真女神転生VV二次創作 牛蛇相克   作:dwwyakata@2024

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しっかり仕事をしていくツバメさんこと十九代目葛葉ライドウ。

本来は八雲ショウヘイ抹殺任務を最優先なんですが、今回ばかりはちょっと放置したままでは色々まずいので、優先順位を変更して行動しています。




3、襲撃者の足跡

天王洲アイルにあいた空間の穴は、既にツバメさんが埋めたらしい。ツバメさんも、既に姿を消していた。これで、縄印は閉鎖するにしても、縄印から悪魔が大挙して東京になだれ込む事態は防げるはずだ。

 

龍穴の周囲で合流する。

 

普通、犬の鼻は臭いの新旧を嗅ぎ分けることが出来ない。これが犬にとっての最大の弱点である。

 

だがハヤタロウは既に犬の領域を超越している存在である。

 

それもあって、関係なく臭いを察知できるようだった。

 

「残念ながら、これで最後だ。 他の生徒達は、既にこの辺りにはおらぬ。 それがしには少なくとも感じ取れぬ」

 

「今アオガミさんの力で上空から観測したが、僕も同意見だ。 まずは情報を整理しよう」

 

少し不安だが、魔界で立ち話は論外だ。

 

龍穴を通じて、即座に以前確保した安全地帯に案内する。

 

タオはともかくヨーコはかなり不安なのだが。

 

ここなら、まあ大丈夫だろう。

 

悪魔達もくつろいでいる。

 

ただ、ここは。

 

以前国会議事堂近辺の魔界で展開した安全地帯とは大分違っている。辺りにはいくつか電車が散らばっていて。

 

コンテナと倉庫があった。

 

水がほしいなと思ったが、カスタマイズは出来るようで。奥に水たまりを作っておく。其処に、水を好む眷属は移動する。

 

空は日差しも優しい。

 

龍穴で回復はしたが。

 

それでも煌はともかく、人には休憩が必要だ。

 

「此処からは一緒に動くべきだ。 この辺りの悪魔の戦闘力は、以前の魔界とは比較にならない」

 

「そうだな。 あのでっかい鳥、しゃれにならねえよ」

 

「それはそうと、もたもたしていて良いのかしら? 此処であれだけ逃げ散ったとなると、後で他の人間も食い散らかされているかもしれないわよ」

 

「そんな言い方、良くないわ」

 

ヨーコをタオがたしなめるが。

 

ヨーコはそれこそどこ吹く風である。

 

やはり相性は良くないな。それにしても、ヨーコはどうしてこう、露悪的なものいいをするのだろう。

 

昔冷笑主義というのがはやったらしいが。それに近いものを感じる。

 

いや、やはり私怨がどこか透けて見える。

 

どちらかというと論理的に話すとヨーコは面白がるが。今のような感情的嫌悪に対しては、反発するだけのようだ。

 

「煌、何か意見はあるか」

 

「意見か。 ともかく、追うしかないだろう。 リリスという超大物が動いているのがはっきりしている。 ジョカのように創造神級の存在ではないが、一神教で持ち上げられ続けた大悪魔だ。 それが直に動いていたと言うことは、非常に危険な事態だろう」

 

「そうだな。 俺も……助けられる人は助けるんだ」

 

イチロウが言う。

 

かなり雰囲気が変わっている。

 

目の前で人の死をたくさんみただろうに、それでも動じていない。やはり今のイチロウは、頼りになる。

 

「煌。 外にアマノザコがいる。 気配を察して近づいてきたようだ」

 

「アマノザコが。 ガキにも襲われていたのに、大丈夫でしょうか」

 

「アマノザコは恐らく何かある。 気をつけるべきだ」

 

「それは分かっています」

 

アマノザコは江戸時代に作られた文書に登場する神格であり、歴史がないが。その設定は素戔嗚尊から生じたりだとか、天狗という種族の先祖であるだとか、色々と強力なものとなっている。

