真女神転生VV二次創作 牛蛇相克   作:dwwyakata@2024

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エイシェトとの第二ラウンド開始。

原作ではユヅルくんが早まった行動に出るのですが、本作では完璧に奇襲が成功。

しかしだからといって、簡単に救出作戦はうまくはいきません。

ちなみに放り出された、と前話でミヤズが認識したのは、初撃で意識を失い、それで誤認した結果です。  








3、救出、そして戦後処理

東海道線の残骸が散らばる中、多数の夢魔に囲まれているエイシェトをハルパス親子が確認。

 

更に煌が放った小さな悪魔達も、それを確認した。正確な座標を共有。手は、いくつか順番に打つ。

 

まず那須与一に配置について貰う。

 

森可成に意見を貰う。

 

ミヤズは丁寧にエイシェトの注意を惹いてくれている。周囲の夢魔どもは、エイシェトの機嫌がどんどん悪くなっているのを見て、右往左往しているばかりだ。これならば、勝ち目はある。

 

マーメイドに指示。

 

更には、いくつかの手を打って。

 

それから、行動を開始する。

 

最初の一手は、那須与一による狙撃だ。凄まじい精度の狙撃が、エイシェトへと襲いかかる。

 

普段だったら、防いだだろう。

 

だが、エイシェトはかなり興奮しており、ミヤズに相当に意識を持って行かれていた。それでも、反応したのは流石だ。

 

那須与一の剛矢を、防ぎきってみせる。だが、凄まじい爆発音がした。ミヤズの首から、手を外してもいない。今ので、ミヤズは意識を失ったようだが、むしろ好都合。下手に動かれると救出が逆に困難になる。

 

次の一手。

 

周囲に、一斉にユヅルの悪魔が攻撃を開始。鬼と河童が先頭になって、敵に突っ込む。河童は弱いと思われているかもしれないが、百人力なんて逸話があったりして、しかも相撲好き。小さくても、決して戦闘力は侮れない。更にイチロウが仲魔にしたばかりの堕天使フォルネウスが、上空から氷の雨をたたき込む。これに、煌のアプサラスも加勢。夢魔を次々に倒していった。

 

更に、ヨーコの札が辺りに突き刺さると、一斉に起爆。

 

夢魔達の混乱は、極限に達する。

 

もうもうたる煙の中、エイシェトが吠える。

 

「人質の命が惜しくないと見えるなあ! このエイシェトとしてはこいつの首をかっきれればそれで構わない! 今、この細い首を、ねじ……」

 

「おらあっ!」

 

突貫したのは、ジャックランタンとジャックフロスト、更にはアイトワラスに夢魔を蹴散らさせ、敵陣に穴を作り上げたイチロウだ。

 

多数の悪魔を倒して、マガツヒを吸収し、身体能力だけは上がっている。

 

そのパワーを生かして、イチロウは破れかぶれになったように見せて、エイシェトに突入する。素手で突入してくるイチロウを見て、エイシェトはなんだと一瞬悩んだようだが。その鉈みたいな爪がついている手をふるって、イチロウを一刀両断しようとして。

 

その瞬間。

 

ミヤズの首をつかんでいる手を、たたき落とされていた。

 

「なっ! ぎゃああああああああっ!」

 

乱戦を縫って音もなく突貫してきていたのは、森可成だ。

 

そもそも歴戦を経ている強者である。見かけ倒しの息子とは違う。わざわざ大鎧を脱いで目立たぬようにし、そして槍一丁で突貫したのだ。

 

それも足軽が持っているような槍ではない。

 

穂先で斬ることも出来る、名品だ。

 

森可成は槍の名手として知られている。その一撃は、抉り上げるようにして、注意がそれたエイシェトの腕を叩き切っていた。

 

その瞬間、わーが動く。

 

「わっ!」

 

「き、貴様あっ!」

 

