真女神転生VV二次創作 牛蛇相克   作:dwwyakata@2024

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4、反転の者

和装の小さな悪魔が、壁際に追い詰められている。ピクシーがひょいと出現すると、知らない子だと言った。

 

「大きさはあたしと同じくらいだけど、見たこともないし、誰だろ」

 

「……」

 

壁際に追い詰めているのは、ガキだ。正確には餓鬼。何度も襲ってきたのを倒して、情報を取り込んだから、神話的背景についても詳しくなっている。

 

餓鬼とは生前貪欲の限りを尽くした結果、餓鬼道と言われる世界に落とされた者達。たまに地上に這い出してきては、恐ろしい悪さをする。魔界では多数がいるようだが、本来は雑魚ではなく、それなりに危険な存在であるらしい。人を襲って食う伝承もあるようだ。

 

餓鬼達は相当に腹が減っているようで、追い詰めた相手にがなり立てていた。

 

「オレ達ずっと飯食ってねえんだ! もうこうなったら、なんでもいい!」

 

「元々餓鬼道で、ずっと極限の飢えに苦しめられてたんだ! どうして餓鬼道がパンクして、地上に必死に逃げてきても、こんな目に遭うんだよ!」

 

「し、知らないよ! それにあたいなんかたべても美味しくないよ!」

 

「そんなもん食ってみなけりゃわかんねえだろ! もう倒れそうなんだ! 全部食いちぎって……」

 

ぽんと餓鬼の頭に手をやる。

 

ああと怒鳴りながら振り返った餓鬼達は、それで黙り込む。

 

じっと煌が見つめたからだ。

 

それだけで、今まで煌が見つめた破落戸や不良と同じように。黙り込んで、それどころか後ずさっていた。

 

力を見せつけたわけじゃない。

 

どうしてだろう。

 

じっと見つめると、ほとんどの奴はこうして下がる。

 

追い詰められていた和装の小さな悪魔との間に入ると、静かに聞く。

 

「あまりいいものではないが、これでも食べるといいだろう」

 

「な、なんだなんだ……?」

 

「缶詰だ。 開け方は知っているか」

 

「し、知ってる! く、くれるのか! ありがてえ!」

 

消費期限をだいぶオーバーしているが、それでもどうにか食べられるはずだ。

 

缶詰を見ると、近年見られる海外製ではなくて日本製のものだった。

 

海外産の缶詰だと、どうしても製造過程が甘かったりして、内部の品がもたないケースがある。

 

だが日本産のものは今でも品質が極めて高く、プルタッブなども品質が高い。

 

こういうものは、実際に開けてみると差が分かる。

 

缶切りが必要だった時代から、これはあまり変わっていない。

 

また、元々缶詰はそもそも長期間の保存を前提としている。今譲ったのはシロップ缶だ。

 

流石に品質は劣化しているはずだが、食べることは可能なはず。

 

腐る事がそもそもないからである。

 

勿論それには限度があるが、他の品などの傷み方などを見てきている。その状態から加味して、恐らく食べられる。特に悪魔であれば……と煌は判断していた。

 

餓鬼達は、与えた缶詰を開けると、がつがつとむさぼる。

 

うめえうめえと、泣きながら言っていた。

 

口を巨大に開けながら、それでガツガツ食っていて。そして。

 

涙を流しながら、消滅していく。

 

「旦那、どこの神様だかしらねえが、ありがとよ。 こんなうまいもの食ったの、餓鬼道におちてから一度もなかった。 桃、真っ黒だったけどよ! それでもちゃんと甘かった!」

 

「仲間の死肉とか腐ったものとか、考えたくもないものとか、そんなのばっかり食わされてたんだ。 これで満足だ」

 

「オレ達の情報もやる! もしも必要なら、眷属として使ってくれ! ありがとう!」

 

餓鬼達が消えた。満足して、いわゆる成仏をしたのだろう。餓鬼道の存在が、どうやったら次の輪廻に行けるかはよく分からないが。ともかく、餓鬼道がパンクしたというのが今の消滅に関与したのかも知れない。

 

目を閉じて、黙祷する。

 

悪事をして餓鬼になったとしても過酷だったのだろう。情報を得ればそれが分かる。だから、罰は充分に受けたし、来世ではましになってほしいと位は煌も考える事が出来た。

 

さて、和装の悪魔だが。アオガミが警告してくる。

 

「煌、油断はするな。 悪魔は狡猾極まりなく、助けた程度で感謝しない場合も多い。 出来れば無視して行くのが良いだろう」

 

「分かっています。 急いでいる状況ですし」

 

「ね、ねえねえ! あんたどこの神様? すごいね! 今の遺物、手から出現させてたよね!」

 

「取得したものを再具現化しただけだ。 僕は自分が何者なのかよく分かっていない」

 

