真女神転生VV二次創作 牛蛇相克   作:dwwyakata@2024

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浄増寺での情報確認のあと、すぐに魔界東京駅付近にまた戻ることになります。

敵先鋒のアザゼルを倒したとは言え、まだまだ到底安心できる状況ではないからですね。

少数ながらベテル日本支部からデビルサマナーも出ています。その安全も確保しなければなりません。





3、追い誘われて

ベテル日本支部が総力を挙げて、公安と連携してくれる。その間、煌は一旦魔界に戻る。

 

東京の方に仕掛けてきている大物は、ツバメさんで対応する。

 

あからさまな陽動として姿を見せている悪魔達は、ユヅル達が総力で対応して倒して回る。

 

これで一度は手分けとする。

 

魔界における新宿方面でも調査を進めているようなのだが、これはこれである。

 

まずはやるべき事を、一つずつ片付けていかなければならない。

 

魔界に出向き、銀座辺りに入ると、声を掛けてきた者がいる。

 

フィンだった。

 

「よう、来ていたんだな」

 

「緒戦には既に参加しました」

 

「謙遜だな。 頑強に抵抗していた敵将を討って、橋頭堡確保に貢献したと聞いたぞ。 どうやら俺が超えられるのも、そう遠くない未来のようだな」

 

「そちらこそご謙遜を」

 

フィンはまだまだ力を隠している。

 

それを煌は既に見抜いていた。

 

軽く話をする。

 

現在戦線をかなり押し上げたベテル本部だが、銀座近辺での制圧作戦はどうにかうまくいったものの、その先で大苦戦しているらしい。

 

どうもスルトが出てきたらしく、凄まじい炎で誰も進めないようだ。

 

火炎の力を持つ悪魔達が何度か接近を試みたが、そんな炎など児戯に等しいといわんばかりに焼き払われてしまっているとか。

 

「各国のベテル支部も此処で大駒を使い捨てるつもりにはなれないようでな、完全に戦線は膠着だ。 それに乗じて、混沌の悪魔達が足下から崩しに来ていやがる。 俺はそういった連中を狩って回っているのさ」

 

「それこそ下級の天使達の仕事では」

 

「ベテル本部にとっては俺たちは卑しい傭兵だからな。 使い捨てというわけだ。 ちなみにスルトにも挑まされそうになったが、力不足だと言って固辞させて貰ったよ」

 

はっはっはと、フィンが笑ったので。

 

煌は心配になって周囲を見たが、とりあえず聞かれてはいないようだった。

 

ともかくだ。

 

悲惨な有様になっている銀座の辺りを調べて回ることにする。

 

フィアナ騎士団からも精鋭を何名か連れてきているらしいが、斥候以上の事は出来ないらしい。

 

また、たくさん負傷した天使達が運ばれてきている。

 

デビルサマナー達はほとんど使い走りにされていて、悪魔を使って天使達を運ぶことばかりしているようだ。

 

これは18年前の事変で。

 

世界中で、一線級のデビルサマナーがほとんど倒れたことも、影響しているのだろう。実際こんな危険な戦場に、チンピラ同然の奴が来ていたほどなのだから。

 

煌も猫又をはじめとして、斥候にむいている悪魔達を出す。

 

さっと散っていった悪魔を見送ると、アマノザコが言う。

 

「あたいは案内は出来るけど、戦いはしたくないなあ」

 

「別に構わない。 むしろ案内を頼めるか」

 

「よしきた! この辺り、前はちょくちょく来てたんだよ。 今は悪魔がたくさん殺し合ってるから、煌と一緒じゃないと怖くてこられないけど!」

 

「煌、分かっていると思うが……」

 

アオガミの言葉に頷く。

 

アマノザコは何かある。本当に弱いのかさえ疑わしいと煌は思っていた、

 

ともかく、崩れたビルなどを一部片付けたりして、少しずつ見晴らしを良くしておく。鬼後輩とトロールが力を合わせて動いているが。トロールでさえ、そろそろ力不足になりつつあるか。

 

良いこともある。ジャターユに力が追いついてきて、ほぼ常時展開することが可能だ。

 

吉祥天はまだ少し厳しい。

 

だが、長足の進歩を遂げていると言える。

 

崩れてしまっているビルなどを片付けると、雑多な悪魔が悪態をつきながら逃げていったりする。

 

