真女神転生VV二次創作 牛蛇相克   作:dwwyakata@2024

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赤煉瓦で有名な東京駅。

真Vでは魔王城とは名ばかりのアスレチックが楽しい妖怪城が作られて、前の広場ではアスラ王とミトラスがオフ会をしていたりと散々な……愉快な扱いを受けていましたね。

この話では、どうもベテルが攻めてくるらしいと知った混沌勢の悪魔達が、どう準備をしていたかの話になります。

一部混沌勢ではない人もいますが。






3、東京駅大戦前夜

東京駅。

 

魔界に存在する其処は、現在改良が進められていた。

 

多数の堕天使達を主軸に、悪魔達が行き交っている。その中で、指揮を執っているのはアリオク。

 

一神教における、復讐の悪魔である。

 

実際のところはそれほど高位の堕天使ではないのだが、十八年前の混乱以降、上役が次々と殉職。

 

中には勝手な活動を開始したベリアルなどの存在もあり、魔界における管理者をやらざるを得なくなったのだ。

 

巨大な球体に顔と手足がついていて。

 

球体の真ん中には縦に裂けた巨大な口。

 

なんでこんな姿で現出してしまったのかと、たまに嘆くこともあるのだが。今はいない上役であるルシファー様がこの姿を気に入っていたようなので、しぶしぶこの姿を続けている。

 

まあ、戦力に影響するようなことはないので、それで構わない。

 

空から降りてきたのはイシュタルだ。

 

バビロニア神話の女神であり、一神教を憎む同志。

 

本来は混沌勢などではないのだが、一神教憎しで連携している存在で。要するに利害が一致している。

 

大量の物資が行き来する中。いくつか話をする。

 

「ベテル本部が仕掛けてくるとなると、総力戦になる。 今作っている魔王城に立てこもり、地の利を行かす方がいいと思うがね。 本当に外で迎え撃つのかね」

 

「ええ、こもるのは性分じゃないのよ。 それに天使どもはどうでもいいとして、ベテルの支部の者達は、或いは……ね」

 

舌なめずりするイシュタルを見て、流石にげんなりする。

 

イシュタルはほとんど素っ裸にわずかな布だけを纏っていて、極めて豊満な肉体とブロンドの持ち主だ。

 

中東の神なら恐らく褐色肌になりそうなものだが、イシュタルはとても色白である。

 

そして頭から生えている一対の角。

 

本来は蛇の系譜の神が、角を持つのには。

 

一神教の歪んだ悪魔観や、何よりもあくまで系譜は系譜。蛇の神と牛の神の両方の系譜を持つ神は普通に存在するし。イシュタルは法の神などの権限も持っていたので。牛の神の力も持ち合わせている。角があるのはそういうことだ。

 

まあ、それはどうでもいい。

 

「それでどうする。 スルトが前線で暴れるつもりのようだし、下手をすると巻き込まれかねんが」

 

「流石にあの魔が暴れるのに巻き込まれたらしゃれにならないわねえ。 此処は北欧でも中東でもない。 スルトが力を落としているのは確かだとしても、それは私も同じであるしね」

 

「何か策でもあるのか。 無策で勝てるほど、ベテルは弱くはないが」

 

「現在私の力を各地にて増幅する準備中。 それと……」

 

イシュタルが示してくる。

 

なるほどな。

 

今回は、アティルト界で大戦があるとは告げてきた。それに呼応して、何体かの大物が姿を見せている。

 

その一体が、具現化を果たそうとしていた。

 

魔王モロク。

 

これもまた豊穣神だった元バアルの一柱が、悪魔化された存在である。豊穣神信仰の負の側面を煮詰めたような神で、子供を人身御供にしていたことが知られているが。それもどこまで本当だったか。

 

そもそも一神教でも古くは生け贄を捧げていたこともある。

 

他人のことを言えた義理かと、アリオクは思う。

 

モロクも悪魔呼ばわりされた挙げ句、元の信仰が消滅してしまっている状況だ。しかも姿は、人身御供にされた子供を中で蒸し焼きにしたという鉄の牛。

 

