真女神転生VV二次創作 牛蛇相克 作:dwwyakata@2024
大天使アブディエルは、人間達に遅れて魔界に突入。人間を助けるためではない。むしろ目的は違っていた。
アブディエルは主と仰ぐ四文字の神の復権を本気で考えていた。
大天使の多くは倒れた。
これは現実として認めなければならない。
その多くはただ倒れただけではなく、元々の存在。バアルに戻ってしまった。
古代には、中東、特に現在のイスラエル近辺で信仰されていた神々は、バアルと称されていた。カナン地方の主神バアルが有名だが、それ以外にもたくさんのバアルが存在していたのだ。
バアルの中には一神教で悪魔として貶められたものも多く、このためバアル由来の悪魔でも性質が違う存在が多数いる。
一方で、元バアルでも天使に祭り上げられた存在もいる。
そういった元バアルだった大天使は、バアルに戻ってしまうケースも多い。
それらバアルと戻った元大天使は、姿だけ大天使のまま、今は天使の言葉も受け付けず、魔界をさまよっている。
それだけではない。
天を離反し、独自の動きをしている天使達すらいる。
鴉と言われる大物と。
その一派である。
かなりの数の天使が鴉の側についている。これはルシファーが天に背いた時以来の事であり。
アブディエルは、鴉も鎮圧しなければならないと考えていた。
もう一つ目的があるのだが、それについてはまた後だ。
人間をさらった悪魔どもを見つけて、それから判断する。今は、情報収集が先である。
ベテル日本支部が、縄印学園という場所に、目的の人間を集めていたことは分かっている。
全員ではないようだが。
魔界に連れ去らされた人間は、大半が目的の人間であるはずだ。
だったら、後はまとめてそれをどうにかすれば良い。
一度周囲の雑魚を蹴散らして、拠点を作ると。
麾下の精鋭達を周囲に向かわせ、情報を集めさせた。その中で、一体の権天使。下級一位プリンシパティが、興味深い情報を持って戻ってきた。
下級一位と言っても、アブディエルの麾下は歴戦を経た強者ばかりである。
決して弱い個体ではない。
「ご注進!」
「うむ」
「悪魔達の痕跡をたどったところ、人間数名を発見! 恐らくはベテル日本支部のナホビノと、デビルサマナーと思われます! 各地で逃げ散った人間を助けつつ、縄印を襲った悪魔を追っているようです!」
「ご苦労。 引き続き警戒にあたれ」
敬礼をすると、プリンシパティが行く。
側に控えさせている座天使、上級三位ソロネが提案してくる。
神への愛で燃え上がっているソロネは、車輪の中にいる人型をしていて。常に全身が炎に包まれていた。
「アブディエル様。 恐らく縄印を襲撃したのはくだんのカディシュトゥかと思われます。 だとすると我らだけでは戦力が足りないのではないでしょうか。 まだ無事である大天使の方々を呼ぶべきかと思います」
「そうすると各支部につけいる隙を与える」
「それはそうかも知れませんが……」
そんなことは分かっている。
既に北欧、ギリシャ、南米、インドなどの支部が好き勝手に活動をしていることは、アブディエルも知っている。
衰えたりといえどベテル本部。
それだけの諜報能力は持っているのだ。
往事の力は既にない。それでも形だけでも統制を保たなければならない。
だからアブディエルが育て上げた麾下の精鋭だけでどうにかするしかないのだ。犠牲が出たとしても。
幸いカディシュトゥの主力構成メンバーなら、単独でなら倒す自信はある。
連中の面子はある程度分かっていて、その上に恐らくはサマエルが存在していることもつかんでいるが。
サマエルに関してだけは、出てきた場合には大天使を結集して討つ。
ただしそれはあくまで最後の手段だ。
今は連中が何をもくろんでいるのか、しっかり確かめなければならないだろう。
ナホビノの気配。
どうやら来たようだ。
側に控えている天使達が警戒する中、アブディエルは向き直る。
どういうことだ。
