真女神転生VV二次創作 牛蛇相克 作:dwwyakata@2024
※アールマティ
メガテンやペルソナで最近出るようになってきた存在です。ゾロアスター教の重要神格ですね。
ゾロアスター教は善悪二元論や天使の概念を作った信仰で、現在はインドの一部でごくわずかな人が信仰しているだけのものとなっています。
一神教はこの信仰から色々な影響を受けていることもあって、メガテンではアールマティを大天使に分類することが多いようですね。
なお、近年のシリーズで出るようになったアナーヒターも、この方の関係者です。
休憩を挟んでから、新宿区を進む。
ツバメさんは手当を終えると、すぐにまたどこかに出かけていった。或いはだが、先行偵察をしてくれているのかも知れない。
ともかく、イチロウとユヅルとともに先へ進む。
ハヤタロウが臭いを追跡する限り、まだ半ばにすら到達していない。天津の神々との合流で事態が劇的に動くのであれば。
可能な限り急いで、それを為すべきだ。
その理屈は煌にも分かる。
一千万に達する都民を死なせるわけにはいかない。道徳以前の問題である。
「線路が埋まってる……」
「この辺りは、他の魔界とほとんど変わりがないな」
「ああ……」
イチロウとユヅルが話している。
悪魔も雑多な者が増え始めていた。つまりあの巨人と巨大蛇の領域からは外れたとみて良いだろう。
黒い天使が飛んでいく。
それを、悲しげにアールマティが見送っていた。
「わ、私たちの子孫が、あのような姿、に」
「ともかく急ぎましょう。 あのような存在に好き勝手されるのは、この国に関係なく大きな問題であると思います」
「わ、わかって、いる」
アールマティは相変わらず人格が壊れ気味だ。
ただ。分かってきたこともある。
アオガミと少し話したのだが、アールマティは奪われることで壊れたのではなく。無理に増えることで壊れたようだと。
本来は分離している存在を取り込んだことで、様子がおかしくなっているのではないのか。
そういう分析をアオガミはしていた。
煌としては、だとすると悪魔合体か、何かしらのきっかけが必要ではないのだろうかと思うのだが。
ハヤタロウが足を止める。
「とてつもなく邪悪な気配がする。 皆どの、一旦身を隠されよ」
「分かった。 急げ!」
すぐに近くの高架下に身を隠す。
龍穴はだいぶ遠い。この辺りは龍穴があまり多くなく、マガツカも見つからない。このため、進むのには一苦労どころではなかった。
あの砂漠しか残っていない有様を見る限り。
東京のこの辺りは、18年前の事件の影響で、本当に何も残らず。それには龍穴も含まれた。
そういうことなのかも知れなかった。
無言で身を伏せていると、凄まじい音で何かが爆走していく。
二輪の戦車、チャリオットだ。
それに乗っているのは、腕組みして辺りを睥睨している、四腕の巨人だった。
砂漠を蹴散らして進むそれは、まさに我が物顔。
そして、煌はイチロウの様子がおかしいのに気づく。
「なんだよ、なんか……」
「気をしっかり持て」
「あ、ああ。 ぼーっとして、集中力が」
森可成が具現化すると、イチロウに即座に水筒を差し出す。水を飲み干すイチロウは、顔が赤くなっていた。
煌はほとんど何も感じないが、ユヅルもかなり気持ちが悪いようだ。
アオガミが警告してくる。
「あれは人間の根源的な本能を増幅している。 何かしら、壁か何かを張らないと極めて危険だ」
「僕はほとんど何も感じないですね」
「それは煌がナホビノとなっているからもあるが……」
「ああ、そういうことですか」
ツバメさんはともかく、ミヤズやタオ、ヨーコを連れてこなくて良かったと安心する。あの悪魔の力量は、簡単に勝てるようなものではないが。
正直ろくでもない事になるのが目に見えている。
ともかく、何かしらの対策をしなければならない。
煌だけであれに勝つのは困難だ。
戦車を乗り回して、移動していた神格が、我が物顔に去って行く。この辺りは自分の縄張りだ。
そう主張しているかのようである。
アールマティが言う。
「奴に、私の仲魔達は、敗れた、よう、ようだ」
「!」
だとすると、あれが他化自在天か。
