真女神転生VV二次創作 牛蛇相克   作:dwwyakata@2024

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※女神デメテル

DSJから本格参戦したオリンポス12神の一角ですね。

DSJでは極めて主体的に暗躍したこの人ですが、真Vではどうも途中にナホビノ君についた方が得だと判断したのでしょう。元々オリンポス12神は神話でもあまり仲が良くないので、ゼウスと袂を別ったのは不自然ではありません。

ともかく原作では彼女の依頼でバアル由来の悪魔を倒していくイベントが連鎖することになります。本作でもそれは扱う事になります。





1、バアルの果ての魔王

戦力の再編成を進めているフィンは、魔王のことを今知ったらしい。何、と驚きの声を上げていた。

 

この様子だとちょっとまずいな。

 

越水長官も交えて話をした方が良い。

 

今、東京駅近辺での戦闘準備で相当に忙しいはずだが、魔王となるとラフムなどと同等の脅威になる可能性がある。

 

動かれると、どこから東京に侵入されるか知れたものではないし。

 

自衛隊の装甲車による重機関銃での射撃でラミアさえ倒せなかった事実を考えると、魔界で倒しておかなければいけないはずだ。

 

ましてやベルフェゴールは相応に名前を知られている存在。

 

実力も、ラフムに劣るとは思えなかった。

 

二時間ほどして、話し合いの場が整う。

 

手札の補給をしていたらしいヨーコにも来て貰って、ユヅル、イチロウ、タオも交えて話をする。

 

フィンもフィアナ騎士団の再編成を進めており。

 

回復した戦士を次々に前線に。

 

また妖精達は楽園の復旧を急いでおり。

 

復旧と同時にこの間の戦いでかき集めたマガツヒを用いて、倒れたフィアナ騎士団の戦士達を、アティルト界から再召喚するべく準備をしているようだった。

 

つまり、フィンも妖精も動けない。

 

ここにいる面子でやるしかない。

 

解呪が出来た生徒もいるが、まだ四人が身動きとれない状態だ。そういう観点でも、魔王なんてものを放置は出来ない。

 

状況を説明すると、最初にぼやいたのはイチロウだった。

 

「魔王なんて実在するんだな。 ゲームにしかいないと思ってた」

 

「正確には、悪魔の中でも大物の内、邪悪で破滅的な性格を持つ一部の者を魔王と分類している。 その多くは神としての性質を失ったものだな。 神としての性質を持ち、邪悪な存在は、邪神として分類している。 例えば煌くんが倒したラフムなどは邪神に分類されている」

 

越水長官がイチロウに説明。

 

これは、他の面子にも向けての言葉だろう。

 

ともかく、丁寧に策を練る。

 

相手は魔王だ。

 

「現状、東京駅近辺への侵攻作戦は順調に進んでいる。 今の時点では、戦闘経験を君たち全員に積んで貰うべきだ。 タオくん。 君は引き続き負傷者、呪いを受けた人間の回復を。 ミヤズくんがこちらで支援をしたいと申し出ているが、まだ負傷が癒えていない事もある。 どうもミヤズくんにも微少ながらデビルサマナーの素質があるようだが……いずれにしても、戦闘などはとても無理だ。 支援なら出来るかも知れないが、しばらくはタオくん、君だけに回復を頼む」

 

「分かりました。 出来るだけ急いで解呪を続けます」

 

タオは救えなかった生徒のこともある。

 

気合いが入っているようだった。

 

煌とユヅル、イチロウとヨーコは魔王の撃破に向かう。ベルフェゴールは有名だが、そこまで強烈な武勲の逸話はない。

 

ただし一神教の悪魔だ。

 

それは世界最大の信仰をある意味受けている、ということも意味する。

 

油断だけは絶対に出来ないだろう。

 

更にだ。

 

いくつか注意点があると越水長官は言う。

 

