真女神転生VV二次創作 牛蛇相克 作:dwwyakata@2024
妖精の楽園は妖精の王夫妻だけではなく、フィアナ騎士団と、更には荒脛巾神の結界によっても守られています。
しかし難攻不落の要塞は、歴史上必ず陥落してきたものです。
守りを超える苛烈な攻撃が、四方から加えられることとなります。
上空から多数の天使が襲いかかってくる。ユヅルは麾下の悪魔を総動員して、フィアナ騎士団とそれを迎え撃っていた。
要塞の真上には、荒脛巾神が強力な防御を敷いている。それを簡単には突破はできない。天使達は、明らかに様子がおかしい。いずれにしても、何カ所かにある要塞のほころびに殺到しているようだ。
既に煌も戦闘に入ったらしい。
ミヤズにはタオについてもらっている。
フィアナ騎士団の戦士達は冷静に矢の雨を降らせて、天使達を迎撃。凄まじい強弓で、次々と天使達が落ちるが。倒しきれない事も多い。
防御に弱点を作っているのは、意図的な設計だ。それで敵の攻撃を集中させ、効率的に迎撃できる。
しかもクロスファイヤーポイントになっている。
矢が四方八方から降り注ぎ、天使達を負傷させる。
ユヅルは強化した悪魔達を使って、手傷を受けている天使を次々に打ち倒した。
手にしている剣と拳銃をまだ使ってはいないが、乱戦が激しい。鬼が最前衛で大暴れしているが、まだ前衛を出した方が良いだろう。
妖精の戦士達も必死に戦っているが、どうも分が悪い。
トロールの戦士が、槍で串刺しにされて、どうと倒れる。
それをみて、小さな妖精達が明らかに恐れて下がる。下がった分、フィアナ騎士団の戦士と、鬼が肩を並べて突貫。
槍衾を作っている天使達に、頭上から大岩が落ちていた。
天狗礫による投石攻撃だ。
もはや礫ではないが、魔界での戦闘で力が上がってきているのである。槍衾を作っていた天使達数体が巻き込まれ。残った天使を鬼が拳を固めて殴り倒した。更に、前衛を投入する。
「いけ、猪笹王!」
「待ちかねたぞ! 翼が生えたあの木偶どもを叩き潰せば良いのだな!」
猪笹王。日本の妖怪であり、イッポンダタラと関連しているとも言われる。鍛冶士が妖怪として解釈されたとも言われるイッポンダタラと同一視される事もあるが。これは名前の通り巨大な人食いイノシシの妖怪であり。漁師と猟犬に殺されたことを恨んで化けて出て、人を食い殺して回ったという面倒な輩だ。
その後封印され調伏されたが。いずれにしても荒々しい神であり、妖怪に極めて近いダークサイドの存在だ。
大きさは日本イノシシの最大サイズである200㎏を大きく越えており、エゾヒグマ並の400㎏以上は軽くある。
イノシシの仲間は熊に匹敵する体格を持つが。これは流石に日本イノシシとしては巨大すぎる。
ともかく、そんな巨大イノシシが前衛で暴れ狂う。ちなみに種族は魔獣である。
イノシシの武器である頭蓋骨で天使の槍をはじき返し、更にはシールドバッシュを上から粉砕。
激しい暴れ回りぶりに、天使達の陣列が崩れる。そこに、フィアナ騎士団の一斉射撃が入る。
ばたばたと倒れる天使達だが、次から次に来る。
負傷者を下げ、回復しつつ、必死に要所を守る。
伝令が来た。あれは、煌がつれていたピクシーだ。早速活躍している。
「ご注進!」
「聞こう!」
「上空に新たな敵影! 結界の消耗を狙っている模様!」
「了解。 他の戦場にも伝えよ」
そのままピクシーが飛び去る。
煌はうまくやれているだろうか、そう思いつつ、突貫してきた天使を、引きつけてから剣で切り伏せた。
猪突してきたこともあって、切り倒すのは難しくなかった。
フィアナ騎士団の荒くれ達が、わっと歓声を上げる。
「今時の若い者もやるな!」
「我らも負けてはおれんぞ! ローマ帝国を乗っ取って偉そうにしている一神教の鳥どもなんぞ、蹴散らしてやれ!」
「そうだ! 何が終末の天使だ! 全部打ち落としてやる!」
士気が上がるなら何より。
鬼が多数の手傷を受けたので、下がってくる。即座に回復させる。
魔石は豊富に蓄えてきたので、それを使う。鬼は傷が治ると、すぐに最前線に。だが、リソースが幾らでもある訳ではない。
流石に冷や汗が出てきた。
また伝令だ。
今度は小さな鳥の使い魔だった。
「伝令! 騎士団長、強力な天使と遭遇! 激戦を繰り広げています!」
