真女神転生VV二次創作 牛蛇相克   作:dwwyakata@2024

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エイシェトを撃退して救える生徒は救い出しましたが、これで手がかりが切れてしまいました。

しかもミヤズをはじめとした知り合いも多数いる状況。

手を分けて情報を広く集めるしか手段がありません。





1、港南を行く

二手に分かれる。

 

煌はヨーコとタオと。

 

ユヅルはイチロウと組んで動くことになった。

 

これはイチロウが力を上げてきていることが要因だ。イチロウはまだまだ強くなるとユヅルが説明して。越水長官が、将来性を見込んで悪魔をベテル日本支部から供与していた。どういう悪魔かまでは聞いていないが。

 

また、魔界でも軍用無線は機能する。

 

大量の悪魔が出るとしても、東京である。

 

悪魔達が住んでいるアティルト界になった訳ではなく。分類としてはアッシャー界のままだ。

 

それもあって、なんなら戦車でも戦闘機でも持ち込める。

 

ただしそれらが人間相手の戦闘のように圧倒的火力を発揮できるかは話が別。ラミアに重機関銃が通じなかったのを、煌も見ている。

 

F35の搭載していたミサイルも、ラフムに痛打は与えたものの、決定打にまではならなかった。

 

だとすると、デビルサマナーがやるしかないのだ。

 

ともかく、移動を開始する。

 

戦闘が一段落したからか、アマノザコが戻ってきた。

 

それを責めるつもりはない。

 

戦えないのなら距離を取る。

 

その方が、こちらも動きやすいのだから。

 

ユヅルはハヤタロウを駆使して、煌は上空からの視界を利用して、周囲を探る。更には、事情通のアマノザコの意見も聞きたい。

 

それらを話してから、二手に分かれる。

 

アマノザコは、ユヅルとイチロウが行くと、手を振って笑顔で送っていた。

 

「煌の友達、強いね! ね!」

 

「そうだな。 安心して背後を任せられる」

 

「やっぱり煌もタオが言っていた、一人では生きていけないから人間を助けるの?」

 

「そんなところだ」

 

移動開始。

 

コンテナが山ほど積み上げられている。その一角に、あの襲ってきた巨大な鳥がいた。

 

エイシェトが北米の巨鳥と言っていた。

 

だとすると、あれは。

 

サンダーバードか。

 

手をかざしてみていると、猫又が来る。きゃっきゃっと黄色い声を上げた。

 

「あのおっそろしい女悪魔と軍勢を追い払っちゃったの? すごいにゃあ!」

 

「ありがとう」

 

「見たところ、どこかの神様とみたにゃあ。 眷属にしてほしいにゃ!」

 

「分かった」

 

契約書をぱぱっと仕上げて、手渡す。猫又は即座に指先を押しつけて、契約を受け入れていた。

 

一蓮托生だというのに、いいのか。

 

悪魔の価値観は、まだ分からない。

 

すっと煌の中に消えた猫又を見て、アマノザコが小首をかしげる。

 

「そういえば煌、きれいどころの女悪魔を見ても、まったく動じないね。 女の子に興味ないの?」

 

「どちらかというと生物としての人間に興味がない」

 

「わお。 でも、それにしてはなんというか、しっかりした正義感を持ってるよね、ね!」

 

「そうだな」

 

だからこそ、なのだが。

 

今は説明しても仕方がない。

 

ちょうど良いことに、猫又からの情報を得たことで、辺りの知識を得る。あの鳥は、今は放置。

 

この辺りに人間の気配がないことは分かった。

 

もしも襲ってくるようなら仕留める。今はとにかく、探索範囲を広げて。エイシェトから人間を奪った存在を見つけ出す必要がある。

 

ユヅルと無線で連絡をしながら、移動。

 

ユヅルとは違う方向を探す。

 

