真女神転生VV二次創作 牛蛇相克   作:dwwyakata@2024

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膠着する東京駅方面の魔界。秋葉原近く。

其処で大事件が起こります。






2、王子散華

魔界、東京駅近辺。

 

インド神話系の神々は、シヴァに言われて陣だけ敷いていた。

 

インド神話のヒンドゥー教では、創造神ブラフマー、破壊と再生の神シヴァ、維持の神ヴィシュヌの三柱が最も知名度があり、信仰を集めている。

 

ただ実際の信仰にはかなり差があり、これは神話の扱いを見ても理解できる。ブラフマーは無能な老神として扱われることが多く、ラーマーヤナなどでも非常に扱いが悪い。

 

これに対してシヴァは圧倒的な強さの象徴として知られ。

 

またヴィシュヌは世界の危機をとんちによって解決する一種のヒーロー神格として知られている。

 

そして、実際に一番人気が高いのはヴィシュヌなのだが。

 

近年では維持よりも変革を行うシヴァが主導権を握っていて。ヴィシュヌの化身、いわゆるアヴァタールの一つであるラーマも、その命令で出向いてきている状態だった。

 

待機の指示を受けているラーマは、側近である猿神ハヌマーンと常にともにいる。ラーマーヤナで忠実で勇敢な剛力の持ち主としてラーマに仕え。後に原始仏教で信仰対象になったり、中華における西遊記の孫悟空のモデルにもなったハヌマーンは、ラーマに対しては常に側に侍っていたが。

 

小競り合いが起きた。

 

朽ちた電車の近くで陣を敷いていたラーマが、すぐに戦いに行こうとするインド神話の竜人、ナーガ達をたしなめる。

 

「何が起きているかは分からない。 様子を見るように」

 

「はあ、分かりましたが……」

 

「私が行って参りましょうか」

 

「そうだな、頼む」

 

周囲には、猿族とも言われ、ラーマーヤナでラーマの同盟者として戦ったヴァナラの戦士達もいる。

 

これらはハヌマーンの同族であり、いずれもが忠勇熱い友である。

 

更にはナーガの中には、ラージャ(王)の称号を持つ者達もいる。

 

生半可な相手には、負けるはずがない。

 

そのはずだった。

 

ほとんど一瞬だった。

 

降り注いだ黒い槍が、立て続けにナーガ達を貫く。

 

ヴァナラが反応。

 

盾になってラーマを守ろうとした。だが、どこから攻撃が来ているかさえも分からない状況である。

 

ハヌマーンを甲高い声で呼ぼうとしたヴァナラが、そのまま打ち倒される。

 

大弓を手にしたラーマが、周囲を睥睨。

 

これでも最終的には魔王ラーヴァナを討ち取ったのだ。

 

その射手としての力量は生半可なものではない。

 

だが。

 

気がつくと、ラーマの右腕が切り落とされていた。

 

ラーマ王子。

 

悲痛な叫びが響く中、ラーマ王子の首は、燃え猛る炎の剣によって、切り飛ばされていた。

 

 

 

ハヌマーンが小競り合いを仕掛けてきた混沌の悪魔達を追い払い、陣に戻ると、其処は焼け野原だった。

 

愕然とするハヌマーンが、慌ててラーマを探すが。

 

生き残ったヴァナラが、涙を流しながら跪く。そのヴァナラも、既に瀕死の状態だった。

 

「ハヌマーン様……!」

 

「ラーマ王子は!」

 

「戦死なされました! アティルト界でもこれではまともな意識を取り戻すのに数十年はかかるでしょう」

 

「おのれ、陽動とは味な真似を……!」

 

周囲の凄まじい焼けただれた跡。

 

スルトは大きさを自在に操作できると聞く。

 

これだけの一方的な奇襲。

 

出来る悪魔がそれほど多いとは思えない。

 

ましてや多数展開していたナーガ達をひねり潰し、ヴァナラ達の守りを瞬時に抜いてラーマ王子を殺す。

 

出来る奴は、そう多くはないはずだ。

 

「動ける者を集めろ!」

 

「ハヌマーン様!」

 

「仕掛けるぞ! こちらがあのベテル本部のトリどものせいで及び腰になったと判断して、奇襲を仕掛けてきたのに違いない! ラーマ王子の仇を討たずして、何が家臣か!」

 

