真女神転生VV二次創作 牛蛇相克   作:dwwyakata@2024

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別のゲームでも色々な意味で愛されているイズン様の話です。そう、ダイナミックに斬るあのゲームですね!

イズン様はそれなりに知名度がある女神であり、真Vでついにイズン様が本格的に出てきた時、バリバリのアイドルとして登場してちょっとくすりときました。

ちなみにイズン様、本作でも言及していますが人妻です。





3、黄金のリンゴと悪戯の悪神

美しい花園で、十名の患者が寝かされている。傷はともかく、強烈な呪いで縛られていることが、今の煌には見えていた。

 

確かに鎖のようにおぞましい力が巻き付いている。

 

獲物を逃がさないように、エイシェトが仕掛けたのだろう。

 

すぐに呪術の知識がある老医師が来て、診察を始める。十八人この場にいて、無事なのは八名。

 

十名は動かせない。

 

ミヤズを除いた七人を、即座に東京に送り返す。負傷はしているが、全員を呪いでは縛ることが出来なかったようだ。

 

ミヤズは此処に残るという。ミヤズは看護師も舌を巻くほど手際がいい。それに、浄増寺があれほどたやすく破られたのだ。

 

東京も、既に安全ではない。

 

何より、患者の状態を把握している。

 

医師と相談しながら、テキパキと手当てをしていて、医師も感心していた。勿論本来は素人がやるべき事ではないのだが。

 

花園の警備には、武装したフィアナ騎士団と、どうやら荒脛巾神の眷属らしい神々がついている。

 

荒脛巾神の眷属はこちらをあまりいい目で見ていなかったが。

 

少なくとも、敵対する気はなさそうだ。

 

妖精達の長が来る。

 

若々しい冠を被った美男子で、背中に蝶の翼が生えている。同じように、傍らには緑の服を着て蝶の翼を持った若々しい美しい女性がいた。

 

「貴方が魔女を退けたナホビノですね」

 

「夏目煌です。 貴方達は」

 

「私は妖精王オベロン。 そちらは妻のティターニアです」

 

「……よろしくお願いします」

 

その名前を聞いて、警戒してしまう。

 

まあ当然だろう。

 

オベロンとティターニアは妖精の王夫妻として知られているが、お世辞にも素行がいい存在ではない。

 

女ったらしのオベロンと、美男子と見ると見境なしのティターニア。

 

これは欧州で弾圧された大地神系統の神々のなれの果てだから、という可能性がある。豊穣神はしばしば性を信仰に取り入れる事があるからだ。

 

欧州の妖精は、様々な種類がある。

 

土着の神々が、妖精として再解釈されたもの。

 

危険なところに近づかないように、大人が作り出して子供に言い聞かせた一種の都市伝説。

 

様々な正体が分からない現象が、妖精として解釈されたもの。

 

これらの中では、オベロンとティターニアは、直に伝承が残っている存在ではなく、物語に登場する存在ではあるのだが。

 

いずれにしてもそのモデルは土着の神々であり。

 

そう考えると、この性質は仕方がないのかも知れない。

 

軽く話してみるが、意外にも二人ともとてもまともだ。

 

或いはフィアナ騎士団が来なければどうにも出来なかった現実を知っているから、必然的に身を引き締めたのかも知れない。

 

妖精達も、普通に王夫妻を慕っているようである。

 

ともかく咳払いして、話を聞く。

 

ミヤズとシルキーを横目で見ながら、オベロンは言う。

 

「自身も無事ではなかったのに、的確な手当てをしてくれた彼女のおかげで、怪我の悪化を防ぐことが出来ました。 立派な女性です。 それを見て、北欧神話のある女神が、偉大な薬の材料を提供してくれたのです」

 

「ある女神?」

 

「イズン様です」

 

イズンか。

 

北欧神話の神々は、基本的に地力で不老を保っている訳ではない。女神イズンは、神々の不老を保つために必須である黄金のリンゴを管理している女神である。確かに、神々の老いを止めるほどのリンゴだ。

 

呪いくらいなら、どうとでもなるだろう。

 

