、東京受胎の後に起きた神の奇跡シャカイナグローリーについて、いくつかの設定を補足しています。個人的にその方が筋が通ると判断したからです。

その辺りの説明が、この章でなされます。





2、何があり何が起きたのか

研究所で部屋を借りて、越水長官と話す。

 

立ち話も問題だ。ヨーコも磯野上も、ユヅルもイチロウも、それと煌とアオガミも交えて話を聞くことになった。

 

相手は総理大臣だ。

 

しかも日本経済を一気に立て直し、「鵺」とまで呼ばれる凄まじい手腕を見せている人物。

 

あまりにも有能すぎて、野党もほとんどつけいる隙がなく、マスコミもスキャンダルを挙げられないと嘆いているらしい存在。

 

人格は知らないが、少なくともこの人が総理になって明確に皆の暮らしが良くなったのは事実だ。

 

ともかく、話を聞く。

 

「まず君たちが見てきた魔界だが、あれは東京のなれの果てだ。 十八年前にある事件……今では東京受胎と呼んでいるが。 それが発生した。 具体的に何が起きたのかは、今でも分かっていない。 分かっているのは、東京都がまるごと住民ごと消滅したということだ」

 

「住民ごと……!?」

 

「不可解ですね」

 

そもそもだ。

 

まとめて東京が消し飛んだというのであれば、今の東京は何だ。

 

磯野上は、この様子だと知っているな。

 

聖女とか言われていたのと、何か関係をしているのかも知れない。

 

ともかく、順番に越水長官が話してくれる。先に話の内容をまとめていたのか、とてもわかりやすかった。

 

「東京が消滅して、人々が消え去り、元の東京が砂漠になった。 其処までは事実だ。 だが、次の瞬間、一神教の神であるYHVHがある事を行った。 シャカイナグローリーと呼ばれる歴史的にもまれに見る特大の奇跡の行使だ」

 

「それは一体……」

 

「それによって、東京は住民ごと瞬時に復元された。 ただし、位相を隔てて、滅びた東京と、奇跡によって作られた東京が同時に存在することになった。 それに……だ」

 

一神教の神は公平ではなかった。

 

自分に都合が悪い日本神話の神々や、仏教の護法神。

 

更には対立する勢力の人間。

 

そういった者は、よみがえらせなかったという。

 

それもあって、東京に主戦力を集中していた日本は大打撃を受けた。特に東京の守護をしていたデビルサマナーの組織である八咫烏は、まとめて消滅するも同然の打撃を受けたらしい。

 

ああ、それがユヅルが言っていた奴だな。

 

そしてツバメさんがそれに関係するらしい事も言っていた。本来は葛葉ライドウの分家の人間に過ぎなかった、と。多分、だから東京におらず、生き残れたのだろう。

 

「直後、本当の東京にて世界の神々を支配下に置いていた一神教の勢力は、東京受胎を引き起こしたと思われる……実際にはそうかは分からないが、ともかく大魔王に戦いを挑むことにした。 我々も戦力のほとんどを失っていたが、それでも状況が状況だ。 残り少ない戦力を……そこにいるアオガミ型神造魔神を中心として送り込んだ。 だが、その後その全ての連絡が途絶えた。 大魔王が勝利した、という割には謎だらけだった。 しかしようやくアオガミ型神造魔神を回収し、その記憶領域を参照したことで、謎が解けた。 どうやら東京受胎の発生に大魔王は関係していない。 他にも色々と、こちらでも情報を得られた。 これで動きやすくはなる……」

 

ふっと、越水長官が笑う。

 

まだ四十代という話らしいが。

 

それにしてはあまりにも老獪に見える笑みだった。

 

「そ、それで僕たちはどうすれば」

 

「現時点でするべきことは、偽りであろうとも、東京を守ることだ。 奇跡によって再構築され、一神教の神によって都合良く調整されたとは言え、それでも東京は東京、一千万都民は一千万都民だ。 元の東京は魔界と化し、今では多数の悪魔が徘徊している。 夏目煌くん。 君たちが通ってきた辺りは、魔界でももっとも安全な地域だ。 他の地域は、あの辺りとは比較にならないほど魔の勢力が強い。 幸運だったな。 アオガミ型神造魔神の力があったとしても、他の地域であったら生きてなど帰れなかっただろう」