「分かりました! すぐに!」

 

ハヌマーンは巨大化していく。

 

薬草が必要だとされた時、その薬草が生えている山ごと持ってきたという逸話が残るハヌマーンである。

 

巨大化くらいはお手の物だ。

 

勿論ハヌマーンも分かっている。

 

スルト相手だと、分が悪い。

 

そんなことは知っているが、だからといってスルト相手に退く理由など、一つもない。絶対に撃ち殺す。

 

各地に散っていたインド神話系の神格が集まり始める。

 

ヴィシュヌのアバタールは18年間の戦いで次々に敗れており、特に主力であったカルキが倒されているのが痛い。

 

これをやったのも誰かは分からないのだが。

 

どうせこの様子では、混沌の悪魔どもだろう。

 

アグニ神がくる。

 

炎の神であり、双頭の神だ。かなり古い神であり、ヒンドゥー教が勃興する以前のバラモン教の時代には当時の主神インドラにつぐほどの扱いを受けていた。

 

残念ながら、今ではそれほども力は持っていないが、それでもスルトの火炎を短時間は耐えられるはずだ。

 

ハヌマーンの話を聞いて、アグニは小首をかしげる。

 

「混沌の悪魔どもは確かにハラスメント攻撃を続けているが、なにゆえに我らに仕掛けてきたのだ。 我らはどちらかというと中立に近い位置にいて、奴らとしても狙う意味がないように思うが」

 

「知らん! 少なくともラーマ王子の仇は討たねばならん! お労しいことに、これではアティルト界でも当面は再生できぬ! それくらいの強い力で焼き殺せるのは、スルトくらいしか思いつかぬ!」

 

「勝ち目はあまり多くはないぞ」

 

「それでもやるのが忠義だ! アグニ神、やられそうになったら退いてくれて構わぬ! 俺が必ずスルトを殺す!」

 

アグニは、おまえには無理だろうとハヌマーンを見たが。

 

その戦意を買ったのか、仕方がないと頷いていた。

 

インド神話の神々が前進を開始する。

 

天使の伝令が来た。メルキセデクとかいう大天使だ。ハヌマーンは一瞥もしない。

 

「これは如何為された。 無理に攻撃をしても、スルトに対しては勝ち目は薄いでしょう」

 

「黙れ! こちらは卑劣な奇襲でラーマ王子を失った! この恨み、はらさでおくべきか!」

 

「スルトによってですか?」

 

「そうだ!」

 

それはおかしいとメルキセデクは言う。

 

メルキセデクと配下の天使達はスルトを監視しており、動いている様子がないと断言した。

 

ずっと座り込んで、余裕の様子だという。

 

それを聞いて、アグニもそうだろうなという顔をしたが。ハヌマーンはそれらの意見を一蹴した。

 

「どうせ分霊体か何かを用いたに決まっている! それに真相がどうであろうと、一戦せぬとこの怒りは収まらぬ!」

 

「そうか、では好きになされよ。 こちらは再編成の途上であるゆえ、支援はしない」

 

「勝手に散れ、鶏!」

 

メルキセデクは頭に血が上ったハヌマーンの暴言にも、怒る様子はなく、さっと離れていった。

 

秋葉原に到着。既にスルトもこちらを見て、戦闘態勢に入っている。大きさでいうと、スルトとハヌマーンはほとんど同等だ。どうしても近づいていけば見えるのだし、当然だろう。

 

炎の剣を振りかぶるスルト。

 

レーヴァテインが青く輝き、超高熱の炎が投射されてくる。空気がプラズマ化しながら爆裂し、なぎ払いに来る。

 

アグニ神が、一撃を緩和。

 

それでも、一瞬で相当数のナーガとヴァナラが焼き払われてしまっていた。後衛のアプサラス達が、悲鳴を上げている。

 

「と、とても中和できません!」

 

「臆病者はいらん! 俺に続け!」

 

「おおっ! ラーマ王子の仇を討つのだ!」

 

「何の話をしている」

 

スルトが第二射の構えに入る。

 

早い。

 

もう第二射を放てるのか。

 

だが、その時には、ハヌマーンも至近に迫っていた。

 

振られるレーヴァテイン。

 

アグニ神が防ぎに入るが、限界だ。たった二発で、インド神話の名高い火炎の神が、前後不覚に。

 