 

だとすると、ガキ程度に苦戦するはずがない。

 

「ザコちゃん、すっごい不安定な雰囲気はするけど、別に悪い子じゃないと思うけどなあ」

 

不意に話に割り込んできたのは、脅かすだけの妖怪だ。

 

誰も接近に気づけなかったようで、皆困惑している。

 

煌もこの脅かすだけの妖怪は底知れないなといつも感じているが。やはり侮れないと今も思った。

 

「そうだな。 何か知っているかも知れない。 ともかく、合流しておこう」

 

「油断だけはするな」

 

「ええ」

 

皆を促して、休憩所から出る。

 

そして、アマノザコと鉢合わせた。

 

アマノザコはやはり同一個体で間違いないらしい。煌を見つけると、大喜びした。

 

「わっ! 煌だ! 気配を感じてきてみたら、煌だった! 良かった! 地獄に仏ってこのことだね!」

 

「大丈夫なのか。 この辺りの悪魔はかなり強いようだが」

 

「大丈夫! 問題ないよ! それより、途中で人間が悪魔に引っ立てられてるのみたよ」

 

「……分かった。 場所を教えてほしい」

 

アマノザコによると、連れて行かれている人間は二十名ほどだそうだ。そうなると、助けた分。助けられなかった分と含めて、恐らく残りの大半は生きている。

 

だが、何をしに連れて行っているのか。

 

「どんな悪魔がつれていた」

 

「なんだかほとんどすっぽんぽんの女悪魔だったよ。 それで顔だけ真っ黒で、ほとんどなにもない感じだった!」

 

「それがエイシェトだな恐らくは。 エイシェトはこの辺りで何かトラブルが起きて、生徒を多数逃がしてしまった。 それで今は移動しているというわけだ」

 

「追おうぜ!」

 

イチロウが言う。

 

勿論、追わない理由はない。

 

アマノザコに、ありがとうと礼を言うと。アマノザコは照れて周囲を飛び回る。そして案内してくれるが。

 

壊れた首都高をそのまま行こうとする。

 

これは厄介だ。

 

ただ、首都高は砂を被っている場所もあるが、比較的無事な地形になっている。ただ、大量に停まったままの車が、とてももの悲しい。逃げようとした様子もなく、ただ廃車になっている。

 

本当に、誰も何も出来ないまま東京が終わった。

 

それがよく分かる。

 

逃げる暇すらなかった。

 

誰も、自分が死んだことすら理解していなかったのだろう。

 

しかも車の事を知らない悪魔が、上で我が物顔に座っていたりする。

 

それを見て、怒りを感じるのは。

 

死者の尊厳を踏みにじられているから、だろうか。

 

悪魔は襲ってくる奴がかなり多い。

 

人間だと叫んで襲ってくる。やはりエイシェトとやらが連れて行った人間を見て、殺気立っているのだろう。

 

前に落とされた国会議事堂近辺と違って、この辺りの悪魔は好戦的な奴も多く。弱い悪魔に対しては、とても強権的に振る舞ってもいるようだ。

 

回復したら力がみなぎっている。

 

これはラフムや羅刹などの力を取り込んだというのもあるだろう。まだとてもリリスなどに及ぶとは思えないが。

 

手持ちを回復させたユヅルやイチロウの悪魔も頼りになる。

 

タオは面制圧で、近づこうとする悪魔の群れを、まとめてなぎ払う。

 

恐らく呪いとは真逆の光の力だ。

 

ヨーコが使っているのとは、反するものなのだろう。

 

ともかく悪魔を打ち倒しながら進む。数は多いが、それでもギリギリどうにかなる。

 

首都高の残骸は、かなり長距離に渡って続いていた。

 

トラックがそのまま停まっている。荷台は開いておらず、恐らく内部はそのままだろう。それもまた、此処で起きた異常を示していた。

 

