真女神転生VV二次創作 牛蛇相克   作:dwwyakata@2024

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対イシュタル戦の準備開始。

あくまでベテル本部に恩を売るためです。今まで押しつけられた貸しをのしつけて返すためです。

実際ベテル本部の弱体化は既に著しく、既に支部に舐められまくっている状況です。

日本支部はそれでも、きちんとそれ相応の手順を踏んでいるわけですね。離脱するための。





3、魔装が全て剥がされる

またイシュタルの強化用のマガツカもどきを見つける。デカラビアによると魔装というそうだ。

 

ミヤズとイチロウに破壊を任せて、警戒に当たる。そして、すぐに此処の守りが姿を見せていた。

 

此処はかなり悪魔が多い。

 

スルトが展開していた防衛線の内側であり、ベテル本部が慌てて前線を押し上げたから、だろう。

 

あちこちに悪魔が潜んでいて、ゲリラ戦でベテル本部の天使達を強襲しているようだった。

 

それもあるし。

 

これらがイシュタルの強さを支えているのであれば、守りを置いているのも納得である。

 

襲いかかってくるのは、多数の堕天使だが。どれもそれほど質は高くない。

 

眷属を展開して、迎え撃つ。

 

煌自身も前線に出て、斬りかかってくる堕天使を切り払う。正直、それほどたいした奴はいない。

 

指揮を執っているのは以前交戦したボティスだ。

 

これも恐らく、以前の奴は分霊体で、これもそうなのだろう。

 

切り結んでいくと、相手もなんとなく以前分霊が倒されたことを理解したようである。

 

「分霊を倒したようだが、俺はそれとは格が違うぞ!」

 

「そうか、それではこちらも出力を上げるだけだ」

 

「!」

 

印を切ると、冷気の柱でボティスを真下から貫く。

 

アナーヒターを眷属にしてから、冷気の力もかなり強くなってきている。アナーヒターにはまだまだ及ばないが、それでもこの程度であれば即座に打てる。

 

しかもボティスが反射的に展開した魔法の壁も、あっさり貫通。

 

無念の言葉を挙げながら、ボティスが消えていく。

 

真後ろから飛びかかってきた犬のような悪魔を、振り返りもせず稲妻で焼き払う。そのまま、皆と連携して敵を切り倒していくと。

 

やがて、イシュタルの魔装が破壊されたのが分かった。

 

「ま、まずい! イシュタル様の魔装が!」

 

「逃げ……」

 

逃げようとした悪魔の側頭部を、矢が貫く。巴御前によるものだ。

 

更に高速で飛び交う義経公が、次々に悪魔を仕留めていく。空に逃げだそうとした悪魔達を待っていたのは。

 

先に展開しておいた煌の眷属の天使達だった。

 

既にドミニオンはかなり力を蓄え、他の天使達もあらかたヴァーチャーにまで転化している。

 

一斉射撃もまさに整然そのもの。

 

たたき落とされた悪魔達が、悲鳴を上げながら壊滅していった。

 

「片付いたか」

 

「いや、まだだ!」

 

森可成が、即応。

 

ミヤズを斜め後ろから狙っていた、半透明の悪魔を槍で刺し貫く。

 

悲鳴を上げながら、悪魔が数歩下がって、そのまま尻餅をつく。森可成がとどめの刺突を入れた。

 

それで終わりだ。

 

イチロウが、すまんと謝る。森可成は、まだ油断召されるなと、険しい顔を続けたままである。

 

「二人とも、かなりのマガツヒを吸収している。 相当に力が上がっているのではないか」

 

「あまり実感はないですけれど、多分運動神経とかは以前とは比べものにならないほど上がっていると思います。 体はとても軽いです」

 

「俺も今だったら、その辺のボクサーくらいだったらどうにか出来そうだ!」

 

「そうだな。 僕も合一を解除しても、かなりの身体能力になっている。 二人が強くなっているのは分かる」

 