 

「……」

 

それは、そうかもしれない。

 

アオガミと合一していると、力がどんどん上がっていくのが分かった。逆に言うと、最初は極めて悪魔からの視点から見れば非力だったのだ。

 

何よりジョカとやりあってみてよく分かった。

 

高位の神魔の実力は現時点でとても手が届く次元ではない。そんなのが、魔界にはうようよいるのだろう。

 

「敦田ユヅル」

 

「はい」

 

「君は今回の魔界探索で、大きな功績を挙げた。 後でベテル日本支部で温存していた強力な霊獣を渡そう。 非常に献身的で優秀な霊獣だ。 助けになるはずだ」

 

「ありがとうございます!」

 

気持ちの良いユヅルの礼。

 

煌については、自室にアマラ輪転炉を貸し出してくれるという。

 

いつでも魔界に行けるように、更にはアオガミと連携できるように、ということだ。それはとてもありがたい。

 

煌については、とにかく今は目立たないように。何かあったら力を借りると言われた。

 

頷く。

 

そして、研究員の一人を呼び止めて、話をする。

 

「魔界で回収した遺品です。 魔界に最近落ちた人のものかと」

 

「これは……ありがとう。 科捜研に回して、被害者を特定できたら遺族に引き渡すようにしておくよ」

 

「お願いします」

 

「感傷かしら?」

 

ヨーコが皮肉交じりに言うが。

 

煌は静かに目線が高くなったヨーコに返す。

 

目線が変わったのは、今は合一していないからだ。合一している時は背が伸びていたし、何より浮遊して移動していた。それもあって、ヨーコの背がかなり女子としては高い事を、今は思い知らされる。

 

「何かしらの恩を作れば、役に立つ可能性はある。 実際魔界でも、何度か経験をした」

 

「ヨーコさん。 そんな風に露悪的に言わなくても」

 

「聖女さん、今相手にしているのは生半可な覚悟ではひとたまりもない輩よ。 ただ……煌は話していて面白くてね。 きちんと筋が通ったことを言うから、敢えて話しているの。 面白いし頭の回転が早いのも分かるしね。 話しても無駄な相手には、話なんかしないわ」

 

磯野上へのヨーコの返事は、ものすごく冷え込んでいた。

 

イチロウが首をすくめている。ヨーコがイチロウに向けている視線は、人間に対するものじゃない。

 

それくらい、冷淡なものだった。

 

それから、一旦解散となる。

 

磯野上とユヅル、ヨーコとイチロウを交えて、話を軽くしておく。

 

「あの様子だと、何がいつ起きてもおかしくない。 僕は一度寮に戻ってから、少し魔界でイチロウと鍛錬をする。 磯野上さんは戦いは?」

 

「悪魔相手でも自衛は出来るわ。 それと回復の力は任せておいて」

 

「回復の力ね……」

 

「世の中にはヒーラーとか名乗っている人たちがいるけれど、それとは違う力よ」

 

まあ、磯野上は嘘をつくようには見えない。

 

ユヅルも誘うが、断られた。

 

「僕は預かった霊獣の調整を自分でしたい。 悪魔は道具ではなくて、意志を持った存在で、ぞんざいに扱うことは許されない。 ましてや日本のデビルサマナーに長らく仕えてくれた存在となるとなおさらだ」

 

「ヨーコさんは?」

 

「私は忙しいのでね。 遠慮させて貰うわ。 其処の子が、少しは役に立つ可能性があればいいのだけれどね。 貴方なら、役に立てるように出来るかしら」

 

鼻で笑って、ヨーコが行く。

 

磯野上も戦闘は出来ても攻撃向きではないか。だとすると。

 

少し考えてから、昨日と同じように寮に戻る。イチロウは、昨日よりははしゃいでいなかった。

 

寮に戻って夕食を取ってから、既に据え付けられていたアマラ輪転炉を用いる。これはとても便利だ。

 

瞬時に魔界に出られるし、研究所でアオガミとも合流できる。

 