エイシェトが混乱の極みに達する。そしてその間に、マーメイドがミヤズを救出。ミヤズごと砂に沈んで、そのままミヤズを抱えて泳いで安全圏に逃れる。エイシェトの至近に降り立つ煌。眷属を全展開。更には、怒りの形相のユヅルが、日本刀を抜いてゆっくり歩いてきていた。顔が真っ青になっている。怒りすぎると人間はそうなる。

 

イチロウは慌てて下がる。森可成も軽装だ。すぐに後退。それを見て、流石に不利を悟ったか。

 

跳躍して、エイシェトが下がる。

 

数だけいても、こうなっては夢魔達には何も出来ない。右に左に蹴散らされるだけだ。エイシェトが歯がみする。腕を切り落とされて、そこからマガツヒが漏れているが。動けないほどではないようだ。

 

マーメイドが叫んだ。

 

「あるじさま! ミヤズさんを助けました!」

 

「負傷は」

 

「大丈夫、意識を失っているだけです!」

 

「アプサラス、回復を。 さて……覚悟は良いだろうなエイシェト。 貴方はやり過ぎた。 倒すことにもはやなんの躊躇もないし、境遇に同情もしない」

 

煌も既にエイシェトを百害あって一理もない悪魔と認識している。故に滅ぼす以外の判断はない。

 

よく分からない天使達が控えていることもある。はっきり言ってあまり時間を掛けてはいられない。

 

だが。

 

エイシェトの側に、不意に何かが姿を見せていた。

 

箒に乗った魔女。

 

それも、箒にお上品に横乗りしている。

 

非常に幼い顔立ちで、体も小柄だった。小学生くらいだろうか。ナホビノの視力で見ると、指先などが球体関節になっているのが見える。

 

何体か、ルー・ガルーが乱入してくる。そのうち一体は、この間交戦した個体のようだった。

 

煌がこの間のルー・ガルーを引き受ける。

 

他のも手強い。一気にエイシェトとの距離を開けられた。

 

「エイシェトお姉様、随分と手ひどくやられましたね」

 

「黙れアグラト。 こいつらはこのエイシェトが倒す!」

 

「そのお体で? 無理ですよ。 こんなところで倒れられては困ります。 それに……鴉が戦力をまとめて、動き始めています。 奴らにとっては我々も敵。 此処は引き上げるべきでしょう。 戦略的な観点でも、此処で命を賭ける意味などありません」

 

「……そうだな」

 

エイシェトは、この様子だとまだ切り札を隠し持っていたな。

 

夢魔達が、一斉に引き始める。それを追うつもりはない。アグラトが、指先を光らせる。

 

凄まじい烈光が降り注いでくる。

 

常世長鳴鳥や煌の天使達が壁を貼るが、それを貫通して、天使達が次々たたき落とされた。

 

一転して守勢に立たされる。

 

だが、一撃がミヤズと。側に駆け寄って守ろうとしたイチロウを襲おうとした時。

 

誰かが、更に強力な壁を展開。

 

一撃を防ぎ抜いていた。

 

辺りは穴だらけだ。

 

それでも、要領よくルー・ガルー達は逃れていた。

 

あのアグラトは見かけ通り魔法戦専門か。今の魔法、尋常ではない破壊力だった。

 

「ふむ、横やりが入りましたか。 此処で多少は削りたかったのですが、仕方がありませんね」

 

「まて。 カディシュトゥは何をもくろんでいる。 魔界に生徒を連れ込んだのは、殺すのが目的ではないな」

 

「どうしてそう思うのです、ナホビノ」

 

「殺すのが目的なら、学校で皆殺しにしてしまえば良かっただろう。 君たちは何か時間稼ぎでももくろんでいたのではないか」

 

そういうと。

 

アグラトは上品に口元を袖で覆って笑った。

 

これは、今までの二人とは違うな。見かけは幼いが、極めて老獪だ。

 

アグラトは悪魔の女王という大げさな設定を与えられている存在だ。多数の魔女を従えているともされる。

 

いずれにしても、これは侮れる相手ではない。

 