それではモロクとしても、腹が立つのは当然だろう。

 

アリオクも怒りはよーく理解できる。

 

ちなみにあのソロモン王もモロクを信仰していた話があるのだが、一神教徒は見て見ぬフリをしているようだ。

 

都合が良いことである。

 

「あれだけではなくて、いくつかの魔が出現中。 それと、くだんのカディシュトゥだけれどもね」

 

「ああ、一部の堕天使などを引き連れて暗躍している」

 

「ええ。 どうも日本支部が感づいたようよ。 あっちはあっちで、何か面白そうなことをもくろんでいるようだけれど……」

 

「いずれにしても、まだまだこちらは自分たちの準備で手一杯だ。 貴女も早々に戦力を整えられよ」

 

頷くと、イシュタルはしゅんと飛んでいった。

 

なかなかの使い手だなと思いながら、アリオクは状況を確認する。

 

現在、東京駅内部の空間を弄くり、迷路にしている最中だが。問題は連れてくる悪魔があんまりいないことである。

 

特に組織的に動ける悪魔となると限られてくる。

 

天使どもは狂信的だが、組織的に動くという観点では図抜けている。アブディエルも侮れない相手だ。

 

「アリオク殿」

 

「おお、戻られたか」

 

アリオクの前に来たのは、黒い笠を被った髑髏の老人だ。破壊神チェルノボグ。スラブの黒い神と言われる存在だ。

 

イシュタルのように伝承が残っているのならいいのだが。

 

スラブの神々は伝承すら一神教に抹殺された。

 

チェルノボグはそういった伝承を消し飛ばされた神の一角で、一神教を憎み抜いている。まあ、当然だろう。

 

「連れてきたぞ」

 

「おお、うん……?」

 

「オレサマ敵マルカジリ。 ヨロシク」

 

「腹減った。 肉ねえか」

 

ぞろぞろ来たのは、何だろう。

 

まず一種は、いろんな動物が混ざり合った。でっかいレッサーパンダみたいな悪魔だ。真顔になるアリオクに、多分笑顔を作ったのだろう(髑髏だから分からないが)チェルノボグが紹介してくれる。

 

「紹介しよう。 彼らが名高い鵺じゃ」

 

「う、うむ。 日本の強い妖怪であったな」

 

「正確には音の怪じゃな。 トラツグミの声が誤認されたといわれておる。 討ち取ったとされる記録もあるが、色々な動物が混ざり合って、レッサーパンダのようであったそうだぞ」

 

なんだかとてもうきうきでチェルノボグが話してくれるので、アリオクはどこから突っ込んだら良いかよく分からなかったが。

 

ともかくたくさんいるので、戦力にはなるだろう。

 

今、この付近には、堕天使を中心とした多数の悪魔達が展開しているが。この魔王城の内部に配置できそうなのは、言うことを聞いてくれそうな一部だけだ。

 

例えばオロバスというソロモン王72柱の一角である堕天使がいるが、彼らは大量の分霊を用意はしてくれている。

 

だが、他の堕天使達は、ルシファー様がいなくなった今、アリオクなんぞの言うことを聞くかとか言って、それぞれ勝手に布陣している有様だ。

 

はっきりいって頭が痛いし、戦力に対してはえり好みできない。

 

更に、ごつい体の金色の巨人が進み出てくる。

 

これは、日本の鬼だろうか。

 

それについても、チェルノボグは嬉しそうに説明してくれた。

 

「これは金鬼じゃ。 藤原千方という古代日本の謀反人が従えていた人間が鬼として解釈された存在で、どんな武器も跳ね返す体を持っていたそうじゃぞ。 実に心強かろう! 分霊体だから力は落ちるがのう」

 

「そ、そうか。 よろしく頼むぞ」

 

チェルノボグがなぜか得意げなので、アリオクとしても文句も言えない。

 

それに此処は日本である。

 

在来種の鬼や妖怪は、かなりのアドバンテージがある。確かに味方に出来れば、心強くはある。

 

