真女神転生VV二次創作 牛蛇相克   作:dwwyakata@2024

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というわけで歌舞伎町での最大イベント、魔人アリスの話です。

アリスは真Vでは仲魔にはなりましたがそれだけ。真VVでついに個別イベントとつれ歩きが採用されたので、ファンは喜んだかと思います。

歌舞伎町に死を撒き散らかしていたのはアリスですが。

それは悪意があってしていたことではないのです。





2、魔人アリスと吸血鬼

タオがようやく戦線復帰することになった。ツバメさんの治療が一段落したから、である。

 

後は一般医療だけで大丈夫。

 

ツバメさんの消耗も考えて、数日は休みを取るが、それで全快まで持って行ける予定だそうだ。

 

流石のギュスターヴも体力までは回復できないのだ。

 

ともかく、魔界の歌舞伎町近辺を調べる。

 

以前交戦した魔人の実力を考えると、ああいうのがまだ潜んでいる可能性はあり、それは極めて危険だ。越水長官の話を聞く限り、一旦アッシャー界に具現化した後、位相を越えて東京に侵攻するのは簡単だと言うことだ。

 

ならば、できる限り。

 

魔界にいる悪魔は、仕留めておかなければならない。

 

特に危険な相手は、である。

 

この辺りは元々反社がろくでもない商売をしていた地域でもある。夜の街といえば聞こえは良いが、実際には善意を悪意が食い物にする地獄の一丁目だ。

 

悪魔にとっても居心地が良いだろう。

 

今回は、煌の他には、イチロウとミヤズ、それにタオで来ている。

 

ユヅルとヨーコは東京で掃討作戦を実施。

 

東京駅の戦いでは、ベテル本部が介入不要を他の支部に連絡してきているそうだ。アブディエルだけで残りの大物。

 

チェルノボグとアリオクを倒すつもりのようだった。

 

魔界に出ると、すぐに雑多な眷属を展開。

 

周囲に偵察に出す。

 

イチロウも同じようにする。

 

アールマティの守護を得てから、イチロウは更に大胆に動けるようになってきた。側では森可成が適切なアドバイスをしているし、もう完全に一人前だ。

 

後はミヤズに強力な手持ちがいれば良いのだけれども。

 

それはそれとして。

 

力がどんどん上がっているらしいタオと少しぶりに顔を合わせたが、なんだか少し様子が変わったか。

 

全身にまとう光の力が明らかに強くなっているし。

 

なんだか人間を踏み外しかけているような。

 

周囲を警戒しながら、少しずつ進む。

 

この辺りは元々高いビルは存在しなかったのだが、それでも滅茶苦茶に壊されているビルはたくさん見かける。

 

それらの中には悪魔が住み着いていたり。

 

魔界に落ちて殺されただろう人の遺品も少なからず見つかった。

 

勿論生身の人間が三人もいるのだ。

 

雑多な悪魔が仕掛けてくる。

 

ただ、煌の手持ちとして常に何体か強力な眷属が出ている。

 

それを見て尻込みしてしまう悪魔も多く。

 

それでも仕掛けてきても、イチロウとミヤズだけで充分に対処できる範囲だった。タオは回復だけで充分である。

 

「ねえねえ煌ちゃん」

 

「どうした」

 

わーが側で見上げてくる。

 

そして、視線で指す。

 

「気づいてると思うけど、見られてる」

 

「ああ、分かってる」

 

前も吸血鬼らしいのが見ていた。

 

程なくして、堂々と正面から白いコートの男性が姿を見せる。非常に人間に近い姿だが、人間ではない。

 

今の煌には、それが分かった。

 

見ていた吸血鬼は、それを見てさっと姿を隠したようだった。

 

「こんな危険な魔界で平然としている人間か。 デビルサマナーにしても相当な腕利きとみた」

 

「貴方は? 僕は夏目煌」

 

相手は紳士的だ。

 

煌は名乗り、皆を紹介する。頷くと、相手は幻魔クルースニクと名乗った。

 

クルースニクか。

 

「煌、知っているのか」

 

「吸血鬼と戦い続ける戦士だ。 りりしい青年としてのイメージが固まったのは近年だがな。 古くは吸血鬼というのは雑多な怪異と大して変わりはなく、圧倒的な凶悪存在として認知されるようになってきたのはごく最近なんだ」

 

「そ、そうだったのか」

 

