真女神転生VV二次創作 牛蛇相克   作:dwwyakata@2024

49 / 51



神田明神への道を開拓する一方で、東京で悪さをしていた何者かの尻尾をつかむことについに成功。

その名はバエル。

バアル由来の悪魔の一柱です。ソロモン王72柱の中でも、かなり高位の存在ですね。





3、蜘蛛王の嘆き

早朝から、研究所でミーティングを行う。

 

一緒に出ていたのは公安の偉い人らしい。

 

子供ばかりじゃないかと、こちらを見ていたが。それは決して侮っているのではなく。子供が最前線に出向いている状況を悔しがっているように見えた。

 

こういう現場だけではない。

 

氷河期世代という世代の人々を、文字通り使い捨てにして社会に空洞を作ってしまった時代があった。

 

文字通りの愚策により、国には大きな空洞が出来た。

 

その結果、この国はどこでも人材が不足している。

 

世代による争いも起きている。

 

前線にベテランがいない。

 

それは何も、デビルサマナーの界隈だけではないらしい。

 

しかもこんな状態でも愚かしいビジネス誌やらの寝言を信じている会社は、「何でも最初から出来る社員」などというものがいると信じ込んでいて、新人教育を怠るような真似をしている。

 

越水長官が必死にそういったことを是正してくれているが。

 

そうでなければ、一体どうなっていたのだろうか。

 

「浄増寺近辺の異常についてですが、一つ分かったことがあります」

 

「聞かせてくれ」

 

「ネット経由で人気が爆発している占い師と同時に、こういった人物が周辺で目撃されています」

 

写真が出される。

 

それは意図的にぼやけているとしか思えなかった。

 

人には見えるが。

 

いや、人ではないかこれは。

 

「何度か目撃があったのですが、どうも監視カメラにも一切写っておりませんでして。 これはたまたま、近くで撮影していたスマホの映像です。 一度例の占い師が現れたところをスマホで撮影した者がいて、それだけはどうにか残っていました。 それを入手し、拡大した映像です」

 

「なあ、煌。 俺には悪魔に見えるんだけど……」

 

「ああ、俺にもそう見える」

 

「悪魔だとするとゆゆしき事態ですな」

 

ひょいと、その場に現れたツバメさん。いつの間にいたのかも分からなかった。ツバメさんがそれをじっとみて、なるほどとつぶやいていた。

 

どうやら分かるらしい。

 

「先生、ご存じのことがあるのですか」

 

「ああ、やっと占い師とやらの尻尾の一つをつかんだってところッスね。 此奴、知ってる悪魔っすわ」

 

「!」

 

「どうにかおびき出すので、戦闘の用意を。 出来るだけバトルフィールドから三区画くらいからは、人払いもお願いできます?」

 

公安の人が無理言うなと顔に書いたが。

 

越水長官が言うようにしろというので。

 

渋々立ち上がって、これから準備すると言って戻っていった。

 

公安の人が行った後、ツバメさんはいう。

 

「これは大物っすわ。 堕天使バエル。 ソロモン王72柱の中でも、かなり上位に食い込む奴っすよ」

 

「堕天使バエルだと……!」

 

越水長官が驚く。

 

まあ、それもそうだろう。

 

バアル由来の堕天使は何種もいる。一番有名なのはベルゼバブだが、その次くらいに有名なのがこのバエルだ。

 

バエルはソロモン王72柱の一角で、ヒキガエル、猫、人間の顔を持つ蜘蛛の姿で描かれる事が多い。

 

一神教では数多いた中東の神々バアルを様々な方法で貶めたが、バエルの場合は特に酷く、原形をとどめていないと言える。

 

しかもバエルは相当に高位の存在とされており。

 

もしも東京で暴れでもしたら、とんでもない被害が出るだろう。

 

「そ、そんな凄い奴、手に負えるんですか……!?」

 

「心配しなくても、バエルは何度もベテルから攻撃を受けて、相当に弱体化しているッスからねえ。 この写真が撮られた時間からして、そう回復はしていない筈。 此奴をおびき寄せて捕まえるのはあたしがやる。 倒すのは、皆にやってもらおうかな」