今の攻撃の火力も、ナアマの面制圧とは違うが、手数で勝負してくるタイプだろう。

 

「まあ、想像にお任せします。 こちらも忙しいのでね」

 

「ナホビノ、二度もこのエイシェトに大恥を掻かせたな! 次は許さん! 万全の準備を整えて、必ず殺す!」

 

「此処までです。 行きますよお姉様」

 

「ちっ……」

 

アグラトとエイシェトが消えた。

 

鴉というのは、ひょっとするとあの様子がおかしかった天使達か。先にフィンから聞いた話によると、フィンを圧倒したのはカマエルだ。サリエル、カマエルが近くに来ていたとなると。

 

一神教におけるダークサイドの天使となる。

 

あのアグラトが即時撤退を選択するほどだ。相当に強力な相手とみて良かった。

 

いずれにしても、此処は安全とはいえない。

 

倒れているミヤズを、すぐに板を用意してきたイチロウと一緒に運ぼうと思ったが。マーメイドが、水を使って揺らさずに運べると提案してきた。せっかくなのでやって貰うことにする。

 

意識を失っているだけのミヤズだが、体があまり強くないのだ。ともかく楽園まで、回復を掛けながら行く。

 

あそこまで連れて行けば、本職のタオと医療班に任せてしまえばいい。

 

それ以上は、残念ながら出来る事はない。

 

フィアナ騎士団の戦士達が、守りを固めている。壊れた砦をなおしている戦士も出始めていた。

 

ユヅルが声を張り上げる。

 

「負傷者通ります!」

 

「おう、一旦工事中止!」

 

「急げ! こっちもカツカツだ!」

 

「ありがとうございます!」

 

フィアナ騎士団の戦士達は、良くやった、人質を助けたのは立派だと皆褒めてくれる。本来はここまで気持ちいい人たちではなく、悪い意味で荒々しい者達だっただろう。今は、色々と変わったのだ。

 

板に乗せたまま、本当に水を滑るようにして、マーメイドがミヤズを揺らさずに運んでいる。

 

周囲は引き続き警戒。

 

あのサリエルだけでも、今の時点では手に負えない相手だ。他の大天使も来たらしゃれにならないだろう。

 

楽園に到達。

 

ミヤズの状態を告げて、すぐに医療班に引き渡す。意識をその時には、ミヤズは取り戻していた。

 

「お兄ちゃん、煌先輩、イチロウ先輩、ヨーコさんも。 助けてくれて、ありがとう。 とても頼もしかったです。 タオ先輩、無事で良かった」

 

「今は静かにしていて。 大丈夫、助かるから」

 

「……はい」

 

医師達も頷いている。どうやら本当に命に別状はなさそうだ。

 

それよりも、問題がある。

 

越水長官と話しているのは。

 

アブディエルだ。

 

龍穴を経由して、ここに来たらしい。フィンが険しい顔で様子を見ていた。

 

「随分と痛めつけられたようだな」

 

「これはこれは。 アブディエルどの。 まさか天使同士で戦っているのを見るとは思いませんでしたよ。 それでわざわざ何ようですかな」

 

「……あれらは、独自に派閥を作り上げた愚かな者どもだ。 天使の風上にも置けぬ。 本来であれば堕天使になっていた者達だ」

 

「ならばなぜ堕天使にならぬのですかな」

 

越水長官が、毒のある言葉を返している。

 

アブディエルはユヅルの話によると敵対的な天使達をなぎ払って回っていたようだが。怪我の一つもしていない。少なくとも、手傷は確認できない。ただ、消耗はしているのを煌は見破っていた。

 

すげえなと、イチロウがぼやいている。

 

確かに鉄のような強さと信念を持っているのが分かる。

 

ただ、その信念は。

 

人々を守ることにはつながらないようだが。

 

「で、それだけか。 生き残りは。 ほとんど瀕死の者ばかりのようだが」

 

