真女神転生VV二次創作 牛蛇相克 作:dwwyakata@2024
準備は整いました。
浄増寺に蓄えられたマガツヒを、どうにかする時間です。
ピラーと呼ばれる柱は、東京の中に佇立していて、しかし巧妙に隠されてもいた。物理的に見えないようになっていたのだ。
ただし、バエルが倒れた今は違う。
各地で通報もあったらしい。
気味が悪い樹みたいなのが生えている、と。
それらを片っ端から破壊して回る。
ピラーにも自衛能力があるが、それは幸い最低限だ。
破壊するのは難しくない。
むしろ護衛のために雑多な悪魔が周囲に配置されていて。それが人間を害する可能性もあったし。
この作戦を指揮しているのがほぼ間違いなくアグラトが裏にいて。
ということは、あのルー・ガルーと麾下の悪魔達もいつでも仕掛けてきてもおかしくない。
それもあって、手を分けるのも難しかった。
ツバメさんがイチロウとミヤズを連れて行き。煌はヨーコとユヅルとともにピラーを破壊して回る。
タオには大国主命と連携して、東京の瓦解を少しでも遅らせるための力の供給という重要な役割があるらしく。
それもあって、しばらくは身動きがとれない。
東京都民一千万の命が懸かっているのだ。
仕方がないことではあった。
ピラーを見つける。
これで七本目だ。
見た目は樹というよりも、赤黒く脈打つ肉の柱だ。大きさは八メートルほど。幸い地下深くに潜り込んでいるようなこともなく、マガツカの極小版とでもいうような存在に過ぎない。
既に発見されているものも含めて、合計で三十本以上存在し、更に実数は多いという事である。
そしてこれらを破壊することで。
浄増寺からマガツヒを吸い上げる魔法的な仕組みを、ようやく停止させることが出来る。
ピラーを守っていた悪魔を、ユヅルの手持ちが掃討。
周囲は自衛隊が人払いしてくれている。
最近ガス爆発が多いというような声が聞こえて。
煌は苦笑せざるをえなかった。
基本的になんでもガス爆発で無理矢理通しているようだ。
雑魚を掃討した後、煌が酒呑童子を呼び出す。金棒を担いだ酒呑童子は、ピラーをフルスイングで一撃。
粉々に粉砕していた。
「へっ、もろいな」
「よし、下がってくれ。 浄化する」
「おう。 気持ちいい喧嘩もさせてくれよな」
分かっている。
呼び出したのはマーメイドだ。
浄化の力をかなり鍛えているようで、試したいという。
局所的な雨を降らせて。その水に浄化の力を込める。汚れていた近くが浄化されていく。
まだタオや吉祥天が使うような面制圧の浄化に比べると著しく非力だが。
それでも充分役に立てている。
浄化完了。
次だ。
すぐに合一を解除して、自衛隊の車両で向かう。
ユヅルは助手席に。煌とヨーコは後ろの席で移動。ジープだと目立ちすぎるので、自衛隊が有している一般車両での移動である。運転しているのは私服の自衛官だが。ちなみにアオガミは運転が出来る上に、運転免許も持っているので、軽自動車で後から着いてきている。スーツを着た男性にしかみえないので、何の問題もない。いざという時は、距離的に即時で合一も出来る。
移動中、自衛官が話しかけてくる。
「また面倒なのを処理しているようですね。 まだ今日は働くんですか」
「恐らく今日で終わりです。 明日が本番ですね」
「そうですか。 時々出現する悪魔が強くなる一方で、足止めしかできないのがとても歯がゆい。 頼みますよ」
まだ年若い自衛官であり、故に運転手を任せられているのだろう。
現地まで十五分ほど。
現地に到着。ちょっとした森だ。その中に、ピラーが生えている。この辺りはいわゆる神域で、その力を乗っ取る形でピラーが居座った訳だ。しかも日本の神々は、18年前に消し飛ばされてしまったから、簡単に。