 

「ライドウくん、大丈夫かね」

 

「大丈夫大丈夫。 いい加減アラサーのお姉さんには引退を考えさせてほしいっす。 だから有望な皆さんに、此奴を餌にして成長して貰おうって訳でしてね」

 

なるほど、それはいずれにしても総力戦だな。

 

更に言えば、占い師を中心とした浄増寺にある異常なマガツヒ事件についても、これで一歩迫ることが出来る。

 

ユヅルが一旦席を外した。

 

ハヤタロウとの定時連絡の時間だ。

 

今、戻ってきている筈である。

 

戻ってきていなければ、伝令役の雑多な悪魔を龍穴においてくる予定だ。

 

勿論龍穴から出た瞬間に攻撃される可能性もあるので(結界は展開したが、安全とは言い切れないだろう)、ユヅルは気をつける必要があるが。

 

そのまま、情報を整理する。

 

バエルがいるとしたら、占い師本人ではなく、その護衛か。もしくは魔術的な儀式の支援をしている可能性が高いという。

 

バエルの姿は後世に勝手に作り上げられたもので、狡猾、堕落、不浄、罠等のイメージを重ね合わせた結果の姿だという。

 

そもそも一神教では多神教への理解が浅く、日本で言う神様という感じで使われた言葉のバアルを、まとめて邪悪な悪魔としてしまった経緯があり。

 

バエルがどんな神様が貶められた存在なのかすら分からないという話だ。

 

要するにバエルに昔日の力は存在しておらず。

 

一神教でのイメージだけがある。

 

そうなってくると、バエルの一神教でのイメージを主体に、対策を練れば良いと言うことだ。

 

「ええと、狡猾で、堕落していて、不浄で、罠を張ってくるというわけですね……?」

 

「悪魔の攻撃手段としては、トラップとしての魔法、搦め手からの攻撃、更には呪毒などを用いた攻撃、これらが想定されるっすわ」

 

「な、なるほど」

 

「そうなると、接近戦がむしろ有効ですが、接近戦に持ち込むまでが危険ですね」

 

頷くツバメさん。

 

以前ツバメさんがバエルと戦ったのは六年前。ガイア教団という組織の残党が非人道的な儀式の挙げ句に呼び出してきたバエルと戦ったそうだが。

 

その時が、まさにそういう戦い方だったという。

 

今回はどうやってアティルト界からアッシャー界に来たかは分からないが。

 

前に完全消滅レベルのダメージを受けている事からも、再生しても実力は前回より落ちるとみてよく。

 

どれだけ高く見積もっても、煌達で倒せるという。

 

問題は横やりが入る可能性で。

 

それについては、ツバメさんが対処すると言うことだった。

 

ユヅルが戻ってきて、ホワイトボードの内容に目を通す。ハヤタロウと連絡を取ることが出来、書状の受け渡しもしたそうだ。書状については、すぐに越水長官に引き渡していた。

 

何度かやりとりをして、その過程でハヤタロウも出来るだけ安全な神田明神への道を探しているらしい。

 

とにかく危険だが、既に半分を超えた。

 

そして国津の神々と連携できれば、更に戦力を強化できる。

 

土着の神々の実力は侮れず。

 

ベテル本部に好き放題されていたアドバンテージを相当に取り返せるという話なので、やる価値はある。

 

戦闘の場所については、葛西臨海公園を採用するという。

 

近くにばかでかい観覧車があることで、煌も知っている。乗ってみようとまでは思わないが。

 

理由としてはとにかく広いので、被害が出づらい。

 

また、隣接する施設については臨時休業を出すことで対応するそうだ。

 

「ええと、経済的な被害とか、大丈夫でしょうか」

 

「問題ない。 東京が消えるような創世が行われる場合には、東京都民を一斉に避難させるプログラムを既に開始している。 これは後任などにも既に展開されているし、更にはそれがきちんと働くかのテストとして行う。 問題ない範囲のことだ」

