真女神転生VV二次創作 牛蛇相克   作:dwwyakata@2024

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品川駅は利用していたことがありますが、色々不便で苦労した記憶があります。渋谷駅とか新宿駅みたいなダンジョン系ではなくて、単純に色々不便なんですよねえ……

原作でも此処での惨劇から、魔界での戦いに巻き込まれていくことになります。

ちなみに此処で最初に暴れたのは、本作ではグラシャラボラスです。

原作では名言はされていませんけれど、恐らくは復讐の女神編ではそうだったんでしょうね。






1、惨劇は唐突に

品川駅が、大混雑している。

 

基本的に巨大な品川駅だが、学校と寮の間をいくために使っている巨大な連絡通路が、完全に封鎖されていた。

 

ここは品川駅の内部中枢とも言える交通の要所であり、封じられると厄介だ。それなのに封じているというのは、相当な事態である。

 

慣れたサラリーマンは既に別の通路に向かっているが。どうにも様子がおかしい。

 

これは、血の臭いだ。

 

ユヅルが眉をひそめる。

 

「何かあったようだな」

 

「血の臭いだ」

 

「えっ……」

 

煌が指摘すると、タオとミヤズが声を上げる。

 

女性の方が血の臭いには敏感だと思ったのだが。

 

まあいいか。

 

奥の方には、ブルーシートが貼られていて、かなりの数の警官が出てきている。これは、ただごとではないな。

 

カラーコーンもおかれていて。

 

慣れたサラリーマンは現場から離れているが。

 

学生はわいわいと集まっては、事故だの事件だのと騒いでいるようだった。

 

ユヅルのスマホに連絡が来たようだ。

 

ちょっと行ってくると言って、ユヅルが消える。あの表情、何かあったな。視線でそれを見送ると、タオもちょっと行くねと言って、その場を離れた。

 

ミヤズと二人っきりになる。

 

ミヤズが不安にならないように振る舞うべきだろうか。

 

そう思ったが、ミヤズは見かけよりずっと肝が据わっていた。

 

良くブラコンだの兄貴に守られてばかりだのと陰口をたたかれるという話だったのだが。

 

実際に近くで接していると、非常にしっかりしている。

 

「時々お兄ちゃんがあんな風にいなくなるんです。 ここ数日は特に多くて」

 

「そうなのか」

 

「はい。 何か危ないことに巻き込まれていないか、心配です」

 

「……」

 

声が聞こえてくる。

 

死体を見た。

 

バラバラに食いちぎられていて、人の死に様じゃなかった。

 

また動物園から猛獣が逃げ出したらしい。

 

またか。この間は虎だっただろ。今度はライオンかよ。

 

そんな無責任な声が聞こえてきている。

 

苛立ちを覚えているのは、むしろミヤズの方のようだった。

 

「人の不幸を笑って、何を考えているんでしょうか。 いつ自分が被害者になるかも分からないのに」

 

「そうだな。 僕もそう思う。 自分は安全圏にいると思い込んでいる、無責任な考えだ」

 

「……夏目先輩、お兄ちゃんともタオさんとも連絡が取れません」

 

「分かった。 寮に戻ろう。 僕だと何も出来ないかもしれないが、一人でいるよりは安全だろう。 二人が何かしらの事をしているとしても、ここで僕たちに出来ることはないし、事件現場の至近に突っ立っている方が危険だ。 人間が多い場所を通って、寮に戻るのが一番安全だろう」

 

そういうと、ミヤズも頷く。

 

殺人事件があったかどうかまでは分からないが、ざっと見ただけで警官が十数人出てきていて。

 

こんな大きめの通路を塞いでいる状態だ。

 

ただごとじゃない。

 

それに警官が連絡をとりながら、辺りを確認もしている。SWATという単語も聞こえた。つまり、それは事件が解決していないことを意味している。

 

猛獣か殺人犯か。

 

本当に殺人かは分からない。

 

ただはっきりしているのは、ただごとじゃないし。

 

平和になれきって自分には何もおきないと思い込んでいる周りの人間と違って、ここにいるのは危ないと判断するくらいのことは、煌にも出来ていた。

 

はて、どうしてか。

 

煌は寮で一人暮らしをしているが。

 

今までそんな危険な目に遭ったことがあったか。

 

ともかく、ユヅルとタオのスマホに、先に寮に戻るとメールを入れておく。スマホの電源を切っているようだが、それでもメールそのものは要件が終われば届くだろう。電子メールというのはそういうものだ。

 