比較的安全な足場を探して、其処を移動していく。タオとイチロウは、まだまだ身体能力が人間の領域を超えていない。

 

其処で、煌が眷属を展開する。

 

さっき休憩した後、ソピアーのところに寄ってきたのだ。

 

それで悪魔合体をして作り出したのが、塗り壁である。

 

妖怪塗り壁は、夜道などで進めなくなる現象そのものであり、壁に手足が生えているような妖怪ではない。

 

ただ悪魔合体で作り出すと、それは妖怪となって、イメージ通りの姿になる。

 

何しろ生きていて動く壁だ。

 

場合によってはそのまま橋になってくれるし、更には体を伸ばしたりとかなり融通が利く。

 

これは助かる。

 

周囲をアマノザコには警戒して貰って、足場がおかしくなっている場所なども調べておく。

 

それで落ちたりしないようにして、できるだけ急ぐ。

 

「アマノザコ、悪魔が知恵をほしがるという話を聞いたことはないか」

 

「あー、時々聞くね」

 

「それはどういう意味だ。 僕には悪魔は充分な知恵を持っているように見えたが」

 

「ええとね、確かこんな感じ。 元々悪魔は肉体と精神があって、それぞれが合わさって完全な存在になっていたみたい。 古くはそれが当たり前で、人間でありながら神、神でありながら人間なんてのは珍しくなかったんだって」

 

周囲の警戒をしながら、話を聞く。

 

上空にいる数体のユヅルの手持ちが。辺りを見回ってくれる。

 

小さい人型はカラス天狗だろう。

 

恐らく、増えた手持ちを使って作り出した悪魔だ。

 

アマノザコとは一応、神話的には関係があるはずだが。カラス天狗は別にアマノザコを見て、どうこうと感じるものはないようだった。

 

「ところがね。 えーと十五世紀か十六世紀だったかな。 そのくらいにルールが変わって、悪魔も神も、肉体と精神が切り離されたんだって。 肉体に依存する心、精神に依存する魂がそれぞれ別になる事件があったらしいよ」

 

「十五から十六世紀……」

 

かなり最近の話だな。

 

信仰が少しずつ科学に置き換わり始めた時代だ。火薬が発明され、錬金術が科学になり。そして迷信が追いやられていった。

 

ふと、思い出す。

 

楽園追放の逸話を。

 

なんでそれを今思い出したのかはちょっと分からない。

 

側でアマノザコが小首をかしげている。

 

「どしたの?」

 

「いや、なんでもない。 人間をさらう事に、それに関係があるのだろうかと思ってな」

 

「えーと確か人間の中にその精神が宿ってるとか、そういう話だったような気がするよ。 それで神魔にとっての知恵っていうのは、その魂の事だとか」

 

「……」

 

どうも妙だ。

 

悪魔達の話を整理する限り、どうにも今のアマノザコの話は、ものすごく重要な何かにつながっているようにしか思えない。

 

首都高を進む。かなりの数の生徒が連れて行かれた跡があり、一部は負傷しているようだとハヤタロウが言う。

 

「この出血量、手当が必要だ。 それがしはできるだけ急ぐべきだと提案したい」

 

「取りこぼしがないかを常に気を配ってくれ。 多数を無理に引き立てているであれば、恐らく逃げるのはそれほど迅速には出来ないはず。 脱落者がいたら保護したい。 しかも恐らく悪魔には、多数を抱えて飛べる者はいない」

 

「ユヅル、それは誰からか聞いたのか」

 

「ああ。 なんとか話を聞けた生徒がいてな。 悪魔に引っ立てられて連れてこられたあと、あの巨大な鳥が襲ってきたらしい。 それで十何人かがちりぢりに逃げた。 その一人だ。 隠れて様子を見ていたが、恐ろしい姿の女悪魔がその巨大な鳥を追い払った後、手下らしい人型の悪魔達と、生徒を引っ立てていったそうだ」