さて、次だ。

 

デカラビアは、ハイペースで破壊されている魔装とやらを見て、困惑気味である。

 

特にスルトが守っていた陣から、東京駅側のこちらでは、守りの悪魔も少なくはないし。移動中に攻撃を受けることも少なくない。

 

それをことごとく撃退していく煌達を見て。

 

ギリシャ支部経由で降参したとはいえ、ここまでの相手だとは想定していなかったと思っているのだろうか。

 

「デカラビア、次をたのみたい」

 

「う、うむ。 後残りは三つだ。 まずは、あちらだな」

 

トンネルだ。

 

しかもあちこち崩れてしまっている。無言になる。酷い有様だと思ったからである。

 

片方は東京駅の至近に通じているようだが、もう片方は少し離れるようだ。そちらに残りがあるらしい。

 

ともかく、東京駅近辺はまだ手出しをしなくていいと越水長官に言われている。アブディエルはあれから何も言ってこないらしい。

 

ただ、麾下の大天使が、また返り討ちに遭ったそうだ。

 

これについては、悪魔達が戦果として誇っていたので、ほぼ間違いない。

 

魔装とやらを破壊されてイシュタルが弱体化していても。

 

それ以上にベテル本部の弱体化が酷い。

 

或いはだけれども。

 

シャカイナグローリーがどんどん弱体化しているのと同じくして。

 

ベテル本部の天使達も、四文字の神の残滓を失い続け。本来の、ただの超自然的な存在である「霊的なもの」に戻りつつあるのかもしれない。

 

だとすれば、大天使だろうが何だろうが。

 

他の悪魔に対して優位などとれない。

 

崩れ気味のトンネルを抜ける。途中砂がかなり入り込んできていたが。トンネルの出口近くに龍穴があったので、其処で一息をつく。

 

一度イチロウとミヤズ、それにヨーコには戻って貰う。

 

煌も戻ろうかと思ったが、デカラビアから目を離したくない。二人には戻って貰い、煌はギュスターヴから回復して貰う。

 

直に会わなくても、余程退屈なのか、回復を進めつつギュスターヴは話しかけてくる。

 

ギュスターヴ曰く、魔界に展開していたミマンがほとんど戻ってこなくなっているそうである。

 

それはそうだろうなと思う。

 

ツバメさんがこの間のスルト戦で負傷。その前にも、マタドールとの戦いでしゃれにならない怪我をしているのだ。

 

しばらくはこちらには顔を出せないだろう。

 

だとすると、ミマンをどこからともなく見つけてくるあの人の独自の嗅覚がなくなったことを意味している。

 

「この近くにな、ええと、誰だったか。 板東武者の祖だかなんだかって奴の力が残されていてな」

 

「板東武者の祖。 平将門公だろうか」

 

「おお、そいつだそいつ。 おまえ相変わらず話していてストレスがなくていいな。 ともかくそいつのところにたんまりミマンがいるみたいでよ。 後で回収してきてくれないか」

 

「分かった。 その代わり、僕はともかく、他のみなの回復を値引きしてくれ」

 

成果次第だと釘を刺した上で、しっかりしていやがるとギュスターヴは笑った。苦笑いではなく、明らかに好意的な笑いである。

 

悪魔だから、しかも顔役だから、からこそ。

 

むしろ煌のようなしたたかな発言には、好意的になるのかも知れなかった。

 

程なく龍穴から戻ってくる。

 

ただし、ユヅルとミヤズだったが。ヨーコはいない。

 

「イチロウは」

 

「ヨーコさんと一緒に、東京での悪魔退治に出て貰った。 最近かなり良質な実戦を積んでいるし、僕と同じような扱いをこれからはするそうだ。 まだ少し頼りないが、あの森可成がついているから大丈夫だろう」

 