突撃していたナーガやヴァナラも、あらかた消し飛ばされてしまう。

 

その中で、ハヌマーンは炎を強引に突破。

 

愛用の剣を振るって、スルトに斬りかかっていた。

 

何度も行われた攻撃で、初めてスルトに此処までの肉薄がされた。

 

それだけ、ハヌマーンの気迫が凄まじかったのだ。

 

超高熱のレーヴァテインを振るって、スルトが剣の一撃を受け止める。殺到するナーガやヴァナラの群れを、スルトはうるさいと言わんばかりに炎の息でまとめて消し飛ばしてしまい。

 

更には開いている左手で、アグニ神をつかむと、有無を言わさず握りつぶしてしまった。

 

マガツヒになって散っていくアグニ神だが。

 

その時には、ハヌマーンは融解しつつある剣を捨てて、新しい剣を出現させ、切り上げる。

 

地面を抉りながら切り上げられた新しい剣が、スルトを切り裂いていた。

 

腹から肩に掛けて切り上げられたスルトが、派手に出血する。にっと笑ったスルトが、その剣を振るったハヌマーンに、無造作にレーヴァテインを突き刺す。

 

全身が、瞬時にたいまつになるハヌマーン。

 

燃え上がりながらも、ラーマ王子の仇だと叫び。ハヌマーンは、至近から、凄まじい雄叫びを浴びせかける。

 

あまりの超圧力の音波だ。

 

それは辺りの構造物を粉々に破壊し尽くし、スルトの全身にも大きなダメージを与えていたが。

 

それでも、ハヌマーンが燃え尽きる方が先だった。

 

ハヌマーンは手を伸ばして、スルトの首をつかもうとしたが。

 

その剛力がスルトの首を折ることはなく。

 

炭と崩れ果てていった。

 

 

 

好機ではないかとみていた天使達や、他の支部の神々が、慌てた様子で散っていく。それはそうだろう。

 

スルトはまだまだ健在。

 

それにかなり古い神であるアグニが、あれほどのもろい戦死を遂げたのである。

 

ハヌマーンは善戦した方だが、それでもスルトに二太刀を浴びせるのでやっとだった。スルトは大きな手傷を受けたが、継戦能力を失ったほどではない。

 

座り込むスルト。

 

不可解な話だ。

 

どうしていきなりインド系の神々が、殺意を丸出しに攻め込んできた。スルトにはまったく覚えがない。

 

また、力を常に全開にしている事もある。

 

今の手傷は決して小さくはなかった。

 

少しまずいかも知れない。

 

そう思っていると、イシュタルが飛んでくる。

 

「天使どもとは違うかなり強い気配を感じたが、何かあったのかスルトよ」

 

「ああ、インド神話の神々が総力で仕掛けてきた。 何か恨みでもあるかのようだったが、戦いである以上殺す殺されるは当たり前だ。 一体何があったのか分からぬ」

 

「……そうか。 手傷を受けたようだな」

 

「うむ……」

 

この手傷、簡単に治るものでもない。

 

回復の魔法を勿論使うが、マガツヒを相当に消耗している。

 

18年間ため込んだマガツヒだ。

 

一朝一夕で回復できるようなものではないのである。

 

無言で考え込むスルトに、イシュタルはいくつか話をしてくれる。

 

「アザゼルやモロクを討ち取ったナホビノの他に、どうもナホビノらしいのが暴れ回っていてな。 そいつや天使どもの働きもある。 隠しておいた私の力を増幅する魔法の装置が次々に破壊されている」

 

「それは面倒な事態だ。 やれるか」

 

「全て破壊されたとしても別に問題はないがな。 私は素でも生半可な相手に遅れは取らぬ」

 

「そうか」

 

イシュタルはそもそも天の女主人と言われる、牛系統と蛇系統の両方を引き継いでいる強力な神格だ。

 

戦闘面でもスルトほどではないにしても、そう簡単に負けるほど脆弱な神格ではない。

 

すっかり弱体化しているベテル本部の天使どもなどまともに相手にもならないだろう。かろうじて戦えるとしたらアブディエルくらいだろうか。

 

他のまとまりがないベテル支部の連中は、まあそれほど気にしなくても良い。

 

ただ、少し気になることがある。

 