 

ユヅルの質問に、越水長官がさらさらと答える。

 

流石にしっかり対応しているのだな。

 

国会での答弁で、野党のヤジを一切許さず、一刀両断していく姿が頼もしいと言われているが。

 

実際これだけきちんと決めて動いているのであれば、ヤジだの難癖だの無意味だろう。

 

挙手したのはミヤズだ。

 

勿論ミヤズにも戦って貰う。

 

質問する権利はある。

 

「ええと、平塚先生。 実際にバエルをどうおびき寄せるんですか」

 

「バエルはあたしを恨んでるっすからねえ。 適当にやられたふりをしながら誘い込む。 それだけっすよ」

 

「バエルは狡猾な悪魔だと言うことですけれど、乗ってくるでしょうか」

 

「問題なし。 狡猾というのは、フルスペックを発揮できている時の話。 今のバエルは何者かの使いっ走りっすわ。 単なるボケ老人っすよ」

 

ボケ老人か。

 

あまり相手を侮らない方がいいと思うが、この人ほどの実力なら、その言葉が許されるのかも知れない。

 

ともかく、作戦決行。

 

あまり時間は掛けていられない。

 

現在、いつベテル本部が戦力を出せと言ってくるか分からない状態だ。魔界の新宿方面でも、天津神達の状態が気になるし。何より殺戮の天使達の暗躍についても警戒しなければならない。

 

確実に東京を脅かす存在は。

 

一柱でも削り取らなければならなかった。

 

 

 

葛西臨海公園に到着。自衛隊が即座に周囲から避難訓練を開始する。近場のアトラクションは停止。

 

文句を言う客もいるだろうが。

 

これは仕方がないことだ。

 

遠くがもやが懸かっているように見える。

 

タオが、悲しそうに眉をひそめていた。

 

「やはり東京が消えつつあるみたい」

 

「もっと早い段階から避難を進めた方が良いのじゃないのかしら」

 

「東京の辺縁に関しては、色々と既に動かしているようだ。 首都機能だけでなく、会社のオフィスなども順番に移動するように促しているらしい。 その時が来るとなったら、即座に東京から一千万都民を脱出させるべく、順番に手は打っているそうだよ」

 

「まあ、あの鵺総理だったらある程度信頼してもいいかもね」

 

相変わらずヨーコの言葉は露悪的だ。

 

不安そうなミヤズだが。

 

イチロウもあまり顔色は良くない。

 

どうもバエルの映像を見たのが原因らしい。

 

六年前の戦闘映像が残っていたのだが、巨大なバエルのおぞましい姿に、寒気まで感じたそうだ。

 

だが、今までも強敵とやりあってきたのだ。

 

それにいくつか作戦も考えてきた。

 

無線。

 

ユヅルが取る。

 

「こちら敦田ユヅル。 感度良好」

 

「こちらα1ー3。 ターゲット捕捉。 誘引続行。 速度からして、8分程度でそちらに到着」

 

「了解。 戦闘準備」

 

誘引しているのはツバメさんだが、それと連携している自衛隊のスカウトからの連絡だ。ヘリから状況を監視しているらしい。

 

よし、八分か。

 

トイレは既に全員済ませてある。まだ、悪魔は展開しない。ツバメさんいわく、流石にボケ老人と化していても、それだけ強大な悪魔が出そろっていたら警戒する可能性がある。

 

ツバメさんはバエルを誘い込んだら、出られないように周囲を結界で閉じる。

 

これはバエルだけではなく、攻撃用の魔法なども遮断するから、ある程度暴れても平気だそうだ。

 

さて、問題はそろそろだが。

 

気配が近づいてくる。

 

煌は反射的にアオガミと合一。

 

切り込んできたそいつの一撃を、受け止めていた。

 

ばつんと弾き会って、そして構える。切り込んできたそいつは、以前二度交戦したルー・ガルーだった。

 

「あのボケ老人が誘い込まれていると思ったら、やはりですか。 こちらでは初めてですね、ナホビノ、夏目煌」

 