「ほとんどの者達は既に東京に救出しましてね。 今ここにいるのは、呪いを掛けられて、それを解呪出来ていない者達です。 魔界から離せないので、今こうやって解呪を進めています」

 

「ふん……。 いずれにしても守りが足りなかろう。 蛮族どもの戦士と妖精どもでは、このような場所など守れぬ。 我が配下を貸し出してやろうか」

 

「いえ、結構にございます。 既に貴方が戦った天使達はこの近辺にいないことを確認しました。 解呪もイズン神のおかげで進んでおり、あと数日もあれば全員を東京に引き上げることが出来ましょうな」

 

火花を散らしあう越水長官とアブディエル。

 

まあ、ベテル本部とベテル日本支部の確執については聞いている。

 

火花を散らすのは当然か。

 

アブディエルはその数日で、残りが死なないといいのだがなとせせら笑うと姿を消す。天使達は相変わらず機械的で、無言でアブディエルに従って姿を消していた。

 

ヨーコはじっとアブディエルの様子を見ていたが。東京に一足先に帰ると言う。

 

ヨーコの手札では、回復の役には立てない。それならば休憩でもしていた方がマシだというのだ。

 

物資の補給もしてくると言う。

 

確かに戦闘では毎回札をたくさん使用している。それを考えると、どうにかしてあの札を補給する必要があるのだろう。

 

負傷した医師や看護師も東京に戻る。

 

煌はまだしばらくはこの辺で守りを固めるつもりだ。

 

皆を越水長官が呼び集める。

 

ヨーコがいなくなるのを見計らったかのようだった。

 

「皆、話がある」

 

「いかがなさいましたか、長官」

 

ユヅルが姿勢を正すと、越水長官は遮音の結界を張る。

 

どうやったのかは分からないが。

 

少なくともこの人、魔法の類は使えるらしい。

 

「魔界の東京駅近辺に混沌の悪魔達の牙城がある。 今、ベテル本部が主導して、各地のベテル支部から軍勢を募っている。 現在確認されている混沌勢力の大物は、スルト、イシュタル、それに、チェルノボグ、アリオク。 いずれ劣らぬ強豪悪魔だ。 特にスルトの攻略は困難を極めるだろうな」

 

「そのスルトっての、すげえのか煌」

 

「スルトは世界の神話でも最強に近い魔だ。 北欧の神話ではラグナロクという世界の終わりが来るが、スルトは北欧の神々を一方的に殺戮した挙げ句、目的を果たして悠々と去って行く」

 

「えっ……」

 

戦歴で言うと世界の神話に登場する魔でも間違いなく最強。

 

それがスルトである。

 

越水長官は、少しだけ笑顔を浮かべた。

 

「幸いなことに、其処までの力はない。 北欧神話は既に神話から物語となっていて、信仰している人間がいない。 信仰されていないと言うことは、魔も弱体化しているということだ。 スルトは充分に対抗できる実力になっている。 ただし、それでも容易な相手ではないだろうがな」

 

「それで、どうしてこのようなタイミングで攻撃を」

 

「わからん。 分かっているのは、ベテル本部が焦っていると言うことだ。 そこで、こちらは二方向で同時に動く」

 

「どういうことでしょうか」

 

ユヅルが言う。

 

咳払いすると、越水長官は説明してくれる。

 

この総攻撃については、日本支部はまともに参戦しない。ただし、ベテル本部と事を構えるのはまだまだ不可能だ。

 

そこで、要所で時々力を貸す。

 

その一方で、調査する事があるという。

 

「龍穴は東京駅近辺でも確認されている。 かなり忙しくあちこちを行き来して貰う事になるだろう。 学業が遅れてしまうだろうが、それは許してくれるか」

 

「いえ、今は学問どころではありません。 越水長官の言葉は正しいと思います」

 

「お、俺もそう思います。 それでどうすれば……」

 

イチロウに対して、越水長官は言う。

 

とりあえず、まずは此処で解呪を行って、魔界に連れ込まれた生徒達を全員救出する。それについては、煌も同意だ。しばらくは此処に残る。

 