既に話を聞いているが、便利極まりないこともあって、自衛隊の駐屯所など都内の要所に設置しているらしい。

 

越水長官は出来る人物らしいので。いざという時のための対策をしっかりしていると言う訳だ。

 

また神谷町近辺を使う。

 

この辺りはあの警察署に巣くっていた連中の残党がまだいる。それに、である。

 

呼び出すのは、脅かすだけの妖怪。

 

明らかに今風の幼い女の子が出現したのを見て、イチロウはえっと声を上げていた。実際問題、悪魔と言われなければ、その辺の幼稚園児くらいに誰もが思うだろう。

 

「煌ちゃん、この子を脅かすのが目的じゃないんだね」

 

「ああ。 イチロウの訓練だ。 イチロウ、この子は悪魔だが、見たとおり見かけは人間とほとんど大差ない」

 

「え、おお。 こんな子が、悪魔!? だ、大丈夫なのか」

 

「問題ない。 最悪の場合も僕の内部で再構築できる」

 

すげえなと、イチロウが多少呆れ気味に言うが。

 

今問題なのはそこじゃない。

 

何かを守るという段階で、的確に行動できるか。その訓練を、失敗が出来る煌の手持ちでやるのだ。

 

「この子を本当の人間だと思ってくれ。 そしてこんな悪魔から見て弱そうな人間が、うろついていれば……」

 

言葉が終わる前に、すぐに餌に悪魔が食いついた。

 

大型犬くらいある悪魔が、速攻で襲いかかってくる。勿論大型犬なんかよりも遙かに強いが。それでも悪魔としては雑魚も雑魚だ。

 

身動きできなかったイチロウ。

 

人間でさえ、ナイフを持った相手が襲いかかってきたら護身術の経験があっても逃げろと言われるくらいである。それより素早く動く悪魔だったらどうなるか。

 

目の前で、脅かすだけの妖怪が、喉笛に食いつかれて。それで。

 

悪魔が食いついたまま脅かすだけの妖怪を引っさらっていこうとするが、其処を煌が斬り伏せていた。

 

首を押さえている脅かすだけの妖怪。体が壊れた様子はない。

 

煌の能力上昇に伴って強くなっているのは知っていたが、思った以上に頑丈になっているか。それともこの妖怪、底が知れないし、この程度は全然平気なのだろうか。

 

イチロウが真っ青になってガクガク震えているのが分かる。

 

守れないというのは。

 

こういうことだ。

 

今は、たまたまこの子だったから良かった。そうでなければ、命が一つ消し飛んでいたのだ。

 

念のため回復の力を使う煌。それを見て、イチロウは完全に膝が笑っているようだった。

 

「い、一瞬じゃないか……」

 

「一瞬だ。 危険があると判断したら、既に悪魔を展開していた方が良い。 ユヅルに聞いたが、悪魔を展開するだけで消耗するらしいな。 それでも、こういう場所ではやった方が良い」

 

「……っ」

 

生唾を飲み込むイチロウ。これはすぐには二度目は無理だな。

 

イチロウが落ち着くまで、以前ユヅル達がシェルター代わりにしていた地下駐車場に移動する。持ち込んだコーヒーを渡す。コーヒーは嫌いではないらしいから。

 

やはり予想通りだった。多少は経験を積んだが、それでもいきなり実戦は無謀すぎる。ましてや誰かを守るなんて。

 

だから、目の前で経験しておくべきだったのだ。

 

そうでなければ、パニックになるだけ。全く動けなかっただろう。その予測は当たった。

 

最初から戦えた煌の方が異常。

 

それがわかりきっているから、最初に現実を見せなければならない。

 

イチロウにトイレを済ませるように言っておく。青ざめてこちらを見たが、フルパフォーマンスを発揮するためだと説明。

 

頷くと、イチロウは無言で行ってくる。マーメイドを貸そうかと思ったが、流石に気まずいか。マンドレイクを出す。

 

トイレを済ませてきたイチロウと一緒に、外に。

 

また、脅かすだけの妖怪に出て貰う。無防備にとてとてと歩いて貰うと、即座に食いついてきた悪魔が襲いかかる。

 