「……ここにいると言うことは、まさか」

 

「流石にボケ老人だけではちょっとばかり心配なのでね。 では、総力戦と行きましょうか」

 

周囲にざわりと、多数の悪魔が出現する。

 

ルー・ガルー数体だけじゃない。堕天使もいる。これは、まずい。バエルの接近まで、後二分と言うところか。

 

ミヤズが不意に言う。

 

「以前私たちをさらった時に、途中で姿を見せた方ですね」

 

「おやマドモワゼル。 私を覚えていらっしゃいましたか」

 

「悪魔らしい荒々しさでしたけれど、それでも必要なことだけをしている仕事人だと感じましたから」

 

「ふっ、褒めていただき光栄です。 それで、私を褒めてどうするつもりです? 私も四文字の神へは憎悪を蓄えている身。 人間だった頃、言いがかりから狼男と決めつけられ、拷問に掛けられた時。 異端審問官どもの苦痛と悲鳴を楽しむ有様は、今も鮮明に覚えています。 そして私は死に、本物の狼男になりました。 それまでは神を信じてはいたのですがね。 その瞬間に全て愛想が尽きましたよ。 要するにあんな事をやらかしておいて、未だに世界にハエのように蔓延っている一神教など滅ぼすしかないという意見では、主と同じでありますのでね」

 

もう少しだ。

 

悪魔達も、リーダーであるらしいルー・ガルーの言葉は遮らない。

 

煌も、ミヤズがこういう話術に長けているのは知っている。だから、好きにさせる。こちらからは仕掛けない。

 

「貴方の主人はあのエイシェトという方ではないですね。 だとすると、品川駅の戦いで途中から姿を見せた、アグラトという方ですか」

 

「ふっ、それで」

 

「貴方が来ていると言うことは、つまり浄増寺で悪い事をしているのも、そのアグラトという方ですね」

 

「鋭いですな。 前に見た時は本当にはかないマドモワゼルだったのに、悪魔使いになってから逞しくなって頭もよくなられたようだ。 私も見かけだけしか取り柄がない頭空っぽのマドモワゼルよりは、貴方のように聡明な方の方が好みですよ。 ただ、此処では残念ながら、倒さなければなりませんが……」

 

はい時間切れ。

 

場に突っ込んできた象のような巨体を、瞬時に出現した霜の巨人が受け止める。バエルである。

 

何を言われたのか、顔を真っ赤にしたバエルが、口から唾を飛ばして罵った。

 

「あの狸女はどこへ行ったあ! 食い殺してくれる!」

 

「ちっ。 少しばかり野暮な話が過ぎましたね……」

 

跳び下がったルー・ガルーに、森可成が歩み寄る。

 

馬鹿息子のリベンジと言う訳だ。いや、尻拭いか。

 

皆、悪魔を全力で展開。

 

想定より遙かに多数の悪魔に囲まれているが、皆以前とは戦力が違っている。

 

その場で、乱戦が開始されていた。

 

 

 

煌は即座にバエルに斬りかかる。バエルは凄まじいパワーで霜の巨人を振り払うと、何か分からない魔法を展開。

 

まずいな。

 

一旦突貫を停止。

 

無理矢理空中で機動しつつ、雷撃を放つが。

 

それが即座に跳ね返されていた。

 

ヨーコが投擲した札も、全部途中で防がれる。三つある頭で、バエルがげらげらと笑う。

 

「あの狸女だったらともかく、ひよっこ程度でこの儂に勝てると思うか! 全部まとめて昼飯にしてくれるわ!」

 

良い感じに頭に血が上っている。

 

この様子だと、こっちから近づくのは自殺行為だな。

 

走って背後に回り込みつつ、雷撃を連続して浴びせる。その全てをバエルがはじき返してくる。

 

吉祥天を展開。

 

光の一撃を広範囲に降らせるが、それもはじき返すバエル。

 

魔法と呼ぶものは、あらかたはじくのか、これは。

 

突貫した霜の巨人だが、跳ね返される。

 

ただ、見た。

 