ヨーコが出ると、札を投擲。
いつもより更に爆発のキレが凄まじい。
一瞬でピラーが粉々に消し飛んだので、悪魔を出すまでもなかった。
守ろうとして動いた悪魔が、いきなり木っ端微塵になったピラーを見て呆然とし。煌が見ると、慌てて両手を挙げた。
「こ、殺さないで! 此処を守れって言われただけなんだ!」
「僕が手持ちにしておくよ」
「分かった。 警戒は怠るなよ」
「ああ」
ユヅルが契約を開始して、悪魔を手持ちに加えておく。
そして、またマーメイドに浄化して貰う。
大国主命と相談して、現在東京の各地にある神社に、暫定的に国津神に入って貰っている。
これで例の東京を延命させる儀式を、更に強化しているそうだ。
この近くの神社には、後でオオヤマツミが入るそうで。
今地鎮祭の準備をしているとか。
少しマーメイドが疲れたようだったので、魔石を割っておく。東京にも何カ所か龍穴はあるが、そこまでぽんと飛ぶわけにもいかないのだ。
次。今のが一瞬で済んだから、前倒しでやれる。
移動しながら、越水長官に連絡。
進捗を細かく報告すると、越水長官は褒めてくれる。
同時にスマホにも情報が送られてくるが。このスマホは、元々の煌のものではない。軍用の極めて頑丈な奴だ。
前の奴には読書用のアプリを入れていたのだが。それは今はほとんど持つだけになっている。
一方でヨーコは、これまた飾りっ気が皆無のスマホを使っていて。
移動中に、ニュースなどを見ているようだった。
SNSでの情報収集で、だが。
「しかし熱心ですね。 少し休憩してサボっても良いのでは」
「移動中に休めているので大丈夫ですよ」
「悪魔と戦ってもいるんでしょう」
「今の時点ではたいした相手ではないですし、消耗も皆無に等しいです。 魔界での戦闘に比べたら、ままごと遊びに等しい」
ユヅルの返答を聞いて、自衛官が引きつったようだった。
まあ、この任務に従事しているのだ。
事情は聞いているのだろう。
次。今度はビル街の裏路地だ。この辺りでいわゆる反社の連中、つまり輩が何かに襲われて、錯乱して逃げ散ったらしい。
まあそれもそうだろうな。
自衛官には車ごと下がって貰う。
今度もピラーがアスファルトを突き破って生えてきた雑草みたいに姿を見せているのだが。
問題はその側にいる悪魔だ。
恐らく日本系だろうが、凄まじい呪いを身に纏っていた。周囲に、大量の雑多な悪魔が湧いてくる。
ユヅルが即座に河童達を展開。煌も那須与一と、他にも何体かの悪魔を出す。
わっと襲いかかってくる雑多な悪魔を、河童が一糸乱れぬファランクスで受け止める。凄まじい激突音。アスファルトにひびが入ったようだった。
那須与一が矢を放つ。
だが、それを悪魔が弾き落とす。
悪魔は女性のように見えるが、真っ黒な呪いで全身を覆っていて、正体がよく分からない。
乱戦の中、煌は天使部隊を召喚。
一斉に光の力で攻撃をさせる。だが、それでもまだ押し切れない。
ただ、相手の正体は分かった。
腕が四本、蛇のような体を持った巨大な悪魔。
近年創作された都市伝説怪異。
カンカンダラだ。
ターボばあちゃんが相応の実力者だったことからも分かるように、都市伝説怪異は侮れない力を持っている。
アグラトは明らかにピラーに配置する悪魔の実力にムラを持たせているが、雑魚を倒して気が良くなっているところに、こういうのを出して一気に殺しに懸かってくるというわけだ。
ナアマやエイシェトとは違うな。
そう思いながら、酒呑童子が右左に敵をなぎ倒すのを横目に、突貫。
カンカンダラが凄まじい呪いを放ち、天使が数体消し飛ばされる。
ヨーコが同時に呪いの札を投擲して、それで相手の呪いを相殺。
衝撃波が、ビルの窓を割った。
ガス爆発でまた片付けるのだろうな。