ナーガやヴァナラが、かなり接近してきていた。

 

普段展開している炎の力が、弱まりつつあるような気がするのである。これは、ひょっとして。

 

日本系の神格が、何かしらの術式でも展開しているのではあるまいか。

 

此処は魔界に落ちても日本だ。

 

最大影響力を持つのは日本の神々である。

 

それについてはスルトも分かっている。

 

しかも既に伝令から聞いているが、日本の神々は連携し始めている、ということである。だとすると、極めて面倒なことになりかねない。

 

「イシュタルどの」

 

「うん?」

 

「簡単に負けるつもりはないが、それでも俺が突破された時の事を念頭に置いて動いてほしい」

 

「……分かった。 そうだな、手傷を受けたのだ。 このままベテルの動き次第では、貴様が敗れる可能性もある。 準備を整えておこう」

 

アリオクはあまり当てにならない。

 

一神教の悪魔は所詮一神教の悪魔。

 

ましてやアリオクはそれほど高位の堕天使でもない。実力から言えば、スルトよりずっと下だ。

 

チェルノボグは良い腕をしているが、それでも現実的な範囲だ。

 

今頼りになるのは、古き神であるイシュタルであり。イシュタルの防衛網を突破されれば、ベテルの連中を勢いづかせることになる。

 

また一神教を復権させるような創世でも行われたら、しゃれにならない。

 

スルトも、一神教によって北欧神話が排除されていった歴史は見ている。その間にどんどん力が失われた。

 

一神教は、唯一絶対の神の前には、邪教など無力とし。

 

それを盲信する人間の手によって、北欧の神々と一緒に、魔はどんどん力を落としていった。

 

スルトも例外ではなかった。

 

あの屈辱、二度と味わうつもりはない。

 

ため息をつくと、深手を受けた体を少しでも回復させる。

 

だが、今のハヌマーンのような気迫でまた攻め来られたら。少しずつ手傷を受けるし、いずれは倒れる。

 

その時は、残念だがアティルト界に撤退し。

 

機会を待つしかなかった。

 

 

 

東京駅周辺の混乱を見下ろしている影一つ。

 

大天使カマエルである。

 

その手には、ミカエルが敗れた時に取り落とした炎の剣があった。

 

正確には少し違うらしいのだが。いずれにしても、一神教の天使達が与えられていた力は四散し。

 

今仰いでいる新しい主によって、マンセマットとカマエルとサリエルに、分散して手渡されたのだ。

 

その力を用いた。

 

案の定力は強いが頭の悪い猿は、あっさり策に引っかかった。

 

確かに目前にいるスルトが一番怪しいとはいえ、こうも簡単に踊ってくれるとは。

 

ラーマに対する奇襲に関しても、それほど難しくなかった。

 

凄まじい湧き上がる力が、それらを簡単にしてくれたのだ。

 

「作戦成功。 戻るぞ」

 

「御意」

 

黒い天使達を連れて、カマエルはその場を離れる。

 

インド支部に大きなダメージを与えた。これは創世の勢力図に大きな影響を与えるはずだ。

 

特にインド神話系の神々のうち、シヴァに意見できるヴィシュヌは、これで一気に力を失った。

 

シヴァはルドラの秘法とかいう儀式によって、致命的な大破壊を世界に引き起こすつもりだが。

 

奴はそれを達成するために、しばらくは何も出来ない。

 

インド支部も此処からは完全に守りに入る。

 

それはシヴァの守りを固めるためだ。

 

逆に言うと、創世には一切関わりを持とうとはしないはず。表向き代理を立ててくるだろうが、どうせ雑魚だ。

 

その気になれば一蹴できるだろう。

 

シヴァ自身も、なんなら今のカマエル達が連携すれば倒すことが出来る。

 

奴の様子は遠くからうかがったが、それが可能なだけの力が既に備わっているのである。

 

空間を何度か跳んで、マンセマットのところに戻る。

 

マンセマットに首尾を報告すると、マンセマットは諸手を挙げて喜んでいた。

 

「流石はカマエル。 我が同志よ! 素晴らしい働きですね! いつもながら惚れ惚れする手際ですよ」

 

「そう褒めるな。 それで、次はどうするつもりだ」

 