「吸血を行う怪異そのものは多く古くから存在はしていたが。 ただアティルト界の存在が現在のイメージに引きずられることを考えると、決して吸血鬼は侮れる存在ではないだろう」

 

煌が軽く説明をするが。

 

イチロウが聞き役をしてくれるので、話しやすい。

 

イチロウも知らないことはきちんと知らないと言える。これは立派なことで、頭が本当に悪いと相手が知らないことを言っていると即座に嘘だと決めつけ始めたり「マウントを取っている」などとほざき始めたりする。その手の手合いとは話すだけ労力の無駄なので、イチロウは自己評価よりもずっと立派だと煌は思う。

 

「詳しくて助かる。 少しばかり厄介なことになっていてな。 腕利きのデビルサマナーと、まさかナホビノか? それでも、此処からは離れた方が良い」

 

「どういうことだろうか」

 

「死の力を感じているのではないか。 特にそちらのお嬢さんは凄まじい聖なる力をお持ちのようだからな」

 

「はい。 確かにまがまがしい力を感じます」

 

タオが頷く。

 

クルースニクは、軽く状況を説明してくれた。

 

この辺りは元々魔界でもかなり特殊で、18年前の事件で魔界になってから、すぐに天使の大部隊がやってきて占拠したのだという。

 

だが、それらはその後、大混乱の中で何派にも別れ。

 

或いは戦い合い。

 

或いは別の場所に散っていった。

 

まだ重点的に守りを固めている場所はあるが、それでも空白地帯が出来た。それがこの辺り、なのだそうだ。

 

「18年前からの事件を詳しく覚えているのだな」

 

「まあな。 私が追う吸血鬼がこの辺りに逃げ込んだ。 私は奴を倒し続けるのが使命だからな」

 

「クドラクだな」

 

「ああ、そうだ。 この辺りに落ちた人々を奴は殺してはマガツヒを吸い取り、悪魔に力を得る薬として加工して渡している。 そのような行動、到底見過ごすわけにはいかん」

 

それについては同感だ。

 

本当だったとしたら、である。

 

クルースニクは、見た感じ嘘をついているようには見えない。

 

ぽんと出現したアマノザコが、しばしじっと見ていたが。嘘はついてなさそうだよと煌にアドバイスしてくれた。

 

「分かった。 問題は一つずつ片付けた方が良さそうだ。 その死の気配というものが、どこから出現しているか分かるだろうか」

 

「こちらだ」

 

皆に視線を送る。

 

警戒をして貰う。

 

どうも吸血鬼……恐らくはクルースニクが言及しているクドラク。伝承でクルースニクと戦い続ける吸血鬼だが。

 

それらしいのが、グルルとの戦い前後くらいから、ずっとこちらを見ている。

 

あれは恐らくだが、イチロウやミヤズを狙っているとみていい。

 

クルースニクは或いは弱体化しているのかも知れない。

 

だとすると、普段は相克の関係であり。

 

常に戦い続けるクドラクに対し、劣勢なのかも知れなかった。

 

見えてきたのは、幼稚園か何かか。

 

歌舞伎町には似つかわしくない場所だ。

 

タオが進み出る。

 

「煌くん、私も一緒に行くよ。 この死の気配、ナホビノであっても煌くんだけだと危ないと思う」

 

「支援をしてくれるのは助かる。 イチロウ、良いか」

 

「おう」

 

耳打ちをする。

 

クルースニクは嘘をついてはいないと思うが、裏切ったりする可能性は否定しない方が良いだろう。

 

それに、グルルを解放した辺りからじっとこちらを見ている吸血鬼らしい存在。あれはクドラクだが。

 

クルースニクが出てきていると言うことは、戦力差が開いている可能性がある。

 

煌とタオが姿を消したら、襲ってくる可能性がある。

 

ぽんと出現したアナーヒター。

 

アールマティから後に派生した強力な戦いの女神。吸血鬼の弱点である流水も司る。

 

これにアールマティもいれば、クドラク「程度」だったら遅れは取らないはず。

 

だが、絶対に油断はするな。

 

そう告げると、イチロウは頷いていた。

 

「分かった。 それでどうして二人だけで行くんだ」

 

「タオさんの力が目に見えて強くなっているが、それでもあの強い死の気配だと、僕を守り切るのがやっとだろう。 今のタオさんの光の力は、吉祥天やアールマティ以上だが、この先の死の気配はそれでも危ないと感じる」

 

「そ、そうか」

 