ただでさえナホビノになってから、生理反応が極端に薄くなっていて、排便とかもほぼ必要なくなっている。

 

食事はたまに取るが、それもたまにだ。

 

マガツヒを吸収していれば必要ないとさえ感じる。やはり、どんどん体が人間ではなくなっている。

 

睡眠も必要なくなりつつある。

 

それについては、別に悲しいとは思わなかった。

 

「それにしても越水長官、どうしてアブディエル様の提案を断ったんですか」

 

「これ以上借りを作るわけにはいかないというのが一つ」

 

「え……まだあるんですか」

 

「もう一つが本命だ。 あれはここにいる者達を見極めに来た。 場合によっては殺すためにな」

 

全員が息をのむ。

 

タオも、あまりのことに言葉を失ったようだった。

 

「全員ではないが、縄印にはある特徴を持つ生徒達を集めている。 それは悪魔だけではなく、天使達も狙っていたのだ」

 

イチロウは黙り込んでしまった。

 

なるほど、アブディエルがわざわざ来るわけだ。

 

だが、退いたのはなぜだ。

 

或いはだが、それほどまでに想定される東京駅近辺での戦闘が厳しいのだろうか。此処で日本支部と衝突して、戦力を減らすことを避けたいと考えるほどに。可能性は否定できない。相手にはスルトがいるという話を聞くと、生半可な悪魔や天使では対抗できないだろう。

 

後は、テキパキと越水長官が配置を決める。煌はしばらくこの辺りに残る。ユヅル達は交代で東京に戻り、食事と睡眠をとって回復しつつ、解呪の手伝いをする。

 

ミヤズは呪いを受けた形跡はないので、動かせるようになったらすぐに東京に戻るそうだ。

 

全治一週間ほどらしく、それほど酷い手傷は受けていないそうである。

 

それだけは幸いだったか。ただ、これ以上の看護は無理だ。東京に戻るのが妥当である。しかしながら、記憶は消さないようにとユヅルが頼んでいた。悪魔が存在し、危険である事を認識する必要があるから、だそうだ。確かにそれはそうだろう。

 

まずは戻っていく皆を見送る。越水長官も、戻るようだ。まあ、総理としての仕事もある。

 

こちらにずっといるわけにもいかないのだろう。

 

アオガミが話しかけてくる。

 

「煌。 構わないか」

 

「ええ、問題ありません」

 

「いくつか気になったことがある。 縄印の生徒達についてだ」

 

「確かに天使にとっても抹殺対象だと言うことは、余程の事かと思いますね」

 

そうだと言ってから。

 

少し時間をおいて、アオガミは言う。

 

「エイシェトとアグラトに言った、時間稼ぎが目的ではないかという煌の読みだが、私はあたっているとみる。 実際問題、抹殺が目的ならばその場で殺してしまえば良い。 さらう必要があった。 だがエイシェトは、さらった人間を殺傷したりと、大事にしている様子もなかった。 最初に落ちた国会議事堂近辺の悪魔は、粗暴な者以外は人間を出来るだけ傷つけないようにしろとまで言われていたようなのにな」

 

「確かにダイモーンがそう言っていましたね」

 

「何かある。 アブディエルだけではなく、越水も何か隠していると判断した方が良いだろう。 誰にも気を許すなと言いたいが……」

 

「いえ、信頼関係なくして戦うことは難しい。 ただ、常に背中には気をつけるようにします」

 

アオガミはそれを聞いて、安心したようだった。

 

その後はイズンと相談しながら、回復を進める。

 

医療班も黄金のリンゴの効果に驚嘆していたが。それでも簡単に解呪ができない。この呪いを考えると、エイシェトは呪術という観点では侮れない存在なのだろう。出来れば倒しておくべきだったか。

 

一人の状態が悪化してきた。

 

呪いはともかく、体力が持たないのだ。人工呼吸器をつけている。魔法も効果が限定的だし、傷ついているのは人間だけではない。

 