「お兄ちゃん。 イチロウさん、少し頼りなく見えるけれど、立派に戦えているよ」

 

「分かっている。 ただ、僕としてはまだ危うく見えるんだ」

 

悪魔のささやきに耳を貸す時は、一瞬だとユヅルは言う。

 

軽く話してくれる。

 

聞いた話らしいのだが、あの八雲ショウヘイについてだそうだ。そろそろ開示しても良いだろうと、越水長官が話してくれたらしい。

 

八雲の両親は立派な存在で、母親は強力な日本神道系の能力者。父親はキャリアではないが、正義感の強い腕利きの警官であったという。二人とも誰もが認める立派な人物で、腐敗した八咫烏でさえ、八雲の母親にはかなり低姿勢で当たっていたそうだ。

 

だが、それを邪魔に思う人間も多かった。

 

立派な人間ほど、感情的な反発を招く。くだらない連中のプライドを傷つける。

 

何がきっかけだったかは分からない。

 

ただ。そういう屑は、18年前に主力が消し飛んだ八咫烏残党の中にさえいた。

 

そして、襲撃が行われた。

 

「当日何が起きたのかは、詳しくは分かっていない。 ただ、八雲の両親は、人間達によって殺された」

 

「!」

 

「悪魔に使嗾されたことは分かっている。 八雲はその頃から行動を共にしていたらしいジョカとともに、手を下した人間達、悪魔、全てを殺し尽くした。 その中には八咫烏の重鎮もいたらしくてな。 以降は追っ手が掛かったが。 その全てが返り討ちに遭った」

 

そうだろうな。

 

ツバメさんが出なければ、八雲をとめるのは難しいだろう。

 

八咫烏が、十八年前の時点で腐敗しきっていたことは、煌も聞いている。

 

それを考えると、非常に厳しい状況に八雲は置かれていたのだろうと思う。

 

「酷い話……」

 

「ああ、酷い話だ。 だが、八雲がそれでたくさんの人を傷つけて良い理由にはならない。 そしてこれは、他人事ではないんだ」

 

ユヅルの懸念は分かる。

 

イチロウは最初の頃、散々ヨーコに白い目で見られていたし、意志薄弱とまで言われたことがある。

 

決断をするのがつらいと、相談を受けたことだってある。

 

ユヅルみたいなタイプから見たら、いつ墜ちても不思議ではないのだろう。

 

ともかく、準備は整ったので、残りの魔装を破壊に向かう。

 

やはりそれぞれで悪魔が見張りについていたが、はっきり言って其処までの難敵はいない。

 

そろそろ確認されている大物……イシュタルの他にはチェルノボグとアリオクだったか。それらが出てきてもおかしくはない筈だが。東京駅に閉じこもっているのかも知れない。実際、ベテル本部が受けているダメージは深刻だ。

 

わざわざ出て行って決戦しなくても、穴熊を決め込んでいれば良いし。

 

要塞の攻略戦が常に成功しているわけでもないのだから。

 

魔装を発見。

 

倒壊したビルに完全に埋まっていた。

 

大獄丸と酒呑童子が吹っ飛ばし、更にはがれきの中の邪魔なものを、霜の巨人がよけていく。

 

そうして、後は雑多な悪魔達が猛攻を加え、粉砕。

 

そうして二つを破壊。

 

後は、一つだけだ。

 

少し小高いところに出る。上空から調べてみるが、確か、この辺りは将門公の首塚があるところだ。

 

将門公は現在でも畏怖と敬意を払われており、日本では悪魔なんかより怨霊の方が余程恐れられている良い例である。

 

辺りは滅茶苦茶に破壊されているのに、この辺りはかなり無事だ。

 

神社がまるまる残っている。

 

国津神が集っていた神田明神でも将門公は祀っているのだが、それ以外の場所でも確かいくつか分社があるはず。

 

これは恐らくだが、その一つだろう。

 

周囲を警戒するが、なんだこれは。

 

