真女神転生VV二次創作 牛蛇相克   作:dwwyakata@2024

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魔界には普通に人が入り込んでいます。

本作でも元々東京は八咫烏という霊的防衛組織(葛葉ライドウシリーズなどで登場するアレです)が頑張っていたのですが、東京受胎の際に壊滅。このときにガイア教団やファントムソサエティも(少なくとも日本にいるぶんは)巻き添えを食って壊滅。その後の戦いで、日本のファントムソサエティは文字通り全滅。ガイア教団は各地に逃れて、細々と再起を図っている状態です。

日本のデビルサマナーの生き残りはごく少数ですが、その中の一人だけ、超一線級で通用する人物がいます。

その人が、「十九代目」です。





3、魔界の流儀

グズグズに崩れた塊みたいなその悪魔は、既に戦意をなくしていた。大股で歩いて近寄ると、必死に懇願してくる。

 

その悪魔の同類は、皆既にチリと化していた。

 

「わ、悪かった! オレ、仲魔になる! だから許してくれ! いや、あんた神か? だったら眷属になるよ! だから!」

 

「……分かった」

 

やり方は知っている。

 

すっと手を伸ばすと、その悪魔が観念して受け入れる。

 

自分の中の一部になる。

 

そういう感触だ。

 

それで悪魔の情報が、煌の中に入ってくる。

 

スライム。

 

悪魔は実体化するために様々な方法があるらしい。なんでも元々は情報生命体であるとかで、要はこの世界……三次元世界に具現化するために、いくつかの手段で肉を得なければならないそうだ。

 

その肉を得るのに失敗し。

 

元が何か分からないほどに崩れ果ててしまった。

 

それが今の、スライムという悪魔であるそうだ。

 

哀れだなと思ったが。

 

即座にアオガミが捕捉してくる。

 

「ああいった実体を失っている悪魔は、肉を得るためだったら何をしてでも襲いかかってくる。 身を守るために戦ったのは正しい判断だ」

 

「そうですね。 しかしやるせない事です」

 

「今、煌は私と合一した影響もあり、どんどん力を増している。 なんなら、悪魔を元の姿にしてやることも可能だ」

 

「理解しました。 いずれ余裕が出来たら」

 

ともかく、周囲を確認する。

 

アオガミは上空に意識体を飛ばして、周囲を立体的に把握することまで出来るようだ。それも、少しずつ習得していく。

 

それで分かってきたのは、魔界といっても必ずしも何もかもが襲ってくるわけではない、ということだ。

 

勿論それはギュスターヴいわくナホビノ……アオガミいわく合一神となっている今の状態が強力だから、なのだろうが。

 

それにしても、もっと魔界というのだから。ありとあらゆる存在が好戦的に襲いかかってくるものかと思っていた。

 

洞窟で干からびかけている悪魔達を見かける。

 

生存競争に敗れたのだろう。

 

生存競争というが、自然界でもエネルギーの総量には限界があり、何かしらの存在が独占を続けていればいずれは枯れる。

 

弱肉強食などというが。

 

そういったものは、弱者が一旦崩れると、積み木細工が崩壊するように一気に破綻してしまう。

 

特にその場合、最上位捕食者が真っ先に影響を受ける。

 

バカが無法をするために免罪符として使う弱肉強食などというものはこの世に存在していないのだ。

 

ここも同じだろう。

 

弱っている悪魔達。

 

痩せこけて腹が膨らんでいる悪魔。幽鬼ガキというらしいが。それらに声を掛ける。眷属になるなら助かるかも知れないと。

 

既に倒した悪魔だ。

 

本来は、仏教において餓鬼道に落ちた者達を指すらしいのだが。

 

この東京では、たくさんガキがうろついている。

 

それで、情報は既に得ていた。

 

「神様に従えってか? 確かにそれで食い物には困らなくなりそうだけどよ」

 

「どうせ兵隊として使われるんだろ。 強い奴についていった奴は、どいつもそれで死んで行ったよ」

 

「煌。 死を自ら選ぶのであれば、それは彼らの選択だ。 我々に出来ることはない」

 

「……分かった」

 

後ろから声を掛けられる。

 

ガキの一体が、仲魔が食事を探しに向かって、帰ってこないという。それを探してほしいというのだ。食事にありつけるかも知れないと。

 