途中でマガツカを見つけたので、破壊する。やはりこの辺りにもあるようだ。かなり手強かったが、エイシェトやルー・ガルーほどではない。さっさと倒して次に。マガツカになってしまった悪魔の情報も取り込んで、進む。

 

コンテナの山を抜ける。

 

タオが首を横に振る。

 

「私の方でも気配を探っているけれど、駄目ね。 人間の気配はないわ。 天使があちこち探し回っているようだけれど……」

 

「ならばこんな奇襲を受けやすい場所からはさっさと離れるべきよ」

 

「そうだな、同感だ。 ただ、ちょっと上に登ってくる。 高いところから、周囲を見回して、取りこぼしがないかの確認をする」

 

それで、コンテナの山をひょいひょいと上がる。

 

少し浮いていることもある。

 

コンテナが崩れることもない。

 

いわゆるコンテナヤードという奴だ。中身はそのまま。色々な資源だったり様々。当然、食品類は既に腐るどころか、塵となってしまっている。

 

見回して確認。アオガミの力を少しずつ、確実に引き出せている。それもあって、更に遠くまで、確実に見回せる。

 

アマノザコが話しかけてくる。

 

「ねえねえ。 この四角いのってなんなの?」

 

「これはコンテナと言ってな。 これにたくさんのものを積み込んで、遠い海の向こうから運んでいたんだ」

 

「どうしてそんなことをしていたの」

 

「簡単に言うと海を運ぶのが一番安上がりで簡単だった。 そして、これでたくさんのものを運ばなければならないくらい、人間がたくさんいるんだ」

 

面白いと、きゃっきゃアマノザコが喜ぶ。

 

人間に興味津々だな。

 

とりあえず、見て回るが。遠くでユヅルが見えた。無線で連絡を入れておく。見えた範囲に人間の影なし。ユヅルから見て三時方向に悪魔がいる。

 

ユヅルもハヤタロウがいるから気づいているらしい。分かったと返して、すぐに戦闘に入ったようだった。

 

コンテナから降りて、タオとヨーコと合流。

 

先にエイシェトの周りにいた悪魔をまとめて片付けたからか、かなり悪魔の数が減っている。

 

コンテナヤードを抜けると、一気に見晴らしが良くなった。

 

これは、新幹線だ。

 

煌の時代においても、世界最高品質の高速鉄道。速度だけならもっと上が存在するが、安定した走行、揺れのなさ、何より一切事故を起こさない安全性、更には極めて堅牢。高速鉄道の最高傑作だ。

 

新幹線は山手線よりも更に傷んでいない。

 

一応内部を確認するが、人の姿はない。

 

やはり、一瞬で。何もかも巻き込んで、東京が終わってしまったのだと分かる。

 

心が痛む。

 

「煌、これも山手線とかいう電車なの?」

 

「これは新幹線と言って、もっと何倍も早くて、遠くに行く人のために走っていた電車なんだ」

 

「色々電車があるんだね! おもしろーい!」

 

「そうか……」

 

東京の外は健在だ。だから、まだ新幹線は現役で走っている。だが、それも悪魔にはどうでもいいことなのだろう。

 

ともかく、見晴らしが良いのは助かる。

 

さっそく眷属として展開した猫又が、戻ってきた。

 

「下の方、誰もいないにゃあ」

 

「ありがとう。 引き続き偵察に戻ってくれ」

 

「主どの」

 

上空から、パワーが降りてくる。

 

パワーを主軸とした天使部隊は先行させていたのだが。何か見つけてきたらしい。

 

「この先に人間の気配がありました。 ただ、既にもうないようです。 我らは其処まで探知能力がたかくなく、気配があった、ということしか分かりません」

 

「いや、それだけで充分だ。 イチロウと合流して、ハヤタロウに確認して貰おう」

 

「はっ!」

 

具体的な位置についても、情報を取り込む。

 

なるほど、新幹線の高架の先だ。

 