「それもあって、此処に運び込まれた被害者達は、死なない程度にまで呪いを緩和することが出来ました。 しかしながら、リンゴの総量が足りず。 それもあって、一時イズン様はこの場を外していたのです。 しかしその席を外していた途中に、厄介な襲撃者に捕らえられてしまったようで」

 

「捕らえた存在と、居場所に心当たりは」

 

「捕らえた存在については分かりませんが、恐らくは居場所はあの辺りでしょう。 イズン様の護衛をしていたヴァルキリーが、命を落とす前に我らに伝えてくれました」

 

そう言ってオベロンが指したのは、電車の基地局だったらしい場所だ。線路に、多数の電車が止まっているのが見える。

 

ただ、此処からだとかなり距離があり、恐らくはフィアナ騎士団の戦力での護衛範囲外だろう。

 

一旦相談する。

 

皆と話をして、手分けをすることとなった。ユヅルが手分けを決める。

 

「煌、ヨーコさんと一緒に問題の解決を頼む。 タオさんは此処で癒やしの力を使って貰い、呪いを中和してほしい。 僕とイチロウはその護衛をしよう。 後、ミヤズ。 本職の看護師も来てくれた。 東京に一度連れて行くから、睡眠とトイレ、しっかりした食事を取るんだ」

 

「でも、まだ皆が……」

 

「すぐに東京からこちらにつれて戻る。 ただでさえ体力がないんだ。 このままだと倒れるぞ」

 

「……うん。 でも、一度関わったことだし、此処が恐ろしい場所だって分かっていても、放ってはおけないよ」

 

其処は譲れないか。

 

立派だ。

 

煌としても、その考えを尊重する。いずれにしても、煌はヨーコとともに、そのイズンの誘拐犯を追うだけだ。

 

案内をかって出てくれたのは、ピクシーの武装した女騎士だ。とはいっても、手のひらサイズのピクシーと比べて大きいものの、乳幼児サイズ程度くらいしかない。それでも魔法は使えるようだから、案内にはなる。

 

ただ、それもこの美しい隠れ里の戦力の一人だ。

 

離れるわけにはいかず、途中まで、だが。

 

回復も済ませてある。

 

ヨーコが食事とトイレ、仮眠を東京で取るのを待ち。それが終わってから、すぐに出る。煌もアオガミに言われて、仮眠は取った。ただ、前ほど睡眠が必要ではなくなってきている。

 

やはり、人間離れしてきていると見るべきだろう。

 

ラフムをはじめとして、立て続けに多数の悪魔を倒し、その情報を取り込んだこともある。

 

更に素の身体能力も上昇しているようだった。

 

ともかく、また魔界に。

 

花園に直通路があるのはありがたい。楽園に出ると、フィン=マックールは出かけていた。

 

あのオニャンコポンとアナンシがもめているとかで、仲裁に出たらしい。いずれにしても、煌が関わることではなかった。

 

案内のピクシーの騎士とともに、楽園から離れる。

 

荒脛巾神が作り出したらしい滝から流れている水の周囲は、美しいせせらぎが広がっている。

 

ただ、水に生物がいる気配はない。

 

植物については残念ながら知識がないのでなんとも言えないが、或いは妖精達が魔法で植えたのかも知れない。

 

水の周囲には悪魔もいるが、あまり攻撃的ではなく。

 

こちらを見ると、争いを避けるように離れていった。

 

視線を感じたので、振り返る。

 

敵意のある視線ではなかったので、まあ可とするが。

 

かなり強力な気配だった。

 

まだ何かいるのかもしれない。

 

魔界ではあまりにも異質な場所だ。此処の花園を踏みにじろうと考えたり、成果だけ奪い取ろうとする悪魔がいてもおかしくはない。

 

警戒は欠かさない方が良いな。

 

そう思いながら、案内をしてくれるピクシーの話を聞く。

 

「王様と女王様、フィンさんがくるまでは、どっちも浮気三昧で、とにかく酷かったのよ。 でも、今はフィンさんが色々と自分がどういう失敗をしたかの話をして、それで反省してくれたみたい。 とてもいい王様と女王様になっているの」