 

空を飛べる悪魔など幾らでもいる。

 

それを考えると、その恐ろしい悪魔とやらは恐らくエイシェトだろうが。エイシェトには、人間を多数輸送できるような悪魔の手持ちや部下はいないのかもしれない。ナアマはグラシャラボラスを連れていて、あれだったら数人くらいは一気に運ぶことが出来ただろうが。

 

そういうおつきの部下か同志はいなかった、ということなのだろう。

 

「好機ではあるが、危険も大きいな」

 

「ああ。 負傷している生徒もいるとなると、引っ立てている途中で血の臭いに寄ってきた悪魔に襲われる可能性もあるし。 更には移動が遅いとキレて何人か殺すかも知れない」

 

その殺される中に。ミヤズがいないとは限らない。

 

しかもミヤズは他の生徒を庇って連れて行かれたという話である。

 

そんなミヤズは、真っ先に目をつけられているだろう。

 

首都高から、大きな橋に出た。その辺りで、脇道に一人それたらしいという話をハヤタロウがする。

 

しかもかなりの血の臭いがするということだ。

 

偵察に飛んでいた鳥の悪魔が戻ってくる。

 

以津真天という顔が骸骨になっている鳥の悪魔だ。

 

かなり古くから伝承がある日本妖怪で、翼長が五mもあるという伝承がある。打ち棄てられている死者の亡骸をみながら、いつまで、いつまでと放置されている怨念を鳴き立てる妖怪である。古くは名前が存在しなかった妖怪だが、後世になって以津真天と正式に名前がつけられた経緯がある。

 

いずれにしても邪悪な存在ではなく、死者を早々に弔えと促す存在である。

 

ちなみにユヅルがつれているのは、其処まで巨大ではなく、翼長二mほどだ。また、あっさり打ち落とされて退治されている逸話もある事から、戦闘向きの悪魔でもない。

 

「見つけた。 雑多な悪魔が集まって、宴にしようとしている」

 

「!」

 

「下手に近づくと即座に殺されるな。 どうにかして潜入するしかない」

 

「あたしやろうか?」

 

挙手するアマノザコ。

 

だが、アマノザコだけ行っても、救出するのは不可能だ。

 

策を考える。

 

アマノザコと思考をリンクすることがアオガミには出来るという。つまり居場所を正確に割り出すことが可能、ということだ。

 

ならば多分出来る。

 

役割分担を決める。

 

ヨーコが肩をすくめる。

 

他の生徒を助けに行くべきでは、というのだろう。

 

気持ちは分かるが、今殺されそうになっている生徒を助けない理由はない。幸い、近場に龍脈もある。

 

救出すれば、助けられる。

 

タオが精神集中をする。それを、ユヅルが全力で守る。イチロウと、何体かの煌の眷属が、問題の場所に近づく。

 

上から見下ろすと、確かに雑多な悪魔が集まっている。

 

恐らく隙を見て逃げ出したは良いが、負傷していたのだ。そのまま悪魔に捕まってしまったのだろう。

 

「アマノザコ、頼む。 側にまで近づいてくれれば、後は僕がやる」

 

「分かった。 怖いけど、やってみる。 あたい、役に立ってみせるよ!」

 

「頼りにしている」

 

アマノザコは何度か頷くと、崖を降りていった。さて、作戦は決めてある。ちょうど良い。人間を襲うつもりの悪魔もいるだろう。此処で始末する。

 

 

 

アマノザコは、夏目煌に出会ってから、どうにも気持ちが落ち着かなかった。

 

なんというか、他の悪魔がたまに持つような家族だとか、そういうものに感じてしまうのである。

 

よく分からない。

 

そもそも、どうしてアッシャー界に生じたのか、アティルト界では何をしていたのかもよく分からない。

 

分かっているのは、いつの間にかいて。

 