この先は、街が大分形になって残っている。地理的に見ると港南か。ともかく、少しでも急ぐべきだろう。

 

不意にアマノザコが止まる。

 

「……ごめん、ちょっと外れるね」

 

「何かあったのか」

 

「うん、あたいにとって嫌な気配。 煌には危険はないと思うけれど、あたいはちょっと無理。 ごめんねー」

 

「いや、別に構わない。 また命あったら会おう」

 

アマノザコを見送る。

 

ヨーコは相変わらず、羽虫くらいにしか思っていないようで無反応。タオは残念そうだったが。

 

「ザコちゃんまた行っちゃった。 いると賑やかで楽しいんだけどなあ」

 

「今はそんなことをいっている場合ではないわ」

 

「それは分かっているけれど」

 

高架を降りる。高架は砂に埋もれてしまっていて、地形が不自然だ。

 

砂に埋もれた時、かなり地形も歪んだ可能性が高い。

 

ビルがあったので、軽く登って確認してみるが。

 

海が存在していた辺りは、おぞましい闇が広がっていて、何も確認できない。この辺りからは、高所であれば海も見えるのだが。

 

ユヅルとイチロウが合流してくるまで、辺りの悪魔を掃討する。やはりエイシェトがつれていた人間に引き寄せられていたようで、かなり悪魔の数は多いが質は低い。ユヅルとイチロウが到着した頃には、ほぼ無害なレベルまで数を減らせていた。悪魔で周囲は、だが。

 

ユヅルが龍穴を見つけてくれていたので、先に回復をさせてもらう。

 

その間に、ハヤタロウに見つけた気配を確認して貰う。入れ違いになるが、少しずつ確実に進展させるべきだ。

 

また、ついでにソピアーのところにも足を運んでおく。

 

古空穂が、今より強くなりたいというのだ。

 

更には、役に立てていない悪魔達も同様。

 

悪魔達の意志を尊重する。

 

悪魔合体で、何体かの悪魔を強化して、先の戦いに備える。ただでさえ、状況は厳しいのだから。

 

ユヅル達と合流。

 

難しい顔をして、ハヤタロウが臭いを嗅いでいる。

 

「どうだ、状況は」

 

「……空間転移をくりかえしながら、人間を運んでいるようだな。 それがしの鼻に、少しずつ人間の気配がつかめてきた。 先よりも大分近くなっている。 この先……恐らくはいる。 む、臭いを察知した。 これは先にハンカチを嗅がせて貰ったときのものだ。 ミヤズどのは少なくともここにいた時点では生きている」

 

「!」

 

ユヅルが反応。

 

まあ、当然だろう。

 

急ごうと促されるが、煌は冷静にまだだと言う。ハヤタロウがしっかりと情報を見極めてからだ。

 

「よし、つかんだ! それがしが見るところ、あの方角だ。 恐らく生存者全員がまとまっている。 連れて行った存在が何者かは分からないが、恐らくは人間と敵対的な存在ではないはずだ。 ただ……」

 

「ああ、分かっている。 エイシェトという悪魔に、リリスもいる。 他にもいる可能性がある。 一刻も早くの保護が必要だろう」

 

移動開始。

 

港南のビル街を黙々と抜ける。辺りは残骸となったビルだらけで、この辺りの悪魔はエイシェトによる人間の見せびらかしにも反応しなかったのだろう。天王洲アイル付近からは距離がありすぎるからだ。

 

かなりの数がいる。そして、舌なめずりしてこちらを見ていた。

 

空から、大量の蛾のような悪魔が襲いかかってくる。

 

即応。

 

煌は、早速新しく作り上げた悪魔を呼び出す。

 

幻魔那須与一。

 

源平の時代に有名だった、弓の名手である。源義経の配下であり、海上の的を射貫いたことで知られている。

 