「騎士団長を狙ってきたか」
「厄介だな。 だが、今は持ち場を固めろ! あの騎士団長が簡単に負けることはないし、負けたらどのみち全滅だ!」
指揮官らしいフィアナ騎士団の戦士は堂々としている。
流石だな。
そう思いながら、ユヅルは更に戦闘を続ける。ハヤタロウが名前の通りの快速を生かして、手傷を受けている天使の首をかっ斬って回っているが。それでも相手の数が数だ。それも、全く死を恐れていない。
また猪突してきた。
今度は槍を持ったフィアナ騎士団の戦士が、串刺しにする。泣きぼくろのある青年だ。特徴からしてディルムッドか。まだフィンに従っているとしたら、ちょっと注意が必要か。
ともかく、鬼と猪笹王を前衛で暴れさせつつ、天狗礫での支援を続ける。まだ手札は何枚かあるが、力を温存しつつ相手の出方を見るしかない。
また伝令が来る。
今度はジャックランタンだ。
「伝令ホ! 煌さんの戦線に、強力な天使が現れたホ!」
「煌は対応できそうか」
「今頑張ってるホ!」
「そうか、では引き続き頼むしかない。 もしも手を貸せるようなら、そちらに行くと伝令を!」
ジャックランタンが行く。
あまり強くない悪魔は、こうやって伝令を務めたり、回復に必死だ。
手傷を受けたフィアナ騎士団の戦士を、多数のピクシー達が必死に回復している。其処に天使が突っ込んできたが。
猪笹王が、どこを見ていると吠えて。横っ腹に食いつき。地面に押し倒して、噛みついたまま振り回した。
胴体が食いちぎられ、上下泣き別れになって吹っ飛ぶ天使。
そのまま消えていく。
フィアナ騎士団も手傷を受ける戦士が増えてきている。それに、明らかに攻め込んできている天使の質が上がっても来ていた。
これは、最初に雑魚でこちらの力を測り。
本命を投入してきたのか。
そんなことをしなくても、最初から全力を投じてくればいいものを。むしろ各個撃破の好機だ。
恐らくドミニオンらしい天使が突っ込んでくる。
凄まじい剣技で疲弊している鬼を一気に肩口から切り下げ。右に左にフィアナ騎士団の戦士達をなぎ払う。
目には何の感情もなく、ただ淡々と仕事をしているという雰囲気だけがある。
ユヅルは奥の手を使う。
召喚したのは、以前神谷町で打ち倒した金童子だった。
かなり消耗が大きいので、長時間は呼び出せない。
ただ、魔界で連戦を続けて、それで力が増して。呼び出せるようになったのである。
体格からして巨大な金童子が、雄叫びを上げて突貫。ドミニオンにつかみかかる。だが、巨大な悪魔とは戦い慣れていると言わんばかりに、ドミニオンは金童子の突撃をいなしたように見えた。
だが金童子の手が想像以上に早く動いて、ドミニオンをつかむ。剣で冷静に指を切り落とそうとするドミニオンだが、その側頭部に、フィアナ騎士団の戦士が放った矢が突き刺さっていた。
それでも即死しないのは流石に中級一位。
だが、金童子が地面にたたきつけると、ボディプレスをたたき込む。流石にそれで、ドミニオンも打ち倒された。
消えていくドミニオン。
汗を拭いながら、ユヅルは金童子を戻す。あれは制御が難しい。ほとんど言うこともきかないので、けしかけるくらいしか使えないのだ。
倒されたフィアナ騎士団の戦士達は、幻魔にあたるのだろう。消えていく。だが、味方の死など慣れているといわんばかりに、戦士達は手を緩めない。
流石に天使達の攻撃が緩み始め。
ついに、一度退いて態勢を整え始めた。
膨大なマガツヒを、フィアナ騎士団の戦士達が吸収している。同時に、ユヅルも嫌でも吸収することになる。
回復急げ。
そう声が上がり、
また、矢玉も補給しているようだ。
ユヅルは龍脈に走る。
膨大なマッカも落ちたので、それを惜しみなく使って回復する。ギュスターヴには以前話はつけてあるのだ。勿論かなり割高になるが、それでも仕方がない。煌がいうギュスターヴという悪魔、相当な高位の悪魔だ。ちょっとやそっとの傷なら、鐘と引き換えでなおしてくれる。
ちなみに呪いは解除できなかった。
それは力の範疇外であったらしい。
「お兄ちゃん、上見て」
ミヤズが心配そうに言う。
上で飛んでいるのは、魔界に連れ込まれた縄印の生徒達を最初に襲撃した大鳥。エイシェトは北米の鳥と呼んでいたことから、恐らくはサンダーバードだ。