「邪神であろうと魔王であろうと同じだが、アティルト界からアッシャー界に具現化する時は、膨大なマガツヒを必要とする。 君たちが近くを通った時異様な気配を感じなかったのだとすると、現れたのはつい最近とみていい。 ベルフェゴールは八咫烏などの記録を見る限り、ここ最近でも姿を見せており、ラフムのように充分な準備を蓄えていたとは思えない。 恐らくは、至近にいる存在を片っ端から襲って餌にしているはずだ。 問答無用で襲いかかってくる可能性も高いから、気をつけてくれ」

 

「分かりました」

 

それから、天王洲アイル近くの龍脈に移動。

 

まずは、ハルパス親子をユヅルが飛ばして、偵察に出す。

 

イチロウは更に悪魔合体を進めていたようだ。

 

何体か新しい悪魔が加わっているようである。ユヅルもそれは同じで、整備をしているらしい。

 

確かに、気配がある。

 

それも極めてまがまがしい代物だ。

 

ナホビノとしての力が上がっているから分かってきた、というのもあるだろう。

 

まずは首都高に降りて、目的地点に向かう。途中で、カラス天狗が多数降りてきた。相変わらず、敵意はないようだった。むしろ警告してくれる。

 

「いつぞやの。 此処は危険だ。 離れた方が良い」

 

「あの山に出現した存在か」

 

「知っていてきたのか。 あの存在は西洋の悪魔、それも高位の奴だ。 今、片っ端から悪魔を食らっている。 人間は出来るだけ殺さない方針で動いているようだが、それでもあれだけ飢えていると、即座に襲ってくる可能性も高い」

 

「……なら、なおさら存在を許すわけにはいかない。 必ず倒してくる」

 

カラス天狗達は顔を見合わせると。

 

一体、長らしいのが来た。

 

鼻高でもカラス天狗でもない。

 

むしろ修験者そのものの姿をした天狗だ。ホラ貝の角笛を持っていて、いかにも威厳がある。

 

カラス天狗が紹介してくれた。

 

「鞍馬天狗様だ」

 

「紹介にあずかった鞍馬天狗の一人だ。 貴殿等はまだ若い。 力もあるようだが、とにかく危険な相手だ。 これを渡しておこう。 未来ある若者は、我らにとっても宝なのだ」

 

鞍馬天狗。

 

源義経に稽古をつけたというあの天狗達か。

 

実際その正体は山の民だったのだろうから、それに姿が寄っているのは恐らくは妥当だ。

 

渡されたのは、何かの宝珠だ。

 

強い力を感じる。

 

「それは東京受胎で消滅してしまった天津の神の欠片だ。 いずれ媒介にして、よみがえらせることが出来るかもしれん。 この国の神、しかも支配者神格だ。 もしもよみがえらせることが出来れば、貴殿等の大きな力になってくれるだろう」

 

「こんなものをいいのか」

 

「我らも複製していくつか持っているが、とてもよみがえらせる宛てはない。 貴殿等の活躍については、斥候が見て知っている。 多数の悪魔を倒し、殺戮に心が墜ちた悪辣な天使どもも多数討ち取っている。 ならば、期待できる。 我らはどちらかというと天津からすると支配される側ではあるのだが、それでも今は手段を選んではいられぬ。 天津の神の復権は利になるのだ」

 

そうか。

 

礼を言うと、武運をと言って、カラス天狗達は飛び去った。

 

イチロウが、素直に感心していた。

 

「すっげえ統率がとれてるな。 本当に軍隊みたいだ」

 

「少しは戦闘のことが分かるようになってきたようね。 頼っても良いかしら?」

 

「えっ? そう言ってくれると嬉しいけどよ」

 

「まあ、ほどほどに期待しておくわ」

 

イチロウは森可成に武芸の稽古を徹底的に仕込まれていて、今回からは腰に拳銃をつけてきている。

 

魔界に行く時だけ至急されるもので、警察が使っているものより遙かに強力で悪魔用の対策をしている弾も装填されている。

 