今度は大型の猿の悪魔だ。

 

前に倒したのは日本系だったが、今度は中華系のようである。いずれにしても牙をむいて、脅かすだけの妖怪に躍りかかる。

 

イチロウは、また動けなかった。

 

イチロウの目の前で脅かすだけの妖怪が猿の悪魔に押し倒された。脅かすだけの妖怪の首筋に食いつく猿の悪魔を。即座に煌が斬り伏せる。

 

ぱんぱんと砂を払いながら、立ち上がる脅かすだけの妖怪。

 

回復を掛けておく。やっぱりちょっと首に傷がついているだけ。見た目より遙かに強い。底が知れないなと、煌は感心した。

 

少し心配そうに、脅かすだけの妖怪はイチロウを見て。それから煌に言った。

 

「煌ちゃん、ちょっと厳しすぎるんじゃないのかな。 イチロウちゃん、あんまり大丈夫そうじゃないよ」

 

「何時何が起きてもおかしくない状態で、イチロウは人々の役に立ちたいと言っている。 それなら、先に守れなかった場合は何が起きるかを見せておかないといけない。 その時動ける必要もある」

 

「うーん、そうだけれどさ」

 

「私が次はやりましょうか」

 

マーメイドが申し出てくる。人間体になる事も可能らしい。

 

だが、今はまだいい。

 

イチロウは多分だけれど、同年代に見える相手には萎縮する。話を聞いていて分かってきた。

 

多分だけれど、家庭に問題を抱えているタイプだ。

 

本当は明るく振る舞っているだけで、内気で気弱なんだ。

 

だからこそ、何かの役に立ちたいのだろう。

 

「イチロウ、今日はこのくらいにするか?」

 

「い、いや! 今度こそ、今度こそ! もう一回頼む!」

 

「分かった。 気が済むまでやろう」

 

また、脅かすだけの妖怪に、その辺りを適当に歩いて貰う。やはり、すぐに襲いかかってくる悪魔。

 

今度は人面の蛇だ。四メートルくらいはある。

 

本来このサイズの蛇は、毒でも持っていない限り人間を殺すことは不可能だが、それでも悪魔だ。此奴は話が違ってくるだろう。

 

凄まじい勢いで、脅かすだけの妖怪に襲いかかる蛇。

 

脅かすだけの妖怪が、イチロウを見て、助けてと叫んだ。

 

怯えきった表情。

 

何度も助けられなかった事実。

 

それが、イチロウを突き動かした。

 

「アイトワラス!」

 

即時の反応で、アイトワラスが火球をたたき込む。蛇の悪魔に直撃。全身が火だるまになり、悲鳴を上げながら転がり回る。

 

更に悪魔を出すイチロウ。

 

飛び出したのは、大型の犬の悪魔だ。いや、あれは。

 

狛犬か。

 

狛犬は大陸から話だけ伝わった獅子つまりライオンが、形を変えながら守り神として発展していった存在である。その途中の形態が、沖縄にシーサーとして残っている。

 

いずれにしても元獅子だが、それでも犬としての存在は、人の守護にある。

 

飛びかかった狛犬が、燃え上がる蛇の悪魔の首元に食いつくと、一気にねじり伏せる。更にアイトワラスが飛びかかって、狛犬と一緒に噛みついた。小さくても龍だ。程なくして、蛇の悪魔が力尽きて消えていった。

 

「イチロウちゃん、守れたね」

 

脅かすだけの妖怪が言う。

 

肩で息をつきながら、親指を立ててみせるイチロウ。顔は見えなかった。歓喜に満ちているのか、それとも。

 

咳払いすると、イチロウにも回復の力を使う。

 

一度だけの成功では駄目だ。成功体験を積んで行く必要がある。

 

それに悪魔を倒すと、その力を取り込んで力が上がるのは、ナホビノとなっている煌だけではないらしい。

 

前にマガツヒという言葉を聞いたが。現在三次元世界に出現している悪魔は、主にマガツヒを実体化に用いているらしく。悪魔を倒すと、それは倒した存在……人間にも……還元されるそうだ。

 