品川駅を出るが、そうするとまた面倒なことになる。

 

何カ所か、また通路が封鎖されているのだ。品川駅の裏道も封鎖されているようである。サラリーマンが大回りの道を早くも選択し始めている。だが、それはかなりの距離を通らなければならない。困り果てた顔のミヤズ。この子はあまり体が丈夫ではない。

 

警察が、危ないから通らないようにと声を掛けてくる。

 

品川駅近辺でも、結構人通りが少ない道は多く。

 

裏路地に入ると、明らかに様子がおかしい人間がいたりする。

 

日本でない場合は、裏路地なんか入ったら生きて帰れないケースも珍しくはないらしいのだが。

 

ここは流石に日本だ。

 

其処までの事は、まず起きないと見て良いだろう。池袋辺りだと危ないという話も聞くが。

 

問題はその先である。

 

封鎖されていない通路をしばらく歩いてやっと見つけた。

 

だが、それは。

 

なんというか、「高さ制限1.5m」とか書いてある。高架下のいかにもなトンネルである。

 

嫌な予感がビリビリする。

 

ミヤズに言う。

 

「ちょっと見てくる。 もし三十分僕が戻らなかったら、3ブロック前にいた警官に話をするようにしてくれ」

 

「夏目先輩、無理をしてはいけません」

 

「僕も運動神経は良くないどころか悪いが、ここに体が弱いミヤズさんを連れて行くわけにはいかない。 ともかく、すぐに様子を見てくる。 嫌な予感がするんだ」

 

ミヤズは頷くと、トンネルから離れる。

 

もたついていると日が暮れる。

 

そうなるともっと危ないだろう。

 

物騒な事件が立て続けに起きているのだ。

 

ただ、ミヤズは思った以上にしっかりしている。敦田兄妹と一緒に帰っているときは、あまりそうは感じなかったのだが。

 

こうしていると、思っていたよりずっと逞しいのかもしれなかった。

 

ともかくだ。

 

トンネルに入る。

 

あまり長身ではない煌でさえ、身をかがめなければならないくらい狭いトンネルだ。幸い高架下の、それほど長いトンネルではないようだけれども。

 

前から声がする。

 

「えー、噂の化け物が出たというトンネルに来ています! 最近物騒な事件ばかり起きていて、いつも虎の仕業だの嘘くさいですよね! 化け物を見たって話がいつも出ている事もあります! 警察はきっと何か隠して……あいたっ!」

 

なんだ。

 

トンネルは内部に明かりもあるので、見えてきた。

 

男子高校生二人。

 

一人は、見覚えがあるな。

 

確か校門で見かけた、制服を着崩して、帽子を被っていた生徒だ。もう一人はやれやれと言いながら、それをスマホの録画機能を使って撮影している。今痛がったのは、帽子の男子生徒が、この狭いトンネルで頭をぶつけた結果のようだ。

 

帽子の生徒は声は良く張っている。

 

とにかく調子の良さそうな奴だが。

 

もしも化け物が本当に出たらどうするつもりなのか。

 

「さて、トンネルの奥に……」

 

「おい、何をしている!」

 

鋭い叱責。

 

先に声を掛けた人間がいる。

 

というか、ユヅルだ。

 

ユヅル、と声を掛けようとしたが。明らかに空気が張り詰めている。ユヅルが剣呑な表情で、男子生徒二人に歩み寄ろうとする。その側に、なんだ。

 

何かいるような気がするが、それがなんなのかは分からない。

 

「ここは危険だ! さっさと離れるんだ!」

 

「げっ、完璧超人学級委員長!」

 

「敦田ユヅルだ。 とにかく危ないから、ここを出ろ!」

 

「警察は別に検問なんかしていなかったぞ!」

 

反論したのは、帽子の生徒ではないほうだ。

 

だが、険しいユヅルの表情に即座に黙らされる。

 

声を掛けようかと思ったのだが。

 

そうする暇もなかった。

 

がつんと揺れが来る。

 

元々身体能力は低いのだ。煌はひとたまりもなく転倒。地震かこれ。だが、それにしては異様だ。

 

揺れが地震のものじゃない。

 

これでも地震大国の出身だ。それが普通ではない事くらいはすぐに分かる。揺れはまるでシェイクするようで、即座にトンネル内の電気が消えていた。

 

「ユヅル!」

 

「煌か!」

 

「ミヤズさんとともに帰宅路を探していて、ここしかなかった! ミヤズさんには、何かあったら3ブロック前の警官にいうように話をした!」

 