それで何かから逃げてきた、ということだ。

 

ユヅルがつれているカラス天狗というのを見て、ちょっと怖くなったのは、どうしてなのだろう。

 

ともかく今は、煌の役に立ちたい。

 

そう思って、わいわいと騒いでいる悪魔の中に潜り込む。

 

たくさんの雑多な悪魔達が、メシだ人肉だと喜んでいる。その中に、ひょいと。煌の眷属になっている、脅かすだけの妖怪が現れていた。

 

この子は名前も分からないけど、とても仲が良い友達だ。

 

わーちゃんと呼んでいる。

 

ザコちゃんと言われているが、それで不快感はない。ザコというのが、あまり良い意味ではないと知っていてもだ。

 

「なんだ、小さいのが来たな」

 

「珍しく人間を捕まえたんだ。 いつもはだいたい強い悪魔が見つけてその場で食っちまったり、連れて行ったりだからな。 これから焼き肉パーティーだぜ」

 

「心配しなくても大食いのはいないから、骨一本くらいはありつけるぜ」

 

わいわいと話している悪魔達。

 

それほど敵意はないし、わーちゃんに対しても悪魔と認識しているようだ。

 

側には水たまりがあり、補助要員としてマーメイドがついてきた。頷きあうと、奥へ。煌からの指示が飛んでくる。

 

それに従って、血の臭いをたどる。

 

見張りがいる。見張りをどうにかしてどける必要がありそうだけれど。

 

マーメイドが、側で歌い始めた。

 

耳を塞げ。

 

そう言われて、アマノザコは思わず耳を塞いでいた。

 

これは、強烈だ。

 

マーメイドはただ悲しそうに歌っているだけ。これが、どれだけ危険な歌声か、知っているからなのだろう。

 

見張りをしていた悪魔達が、そのままへにゃりと倒れる。

 

喉を押さえてマーメイドは歌っていたのにこの破壊力だ。眠ったと言うよりも、気絶させられたような感じである。

 

荒っぽい悪魔達がキレた。

 

それで、マーメイドに襲いかかるが、好都合だと煌は言う。マーメイドは怖がるフリをして、敢えて捕まりそうなところを逃げ回る。今のうちだ。

 

奥へ。

 

坂の上に丘があって、其処で人間が倒れていた。

 

斬られたのか、大量に出血している。そして、両手に剣を持った、色黒肌の恐ろしい女悪魔がいた。

 

「まだ料理の下ごしらえ中だよ。 下で騒いでいる連中は気が早いねえ。 出ていきな」

 

「煌、見つけたよ」

 

「よし、何かして気を引け。 数秒だけでいい」

 

「わ、分かった」

 

ちょっと怖いけれど。

 

あれ、なんでこんなの怖いと思ったんだ。

 

アマノザコは、適当を言う。

 

「人間が丘の上にたくさんいたよ」

 

「へえ。 なんだかさっきたくさんつれて大物悪魔が歩いていたと……」

 

「わっ!」

 

「なっ!」

 

わーちゃんが、アマノザコに注意を払った女悪魔の耳元で脅かす。その瞬間、煌が降ってきた。

 

位置を特定して、そして全速力ですっ飛んできたのである。

 

完全に意識を反らされていた女悪魔は、煌の蹴りを受けて吹っ飛ばされる。そして、ジャターユが倒れている人間をつかむと、即座に離脱。

 

更には、辺りには古空穂の矢とアイトワラスの放った火球が降り注ぐ。わいわいと騒いでいた悪魔達が、見る間に矢に貫かれ、業火に焼き尽くされる。

 

「お、おのれえええっ!」

 

飛び起きた女悪魔。

 

煌は手刀を作る。その背後に、アマノザコは隠れる。激しく渡り合うが、辺りを制圧していた射撃が終わると、既に女悪魔は一人になっていた。

 

更に煌が切りつけつつ、トロールと鬼を呼び出す。

 

