真女神転生VV二次創作 牛蛇相克 作:dwwyakata@2024
魔界に存在する奇跡の平和の庭。
しかし、其処に魔の手が迫ります。
それも超弩級の悪意とともに。
序、花園を狙う者
偵察に出ていた妖精の部隊が戻らない。そう聞いて、煌は嫌な予感を覚えていた。
タオが今、癒やしの力を使って、解呪を必死に進めてくれている。イズンも協力してくれているが、黄金のリンゴの効果は絶大。東京から来てくれた解呪専門の医師と連携して、今二人、回復が終わって東京に戻っていった。
だがまだ八人残っている。
何よりも、フィン=マックールと連携して行動し。
十八人を守ってくれた妖精の里の問題だ。
見過ごすわけにはいかないだろう。
フィン=マックールに話を聞きに行く。
力になれるのならなりたい。そう考えたからだ。
ただ、アオガミは懐疑的だった。
「煌のそういうところは明確な美点だ。 だが、此処に入れ込みすぎると、行動に柔軟性を欠くことになる。 それは気をつけるべきだろう」
「そうですね、それも分かっています。 ただ、最低限受けた恩は返すべきです。 僕自身が受けた恩ではありませんが、この妖精の里にはそれだけ世話になりましたので」
「……そうか、分かった。 ならばくれぐれも深入りだけはしすぎないように推奨する」
「了解です」
アオガミのアドバイスは的確だ。
フィン=マックールに話を聞くと、やはり事は簡単ではないようだ。
「偵察に出ていた妖精の部隊はそれなりの精鋭だった。 簡単に倒される部隊ではなかった。 そうなると、我々が出るしかないだろう」
「陽動などの可能性は」
「それも考慮に入れている。 楽園の南側は守りが薄くてな。 それもあって、ヴァルキリー達に守りを頼んでいたのだが」
「……分かりました。 手薄な方は僕が守ります」
神話のフィン=マックールは老いて醜態を見せる事もあった。
だが、今のフィン=マックールは尊敬に値する。
煌はそう判断したので、敬語を使うことに切り替えていた。
フィン=マックールは、フィンと呼んでほしいと言うと。方角を指示してくる。
「ヴァルキリーは戦力もそうだが、そもそも此処を見張っている節がある。 強力な悪魔に襲われた場合は、恐らくは生存と、オーディンへの情報の伝達を優先する筈だ」
「分かりました。 彼女らと合流して、南部の警備に当たります」
「俺も行く!」
イチロウが挙手。
フィンはヨーコに来てほしいと声を掛けていた。
フィンはテキパキと戦力を分けていく。此処にはユヅルに残って貰う。荒脛巾神と相性が良いと判断したからのようだ。
また、滝上から、顔が球体になっている神様が降りてきた。
日本の神のようだが、しゃべり方が、いや言葉のアクセントがちょっと違う。
「キンマモン神」
「何やら危機が迫っているようであるな。 それほどの力はないが、わらわも助けになろうぞ」
「ありがたい。 この地の守りをお願いします」
「うむ」
キンマモン。確か沖縄の神格だ。
ならば、ここにいても不思議ではないか。荒脛巾神と同じく、東京にいなかった神格であれば、ここに来ていて生存していても不思議ではない。
とりあえず、皆でさっと散る。ヨーコはフィアナ騎士団とともに出るようだ。タオは回復を急ぐ。
呪いはどうやら人を死に向けるものではなく、この魔界に縛り付けるものらしい。
下手に動かすと危ないのはそれが故で、それを解呪していかなければならないのだとか。
だとすると、煌に出来ることはない。
せめてエイシェトを仕留めていれば、何か出来たかも知れないが。
「ユヅル、東京の状況は」
「浄増寺はどうにか復旧できた。 縄印は当面閉校だそうだ。 この状況では、学問どころじゃない。 仕方がないだろうな。 死者は現状の判断では、三十七名だとか」
「……分かった。 これ以上増やさないようにしよう」
「ああ!」
ユヅルが此処を守ってくれる。それだけでどれだけ心強いか。
ミヤズも、テキパキと手当てをしていて、看護師達も邪魔にならないと褒めていた。
看護師がいる医療の現場が修羅場であるのは煌も知っている。
それでありながら、これだけ動けるのだ。
本当に真面目に勉強をしてきたのが分かる。
良い看護師になれるはずだ。
問題は体力だが。
それについては、仕方がないか。
イチロウとともに南へ。
イチロウが、二人きりだからか。ぼそりと話してくれる。