跳ね返す瞬間、魔法を発動している。

 

なるほど、魔法を跳ね返す魔法。

 

通常攻撃を跳ね返す魔法。

 

どっちかにそれぞれ切り替えている、というわけだ。だとすると、これは少しばかり厄介だ。

 

それに三つある頭を使って、魔法を高速詠唱している。

 

しかも体高が低い蜘蛛の体で動いている。転ばせたりするのも、極めて難易度が高いだろう。

 

眷属達に思念を送る。

 

作戦は簡単。

 

煌が突貫。同時に、霜の巨人もである。

 

それを見て、バエルはバカがあと叫びながら、反射魔法を発動。だが、接触の瞬間。真横から、バエルを襲ったのは鉄砲水だった。

 

マーメイドによる奇襲である。

 

それで押されるバアルは、至近で飛び退いた煌と霜の巨人を見て、魔法反射に切り替える。

 

マーメイドの強烈な濁流が、嘘のようにはじき返されるが。

 

その瞬間、バエルの猫の頭に、那須与一の放った一撃が突き刺さっていた。

 

「ニャアアアアッ!」

 

「き、貴様、こざかしい真似をっ!」

 

振り返りつつ、違う魔法を即時展開してくるバエル。

 

猫の頭は半分吹っ飛び、ぐったりしているが。まだ老人の頭とカエルの頭が残っている。

 

展開されたのは、強烈な呪いの魔法。

 

だが、その瞬間。

 

吉祥天が、それを全力で相殺。

 

しかし、わずかに押し負ける。

 

凄まじい呪いが、盾になった霜の巨人の全身を包んで、溶かしてしまった。

 

その瞬間、影から躍り出る煌が、何かに吹っ飛ばされて地面にたたきつけられる。

 

質量弾。

 

そうか、蜘蛛は粘液を空気に触れて糸にする。糸にせず、粘液のまま飛ばせば、質量弾に出来るわけだ。

 

ふっとんだ煌は、立て続けに黒い雷撃の魔法を浴びて、ガードするが。力が抜けていく。更にバエルが次の魔法を展開しようとした瞬間。

 

その背中に降り立ったジャターユが、鋭いかぎ爪で、カエルの頭を根元からむしっていた。

 

悲痛な絶叫が響き渡り、頭一つだけになったバエルが、その魔法をジャターユにたたき込む。

 

ジャターユを一旦戻すと。

 

その間に体勢を立て直した煌は、突貫。

 

質量弾を放ってくるバエルだが、一度食らったらもう食らわない。全て中途で雷撃でたたき落とす。

 

飛び退こうとするバエルだが。

 

背後に何かがいてとまる。

 

塗り壁である。流石に壁をどうにかする魔法はないらしく、バエルは困惑しながら、一瞬だけどうしようという顔をしたが。

 

その頭上から、大量の水が降り注ぐ。

 

水を跳ね返しながら、とにかく方向転換して、逃れようとした瞬間。

 

「わっ!」

 

「な、なんじゃ! 儂に悪戯だとっ!?」

 

完璧なタイミングで、わーがバエルの動きを一瞬止めた。老人の頭を、真横から那須与一の矢が貫いたのはその時。

 

だが、まだバエルの力は消えていない。

 

三つの頭を吹き飛ばして、巨大な蜘蛛の頭が姿を見せる。あれは魔法を放つための外付けの装置。

 

つまり本体は蜘蛛というわけだ。

 

ばっと、辺りに蜘蛛糸を広げてくる。

 

逃げろ。煌は叫んで、即座に距離を取るが。蜘蛛糸は文字通り、地面すら切り裂きながら潜っていく。

 

巻き込まれた数体の眷属や、皆の仲魔が消し飛んだ。それどころか、バエルを援護していた筈の悪魔達さえ。

 

「ご老体!」

 

「黙れ黙れ黙れっ! 大悪魔たるこの儂をここまでこけにしておいて、無事で済ませてなるものか!」

 

森可成と激戦を繰り広げていたルー・ガルーが叫ぶが。

 