そう思いながら、ビル壁をジグザグに蹴って接近。
カンカンダラは蛇の体を上手に使ってぬるりぬるりと動きながら、また強烈な呪いを放ってくる。
だが、その時には態勢を整えた天使達が、一斉に光の力を投擲。
それだけじゃない。
カンカンダラの後ろに回ったのは、天秤と剣を手に持ち、威厳あるローブを纏った姿。
ドミニオンだ。
煌の眷属の天使達のリーダー格が、ついにドミニオンに転化したのである。
ドミニオンの剣が、真後ろからカンカンダラを貫き。剣先がカンカンダラの胸から飛び出す。
蛇体をひねって暴れ狂うカンカンダラだが、今度は顔面に那須与一の矢が突き刺さって、ザクロのように肉を弾き飛ばした。
顔を覆うカンカンダラを、手刀で頭から腹の辺りまで、一気に切り下げる。
悲鳴を上げて、カンカンダラが消えていく。
都市伝説の怪異だ。
よりどころなど何一つない。
ただ、人々の想像が作り出しただけのもの。
神話的な裏付けなど皆無の存在であり、故にマガツヒとなって消えていく姿は。今までの暴れぶりが嘘のように儚かった。
雑多な悪魔達が逃げ出す。
だが逃がさず、河童達が追いついて組み伏せ。抵抗するようならその場で首をねじ切ってしまう。
百人力は伊達ではないと言うことか。
そして、酒呑童子が今度は真上から、杭でも打つようにピラーを粉砕していた。
今度は少し時間が押したか。
だが、被害は辺りのアスファルトが砕けたり、窓ガラスが割れたり、そのくらいだ。既に人払いも済んでいたので、後は損害をある程度補填すれば終わり。ついでにこの辺りに群れていた反社も、今取り調べているそうだ。越水長官の時代になってから警察の腐敗も改善が進み、既に反社がやりたい放題できた時代は終わっている。
厳罰を食らって、しばらくは冷や飯だろう。
それが、普通なのだ。
消耗が少しあるので、一旦は回復に努める。
マーメイドも疲れ始めているので、吉祥天に変わって貰う。吉祥天だと一瞬だ。更に言うと、煌も吉祥天を出すのにそれほど負担を感じなくなっている。
そろそろ、また強大な悪魔を呼び出せるかも知れない。
その時には、色々と考えてから作り出したいものだ。
飲むゼリーをユヅルが口にしている。煌は蓄えていた魔石をいくつか割る。ヨーコは黙々と、栄養補助のブロック食を食べていた。最近はだいぶマシになってきているらしいのだが。
味とかどうでもいいという雰囲気である。
これは他の女子とは話が難しいだろうな。
まあ、それは煌も同類なので、あまり他人事ではなかったが。
「どうする、少し時間は押すが、一旦龍穴に寄るか」
「そうだな、僕はそうしたい」
「そう、決まりね。 此処からだと縄印の寮が近いかしら」
判断は皆速い。
遠回りになるが、寮に向かう。
越水長官には、ある程度の現場での裁量を任せて貰ってあるので問題はない。移動しながら、報告もきちんとする。
カンカンダラの話をすると、またかと言われた。
「何回かデビルサマナーが交戦した記録が残っている。 都市伝説の怪異としてはかなり厄介なようだ」
「そのうち開けてはいけない祠が都市伝説怪異になるのでしょうか」
「既になっている」
「……」
そうか。
アティルト界は色々と流行に敏感であるらしい。
まあそれはいい。ともかく縄印の寮に戻ると、アマラ輪転炉を用いて、ギュスターヴのところに。
ミマンがわんさかいる。
なんでもツバメさんが見つけ次第送り返して来るとかで、既に140体を越えているそうだ。
従えているミマンは200らしいので、既に過半と言うところか。
煌も、以前越水長官が用意してくれたジャンク品を渡しておく。それでギュスターヴは更に上客だと煌を認識してくれるし。回復を割り引きもしてくれるので、やすいものだ。
ただ、いくつか話をされる。