いくつかの薬を投入している。

 

タオが来た。

 

まだ四時間程度しか寝ていないはずだが、それでも必要だと言うことだ。

 

複雑な医療用語が飛び交っている中、タオが回復の力を使い始める。光が周囲を覆うかのようだ。

 

これは、ひょっとして。

 

回復の魔法とは、また違う力なのか。

 

かなり危険な状態だった生徒が、持ち直す。医師達が青ざめていた。看護師達が、テキパキと動いていて。タオは倒れそうな顔色だったが、煌に笑ってみせる。

 

「また危なくなったら呼んでね。 これだったら、自信があるんだから」

 

「無理をしていないか。 かなり顔色が悪いが」

 

「力を使うと相応に体に負担があるの。 それもあって、鍛え始めたんだけれど、どうしても限界があるね」

 

「分かった。 また厳しい時は呼ぶ。 それと……樹島さんは大丈夫か」

 

頷かれる。

 

あの事件にも負傷療養中で関わらなかった。今は家で休養しているそうだ。

 

メッセージが返ってこないのを心配していたらしく、それで少しだけやりとりをしているらしい。

 

そうか、良かった。

 

タオが戻った後、フィンが来る。

 

まだ負傷が癒えていない。

 

イズンが回復に惜しみなく黄金のリンゴを使っているが、それでも足りないくらいの戦闘だったのだ。

 

「俺はしばらく動けない。 君に頼みがある」

 

「自分で出来る事であれば」

 

「例のオニャンコポンとアナンシの親子だが、かなりもめているようだ。 双方が軍勢まで並べ始めた。 このまま戦闘になると面倒だ。 解決を頼めるだろうか」

 

「分かりました。 イズンとアプサラスは置いていきます。 回復に関しては、両者を頼ってください」

 

少し前に調べたが、オニャンコポンとアナンシは二柱ともアフリカの神だ。相当な古代から信仰されている存在で、近年はどうしても信仰が弱まっている。

 

このまま消えるならそれも定めというオニャンコポンだが、その言葉は分からないでもない。

 

アフリカは近年「先進国」の都合で滅茶苦茶にされ続けている。古くはエジプト文明があり、ローマと渡り合ったカルタゴが存在し、決して欧州と文明という観点では劣らなかったのに。

 

奴隷貿易が始まった辺りから全てが狂い始めた。

 

様々な信仰が入り込んで、元からの文化も次々に破壊していった。

 

そんな中、無理に信仰を保つのは困難極まる。

 

しかしながら、アナンシの言葉も分かるのだ。

 

それにあらがいたいというのは、自然な意見だろう。

 

ともかく、此処で戦いをして貰うのは困る。煌は無言で、砦地帯を抜ける。

 

エイシェトに見捨てられた夢魔の中には、どうやら楽園で兵士として暮らすことを選んだものもいるようだ。

 

砦の中では、そういった夢魔も守りについている。

 

最初は最前衛で使い捨て。

 

それは降伏した者の扱いとしては当然だ。

 

だが、この楽園は元々様々な妖精が試行錯誤してやってきた場所だ。フィンやフィアナ騎士団だって、最初は歓迎されたかどうか。

 

フィアナ騎士団はもう顔パスで通してくれる。それだけ、煌を信頼してくれているということだった。

 

 

 

さて、久々の単独行動だ。

 

上空では、カラス天狗の群れが偵察に来ていた。大規模な空中戦があったと聞いて、見に来たのだろう。

 

煌には興味を示さず、そのまま飛び去っていく。

 

さて、見えてきた。

 

オニャンコポンが並べているのは、小さな蛇みたいな悪魔達だ。それに対して、アナンシは雑多な悪魔を並べている。

 

稚拙だが陣立てになっている。

 

仮にもどちらも神格である。

 

もしも戦い始めたら、どんな影響があるか分かったものではない。

 

煌が進み出ると、両者はおおと声を上げていた。

 

煌は片手を挙げると、順番に話す。

 