「ミヤズさんも頼りになる。 ……もし敵が仕掛けてくるようなら、出来る限り削り取ってくれ」

 

イチロウが頷く。

 

よし、では出向くか。

 

タオとともに、幼稚園らしい場所に進む。

 

なんだこれは。

 

入り込むと、その瞬間周囲が歪んでいた。無邪気な絵画や動物のモチーフが、瞬く間に醜悪でおぞましいものへと変貌する。

 

常人なら息をのむような変化の中。

 

鈴を鳴らすような無邪気な声が聞こえた。

 

「誰ぇ?」

 

タオとともに名乗る。そうすると、声はくすくすと笑った。

 

そして、アリスと名乗った。

 

アリスか。

 

西洋ではポピュラーな名前だが。アオガミが警告してくる。

 

「データベースに一致。 近年出現が確認されている魔人にアリスという存在がいる。 非常に強力な魔人で、生半可なデビルサマナーでは手も足も出ないという事だ。 最大限の警戒を推奨する」

 

「分かりました」

 

確かにこのまがまがしい気配、尋常なものじゃない。

 

タオが中和してくれているからいいものの、そうでなければ一瞬で絶息させられていたかもしれない。

 

アリスは楽しそうに笑っていたが。

 

程なく姿を見せていた。

 

小学生に上がるか上がらないか、くらいの年頃の人形みたいにかわいらしい女の子だ。金髪透け肌、恐らく西洋系だろう。透け肌を通り越して、死人みたいな肌色だが。

 

青い服を着込んでいて、リボンがおしゃれである。

 

わーがいつのまにか、アリスの前に出ていた。

 

「わ、おしゃれな服! 今風の服?」

 

「そうだよ。 前に友達のおかあさんと、貴方にあった事があるけれど、その時はちょっと姿が違ったんだ」

 

「面白ーい! ね、遊んでよお兄ちゃんお姉ちゃん! それと……」

 

「ごめん、私名前がないんだ。 わーちゃんって呼ばれてる」

 

そっかと、アリスは気にしている様子もない。

 

こっちこっちと、楽しそうに幼稚園らしい家の中に駆けて、いかない。浮遊しているし、動きも人間離れしている。

 

幽霊かというと、そんなことはないようだが。

 

しかし、極めて異質だ。

 

不気味の谷に一歩踏み込み掛けている。

 

内部には、幽霊と一目で分かる者達がいた。

 

いずれも酷い死に方をしたのが分かる。皆魔界に落ちて悪魔に殺されたのだろう。アリスが、家族だと紹介してくれるが。

 

どうみても、アリスに血縁があるようには思えない。

 

おままごとがしたいとアリスは言う。

 

タオと目配せ。

 

これは、ある程度付き合ってあげて。それから、少しずつこの歪んだ世界を解除するべきだ。

 

アリスに悪意はない。

 

だが、存在するだけで周囲を死でむしばむタイプだ。

 

それがどうして悪いかも理解できないかもしれない。ただ強大な力だけを与えられた子供。

 

如何にそういった存在が危険かは、類例を幾らでも出せる。

 

わーが率先して、おままごとに付き合う。

 

奥からアリスが取り出してきたのはティーセットだが、えぐいえぐれ方をしていて。ぞっとするほど悲惨な破壊をされていた。

 

アリスには、これがおしゃれなティーセットに見えているのかもしれない。

 

歌舞伎町には高級な調度品が幾らでもあったはずだ。それがたとえ、このような破壊を受けた後であっても。

 

無言で席に着くと、アリスが行うお茶会に付き合う。

 

周囲にいる幽霊達は、アリスはお茶を入れるのが上手だね、かわいいね、とひたすら褒めている。

 

だが、少しずつ、煌は見抜く。

 

アリス自身が、これは茶番に過ぎない事を知っていると。

 

しかし急いては事をし損じる。

 

少しずつ。この歪んだおままごとを、解体していかなければならない。

 

首がもげかけた初老の男性の幽霊が、アリスに歌を歌ってくれないかと言う。タオが頷くと、ひとしきり強烈な光の力を展開。それも無作為に広げるのではなく、かなり面白い使い方をしている。

 

煌と自身を守り、この領域から死の力が漏れないように。

 

アリスは頷くと、マザーグースの一節を唱え始めた。

 

歌が上手かはともかく、かわいらしい歌だ。ただし、それが明らかにおぞましい呪いと死をまき散らしていなければ。

 

脂汗を掻いているタオ。

 