嘆息して、覚えていたら、とだけ言っておく。

 

ただ、あの有様では。

 

食事を得ても、どうにもならない可能性が高いが。

 

黙々と歩く。

 

「煌。 魔界は過酷な世界だ。 救えないものは今後幾らでも出てくる。 覚悟は今のうちに決めておくことを推奨する」

 

「それは分かっているつもりです。 ただ……」

 

「ただ?」

 

「僕がいた東京では、他の国よりはマシとは言え、搾取が常態化していました。 代わりは幾らでもいるとかいいながら、搾取を繰り返して、気がついたら誰も働ける人がいなくなっていた。 それでありながら、それをやった者達は誰も自分たちの責任だと認識せず、今の人間が軟弱だからだとか言っていました」

 

構図が同じだと煌は吐き捨てる。

 

さっきの悪魔達の発言、嘘ではないだろう。

 

使い捨ての駒にされるのだったら、死んだ方がマシ。

 

そういう感触だった。

 

アオガミは少し考え込んで、それから。

 

異変に気づく。

 

誰か走ってくる。

 

なんともとろそうな女性だ。背もそれほど高くないし、着込んでいるのはなんだあれ。どてらか。

 

人間ではあるっぽいが。狸が必死に逃げているように見える。

 

追ってきているのは、四つ足の獣だ。

 

どうみても速度からして逃げられそうには見えない。

 

「わー! 助けて! 助けてー!」

 

なんか棒読みっぽいが。

 

人だ。

 

即座に動く。

 

アオガミが、警戒を推奨といったが。四つ足の獣は、どうみても尋常な存在じゃない。猿のように見えるが、筋肉も極めて逞しく、口からは鋭い牙をむき出しにしていた。

 

チンパンジーなどは小型の猿を狩って捕食するし、ヒヒの仲間も小型の動物を襲って食らうケースが多々見られる。

 

そういうとき、極めて残虐に相手を食い殺す。

 

ただ、それはあくまで人間の視点での事だ。

 

しかしながら、せっかく見つけた人間である。助けない選択肢はない。

 

飛びかかった四つ足の獣に、雷撃を浴びせる。

 

ぎゃっと跳ね飛ばされたそれに接近すると、光の剣を振り下ろす。だが、それを、思ったより身軽に四つ足の猿か何かは回避してみせる。

 

「なんだてめえ、どこかの神格か! あの人間をかばうんだったら容赦しねえぞ!」

 

「何があった」

 

「あん? 人間がいたら捕まえとけって言われてるんでな。 それに、仮に「条件が合わない」人間でも、あれは明確に「偽物」とは違う。 人肉にありつけたら、何時ぶりかもわからねえからな!」

 

「そうか。 ならば悪いが斬る」

 

やってみろ。

 

吠えると、猿の悪魔が襲いかかってくる。

 

激しく刃を交えるが、分厚い毛皮をなかなか突破できない。代わりに猿が振るってくる拳が、凄まじく重い。

 

一撃を受けて、ずり下がる。

 

立て続けに飛びかかってくるが。

 

アオガミがアドバイス。

 

「眷属にした悪魔の力を引き出せるはずだ。 悪魔自体を呼び出してもいい」

 

「なるほど、分かりました」

 

すっと印を切ると、猿の悪魔に今度は火球をたたき込む。

 

猿の毛皮は油で守られていたようで、一気に大炎上した。悲鳴を上げて転がり回る猿の悪魔に、立て続けに光の剣で切りつける。

 

だが、必死に転がり回りつつ、避ける。

 

「て、てめえ、ふざけやがって! ぶっころ……」

 

今度は立て続けに氷の力を打ち込む。

 

凄まじい冷気を浴びて、猿の悪魔が悲鳴を上げて棒立ちになる。

 

其処に、間髪入れず雷撃を入れる。

 

流石に今のでぐしょ濡れになった状態では、どうしようもない。その場で竿立ちになると、白目をむいて猿の悪魔は倒れ。

 

そして、消えていった。

 

猿の悪魔の情報を取り込む。

 

妖獣ヒヒ。

 

日本の妖怪だ。

 

日本では猿の妖怪が悪さをする伝承が各地にある。ニホンザルは大きくなっても所詮人間を殺傷できるほどのサイズにはならないのだが、それでもかなり知能が高い上に、人間に姿が似ている事もある。

 