また、小さな脇差しもつけていた。

 

これも霊的な鍛造を受けた、それなりの名品らしい。

 

イチロウの活躍をユヅルが推薦したらしく、それで支給を受けたという話だ。

 

首都高の残骸を行くが、雑多な悪魔は煌を見ると逃げていく。寄ってくる悪魔もいたが、近づくと血相を変えて散っていった。

 

そして、異様な気配がする山に近づくと、悪魔自体がほとんどいない。

 

いつの間にか側に出現していたわーが、手をかざしていた。

 

「おー、凄いのがいるね」

 

「君が見る限り、やはり強いか」

 

「んー、強いけどジョカとかアブディエルとかと比べると全然かなー。 ただ今の煌ちゃんよりは強そう。 しかもほっとくとどんどん強くなるよ」

 

「分かった。 やはり皆を連れてきて正解だったようだ」

 

そのまま、山に登り始めるが。

 

ある一線を越えた瞬間。

 

凄まじい悪寒がした。

 

わっと、何やら真っ黒なものが襲いかかってくる。

 

ユヅルとイチロウが前に出て、一斉に悪魔を展開。常世長鳴鳥が、鋭く声を発するが、光の力でも防ぎきれない。

 

天使部隊を展開。

 

パワーだった天使が、中級二位、ヴァーチャーに転化している。更には、数体の天使が、パワーに転化。

 

それぞれ、激しい戦いで力を得て、転化したのだ。

 

放つ光も強くなっている。

 

逆落としを掛けてくる無数の真っ黒なものに、光の力を一斉にたたきつける。ヨーコも爆発の札を投擲。

 

だが、敵の勢いが凄まじい。

 

「一度下がられよ!」

 

「そうだな、その方が良さそうだ。 殿軍は引き受ける! 首都高まで下がれ!」

 

ユヅルが森可成に答えると、手持ちの悪魔を呼び出す。

 

神々しい光の鳥だ。

 

燃えさかっている様子からして、朱雀か鳳凰か。ともかく、鋭く鳴くと、悪魔達が明確に怯む。

 

首都高まで下がり、其処で広がって展開。

 

山から怒濤のように下ってきた黒い何かは、そこでピタリと動きを止め、天使部隊の光の投射を一斉に受けて、それで辟易して下がっていく。

 

あれは、悪魔と言うよりも。

 

悪魔の一部か。

 

此処は足場は良くないが、山から逆落としを掛けられるよりはマシだ。

 

ユヅルが戻ってくる。

 

手傷はないが、今の攻防だけで相当に厳しい相手だと言うことが分かった。手をかざして見る。

 

山の頂上付近で、こっちを見ている悪魔がいる。

 

煌もここに来る前に眷属をソピアーのところで調整している。

 

力不足が目立ち始めたアプサラスと、多数の弱い悪魔達を合体させて、強力な悪魔に仕上げたのだ。

 

力を消耗するが、今山頂で見ている奴も餌を大量に欲している。

 

今襲ってきたのは触手みたいなものだろう。それを焼き切れば、ダメージになるはずだ。

 

ならば。

 

「出でよ吉祥天!」

 

「此処に」

 

吉祥天。

 

アプサラスから経由して作り上げた神格だ。

 

インド神話における三大神格の一角、ヴィシュヌの配偶神ラクシュミ。それを仏教に取り込んだ姿である。

 

毘沙門天の配偶神とされることもあるが、元々ラクシュミがアプサラスと関連して語られることが多いため。その縁をたどって合体させた。

 

今回、初陣となる。

 

ただし、それなりに高位の神格であるので、出現させているだけでかなり消耗が激しい。現在最大の力を持つ手持ちであるジャターユと同時に出す事はまだ無理だろう。

 

吉祥天は典型的な福を為す神であり、先ほどの触手程度だったらどうにか出来る。簡単に説明すると、イチロウが頷いた。

 