ぞろぞろと鵺と金鬼を連れてチェルノボグが改装中の魔王城の中へ。

 

チェルノボグは魔王城の警備を担当してくれる。

 

すっとぼけた老人だが、これでも剣の腕は相当なものである。剣の腕だけだったら、多分アリオクより上だろう。

 

特に内部は天使に不利なように、立体的には動けないようにしてある。

 

その状況なら、更に有利になるはずだ。空中での組織戦を徹底的に仕込まれている天使は、少数精鋭での戦闘が苦手なはずだ。

 

さて、次だ。

 

資材を運んでくる悪魔に指示を出しながら、スルトの様子を見に行く。

 

スルトは黙って座っていて。

 

側には燃えさかる巨大な剣を突き刺していた。

 

スルト自身がとてつもなく巨大で、背丈はどう見ても三十mはある。実のところ、今回この地に集った悪魔の中では最強戦力だ。更に巨大にもなれるようである。

 

アリオクを見るスルト。

 

北欧の魔らしい逞しい体は、今の時点で焼け付くような熱を放っていた。

 

世界を焼き尽くして、神々を殺し尽くして去る魔の中の魔。

 

設定上ではルシファー様よりも格上の存在だ。

 

だからこそ、アリオクは敬意を払う。

 

それをするに値する存在だからである。

 

「何用かなアリオクどの」

 

「うむ、スルトどの。 この辺りを任せてしまって構わないだろうか」

 

「何を申されるか。 拙者がこの辺りを、あの忌まわしい天使とか言う羽虫どもの墓場とかしてやろう。 我が武具レーヴァテインのさびとしてくれるわ」

 

「頼もしい。 是非前線ではご活躍なされよ」

 

ちなみにスルトの武器だが、北欧神話の伝承が極めていい加減なこともあって、剣ではなく杖である説もある。

 

レーヴァテインではない説すらもある。

 

だが、今此処に具現化しているスルトは、レーヴァテインと称する剣を持っているので、それでいいのである。

 

スルトは花崗岩のような風格を持つ大男であり、此処で大量の敵を焼き尽くしてくれるだろう。それだけで魔王城に懸かる敵の圧はかなり減衰する。

 

更に言えば、此処は地形的にいわゆるチョークネックポイントであり、此処を陥落させないと天使どもは先になど進めない。非常に守りやすいといえる。

 

魔王城に戻る。

 

物資は充分。

 

後は内部に色々と仕掛けをして回るか。

 

実際に生活できないような仕掛けを作ってしまうと一番困るのは自分なので、あくまで戦闘時にのみ動かすようにするのだが。

 

ともかく魔法やら機械やらを用いて、色々びっくりどっきりな罠を仕掛けていく。仕掛けている最中に部下を失ったりアリオク自身が酷い目にあってもいけないので、仕掛けは全部アリオクの魔力で発動するようにする。これで、防衛体制を取るまでは動かないし。アリオクが倒れなければ、ずっと動く。

 

元の東京駅も相当な巨大駅だが、それでもこれだけ改装されると色々と作り手は複雑だろう。

 

そう、赤煉瓦の見事な東京駅を見て、アリオクは苦笑いする。

 

これは立派な建物だ。

 

人間だろうがなんだろうが、作った奴は尊敬に値する。

 

だからこそ許せよとぼやきながら、アリオクはせっせと東京駅を魔王城へと改装するのだった。

 

 

 

東京駅近辺で、悪魔が集まっている。

 

それを知った大国主命は、困り果てていた。

 

東京が空白地帯になった。

 

国津神の長である大国主命だが、血統的には天津神とは地続きである。妻に至ってはあの素戔嗚尊の娘であるのだから。

 

だから、魔界と化した東京を救うべく、来てはみたのだが。

 

これでは何も出来ない。

 

勿論国津神の長であり。

 

更に言うと伊勢神宮系統の信仰の集まりから考えても、その辺の外来の神には負けない程度の力もある。

 

更に新宿方面で、孤立した天津神達が苦労しているという情報も得た。

 