「すまねえな、俺みたいなのつれてってくれて」
「イチロウは役に立てている」
「そうか、ありがとう。 でもな、ヨーコさんが言ったみたいに、確かに俺、意志薄弱なのかもしれねえ。 何か考えるの、決断するのが怖いんだよ。 戦闘の時とかは、頭空っぽにして行動できる。 でも、それって考えて決断しているわけじゃないよな」
「そうだな」
分かっている。
判断するのが嫌だ。
そう考える人間は、一定数いる。
一神教の思想は簡単で、唯一絶対の正義があるので、それにただ平伏せよというものである。
これは人間を思考停止させ、支配するためのツールとしては極めて完成度が高い反面、自主的な思考などを防ぎ、科学などの発展を著しく妨げる。
要するに、神の代理人を名乗る人間が。他の人間を支配するために、最適のツールなのだ。
だが、どうしてこんなものがこれだけ世界に広がったのか。
理由は簡単である。
誰も決断も判断もしたくないからだ。
一定数の人間は、誰かに決めて貰いたいし、判断で責任も負いたくないのである。その一定数は、実のところ相当数に及ぶ。
勿論一神教が広がるのには同調圧力もある。
しかしながら、それ以上に。
自分で決めることが苦痛な人間にとって、魅力があるのも事実なのだ。
イチロウは、素直にそういうところがある事を吐露してくれた。
残念ながら人間なんて生物は、人間が思っているほど強くもないし、意志の力だってない。
一時期人間の可能性がどうのこうのという論説がはやったが。
そんなもんは有限に決まっている。
誰もが強くて、自分で決断できる訳ではないのだ。
しかし、そういう弱い人間を切り捨てて、社会は成立するか。それは否だ。
煌の前の世代……いわゆる氷河期世代というもので、「役に立たない」と判断した人間を片っ端からこの国では切り捨てた。
その結果がどうなったかは、誰もが知っている。
越水総理が立て直さなければ、もっと事態は悪化していただろうと言われていて。
煌としても、それは記憶すべき事だと考えていた。
イチロウの嘆きは他人事ではない。
誰だって、すがりたくなるし。
判断を丸投げしたくもなる。
それがある事は、認めなければならないし。更には、強くだってなれはしないのだ。
「俺は、ただ戦闘マシーンになっていればいいのかな」
「イチロウ、鬼武蔵はどうした」
「ああ、合体材料にしたよ。 あいつは、強さ云々以前に多分今後役に立てない。 それどころか、タオさんを味見させろとか言ってきた。 その時点で見切りをつけたよ」
「その判断で正しい。 そしてそれはイチロウが決めたことだろう。 決められる範囲には人それぞれ色々とある。 イチロウもちゃんと自分で決めている。 それを少しずつやっていけば良いだけだ」
そうか、とイチロウは少し寂しそうだった。
ともかく、今の発言を惰弱と切り捨てるのは最悪の行動だ。
惰弱かも知れないが。
惰弱な人間の方が圧倒的多数であり。強者だけでは、世界は回らないのだから。
「俺さ、両親が仲悪くてさ。 どっちもなんだかいう名家の末裔らしくて、金なんかないのにプライドばっかりたかくてよ。 姉ちゃんがいたんだけど、あんまりにもろくでもない家だから、早くに出て行ったんだ。 俺、毎日両親が喧嘩するのを見てて、どっちかと二人きりになると、意見をあわせないと殴られたんだ」
それで、相手の顔色をうかがう癖がついた。
そうイチロウは嘆く。
子供は大人の顔色を基本的にうかがうものだ。それについては、煌は以前ある事で知ったのだが。
イチロウは、それがトラウマになっているのか。
「今は寮に入ったけど、それでもどっちも時々メールを送ってきて、返信しないとすぐ電話が来るんだ。 越水総理に相談したら、ぴたりと止んだんだけど……それでも今でも怖くてさ」
「トラウマなんてものは、十年単位で克服に時間が掛かるのが普通だ。 すぐに治せなくても、気に悩まなくてもいい」
「おまえ、優しいな」
「そうでもないさ」
ヴァルキリー達が見えてきた。
いや、あれは。
何やらひそひそと話し合っている。声を掛けると、はっと顔を上げる。
何か悪巧みでもしていたか。
咳払いした煌に対し、リーダー格が言う。
「何やら騒がしくてな。 堕天使ともまた違う、変な天使どもが姿を見せているのだ」
「堕天使とは違う天使?」
「あまり詳しくはないのだが、おまえが従えている眷属なら知っているのではないのか」