それもあって、妖怪化されることは多かったのだろう。

 

そういったヒヒは、人間の英雄や犬に退治されることも多かったようだ。

 

「アオガミさん。 今のは、悪魔じゃなくて妖怪では」

 

「……現在では、様々な霊的存在をまとめて悪魔と呼んでいる。 今まで倒した悪魔にも、様々な種族名があっただろう。 悪魔の中で、その種族として分類しているわけだ。 今のは妖獣に分類されるヒヒ。 獣の魔の中で、もっとも非理性的で人間に敵対的なものを分類している。 ただし決して弱い種族ではないから気をつけろ。 悪魔といっても人間に友好的な種族もいるし、天使や神霊のような光に属する存在も分類しているから、それは理解してくれ」

 

「分かりました。 確かに今の相手は手強かったですね」

 

とりあえず、だ。

 

今の女性を助けることにする。

 

ものすごく要領よく物陰に隠れていた女性は、ヒヒが倒れると、にへらと笑いながら物陰から出てきた。

 

本来は煌もあまり背が高くない方だが。

 

この女性も、同じようにあまり背が高くない。

 

狸のような容姿ではあるが、服で着ぶくれしているだけで、そんなに太っている訳ではなさそうだ。

 

「いやー、助かったっす。 こんな訳が分からない場所にいきなりいて、困り果てていたら、あんな猿の化け物に襲われて」

 

「このような姿ですが、僕は」

 

「少年、素性は話さない方が良い。 特に合一神と知られるとまずい」

 

「……僕はこの辺りで神をしているものですが、良く自分でも正体が分かりません」

 

目を細めた女性が。ふーんと言いながら、煌の周りを回る。

 

この人。

 

なんだか妙だな。

 

「あたしは平塚ツバメ。 フリーのライターをしてるッスけど。 神を自称するとはねえ」

 

「名前はまだ思い出せませんが、今見ての通りです。 仮にアオガミとでも呼んでください」

 

「……とりあえず、ここってなんなんすか? いきなり訳が分からないッスけど」

 

「さっき東京タワーを見ました。 何かが起きたのでは?」

 

ふむ、とぼやくツバメさん。

 

アオガミが言う。

 

「煌。 この女性は人間だが、高確率で嘘をついている。 確率は95%以上」

 

「僕も同感です。 さっきの行動、明らかに演技だと感じました。 それに……」

 

あの要領の良い隠れ方。

 

修羅場のくぐり方の場数でも違うのではないか。

 

ともかく。それでもだ。

 

安全な場所をまずは探すしかない。

 

さっきギュスターヴが言っていた安全な場所については、一応確認はした。確かに敵意が一切なく、アオガミも安全だと言っていた。

 

どうも龍穴の奥に存在している異空間の一種らしく。

 

悪魔も基本的には煌とアオガミが同意するか、あるいは眷属でない限りは入れないらしい。

 

勿論誰かを救助したらそこに行って貰い。

 

それから、周囲を探索する邪魔にならないようにしてもらうべきだが。

 

この女性は、信用できない。

 

その点で、アオガミと煌は意見が一致していた。

 

いわゆるアヒル口に指先をあてて、考え込んだ後、女性は言う。

 

「とりあえず神だっていうなら、ついてっても良いっすか? 化け物にいつ襲われても分からないのなら、そうするしかないッスけど」

 

「見捨てるつもりはありませんが、恐らく悪魔はあなたを狙ってきます。 かばいきれるかは分からないですが」

 

「要領よく隠れるッスよ」

 

「……そうですね。 囲まれないようには立ち回るつもりですが、囲まれた時は側から離れないようにしてください。 それ以外の時は、隠れていてください」

 

周囲を確認する。

 

意識を飛ばして、周囲を確認できるのは大きい。

 

この辺りはかなり入り組んでいる。

 

壊れたビル以外は砂だらけ。砂だったらなだらかになりそうなものなのだが、それが山のように地形を作っている。

 

無理に昇ることも出来なくはなさそうではあるのだが。

 

ただ、そもそもとして。

 

ここがどこなのかを確認する以前の問題になっている。

 

歩いていると、標識が見えた。

 

田町とある。

 

やはり東京か。

 

じっと標識を見上げていると、ツバメさんがおおと声を上げていた。

 