つまり、悪魔を倒せば強くなれる。そして今は力を少しでも上げておいた方が良い。見境なしに悪魔を襲うのは問題だが、襲ってくる悪魔を返り討ちにするなら別に構わないだろう。そういう悪魔は魔界に迷い込んでしまった人間を見境なく襲うことも確定だからだ。

 

何度か同じようにやる。イチロウの意欲は強くて、最初の成功以降は明らかに反応速度が上がった。

 

それでも失敗は何度かしたが、気迫が変わっている。十数回もやると、反応速度が違ってきた。慣れてきたのだ。

 

しばらくして、選手交代。

 

マーメイドに人間体になって貰う。

 

翠色の美しい髪を持った、とにかくはかなげなセーラー服の女性に変化するマーメイド。顔なんかは変わっていない。ただ。二足で歩くことも、その気になれば出来ると言うことだ。

 

ただこれは、煌の力の上昇を受けて、眷属として力が上がっているから、かもしれなかった。

 

それを見て、イチロウはやっぱり気後れするようだが。

 

咳払い。

 

誰でも守れるようではないと意味がないのだ。

 

「イチロウ、踏ん張りどころだ」

 

「おう! それで、戻るように言われた時間まで、後どれくらいあるんだ!?」

 

「三十分くらいだな」

 

「上等! ええと、マーメイドさん、だな。 絶対に守る!」

 

マーメイドは頷くと、そのまま歩き始める。煌の肩に乗った脅かすだけの妖怪は、手をかざして様子を見ていた。

 

来たな。

 

マーメイドに襲いかかったのは、いかにも獰猛そうな……でもなんだかよく分からない悪魔だ。四足獣だが、形が定まっていない。或いは、とても古い悪魔が不完全な実体化をしているのかも知れない。

 

イチロウが即応。

 

明らかに動きが速くなっている。

 

炸裂するアイトワラスの火球が、よく分からない獣を怯ませる。狛犬がその瞬間に突っ込んで、強烈な体当たりを入れていた。

 

怯んだ獣の悪魔に、アイトワラスと狛犬が連携して襲いかかる。

 

ほどなくして、辟易した悪魔が逃げようとする。

 

「くそ、逃がすな!」

 

「イチロウ!」

 

「えっ……!?」

 

イチロウの背後から、巨大な口だけしかない悪魔が、襲いかかる。

 

即座に煌がイチロウを抱えて飛び退き。悪魔が口を閉じる前に、脅かすだけの妖怪が、わっと悪魔の耳元らしい場所で叫ぶ。

 

口だけしかない悪魔が困惑して右往左往する中。

 

煌は印を組むと、全力での雷撃をたたき込む。こんな強力な奴が、まだ残っていたのか。獣の悪魔を追い払ったアイトワラスと狛犬、更に人魚に戻ったマーメイドが、一斉に仕掛ける。

 

マーメイドの放った水が、巨大な口を塞いで。

 

更には、よってたかって狛犬とアイトワラスが口の悪魔に襲いかかっていた。短いが激しい戦いの果てに、悪魔が消えていく。とどめとなったのは、煌の手刀による斬撃だった。

 

イチロウはへたり込んでいたが。地力で立ち上がる。手を貸さなくても大丈夫だった。真っ青になって、全力で息をついていたが。間近に迫った死に、恐怖した。それは自然なことだ。

 

「はあ、はあっ……! 煌、おまえこんなのと戦ってたのか」

 

「そうだ。 しかも越水長官の話だと、この辺りの悪魔はまだ雑魚も雑魚らしい」

 

「冗談じゃないぜ。 でも……」

 

「イチロウちゃん、人を守れるために動けるようになったら、次は自分の周りも確認しないと駄目だよ」

 

いつの間にかイチロウの側にいた脅かすだけの妖怪が、丁寧に諭す。

 

不思議と説得力のある言葉だったのか。

 

イチロウは、しばし黙り込んだ後、分かったと言うのだった。

 

これはいずれにしても、手札を増やした方が良いだろうな。

 

明日にでも、越水長官に話しておくべきだろう。イチロウは今日の経験で、一皮むけたはずだ。なんというか、これで何かどうしようもない悲劇を防げたような、そんな気がするのである。