「パワー、来てくれ」
パワーが出現する。
パワーはかなり力をため込んでおり、まもなく転化できそうだと言っている。悪魔の中には、上位存在に転化できる者がいるらしい。
天使は九段階の階級に別れていることもある。
それが容易なのだろう。
「パワー、何か覚えはあるか」
「天使ではなく、堕天使でもない、不吉な天使ですか?」
「そうだ。 明確に死の臭いを纏っていた」
「或いはですが……終末の時に現れる、世界の人々を殺戮して回る役回りの天使かも知れません」
「なっ! そんなのがいるのかよ!」
イチロウが青ざめる。
パワーはイチロウの要所での渋い戦い方を見ているからか、決してイチロウを侮ってはいなかった。
「煌様の眷属となった今だから言える話ですが、必ずしも天使の全てが人々を光で守護しているわけではありません。 汚れ仕事をする天使も多く。 特にヨハネ黙示録と言われる書物では、終末の時代に行われるという大量虐殺が記されています。 それで人々に手を下すのは、悪魔以上に天使なのです」
「そ、そんな。 天使って、俺を助けてくれたのに……」
「終末思想は様々な神話に存在している。 一神教にもあるだけだ」
イチロウがショックを受けている。
そういえば、天使のあり方を羨ましそうにしていたか。
ならば、知っておいた方がよかっただろう。
「何をもくろんでいるかは分からないが、危険だな。 貴女たちで対処できそうか」
「いや厳しいな。 とても勝ち目はないと話をしていたところだ」
「ならば、フィン騎士団長にその話を伝えに行ってくれ。 防衛線は僕が構築する」
「そ、そうか。 分かった。 皆、行くぞ」
ヴァルキリー達が去る。
イチロウが、良いのかというが。
良いと答えておく。
あのヴァルキリー達、どうも様子がおかしかった。下手をすると背中を刺されかねなかった。
だから、これでいい。
まずは、眷属達を展開して、周囲の守りを固める。
イチロウが悪魔を呼び出す。
ジャックフロストとジャックランタン。それにアイトワラス。
アタッカーの三体。
それに狛犬。
そして続いて、二体の悪魔を呼び出していた。
「出でよ霊鳥、常世長鳴鳥!」
「此処に!」
出現したのは、実に美しい白い鶏だった。鶏と言っても大きさは人間ほどもあり、何よりも発光している。
鶏は古くから、朝を告げるために神格化されてきた経緯がある。常世長鳴鳥は、日本神話の天岩戸事件などでも登場しており、天照大神を岩戸から出すために活用された神の鶏である。
決め手になったのはアメノウズメ神による踊りを神々がはやし立てたことだが、闇を払うためには鶏は必須であり。鶏の声を聞いて鬼が逃げ散るような逸話は幾らでも残されている。
鳥そのものに退魔の力があると信じられていたこともあり。
それもあって、桃太郎の供として雉が選ばれた経緯もあるようだ。
いずれにしてもとても扱いやすい霊鳥だ。
確かにイチロウにはちょうど良いだろう。
それともう一体。
「頼むぞ幻魔森可成!」
「おう!」
現れたのは槍を持ち、厳しく大鎧で武装した武者だった。顔も険しく、髭を厳つく生やしている。
森可成。
織田家の家臣であり、歴戦の猛将である。あの森長可の父であるが、見かけ倒しのあちらと違う本物のもののふ。各地で戦歴を重ね、戦死するまでに各地で武功を重ねた人物である。鬼武蔵などと言われた森長可はただのこけおどしのシリアルキラーだが。こっちは本物の猛者であり、しかも槍の名手として知られている。
というか、この歴戦の猛将の活躍を信長が知っていて信頼もしていたから、その子供である森蘭丸や森長可が甘やかされた面もある。
つまりは、虚名だけの息子とは違うと言うことだ。
イチロウに対して向ける視線も厳しいが、明らかに息子のものとは違う。
これは頼りになりそうだ。
「ええと、森さんでいいか」
「仮にも今は主君であろうイチロウ殿。 拙者のことは呼び捨てになされよ」
「わ、わかりました。 え、ええと、可成?」
「おう!」
気迫も凄いな。
ともかく、森可成は周囲を見回すと、的確にどう布陣するかをアドバイスしてくれる。イチロウはそれに沿って、雑多な悪魔を配置していく。
煌にも声を掛けてきた。
「拙者は今はイチロウ殿の家臣であるがゆえに、どうしてもイチロウ殿の守りを優先しなければならぬ。 今、かなり厄介な相手と戦をしようとしていることは心得ているが、何しろ粗忽者ゆえな。 貴殿の命令を直に聞くわけにはいかぬ。 それは心得てくだされ」