なるほど、そんな高位の存在か。だが、ゾロアスター教の原初の天使達と戦ったなら、そう簡単に勝てたとは思えない。
何かしら、つけいる隙があるはずだ。
戦車に乗った他化自在天が離れると、イチロウはだいぶ楽になったようだった。
気まずそうにしている。
まあそれは理由は分かる。此処に女性陣がいなくて良かった、としか言えない。
冷静に、対策の話をする。
「恐らくあいつが他化自在天だ」
「例の第六天魔王か?」
「そうだ。 第六天魔王は本来は悟りを求める仏僧以外にはそれほど有害な存在ではなく、立派な神ではあるのだが。 この様子だと、仏教でひたすら恐れられた魔王としての側面が出ているとしか思えない」
「厄介な話だ……」
恐らくだが。
18年前の事件で東京周辺が消し飛んだ時。
仏教が比較的盛んに信仰されていた日本でも(それぞれに自覚はないだろうが、寺は多いし、葬式などでも仏式が普通である)、仏教系の神格は大きなダメージを受けたのだろう。
その一つの表れが、あの第六天魔王の姿、というわけだ。
対策としては仏を呼び出すとかあるのだが。
しかしそれは出来るかどうか。
アールマティが言う。
「少し、離れたところに、私の仲魔の、残滓を、か、かか、感じる。 奴に見つからぬように、取りに行ける、だろうか」
「……それを見つけて、何か解決になるのだろうか」
「な、なる。 私は恐らく、き、記憶は曖昧、だが。 奴との戦いの、中で。 戦いの人格を、無理に取り込んで、守って逃げた。 戦いの人格を分離すれば、強力な、浄化の水となる。 よ、欲望の権化を、退けるための」
「ユヅル、イチロウ。 悪魔合体で、仏教系の仏を作れないか確認してくれ。 その後、出来そうにないなら、今の話に乗ろう。 あいつは僕だけでは多分勝てない。 二人があの強烈な欲求促進の力に打ち勝てないと、戦いにならないだろう」
しかも、だ。
この辺りは谷のような地形になっている。
ハヤタロウが言うには、この谷のような地形の先に臭いは続いているそうだ。
だとすると、他化自在天はゾロアスター教の天使達を退けてから、この辺りまで縄張りを延ばしてきたのかも知れない。
大日如来や釈迦如来といった最高位の仏を呼び出せば、他化自在天は即座に両手を突いて降伏するだろうが。
そんな格の仏になると、恐らくツバメさんクラスのデビルサマナーでも召喚は難しいはずだ。出来ない事は出来ない。
今はやれる範囲で、やることをするしかないのだ。
無言で準備を進めていく。
程なく、ユヅルとイチロウが、どちらも首を横に振った。
「観音菩薩が悪魔合体のリストに出たが、今の僕ではとても逆立ちしても呼び出すことは不可能のようだ」
「俺は地蔵菩薩が出たけど、右に同じだ」
「分かった。 見たところ、他化自在天はこの辺りでは無敵で、好き勝手に振る舞えると油断しているようだ。 実際下位の神魔は近づくだけで蹂躙されてしまうだろうから、それも分かるが。 皆、光の力を使える悪魔を展開して、それで浄化をしながら、隠れて進もう。 間近でなければ、あの強烈な力でも、おかしくはならない筈だ」
「お、おう。 分かった」
そのまま、高架の影を利用しながら進む。
空を踊り狂っているのは、半裸の男女。
恐らくは、仏教で言う天人だろう。
天道の住民だが、天国の民ではない。
仏教では六道輪廻という思想があり、世界には六道というそれぞれ性質が違う世界がある。生前の行動によってあらゆる命は死後そのいずれかに振り分けられ生まれ変わる。それが六道輪廻だ。人間道は我々の世界。他に天道、修羅道、畜生道、餓鬼道、地獄道が存在している。地獄ばかりが有名だが、実のところ他の六道もどれもたいした差はない。
天道はあらゆる欲望を自在にかなえられる世界で、一見すると天国だが。その最後には、他の六道のどれよりも凄まじい苦痛を受けながら死んで行くという設定がある。いわゆる天人五衰である。
あれらは、恐らくは。
神としての天人。
そして、他化自在天の使い魔とみて良いだろう。
見つかるとまずい。
特に第六天では、相手の目を見るだけで互いに最高の快楽を得られるなどという設定があるのだ。
それは恐らくだが、このアッシャー界では凶悪無比な催淫効果として機能するはず。
あれらの目を絶対に見るな。