 

「それは良かった。 反省できるというのは、とても立派なことだ」

 

「それで、イズンがいると思われる場所には、どう行くのかしら」

 

ヨーコは興味なしか。

 

休憩時間や、着替えの時間なども用意したのに。結局聖マリナ女学院の制服のままである。

 

動きやすい服でも着てくればいいのに。

 

或いは、これしかよそ行きがないのかも知れない。

 

ヨーコはとにかく自分の事を話さない。

 

だから、どういう状況で生活しているのかは、全く分からなかった。

 

「ええと、この辺りがイズン様とヴァルキリーがいたところ。 この辺り小さな池になっていて、これから木を植えて魚も育てようって考えていたんだ。 外から魚を持ち込んだりしてね」

 

「立派なことだ」

 

「へへへ、あたしが提案したんだよ。 それで……あっちに向かって、それから坂を上がって、ぐるっと回っていく感じ。 この辺りから離れると、もう楽園を狙う悪魔がたくさんいるんだ。 フィアナ騎士団も巡回に来てくれるけれど、それでもちょっと手が足りないんだよね」

 

「いいかな」

 

ひょいと眷属のピクシーが出てくる。

 

最古参の眷属だが、提案してきた。

 

「私、煌の眷属になって、随分力をつけたと思うんだ。 それに煌の中には私の情報もあるから、悪魔合体とかでそれを使うのも出来ると思う。 此処、私が役に立てると思う。 だから……」

 

「分かった、良いだろう。 ミヤズさんを頼む」

 

「うん!」

 

他にも数体の悪魔が、同じように此処を守りたいと提案してくる。

 

アオガミと相談して、素行に問題がない悪魔を契約解除。眷属ではなくなった悪魔が、武装したピクシーとともに、此処の護衛に加わることを決めていた。

 

だが、皆煌に感謝してくれた。

 

散々戦闘では酷い目にあったのに。それでも恨んでいる様子がないので、少しだけ救われた気分だ。

 

それに情報はそのままだから、それを活用して悪魔合体に生かすことも出来る。別に煌としては困らない。

 

此処から先は行けないと言われたので、武装ピクシーとも別れる。

 

そして、悪魔達が多数いるという方向へ。

 

武装した女性戦士が数名いる。騎乗している者もいる。恐らく彼女らが、ヴァルキリー。北欧神話にて、戦場で勇敢に戦死した戦士を迎えに来る死神達だ。

 

一番若いヴァルキリーは、小学生くらいに見えた。馬に乗っているのが指揮官だろう。

 

軽く話を聞く。

 

イズンは元々かなり気まぐれで、遠出することも多く、護衛は大変だったという。しかも其処を狙われた。

 

三名のヴァルキリーが殺され、増援を今呼んでいるとか。

 

「イズン様は北欧の神々にとって、若さを担保してくれる大事な存在だ。 悔しいが、我らでは襲撃者にはかなわない。 イズン様を頼む」

 

「あ、あの、私を連れて行ってくれませんか」

 

一番幼いヴァルキリーが挙手。他のヴァルキリーは、しらけた目で見ていた。

 

兜とかもお下がりらしい、とにかく服に着られている雰囲気で、場違い感が強い。戦力にはならないだろうとアオガミも言うが。しかし、煌の眷属となっていれば、話が変わってくる可能性もある。

 

「君の個人としての名前は」

 

「オデットです」

 

「分かった、オデット。 眷属として契約してくれるなら、連れて行こう。 僕の戦いはかなり厳しいものが多い。 君が倒れるのはほとんど前提になる。 それでも連れて行くには、眷属になって貰う必要がある」

 

「分かりました。 契約書を」

 

即座に契約をする。オデットは契約を済ませると、嬉しそうに笑う。ああ、この子は戦士にむいていないな。そう思う。

 

ヴァルキリーも戦士として戦う存在だ。北欧の神々があらかたそうであるように。

 

こうして、数体の悪魔を眷属から解放し、新たにオデットを迎え入れた。

 

進むと、ある一線から明確に気配が変わった。

 