それを見て、露骨に女悪魔の腰が引ける。

 

女悪魔を、脳天から雷撃が貫いたのは、次の瞬間だった。悲鳴を上げて、女悪魔が消えていった。

 

「火力また上がった? 凄い凄い!」

 

「いや、まだまだだ。 それよりも位置の特定助かった。 戻るぞ」

 

「うん!」

 

人間を助けられた事は、アマノザコには割とどうでも良かった。煌に褒められたことが、何よりも嬉しかった。

 

好きな相手に褒められた、という感じだが。それが恋人だとか夫婦だとか。そういう感じじゃない。

 

なんだろう、よく分からない。

 

ともかく、一緒に崖の上に戻る。

 

奇襲で散々に蹴散らされた悪魔の群れは全滅だ。これでこの魔界で人間を襲う悪魔は少しは減るだろう。

 

丘の上に出ると、タオという女が回復をしていた。

 

人間は瀕死だったが、それでどうにか一命を取り留めたようだ。更に、近くで見つけていた龍脈に慎重に運ぶ。板を体の下にいれて、持ち上げた。

 

揺らさないようにと、ユヅルが声を掛けていた。

 

アマノザコも、揺らさないように気をつけて運ぶ。そして、龍脈で煌は惜しみなくマッカを払って、人間を小康状態にまで戻していた。

 

「よし。 後は病院に任せよう」

 

「上では問題は起きていたか」

 

「かなりの数の悪魔がこちらを伺っていたな。 人間を食べる好機だと思ったのだろう。 僕が周囲を警戒して隙がないと知ると、舌打ちして散っていった」

 

「徹底的にやらないとこの辺りの魔界に落ちた人は助かりそうにないな」

 

煌がユヅルとそんな話をしている。

 

そして、一度龍穴で、向こうに戻ったようだった。

 

アマノザコは、此処で警戒を続けているタオに聞いてみる。ヨーコは話しかけても冷たい目で見るだけでほとんど答えてくれない。

 

タオは親切に答えてくれるので話しやすい。

 

「ねえねえ、なんで関係ない人間を助けたの?」

 

「人間って生き物は、一人では服も作れないの。 人間は服を着て過ごすのが前提の体をしていてね。 社会を作れないと、人間は残念だけれど生きていけないからだよ。 助け合いは必須なんだ。 他の動物とは其処が違っているの。 どんなに強い人間でも、一人では生きていけないのが現実なんだ」

 

「そっか、魔法とかないんだよね。 あたい達、そんな人間の思念に依存している訳か……」

 

神魔は人間の思念に依存する。

 

そうでなければ、アマノザコなんて存在していない。

 

人間は脆弱だとか笑う神魔は幾らでもいるけれど。

 

その脆弱な人間がいなければ、神魔は際限なく弱体化する。人間が一人残らずいなくなったら、神魔は滅びて消え去る。一蓮托生なのだ。どれだけ馬鹿にしていても。アッシャー界に出てきた時は、人間よりどれだけ強くて、天変地異だって引き起こせても、だ。

 

アマノザコも知っている。忘れられた結果、悲しいくらい弱体化した悪魔を。

 

わーちゃんも、きっとそういう忘れられた一人だろう。

 

煌が戻ってくる。

 

あれだけの大立ち回りをしたばかりなのに、即座に行動するつもりのようだ。龍穴で回復は当然済ませたようだが。

 

「追うぞ。 まだ遠くには行っていないはずだ」

 

「それなのだがな、煌どの」

 

ハヤタロウが言う。

 

どうやら、何か嗅ぎつけたらしい。続きを頼むと煌が言うと、頷いていた。

 

「この近くで戦いがあったようだ。 人間を連れ回していた悪魔が、何者かに襲撃を受けた。 そして人間がちりぢりになった」

 

「うわ、すぐにいかねえとやべえよ!」

 