デカラビアが、唸る。

 

「なんだかよく分からないが、魔装が既に破壊されそうだ。 此処に恐らく力が集まっているから作ったのだろうが、その力に内側から崩されつつあるようだ」

 

「将門公は私も聞いたことがあります。 それほどまだ力が残っているのでしょうか」

 

「可能性はある」

 

実際問題、あれだけ人間から畏敬を受けていたのだ。

 

東京で18年前に大破壊が起きても、耐え抜いていてもおかしくはないだろう。

 

周囲を確認すると、確かに多数のミマンがいて、並んでいるが。

 

あれはなんだ。

 

北斗七星だろうか。

 

「侵入者よ」

 

いきなり荘厳な声が聞こえる。威圧的ではなく、たしなめるような声だった。

 

周囲を見回すが、出所は分からない。

 

或いは、神社の中からかもしれない。

 

「汚らわしい魔の道具を設置したのはおまえ達か」

 

「いえ。 その魔の道具を排除するために来ました」

 

「……そうか。 どうやら嘘ではないようだな。 ただ、多数の魔を従えてもいるようだ」

 

「私が話す」

 

不意に出現したのは、義経公だ。

 

そして義経公が、最敬礼を神社にしていた。

 

「平将門公にございますな」

 

「其方の気配、覚えがある。 ……源の一族の」

 

「はい。 九郎義経にございます」

 

「おお、後の時代に伝説となった武士ではないか。 其方ほどのもののふが、従うほどの相手と言うことか」

 

御意と、義経公が敬意を示す。

 

そうなると、この声が、将門公か。やはり強大な力を、未だに維持しているようである。

 

「この夏目煌は、ナホビノでありまする。 そして今まで見てきましたが、静かに淡々と悪を倒し、かといって己の正義を押しつけもいたしません。 理論的に相手と接し、良くない点については静かにそれを指摘する。 理性的な存在にございます」

 

「ふむ、其方がそういうということは、立派な者であるのだな」

 

「お試しになられますか」

 

「いや、其方が其処まで考えるのであれば良い。 では、その魔の道具を消し飛ばしてしまうとしよう。 ただし、この神社を傷つけると面倒だ。 手順を踏むように」

 

意識がない様子のミマン達が、ゆらゆらと蠢いている。

 

北斗七星に従って、ミマン達に触れていけ。途中の死兆星には触れないように。

 

そう言われたので、煌は浮いたまま移動して。順番に北斗七星に触っていく。

 

中華の思想では、北斗と南斗はそれぞれ神格であり、生死を司る存在である。今回は、その力を利用して、魔を排除してしまうつもりというわけだ。

 

多数の悪魔が姿を見せる。

 

恐らく、最後の魔装ということで、守りに来たのだろう。

 

だが、将門公が一喝。

 

「無礼であるぞ! 下がりおれ!」

 

「……っ!」

 

数百はいた悪魔が、それだけで消し飛んでしまう。

 

これは、ちょっとばかりしゃれにならない。恐らくだが、東京における最強の存在はこの将門公ではないのか。

 

勿論東京を離れれば、そこまでの力は発揮できないだろうが。

 

それにしても、今の力は途方もなかった。

 

これまでは、様子を見るために魔装を敢えて残していたのかも知れない。だとすると、今、手違いをするわけにはいかない。

 

儀式を続けていく。

 

そのまま、最後まで北斗七星の位置にいたミマンに触れると。神社がまばゆく光る。デカラビアがひっと悲鳴を上げるが。

 

ユヅルが即座に契約をして、自身のハンドヘルドコンピュータに格納。

 

消滅を逃れた。

 

光は辺りを包み、周囲を徘徊していた悪魔をまとめて消し飛ばしてしまったようだ。煌も、凄まじい力の奔流に、驚かされていた。

 

光が収まると、魔装は綺麗さっぱり消え去り。代わりに、美しい枯山水が敷かれた神社が戻っていた。

 