周囲から、見定めるような悪意が向けられてくる。もうこの辺りは、フィアナ騎士団と妖精の勢力外と言うことだ。

 

早速襲いかかってくる、巨大な鶏。尻尾が蛇のようになっている。

 

ひょっとしてコカトライスか。

 

黒魔術などに登場する、石化能力だったり猛毒を持っていたりする邪悪な鶏の怪物である。

 

鶏が仕掛けてくると同時に、一斉に多数の悪魔が襲いかかってくる。

 

トロールと後輩鬼を出し、更に煌が前衛となって、襲いかかってきた悪魔達を食い止める。

 

後方から那須与一が援護射撃を開始。天使の軍勢が、上空から一斉に光の魔法を展開。更にヨーコは要領よく立ち回りながら、多数の札を投げつけて、隙を見せた悪魔を次々爆破した。

 

一体、手強いのが混じっているな。

 

トロールがコカトライスらしいのを、背負い投げで地面にたたきつけた瞬間、何かが襲いかかる。

 

即時で動いた煌が、刃でそいつを受け止める。

 

小柄な悪魔だが、動きが速い。

 

背中に翼が生えていることからして、堕天使だろうか。

 

弾きあうが。小柄な悪魔は即座に他の悪魔達の中に消える。味方を使って視界を塞ぎ、奇襲を仕掛けてくるつもりだ。

 

「手強いのがいる! 油断するな!」

 

「!」

 

天使の一体が、両断されて消える。

 

翼があるのだ。

 

上空に奇襲を仕掛けることも出来るだろう。とにかく、数を減らすしかない。

 

眷属になったばかりのオデットが、小さな剣を振るって、えいやっと声を掛けて小柄な悪魔に突き刺すが。非力すぎる。そのまま放り投げられて、地面で伸びる。まあ、これから強くなれば良い。

 

アプサラスが詠唱を開始。

 

大きいのを行くつもりだ。

 

隣でマーメイドも同じように詠唱。

 

パワーに思念を送る。頷くと、パワーが天使達を引き連れて降りてくる。そして、周囲に壁を作った。

 

悪魔の群れが、必死に仕掛けてきているが。

 

何体か鶏を打ち倒すと、ひるみ始める。

 

それで、素早く動き回っている悪魔が見えてきた。

 

恐らくソロモン王72柱の一角だろう。

 

角が生えており、妙に歯並びがいい。鋭い二本の剣を振るって、何度も天使達の肉壁を打ち砕こうとする。

 

後輩鬼にも仕掛けてきた。

 

前は鬼の中では弱い方だと嘆いていた後輩鬼は、煌の眷属となって力をどんどん増している。

 

鋭い角の悪魔の一撃を、なんと筋肉で受け止めてにっと笑う。

 

悪魔は面白がって跳び下がるが。

 

その時、アプサラスの詠唱が完成した。

 

地面から、多数の氷柱が突き上げる。一瞬にして、大半の悪魔が消し飛んでいた。

 

更に、其処に凄まじい圧力で、水の巨大な塊が上空からたたきつけられる。マーメイドによる大火力の一撃だ。

 

上下からのほぼ同時の攻撃を受けて、ひとたまりもなく雑魚悪魔達が消し飛ぶ。

 

それを回避した角の悪魔だが、今度は攻勢に出るのはこっちだ。

 

煌が間合いを詰める。もう守ってくれる奴はいない。

 

速度は凄まじいが。しかし剣の一撃は軽い。激しく打ち合ううちに、どんどん押し込んでいく。

 

「ぐっ! き、貴様、噂のナホビノか!」

 

「そうだ。 いきなり襲ってくる相手を許すわけにはいかない。 斬る」

 

「くそっ! 貴様を倒せば、カディシュトゥの悲願を……」

 

言い切ることは出来なかった。

 

完璧なタイミングで放たれた那須与一の一矢が、隙間を通すようにして、真横から角の悪魔のこめかみを撃ち抜いていたのである。

 

和弓による剛矢だ。

 

それでも頭が吹っ飛ばなかったのはたいしたものである。

 