「分かった。 俺がまた壁になって道を切り開く。 悪魔を散々消耗すると思うから、本丸までたどり着いたら、皆でやっつけてくれよ!」

 

「勇敢だな。 分かった。 河童達、イチロウの展開する悪魔に連携してくれ」

 

「承知!」

 

河童達がずらっと並んで戦列を作る。

 

よし、攻め上がる。

 

森可成が最前衛に出ると、槍を構えて、叫ぶ。

 

「では行くぞ! 拙者とイチロウ殿に続け!」

 

「暑苦しいことだこと」

 

ヨーコがぼそりと言う中、凄まじい雄叫びが上がり、山を攻め上がり始める。吉祥天の凄まじい光が、それを守る。

 

再び山頂から触手が迫るが、天使部隊、常世長鳴鳥がそれを押し返す。吉祥天の力を加えれば、どうにか対抗できるか。

 

煌も雷撃を放って支援しながら、進む。

 

イチロウは手持ちを惜しみなく投入して、消耗度外視で道を切り開く。

 

ジャックランタンもジャックフロストも触手に呪いを浴びせられて溶けてしまう。アイトワラスも、触手に叩き潰されてしまった。

 

だが、イチロウは歯を食いしばって、最前列で悪魔を展開し続ける。

 

堕天使フォルネウスが氷の槍を多数出現させて、触手をなぎ払うが。更に、触手が襲いかかってくる。

 

それを森可成が、右左に切り払い。

 

続けと叫んで、更に前に。触手が辟易したところを、河童達が突撃して、道を切り開く。

 

やがて、山頂に出た。

 

其処では、まだ若干形が定まっていないが。

 

それでもうるさそうにこちらを見る、便器に座った老人の姿があった。老人と言っても筋骨隆々で、背中には翼、頭には角があったが。

 

そして便器自体も、空中に浮かんでいる。

 

「やれやれ、この山を我が第二の本拠にしようと地固めをしていたのだがのう。 デビルサマナーにもう嗅ぎつけられてしまったか」

 

「その後は東京に攻め込むつもりだったのか」

 

「いんや、状況を見ながらじゃな。 攻め込めるようなら攻め込むつもりではあったが。 わしも腹が減っては戦どころではないからのう」

 

「そうか、ならば倒すだけだ」

 

さっと皆が散開する。

 

ほとんどの手持ちを強行突破で失ったイチロウは少し後方に。敵を最前列でなぎ払った森長可と狛犬だけが直衛につく。

 

「先に名乗っておこうか。 わしのなはベルフェゴール。 バアルだった者の一柱よ」

 

「僕は夏目煌。 そちらは敦田ユヅル、尋峯ヨーコ、太宰イチロウだ」

 

「む? ひょっとしてナホビノか? ふーむ、面白いな。 まあいい。 此処でナホビノを倒しておけば、わしの格も上がろう。 老人だって、まだまだやれることを、見せてやるとしようか!」

 

どっと、凄まじい瘴気が吹き付けてくる。

 

皆、総力を展開。

 

煌も吉祥天を引っ込めると、アルテミスを出す。イズンは当然だが、楽園に置いてきた、まだまだ予断を許さない状態だからだ。

 

後方から、那須与一が狙撃するが、右手でちょいとはじくだけで防いでみせるベルフェゴール。

 

一斉に鬼先輩後輩がタックルを仕掛けるが、ふっと息を吹きかけるだけでずり下がらせる。

 

巨大なイノシシをユヅルが召喚して突貫させるが、それも見えない壁で余裕で防いで見せる。

 

流石に魔王と言われるだけの事はあるな。

 

一斉攻撃を受けても、まるで怯んでいない。

 

接近したアルテミスが、凄まじい拳のラッシュをたたき込むが、残像すら作りながらその全てを片手で止めてみせるベルフェゴール。

 

「おや、ギリシャ神話のアルテミス神か。 随分と雰囲気が丸くなったのう。 前は何でもかんでも射殺すような目をしていなかったか?」

 