「助かる!」

 

ライトが落ちてきて、帽子の生徒が情けない悲鳴を上げた。

 

煌も立ち上がろうとしてできないので、情けないことにはあまり変わりはないか。

 

ただ、この揺れの中でも、平然としているユヅルは身体能力からして違うのが分かる。ともかく、トンネルから出ることだ。

 

だが、その瞬間。

 

衝撃が走っていた。

 

 

 

夢を見た。

 

とても古い時代の人々が生活している。

 

農業、それも原始的なものだ。

 

農業をしている人たちは、蛇の像を拝めていた。いや、蛇なのか。蛇の意匠がある人の像……神像というべきだろうか。

 

作物などを捧げて、何か祈りを唱えている。

 

巫女らしい女性が、何かしらの指示を出して。

 

それで作物をどう育てるかを相談しているようだ。

 

蛇の神。

 

そんな声が聞こえた。

 

また、違う光景が映し出される。

 

馬が箱、いや台車を引いている。台車には人が乗っていて、武装していた。

 

見たことがある。

 

古い時代、馬というものを人間が乗りこなすのは困難を極めた。鞍の発明がされて、やっと馬に乗れるようになったが。

 

その鞍が発展し。

 

「鐙」が登場するまで、鞍の上で人間は踏ん張ることが出来ず。馬に乗ることは極めて困難だったし、更には馬に乗って戦うことが出来る人間は極めて少数だった。結果として馬に乗れる兵士はどこでも重宝されたし。馬に乗って戦える兵士となると、どこでも食べるのに困らなかった。

 

東洋では三国志の時代が終わった直後くらいの西晋にこのブレイクスルーが起き。

 

西洋では東洋から鐙が伝わるまで、ずっと苦労が続いたのだが。

 

それはそれとして。

 

馬はかなり古くから軍事的に使われた。

 

いわゆる生物兵器、だったわけだ。

 

そして馬に乗れないなら、車を引かせればいい。

 

そういう発想から登場したのが、この「戦車」。現在における戦車を意味する「タンク」ではない。古代における戦車と言えば、「チャリオット」だ。

 

平地でしか使えない、小回りが利かないなどの不便があるが。何しろ馬の巨体、それによる速度、何より安定した台車の上から長柄や弓で相手を一方的に攻撃できる。平地での戦闘ではそれこそ歩兵を圧倒的に蹂躙する破壊力があり。

 

これを最初に使ったヒッタイトは。もっとも偉大な古代文明の一つであったエジプト文明をあっさり武力で制圧したほどである。

 

圧倒的武力による力の支配。

 

それを打ち出した存在こそが、ヒッタイトだった。

 

また声が聞こえる。

 

牛の神、と。

 

農耕と牧畜。

 

生と死の輪廻と支配。

 

知恵と武力。

 

大地と天空。

 

母系と父系。

 

それらは、蛇の神と牛の神という二つの系譜となって対立してきた。

 

それらが融和した例もある。

 

だが特に古代では、この二つの対立は極めて深刻だった。

 

古代バビロニアに残る最古の対立。

 

蛇の神の祖、ティアマト。

 

牛の神の祖、マルドゥーク。

 

この二つの激突以降、ずっとぶつかり合ってきた牛と蛇。

 

混淆と分裂を繰り返しながらも、この二つは争い続けてきた。だが、牛が一度天下をとってからは。

 

ずっと牛が、神々の主導権を握り続けてきた。

 

どうにも具体的な夢だな。

 

そう煌は思う。

 

そして、見えてきたのは、巨大な神々だ。牛と蛇。それだけじゃない。両方の性質を持った者。

 

更には、牛と牛。蛇と蛇でも争いを続けている。

 

空を覆い尽くす殺戮と破壊。

 

落ちてくる負けたもの。それは闇へと沈んでいく。蛇の方が多い。だが。それでも負けていない蛇の神もいるようだった。

 

恨めしい。

 

人間の文明の基礎を作り上げたのは我らだ。それをただの暴力で奪い取っておいて、何が神々の王だ。

 

何が法の神だ。

 

そういう恨み節が聞こえた。

 

ふと、その声に聞き覚えがある気がした。そうだ。前に見た夢。闇の中の一本道を歩いていて。

 

そして、手を差し伸べた女の人。

 

それが、こんな声をしていなかったか。

 

目が覚める。

 

そこは、明らかにおかしな場所だった。

 

 

 

体中が痛いが、それどころじゃない。これは、砂か。トンネルは半ば崩落していて、光が差し込んでいる。

 