そう、イチロウに説明しておく。
イチロウも薄着の女性が踊りまくっているのを見て、それでしばらく呆然としていたが。
あそこまであけすけだと、逆に色気も何もないのか。
世も末だという顔をして、頷いていた。
ともかく発見されないように移動する。最悪、砂の下に潜って移動することも考えなければならないだろう。
遠くで車輪の音が響いている。
ユヅルがぼやいた。
「本当に我が物顔だな……」
「この辺りに敵なしというのなら、それは我が物顔にもなるだろう。 ゾロアスター教の天使達を打ち破ったのなら、なおさらだ」
「……おい、あれ……!」
イチロウが見つけた。
龍穴だ。
だが、例の天人達が周りで踊り狂っている。あれを打ち倒しても、すぐに他化自在天がこっちに来るだろう。
見た感じ、天人達の実力はどうってこともない。
倒すだけなら一瞬でやれるが。問題は、催淫効果だ。目が合ったら、その瞬間正気も理性も吹っ飛ぶ可能性が高い。
仕方がない、先に行く。
ビル影で、他化自在天をやり過ごす。黒い天使達が他化自在天に上空から襲いかかるが、余裕の表情で他化自在天は鞭を一振り。それだけで、天使達はまとめて消し飛んでしまった。
黒い天使達が弱かったのではない。
恐らくだが、あの近づくだけで催淫効果が発生する他化自在天のテリトリにとらわれて。弱体化したところを一ひねりにされたのだ。
天使はとにかく禁欲的だ。
欲を表に出す天使は、一神教の聖典では特に嫌われる傾向がある。エグリゴリの逸話などが代表だろう。この間倒したアザゼルなどは、そのエグリゴリの一人。楽園追放の後、増えた人間を見に来て、愛した天使達だ。
それは一神教では禁忌とされた。
あのような姿になってしまっていても。
恐らくだが、禁忌に触れることはダメージになるのだろう。
高笑いして、他化自在天が戦車を乗り回している。遠くに行くと、アールマティがあれだと言う。
言われたのは、砂に半ば埋もれている青い宝玉だった。
マーメイドに砂の地下から、潜って取りに行って貰う。
まだ凶悪な催淫効果が残っていて、イチロウはつらそうだ。女性よりも男性にこれはきついかも知れない。
ともかく、マーメイドが宝玉を取ってくる。
そして、充分に他化自在天が離れたのを見計らってから、それを手に取る。
アールマティが、おおと声を上げていた。
「我が同胞達が、敗れこのような姿に。 天使どもの祖である七つの偉大なる霊が……」
「それでどうすればいいでしょうか」
「うむ……其方の力で、この宝玉を強化してほしい。 そして私の、中に、な、中に、押し込んでくれ、く、くれ」
少し難しいが。
取り込んでみて、宝玉の性質は分かった。
なるほど、天使というのは、本来は様々な神格を、「大自然の霊的な存在」として認識したものだったのか。
イスラムでは天使をアラーに仕える霊であると定義し。
デーモンの語源となったダイモーン、デビルの語源となったディアボロスを作り出したギリシャ神話では、そもそもダイモーンを霊的な存在として定義していた。
だとすれば、これは天使の原液だ。
その性質は女神というよりも、更に純化した自然への恐れ、畏敬などからなる存在であって。
原始的な神々という訳だ。
なるほど。これを更に増幅することはそれほど難しくはないだろう。体内で練り上げて、増幅する。
そして、完成したそれを取り出すと。辺りに、柔らかい光を放っていた。かなり消耗したが、消耗しただけの価値はあったはずだ。
イチロウが固唾を飲んでいる。
ユヅルは周囲を警戒してくれている。
アールマティに、宝玉を押し込むと。
凄まじい光が辺りにほとばしり、そして。
アールマティが、二つに分離していた。
なんとなしの人型だったアールマティは、極めて威厳のある、美しい女性に。天使と言うよりも、恐らくは女神としての姿だろう。
献身を司る七つの霊の一角。
薄着ではあるが、その体に欲情するような要素はない。ただ威厳がある、褐色肌の翼を持つ女性神格となっていた。
そして、もう一つは。
水を全裸に近い体にまとい、多数の札を周囲に展開している存在。
これもまた、女神のようだった。
「ふう……やっと分離できたようね」
「貴方は何者か。 僕は……」