何体か放っている小物の伝令の神達が、それを突き止めた時は。

 

どうにか連携すべきだと、周囲に集まった国津神達と話をしたのだ。

 

ただ、それも難しい。

 

手札が足りないし。

 

流石にアドバンテージがあると言っても、この数の悪魔に対抗するのは難しいからだ。

 

悔しいが、いわゆる三貴神。天照大神、月読尊、素戔嗚尊の影響力がいかに大きかったのかを、思い知らされるばかりだ。

 

しばらく天照大神は見ていないという話も有り。

 

素戔嗚尊に至っては、多数の分霊体が18年前の戦闘で投入され、一体も生還できなかったという話もある。

 

天津には恨みもある。

 

伊勢神宮は祀るための神社ではなく、封じるための神社だ。

 

そんなことをした天津に対しては、色々と思うところも多いのだが。

 

それでも、この国を。

 

外来種に好き勝手はさせられないのだ。

 

使いの者が戻ってきた。

 

雑多な八百万の神の一柱だ。

 

軽く話をする。

 

「オオヤマツミ(漢字は書籍により様々に異なる)様、発見しました」

 

「まことか。 どちらにおられたか」

 

「それが錯乱された挙げ句、今幻の東京にて戦闘している模様です」

 

「なんたることか……」

 

オオヤマツミ。

 

孫が素戔嗚尊の妻であるクシナダヒメ(漢字は書籍により様々に異なる)である大物である。

 

日本の山神の総元締めとされ。

 

相応に力のある神格なのだが。

 

それが、よりにもよって民を苦しめる方向に動くとは。

 

しかしながら、いくつかの神社を保つだけで現在の国津の勢力は精一杯なのだ。天津の勢力も、孤立して助けを待っている状態。それも、それほど強力な神格は残っていないという話である。

 

やきもきしている大国主命に、挙手したのは。

 

タケミナカタ神だった。

 

鋭い角の生えた筋骨逞しい大男である。

 

タケミカヅチ神に敗れて屈服したことで知られている神格で、諏訪では現在でも密かに信仰されている。

 

敗れたとはいえ、それでもかなりの武闘派として、天津に逆らい続けた神格であり。

 

例外的に天津の武力侵攻を退けたアマツミカボシにつぐ、武闘派神格といえるだろう。あくまでこの場にいる国津神の中では、だが。

 

「人間にも生き残りのデビルサマナーやらがいる。 早めに対応をしてもらうしかあるまい」

 

「しかし荒神とかしたオオヤマツミどのを止められるかどうか……」

 

「わ、わらわが行ってきましょうか!」

 

「……」

 

そう言ったのは。

 

魚のような姿をした、愛嬌のある神だった。

 

正確には神と分類して良いかも微妙な存在である。

 

アマビエという。

 

九州の妖怪であり、未来を予知することが出来たと言われており。このアマビエは、九州からわざわざ親に送られて出てきたのだ。

 

しかし幻の東京には入れずに、アイドルになりたいとかいうよく分からない夢も叶えられずにいじけていた。

 

幻の東京に送り出すくらいは出来るか。

 

大国主命は決断する。

 

「よし、書状をしたためる。 送り出すと、戻ることは出来ない。 最悪アティルト界に戻り、当面具現化はできなくなる。 覚悟は良いな」

 

「はい! ぷりちーなわらわがアイドルにならずして、誰がなるというのか! 必ずやこのやぼうをかなえてみせまちゅる!」

 

「……大丈夫か大国主殿」

 

「今は手数が足りぬ。 人間側の戦力がどれほどあるかは分からぬが。 それでもないよりはマシであろう」

 

タケミナカタがぼやくが、大国主も不安は同じだ。

 

だが、他に手がない。

 

書状をしたためると、アマビエに持たせる。魚に似ているが、くちばしがあるので、顔は鳥にもにている。

 

なんとも珍妙な姿であるが。

 

本人はアイドルであると信じて疑っていない。

 