其処に立っているのは、威厳のある大鎧を着た武人だ。

 

源義経公が、平将門公だと言う。

 

皆、それぞれ膝を突く。

 

そうすべきだと、煌も思った。

 

「試しには合格したようだな。 もしも其方が邪心あるものであったら、今ので消し飛んでいただろう」

 

「はい……」

 

「私は此処でしばし力を蓄える。 この地で不埒な外来種どもが18年前の事件以降、暴れているのは分かっておる。 東京の民をそれで苦しめていることもな。 だが私もまた、その18年前の事件で大きく力を奪われた。 わずかな抵抗で神々が完全消滅することだけは避けたが、それしか出来なかった」

 

「国津の神々と天津の神々は救出しました」

 

そう告げると、そうかと、穏やかに将門公は言う。

 

そして、刀を残してくれた。

 

いざという時。本当に最後の最後に必要となったら使うようにと。

 

確かこれは最大級の名誉に当たるはずだ。

 

将門公の刀を受け取る。

 

じんわりと熱く。それはとても力強かった。

 

神社を離れる。此処を穢すことは許されない。外に出ると、今の光の奔流を見て、来たらしい悪魔が降り立ったところだった。

 

堕天使オセだ。空挺部隊は未だに健在であるらしい。

 

一瞬だけにらみ合うが、オセは鼻を鳴らす。

 

「これは少しばかり分が悪いな。 俺は引かせて貰うとする」

 

「良いのか、戦って行かなくて」

 

「構わない。 どうせ雇われの身だ。 それに……今ので確信した。 創世が起こるとしても、あの忌々しい四文字の神がよみがえることはない。 だとしたら、今以上に悪くなることはない。 俺としては、それで充分だ」

 

引くぞ。

 

そう叫ぶと、オセは麾下の空挺部隊とともに去って行く。

 

ユヅルも、それを見送る。

 

あの部隊が戦線を離れたことは、イシュタルにとって痛手の筈だ。ともかく、此処は事態を進める好機だろう。

 

越水長官のところに戻ることにする。

 

色々起きたことを、全て話し。判断を仰がなければならなかった。

 

 

 

まだツバメさんの様態が良くない。生死の境と言う訳ではないが、戦えるようになることを求められている。

 

それもあって、タオはまだつきっきりで回復の途中だ。

 

逆に言うと。

 

タオとツバメさん以外の全員が、東京駅の近くに来ていた。

 

上空で、イシュタルが暴れ狂っている。

 

数をただでさえ減らしている天使達を、文字通り紙くずか何かのように引きちぎりながら飛んでいる。

 

あれで弱体化しているというのだから、凄まじい。

 

天の女主人というのは伊達ではない。ちなみに、デカラビアはユヅルのハンドヘルドコンピュータから出るつもりはないそうだ。

 

流石に裏切りを働いて、そのまま顔を見せる気にはなれないのだろう。

 

程なく、イシュタルが降りてくる。

 

豊満な全身を、薄着で包んでいて、ちょっと度が過ぎた露出だ。ブロンド透け肌の西洋的な美しい女性だが、頭には角が生えている。

 

バビロニア神話の神格だから、恐らくは褐色肌が正解に思うのだが。

 

まあこの辺りは、後世のイメージからか。

 

「今来ている天使どもはあらかた片付けた。 次は其方等だ。 スルトを討ち取ったのは其方等だな」

 

「ああ。 僕は夏目煌」

 

「……イシュタルだ」

 

皆が名乗り、それにイシュタルは無言で応じる。

 

しばし沈黙が流れたが、既に全員臨戦態勢だ。イシュタルに、煌は話しかける。

 

「貴方は一神教に貶められた存在の一角であるのは理解する。 しかし、なにゆえに一神教の悪魔であるアリオクに味方している。 この状況であれば、貴方は創世でも目指した方が良いのではないか」