とにかく、運動音痴の体を叱咤して、立ち上がるしかない。何度か失敗して、やっと立ち上がった。

 

呼吸を整える。

 

制服が砂だらけだ。クリーニングに出さないとまずいか。そんなことを思いながら、なんとかトンネルを這い出す。

 

あの地震?の前に三人他にトンネルにいた。

 

大丈夫だろうか。

 

ユヅルにもしもの事があったらミヤズが悲しむだろうな。それは絶対にさせてはいけない。

 

ともかく、外に這い出る。

 

そうすると、あり得ないものが見えた。

 

翼を持つ者。

 

白い服を着込んでいるそれが、あの帽子の調子が良さそうな男子生徒を、手を伸ばしてつり上げていた。

 

白い服の翼を持つ者は、顔に無機的な仮面をつけていた。

 

手を触れていないのに、帽子の男子生徒は浮き上がっていて。ばたばたもがいて、恐怖に顔をゆがめている。まあ、あんな怪奇現象に見舞われればそうなる。ともかく、身を隠す。

 

助けるどころじゃない。

 

「魔界であるダアトにどうして人間が入り込んだ。 ともかく、むやみに人が死なぬようにしなければならぬ」

 

「ひっ、こ、殺さないで!」

 

「安心せよ。 今、安全なところに連れて行ってやる。 ただ、後で色々忘れて貰う事にはなるだろうがな。 どうして迷い込んだのかは、ベテル日本支部の人間に聴取を任せることにする。 魔界では我ら天使も安全ではないのだ。 舌を噛まぬように口を閉じていよ」

 

ひゅんと、凄い勢いで、翼持つものが飛んでいった。帽子の生徒も同じだ。帽子が落ちる様子もなかった。

 

あんな動き、航空力学云々の問題じゃない。

 

明らかに異常だ。

 

ともかく、トンネルの中を確認。煌がいた辺りから煌が入ってきたトンネル入り口の方はほとんど砂に埋まってしまっている。地震が起きたときの位置関係を思い出すが、恐らく一番奥にいたのが煌だ。

 

だとすると、他二人が埋まってしまって窒息ということはないだろう。探すにしても手段がない。生きていることを願うしか今は出来ない。

 

それはそれとして、あの翼ある奴はなんだ。ドローンだのでも、あんな動きは出来るはずがない。

 

ともかく、今は少しでも、安全を確保しなければまずい。

 

周囲を見回すが、一面の砂漠だ。

 

なんだここ。

 

鳥取砂丘でも、こんな広さではない。そもそも鳥取砂丘は油断するとすぐに草が生い茂るから、有志が草むしりをしている筈だが。

 

ここは違う。

 

生物の気配が感じ取れない。

 

これでも様々な本を読んでいるから、これが異常な場所であることは一発で分かる。砂漠にしては気温が低いし、それに。

 

砂漠だからと言って、生物は普通にいる。こういう環境だと哺乳類よりも無脊椎動物の方が繁栄しているのだが。そういった生物は、砂漠でもちらほら見かけるのだ。

 

普通だったら。

 

ここにはそれすらない。

 

空を見上げると、なんだ。

 

太陽じゃないぞあれは。

 

明かりも太陽に比べると極めて弱い。それに、脈打つように光を放っている。何より近すぎる。

 

太陽が近かったら灼熱で焼け死にそうだが、そもそもここは砂漠にしては気温も日射もそれほど凄まじくない。

 

砂漠の日中は近年の東京の真夏より酷いことが珍しくもない。

 

そもそもあのトンネルの名残はあったから、多分東京であるのだろうけれど。それにしても異常だ。

 

砂漠と言っても色々あって、何も全部砂、というものだけではない。

 

岩石で不毛の地になっている岩石砂漠というものもある。

 

だが、これは全部が砂の文字通り不毛の地だ。一体ここで何が起きたのか、見当もつかない。

 

太陽がそれほど烈光を放っていないから、どうにか耐えられる。

 

そうでなければ、夜になるまで待って、それから動かなければならないが。どうも空に浮かんでいる太陽かすら分からない代物は、高度が動く様子もない。影の方向から時間とかが分かるのだが。

 

ずっと真上に浮かんでいて、それも変だ。

 

そもそもとしてそろそろ日没の時間だった筈。

 

それなのに、なんで正午に時間が巻き戻っているのか。流石に気絶していたとしてもその時間が長すぎる。

 