「その通りだ。 どうやら、すぐに行かなければならないようだな。 最悪、また手分けして動こう」

 

即座に連携して動く煌と人間達。

 

ぼんやり見ていたアマノザコは、おいていかれそうになって、大慌てでついていくのだった。

 

 

 

戦闘の跡は凄まじかった。地面にいくつもクレーターが出来ている。そこから、即座に周囲を調べて回る。だが、おかしな事だらけだ。

 

人間がこの様子だと数人木っ端微塵になっていても不思議ではない。それくらいの有様であるのに。

 

死んだ気配がない。

 

そうハヤタロウが言う。

 

「逃げ散った人間はどうなったんだ」

 

「今臭いを追跡しているが、いずれも近場で途切れている。 それがしの鼻では、別の悪魔の臭いを感じ取っているが……これは天使ではないな。 もっと別の……妖精か? 人間にもとても近い。 人間が神魔に昇華した存在かもしれん」

 

「妖精……」

 

「英雄化した人間などを幻魔という種族の悪魔に分類している。 そういった存在かも知れない」

 

ユヅルが捕捉してくれた。

 

妖精といっても、必ずしも人間に友好的な存在ばかりではない。

 

それはピクシーからも煌は聞かされているし。

 

様々な文献を読んで知ってもいる。

 

幻魔という種族であれば、元が人間であれば。確かに人間の味方をしてもおかしくはないだろう。

 

「エイシェトという悪魔が人間を連れて行こうとしていて、それに何かが攻撃を仕掛け、ほとんど奪っていった。 そう判断して良いか」

 

「恐らくは。 あまりにも鮮やかな手際で、誰も死ななかったのだろう。 空間転移を用いて、大半はこの場から逃れたようだ。 エイシェトと思われる悪魔は、一人だけ連れて、この場を離れたようだな」

 

ユヅルに、そうハヤタロウが答える。

 

イチロウが、挙手。

 

もう理解が追いつかないという表情だ。

 

「ごめん。 それで俺、どうすればいいの?」

 

「確かに状況が混乱している。 整理が必要だろう」

 

側に見えているのは倉庫街だ。

 

ずらっと並んでいるが、今では悪魔が寝床にしていると見て良い。ああいう場所に逃げ込んだ人間はいないようである。

 

ただ、イチロウが混乱して判断力を失ったのを見て、ヨーコがまた冷徹な目で見たが。

 

「貴方、戦えるようになってきたのに、また意志薄弱に逆戻り? 少しは見直してきたのに」

 

「そういうなヨーコさん。 戦闘できるようになってきて、背中を預けられるようになってきただけでも立派だ。 ほとんどの人間はそうじゃない」

 

フォローをユヅルが入れるが。

 

ヨーコの発言は冷徹極まりなかった。

 

「大多数の無能による衆愚は嫌と言うほど見てきたわ。 衆愚側の人間はここにいても死ぬだけよ。 多少戦えてもね」

 

「ごめん……」

 

イチロウが悲しそうにするが。

 

煌は咳払いした。

 

「判断能力が誰にでもある訳ではないし、今は僕とユヅルがある程度判断できればどうにかなる状態だ。 そして今は、意志薄弱と罵る前に、人を一人でも助けるべく動くべきだろう。 議論をしている暇すら惜しい。 急ごう」

 

「……そうね。 急ぐべきだという判断については同意するわ。 だけれど、イチロウくん、貴方そんな意志薄弱なままだと、いずれ決定的に足を踏み外すわよ」

 

首をすくめるイチロウ。

 

煌は確かにそうかも知れない、と思ったが。

 

だが同時に、ヨーコもまた、何かの前提を元に意固地になっているのではないかと思うのだ。

 

ヨーコは客観的に見ても聡明で優れた人間だ。あらゆるスペックが高いし、悪魔相手にも一歩も退いていない。

 

だが人間は、何かしらの前提があると、其処で思考が止まってしまうケースがある。

 