「言い合いになるのも面倒です。 それぞれ順番に話を聞かせてくれますか」

 

「分かった。 ではわしからじゃな……」

 

その場で言い分を話させても、どうせ口論になるだけだ。順番に話を聞く。

 

どうやらアナンシは何かしらの手土産を持って、ベテルに売り込むつもりであるらしい。

 

現在ベテルのアフリカ支部は存在していない。エジプト支部は存在しているが、アフリカの雑多な信仰はほとんど無視されているらしい。

 

ベテルというのは神の家という意味であり。

 

一神教が最強の力を持つ今は、あくまで他の神々は傘下の存在という扱いのようではあるのだが。

 

それにしてもあまり褒められたやり方ではない。

 

煌が話を聞きながらそう思うと、オニャンコポンも同意した。

 

「神々は人と供にある。 古くは様々な自然現象や、人間が想像できないものに神々が見いだされた。 武器を持たない人間では勝ち目がない獣や、天変地異などは、人間を恐れさせ続けた。 炎は知恵の象徴となり、獣は力の象徴となった。 天は全ての父となり、地は全ての母だと考えられた。 だから、それが人と供にある存在ではなく、人間が人間を支配する道具に成り下がるくらいなら。 わしらはいない方がいいのじゃよ」

 

「……なるほど。 分かりました。 アナンシさんにも話を聞きます」

 

考えさせられる言葉だ。

 

オニャンコポンは天空神であり、それでいながら滅びることを全く恐れていない。むしろ人々の道具として、支配のためのツールとして使われる事を恐れている。

 

アフリカにも一神教は入ってきていて、その信仰は極めて独善的だ。土着の信仰を殺し尽くす勢いで広がり続けている。それは今も同じだろう。

 

だからこそ、そういった一神教の姿を見ているから。

 

オニャンコポンは、そんな風になるくらいなら、死んだ方がましと考えるわけだ。

 

続けて、アナンシを呼ぶ。

 

父に対する愚痴を言いそうになったので、遮る。

 

「今は無駄な争いを避けるために双方の言い分を聞く時です。 貴方の主張だけを聞かせてくれますか」

 

「はあ、しっかりしていますね。 まあいいでしょう。 父の思想は確かに高潔であり、人間と供にある信仰の神としてはあり、でしょう。 ですが、原初の信仰というものは、基本的に皆そうです。 一神教だって、現在の姿になるまで、散々変遷を遂げてきたのです」

 

「知っています。 これでもそれなりに本は読んでいますから」

 

「ならば話が早い。 他の信仰がしてきたことを、なぜ我らがしてはいけないというのか。 一方的に殴られ迫害され、挙げ句の果てに支配の座すら取り上げられる。 そんな状況を笑ってみているほど私はお人好しではありませんでね」

 

まずはベテルに取り入る。

 

そして、アフリカ支部の地位を得てからは、更に力を伸ばす。

 

ベテル支部の座を得れば、一神教の圧力が減る。それは他のベテル支部を見て、確認できているという。

 

そうすることで、初めて生き残る事が出来るのだとアナンシは言う。

 

気持ちは分かるが。

 

煌としては、それで父親と戦う理由にはならないだろうと感じた。

 

ともかく、双方の言い分は分かった。

 

ただ、気になることがある。

 

「貴方がベテル本部に今売り込もうとしているのはなぜですか」

 

「簡単ですよ。 今ベテル本部は弱り切っている。 今は少しでも味方がほしい。 最大の好条件を引き出せるからです」

 

「……それで何を手土産にするつもりですか」

 

「これでも私は蜘蛛の神。 蜘蛛は節足動物でももっとも繁栄している種族です。 貴方は知らないかも知れませんが、この魔界にも私の眷属は既に多数忍び込んでいます。 例えば、ベテル本部の求める賞金首の位置とか、かなり私は把握しているのですよ」

 

ああ、なるほど。

 

だいたい言いたいことは分かった。

 