「田町かー。 この標識からして、こっちが三田かな? ここが東京だとしたら、なんでこんなになったんだろ。 ……どうしたっすかアオガミ神?」

 

「いえ」

 

ひょうひょうとしているが。

 

じっと見つめても、まったくこの女性は動じることがないな。

 

いきり散らしている不良が、煌がじっと見ると不思議と視線をそらして道を譲ったりするのだけれども。

 

別に威圧感があるのではなくて、なんだか気まずくなるらしいのだが。

 

それについてはどうでもいい。

 

教師も煌にじっと見られるのは苦手だと言っていたっけ。

 

この人は、二十代半ばくらいに見えるが、ひょっとして生半可な大人なんかより社会経験も修羅場もくぐっているのではあるまいか。

 

「田町のマップを検索中だが、やはりデータが壊れているようだ。 高高度からの情報取得で現在少しずつ補填中」

 

「アオガミさん、まずは安全な場所を探すこと、出来ればユヅルと……顔もよく知らないもう一人も捜したいですね」

 

「君が言っていた、一緒にトンネル事故に巻き込まれた人間だな。 君は自分よりも彼らを心配できるのだな」

 

「今は僕は身を地力で守れそうだから構わない。 ユヅルはしっかりしているとはいえ、悪魔が跋扈している中で平気とは言い切れない。 もう一人は更に危ないでしょう。 関係のない他人とは言え、どうでもいいと思えるほど僕は薄情ではないつもりです」

 

こういうことは他人に声高には主張はしない。特に現代社会では、正義感が強い人間は正論厨だの言われて嫌われる傾向がある。まっとうなことを言ったら嫌がられる。それは、つまりそれだけ社会が病んでいるのだ。

 

ただ、アオガミとは今は運命共同体だ。

 

話しておくべきだと思う。

 

少し考えてから、アオガミは言う。

 

「ここでは助けられる命は限られる。 それは常に覚悟してほしい」

 

「分かりました」

 

「おー。 珍しいのがいるねえ」

 

空から誰か降りてくる。

 

タイツみたいなのを着た小さな人型だ。薄い透けた翼を持っていて、体型は成人女性のものだが、背丈は40㎝ほどしかない。一般的にイメージされる妖精に姿が近い。

 

「おや、妖精さん? なんでもありだねえ」

 

「そっちのお姉さんも面白そうだけど。 こっちの青い彼が興味あるなあ。 あなたってどこかの高位神格?」

 

「いや、分からないんだ。 君は?」

 

「あたしは妖精ピクシー。 よろしくね」

 

ピクシー。

 

聞き覚えがある。

 

確か人間を迷子にさせて楽しむ妖精だ。其処まで邪悪な存在には見えないが。

 

「妖精ってこの地区ではコミュニティもなくて、強い悪魔に食べられたりして大変なんだ。 眷属にしてくれる? 戦闘では役に立ってみせるよ!」

 

「煌。 悪魔との口約束は全く信用できない。 しっかり契約を交わせ。 特に眷属に出来れば、以降は自分の手足として活躍してくれるだろう」

 

「分かった」

 

契約の要件について話す。

 

その様子を、目を細めてツバメさんは見ている。やっぱりこの人、何か色々知っているな。

 

ピクシーはしっかりしているねと、苦笑い。

 

「提示してくれたマッカの量だったら充分すぎるかな。 眷属になった場合、あなたが死んでしまうとあたしも無事じゃすまないから、本気で頑張るよ」

 

「眷属となった場合、君の意志などは大丈夫なのか」

 

「おっ、心配してくれるんだね。 大丈夫問題ないよ。 君が無理矢理洗脳しようとか思わない限りはね。 君、そんなことしないでしょ」

 

頷く。

 

そうすると、ピクシーは消えた。

 

眷属となってくれたのは分かった。スライムの時と違って、脅したわけではない。それでも仕組みは同じか。

 

ふむふむと、様子を見ていたツバメさん。

 

この人、ピクシーに面白そうと言われていたな。

 

悪魔が興味を持つと言うことは、やはり何かありそうだ。ピクシーは人を食うタイプの悪魔には見えなかったし。

 

「煌。 龍穴を見つければ、それを起点に活動範囲を広げられる。 ともかく、探索をするのが重要だと判断する」

 

「その通りだと僕も思います。 急がないと、とも思いますが。 焦ってもどうにもならないでしょうね」

 