 

「ふふ、面白いわねえ貴方」

 

口調が変わったな。

 

或いはだけれども、話すつもりになったのか。

 

「一神教の神が、女神を貶め続けた事は知っているかしら」

 

「ああ。 そもそも配偶女神が存在したのに、それすら弾圧したことも」

 

「ならば話が早い。 私のするべき事は、一神教のあの忌々しい神の残党を可能な限り削ることよ」

 

「……」

 

なるほどな。

 

イシュタルがしたいことが分かった。

 

咳払いすると、煌はそのまま聞く。

 

「要するに、一神教の残党……アブディエルが率いるベテル本部による創世を阻止するのが目的、ということか」

 

「理解が早くて良いわねえ。 私を下してみなさい。 貴方はとてもベテル本部の犬には見えない。 もしも下して見せたなら、貴方の麾下に入ることを考えてあげても良いわよ」

 

「分かった。 いずれにしても、東京に対して悪魔が侵攻してくることがとても多く、被害者も出ている。 その一因となっているこの混沌の勢力は、打ち倒さなければならないのも事実だ」

 

「貴方達の動きを見る限り、その過程でベテル本部の力も削ると。 日本支部の長はあの越水でしょう? あれが人間ではないことは、既に把握しているのではないかしら。 したたかな男だわ」

 

ハンドサイン。

 

イシュタルは空中戦を得意としていて、はっきりいって生半可な機動力では勝負にならない。

 

魔装を剥ぎ取った状態で、天使達を紙切れみたいに引きちぎる実力者だ。速度に関しては、今までの悪魔の比ではないだろう。

 

だから、逆に。

 

その快速さえ殺してしまえば、倒せるはずだ。

 

「私は豊穣の神であると同時に、天の女主人と言われる存在。 武勇と生死を司る神でもある! 少しでも私を満足させて、あの傲慢な四文字の神が、二度と世界を支配しないことを確信させてみなさい! そうでなければ、此処で全員引きちぎってあげるわ!」

 

躍りかかってくるイシュタル。

 

やはり、早い。

 

だが、その瞬間、アナーヒターが動く。他の皆の仲魔も、同じように動いていた。

 

辺りに、雹が舞い散る。

 

それも、マーメイドが詠唱しながら、渦を巻いて辺りを薙ぐ。イシュタルは、速度をこれでは殺さざるをえない。

 

それでも凄まじい早さで、イチロウの後ろを取りに来る。

 

森可成が即応。槍で蹴りを受け止めるが、イチロウもろとも吹っ飛ばされる。だが、致命傷を避ける。更に立て続けに、ミヤズに手刀を繰り出すが。それを、大獄丸が、体で防いでいた。

 

周囲から矢がイシュタルに襲いかかる。巴御前や、義経公による奇襲だ。

 

雹で傷つきながらも、残像を作ってイシュタルがかわしていく。苦々しげに顔をゆがめているのは。

 

速度を殺す状況が作り上げられたから。

 

しかもこの様子だと、速力を殺す攻撃に対する遠距離技も手持ちがないな。

 

雹は正直な話、煌くらいの速度で動き回っていれば無視できるレベルだ。皆もほとんど苦にしていない。

 

だが滞空時間が長く。

 

そして粒自体が大きいことが、イシュタルの動きを阻害し、更には強みを削ぐ。

 

雹の範囲外に逃れようとするイシュタルだが、其処に待ち伏せしていたのが義経公である。

 

速度は凄まじく、残像を作りながらイシュタルに凄まじい数の斬撃を浴びせかける。イシュタルが飛び退くが、もろに背中から雹に突っ込む。

 

「ふうむ、やるわね……」

 

「速度を殺された時点で、速度を生かした戦いでは勝ち目がないぞ」

 

「ふっ。 引き出しがこの程度しかないとは思わないで貰おうかしら?」

 