北米神話に伝承が残る巨大な鳥で、部族ごとに呼び名が違っている。英語名で呼ばれているのは、様々に呼ばれて非常に煩雑だからだ。
北米には大型の猛禽がいた他、古くには南米になってしまうが現在のものとは比較にならない巨大なコンドルが存在していた。
これらが自然現象と合わさって神格化された存在で、原初の神話の存在らしく荒々しい神鳥である。
あれは血の臭いを嗅ぎつけてきたとみていい。
結界が破られたら、即座に仕掛けてくるだろう。
荒脛巾神は。
見ると、あまり状態が良いようには見えない。
まずいな。
フィンが戻ってこないと、持ちこたえられないかも知れない。
看護師達は一部待避。呪術医は、まだ残って治療をしている。煌の眷属となったイズンは、リンゴを提供して、解呪について冷静な指導をし。自身も魔法を使って、回復を進めているようだが。
それでも、動かせるほど回復している生徒はまだいない。
「ミヤズ、おまえも戻れないか。 戦闘になったら、真っ先に弱いものが襲われる」
「私にも出来る事があるし、もう関わったことだよ。 煌さんやイチロウさんも戦ってる。 ヨーコさんやお兄ちゃんも。 私だけ逃げるなんて、出来ないよ」
「そうだな……分かった。 また僕は最前線に行く。 とにかく、妖精王達の指示に従って動くようにな」
「うん」
ミヤズは一度決めるとてこでも動かない。
だから、説得は諦めるしかない。
ともかく、最前線に戻る。手札を回復させ、体力はともかくユヅルも一息入れた。東京から運び込んだ飲むゼリーを口に含みながら、そのまま行く。少しでも栄養を取っておくべきだ。
最前線では、先以上の数の天使が集まってきている。
だが、其処に混乱が生じていた。
横から、別の天使の一軍が突入したのだ。率いているのは。
以前見た、アブディエルだ。
「ベテルから離反した背教者どもが! 地獄にたたき落としてやろう!」
「ターゲット補足。 排除」
「なんだ天使どもが仲間割れを始めたぞ」
「……今のうちに戦力を整えろ。 負傷者の回復急げ!」
フィアナ騎士団の動きは的確だ。
アブディエルの声は聞こえた。
つまりあの天使は、ベテルを離反したのか。だがその割に、堕天使になっている様子はない。
だとすると、一神教の神の統制が其処まで乱れていて。天使が派閥で争い、ベテルから離反する派閥まで出ていると言うことか。
いずれにしても大乱戦だ。
アブディエルが率いる天使達よりも、先に襲ってきた天使達の方が質で勝っているようだが。
代わりにアブディエルが強い。
アブディエルの強さは前に煌を追い詰めていたところから知っていたつもりだったが。流石にルシファーに逆らって陣営を去り、その後ルシファーに先陣となって挑んだというだけある。
凄まじい剣技で、片っ端から敵対側の天使を斬り伏せている。
すぐに伝令を飛ばす。
問題は、勝った方がこちらに仕掛けてくる可能性だが。
これは、仮にアブディエルが勝ったところで、それほど余力は残らないだろう。
連絡を待つ。
それでも、軍団同士での戦いでは、勝手なことはしない方が良い。
伝令が程なく来た。
「伝令! 騎士団長、帰還! しかし負傷しています!」
「!」
「相当にやばい相手だったようだな……」
「ヨーコ様は無事ですが、継戦能力は厳しいとの事! 今、回復に向かっています!」
つまり、煌より明らかに手強かったフィンを、退けた相手がまだ健在と言うことだ。
一度楽園まで下がって、遊兵となるべきか。
だが、その判断をユヅルが下すのはまずい。
今此処でもっとも会戦の知識があり、経験を積んでいるのはフィンだ。しばし判断を待つ。
最初に仕掛けてきた天使達は、徐々にアブディエル麾下の天使達に殲滅されつつある。大物をアブディエルが片っ端から倒したのが大きい。やはり強いな。余裕が出来たからか、天使が一人来る。アブディエル麾下のもののようだ。
「おまえ達と戦うつもりはない。 我らは謀反者を打ち倒し次第去る」
「そうかい。 いずれにしても、よそでやってくれ」
「あの者達はずっと居場所が分からず、追っていたのだ。 迷惑を掛けた。 アブディエル様の代わりに謝罪しよう」
「……」
天使が飛び去る。上での戦闘は殲滅戦に移行しつつあるようだ。
問題は、フィンが負傷したこと。
更に。
飛んでいたサンダーバードが、いきなり横合いからの凄まじい黒い光になぎ払われ、消し飛んでいた。