淡々と歩く。

 

ツバメさんは、別に文句をいうでもなくついてくる。

 

沈黙に耐えられないという女性は結構見るのだが、基本的に無口な煌に対して、何も話しかけてこない。

 

むしろ、背後に大蛇か何かいるような感じすらある。

 

警戒は欠かさない方が良いだろう。

 

足を止めた。

 

何かある。

 

巨大な、あれはなんだ。

 

蠢いている肉塊というか。龍穴から湧き出している巨大な力を、それが吸い上げているように見えた。

 

「おお、グロいのがあるっすねえ」

 

「怖くはないんですか」

 

「アハハハ、今更。 それに東京で社会人として一人暮らししてたら、幽霊だのゾンビだの程度でびびらなくなるっすよ。 ブラック企業に不良外国人、理不尽クレームにいつ何が起きてもおかしくない国際情勢。 それに、ここまでに何回君が悪魔を倒したと思ってるッスか」

 

「……」

 

そういう考えもあるかも知れないが。

 

いや、この人。

 

恐らく煌の反応を試しているな。実際には守られる側の人間じゃない。だから、それについては心配しなくても良いか。

 

ともかく、あれが厄介だ。

 

明らかに、存在していてはまずいものだと、一目で分かる。

 

「アオガミさん、あれは何か分かりますか」

 

「検索に一致。 あれはマガツカという。 龍穴から吸い上げている力を、悪魔が取り込むための巣であり、更には巣と一体化したなれの果てだ。 もはや形をなくすほどまで吸い込んだ結果、あのような形になっているが、元は別の悪魔だ」

 

「倒すしかなさそうですね」

 

「そうするしかない。 そのまま放置すれば、際限なく強大化して、幾らでも害を為すだろう」

 

手強そうだが。

 

それでもやるしかないな。

 

すっと手を横にやると、ツバメさんはささっと隠れる。

 

一応、周囲を確認。

 

恐らくあのマガツカとかいう状態になった悪魔が、他の悪魔を無差別に襲うのが原因だろう。

 

他の悪魔は見当たらなかった。

 

構えると、仕掛ける。

 

まずは火炎。

 

ドゴンと、巨体に投擲した火炎が炸裂する。錬磨次第でもっと火力を上げられそうだが、今の力の制御では無理か。

 

こちらに巨大な肉塊が向き直ると、体を蠕動させる。

 

嫌な予感がする。

 

全力で防ぐ態勢に入った瞬間、凄まじい重低音がたたきつけられていた。

 

人間だったら、木っ端微塵になっていただろう。

 

音波というのは、簡単に言えば空気の振動だ。

 

音が大きすぎると害がでるのはそういう理由からである。

 

また重低音もまた問題を周囲に起こしやすい。

 

着地。

 

かなりのダメージを受けた。

 

「煌。 眷属を展開しろ。 手数を増やすべきだ」

 

「分かりました!」

 

即時で、スライムとピクシーを展開。もう息をするように、それらを展開できる。

 

スライムが、溶解液を巨体の悪魔に吹きかけ。相手の動きをわずかに阻害。ピクシーが何やら唱えると、体が多少楽になる。

 

数度ギュスターヴのところで世話になったのだが、これと原理は同じか。回復の力だろう。

 

また、悪魔が巨体を蠕動させている。

 

アオガミが言う。

 

「あれは恐らく妖樹マンドレイクだ」

 

「妖樹?」

 

「神話に登場する人に害を為す植物のことをここに分類している。 マンドレイクは薬にもなるが、引き抜かれるときの絶叫で人を死に至らしめると言われている」

 

なるほど、音波が得意か。

 

ならば。

 

速度を上げる。

 

速度については、かなり出せるようになってきた。そして、狙いを定めようとしているマンドレイクマガツカに、火炎を立て続けにたたき込む。

 

悲鳴を上げるマガツカ。

 

炎上し始める。炎に耐性がないらしい。

 

ならば更に手数を増やす。

 

スライムが溶解液を更に吹き付ける。ピクシーも雷撃を使えるようだ。それほどの火力はでないが。

 

触手を振るってくるマガツカ。

 

スライムが吹き飛ばされて粉々になる。

 

ピクシーが必死に回避するが、そろそろガス切れだよおと声が聞こえた。

 

だが、時間を稼いでくれただけで充分。

 