地面に手を突くイシュタル。

 

豊穣神としての力も持っているのだ。

 

その場から、膨大な植物が吹き上げてくる。砂を食い破って現れる植物は、命そのものというよりも。

 

凶暴性すら感じさせる激しさだ。

 

雹が吹っ飛ばされ、大型の悪魔が身動きがとれなくなる。

 

逆にある程度傷ついていても、イシュタルは健在だ。

 

ミヤズがアサルトライフルで撃ち続けているが、対悪魔用に弾丸を作っている(一発十万円を超えるらしい)のに、まるで効いている様子がない。

 

凄まじい風が、今度はイシュタルからこっちに吹き付けてくる。

 

天の女主人だ。

 

自分に向けて使っていた風を、今度は外部に展開したという訳だ。

 

「さて、まとめて吹き飛ばしてあげようかしら……何っ!?」

 

どうしてかは分からないが。

 

煌にとって、この暴風雨は非常に力を後押ししてくれる。滾る力。詠唱しながら、立て続けに印を組む。

 

まずいと判断したのか、イシュタルが仕掛けてこようとするが。

 

其処に、酒呑童子が立ち塞がり、金棒を振り下ろす。

 

体格はほとんど変わらないが、林立する植物を使って立体的に接近してきた酒呑童子の金棒を、イシュタルはよけきれず。

 

直撃を受けて、地面にたたき込まれていた。

 

吹っ飛びながらも態勢を立て直すと、圧搾した空気を酒呑童子に叩き返すイシュタル。

 

だが、塗り壁やユヅルの猪笹王が迫り、それらを必死に回避した上に。

 

拳を固めた霜の巨人が待っていた。

 

アームハンマーをたたき込む霜の巨人の一撃を、まともに片手で受け止めてみせる。体格差は十倍どころじゃない。

 

それでも、流石に最高位神格だ。

 

半笑いすら浮かべる余裕を見せている。

 

ただし、そこまでだ。

 

投擲された槍が、脇腹に突き刺さる。

 

ぐうっと、イシュタルが呻く。

 

槍を投擲したのは森可成だ。更に、多数の魔法が連続してたたきつけられ。イシュタルが炎に消える。

 

炎を吹っ飛ばしたイシュタルが、霜の巨人を放り投げる。

 

わっと巨体から逃れる皆。

 

霜の巨人を大獄丸が受け止め、更には義経公が迫ろうとするが、イシュタルが風で押しとどめる。

 

だが、其処に大量の札が迫る。

 

光で壁を作り出したイシュタルだが、それが貫通されて、爆発。手傷を受けながらも、着地するイシュタルに仕掛けたのは、ヨーコだった。

 

「おー。 流石に天の女主人。 綺麗なお肌ー」

 

「なっ!?」

 

側で見上げていたわーに、漫画みたいなリアクションで驚くイシュタル。風を使うイシュタルには、大声よりこっちの方が効果があると思ったのだろう。

 

やはりこの子。

 

多分ただの妖怪じゃないな。

 

そしてこの瞬間。

 

煌の詠唱は、完了していた。

 

多段型の攻撃である荒神螺旋斬を、一点集中した奥義。しかもイシュタルは、わざわざ嵐の場を整えてくれた。

 

どうしてか分かるのだ。

 

それこそが、煌が今最大の力を発揮できる場なのだと。

 

更にミヤズが支援魔法で、筋力、速度、魔法の力、全てを引き上げてくれる。アマビエが何やら珍妙なダンスを踊っているのも、恐らくそれの支援強化だ。

 

イシュタルが全力でのガードの姿勢に入る。周囲は自分が生やした植物だらけ。此処から高速機動に切り替えるのは無理。

 

更に、マーメイドが煌の周囲に水を展開してくれる。思念を飛ばしてそうしてくれと頼んだのだ。

 

水が、空に向けて掲げた手刀に集まってくれる。

 