宝石をたくさん蓄えている悪魔が、これは渡さないぞと威嚇してくるので。奪わないから大丈夫だと告げる。

 

そうすると、悪魔はこっちをちらちらと伺いながら、逃げていくのだった。

 

フィンが周囲を警戒してくれている。

 

それもあって、辺りの見晴らしを良く出来る。

 

越水長官に言われている。

 

しゃしゃりでるような真似はするな。

 

ベテル本部は、ただでさえ出鼻をくじかれて、躍起になっている。

 

ベテル本部は各国で、特に一神教文化圏で強力な財界のネットワークを抑えていて、あまり人間にとっていい勢力とは言えないのが実情だ。

 

焦って勝手に戦力を消耗してくれるなら好都合。

 

むしろ困り果てているところを助けて、恩を売るべきだ。

 

非情な話だが。

 

相手は人間ではないし、アブディエルが神への忠義を通り越して、非情なのは煌も見ている。

 

あれは神の邪魔になると判断したら、眉一つ動かさず一千万都民を見捨てる存在だ。

 

加担する理由はない。

 

程なくして、猫又が戻ってくる。

 

がれきなんか何のその。

 

とても俊敏で、しなやかな動きである。

 

「戻ったにゃあ!」

 

「何かあったか」

 

「この辺りに詳しそうな子、見つけてきたにゃ!」

 

「あ、以前会ったね! お久しぶりー!」

 

ぱたぱた羽を動かして飛んできたのは、厚着を着込んだ女の子の悪魔だ。モーショボー。モンゴルの悪霊に近い存在である。

 

見た感じ無邪気で残酷な、典型的な子供らしい悪魔だが。

 

モーショボーは煌を見ると、わっと嬉しそうにした。

 

「うわ、前にあった時とは別物だね! ちょう強くなってる!」

 

「ありがとう。 それでこの辺りで何か問題が起きているのか」

 

「うん。 えーとね、今の君だったらいいかな。 あたしを眷属にしてくれる? 合体もなし。 その条件をのむなら、知ってること、教えてあげる」

 

「良いだろう」

 

契約をそのまま済ませる。

 

手慣れた様子に、フィンが感心して頷いていた。契約書にきちんと目を通しているので、アルテミスがむしろ感心していたほどだ。

 

「よーし、これで安心できるかな。 あの辺り見てよ」

 

「……強い力を感じるな」

 

銀座の奥まった辺り。

 

何か潜んでいる。

 

フィンも気づいたらしい。天使達は、ほとんど気づいていないようだが。

 

あれは、相当に強力な悪魔だ。

 

「あいつまずいよ。 多分古代神格。 今、天使達、炎の巨人を攻略しようって、躍起になってる。 下手すると、この辺り一気にあいつが暴れて取り返されると思う。 そうなったら、天使達全滅でしょ」

 

「それ以前に、この辺りに来ているデビルサマナー達も危ない」

 

魑魅を展開して、情報を集めている巫女のデビルサマナーはさっきも会った。

 

軽く会釈したくらいだが、天使達にこき使われて疲弊しているのが一目で分かったくらいだ。

 

他にも、第三陣、第四陣のデビルサマナー達が送り込まれたという話も聞いている。それらの人と面識はないが。

 

見捨てるわけにも行かないだろう。

 

幸い、戦力にならない存在を、最前線に送るようなことをアブディエルはしていないようだが。

 

それは単純に戦略的な判断からだろう。

 

「分かった。 あの地点までの道の安全を確保してから、総力戦を仕掛ける」

 

「お、やる気? すごいねえ……!」

 

「一人でも生きて帰すためだ。 アマノザコ、あの地点までの安全経路について頼む。 僕は先に龍穴で回復をして、万全の状態を作る」

 

「あいあいさー、だったね! えっと、モーショボーちゃん、いこ!」

 

さっとアマノザコとモーショボーが飛んでいく。

 

アマノザコはともかく、モーショボーは眷属にしたのだ。

 

万が一があっても平気ではあるだろう。

 

龍穴で回復を済ませる。その間に、フィンはフィアナ騎士団を呼び戻していた。一応の義務として、アブディエルに連絡もしたようだ。

 

煌も越水長官に、一度龍穴から戻って連絡を入れる。

 

感じ取った気配がかなり大きいことを告げると、越水長官はヨーコとミヤズを呼び戻してくれた。

 

ミヤズはちょっと大丈夫か心配になったが。

 