「ああ、夏目煌ね。 知っているわ。 私は女神アナーヒター。 後の時代にアールマティより分化した、戦いと浄化の女神よ。 あの汚らしい神格から、七つの純粋な霊体を取り戻し、アールマティに押し込んだのは貴方ね?」
「ああ、そうなる」
アナーヒターは煌の顔をじっと見つめると。
ああなるほどと、どうやら悟ったようだった。
くすくすと笑った後、煌の眷属になってくれると言う。アールマティは、そのままイチロウの守護を続けてくれるそうだ。
天人が流石に気づいている。それにこれでは、他化自在天も程なく戻ってくるだろう。今のうちに。
あの龍穴を解放して、出来るだけ態勢を整える。
天人は殺し尽くさなくても大丈夫だろう。
全員で仕掛ける。
踊り狂っていた天人達は仕掛けてきた煌やユヅルとイチロウの呼び出した悪魔をみると、わっと逃げ散った。
勿論こちらを見たものもいたが、アナーヒターとアールマティが中和してしまう。
それに、吉祥天を見ると、恐れおののいて逃げ散っていく。
相手は天部。
仏教に取り込まれたインド神話の神々を総じてこう呼ぶが、いずれにしてもヒラの天人とは格が違う存在だ。
戦う理由もないし、逃げるのが妥当である。
ただ、当然他化自在天に知らせに行くだろう。
龍穴を確保。即座に回復開始。
イチロウが、生唾を飲み込んでいた。
「援軍を呼ばなくて大丈夫か?」
「いや、今皆それぞれの仕事で出ている。 この龍穴は一旦取り戻した状態にすぎず、東京に戻ったら出た瞬間袋だたきにされる可能性が高い。 此処で待ち受けた方がまだ勝率が高い」
「わ、わかった。 腹をくくる」
「それにしてもかの第六天魔王が相手とは。 拙者の主君が皮肉交じりに自分をそう呼んでおったな」
森可成がぼやいた。
まあ、信長がそう書状で名乗ったことがあるのは事実だ。
ちなみに信長は別に仏教嫌いで一神教びいきだったわけではない。きちんとした学僧には敬意を持って接していたし、寺社仏閣をいたずらに破壊するようなこともなかった。
信長が大嫌いだったのは仏教を笠に着て権力をむさぼる破戒僧どもであって。
戦国時代は大名化したり、各地で民から税を取り立てるような腐れ寺院が山ほど存在していた。
そういう連中を信長は嫌い抜いていた。だから、第六天魔王の意味を知った上で、そう名乗った可能性が高いのだ。
アールマティとアナーヒターが、その間に陣を組んでいく。水によって浄化された、強烈な陣だ。
マーメイドがやり方を見て、何度か頷いていた。
術を組んでいくやりかたが、アールマティはとにかくたおやかであり。逆にアナーヒターはとても荒々しい。
ただし、マーメイドに興味を持ったらしく、アナーヒターが片手間に術式について指導していた。
マーメイドも真剣に頷いて、魔法について取り込んでいるようだった。
回復終わり。
そして、来た。
凄まじい戦車の音を響かせて、傲然とやってくるのは。間違いない。第六天魔王他化自在天。
そして、他化自在天は、吉祥天を見て、戦車を止めていた。
「おや、吉祥天どのではないか。 ……デビルサマナーとしては、こんなところに来て平気だとすると、相当な強者とみるが、まあそれなら貴殿を従えられても不思議ではあるまいな」
「貴方も相変わらず荒々しいことですね。 この辺りでの縄張り争いをやめていただきたく。 此処を通るのに、迷惑ですので」
「ふーむ、そうはいうがな。 現在この魔界では、我ら仏教のものどもは、阿弥陀如来様の指示で動かぬようにと言われておる。 わしはその言葉に従って、別に人間に迷惑は掛けてはおらんぞ。 そこにいるいにしえの神々のなりそこないを、ちょっとばかりひねったがな」
ガハハハハと他化自在天は笑う。
男性神格だが、一般的な邪悪なイメージと違って、豪放で匂い立つような色気が凄まじい。
恐らく中和できていなかったら、男女関係なく近づくだけで正気を失うのだろう。アールマティとアナーヒターがいなかったら、話をする土俵にすら立てなかった、というわけだ。勿論戦うことなど論外だった筈だ。
煌も話をしてみる。
「貴方が実際には魔王と呼ばれるのとは違っていることは理解している。 此処を安全に通れるようにしてくれれば、こちらも問題はないのだが」