「黙れ、こののぞき魔が」

 

「はっはっは、そんな設定も人間達が付け加えていたな。 それにのぞき魔をおまえさんは犬の餌にしたっけか」

 

常世長鳴鳥の光の力、更に天使部隊の光の魔法を一斉射で受けても、ベルフェゴールは痛打を受けていない。

 

マーメイドが詠唱をしている。

 

何か狙っているな。

 

煌は雷撃から順番に魔法を試しているが、どれも中途で防いでくる。

 

あの壁が、厄介極まりない。

 

「かなり力はあるようだが、まだなりたてか。 すまんが、それでは病み上がりのわしにも勝てんぞ。 いっそもっと強力な神のナホビノにでもなってみてはどうかな?」

 

「僕にとって最強の相方はアオガミさん。 今合一している存在だ」

 

「ほほう、強い絆か。 いいのう。 若者という感じがして、とても心温まる」

 

ヨーコが投じた何かの札を、瞬きするだけで消滅させるベルフェゴール。

 

更には、凄まじい瘴気を指向してたたきつけてくる。常世長鳴鳥と、天使部隊がそれで消し飛んでいた。

 

まずい。

 

あの壁を、どうにか攻略しないと。

 

手刀で切り込むと同時に、那須与一が必殺の気合いとともに一矢を放つ。更には森可成が、持ち込んでいたらしい大型ライフルをぶっ放した。同時攻撃だが、全て軽く壁で防いで見せる。

 

至近に塗り壁を召喚。

 

真上から押しつぶしに懸からせるが、ふっと息をベルフェゴールが吹きかけるだけで爆発四散してしまった。

 

「それで?」

 

「まずいな……」

 

手持ちの悪魔も、猛攻を仕掛けてもはじき返されるばかり。

 

アルテミスも手が痛いようで、閉口して跳び下がっていた。

 

何か、攻略の糸口はないか。

 

そう思っていた瞬間だった。

 

トイレに座っていたベルフェゴールが、突然の真下からの……便座内からの強烈な水流を受けて、体が浮き上がる。

 

マーメイドによるものだ。

 

その瞬間、ベルフェゴールの余裕が消し飛ぶ。

 

マーメイドを即時で攻撃しようとしたベルフェゴールだが、わーがここぞとばかりに耳元で楽しそうに脅かす。

 

「わっ!」

 

「のぎゃあっ! なんて子供じゃ! それに、ちょ、お嬢さん、老人のおしりをいたわってくれんか!」

 

「まさか」

 

そのまま切り込むと、明らかに余裕をなくした様子でベルフェゴールが手に黒い剣を出現させ、手刀を防いでくる。ただ、今までの余裕はどこへやら。明らかに剣での受け止めも、力ない。

 

やはりな。あっさりわーが接近できるわけだ。今の瞬間、無敵の防壁が消し飛んだのである。

 

勝機。

 

温存していたジャターユを吉祥天から交代する形で召喚。

 

がっとジャターユはベルフェゴールの両肩をつかむと、マーメイドの激烈な水流と協力して、ベルフェゴールを便座から引き離した。

 

ぱたぱた大慌てしているベルフェゴールの守りが露骨に弱まる。

 

一瞬の隙を突いて、傷だらけになっていた鬼先輩後輩と、ユヅルの大イノシシが突撃。便座を粉砕していた。

 

ベルフェゴールが、悲痛な悲鳴を上げる。

 

悪魔にはシンボルとなるような存在があるのだが。

 

ベルフェゴールにとっては、あの便座がそうだったのか。

 

力が露骨に弱まった。

 

煌も消耗が酷いのでジャターユを戻す。地面に激突して尻餅をつくベルフェゴール。力が十分の一以下に落ちている。しかも戦意も失ったようだった。

 

生き残りの悪魔も含めた全員で囲むと、真っ青になったベルフェゴールが、大慌てした様子で後ずさる。黒い剣も、あっさり落としてしまっていた。

 