ミヤズの希望だ。

 

「これから強い悪魔と幾らでも戦うことになると聞いています。 今のうちに、支援になれておきます」

 

「お兄ちゃんがいなくて大丈夫かしら、というのは愚問ね。 貴方は私に出来ない嫌いな相手との協調も出来ている。 立派だわ」

 

「……」

 

ヨーコはこれは、自分がミヤズに苦手と思われていることを知っているな。

 

それでいながら、一切連携に支障を来していない様子を見て、感心しているのだろう。確かに立派ではある。

 

ただ、それならばヨーコもあわせればいいのに。

 

まあ分かっていても出来ないのだろうが。

 

魔界に出る。

 

ミヤズはアマビエを回復の軸に据えて、更に支援用の力を持った悪魔を数体そろえてきたようである。

 

ここ数日の戦闘で力を増して、更には降参した雑魚を悪魔合体させて、それで。

 

戦略的な手札を増やしたのだ。

 

フィンを見ると、ミヤズは丁寧に頭を下げていた。

 

「お久しぶりです、フィン騎士団長」

 

「おお、ミヤズどの。 随分と元気そうになったな。 だが、戦場に出てくるとは予想外だったぞ」

 

「私は看護師志望ですが、この状態ではそうも言っていられません。 出来る事は、全てやります。 看護師としても出来る事がありますから、負傷したら言ってください」

 

「確かに近代医療については俺も認めている。 その時は頼むぞ」

 

丁度モーショボーとアマノザコが戻ってくる。

 

潜んでいる強力な悪魔は、既にいつ姿を見せてもおかしくないらしい。というか、奇襲の好機を狙っているようだ。

 

多数の負傷した天使が、野戦病院にいるのを見て、ミヤズが眉をひそめる。

 

流石にこれだけ危険だと、人間の看護師や医師を連れてくるのは難しい。だが、ミヤズから見て、許されないくらい雑なけが人の扱いだというのだろう。

 

ただ、それも潜んでいる奴を叩けば話は別だ。

 

敵の戦力を一気に後退させることが可能になる。ただしそうなると、前線がスルトに無茶な攻撃を仕掛け始めるかも知れないが。

 

あちこちに深い溝が出来ていて、其処は霧に満ちていた。不意に前から、巨大な獣が来る。

 

それは敵意はなく、こちらを見てもふんと鼻を鳴らす。

 

姿はライオンのようだが、更にヤギの頭と蛇の尻尾を持っている。

 

ということは、この獣は。

 

「ギリシャ神話のキマイラか」

 

「ほう、私を知っているか。 ……アルテミス殿が同行しているのだな」

 

「うむ」

 

出現したアルテミスが、キマイラに礼をする。

 

キマイラはギリシャ神話最強の怪物であるテューポーンの子の一体だが、そのあまりにも有名な名前と容姿と裏腹に、実は雌である。更には本来はメソポタミア神話の存在だったものをギリシャ神話に取り込んだものとも言われている。ギリシャ神話ではトルコ辺りを暴れ回っていたところを退治されたとされているが。別に神々と戦ったわけでも、具体的な被害が描写されているわけでもない。極悪怪物のようなイメージは、これは一神教による後世のイメージである。

 

アルテミスが出現すると、キマイラは一礼する。

 

巨大すぎるので、ちょっと頷いただけでも大迫力だ。背丈だけで四メートルはある。後ろ足で立ち上がったら、三階建てのビルくらいはあるだろう。

 

「この辺りに危険な混沌の悪魔が潜んでいる。 これから退治に行くところだ」

 

「何……。 それはまずいな。 分かった。 警戒を促しておく」

 

「頼む」

 

ちゃんと敵味方の区別はついているようで何よりだ。

 

アルテミスが咳払いする。

 

現時点でキマイラはオリンポスの神々の指揮下に入っていて、聖獣として扱っているという。

 

確かにメソポタミア神話の存在が祖であり、それが邪悪な存在ではないのだとすれば、聖獣扱いが妥当だろう。

 

ともかく急ぐ。

 

モーショボーが、あれあれと指さす。

 

ビルの屋上で、確かに尋常ならざる気配がある。ここまで近づくまで気づけなかった。此処からだと攻め上がることになるか。ビル自体も崩れているし、接近は骨だ。

 

「こっちだよ! あたいについてきて!」

 

「任せておいて大丈夫か」

 

「大丈夫だと思います」

 