「む。 どこかの神格かと思ったら、ナホビノか……?」
「夏目煌という。 よろしく」
「……やはりナホビノか。 わしは別に創世に興味はない。 だが、そうだな。 くだらん連中が、創世をするのもすこしばかり気に食わん。 貴様、何を創世に求める。 権力か、欲か? それとも自分が好き勝手に出来る世界か?」
他化自在天なら、確かにそういう事を聞いてきてもおかしくはないだろうな、とは思う。煌はそれらのいずれにも興味はないが。
草食系、というのとは違う。
煌は文学や文化には大いに興味がある。だから文学はたしなむし、世界の神話についてはある程度の知識はある。
だがそれは知識欲というものであって、それで人を傷つけようとは思わない。
ただ、強いて言うのなら。
イチロウのような意志薄弱だと嘆く人間でも生きていく事が出来て。
逆にユヅルのような何でも一人で決めてやっていける人間でなくても生きていける世界が来ると嬉しい。
人それぞれの努力が相応に報われる世界、だろうか。
少なくとも、支配者にとって都合が良い思想ではなく。
世界で流行った支配ツールとしての信仰とは大分ずれているが。
煌は魔界で様々な悪魔の考えを見ていた。
アブディエルのようにどうしても一神教のくびきに足首をつかまれてしまっている天使もみたし。
その天使に憎悪を燃やすだけの悪魔達も見た。
いずれにしてもはっきりしているのは。
今の一神教のくびきから、世界を解放したいということだ。
この思想が一体どれだけのものを奪ってきたか、分からないほどなのだから。
この話を丁寧にすると、他化自在天は困ったような顔をした。
「ううむ……そ、そうか。 欲のない男だとみていたが、なんだか不思議な思想の持ち主であるな。 中道というのか、公正というのか。 他全てを犠牲にしても守りたいようなものはないのか」
「強いて言うなら周囲の人々の尊厳は守り抜きたいと考えている。 だが、それがあらゆる全ての犠牲の上に成り立つのであれば、その限りではない」
「まあ、この世の理屈は弱肉強食などとたわけた三下のチンピラのような事を言い出さないのであればそれもいいか。 分かった! 少なくとも、力ばかりに目がくらんでいるチンピラの類や、秩序に目がくらんだ一神教の手下でもないのならそれでいい! わしはこれでも幾多の世界を見通すことが出来てな。 そういった輩が創世をして、ろくでもない事になるのを見てきておるからな。 夏目煌。 そなたのような者が創世をするのも、また面白かろう。 それにおまえは天人達を追い払ったが、いたずらに殺しはしなかった。 それ故に、此処は退いてやろう」
ワハハハハハと豪快に笑いながら、戦車で他化自在天が去っていく。吉祥天が呆れたように嘆息していた。
ずっと汗をだらだら流していたイチロウが、へたり込む。
真っ青になっていた。
「す、すまん。 頭の中がぐちゃぐちゃだ。 周りに女いなくて良かった」
「戦いになったら勝てたか、煌どの」
「厳しかった。 五分五分だっただろう」
森可成がイチロウに肩を貸して聞いてきたので、素直に答える。
話が通じる相手で良かった。ちなみに、去る際にぽいと投げていったのは。明確に陰部をかたどった護符だった。
面白がっていたなあれは。これを媒体にでもしろということか。
あまり気は進まないが、必要とあれば呼び出すかも知れない。ともかく、今は先に進むことが大事だった。
※他化自在天
第六天魔王です。この話で解説しましたが、基本的にあくまで天部と言われる仏教系神格の一人で、第六天といわれる天道の管理者です。
勘違いされていることは他にもあり、マーラ様と同一存在ではありません。正確にはマーラ様とシヴァ神の要素を足したような神格ですね。
仏教で嫌われまくっているのは、仏教の目標である悟りを妨げる最大の壁として君臨するからです。
悟りを開きたければ俺を越えてみろワハハハハハーと立ち塞がってくる存在なわけですね。
まあ、悟りと関係ないなら、ごく無害ですし、第六天は普通の人が考える天国に最も近いと思いますね。死ぬ時が地獄より酷い苦しみだという事を除けば……ですが。
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