「俺から見ておまえは滅茶苦茶面白い。 ただ、俺と他の連中が同じには思っていないことを忘れるなよ」
「天使達の事だろうか」
「それもあるがな。 既に創世の話は聞いたんだろ。 人間の普遍的無意識であるアティルト界に大変革をもたらす創世は、あらゆる神魔にとっては他人事じゃねえ。 インドみたいに独自の文化圏を構築している場所だと影響はそこまで大きくなかったりするんだがな。 要は後ろにも目をつけておけ、ってことだ」
「分かりました。 肝に銘じておきます」
後は回復用の道具類を補給しておく。
魔石だけではなく、宝玉なども譲って貰った。
本来は名前の通り宝石のことだが、見た感じ更に高密度の魔石のようだ。これ一個で、瀕死の状態の人間を全快近くまで持って行けるらしく(ただし体力のみ)、悪魔には相当な高値で取引されているとか。
切り札として確保しておくのも良いだろう。
回復も済ませて、皆のところに戻る。
まだ14時か。
前倒しにしていた分は全て吹っ飛んでしまったが、回復している間にユヅルがスケジュールを組み直してくれた。
今日の19時くらいには、ピラーほとんどを無力化できる。
それが終わったら。
浄増寺に恐らくはいるだろうアグラトを片付ける時だ。
最後のピラーを砕いた時には、20時を少し回っていた。何カ所かに強力な悪魔がいたのである。
流石にユヅルも疲れがたまっているようである。
ヨーコは逆に平然としている。
連絡が来る。
「私だ。 ライドウ達も任務を今終えたそうだ。 明日、朝一で浄増寺に仕掛けて貰いたい」
「分かりました。 寮に戻って休みます」
「君だけで浄増寺に仕掛けて貰うつもりだったが、イチロウ君とミヤズくんにもう少し経験を積んで貰いたくてな。 二人にも同行して貰いたいが、大丈夫だろうか」
「相手はアグラトです。 恐らくは直衛にルー・ガルー他の悪魔が出てきますが、もう一人くらいは必要なのでは」
問題ないと言われた。
やれやれ、これは負荷を掛けて成長速度を上げるつもりだな。
それくらいしないと状況が追いつかないと言うことか。
戻りながら、連絡を更に受ける。
今大国主命と、神田明神と連携を取りながら動いているのだが。
神田明神に到達したスクナヒコナから、あまり良くない情報が入ってきたという。
とんでもない大物を発見したというのだ。
「恐らく君も知っているだろう。 いわゆる第六天魔王だ」
「他化自在天ですか」
「詳しいな」
他化自在天。
仏教においては「天道」は必ずしも他の神話における天国と同一の場所ではない。
其処は楽園であり、あらゆる欲望を自在にかなえられる場所である、とされてはいるのだが。
逆に言うと最大の誘惑がされる場所であり、悟りを開くことを目的とする仏教では最大の魔境ともされる場所である。
第六天というのはそんな天道の一つ。
其処を支配するのが他化自在天だ。
良く仏教におけるマーラと比較されるが、実際にはマーラとシヴァを足したような神格であり。
とにかく仏僧を欲にて誘惑することから、天魔外道とか言われて忌み嫌われている。
とはいっても、「あらゆる欲望が望むままに幾らでもかなう世界」というのが第六天なので、それを聞いてその方が良いと思う人間は今の時代わんさかいるだろう。
実際そういった事をする創作は、幾らでもあふれかえっているのだから。
第六天魔王他化自在天は、名前の通り「天」。仏教においてはインド神話系の神々が変じた存在で、魔王などと言われてはいるが立派な神の一柱である。
故に、必ずしも邪悪な存在というわけではなく。
悟りを開こうとする仏僧に対して、悟りを開きたいならこの私を超えてみろと立ち塞がってくる存在というのが正しいのだが。
仏教ではいかんせん嫌われすぎて。
今では何かの魔王と勘違いされているし。