フィンが不安そうに言うが、アマノザコについては煌も不可解だと思うことが多い。

 

とにかく、ビルの影に行くと、大穴が開いていた。

 

流石に大地震にも耐える日本のビルでも、東京を滅ぼした災厄に遭えばおかしくなるというわけだ。

 

穴から入り込むと、凄まじい有様だが。

 

意外にも砂に埋もれているほどなのに、ほとんど埃はない。

 

ガラスなどが散らばっているような事もなく、ミヤズがある程度安心して立ち回れると言ってくれた。

 

そうか。

 

階段が曲がっている。其処を内側から上がっていく。気配は強くなる一方だが、これは気配を隠すことに注力して、こちらに気づいていないな。

 

そのまま全員、無言で敵に接近する。

 

ビルを数階分上がると、内部が完全に崩落していて、階段が潰れていた。その代わり崩落箇所から上に上がれる。

 

がれきなどが危ないから気をつけるように、ヨーコとミヤズに視線を送る。頷くと、ミヤズはモーショボーに手を借りて、険しい段差を上がった。

 

さて、すぐ上だな。

 

散開して、敵の背後を取る。

 

ビルの屋上に、それは出現していた。

 

巨大な鉄で出来た牛、だろうか。手足も生えてはいるが、なんともまがまがしい姿である。

 

それは息を殺したまま、力を練っているように見える。

 

「かなりの大物だ。 煌、気をつけろ」

 

「分かりました。 奇襲仕掛けます」

 

「ああ。 最初から全力でいこう」

 

皆にハンドサイン。移動中に決めてあった。

 

そして、煌とフィンが最初に突貫。相手が気づく前に、その体に手刀をたたき込んでいた。

 

更に内部に光の力をたたき込む。

 

巨大な牛の悪魔が悲鳴を上げるが、即座に倒れるほどじゃない。更には、間を置かずフィンが剣をたたき込むが、太い腕を振り上げて防いで見せる。

 

「我の潜伏を見ぬいただと? 貴様、何者……いやナホビノか!」

 

「貴方は何者だ。 僕は夏目煌という」

 

「不意を突いておいてよく言う!」

 

腕を振るって、煌とフィンを追い払いに懸かってくる牛の悪魔。

 

さっと逃れて、左右に散る。

 

悪魔が吠え猛った。

 

「我こそはフェニキアの神にて、後にモロクと貶められた存在である! 元はそのような名前ですらなかったがな!」

 

「! これは大物が出てきたな」

 

「煌先輩、知っている悪魔ですか」

 

「ああ。 一神教で特に嫌われた悪魔だ」

 

ミヤズに軽く解説しつつ、眷属達を展開する。これは油断できる相手ではない。

 

モロク。

 

一神教にて度々批判されるフェニキアの神だが、実際にはその信仰についてはほとんど分かっていない。

 

子供を牛の像に入れて焼き殺して生け贄にしていたなどと言う話があるが、基本的にこれは一神教の視点からのもので、真実かすらも分からないのが実情だ。そもそも初期の一神教では普通に生け贄を捧げていたので、どの口がいうという話であるのだが。

 

いずれにしてもモロクと呼ばれた神格の本来の信仰は失われ、牛の像で子供を蒸し焼きにする邪神というイメージばかりが残ってしまった。

 

それは本来の存在が何者であろうと、怒るのは当たり前だろうな。

 

そうとさえ、煌は思う。

 

「あの四文字の神の走狗になるつもりかナホビノ!」

 

「いや、東京を守るためだ。 貴方は東京にこのまま侵攻してくるつもりだろう」

 

「四文字の神めが作り上げた幻の都のことか? あんなものは所詮幻! 食らって世界を作り替える糧にしてくれるわ!」

 

凄まじい勢いで回転するモロク。一撃一撃が致命的な破壊力の拳となっている。振るわれる一撃は重く、煌は防ぎつつ、丁寧に立ち回る。

 

回転攻撃が主体か。

 

上空でルーンをきったフィンが雷撃をたたき込むが、効果が薄い。

 

この様子だと、炎も効きづらいだろう。

 

だとすると。

 

「マーメイド!」

 

「分かりました!」

 

距離を取るマーメイドが詠唱を開始。そのまま煌は、鬼、トロールとともに肉弾戦を挑む。

 