エイシェト相手に臆さず戦い、ほとんどダメージも受けなかった強者が。
更に、黒い光が、上空で光をため始める。
あれも天使か。
翼が見えるが。堕天使かも知れない。
ともかく、楽園の防御に攻撃しようとしている。
あれがフィンを退けた相手だとすると、まずい。
黒い光が、稲妻のように降り注ぐ。
楽園の防御が凄まじい音とともにきしみをあげ、ばりばりと砕けた。だが、黒い光を防ぐのには成功した。
丸裸になった楽園に、何かが飛び込むのが見えた。
まずい。
明らかに狙っているのは、人間だ。
「此処は私たちが守る。 君は行け!」
「すまない、感謝する!」
ディルムッドらしい戦士に言われたので、ユヅルは走った。あちらには、妖精王夫妻はいるが。
タオは回復で疲れ果てているし。
呪術医や看護師、ミヤズに戦う力はない。
しかも防御を粉砕されたなら、それを発生させていた荒脛巾神も一時的に身動きがとれない筈。
ハヤタロウを先行させる。
ユヅルもかなり身体能力が強化されており、ウサインボルトより既にかなり速く走れるようになっているが。
それでもあまりにも足が遅いと思ってしまう。
防御を打ち砕いた奴は、第二撃を準備している。それに対して、恐らくは、キンマモンが防御を再展開しようとしているはずだ。そういう手はずだったからである。
見えた。
妖精王夫妻と、護衛の妖精達を相手に、悪魔達が激しく戦っている。黒いもやのような悪魔だ。
倒されているのはタオ。
呪術医や看護師も、手傷を受けて倒れていた。
タオにまたがっているのは、エイシェトだ。
エイシェトは、タオを抱えて飛んでいこうとしたが。其処に、ミヤズが組み付く。ミヤズを見て、エイシェトが虚無の顔で笑った。
「ほう、まだ此処に残っていたか。 月の力に邪魔されて、どうしてか呪いが掛からなかった知恵の娘よ」
「よく分からないけれど、離してください! けが人を傷つけるなんて、絶対に許されません!」
「ミヤズ!」
ユヅルは叫んでいた。
ハヤタロウは黒いもやと戦うので手一杯。手持ちを全展開する。更に、負傷しているとはいえ、フィンが戻ってきた。それを見て、舌打ちしたエイシェトは、タオを放り捨てると。
ミヤズを抱えて、飛び去る。
黒いもやのような悪魔は、妖精王達の奮戦で駆逐されつつあるが。
それでも加勢してくれる余裕はない。天狗礫に投石させるが、届かなかった。
一瞬遅れて、キンマモンが防御を再起動。
それを見て、上空にいた影は、去って行く。
荒脛巾神も態勢を立て直した。
上空の影はそれで千日手になると判断したのだろう。
冷静に判断している場合ではない。ともかく、周囲の悪魔を掃討する。フィンも深手を負っており、即座に動ける状態じゃない。
もやみたいな悪魔は、なんだこれは。ほとんど実体がない。恐らくはエイシェトの眷属か手下なのだろうけれども。手応えがないと言う訳ではなく、幻覚を見せてくる。視界を歪ませ、意識を揺るがせる。魔法の発動も阻害する。だが、鬼が片っ端から殴り飛ばす。もやの悪魔が悲鳴を上げて消えていく。
「ま、待った! 降参だ! エイシェト様に置いていかれたし、これじゃあどうにもならねえ!」
「貴様……!」
「ユヅルくん、待って。 今は体勢を立て直すのが先だよ」
傷だらけのタオが、半身を起こす。頭から血を流していて、良く生き残れたものだと感心する。
降参を唱えた悪魔に、他のもや達も従う。
それらは、最初からもやであって、それ以上でも以下でもないようだった。
「なんだ貴様達は」
「俺たちは夢魔だよ。 サッキュバスとかインキュバスとか聞いたことがあるだろ」
「……そうか。 確かにそれなら話は通るな」
聞いたことがある。
そもそも本来の夢魔というのは、相手の夢に入り込んで悪さをする悪魔のことだ。日本では獏という霊獣が存在していて、人々の悪夢を食べてくれる。西洋では逆に、人々の夢の中で悪さをする夢魔が存在する。
この夢魔は本来は形すら性別すらなく、人間に併せて都合良く姿を変える。絶世の美女を求めればそうなり、美男子を求めればそうなる。そうして夢の中で人間と交わり、精を啜るのだ。夢魔はそうやって集めた精を悪魔を作り出すために利用するとも言われる。