実際にはその妙技を讃えて舞を披露した平家の武者まで源義経の指示で射貫いており、源義経の残虐性と那須与一の冷酷な仕事人ぶりも示されているエピソードなのだが。船上の的を射貫いたことだけが知られているのが実情だ。

 

更にイチロウのジャックフロスト、煌のアプサラスが、一斉に氷の矢を上空に投擲する。

 

無数の対空攻撃を受けて、蛾みたいな悪魔がばたばたと落ちていくが。それでも数が多い。

 

更にいきなり机や椅子が浮き上がると。

 

こちらに飛んでくる。

 

トロールが壁になって、それらを防ぐ。

 

きゃっきゃっと、子供みたいな声がした。

 

これは、簡単には進めないな。

 

鬼先輩後輩が飛び出すと、猛烈な対空砲火を抜けてきた蛾みたいな悪魔を、必死に食い止める。

 

ハルパスが上空から逆落としを掛けて、一家での見事な連携を見せる。蛾をまとめてたたき落とす。

 

ものが飛んできた方に、タオが光の力で面制圧を仕掛ける。

 

子供の断末魔が聞こえて、一気に静かになった。

 

煌は冷静に、地上から襲いかかってくる獣を切り払い、蹴り飛ばしながら、皆への接近を防ぐ。

 

人間だ。

 

久々の人肉だ。

 

血だ血。吸わせろ。

 

そんな声を上げながら、悪魔がまだまだ来る。龍穴が近い。出し惜しみしなくても大丈夫だ。

 

ジャターユを展開。

 

力が上がっていることもある。今までよりも更に長時間展開することが出来る。ジャターユを見て、明らかに蛾みたいな悪魔達が怯む。其処を、那須与一が容赦なく打ち落としていった。

 

天使部隊が、報告してくる。

 

「何者かがこちらを伺っています。 古い時代のケルトの戦士のようです」

 

「ケルトの戦士……」

 

「はっ。 恐らくは幻魔に属する存在でしょう。 人々を連れ去った者かと思われます」

 

「煌。 幻魔といえど、人間を襲って食らう存在になってしまった者もいる。 油断はするな」

 

アオガミが警告してきた。

 

頷くと、飛びかかってきた巨大なイノシシを真正面から切り倒す。

 

蛾みたいな悪魔は逃げ散り始めたが。

 

雑魚相手に消耗したのを見てか、大物が集まり始めたようだ。

 

鬼二人と、トロールが三人がかりで押されている。見ると、今倒したのよりも更に巨大なイノシシの悪魔だ。

 

いや、これは東洋系か。いずれにしても、猛烈な勢いでトロールを押し込んでいる。

 

あれが頭だな。

 

「他は任せる」

 

「おう! 行け、アイトワラス!」

 

アイトワラスが連続して火球を放ち、雑魚を吹き飛ばす。煌はその間を抜けると、イノシシに肉薄。

 

やはり東洋系の悪魔だ。道教関連だろうか。

 

イノシシは熊と体格がほとんど変わらず、猪突猛進の言葉とは裏腹に極めて高い機動力も持ち合わせている。

 

突進を回避して木にぶつかって死ぬどころか、突進を回避しようとしたら即座にカーブして、直撃されるくらいに小回りが利くのだ。

 

トロールを文字通り投げ飛ばし、鬼二人を左右に蹴散らすと、イノシシが煌に向かってくる。

 

横っ腹に那須与一が強弓から矢をたたき込むが、それでも動きを止めない。

 

だが。

 

マーメイドが練り上げた魔法で、いきなりイノシシの足下を泥濘にする。それで、巨体が沈む。

 

がくんと沈み込んだイノシシが、凄まじい咆哮を上げて飛び出そうとするが。その顔面に、手刀をたたき込む。

 

イノシシの頭蓋骨は凄まじい強度を誇り、だから正面突進してくるのだが。手刀をたたき込んだだけではない。

 

そこから、雷撃を同時に流し込んでいた。

 