「ナホビノを調べていたサリエルが戻ってきたのですが……どうも今いるナホビノは、どちらもあまり我々には都合が良い存在ではありませんね。 八雲というナホビノは、神魔を世界から滅するなどと考えています」

 

「馬鹿な輩だ」

 

カマエルは失笑していた。

 

神魔は人間が生み出したもの。

 

人間という生物は、残念ながら信仰なしでは生きられない。

 

近年は無神論者などと言う存在が出てきているようだが、全てを論理で片付けて生きていけるほど、精神的に強靱な存在ではない。

 

それが人間なのだ。

 

だから仮に創世で今の神魔を人間の精神世界、つまりアティルト界からことごとく消し去ったとしても。

 

そう遠くない未来に、様々な新しい神魔が登場するだけだ。

 

実際にこの国でも。

 

古来の妖怪だけではなく、都市伝説怪異なんてものが、近年では幅を利かせるようになっている。

 

これは文字通りの新しい魔だ。

 

世界中で、年々新しいカルト宗教等というものも生じている。

 

これもまた、新しい神だ。

 

今いる神魔を仮に消し去ったとしても、すぐに新しいものがわんさかと湧いて出てくる。それが現実なのである。

 

だからカマエルは失笑する。

 

「そいつはどうでもいい。 いずれ始末してしまうとして、もう一人はどうか」

 

「これがどうにもよく分かりませんでしてな。 様子見をしていた配下の天使達によると、あの第六天魔王他化自在天を、会話によってあっさり退けたとか」

 

「あのおぞましい欲望の権化をか」

 

「ええ。 今までも暴力に訴えるだけではなく、複数の神魔をそうやって退けてきているようです。 想像以上に頭が回るとすると……」

 

こっちは厄介だ。

 

八雲とかいうナホビノは、恐らくだが多数の勢力から袋だたきにされて勝手に自滅する。

 

創造神クラスの神格であるジョカがついていたとしても、その結末に変わりは恐らくないだろう。

 

問題はもう一人。

 

マンセマットがいう、夏目煌というナホビノだ。

 

「消すか? 我らの創世には厄介だろう」

 

「そうしたいのは山々なのですがね。 何度か提案したのですが、我らが主からは駄目だ、と言われておりまして」

 

「何……?」

 

「要するに、他のナホビノが現れるのを待つか、ナホビノとなりうる存在を見つけるべきでしょうね」

 

舌打ちしそうになったカマエルだが。

 

今の主が、相応に大事に扱ってくれているのは理解している。

 

四文字の神は、マンセマットやカマエル、それにサリエルも。いずれ使い捨てるつもりだった。

 

それを考えると、今度こそ忠義を尽くしたいし。

 

今までしてきた努力が報われる瞬間を見たいのだ。

 

そう願うのは天使も同じ。

 

神の言葉を疑うな全て信じろと言われても。

 

その本音が依怙贔屓と使い捨てだった事を知ってしまった今としては。そんな寝言に従う気になどなれなかった。

 

「まあいい。 とりあえず俺の仕事は片付いた。 次の策を練ってくれ。 我らの頭はおまえなのだからな」

 

「ええ、ええ。 分かっていますよ。 我らが望む世界が創世されるためにも」

 

「うむ……」

 

ずっと耐え続けてきた。

 

他の天使どもが持ち上げられる中、時には堕天使呼ばわりされることさえあった。

 

汚れ仕事を押しつけておいて、挙げ句堕天使呼ばわり。

 

はっきりいってふざけるにもほどがある。

 

一神教を信仰する人間どもの権力争いも。一神教というものが抱える構造の大欠陥も、今では嫌になるほど分かる。

 

だからこそ、カマエルは。

 

今度こそと考えて、忠義を尽くすし。

 

今まで以上に、どんなダーティワークであろうと、忠義を尽くすのだ。

 

……それが結局、四文字の神に仕えていた時と同じである事に、カマエルはどこかで気づいてはいたかもしれない。

 

だが、もはやカマエルには、それ以外の道は存在していないのだった。







ラーマ王子がカマエルの手によって暗殺されたことで、一気に事態が動くことになります。

ハヌマーンを退けたものの、深手を負ったスルト。

インド支部の相対的な弱体化。

高笑いするマンセマット達。

邪悪な陰謀は、多くの者を巻き込んでいくことになります。



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