良い例が西洋で生まれた近代哲学で。

 

どれもこれもが一神教に対する影響を強く受けており、それから一歩も出ることが出来ずにいる。

 

実存主義を掲げ、個人の精神的な自由を説いたサルトルという人物ですら、結局一神教と合流するような動きを見せていたほどだ。

 

前提に何かあると。

 

どれだけ優秀な人間でも。優れた判断力を持っていても。

 

人間程度は簡単に間違うのだ。

 

完璧な客観性なんて持つ事は人間には不可能であり、判断力だってしかり。

 

ヨーコが何かに足首をつかまれていないか、煌は心配になってきていた。

 

倉庫街を行く。

 

見晴らしが悪い中、多数の悪魔が物陰から伺ってくる。襲いかかってくる悪魔も多い。縄印や浄増寺付近で多数見かけたマナナンガルや、羅刹も多数が襲いかかってきた。この辺りから、かき集められてきたんだな。

 

人間だ。捕まえろ。知恵でないなら食ってしまえ。

 

そう叫んでいる悪魔達を、片っ端から返り討ちにしていく。イチロウも歯を食いしばって戦っていて。

 

降参した悪魔に声を掛けて、積極的に手持ちにしていた。

 

ユヅルはイチロウに降参した悪魔を積極的に譲っている。恐らくは、イチロウの戦力強化が自分より優先度が高いと判断しているのだろう。

 

多数のマナナンガル。

 

数十体はいる。それが一斉に襲いかかってくる。

 

それを、タオが祈りながら、強烈な浄化の光を放つ。まとめて光の中に、マナナンガルが消滅していった。

 

汗を掻いているタオ。

 

流石に消耗するらしい。

 

「大丈夫か、タオさん」

 

「ええ、平気よ」

 

ヨーコは戦闘時、的確に札で壁を作って、タオをガードしてくれていた。水と油に見えるが、いじめの際に極めて毅然とした態度で原因を学校から放逐した件を見て、タオを見直したらしい。

 

今では時々会話もしている。

 

しかし、極めて現実主義を拗らせているヨーコの言動に、タオは苦笑いを浮かべていることも多かった。

 

まだ打ち解けるのは時間が掛かるだろう。

 

ハヤタロウが言う。

 

「近い。 皆、気をつけられよ」

 

「先の戦闘で時間を取られ、更には一人しか連れて行けていないのだとすれば、近いのは当然だろうな。 タオさん、出来るだけ皆を回復してくれ」

 

「分かったわ」

 

「俺、その。 周囲を警戒するよ。 戦闘では多分主力になれないから、煌とユヅルが全力で戦えるように露払いする」

 

イチロウが、ちょっと悩んだ後、そういう。

 

煌は頷く。それでいいと思ったからだ。

 

倉庫街は砂で埋もれていて、この辺りは本来埠頭であったらしい。タンカーが横倒しになっていて。

 

大量のコンテナがばらけていて、それも砂に埋もれていた。

 

これが起きた時、凄まじい光景だったのだろうな。

 

そう煌は思う。

 

この場にいた人は、誰も助からなかった。

 

死ぬ時は一瞬だったのだろうか。一瞬だったのだろう。そう思うと悲しくもあり、救いでもあったのかもしれないとさえ煌は感じた。







※悪魔の宴からの救出イベント

原作ではどうやっても助けられないイベントです。途中に色々選択肢はあるんですが、何やっても殺されてしまいます。

本作ではアマノザコと精神リンクした煌が、更にマーメイドとわーこと脅かすだけの妖怪とも連携。

居場所を特定後、狙撃同然の急襲によって一気に此処を仕切っていたヤクシニーを撃破。負傷者を救出に成功しました。

原作での鬱憤を晴らしたいと思ってこういう形で少し展開を変えています。

展開次第では助けられる方が楽しいですよね……


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