近くにある龍穴から、もっとも人間が活用している龍穴に送り出す。ただし一方通行だ。

 

これで、少しはマシな人間に巡り会えればいいのだが。

 

そうとだけ、大国主命は思った。

 

 

 

息が切れる。

 

少し丈夫になったと思うけれど。ミヤズは、体が弱いことをどうしても実感していた。

 

魔界で戦闘訓練を何度かして、戻る。

 

あまり強くないと自嘲的に言っていたイチロウ先輩ですら、既に悪魔とは勇敢に戦えている。

 

ミヤズは支援に特化すると決めて、ここぞという時に動けるようにしている。

 

悪魔の中には、筋力や速度、魔力という魔法を使うための力そのものを挙げる魔法を使える者もいる。

 

そういった悪魔をそろえたいが。

 

今は回復で手一杯だ。

 

スポーツドリンクを飲んで、研究所で休憩。もう少し、出来るようになっておきたい。イチロウ先輩はなんだかんだで優しい人で、結構気遣ってくれる。それを見て、お兄ちゃんは苦虫をかみつぶしたような顔をしている。

 

こういうところが過干渉なんだけれど。

 

そうぼやきたくなる。

 

ミヤズは夢の中に出てくる王子様のことだけしか異性としてはすきじゃない。今でもそうなのは変だと分かっているけれど。

 

あまり長くない命なのだ。

 

色恋くらい好きにさせて貰いたいというのが本音だ。

 

無言で座って疲れを取っていると、不意にアマラ輪転炉が光り出す。そういえば、今日は煌先輩がどこかに出かけていたはず。

 

厄介な悪魔が暴れているとか言う話で、東京の方で戦っているそうだ。

 

周囲は自衛隊が隔離したという話だが。

 

いずれにしても、備えないと。

 

イチロウ先輩に声を掛けて、研究所の人たちに注意を促す。ミヤズも、すぐに悪魔達を……直接戦闘にむかない者ばかりだとしても、展開。

 

いつもとちょっと様子が違う。

 

アマラ輪転炉がほどなく止まり、一段と強く輝くと。

 

ぽんと飛び出してきたのは、顔が鳥のようになった、魚のような悪魔だった。

 

「おや、此処はどこぞ! わらわは東京に来たはずだが」

 

「なんだ貴様は」

 

即時で動いたのは、イチロウ先輩が連れている幻魔森可成。あまり詳しく戦国武将はしらないのだけれども、煌先輩から歴戦の武将だと聞いている。

 

森可成が、即座に悪魔の背後をとり、刀を突きつけていた。

 

愛嬌のある魚のような悪魔は、ひれみたいな手をパタパタ振る。

 

「あ、アイドルにおさわり禁止! わらわは大事な言づてに来たのじゃ! 責任者を呼んでたもれ!」

 

「アイドル? 責任者?」

 

「大国主命様からの危急の書状ぞ! そういえば分かると聞いておる!」

 

「イチロウ殿。 大国主命といえば伊勢神宮の祭神にござる。 越水長官殿に聞いた方がよいかと。 此処は拙者が抑えておくゆえ」

 

イチロウ先輩が、すぐにダッシュで行く。

 

その間に、森可成ががっちり抑えている悪魔に、聴取をする。

 

「私は敦田ミヤズと言います。 貴女は?」

 

「わらわはアマビエ。 九州から来たアイドルの卵じゃ! なんならふぁんくらぶの会員にしてやっても構わんぞ!」

 

「……ファンクラブですか。 それは分かりましたが、大国主命さんが何かあったんですか」

 

「大国主命様に今すぐに問題が起きているわけではなくて、オオヤマツミ様が色々問題なのじゃ!」

 

ちょっとらちがあかないな。

 

オオヤマツミについても、森可成は知っていた。

 

天津と国津に別れる日本の神の中で、国津の大顔役。

 

山の神の元締めであるらしい。

 

なるほど、それは凄い神様だ。

 

程なくして、越水長官が来る。ボディガードに武装した自衛官を連れているので、ちょっと緊張する。

 