完全に頭に血が上ったバエルは、叱責を聞かず、また広範囲攻撃に出ようとする。

 

その時。

 

バエルの全身に、ヨーコの放った札が張り付き。爆破。

 

更には、タオが打ち込んだ光の力が、今度こそ全身を蹂躙していた。

 

バエルが、全身を焼かれる。

 

タランチュラの愛好家の中には、タランチュラが全身に持っている毒の毛を焼いて処理し、食べる物好きがいるらしいが。

 

タランチュラが焼かれている光景のようだと、煌は思った。

 

もがき、それでも暴れ狂うバエルだが。

 

其処に更に吉祥天がとどめの一撃をたたき込む。さっきは押し切られたが、今度はタオの光の力と相乗効果となり、バエルの全身を灼き溶かしていく。

 

とどめだ。

 

煌は練り上げた力を。手の先に集中させる。

 

アオガミが力が上がってきた煌に授けてくれた大技、試す。

 

地面を蹴り、加速加速加速。

 

ミヤズが展開してくれた速度強化の支援魔法に乗り、更に加速。

 

苦しみながらも、光の力を吹き飛ばすバエル。その周囲を回りつつ、数百の連撃をたたき込む。

 

「ぎゃあああああああっ!」

 

絶叫するバエル。

 

回転が速すぎて、竜巻さえ生じる。

 

バエルはそれでも必死に態勢を整えようとしている。こちらも吉祥天を限界だから下げた。

 

竜巻に対して、空に手刀を向ける。

 

光が集まり、それは巨大な剣となり。バエルに振り下ろされていた。

 

荒神螺旋斬。

 

それが、麁正の進化型である、この技だ。

 

最後の一刀が文字通りの決定打になる。全身を刻まれた上に、唐竹にされたバエルが消し飛ぶ。

 

舌打ちするルー・ガルーが撤退を指示。しかし、ツバメさんの結界があるはずだが。

 

結界の中に、不意に空間の穴が生じる。

 

そこから姿を見せたのは、以前少しだけ交戦した、アグラトだった。

 

「まったく、バエルのご老体の判断力の低下よ。 同志に加わってくれたとはいえ、無理をするからこうなるのです。 貴方たち、引きなさい。 バエルと同じ運命などたどってはなりません」

 

「申し訳ございません、主君」

 

「良いのですよ。 それにしても困りましたね。 まあ時間を稼げたから、可としましょうか」

 

統率がとれた動きで、ルー・ガルー達が空間の穴に逃げ込んでいく。半減していた。半分は逃がしたが、これは明確な勝利だ。

 

アグラトは、ふっと笑うと、それで消えていく。

 

追う余裕はない。

 

あの圧倒的な攻撃魔法の連撃、今でも覚えている。戦うには少しばかりリスクが大きい相手だ。

 

アグラトが消えると、嫌な気配もなくなる。

 

ミヤズが、即座にトリアージを叫んでいた。

 

 

 

結界を解除したツバメは、ちっと舌打ちしていた。結界は完璧だった。結界の中に別位相への穴を作るとは。

 

高度な座標調整。

 

あのアグラトという女悪魔、ユダヤ神秘主義で悪魔の女王と呼ばれているだけの近年創作された悪魔だが。

 

その割にはやるものだ。

 

煌らと合流する。煌はかなり消耗していたし、眷属も全滅状態だが、皆に死者はなし。

 

ただイチロウがかなり手ひどく傷ついている。今、タオが回復しているようだ。

 

イチロウは必死にタオとミヤズを仲魔を展開して守り続けた。エースの幻魔森可成と堕天使フォルネウスも自分の側にはいなかった。

 

それで戦線維持に貢献した。

 

もういっぱしのデビルサマナーだ。死なせるわけにはいかない人材である。

 

バエルを倒したことで膨大なマガツヒが漂っている。ツバメにはそれを回収するより先にやることがあった。

 

詠唱しつつ、手持ちにいる悪魔を数体呼び出す。

 