爆発音に近い炸裂。

 

イノシシの頭が爆ぜ、巨体が傾く。

 

それでも、牙のある口を振り回して、煌を吹っ飛ばす。ビルにたたきつけられて、だが。上空からジャターユが襲いかかると、「象の牙のように長い」とラーマーヤナで描写される爪で、イノシシの背中を抉り。

 

更には持ち上げていた。

 

暴れるイノシシをみて、ユヅルが離れろという。

 

皆がわっと逃げる中、ジャターユは上空から、容赦なくイノシシを落下させる。

 

今度はマーメイドが、アプサラスと連携して、泥濘を氷に変える。ばきばきと、凄まじい氷の床が、落ちてくるイノシシを襲う。

 

重い存在ほど、重力による暴力にはあらがえない。

 

文字通り、ぐしゃりと凄惨な音を立てて、イノシシは氷の地面に突き刺さった。更には、氷の床には無数のつららも生えていて。それが全身を貫いたことも致命打になった。

 

消えていくイノシシの悪魔。

 

それを見て、悪魔がわっと逃げ出していく。

 

呼吸を整える皆。

 

煌はその必要さえない。

 

ただ、消耗している。それを冷静に分析できてしまう。合一していると、どんどん人間から離れていく。

 

それが嫌でも分かる。

 

「態勢を整えよう。 とにかく焦っても、今の規模の悪魔に襲われるとかなり厳しい」

 

「分かった。 ミヤズが無事だと言うことが分かっただけでいい。 時間が掛かるとどうなるかは分からない。 何か手を打たなければならないが」

 

「餌用に加工とかされていないと良いけれどね」

 

ヨーコが冷徹なことを言うが。

 

苦笑気味にそうだなと、ユヅルは返していた。

 

龍穴で回復。大量の悪魔を倒したこともあって、マッカは回収できている。それに、先に倒したイノシシの悪魔のことも分かった。

 

ホウキと呼ばれる古代中華の怪物だ。

 

色々曰く付きで、人間の反乱者を元ネタにしていると思われる妖怪である。しかも殺されて料理されて肉を献上されたという逸話があるので、あまりその辺りについては考えたくない。

 

一度休憩を入れる。

 

ホウキの情報からは、静かな恨みだけが伝わってきた。やりきれなくなって、煌はどうしたい、と聞いてみたが。答えてくれない。妖怪になって暴れていないと、やっていられないくらいの目に遭ったのかも知れない。それとも、殺された経緯が悲惨すぎたから、だろうか。

 

古代神話では人肉食の逸話が幾らでもある。

 

実際に、古代には人肉食が行われていた形跡もある。

 

そういった悪しき風習の犠牲者だったのだとすれば、煌としては何も言うことは出来なかった。

 

休憩を入れてから、また港南の街に出る。

 

煌の眷属天使達と、ユヅルの鳥の悪魔達を全て展開して、周囲を警戒しつつ進む。タオを中心に入れて守り。他の皆で左右を固める。鬼先輩と後輩、トロールは常に出しておくことにする。

 

消耗はあるが、この辺りの悪魔相手でも、トロールや鬼のガタイは脅威になる。

 

つまり抑止力として活用できると言うことだ。

 

空を数体の悪魔が飛んでいく。

 

あれは、カラス天狗か。

 

カラス天狗達が気づいて降りてきた。敵意はないようだ。

 

修験者の格好をしているカラス天狗達を率いているのは、いわゆる鼻高天狗だ。鼻が長い天狗である。

 

ちなみにカラス天狗も鼻高天狗も日本独自の天狗で、元となった中華の天狗は名前の通り天の狗、つまりは彗星の権化である。姿は似ても似つかない。最初は彗星の権化として伝わった天狗が、鼻が長い存在になぜなったのかは、よく分かっていない。

 