更には、もう攻勢を断念して退こうとしたそいつの耳元で、わーが脅かす。

 

「わっ!」

 

「なっ! どこから……」

 

悪魔の胸には、既に煌の手刀が突き刺さっていた。

 

手刀を引き抜くと、首を跳ね飛ばす。消えていく悪魔の情報は、堕天使ボティス。やはりソロモン王72柱の一角だった。

 

目を回しているオデットを立たせる。

 

無事だった天使達が回復の力を使い始めた。これは。簡単にはいかないな。

 

だが。それでも先に進まなければならない。十人の命が掛かっている。

 

一千万の命を背負っているツバメさんほどではないにしても。

 

煌も戦う覚悟は出来ているつもりだ。

 

 

 

数度の戦闘を経て、やっと高いところまで上がる。マガツカがあったので打ち倒したが、あろうことかエジプト神話の神が取り込まれていた。情報を取り込むと、感謝されたほどだ。

 

「わしとしたことがすまないな。 まだ少し厳しいが、回復したら君の力になろう」

 

「貴方は……トートか」

 

「後にはそう言われているようだな。 正確にはジェフティが正しい」

 

知恵を司るエジプト神話の神だ。ヒヒの姿をしている。

 

この辺りの情報を聞きながら、鉄道の基地局へ向かう。上をカラス天狗と天使達が飛んでいる。あの天使達は煌の眷属ではない、恐らくはベテル本部の天使だ。つまり味方と考えない方が良い。パワーの話によると、眷属となった今、昔の同志達と理性的に話すのは難しいかも知れないということだ。

 

カラス天狗達は、天使達とあまり仲が良くないようで、明確に火花を散らしあっている。幸い殺しあいにまでは至っていないようだが。

 

辺りには多数の猫又がいたが、皆殺気立っている。眷属にした猫又を出すと、意外と態度がコロッと変わった。

 

イズンの話も知っていた。

 

「ああ、あのアイドルみたいな格好した女神様」

 

「アイドル?」

 

「神様って人間の精神の影響を受けるでしょ。 イズンってなんか人気があるらしくて、それでアイドルみたいに扱われて、そんな風になったんだって。 人妻なのにねー」

 

オデットが本当ですと、ちょっと恥ずかしそうにしたので。

 

煌は若干呆れた。

 

なるほど、人の精神や思念の影響を受けるのだとすれば、それは神々としても、色々と複雑だろう。

 

イズンに限らず、基本的にほとんどの女神は人妻だ。これに関しては、例外の方が珍しいのだが。

 

まあそれはいい。

 

ともかくとして、猫又は敵意をなくしたので、礼を言って先に進む。

 

日本の妖怪は地元だと言うこともある。

 

ある程度のアドバンテージがあるらしい。

 

眷属にした猫又によると、河童もいるかもしれないと言うことだ。せせらぎの下流の方にだったら、確かにいてもおかしくはないだろう。

 

国会議事堂近くにも水が湧いている場所はあったが、あそことは根本的に水の量も清浄さも違っている。アプサラスがいたあたりも、緑はほとんどなかった。

 

緑化した妖精達やフィアナ騎士団の努力は当然あるとしても、荒脛巾という神のすさまじさがよく分かる。

 

無言で進む。

 

多数連なっている電車が見えてきた。手をかざして様子を見ていると、ヨーコが揶揄するように言った。

 

「数度戦闘をしたのだし、一度戻ったらどうかしら。 回復した方が良いわよ。 どうってことがないとはいえ、ヴァルキリー達が手も足も出なかった相手よ」

 

「ああ、それは一理ある。 だが、ヴァルキリーの手の内を知っている存在だとしたら?」

 

「へえ、面白い話ね」

 

「そもそもイズンをピンポイントで狙うこと自体がおかしいんだ。 フィアナ騎士団の護衛がついている状況だし、イズンが善意で姿を見せたのであれば、余計にどういう存在か、野良の悪魔が知っているとは思えない。 だとすると、身内の犯行だ。 フィアナ騎士団に裏切り者がいるか、それとも……北欧の神々の誰かか。 だとすると、候補は絞られる」