煌は分からない事だらけだなと思いながら、歩く。

 

ミヤズを巻き込んでいないといいのだけれど。

 

ユヅルは巻き込まれているとしても、恐らくは煌やもう一人の生徒よりは対応力もあるし大丈夫な筈だ。それについては信頼感がある。あの帽子の調子が良さそうな生徒は、ちょっとどうなっても不思議じゃない。だが、今はそれよりも、まずは周囲の情報を少しでも得ないとまずい。

 

黙々と歩いていると、何か飛んでいるのを見かける。

 

鳥のようには見えない。

 

異常な気温や熱射、それに風がないからどうにか出来るが。かなり砂が深く、ただでさえ運動音痴な煌は迅速に動けない。もしも風が酷かった場合、もうとっくに行き倒れていた可能性が高い。

 

目にも口にも砂が入って、呼吸どころではなかっただろう。

 

なんなんだここ。

 

とにかく歩く。

 

砂の緩やかな坂を歩いて行くが、程なくして。

 

空に、四つの影が浮いているのに気づいた。

 

さっきの翼がある白衣の奴じゃない。

 

翼を持っているが、人間のような。いや、それとも違う。もし人間のような存在だったら、そんな大きさの翼では空なんか飛べない。

 

過去には巨体で空を飛んだ翼竜が実在はしていたが。

 

それにしても、翼は極めて巨大だったのだ。あんなサイズの翼しかない人影が、浮いていられる訳がない。

 

太陽光かも分からない光の中で、そいつらが降りてくる。

 

「おい、人間じゃねえか」

 

「ああ、どうもそうらしいな。 また迷い込んだのかよ。 こっそりつまみ食いするようなやつもいるし、天使に渡すのもまずいんだよな」

 

「ああ、上の方は人間を無闇に殺すなっていうからな。 でもどうすればいいんだ。 とっ捕まえてふん縛っておくか?」

 

「そうだな、それが賢明だ。 逃げられないように、手足でも折っとけば良いだろ。 後はお偉いさんにでも任せればいい」

 

降りてきたのは、近くで見ると、なんだか猿みたいな顔をしていて。それでいながら全裸で全身つるつる。それも、どれもが微妙に細かい部分が違っている。

 

なんだこいつら。

 

しかも手にしている槍は、三つ叉だったり二叉だったり。肩だけ鎧を着けていたりと、装備も何もかもがちぐはぐだ。尻尾も生えているが、それも作り物くさい。

 

だがこれらが、CGだとか合成だとか、そういう存在にはとても見えなかった。幻覚だとも思えない。

 

とりあえず逃げようと思ったが。

 

この足場で逃げるのは無理だ。

 

かといって、何か喋って帰って貰うのも無理だろう。

 

困ったな。

 

そう思って、煌は相手をじっと見つめる。

 

見つめられたなんだかよくわからない連中は、困惑したようだった。

 

「なんだおまえ。 俺たちが怖くないのか」

 

「これでも悪魔様だぞ?」

 

「怖いが、かといって怖がっていても何も始まらない」

 

「……おまえ、なんだか面白い奴だな。 どうする。 これ、連れて行ったらお偉いさんが喜ぶんじゃねえか」

 

困惑しつつも、悪魔と名乗った変な連中はそんな風に言う。

 

周囲をその間に観察。

 

何か利用できるものかなにかはないか。

 

「とりあえず、手足を折ろう。 確か人間は、手足を折るとそう簡単には回復できなかった筈だ」

 

「そうだな。 逃げられると面倒だ」

 

「いたいかもしれないが、殺して食わないだけ良いと思えよ。 まあどうせ殺しても、食べるところなんて……」

 

次の瞬間。

 

悪魔と名乗った奴の一体が、雷に貫かれていた。







原作通り、魔界にこのタイミングで落ちたのは。主人公である煌くん、敦田ユヅルくん、それに太宰イチロウくんですね。

イチロウくんと一緒に撮影をしていた男子生徒は、後に無事が確認されています。本作でもそれは同じです。

まあ要領が良い奴なので、トンネルの崩落から一目散に脱出成功したわけですね。

それはそうと、運動神経は鈍いものの、煌くんの判断力は確かです。ユヅルくんに即座に状況を伝えてミヤズさんの安全を知らせ。はぐれたあとも砂漠の状況を見ながら、外を歩き情報収集する判断をしています。

悪魔に遭遇してもいたずらに恐れなかったことが、結果的に相手の戦意を削ぐことに成功し、救援の到来が間に合ったのです。



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