それがアティルト界に影響しているとなれば。
マーラに近い姿で登場する可能性も高いだろう。
「新宿近くの魔界に、他化自在天が出現しているのをスクナヒコナが確認している。 面倒な話で、近くに古い時代の天使も出現しているようだ」
「古い時代というと」
「ゾロアスター教だ」
「厄介ですね……」
これもまた面倒な話だ。
ゾロアスター教は、名前の通りゾロアスターという人物が開いた宗教で、善悪二元論を作り出したことで知られている。
これは善悪が常に戦い続けるのが世界の自然な状態だとするもので。魔王アーリマン、アンリマンユともいう存在の名前は知名度が高い。また、天使を最初に生み出した信仰でもある。
一神教に強く影響を与えた信仰だが。
今ではインドの一部で、ごく少数の人間だけが信仰しているようだ。
「この二つの神格が競り合っているようでな。 天津神への道を切り開くのには、この二体をどうにかしないと厳しいようだ」
「分かりました。 何か作戦がないか、考えてみます」
「頼むぞ」
通信が切れる。
ユヅル達とも話はしておく。
話を聞くと、ヨーコが鼻で笑う。
「ゾロアスター教の天使は全て一神教の麾下に加わっている、というわけでもないのね」
「殺戮の天使達が勝手な行動を始めている事から考えても、話はそう単純ではないのだろう」
「いずれにしても勝手に殺し合ったところを、後から両方叩けばいいのではないのかしらね」
「そうだな。 そう単純な状況なら良いのだが」
ユヅルとしても、マーラと聞くと、あまり良い気分はしないようである。
まあそれはそうだろう。
マラの語源となった言葉だ。
ミヤズに見せたい相手だとは思えない。
一方でミヤズは大変しっかりものだし、看護師の勉強の過程で男性の身体構造くらい勉強してしっかり学んでいる事だろうし。
兄がそんなことを言い出したら、白眼視しかねないが。
寮に到着。タオが戻ってきていた。かなり疲れているようだが。光の力をそうとう使ったのだろう。
イチロウとミヤズとも、軽く情報を共有しておく。
明日から、神田明神に出向いての準備に参加すると、タオは言う。なんでもスルトを突破する秘策があるらしい。
ただし簡単ではないということで。
それをやるには、まずは浄増寺の正常化が必須でもあるそうだ。
イチロウとミヤズが浄増寺の方に回る話をするが、イチロウは恐れている様子もない。
後は解散する。
かなり夜も遅くなった。
無言で休むことにする。
アグラトが相手だ。何が起きても、おかしくはない。
早朝から、浄増寺に。イチロウとミヤズと一緒に、自衛隊に車で送って貰う。ミヤズはいくつか分かったことを道中で話してくれた。
なんでも占い師と接触した人々を分析したところ、実際にとてもよく当たる占いを受けたと言うよりも。
非常に「占いの満足感」が高かったらしいのだ。
それについて、話をしてくれる。
「実際にいい占い師とされている人は、占いそのものよりも人間観察が上手な場合が多いんです。 相手の話を聞いて、それで具体的にどうすれば良いのか、相手を誘導していく。 占いは最後の一押しに過ぎず、占い師すら占いに依存している事はほとんどないのだとか」
「マジか。 魔法でどうにかしてるんだと思ってた」
「イチロウ先輩の言うように私も思っていました。 ただ、いくつかの話を聞く限り、アグラトと思われる占い師の占いは必ずも的中している訳ではないようなんです。 だとすると……」
「悪魔の得意分野を生かしている、というわけだ」
要するに、話術による籠絡である。
本来悪魔が得意とするのはこれだ。
相手の心理をつかみ、心の弱みにつけいったり、或いは自分を信用させたりする。人間でもこれが得意な者は人たらしとか言われるケースがあるが。