「問題ない。 噂通りの剛直の士のようで、安心している」
「そうさな。 あの馬鹿息子のせいでイチロウ殿も苦労なされたであろう。 拙者が必ず森家の名を汚さぬ活躍をしてみせよう」
心強いな。
悪魔達を展開し終える。
狼煙などの合図は既にこちらでも把握している。上空にいる天使部隊の一人が、連絡を見たようだ。
「狼煙です! 正面から悪魔の軍勢! フィアナ騎士団が交戦に入ったとの事です!」
「俺たちは此処の守りだったな」
「ああ。 狼煙で救援を求められない限り、絶対に動いてはいけない。 フィンさんは歴戦の騎士団長だ。 的確な判断をするはずだ」
「よし……」
イチロウが唇を舐める。
煌も、周囲を警戒。
だが、まもなく。
清流を穢すようにして、多数の悪魔が遡上してくる。堕天使が率いている、かなりの数の悪魔だが。
どうも様子がおかしいな。
逃げてきているように見える。
率いているのは、エイのような悪魔だ。かなり年老いているようだった。しかも、煌を見るなり叫ぶ。
「た、助けてくれ! 戦意はない! 降参でも、眷属にでもなんでもなる!」
「どういうことだ」
「とんでもない奴が来る! あんた、ナホビノじゃろう! 降参するから、命だけは……!」
反射的に、マーメイドが水を巻き上げて、壁を作る。
凄まじい瘴気が吹き付けてきた。
常世長鳴鳥が鋭く鳴いて、光の壁を作り出す。他にも魔法が使える悪魔が、それに習って壁を作った。
ひいっと、エイのような悪魔が悲鳴を上げる。
森可成が声を張り上げた。
「其方等、そちらに行っておとなしくしておれ! 大戦になる! 巻き込まれれば死あるのみぞ!」
「わ、分かった! まったく、わしらが何をしたと言うんじゃ!」
「巻き込まれるよ! 早く早く!」
わーが手を振って、悪魔達を誘導する。
悪魔の中には河童もたくさんいる。どれも必死に走って、わーについていく。森可成が、機転が利く子供だと褒めていた。
凄まじい瘴気の向こうから見えてくる。
それは、黒く染まった天使達だ。
パワーのように見えるが、全身から明らかに負の力を発している。目も光っているようである。
堕天使かと思ったが、違うらしい。
パワーが呻く。
「あれが終末の天使達です。 まさか話したばかりだというのに本当になるとは……」
手持ち達は配置についている。
わーが戻ってきた。悪魔達は、近くの池になっている場所へと避難させたらしい。そこなら、万が一の時も背後を突かれる事はないそうだ。
更に天使達が増えてくる。
元々天使達はとても機械的なイメージを受けたが、これはもはや機械的どころじゃない。全自動殺戮兵器だ。
パワーを中心としているようだが、更に上位の天使もいるようだ。
それらが、瘴気を放ちながら、陣列をくみ上げていく。
やがて、天秤を持った一体が現れる。
「ドミニオンです」
「中級一位。 かなりの高位天使だな」
「ええ。 中級以下の天使達を統率する、司令官の役割も果たします」
パワーが言う。
つまりただでさえ通常より強くなっているのに、素でこちらより格上の相手までいるということだ。
清浄な水を穢しながら、天使達が進み始めた。
「目標捕捉。 排除開始」
「皆、気勢を張り上げよ! かのような木偶どもを恐れるな! 我らが力を見せつける時ぞ!」
「お、おうっ!」
森可成が叫ぶ。それに触発されたか、イチロウも気合いを入れたようだ。
一斉に終末の天使達が襲いかかってくる。
前衛の眷属達がそれをまずは食い止めるが、地力が凄まじい。煌も即座に最前線に出て、苛烈な戦闘に身を投じていた。
※森可成
織田家の勇将です。名前ばかり先行している息子森長可と違い、この人は本物の勇将。数々の戦いで実績を上げ、織田家を守るために盾となって敵の大軍を食い止めて貴重な時間を稼ぎ、その末に散りました。槍の達人であったという逸話も残っています。
彼の活躍があったから、信長は彼の息子達(有名な森蘭丸もその一人です)を寵愛した訳ですね。結果として森長可みたいなのも寵愛しましたが、信長は時々人事を失敗するので、まあその一つの例でしょう。
本作では幻魔として登場。
武人として極めて堅実であり、以降はイチロウくんを支える盾としても槍としても活躍することになります。