 

どうしてかは分からないが。

 

ただ、これで。イチロウが全くのド素人から、駆け出しのデビルサマナーになれたのは、事実の筈だ。

 

帰りに、友好的な悪魔を見繕って、イチロウに仲間……仲魔だったか。にするように促す。

 

イチロウもやり方を習っていたのだろう。下級の悪魔数体と交渉して。何体かには袖にされたが。

 

極弱い悪魔を数体、仲魔に出来たようだった。

 

龍穴を通って戻る。

 

そして研究所で話したのだが、渡されているハンドヘルドコンピュータに搭載されている「悪魔召喚プログラム」には悪魔合体の機能がついているそうだ。煌が知っているソピアーのいる場所ほどの高機能ではないようだが、マッカを消耗してある程度色々な機能を利用でき、融通も効くらしい。

 

なんでも邪教の館は例のシャカイナグローリーなる奇跡とやらの時に全て消し去られてしまった。

 

そのため色々な補助機能がある邪教の館を使えなくなってしまい、今は悪魔召喚プログラム頼りなのだとか。

 

機能は制限されるが、それで出来ることは多い。多いが、それでも足りないのだ。

 

「凄いプログラムだな」

 

「だよなー」

 

「二人とも、時間ぴったりまで修練していたんだな」

 

ユヅルが来る。磯野上も。軽く状況を報告する。イチロウが守って戦えたことも話すと、ユヅルはそうかとだけ言った。

 

後は、寮まで戻る。明日は土日なので、その間に修練をしておきたいとイチロウが言うと。ユヅルは心配そうにしたが、煌が問題ないと告げると、それでも何か言いかけた。

 

ならば、磯野上も一緒に魔界で鍛錬しないかと誘う。

 

来週にはヨーコが縄印に転校してくるらしく、動きやすくなるはずだ。それまでに、イチロウがヨーコに舐められない状態まで持って行きたい。舐める、は言い過ぎか。ヨーコが戦力外と見なさない程度にまでは仕上げたい。

 

そうすれば、ある程度不慮の事態にも対応できる。

 

八咫烏の生き残りをかき集めても、東京にいるデビルサマナーはごく少数。あのツバメさんは、忙しくてずっと魔界に潜りっぱなしと越水長官に聞かされている。あの八雲という男を追っているためだろう。そしてあの人を除くと、戦えるデビルサマナーはほとんどいないそうだ。

 

つまり誰にも頼れない。

 

自分たちでやるしかないのだ。

 

自衛官達にも話を聞いたが、対悪魔用に調整したアサルトライフルでも、対応できるのは雑魚も雑魚まで。

 

対戦車ライフルや戦車砲に耐えるどころか、核攻撃に匹敵する火力を使う悪魔もいるということで。

 

支援は出来るが悪魔を根絶するのは難しいと言っていた。

 

ならば余計に、煌も含めて、悪魔と戦える全員が強くなるしかないのだ。特にイチロウは急務である。

 

「磯野上さんには、回復の力を実際に見せてほしい。 戦闘での手札もみたい」

 

「わかった。 でも、もう秘密も共有したし、名前で呼んでくれない?」

 

「分かった、タオさん。 以降はよろしく」

 

その場で連絡先を交換する。

 

イチロウは大喜びしていたが、煌はそれを見てなんとも思えなかった。

 

別に嬉しくもなかったし。

 

前から話す機会はあったので、今更だとしか思わなかった。

 

この辺り、やはり色々欠落しているのが分かる。それはもう、仕方がないことだった。







まずは身を守るところからです。

原作でのイチロウ君はそれすら出来ずに、失態を重ね続け、心の負担を増やし続けました。

無力感が限界に到達して、結果としてあんな闇落ち(ある意味光落ち?)したのだと思います(というか、そうでもないと高いところでブツブツ一人でつぶやいていきなり人相から変わる理由がよく分からない……)。

復讐の女神編でのイチロウくんの変貌はみんな大好き自分も大好きなあいつのせいではありますが、それも結局つけいる隙があったからの結果。

それらの問題を先に解決したらどうなるか……?

この作品は、そういう話です。




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