書状をミヤズが受け取って、差し出す。

 

頷くと、即座に書状に越水長官は目を通した。勿論マナー違反に当たるから、書状を見たりしない。

 

一応、分かったことはその間に伝達する。

 

越水長官は、書状を読みながらも理解しているようだった。

 

「なるほどな。 現在代々木公園で大物が暴れていて、煌くんとヨーコくんが対処にあたっているが、それがそのようだな」

 

「もう暴れておるのか。 相手はこの国の山神の長ぞ。 二人ではとても対処などできまい」

 

「心配ない。 こちらでも測定しているが、勝てる範囲内のマガツヒだ。 念の為にミヤズくん。 イチロウ君とともに後詰めに入ってくれ。 ユヅルくんはこのまま研究所の守りを続行」

 

「分かりました」

 

お兄ちゃんがものすごく不安そうにしたけれど、タオさんは確か別口で出ているし。信頼できるデビルサマナーの護衛となると、お兄ちゃんくらいなのだろう。アマビエをお兄ちゃんに預けると、すぐに移動開始。

 

自衛隊のジープで、即座に現地に向かう。

 

イチロウ先輩は前に見た時よりもずっとしっかりしていて、背筋も伸びていた。昨日寮で友達と会っていたけれど。その友達が、いい顔をしてるって驚いていた。

 

現地に到着すると、どおんと砂埃が上がっている。

 

激しい戦闘をしているようだ。

 

「煌の奴、相変わらずやべえのとやりあってるな……」

 

「私じゃ役に立てないかも知れませんが、とにかく急ぎましょう」

 

「おう」

 

代々木公園側の検問を越えて、内部に。

 

降りると、空気が確かに違う。

 

魔界で感じた、異質な空気。

 

周囲に雑多な悪魔がいて、自衛官がアサルトライフルで対応している。逆に言うと、それで対応できるレベルの悪魔と言うことだ。

 

さっそくイチロウ先輩が悪魔を展開して、雑魚を散らし始める。ミヤズは周囲に悪魔を展開。

 

その中に、護衛用の悪魔を作っておいた。

 

幻魔甲斐姫。

 

戦国末期の女性武者であり、小大名の娘ながら、武勇を発揮して大軍から城を守りきったことで知られている。

 

幻魔としてはあまりレベルが高くないが、今のミヤズが作れる最高位の悪魔だ。甲斐姫は早速強弓を構えると、ブンと凄い音を立てて矢を放ち。自衛官に襲いかかろうとしていた小さな悪魔を撃ち抜いていた。

 

「周辺の守りはお任せを」

 

「お願いします姫様。 負傷者の方はこちらに! 手当てをします!」

 

「こちら一名負傷!」

 

「イチロウ先輩、行ってください! 此処は私が!」

 

イチロウ先輩は少し悩んだ後、エイみたいな悪魔を側につけてくれた。堕天使フォルネウスというらしい。

 

空を浮いている大きなエイということで威圧感はあるが、何度か接したが気が良いおじいさんである。

 

そのまま、苦戦している自衛隊を助けて回る。

 

幸い死者は出ていない。

 

甲斐姫とフォルネウスが辺りの悪魔を蹴散らしていくが、甲斐姫はともかくフォルネウスは圧倒的に強い。

 

あくまで強さの基準で比較して、なのだろうが。

 

この辺りで具現化した悪魔なんて、問題ではないようだ。

 

だけれども、甲斐姫が即座にミヤズを抱えて飛び退く。

 

飛んできたのは大岩で、ぐしゃっと凄い音を立てて地面に着弾していた。一瞬遅れたら、潰れていた。

 

自衛官達が青ざめる中、甲斐姫が叫ぶ。

 

「もののふ達よ、恐れるな! この甲斐がついておる!」

 

「い、今の岩は」

 

「恐らく此処に出現した悪魔との戦闘で飛んできたのじゃろうよ」

 

フォルネウスが言うと、流石に自衛官達が震え上がった。この岩、一抱えはある。何トンもあるはずで、それが流れ弾で飛んでくるような戦いだと言うことだ。

 