トロールが凄まじい回転をする腕を受け止めるが、吹っ飛ばされそうになる。鬼後輩が、それを支える。回転がわずかに鈍る。

 

モロクの顔面を、ジャターユがつかんだ。

 

ぐっと呻きながら、モロクがあがこうとするが。

 

背後に回ったフィンが、剣を腕の付け根に突き刺す。鮮血が吹き上がり、モロクが悲鳴を上げていた。

 

煌が息を合わせて、突貫。

 

更に、そこにヨーコが札を投擲して爆破。

 

仕掛ける煌の速度が上がったのが分かる。煌自身は何もしていない。

 

そうか、これはミヤズの仲魔の。速度を上げる魔法があると聞いていたが、なるほど。体が軽い。

 

トロールと鬼をぶら下げたまま、また全身を回転させてくるモロク。凄まじい勢いだが。紙一重で回避。

 

回避しつつ、振るわれた腕を一閃。

 

鋭い傷をつけ、更に回転して飛んできた腕を跳躍して回避。

 

頭上でジャターユに飛び乗ると、雷撃をたたき込む。モロクが呻きながら、詠唱を始める。

 

まずいな。

 

そのまま真下に体を打ち出す。ジャターユと協力して、下に体を蹴り出したのである。

 

同時にルーンを切ったフィンが、ハンドサインを見て、モロクを更に加熱する。全身が熱の塊になったモロクが、何で炎をという顔をしたが。

 

ふっと笑って、周囲全部を爆破しようとした。

 

だが、その時。

 

「わっ!」

 

「な、何っ!」

 

実際にはダメ押しだ。

 

わーがモロクの耳元で、脅かす。詠唱を一瞬でも中断させられれば、それでいい。そして、これがとどめになった。

 

マーメイドが、詠唱を終える。

 

モロクの全身に、凄まじい量の水がたたき込まれたのはその瞬間。

 

更にアルテミスが、水を冷凍する。

 

そうなれば、どうなるか。

 

煌は精神を集中。

 

見えた。

 

先から立て続けに攻撃を受けていたモロクの一点を、上から切り下げる。冷気のただ中に突っ込むことになるが、別に構わない。

 

モロクの体の一部が、明確に欠損した。

 

そして、超高熱がいきなり冷やされ。

 

更にはモロクの体に穴が開けばどうなるか。

 

最後の力を振り絞って、トロールがモロクに体当たりをして、傷口を上に向ける。モロクが、絶叫していた。

 

「こ、この我が! フェニキアの主神であるバアルの一角が! たかがなりたてのナホビノに、こ、このようなああああっ!」

 

鉄の体が災いする。

 

更には、ずっとミヤズがモロクの体がもろくなるように、支援魔法を仲魔達に掛けさせていたのも原因となった。

 

とどめに、ヨーコが多数の札で、むしろモロクの傷口以外を補強する。

 

結果、行き場がなくなった熱が。モロクの体をぱっくりと割いて、頭上に凄まじい熱を吹き上げ。

 

爆発していた。

 

多数の眷属が巻き込まれた。煌もかなり危なかった。

 

アルテミスが転がって伸びている。

 

ミヤズはヨーコが札で防壁を作ってくれたおかげで無事。煌は消耗が酷いが、どうにかなる。

 

ジャターユは。

 

顔を上げると、今の一撃から煌を庇ってくれていた。

 

消えていくジャターユ。

 

ありがとう。そう感謝の意を伝える。

 

フィンががれきを押しのけて立ち上がる。

 

ミヤズが、厳しい顔で叫んでいた。

 

「トリアージします! すぐにこちらに来てください!」

 

 

 

龍穴まで戻る。

 

あの大爆発を見ていた天使達が、周囲でひそひそと話している。もしもモロクに奇襲を許していたら、被害はとてつもないことになっただろう。

 

そういう声も聞こえた。

 

フィンは手当を受けて、まあまあ満足そうだ。ミヤズとヨーコは無事だったが、乱戦の中かなり消耗したのだろう。

 

ミヤズは無言で龍穴から東京に戻った。これ以上、出来る事はないと判断したようである。

 

それで正しい。

 

この場所では、弱みなんて見せたら即座に殺されかねない。

 

ヨーコはというと、今まで完璧に要領よく立ち回っていたのに、今回は流石にそうも行かなかったようである。

 

髪の毛がかなり乱れている。

 

元々ショートにしているヨーコは、元の顔が整っていることもあってほとんど身繕いをしている雰囲気がないのだが。

 