悪魔こそ、このスキルを磨くべきだろう。
洗脳するなんて言語道断。
そういう意味ではラフムは三下だったのである。逆にアグラトは、それが極めて巧妙であり、磨き抜いていると言える。
悪魔としてはラフムより遙かに格上、ということだ。
「出来るだけ相手の言うことに耳を貸さない方が良いだろう。 注意を怠らないようにしてくれ」
「分かった」
「煌先輩は悪魔に好かれることが多いようですが、大丈夫ですか」
「問題ない」
多数の眷属を得て、そういった手口については嫌でも分かるようになっている。これでも煌は正しくあれと自分に言い聞かせているつもりだが。他人にそれは一切期待していない。
正論を嫌がる人間が多いように、人間は不正が大好きだし、隙さえあれば他人を殺したいと思っている輩も大勢いると考えている。
法で禁止されていなければ何をしてもいい。
そう考える輩は多いのだ。
しかも法の抜け穴を突くことをかっこいいなどとする風潮まである。
そういった風潮を煌は軽蔑するし。
そういうことがもてはやされる人間社会を、あまり良くは思っていない。
それでも人命は人命だ。
創世とやらでそれらを改善できるのだとしたら、していきたいものではあるのだが。どうせ影響は限定的だ。
簡単にはいかないだろう。
浄増寺に到着。
既に気配がかなりおかしくなっている。
そして、アグラトは隠れてさえいなかった。
何体か配置されていた仏教系の護法神は既に敗れたようだ。自衛隊は既に人払いを済ませている。
即座にイチロウもミヤズも仲魔を展開。
煌も眷属を展開した。総力戦で行かせて貰う。アグラトは以前エイシェトとの戦いに介入してきた時、凄まじい制圧火力を見せてきた。今度もそれを使ってくる可能性は否定できない。
「思った以上に早かったですね。 もう一日くらいはかかると判断していたのですが」
「それで、そのマガツヒをどうするつもりだ」
「これは少しばかり大事なマガツヒでしてね。 これから行う、ある儀式に必要不可欠ですのよ」
「そのために東京でどれだけ人を……」
殺していないとアグラトは言う。
そういえば。
今回の件、体調を崩している人間は多数出ていた。だが、占い師に会った人間は皆むしろ満足していたし。
行方不明者など出ていない。
「私はお姉様達とは考え方が少し違いましてね。 幻の都であろうと人が住んでいる以上、それはアティルト界の者にとっては大事な場所。 いたずらに傷つけるつもりはありません」
「ではなぜこのような事を」
「この作戦の背後で眷属を展開していたのは事実ですが、そもそも占い師として活動していたのは、人々の間にくさびを打ち込むため。 マガツヒを回収するのには、今で言うSNSのような精神のネットワークが必要でしてね」
随分と喋るな。
箒に横乗りしたまま、アグラトは丁寧に話してくれるが。
これはもう目的を達成したからだな。そう煌は判断した。
事実爆発した場合下手な核爆発よりもまずいと言われていたマガツヒは、明らかに威圧が減っている。
今、魔界に転送しているのだろう。
「というわけで、私は被害者を出さないようにこの作戦を実施、成功させました。 後は残りのマガツヒを回収して帰るだけです。 多少、そのための時間稼ぎをさせていただきましょうか」
次の瞬間。
アグラトの頭上から、凄まじい一撃が降り注いだが。
それを横っ飛びに飛んだ影が、防ぎ止めていた。
アグラトを唐竹にしようとしたのは八雲ショウヘイ。
それを防いだのは、ルー・ガルーだった。
「ほう……」
「もう一人のナホビノ、貴方が此処を監視しているのは知っていました。 接近されると流石に分が悪いのでね。 護衛くらいはつけていますよ」
立て続けに飛んできたのは、恐らくソニックブームだ。