激しく炎上するマンドレイクマガツカの、頭上に躍り出る。

 

こっちに蠕動する音波発射口を向けてくるが、遅い。

 

空中で機動して、一気に頭上から切り下げる。

 

激しく切り裂いて、鮮血がぶちまけられる。吠えるマンドレイクマガツカ。

 

だが、致命傷には浅い。

 

触手が唸り、直撃。

 

受け身を反射的に取る。柔道で毎回酷い目に遭っていた煌に出来ることではない。アオガミによる支援だろう。それでもなお吹っ飛ばされて、転がる。ただ、体の痛みはあまりない。ただ、体から力が抜けていくのは分かる。

 

マンドレイクマガツカが、炎上し、悲鳴を上げつつも、とどめを刺そうとこちらに音波砲を向けてくる。

 

だが。

 

アオガミの記憶。一気に敵を縦横無尽に切り裂く技。

 

普通、多段攻撃は実用的ではない。一撃に最大火力を込めた方が相手を確実に仕留められる。

 

だが、それは人間同士の戦いの場合だ。

 

こんな巨大な悪魔が相手だったら、話も違ってくる。

 

無言で突貫すると、触手を切り裂く。

 

かなり相手の一撃が重いし。こちらは力が抜けてきている。要するに逃げるのは不可能だ。そもそも相手も、こちらを逃がすつもりはないだろう。貪欲に辺りの悪魔を食らってきたから、あんなに大きくなっているのだろうから。

 

ピクシーが、回復の力を使ってくれた。限界と言いながら、消える。それで充分。助かった。

 

上。右。

 

それぞれから巨大な触手が迫ってくる。だが、それより先に、相手の懐に飛び込む。

 

八度、連撃をたたき込む。

 

麁正連斬。

 

そういう技であるらしい。

 

瞬時に傷口がザクロのように裂けて、そして。

 

内側から、吹き飛ぶようにして、マガツカは消し飛んでいた。

 

膨大なマッカが降ってくる。

 

これ自体がエネルギーの塊であり、悪魔を強く出来ると言う話だ。それに、食らった悪魔達が持っていた分もあったのだろう。

 

これが魔界の戦いだな。

 

そう、煌はここでの過酷さと。その後に実利がエグいくらいにわかりやすく得られる有様を見せつけられるのだった。

 

 

 

消耗が酷かったので、龍穴まで戻る。

 

龍穴で回復すると、本当に瞬時に元に戻る。手足の欠損こそしていなかったが、明らかに体内には何カ所か滅茶苦茶になっている場所があったし。

 

人間であったのなら、動けなくなったのは確実だったからだ。

 

それにだ。

 

マガツカを破壊したとき、雑多な知識がたくさん入ってきた。

 

恐らくは、回復などの力は、一般的に魔法と言われているものだと判断して良いのだろう。

 

勿論現実でそんなものを使っている人間は見たことがない。

 

だが、魔界とやらであるここで使えるのなら。

 

或いは現実でも使っている人間がいるのかも知れなかった。

 

ともかくだ。

 

回復をギュスターヴにしてもらうと。眷属もまとめて回復することが出来た。

 

何より、である。

 

今のマガツカを破壊した瞬間、あれに食われた悪魔の何体かを、眷属として取り込むことが出来た。

 

容量には限界があるようだが。

 

それでもまだまだ余裕だとアオガミは言う。

 

手を叩きながら、回復の魔法と思われるものを使いながらギュスターヴは言うのだった。

 

「こりゃすげえな。 ナホビノとはいえ、おまえコレは底なしに強くなるぞ。 ただ、無茶しねえようにな。 この辺りのマガツカなんか、雑魚も雑魚だ。 もっと先に行くと、神々を取り込んだ奴とか、神話で魔王をやってるような奴を取り込んだ奴とか、やべえのがいるからな」

 

「教えてくれるのは嬉しいが、どうして其処までしてくれる」

 

「見ていて楽しいからに決まってるだろ。 ただ、俺様自身は絶対に手出しはしねえ。 そう決めてはいるがな。 おまえ以外にも、モノ売ってやったり、回復してやったりしている有望な奴はいるんだぜ」

 

キヒヒヒ、と下品そうに笑うギュスターヴ。

 

底知れない力を感じる奴だ。

 