天狗は山の神とされることもあるが、基本的にその正体は山に暮らしていた不定住民だ。古くは山の民と言われ、明治時代には二十万人程度が日本各地にいた。この山の民は河童の元ともなっている。

 

いずれにしても、人間に敵対的な存在ではない。

 

「魔界に人間。 悪魔を従えている様子からしてデビルサマナーか。 それに貴殿はどこかの神格か? ともあれ、この辺りは地上に出るのとは比較にならない強大な悪魔が出る。 出来るだけ急いで離れた方が良いだろう」

 

「ありがとう。 だがそうもいかない。 地上から多数の人間がさらわれて、それを追っている。 エイシェトという強力な悪魔から、誰かが人間達をさらって連れて行ったことまでは分かっている。 何かしらないか」

 

「そうさな。 この辺りは欧州の妖精族が住んでいたが、昔はとにかく弱くて強い悪魔に痛めつけられてばかりだった。 だが、18年前の東京受胎で生き残った荒脛巾神と、妖精の顔役、それにケルトの英雄が現れて、彼らを庇護した。 それ以降、妖精がその英雄と共同して集落を作っている。 其処かも知れない」

 

天狗達が指し示したのは、先にハヤタロウが特定した辺りだ。なるほど、話は一致している。

 

頷くと、煌は何か話せる事があるなら話すと言う。これだけいい情報を貰ったのだから、相応に返さなければならないだろう。

 

「そうだな。 我らは新しい主になる存在を探しているのだ」

 

「新しい主?」

 

「ああ。 我らもこの状態だと、流石に厳しくてな。 天狗、河童、山童、その他日本の妖怪を束ねる主となられる存在を探している。 そのお方はどうも不安定でな、あちこちを気ままに飛び回ってしまっていて、なかなか見つからぬのだ」

 

「……分かった。 気をつけておこう」

 

天狗達は武運を、というと。見事な編隊飛行で飛び去った。天使達と同じくらいは統率がとれている。

 

ケルトの英雄か。クーフーリンやアーサー王など色々思い当たるが、人を食らって栄養にするような存在ではないだろう。

 

ただ、とにかく荒々しい神話の民だ。内ゲバを際限なく繰り返し、身のうちから破滅していくような英雄譚の主となると。今の時代の人間から見ると、血なまぐさい思想を持っていても不思議ではない。

 

「なあ、煌。 分からない単語が多かったんだけど」

 

「ああ、歩きながら説明する」

 

イチロウに説明する。ケルトとは西欧州一帯の事。英国も含まれる。ケルトといっても場所によっていろいろあって、アーサー王なども含まれることを言うと、ああと納得していた。流石にアーサー王を知らない日本人は珍しい。

 

荒脛巾神は大和朝廷に征服された民族が信仰していた古代神格で、有名な遮光器土偶はこれをかたどっているという説がある。信仰までは消し去ることが出来ず、一部の神社ではまた祀られている存在だ。

 

東京に日本の神々があらかたいて壊滅したのなら、荒脛巾神が後から乗り込んできたのは納得できる。

 

日本の土着神格というアドバンテージもあるし、簡単に敗れることもないだろう。その庇護下で妖精がコミュニティを作ったのも納得できる話だった。これらについても説明すると、なるほどと頷いていた。

 

また激しく崩れているビル街が見えてきた。今度は崖のようにして崩れていて、まるごとビルが倒壊して。それが坂のようになっている。

 

高速道路も潰れていて、凄まじい災害があったのが一目で分かる。文字通り天地がひっくり返ったかのようだ。

 

息をのむ有様に、煌も言葉を失う。

 

だが、進まなければ、誰も助けられない。







※ケルト

欧州一帯の伝承のことです。英国も含まれます。高名なアーサー王もこれに入りますし、メガテン常連のクーフーリンも含まれます。

本作では、そんなケルトの英雄でも、真女神転生Vで一躍スポットが当たったあの親指を舐めると知恵を得られる騎士が活躍します。



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