アナーヒターとアルテミスが、イシュタルの左右に展開。

 

逃がさない構えだ。

 

そのまま、煌は、神剣を振り下ろす。

 

どうしてか、剣の名前は分からない。

 

恐らくはアオガミの記憶領域が破損しているからだろう。だが、この破壊力。まさに、神の剣によるもの。

 

イシュタルに、降り注ぐは。

 

嵐をすべる、文字通りの必殺の一撃。

 

イシュタルは全ての風の力を収束させ、それを受け止めに来る。流石は古代バビロニア神話の重鎮。

 

凄まじい斥力で、煌も一瞬押し切れなくなりそうだが。

 

だが、イシュタルは、にやりと笑っていた。

 

「そうか、分かったわよ。 貴方はこの国の牛の系譜の恐らくは頂点! バビロニアのマルドゥークと系統を同じとする者! だけれどそれにしては力が弱い! だとすれば、その力は、恐らくは分霊体のもの! だからナホビノとなっても、まだこの程度の力しか引き出せていない! で、でも、それも過去の話に……!」

 

押し切る。

 

凄まじい爆発。

 

アナーヒターが全力で水の壁を作り上げ。ユヅルやイチロウ、更にヨーコもそれに習ったのだろう。

 

壁で、破壊力の致命的な波及を押さえ込む。

 

程なくして、東京駅の前に、バンカーバスターでも直撃したような大穴が出来。

 

其処には、既にイシュタルの姿は存在していなかった。

 

強敵だった。

 

マガツヒを吸収する。

 

イシュタルは意識だけ存在していて、負けた負けたとからからと笑っていた。力が足りたら呼び出しに応じてやるとも。

 

すぐに被害状況を確認。

 

ミヤズが声を掛けてくるので、消耗について話しておく。煌の眷属達は回復を幾らでも出来る。

 

イチロウがごっそり右腕を抉られていて。かなり出血していた。ユヅルもあまり無事ではなさそうだ。普通だったら入院レベル、下手すると腕が使えなくなるが。こういうのは魔法の得意分野。アマビエを中心として、数体の悪魔が回復を続けている。ギュスターヴの回復も含めれば、すぐに治る筈だ。

 

ただ、それを含めても損害が大きすぎる。一度戻るべきだろうな。

 

そう決めた瞬間、アブディエル達が空から降りてくる。

 

一瞬のにらみ合いの末に、アブディエルは笑った。あまり好意的な笑みではなかったが。

 

「どうやら相当に……いや想像を遙かに超えてやるようだな小僧。 イシュタルは私が倒すつもりだったのだが」

 

「そうか。 先に手柄を独占してしまったようで済まなかった」

 

「かまわん。 今、この東京駅には残る混沌の首魁、チェルノボグとアリオクが控えている。 それらは必ず我らで討ち取る」

 

アブディエルが従えているのは、精鋭中の精鋭の天使達のようだ。

 

だが、それでもはっきり言って、今のイシュタルと同レベルの相手は厳しいかも知れない。

 

東京駅に入り込んでいくアブディエルと麾下の天使達。

 

それを見送った煌は皆に一度戻ろうと冷静に告げていた。

 

やりたいならやらせておけば良い。多分アブディエルは、アリオクには勝てない。イシュタルから得た情報。そして今の煌の実力。それらから分析して、そう判断していた。







※イシュタル

原作でも華麗な空中戦を披露し、戦闘前に四文字の神への恨み節を述べる彼女。

一神教はもともと一神教ではなく、神には配偶者の女神も存在していました。普通の多神教だったんです。

それが女神というものを徹底的に嫌って排斥していったのは事実です。

近年ではイシュタルの逸話……神殿が娼館云々の話は、嘘八百の可能性が高いという説まで出てきています。

そういう話までねつ造されたものだったとしたら。

まあ怒り心頭でしょうね……


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