もう原型もない雑魚悪魔が飛びかかってきた。それを甲斐姫が脇差しを抜いて受け止め、自衛隊員達がアサルトライフルで滅多打ちにして仕留める。

 

まだいる。

 

そういった瞬間、警戒している自衛隊員の真後ろに悪魔が。

 

それを、フォルネウスが氷の槍で串刺しにして仕留めていた。

 

呼吸を整えながら、負傷者に下がって貰う。自衛隊員は人外の戦いの余波に青ざめているけれど、それでも勇敢だ。的確に動いて、被害も減らしている。

 

孤立している数人。

 

囲まれている。

 

即座に向かう。甲斐姫が完璧な姿勢から矢を数発放って、立て続けに悪魔を仕留めた。凄い強弓だ。

 

お兄ちゃんが弓道をやっているのを見たことがあるけれど、それ以上の弓を普通に使っている。

 

武勇絶倫という話だけれど、話だけじゃない。

 

戦国時代で武名を残したお姫様だというだけはある。

 

雑魚を散らすけれど、負傷者が出ている。即座に応急処置。ミヤズも冷静に怪我を判断して、手当が出来るようになっていた。

 

持ち込んでいる物資がそろそろつきる。

 

ただし、悪魔はまだまだ湧いてきている。

 

煌先輩達がまだ戦っているオオヤマツミ様という神様が、倒れていない証拠だ。呼び寄せられるように、悪魔が代々木公園に出てきているのだ。

 

また大岩。

 

フォルネウスが即応して、氷の壁を作るけれど、防ぎきれない。

 

必死に皆を促して逃げるけれど、フォルネウスは岩に潰されてそのまま消えてしまう。着弾した岩に吹っ飛ばされて、転がる。

 

だけど、思ったほど痛くない。

 

身体能力が上がっているから、かもしれない。

 

歯を食いしばって立ち上がって、眼鏡を直す。側に迫ってきている悪魔。護身用に貰った短刀を構えるけれど、一目で技量を見抜いたのだろう。そのまま、子供くらいの背丈のみどり色の肌をした人型が、飛びついてきて。

 

甲斐姫が振るった太刀に、一刀両断されていた。

 

「他に孤立している部隊は?」

 

「全部隊合流! 交戦中の部隊はありますが、死者はなし!」

 

「もう少し下がってください。 きっとまだ流れ弾が飛んできます」

 

「分かりました!」

 

自衛隊と連携して下がる。案の定、また大岩が飛んでくる。煌先輩達は大丈夫だろうか。

 

凄い爆発音が連続して響いていて、地響きみたいだ。本当に神々の戦いが行われているんだ。

 

それを理解して、ミヤズは背筋が寒くなる。

 

でも、恐れていては何も出来ない。

 

大岩が着弾して、また誰かが怯み。其処に、悪魔が襲いかかる。

 

老婆のようだけれど、動きがとても速い。

 

自衛隊員が弾幕を張るけれど、ジグザグにステップして、途中からミヤズに狙いを変えて飛びかかってくる。

 

即座に割り込んできた甲斐姫が、もろともに押し倒される。雑多な悪魔達には、何も出来ない。

 

必死に太刀で防いでいる甲斐姫だが、明らかに老婆の方が強い。

 

自衛隊員に向けて、甲斐姫が叫ぶ。

 

「私ごとで構わん! 撃て!」

 

「ち、畜生っ!」

 

自衛隊員がアサルトライフルで一斉射を浴びせるが、老婆の妖怪は全然平気なようである。

 

それどころか、甲斐姫の首筋を食いちぎった。

 

消えていく甲斐姫。

 

まずい。

 

なんとか時間を稼がないと。

 

悪魔達は全て展開しているが、どの悪魔も回復と支援しかできない。肉壁にすらならないだろう。

 

「貴女は、日本の妖怪ですか」

 

「そんな上等なもんじゃねえ。 都市伝説怪異って奴よ」

 

「……まさかターボばあちゃんですか?」

 