流石に今回ばかりは古典的にいえばアフロになりそうだったのだろう。

 

不機嫌そうに服の汚れを落としていた。

 

大天使が来る。

 

あのメルキセデクだった。

 

「魔王モロクが潜んでいて、それを倒してくれたというのは本当か」

 

「本当ですよ大天使どの。 このフィン=マックールが保証しましょう」

 

「なんと。 魔王モロクといえば、古くから恐れられた存在。 それを倒すとは……」

 

古くから恐れられた、ねえ。

 

モロクについてはそもそもそういう名前ではなかったというのは、先にモロク自身が言っていたことだ。

 

一神教は他の信仰を片っ端から悪魔化する傾向があったが。モロクもその一角。

 

バアルの一角というのもそう。

 

バアルというのはカナンの主神だけを指すのではなく、中東一帯で信仰されていた神々の事を意味しており、あのモロクもそうだったのだろう。

 

だとすると、一神教への恨みも分かるのだ。

 

それに、天使達の恨みは筋違いだ。一神教徒が貶めた存在だ。それは貶められれば頭にもくるだろう。

 

「ともかく、これで二つ目の大手柄だ。 前線でアブディエルどのに伝えておこう。 感謝するぞ」

 

「いえ。 それよりも、デビルサマナー達に無理だけはさせないようにしてください」

 

「ああ、分かっている」

 

メルキセデクはだいぶアブディエルに比べて対応が柔らかい。

 

煌としてもそこに好感を持てた。だから自然と敬語になった。

 

とりあえず、一旦はこれで戻るべきだろう。充分な戦果を挙げることも出来たし、情報も収集できた。

 

フィンは手当も終わったので、また前線に出るらしい。

 

だが、戻ろうとした時。

 

不意に、気配が出現していた。

 

「煌どのか。 ユヅルどのはいかが為された」

 

「ハヤタロウ。 今、東京にユヅルはいる。 僕たちだけで、この辺りの掃討任務を行っていた」

 

「そうであったか。 情報が入った。 神田明神に国津の神々がいる」

 

「!」

 

それは、いい情報だ。

 

アマビエが言っていたものだろう。

 

そして、情報をハヤタロウがくれる。前線の様子を、ある程度見てきたようだ。その記憶の共有である。

 

どうやら淡路町辺りでスルトが布陣しているらしく、凄まじい火力にベテル本部の天使達は接近の二の足を踏んでいるようだ。

 

流石にアブディエルも手も足も出せず、此処を拠点に混沌の悪魔達はハラスメント攻撃をベテル本部の軍勢に続け。

 

危険となったら即座にスルトの陣に逃げ込んでいるらしい。

 

この動きが巧妙極まりなく、ベテル本部の軍勢は翻弄されるばかりだとか。

 

アブディエルはそれほど無能な将帥にはみえない。頭はかなり固そうだと思ったけれども、前線指揮官としては有能なはずだ。

 

それがこうも手も足も出ないとは。

 

やはりスルトの実力があまりにも圧倒的と言うことか。

 

「一応書状を渡しては来た。 ただ、国津神の長である大国主命は、出来るだけこちらに直通路を開通してほしい、という話をしていてな」

 

「龍穴さえ見つけて、僕が其処に到達すれば可能だが。 かなり厳しい状態だろうか」

 

「今の時点では自殺行為であろう。 乱戦が続いていて、とてもではないが近づけない。 それに……」

 

どうやら八雲ショウヘイが、今度はこちらで暴れ始めているらしい。

 

手当たり次第に天使も悪魔も斬っているようで、これが混乱に拍車を掛けているようだ。

 

なるほど、それは余計に近づくべきではない。

 

それに、今此処で判断をするべきではないと煌は決めた。

 

「ハヤタロウも来てくれ。 越水長官に一度相談して、判断を仰ごう。 乱戦に巻き込まれるのは馬鹿馬鹿しい話だ」

 

「そうさな。 それがしも同意見だ。 あのような戦場に無策で乗り込むのは、ただ兵を消耗するだけであろうに」

 

「じゃ、戻りましょう。 シャワーでも浴びるとするわ」

 

ヨーコがぼやく。不満は分かるが、今言うことでもないように思った。

 

帰路でアマノザコが、モーショボーと楽しそうに話している。

 