収束した衝撃波は、凄まじい破壊力を誇る。超音速で飛ぶ飛行機の衝撃波は、近くを通った存在全てを木っ端微塵にするほどだ。
だが、その衝撃波を、アグラトはあっさりとめてみせる。
こっちはジョカによるものか。
あのジョカの攻撃をあっさり回避するとは。
しかし。さらなる一手。
既に準備していた那須与一による第三の矢。
そこまでは、アグラトは想定外だったようだ。
うなりを上げて飛来する強弓を見て、アグラトが珍しく慌てた様子で回避する。この様子だと、接近戦は得意ではないな。
ぶわっと闇が広がる。
アグラトの周囲が、一気に視界不良になった。
即座に煌が雷撃をたたき込み、天使達も光の攻撃を打ち込む。ミヤズとイチロウも、手持ちの悪魔達に一斉に仕掛けさせた。
だが、闇の球体からは、高笑いが響くばかりだった。
「第三の矢、流石でした。 連携していたとは思えませんから、即時の判断によるものですね。 ですが、目的は充分達成できました。 多少回収できなかったマガツヒはありますが、よしとしましょう……」
ルー・ガルーも取り込むと、闇はぶつんと音を立てて消える。
この闇、マガツヒを利用して作り出したのか。
ため込んでいて、魔界に回収し損ねた分は最初から回収を諦めていた。むしろ撤退を安全にするために用いた。
厄介だ。
かなりクレバーな思考の持ち主である。
しかもアグラトは、あのジョカによる攻撃を防いで見せた。ナアマやエイシェトとは格が違うのではないか。
ユダヤ神秘主義にて、悪魔の女王とされるだけのことはある。
八雲ショウヘイとジョカとにらみ合うが、一瞬のことだった。
既に魔界への穴も消えている。
八雲ショウヘイは、煌を見ると、面白そうにした。
「短期間で良質な戦闘を多数積んだようだな。 更に強くなっている」
「そうか。 それで貴方は、どうしてここに来た」
「創世のための一手だ。 カディシュトゥのものどもは、どうも他の連中とは違うアプローチをしているようなのでな」
「……それを僕に知られても良いのか」
愚問、と八雲は言うと。
ジョカとともに消えた。
冷や汗をイチロウが拭う。
「ま、前にあったけど、やべえよあいつの気配。 強くなってきたと思ったのに、なんなんだよあれ。 高位の悪魔かよ」
「イチロウ先輩、水分を補給してください」
「お、おお、すまねえ」
ミヤズは冷静だ。
むしろ、冷静すぎるほど、八雲を観察していたようだった。
即座に越水長官に連絡を入れる。
恐らくアグラトは、想定通りのマガツヒを回収できなかった。自分が安全に逃げるために相当量のマガツヒを使った。
それと同時に、アグラトは極めてクレバーかつ狡猾に立ち回った。ジョカの攻撃を防いだところからしても、最大限の警戒を払うべき相手だ、とも報告をする。
しばし聞いていた越水長官は、戻ってくるように指示。
一旦、これから魔界の新宿に潜ってほしい、ということだ。
やることがあるのだという。
「連戦ですか。 厳しい状況ですね」
「それもあるが、スルト攻略のために時間が空く。 その開いた時間を利用して、やるべき事をやっておこうと判断してね」
なるほど。
煌も現状、スルトとやりあって勝てる気はしない。仮に何かの秘策があるのであれば、準備をしていて貰いたいところだ。
それに、今八雲が言ったことについても伝えた。それも越水長官は分析に掛ける筈だ。何かしらの心当たりがある可能性もある。
いずれにしても一旦研究所に戻る。
準備は、煌も整えなければならないのだから。
入念な準備もあり、原作より多少楽にアグラトを退け、なおかつマガツヒの完全収奪も押さえ込みました。これが後に大きな影響を及ぼすことになります。
そして対スルト戦を見据えることになります。
間違いなく。今までで最強の相手です。