だからサッキュバスとインキュバスは本来同じ存在である。最近では淫魔と混同されているようだが、本来は全く別物なのだ。
タオが倒れている人々に、なけなしの力で回復を始める。乱戦の中で生き残った戦士達を集めて、フィンがまだ戦闘中の地域に送っていた。妖精達もかなりやられたようだ。踏みにじられた楽園が痛々しい。
イズンが顔をこわばらせて、回復の魔法を全力で使っている。リンゴもほとんど使っているが。それでももう取り返しがつかない。
乱戦の中、呪いで苦しめられていた生徒一人が殺されたようだ。凄まじい形相で息絶えていた。戦いの中で動けもせず、ただ踏み潰された。無念だっただろう。
守れなかった。これで、また犠牲が増えてしまった。
そしてエイシェトはミヤズを連れ去った。八つ裂きにしても飽き足らないほどの怒りがユヅルの体を駆け巡っているが。今勝手に動いても、救出の可能性はゼロだ。
今までにない焦燥。
だが、フィンが来る。かなりの手傷を受けている。一体誰にこれほどやられたのだろうか。あのナホビノとなっている煌相手ですらも押し気味に戦い。現時点では煌に勝ち目がないと言わしめたほどの存在なのに。
「今情報を整理した。 煌どのが現在苦戦中だ。 どうも大天使が出てきたらしい。 それもベテルに所属していない、な」
「それは、先に防御を貫いた雷を放った輩の同類でしょうか」
「なんとも言えないが、同一個体ではないだろうな。 俺のところにも不意に大天使が現れてな。 そいつはカマエルと名乗った」
「!」
カマエル。
破壊の天使とされる、ダークサイドの天使の一角だ。
確かベテルで姿を見かけなくなったという話だが。もしもアブディエルが倒していた天使達を率いていたとすると。
これは、ベテル本部の内部紛争に巻き込まれていると見て良いのか。
厄介だ。
「ヨーコどのの奮戦もあって、どうにか窮地は脱したが、状況は良くないな。 奴らが退いた理由は分からない。 あの戦力なら、突破することも難しくなかっただろうに」
「それでどうしますか。 僕はまだやれますが」
「……まずは煌どのと合流する。 タオどの!」
フィンが声を掛ける。
かなり疲弊が激しいようだが、タオが来て、フィンとユヅルに回復をかけてくれた。これで、多少はやれるか。
ヨーコが少し遅れて戻ってくる。
ほとんどダメージなしか。
やはり何かあるな、というのは分かるのだが。それ以上がよく分からない。何を考えているにしても、少なくとも戦闘で戦果を挙げているし、今回はフィンの生還にも貢献している。
「此処は俺が指揮を執る。 ユヅルどの、ヨーコどの。 二人はすぐに煌どのとイチロウ殿の支援に向かってくれ。 ミヤズどのがさらわれたことは俺も把握しているが、まずは体勢を立て直す。 大天使を追い払ってからだ」
「どうやら議論の余地はなさそうですね。 ヨーコさん、行けるか」
「余裕よ」
「よし……」
ハヤタロウも手傷を受けていたが、どうにか戦えるところまでは回復している。
ユヅルが呼び出したのは、ハルパス親子である。先に伝令として向かって貰うのと同時に。
大声で、援軍が来る事を告げて貰う。
それで多少は敵の手が鈍れば儲けものだ。
ユヅルは小走りで走り始める。
ヨーコは札による何かの術で、相変わらず恐ろしい速度で走る。いや、歩いているように見えるのに、とてつもなく速い。
「これは神行法よ」
「道術か?」
「ええ。 あらゆる手札をそろえているの。 無駄に力だけはありあまっているから」
どうしてだろう。そういった時、いつも得体が知れないヨーコの顔に、初めて表情らしいものが宿った気がした。
※ベテルの分派行動
原作でも黒いあいつが四文字の神の麾下から離れていることを決戦の時にゲロっていますが、新宿区などでの天使の動きを見る限り、アブディエルがベテル本部を完全掌握していた可能性は低いと思われます。
イベントで登場するカマエルも独自の行動をしていたようですし、恐らく相当数の天使がアブディエルとは別に活動していたとみて良いでしょう。
黒いあいつの派閥はその一つ。
本作では、ヨハネ黙示録で人類を皆殺しにして回る天使達を麾下に入れた黒いあいつと愉快な仲間達は、既にアブディエルと同じ天を抱いていないのです。
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