モロクを倒した煌の眷属になって良かったと、モーショボーが嬉しそうに言っていて。それでなぜかアマノザコが誇らしげだ。

 

研究所に戻ると、すぐに越水長官が対応してくれた。

 

疲れているといってさっさと席を外すヨーコを一瞥だけすると、合一を解除した煌から丁寧に話を聞いてくれる。

 

モロクを倒した件については手放しで褒めてくれた。まあこれについては、ミヤズから聞いていたのかもしれないが。

 

更にハヤタロウと連携して、情報を提示する。

 

話を聞き終えた後、越水長官は一旦休憩するように指示をくれた。これより戦略を調整するという。

 

あまり必要ではないが、まあ嗜好品くらいならいいか。

 

アオガミはまた調整に向かった。その間に、煌は黙々と食事を取る。

 

そうすると、丁度戻ってきたイチロウが、よっと声を掛けてきた。ユヅルもいる。

 

「ミヤズさんに聞いたが、とんでもない悪魔とまたやりあったんだろ。 良く勝てるなそんなのに」

 

「いや、イチロウも強くなってきている。 以前だったら絶対に勝てなかった相手に、今なら簡単に勝てるはずだ」

 

「そ、そうか?」

 

「それは僕も保証する。 確実に頼もしくなってきている」

 

皆で適当に食事にする。

 

東京の方の状況を話しながら聞くと、どうやら進展があったらしかった。

 

占い師とやらを少しずつ調べているようだが、確かに八雲ショウヘイがいうように、おかしな話が出てきているらしい。

 

それによると、異常に評判がいい占い師がいて、最近話題になっている。だが、まったく正体がつかめないらしい。

 

実際に会った人間を突き止めて、何人かから話を聞いたのだが。

 

どうやら小柄な女性らしい、という事しか分からず。

 

それ以上のことはまったく。

 

いずれにしても極めて的確なアドバイスをしてくれるので、また行きたいという者が多いそうだ。

 

その一方で、そういった占いを受けた人間の周囲で、妙な不幸が続いているのも確認できているという。

 

公安と連携して動いているが、少なくとも悪魔の痕跡はなし。

 

ただ、浄増寺の力は膨れ上がっていて。

 

そのまま放置するのは極めて危険であると、越水長官は判断している、ということだった。

 

「何回か戦ったんだが、タオさんの足を引っ張らないかでいつもヒヤヒヤするよ。 煌やユヅルには最初から勝てないの分かってるから、もう露払いで動くようにしてるんだけどな。 タオさんは二人とは役割が違うし……」

 

「そう自分を貶めなくてもいいだろう。 つい最近始めたデビルサマナーとは思えないほどやれている」

 

「そう言ってくれるのは嬉しいけどよ、実際あんまり出来ている事ないし……」

 

「いくつも出来ている。 焦らずに、今のまま強くなっていけばいい」

 

煌が励ます。

 

イチロウは確かにいい顔になったと思うけれど。やはり、どうしてもこの自己評価の低さが拭えない。

 

これがいずれ悪い結果につながるのではないかと不安になるが。

 

しかし、こればかりは煌にはどうにも出来ない。

 

何か悪いきっかけがあった場合は、それを摘んでいくしかない。煌に出来るのは、それくらいだろう。

 

それよりも問題は、浄増寺の件だ。

 

早い内に解決しないと、厄介なことになる。

 

それだけじゃない。

 

新宿方面の魔界でしなければならない事、というのも気になる。何かしら越水長官がつかんでいるのであれば。

 

出来るだけ早く展開して、方針を決めてほしかった。

 

最悪の場合煌が独自の判断で動くことになるが、まだ越水長官の事を煌は信頼している。

 

故に、その決断を待つつもりだ。







※モロク

魔王として名高い存在です。真Ⅱでは終盤ホーリータウンにとどめを刺した存在ですね。

実のところモロクという神格は過去に存在しておらず、その名前は生け贄の儀式そのものを指す可能性が高いようです。

このモデルになったのはフェニキア辺りで信仰されていたバアルの一柱らしく、ソロモン王がモロクを崇拝していたという記録もあるようですが。まあバアルという時点で一神教からは嫌われて、色々無茶苦茶な嘘八百を後世に残された訳ですね。

実際問題、子供を生け贄にしていたという事じたいが、嘘であった可能性すら高いとか。

いずれにしても彼もバアルの一柱です。一神教には恨み骨髄と言う訳ですね。



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