「そうだな、マッハ婆とか百㎞婆とか色々呼ばれておるが、そういう存在よ」

 

ゆらりと立ち上がるターボばあちゃん。自衛隊員が必死の射撃を続けているが、あたらないしあたっても効いていない。

 

都市伝説怪異が悪魔になる事はあると、研修で聞かされた。

 

実際、もっとも最近になって創造された怪異とは言え、怪異は怪異。

 

人の精神の影響を受けるアティルト界には存在が生まれるし。

 

生まれる以上はアッシャー界にも出てくる。

 

都市伝説系の悪魔は駆け出しのデビルサマナーでも対処できる相手らしいのだけれども。

 

今のミヤズでは、それさえ厳しい。

 

「おまえさん、肝が据わっておるな。 わしに最強の手札を殺されても、恐れている様子がないのう」

 

「ありがとうございます。 死は何度も間近で見てきましたから、それで怖くないのかも知れません」

 

「ほう、そうかそうか。 そのいびつなマガツヒ、それが理由か。 まあいい。 うっとうしいハエどももろとも、食ってしまうか」

 

「いや、此処までだ」

 

横からの声。

 

さっき、状況が変わったことにミヤズは気づいていた。だから気を引くことに専念したのである。

 

ターボばあちゃんが反応するよりはやく、わーと呼ばれている子供の悪魔が、耳元でわっと脅かす。

 

文字通り飛び上がったターボばあちゃんを、文字通り手刀が貫いていた。

 

煌先輩だ。

 

かなり消耗している……というかギリギリで勝ったようだ。全身から感じる力がかなり弱まっている。

 

これがつきると、煌先輩は死んでしまうらしいが。

 

つきるまでは、見た目は全く変わらないらしい。

 

そしてこの程度の相手なら、消耗しきっていても、不意を突ければ圧勝と言う訳だ。

 

「ぐ、こ、この、老人に優しくせんかい!」

 

「生憎だが、人を殺そうとする以上優しくは出来ない」

 

続けて大量の札がターボばあちゃんに直撃し、炸裂。ヨーコさんが投擲したものに間違いなかった。

 

ターボばあちゃんが消えていく。

 

煌先輩は、その情報を取り込んだようだった。

 

「良く注意を惹いてくれたミヤズさん。 立派な活躍だった。 たくさんの人がこれで死なずに済んだと思う」

 

「ありがとうございます煌先輩、ヨーコ先輩。 イチロウ先輩は」

 

「今、残敵の掃討をしている。 僕は消耗が激しいから一度戻る。 後は、自衛隊の人たちとヨーコさんと連携して、まだ残っている雑魚悪魔を片付けてほしい」

 

「分かりました」

 

ヨーコさんは少し苦手だけれど、理不尽なことは言わない安心感はある。

 

後はヨーコさんに貰った回復の道具(魔界で拾ったそうだ)を用いて甲斐姫を蘇生させて、自衛隊の人たちと連携して代々木公園の悪魔を掃討する。

 

かなり疲れたが、これだけの時間戦ったのに、むしろ体が明らかに軽くなっていた。

 

デビルサマナーが危険な仕事である事は嫌と言うほど分かったつもりだ。

 

だけれども、危険なだけではなくて、推された理由についても理解できた。いつも死が近かったのだ。死はいつも側にあったし、デビルサマナーになってもそれは同じ。少しだけ、それが生に近づいた。

 

むしろミヤズにとって、希望が生じていたとも言えた。







※鵺

声はトラツグミ、姿はレッサーパンダです(直球)

超大物妖怪みたいに扱われていますが、結局トラツグミの声がちょう怖い事や、色々政情不安があってそれで鵺のせいにされたこともあったのが要因でしょうね。度々討ち取られている逸話もある事から、其処まで強力な妖怪ではありません。本質はいわゆる「音の怪」にすぎません。

真Vでは金鬼とともに妖怪城と化した魔王城やどこぞの至聖所の内部にたくさん発生していて、ナホビノ君を待ち構えていましたね。


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