 

「ふふ、やはり面白いわね。 感情でわめき立てるだけの輩よりも、ちゃんと理屈で話す貴方は興味深いわ」

 

そうヨーコは喜ぶ。ありがとうとだけ言っておく。

 

さて問題は、誰がイズンを誘拐したかだ。フィアナ騎士団は、はっきりいって誰が裏切ってもおかしくないだろうと煌は見ている。フィン=マックールはあまりいい騎士団長ではなかったからだ。オベロンとティターニアの話を聞く限り、生前のことを本当に反省しているようだが。特に意図的に謀殺されたも同然のディルムッドなどは、それこそ恨み骨髄だろう。

 

北欧神話の神々で、イズンをさらいそうな奴がいるとしたら。

 

まああいつだろうなという印象があるが。

 

ともかく急ぐ。

 

電車はある程度傷んでいるが、この辺りで起きた大規模な破壊での損傷以外では、ほとんど痛んでいないようだ。

 

ほぼ無事な電車も多い。

 

持ち帰れるなら、持ち帰った方が良いかもしれないと煌は思ったが。まあ流石に厳しいだろう。

 

上から多数の犬神が襲ってきたが、即座に天使達が光の魔法で迎撃する。最近は倒された悪魔を蘇生することも出来るようになってきたので(消耗はするが)、継戦能力が伸びている。

 

それもあって、多少強気に動けるのも事実だ。

 

奥には小山のような場所があった。洞窟になっている。

 

眷属を展開。

 

間違いない。いる。

 

「出てこい。 女神イズンをさらった者がいるのは分かっている」

 

「あー、気配が漏れてたか。 まあしゃあねえな。 出て行ってやるよ」

 

ふっと姿を見せたのは、レザー系の服装に身を包んだ、いかにも反社風の若者だった。背中に翼があるが、悪魔としての存在感が明確にある。

 

この様子ではフィアナ騎士団の面子ではないな。

 

ならば消去法だ。

 

「貴方が北欧の名高い悪神ロキか」

 

「おっ! よく分かったな! どうして分かった」

 

「消去法だ。 僕は夏目煌。 イズンを返して貰いたい。 多数の人間が、イズンのリンゴを必要としている」

 

「多数ってもたかが十人だろ? 俺のはちょっと大きなビジネスに噛んでるんだよ」

 

せせら笑うロキ。

 

北欧神話でももっとも有名な悪神である。悪戯の神であり、トールなどとも仲が良く、オーディンの乗馬であるスレイプニルを生み出したりという功績もあるのだが。後の時代にはどんどん邪悪になっていき、最終的には神々の敵となって、ラグナロクで倒れることになる。

 

それにしてもビジネスだと。

 

少しばかり苛立ちが募るが、ロキは楽しそうに説明し出す。

 

「イズンのリンゴは不死は無理でも不老の力がある。 今の時代はどんどん信仰が神々から別のものに移っていてな、なんだと思う」

 

「金か?」

 

「おー、おまえ飲み込みが早いな! アホな金持ちどもが神のようにあがめる金! ついでにアホな金持ちが考えるのは、昔から不老不死って相場が決まってる! イズンのリンゴは、天文学的な価値がつくぜ! 東京はこんなだが、外の世界は無事だし、どーせ創世が仮に起きたとしても多少ルールが変わるだけだ。 俺も創世が起きるのは経験したが、あんなもんに其処までの力はねえしな。 つまり、人間が考える金の価値は変わらねえし、それをリンゴで独占できるならこれほど簡単なことはねえ。 俺は金を吸い上げて、ついでに信仰も吸い上げる! そうすりゃ、創世に噛もうが噛まなかろうが、後は安泰って訳よ!」

 

「くだらない話だな」

 

煌は即答していた。そして丁寧に説明する。

 

実際のところ、金持ちだけいても世界は動かない。

 

経済誌なんかでは、金のためなら何をしてもいいみたいな論調で馬鹿な記者が記事を書き。それを真に受ける阿呆な経営者が一定数いるのも事実だが。そもそも第一次産業が動かなければ、人間は食料の一つも得られないのだ。