へえと、感心して何度も和装の悪魔は頷いていた。

 

それでしばらく自分の小さな体を探っていたが、ちぇっとぼやく。

 

「あたいはアマノザコ。 助けてくれたお礼になんかあげようかと思ったんだけど、何も持ってないや」

 

アマノザコ。聞いたことがない。アオガミも知らないと言っていた。

 

そこでツバメさんが、横から教えてくれる。

 

「由来がしっかりした書物には登場しない神ッスね。 江戸時代に書かれた創作本に出てくる神格で、素戔嗚尊が作り出したとか、天狗とかの祖先だとされているとか、強力な力を持っていて、大岩を遠くまで投げ飛ばすとか。 それに天邪鬼の始祖だとか。 嘘ばかりをつくとか。 色々逸話があるっすけど、どこまで背伸びしても後の時代に神話の裏付けもなく書かれた創作に出てくる創作神ッスわ」

 

「わ、詳しいね! 何のことだかさっぱり分からないけど! とにかく、何か見つけたらお礼はするよ! じゃね!」

 

和装の悪魔は、そういえば小さな鳥みたいな翼を持っていて。帽子がない以外は山伏に近い格好をしていた。髪型も日本古来の結い方に近く、小さな下駄も履いていた。

 

「詳しいですねツバメさん」

 

「これでもライターッスからね。 最近は裏取りもしっかりした取材もしないで自分の妄想で記事を書く輩が横行しているのがこの業界ッスけどねえ。 あたしはこれでもそういう連中とは同じにならない、気骨ある記者になりたいッスわ」

 

「志が立派なのは良いことだと思いますよ。 そろそろ行きますが、大丈夫ですか」

 

「特に問題ないッス。 ライターとして散々足腰も体力も鍛えてるんで。 靴の消耗が激しいから、ヒールなんて履けないッスけど。 もっとも履いても似合わないッスけどね!」

 

そういう問題か。

 

今まで三度奇襲を受けたが、そのたびにこの人、的確極まりなく物陰に隠れて、戦闘の余波を避けていた。

 

悪魔も何度かこの人を狙ったが、逃げ回るフリをして、しっかり煌の間合いにまで悪魔を誘導していた。

 

だいたい翼があったり人間より明らかに格上の身体能力を持っている悪魔から、的確に逃げ回れる時点でおかしい。

 

だから、今では「フリ」だと確信している。

 

アオガミも、既にツバメさんが嘘をついている確率を100%と断言していた。

 

しかもだ。

 

ツバメさんは、明らかに嘘だと分かるようにしている節すらある。

 

何か試しているとしか思えない。

 

だけれども、人間である確率も100%だと、アオガミが言っていた。

 

だとしたら、助けるのは最低条件だ。

 

もしも裏切った場合は、相応の制裁なりを加えれば良い。

 

ただその場合も、捕まえて警察にでも突き出す……魔界をどうにか脱出なりしてから、だが。

 

そういう方法をとりたかったが。

 

まだ考えが甘いかも知れない。

 

魔界の外なんかなくて、全て滅んでしまっているのかも知れない。

 

その覚悟もしておけと、アオガミは言う。

 

分かっていると、答えてもいる。

 

ともかく今は、ミマンが見つけたという人間を探す。

 

特徴も聞いている。

 

一人は恐らくはユヅルだ。

 

それはとても喜ばしい。

 

もう一人は、白い学生服を着た、とにかく険しい雰囲気の女性であるらしい。

 

だとすると、洞窟で崩落に巻き込まれたもう一人の安否が心配だ。

 

いずれにしても。

 

助けられる人間は、一人でも助けなければならなかった。

 

こんな世界で何を言っていると甘いことを言う者もいるかもしれない。

 

だが煌は、こんな世界だからこそと思うのだった。

 

 

 

(続)







※アマノザコ

江戸時代に書かれた書物に登場する創作悪魔です。天狗の始祖なんて話がありますが、そもそも天狗というのは中華の妖怪で、日本のものとはまったく性質が違います。本来は彗星の権化であり、文字通り「空駆ける犬」だったわけですね。

それが日本に入ってきてからしばらくして、いつの間にか鼻高のあの皆が知る姿や、カラス天狗へと変貌を遂げていました。この経緯はよく分かっていません。

つまり本来の天狗と、日本における天狗はまったくの別物ということです。

アマノザコは繰り返しますが、江戸時代に作られた創作神格であり、かなり最近の存在です。

メガテンではデザインの際にピクシーの和装版、みたいなキャラクターを目指したらしいですが、言動もあってなんだか評判はあまりよくなかったらしいですね。個人的には好きですし、一部の人たちはスキルを悪用してソリティアみたいな事をするのに利用しているようですが。

……本作のアマノザコは、意図的に原作よりもだいぶ主人公への態度や言動を柔らかくしています。





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