とりあえず、アナンシとの話は切り上げて、二人のところに戻る。軍勢のにらみ合いをしているのを、まずはやめさせる。

 

「フィン騎士団長の代理できているので、僕に権限があります。 その上で言わせて貰いますが、現状お二人が戦うべきではないと思います」

 

「ふむ、理由を聞かせてくれるか」

 

「先に天使の大軍が空で交戦しているのを見たと思います。 ベテル本部からかなりの数の天使が離反していて、それで堕天使になっていません。 これはどういうことかというと、それだけベテル本部が混乱し、求心力を失っていると言うことです。 下手をすると、噂の通り四文字の神が既にいない可能性も否定できないでしょう。 アナンシさん、現在のベテル本部に売り込むのは、一見すると良い策に見えますが。 既にベテル本部は土台が腐った納屋と化していると言ったら?」

 

先の戦いでも、確認できるだけで大天使が二体、その造反側についていた。

 

サリエルもカマエルも現時点では煌が勝てる相手ではない。

 

アブディエルの実力でどうにか押さえ込んだようだが、それもいつまで続くか。ベテル本部で致命的な状況が起きているのは確実だ。

 

丁寧に説明すると、オニャンコポンが感心したように言う。

 

「せがれよ。 どうやら知恵者を気取る其方より、この若き英雄の方が賢いようじゃな」

 

「……ちっ。 確かに先の戦いは私も見ました。 天使の同士討ち、それもあの規模。 ただでさえ戦力が大幅に落ちているベテル本部があれをやっているとなると、確かに納屋が腐っているという言葉には説得力がありますね。 良いでしょう。 兵を退きます」

 

「わしもだ。 これは無益な戦いだ。 しかしながら今は二人の意見が合いそうもないから、互いに距離を置こうぞ」

 

「そうですね。 私は情報を集めるとします。 しかし、何かしらの良い策を見つけた場合は、親父殿。 貴方にも従って貰いますよ」

 

蜘蛛になっている下半身をカサカサと動かして、アナンシが去って行く。

 

オニャンコポンは、それを見て大きくため息をついていた。

 

「あのこざかしいせがれを良く説得してくれた。 若き英雄よ」

 

「いえ。 魔界に来てから、勝てない相手をたくさん見てきました。 僕などまだまだですよ」

 

「謙遜なさる。 娘がいたら嫁がせたいくらいだが。 まあこの間の様子を見ると、両手に花か」

 

「……」

 

とりあえず、誤解を解くことも無意味か。

 

後は、互いに隙を見せないようにだけ注意して、楽園に戻ることにする。その矢先、通信が入る。軍用無線によるものだ。

 

ユヅルからだった。

 

「アフリカの神々の方はどうだった」

 

「今説得して矛を収めて貰ったところだ」

 

「流石だな。 戻ってきてくれ。 君が側にいた方が、恐らくイズンがやりやすい筈。 状態が悪化する生徒が出ないように、近くで護衛してほしい。 本当は交代でやるべきなのだが……」

 

「いや、構わない。 睡眠をほとんど取らなくても大丈夫になっている。 心配なのは、ギュスターヴに要求されるマッカくらいだ」

 

多少の冗談を言うと、後はさっと戻る。

 

アマノザコは港南辺りで別れてから、また姿を見なくなった。

 

無事でやっていると良いのだが。

 

砦で一旦足を止めて、楽園に戻る。フィアナ騎士団の負傷兵が、順番に交代して治療を受けているようだ。

 

しばらくは、楽園を離れない方がいいな。

 

それは、この様子を見ていると、思い知らされた。







煌くんは、世話になった妖精の楽園に相応に恩返しをするつもりで明確に動いています。

エイシェトを退けた後、妖精の楽園に対する脅威を取り除いているのも、その一環なのです。

ちなみにオニャンコポンとアナンシをそれぞれ遠ざけて順番に話を聞くのは当然の処置です。二人一緒に話させると、口論になるのは目に見えていますからね。




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