 

銀行という存在が出現してから人間世界に流通する金の総量は爆発的に増加した。したように見えるが、現実には実体が伴わない風船に等しい。そんなものはどれだけあってもいずれ現実と大きな齟齬を生み出すだけだ。

 

現場で手を動かしている人間が一番世界に貢献している。これは昔から変わらぬ真理であり。それをないがしろにした国から滅びる。

 

勿論それを拡大解釈した共産主義なんて思想もあるにはあるが、それは結局一部の人間が多数の貧乏人を搾取するだけのシステムと化しているのが現状だ。本質的には資本主義よりも更にたちが悪い。

 

要はロキが語ったビジネスは、いずれ破綻が確定しているのだ。

 

その程度の事は、今世界で起きている出来事を見て、多少様々な本を読んだだけの煌でも知っている。

 

ビジネス誌の記者やらの、したり顔で現実の経済がとのたまう輩ほど、現実の経済など何一つ見えていないのである。或いはロキは、その手の輩の悪しき影響を受けたのかも知れない。

 

それを丁寧に説明すると。

 

ロキはぽかんという感じで、口を開け。それから、わなわなと顔をこわばらせた。

 

反論できないのか。

 

悪戯の神の癖に。

 

「イズンを返して貰うぞ。 貴方のくだらない金独占正当化論などどうでもいい。 今、消えようとしている命を救うことの方が万倍重要だ」

 

「う、うる、うるせええっ! お、俺は金を通じて、ただ頂点に立ちたいだけなんだよ!」

 

「だったら株でも電子マネーでもやるといい。 今の時代、経営をまっとうにやるよりも、その方が稼げるケースもあるからな。 そのリスクもまた激甚だし、そんなことで稼いだ金のせいで社会を支えるまっとうな産業がダメージを受ければ、社会の寿命は減るばかりだがな」

 

「株、電子マネー! ……その手があったか」

 

悪魔は確か、電子系統に圧倒的に強いと聞いている。

 

アティルト界の住民は本質的には精神生命体だからだ。

 

ロキはしばし考えた後、じっと煌を見る。

 

「くそ、反論できねえ。 結局俺は北欧の脳筋どもの中のインテリに過ぎなかっただけかよ」

 

「イズン神を返してくれるのなら、これ以上貴方と戦うつもりはない」

 

「……確かにイズンをさらっても、どうせいずれはトールが来る。 どんだけ金を積んでも、トールに勝てる護衛なんて雇えない」

 

トール。

 

世界で最も有名な雷神の一角。

 

とにかく強さだけを徹底的に強調される武闘派中の武闘派。ロキとは古くは仲が良かったのだが。

 

それも今では関係が破綻しているはずだ。

 

ロキは有名だが、当の北欧では信仰された形跡がなく。それに対して、トールは一時期最高神だったことがある。

 

荒々しいノルマンの民の理想を全部詰め込んだ存在なのだから当然だろう。

 

そういう観点でも、ロキ程度がトールに勝てるはずもないのも事実だった。

 

「分かった、降参だ。 それにおまえナホビノだろ。 はっきりいっておまえとやり合うのはリスクが大きすぎる。 俺は所詮頭で勝負するタイプだし、頭でもおまえは簡単に勝てそうにない。 イズンは奥だ。 勝手につれてけ」

 

「……そうさせてもらう」

 

「あばよ。 また機会があったらな。 おまえが創世をした場合、或いはもっとましな世界になるかもな」

 

創世か。

 

時々聞く言葉だが、どういう意味だ。

 

何をするのか。

 

さっき、ロキは経験したと言っていた。そうなってくると、少なくともローマ時代以降に最低でも一度創世というのが起きていることになる。

 

北欧神話最初の主神だったテュールは司法の神であり天空神でもあって、ローマ神話のユピテルの影響を強く受けた存在だった。

 

そういう観点からすると、ロキの神としての扱いが固まったのはユピテルが出現して以降のことになる。

 