ともかく、その場を後にする、回復は予想よりずっと安くついたが。マッカを蓄えても、今はどう使うかはよく分からないが。

 

外でツバメさんを待たせている。

 

あの人は怪しいところだらけだが、もたついたところを悪魔に食われでもしたらそれはよくない。

 

足手まといも何も、アオガミがいなければ煌が一番の足手まといだ。

 

そういうこともあって、見捨てるつもりもない。

 

龍穴の外に出ると、龍穴で椅子に腰掛けて、ツバメさんがミマンと話していた。ミマンが持ち帰ってきたらしい品を、説明しているらしい。

 

「これは酷く痛んでいるけれど、飲み物が入っていた缶ッスねえ」

 

「そうなのか人間!」

 

「でも、同じのご主人様、高く買ってくれたぞ!」

 

「本当に人間のものはなんでも高く買ってくれてるんすねその人。 いや、悪魔なのかな?」

 

凄い馴染んでいる。

 

ミマン達が、煌が姿を見せると、わっと色々見せてくれる。

 

何カ所かで高いところから降りられなくなっている奴とかを助けたり、遺物がないと困っている奴に適当なものを渡したのだが。

 

そうしたら慕われたのだ。

 

ちなみに煌は、あまりこの辺りにある遺物を積極的に漁る気には今の時点ではなれない。

 

というのも、ここが東京であるのなら、拾得物の私物化にあたるのではないかと思うからだ。

 

こんな状態で警察やらが機能しているかは分からないし、そもそも人が生きているかすら怪しいが。

 

それでも、そういうのはしっかり確認しておきたいと思っていた。

 

「そうだ、神様! 三田の方に人間いた!」

 

「!」

 

「結構強そうな人間だったよ! 二人いたけど、一緒には行動していないみたいだった!」

 

「ありがとう」

 

礼を言うと、軽くアオガミと相談する。

 

アオガミも、合流には賛成のようだった。

 

「とにかく情報収集が最優先だ。 ただし守るべき対象が増えると、戦闘での選択肢は減ることになる。 煌、それは覚悟してほしい」

 

「それは問題ありません。 既に覚悟は決めています」

 

「そうか……」

 

悪魔を殺したとき。

 

それが絵空事などではないことは分かっている。

 

何かを殺すということに、東京に住んでいる人はとても鈍感になっている。生魚を捌いたことがない人間なんて珍しくもないと聞く。

 

恥ずかしながら煌もそうだった。

 

凄まじい力を手に入れた。だがそれでネット小説みたいに無双の限りを尽くせるかというと、それは違う。

 

悪魔を殺してみて分かった。

 

人間とは違うにしても、あいつらも生きている存在だ。

 

体内に情報などを取り込んでみると、人間とは違うなりに考えて、それぞれ生きていることがよく分かった。

 

眷属とした悪魔は更に色々と顕著で。

 

もっと色々、細かくどう考えているのかが伝わってくる。

 

殺した感触だって手に残っている。

 

これは苦手な人間は、一発でPTSDになるだろうし。力が合ってもどうにもならないだろうと煌は冷静に思う。

 

格好良い技を繰り出して、無双の限りを尽くすなんて幻想だ。もしも平気で殺しを重ねられるような奴がいたら、そいつはサイコパスだろう。

 

そこまで煌は落ちるつもりはなかった。

 

「必ずしも生存者がユヅルという青年かどうかは限らない。 ユヅルという青年が生きているかも分からない。 それは覚悟してほしい」

 

「分かりました。 ともかく急ぎましょう」

 

ツバメさんに声を掛ける。

 

はいはい行くっすよと、ツバメさんは疲れている様子もない。

 

やっぱりこの人、何か隠しているし。下手すると今の自分より強いのではないか。それも桁外れに。

 

そんな嫌な予感を、煌は感じるのだった。







わざとらしく合流してきた平塚ツバメさん。

非常に怪しいと感じつつも、人間を見捨てるわけにもいきません。煌くんは一緒の魔界脱出を図ります。

この辺り、煌くんの倫理観念はとてもしっかりしています。

周りでろくでもない大人を散々見てきて、それを反面教師にしてきたというのもあります。

何より縄印学園自体が、そういう場所ですからね。

周りと同じにならない。同じように堕落しない。

そういう強い意志が、煌くんをこんな苦境でも、冷静にいさせている原動力です。


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