「わ、わしのトイレが! トイレがなくなってしまったあ! ひどいひどい! わしは何に座ればいいんじゃ! 花を摘むのも、まさか野でやればいいのか!?」

 

「いや、東京で人間を無差別に殺そうとする方が酷いだろう」

 

「その通りだな」

 

「爆発四散させればいいかしら?」

 

皆が詰め寄ると、ベルフェゴールは涙目になり。

 

まさか、その場で見事な土下座を決めていた。

 

イチロウがぽかんとしている。

 

魔王がこんな行動に出るとは、想定もしていなかったのかも知れない。

 

「ま、参った! ナホビノ、あんたの勝ちじゃ! アティルト界に帰る! だからぶたないでくれ! か弱い年寄りなんじゃ! 確かにその辺の悪魔はたくさん食ったが、それはアッシャー界で力を得るには仕方がないことなんじゃ! 少なくとも今回は人間は一人もくっとらん!」

 

「……すぐに戻るなら、ぶたない」

 

「わ、分かった。 い、いやはや、強いのう。 そうだ、情報を渡しておく。 力が足りたら呼び出すといい。 眷属になってやるぞ、いや、ならせてもらうとも」

 

威厳も何もない。

 

これが古くはバアルの一柱だったのか。

 

悲しくなってくるが、ベルフェゴールだってこうなりたくてなったわけではないし。そもそも元になったバアルとは別存在かも知れない。もう元になったバアルは、誰も信仰していないだろうが。

 

本当にアティルト界に戻るベルフェゴール。

 

アッシャー界に来るために実体化に取り込んだ膨大なマガツヒが周囲に解放される。それを取り込む。

 

イチロウが、呆然とぼやく。

 

「あれが魔王なのか? なんというか、イメージと随分違うな」

 

「魔王と言っても色々だ。 それにトイレと切り離すまでは攻撃はほとんど通らなかっただろう。 もっと強い奴は幾らでもいるはずだ」

 

「そ、そうか。 そうだよな……」

 

気まずそうにするイチロウ。

 

ともかく、これで楽園の危機はまた一つ消えた。

 

此処でベルフェゴールを倒しておかなかったら、更に力を増して、東京に侵攻してきたかもしれないし。

 

先の戦闘での手応えからして、ラフムよりも格上だったのは確実だ。

 

それに楽園に腹ごしらえに攻め込んできた可能性も高い。今の段階で倒せたのは、とても幸運だったのだろう。

 

龍穴で回復してから戻る。

 

歩きながら、マーメイドと話す。

 

「先の勝利の立役者は君だ。 良くやってくれたな」

 

「ありがとうあるじさま。 あの悪魔の力の源が、トイレにあると感じたから、切り離してみたの。 うまくいって良かった」

 

「機転が利くわね。 有能だわ」

 

ヨーコはそう言うが、相手を明らかに道具としか見ていない。

 

ヨーコも相変わらず問題が多いな。ただ、それでも最初の頃に比べると、多少は丸くなってくれたかもしれない。

 

歩きながら、煌はそう思っていた。







※ベルフェゴール

一神教の悪魔です。古くは七つの大罪の一人だったようですね。

近年ではトイレに座ったおじいさんの姿が有名ですが、もっと古くには女性の姿で描写されることもあったようです。

この人に限らず、「バアル」由来の悪魔というのは、必ずしも一つの神格から派生した存在ではありません。

古くには中東では日本で神社に祀っている神々を「神様」というような感覚で「バアル」と呼んでいて、このためバアル由来の悪魔はそれぞれがかなり性格が違っています。

一神教が目の敵にしていたのはカナン地方の主神であるバアルですが、他にもバアルはたくさんいて。ベルフェゴールの元になった神格も、そういうバアルの一柱です。

ちなみに四文字の神も、もとはバアルの一柱でした。

だから余計に他のバアルを悪魔と貶めることで、「他とは違う」事を主張したかったのかも知れませんね。




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