ともかく、ロキがいなくなったことを確認。周囲を警戒して貰いながら、洞窟の中に。いくつか罠が仕掛けられていたが、ヨーコが片手間に解除する。たいした手際だなと、煌は感心したが。

 

ヨーコはこの程度は簡単だといわんばかりだった。

 

仮にも悪戯の神が仕掛けたものだろうに。

 

奥にはわかりやすい檻があって。確かに今風のドレスに身を包んだ可憐な金髪の女の子が座り込んでいた。

 

彼女がイズンだろう。

 

黄金のリンゴを管理する神にして、不老でも不死でもない北欧の神々の生命線を握る存在だ。

 

檻については、即座に手刀で割り砕く。

 

一応、オデットに確認して貰うが、イズン本人で間違いないようだ。

 

側に黄金のリンゴが落ちているが。興味はない。

 

イズンを連れ出すと、黄金のリンゴを手渡した。

 

「話は聞こえていましたが、あのロキを論理的に言いくるめて追い払うとは。 驚かされましたわ」

 

「イズン神、邪悪な呪いに苦しんでいる人々がいます。 黄金のリンゴを分けていただきたく」

 

「ええ、大丈夫。 そのつもりで、黄金のリンゴは家から回収してきましたわ。 すぐに現地に向かいましょう」

 

洞窟から出ると、イズンは浮遊して移動していた。まあ戦闘力に問題があるとしても、神の一角だ。それくらいは簡単だろう。

 

帰路はイズンを真ん中において、守りながら戻る。

 

何度か悪魔の襲撃は受けたが、先よりも強い悪魔は存在しなかった。それに、ロキがいなくなったからだろう。

 

悪魔達も、煌に仕掛けて来る事には、それほど積極的ではなかったようだった。

 

ヴァルキリー達は、煌がイズンを連れてきたのを見て、驚く。

 

この様子だと、ロキに負けると思っていたな。

 

確かにロキはかなり強い力を感じたが、ジョカやリリスと比べればそうたいした相手でもなかった。

 

戦っても負けることはなかっただろう。

 

さっとイズンに跪くヴァルキリー達に、イズンは命令を出す。

 

「私はこの方と一緒に行きます」

 

「なんと……!」

 

「この方はあのロキを弁舌だけで退けました。 私はこの方を、眷属となってしばらく見極めたいと考えます。 貴方達はこのままフィン=マックールの指揮下に入り、此処で弱き者達を護衛なさい」

 

「御意……」

 

そうか、眷属になってくれるか。

 

戦闘能力はともかく、黄金のリンゴを司る北欧でも重要な神格だ。助けになってくれるのはとても助かる。

 

その場で契約書を書いて、イズンにサインをしてもらう。

 

これで、イズンは麾下に入ってくれた。

 

ヴァルキリー達の複雑な視線を受けながら、花園に戻る。ヨーコが肩をすくめた。

 

「ただ理論だけをぶつけるだけでは、多分ロキは激昂していたでしょうね。 貴方の視線には、何か不思議な力がある。 それを今回確信したわ」

 

「昔からよく言われたが、何でなのかは僕にも分からない。 ヨーコさんには分かるか?」

 

「さあ。 ただ貴方が面白いのは事実よ。 意見は合わないことも多いけれど、少なくとも言うことと行動に筋が通っている。 それだけで充分ね」

 

そうか、それで分かったが。

 

ヨーコも或いは、煌の行動が感情に左右されて、行く先々で変わるようだったら考えを変えていたのかも知れない。

 

煌は判断する時感情を徹底的に排除している。

 

それもまた、ヨーコが不愉快にならない理由なのかも知れなかった。







※ロキ

本作ではなんと正論でやり込められてしまったロキ。

北欧神話のトリックスターというか、トリックスターとして恐らく世界で最も有名な悪神でしょう。非常に知名度が高い存在なのですが、実は北欧では信仰されていた形跡がありません。

彼のお金儲けでイズン様をさらってみよう理論。ちょっと考えれば即座に破綻することが明確な代物なので(トールが来たら即終わり)、そこをついてイズン様を返して貰いました。

イズン様もその様子を見ていて、これは出来ると煌くんを気に入ったわけですね。


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