以前ちょっとだけ見かけただけの意志薄弱そうな青年が、随分と変わっている。ただのでくの坊だったのに、短時間で目に意志の力が宿りつつあるではないか。
それに、感じるこの力は。
いや、だとしても、他と違う扱いをする訳にはいかない。
「日本支部のナホビノとデビルサマナーか。 悪魔を追ってきたようだな」
「利害は一致しているはずだ。 情報交換できないだろうか」
「つけあがるなよ小僧。 怪しい動きをしたら即座に斬る」
「そうか。 少しでも人を助けたい。 貴方が人々の守護たる存在であれば、その意志は一致していると思ったのだがな」
ナホビノの言葉は辛辣だ。
まだまだアブディエルには遠く及ばないとしても、その力は確実に強くなってきている。このまま強くなられると、アブディエルでは勝てなくなる可能性もある。ナホビノはそれだけ危険な存在なのだ。
だが、今は戦うべきではない。
そもそも今は情報収集の途中。
此処で交戦することに理はないのだ。
「恐れながら、情報を交換すべきかと思いますが」
「差し出がましい口を挟むな」
「はっ。 失礼いたしました」
配下の主天使、中級一位ドミニオンがそのようなことを言ったので、軽く叱責しておく。だが、一理はある。
それに、太宰イチロウと言ったか。
あのでくの坊だった青年に、少しだけ興味が湧いてきてもいた。
「そうだな。 私から言えることは、おまえ達が追う勢力だけではない。 更に危険な勢力も魔界には多数蠢いている。 それを忘れるな、ということだけだ」
「そうか、心しておく。 ならばこちらからも一つ。 僕たちが魔界に入ってきた地点から此処までで、助けられる人間は全て助けた。 悪魔も相応の数は駆除した。 だが、もしもまた魔界に落ちた人間がいても、この辺りでは助かることはないだろう」
互いにあまり役に立たない情報を交換した後、別れる。
背中を討つことはしなかった。
先に言葉を差し挟んできたドミニオンが言う。ドミニオンは基本的に法衣を着込み、公正を意味する天秤と剣を手にしている。
中級、下級の指揮官をしている天使で。個の戦闘力はとても高い。
「もう少し主体的な情報の交換をするべきではないでしょうか。 このままだと二兎を追って一兎も得られないことになるかと思います」
「それはそうだがな。 ナホビノに主体的な情報をくれてやる方が危険だ。 あれはいずれ、私を脅かす存在になる。 場合によっては、それ以上の存在にすらな」
「……分かりました」
「地道に情報を集めろ。 今はそれが最優先だ。 優秀なことで知られる日本の警官は、現場百回という言葉を鉄則としていたらしい。 警察上層は無能であっても、それでも優秀と言われたのは、現場の人間が優秀だからだ。 おまえ達も、人間のその地道で堅実な姿勢は見習え」
部下達を行かせる。
さて、ナホビノはいい。
カディシュトゥと此処に連れ込まれた人間。
どちらかは、発見したいところだが。
まあ、簡単にはいくまい。
今は焦らずに情報を集める。
今更焦ったところで仕方がない。最悪は、ナホビノをアブディエルの手で始末していく。それ以外には手はないし。
全てのナホビノと、反抗的な神々。離反した天使を全て平らげれば。
また四文字の神は蘇りなされる。
そう、アブディエルは信じていた。
(続)
アブディエルは四文字への忠誠は確かです。武力も生き残った大天使の中ではトップ。頭も切れます。
問題は忠誠が盲目的すぎて、最初の一歩が決まってしまっていること。固定観念から逃れられないのです。
これは一神教文化圏の人間にもまま見られる現象です。近代では一神教の支配下からどうにか逃れようと様々な思想や哲学が作り出されましたが、結局は一神教の影響を強く受けたものばかり。今でもその影響力はあまたの地域で圧倒的です。
アブディエルは鉄のような強い信念を持ちますが、同時にそれは視野を狭めてもいるのです。
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