いずれも魔法に知識があるものだ。西洋系東洋系だけではなく、様々な各地の魔法に詳しい仲魔である。

 

アドバイザーとして仲魔を連れているのは、昔からの習慣だ。

 

ほとんどの仲魔は武器として活用してしまう。

 

その代わり、身は自分で守らなければならない。

 

それもあって、初見殺しの魔法などは必ず回避しなければならない。だから、アドバイザーは周囲に置くようにしていた。

 

頭が本当に良い人間はブレイン等必要としないという話があるが、そんな人間は一握りも一握り。

 

越水長官くらいになると話は分からないでもないが、あれが本当に人間なのかツバメは疑っている。

 

周囲のアドバイスを聞きながら術式構築。印を切る。

 

おまえは落ちこぼれだ。

 

分家にいる時、ずっとツバメは周囲からそう言われ続けた。どれだけ悪魔を倒して実績を上げても、あれやこれやと減点された。人格も実績も全て否定された。

 

本家にいる八咫烏のサマナーとの模擬戦でも負けたことがなかったが、いつも判定で負けたことにされた。

 

容姿に始まりあらゆる所作を馬鹿にされ続けた。ブスという言葉は本家の人間がツバメに投げかける二人称となっていた。だから必死にあらゆる戦闘技術を磨き悪魔知識を身につけた。自分の容姿が優れていない事などツバメは知っていたが、それでも頭には来た。だが、努力はどれもこれも全否定された。血筋がどうの家柄がどうの。それらはなんの実績も上げていないデビルサマナーが、ツバメ以上の評価を受けるに充分な理由であったらしい。実の両親ですら、ツバメを家の恥だと罵った。

 

恐らくだが。

 

東京受胎が起きなければ、ツバメは一生飼い殺しだっただろう。

 

それくらい、東京受胎で消し飛んだ頃の八咫烏は腐敗していたのだ。

 

ツバメ自身、自信を持てたのはファントムソサエティの残党として必死に再起を図っていたアザゼルとファントムソサエティのデビルサマナー、通称ダークサマナーの生き残りを単騎で全て倒した時だ。

 

それ以降、蓄積が無駄ではなかったことを悟り。

 

今では自信を持って術を扱える。

 

相手に上を行かれることもある。ついさっきのように。

 

だが、それは必ず解析して、次は同じ手は食わない。まだ引退できない以上、常に心がけている事だった。

 

術式完成。

 

複数の使い魔と一緒に、使われていた魔法を解析する。

 

アグラトの方はかなり高度な魔法だ。短時間だけなら、東京と位相が異なる現実の東京、つまり魔界を接続できる。

 

そしてバアルの方は。

 

なるほど、理解できた。バアルの魔法は、一種の避雷針だ。

 

浄増寺に力を集めているピラーと呼ばれる魔法の触媒を隠すように常に魔法を使っていた。

 

それと恐らく、占い師……この様子だとアグラトの可能性が高い……の居場所を隠蔽する役割も担っているのだろう。

 

これが分かれば、後は簡単だ。

 

「皆、聞いてほしいっす」

 

「回復がもう少しかかります。 それまで待ってください」

 

「おっけい……」

 

誘引作戦をそのまま実施したツバメに、言いたいことがミヤズはいくつもあるようだ。実際問題、想定を遙かに超える数の悪魔と交戦したのだ。勝てるとみたから、結界の維持に注力したが。その結果、アグラトに上を行かれたという事もある。ツバメにとっても反省が多い戦いだった。

 

ともかく、これで東京をむしばむマガツヒ略奪システムの中枢に肉薄できる。問題を一つ解決できれば。

 

更に先に進むことが出来る。

 

問題はまだまだ山積しているが。一つずつ解決していかなければ、どうにもならない。それが現実だ。







バエルをついに撃破。しかしアグラトの横やりで、完全勝利を逃すことに。

このくらいのレベルの悪魔になってくると、ツバメさんの上を行く奴が出てきます。

現状人類最強のサマナーに一番近い人ですが。それでもこの時代の最強に過ぎない、ということですね……


  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。