マザーグースは知っているかと小声で聞くと、首を横に振られる。

 

では、仕方がない。

 

煌も歌うか。

 

「僕も歌おう」

 

「わ、素敵! 一緒に歌おう!」

 

ハンプティダンプティの歌を歌う。

 

塀に座っていた卵のハンプティダンプティは、落ちて割れてしまう。王様は家来達を集めて、ハンプティダンプティを助けようとしたが取り返しがつかず、潰れた卵は元に戻らなかった。

 

壊れてしまうと取り返しがつかない。

 

そういう歌だ。

 

歌い終わると、アリスはきゃっきゃっと黄色い声で笑う。

 

だけれども。

 

それで、すっと静かになっていた。

 

「お兄ちゃん、歌下手だね……」

 

「すまない」

 

「ううん、でもマザーグース知ってるだけで嬉しい。 今までの家族は、みんな知らなかったんだ」

 

アリスが、ぼそりとぼやく。

 

分かっている。日本語が使えているわけじゃない。恐らく、魔法の力で意思疎通をしてきている。

 

それでもなお、マザーグースなんて学校でちょっと触れて、以降は忘れてしまっている人間の方が多いだろう。

 

アリスが、寂しそうに目を伏せた。

 

正気に戻ったんだ。

 

それがきっかけになった。皆、夢から覚めた。この空間の主であるアリスが、夢から覚めたから。

 

周囲の幽霊達が、はっとした様子で。自分に気づいたようだった。

 

「アリスや。 おじさんはもう行くよ……」

 

「うん。 おとうさんのフリをしてくれて、ありがとう」

 

「魔界で悪魔に酷い殺され方をして、生き血を啜られているのを、こんな形とは言えよみがえらせてくれて。 それで一瞬だけでも、家族と一緒にいるつもりになれて良かった。 おじさんは氷河期って時代の人間でね。 結婚どころじゃない世代だったんだ。 家族を持ちたいと思っても持てない時代だった。 アリスみたいな子供を持てたら、嬉しかったな。 ありがとう」

 

初老の男性の幽霊が消えていく。

 

母親役の幽霊も、また消えていく。

 

「悪魔に殺された時、アリスが自分なりに助けてくれて助かった。 私は結婚できたけど、夫が酷い暴力男でね。 それでも私はそんな夫に依存して、抜け出せなかった。 アリスと一緒に、素敵な家族を少しだけでも作れて、夢を見られて良かった。 アリス、幸せにね……」

 

そうか。

 

今の時代は、どちらもどこにでもある悲劇だ。

 

アリスのお姉さん役らしい幽霊も消えていく。

 

「アリス、お茶の淹れ方とか、力のかけ方とか、とても上手になったね。 私一人っ子で、ずっと妹ほしかったんだ。 ろくでもない時代でろくでもない会社に人生まるごと潰されて、挙げ句に悪魔に殺されたけど、でもアリス、貴方に会えて良かった。 私ずっとこれが嘘だって知ってた。 でも、嘘でも幸せだったよ。 ありがとう……」

 

皆、消えていく。

 

幼稚園らしい家が崩れていく。アリスがうつむいている中。凄まじい勢いで腐食していき。

 

そして、それは骨や腐肉と変わっていって。

 

ウジ虫が一瞬で食い尽くしていき。

 

そのウジ虫が燃えて消えていく。

 

二人の悪魔が見えた。

 

赤い服を着た、太ったおじさん。黒い服を着た、のっぽのおじさん。二人はアリスと手をつないで、荒野を歩いていた。

 

だけれど、二人はいつの間にかいなくなって。

 

アリスは魔界にひとりぼっちになっていた。

 

タオが相当に厳しそうだ。

 

煌も超がつくほどの強烈な圧力に押しつぶされそうになる中、それでも手を伸ばす。そして、わーが無言で抱きしめるアリスの肩に、手を置いていた。

 

アオガミが警告してくる。

 

「急げ煌。 この死の力、マタドール達とは次元違いだ。 タオの力が切れたら、一瞬で死ぬ事になる」

 

「分かっています」

 

アリスは分かっていたのだ。

 

自分が夢を見ている事に。

 

あの二人の悪魔も、アリスに悪意があったようには見えない。ただ存在するだけで死をまき散らすのなら。

 

それを制御できれば、それで構わない。

 

「アリス。 僕の眷属になってそれで一緒に行こう」

 

「お兄ちゃん……?」

 

「僕はナホビノだ。 眷属にさえなってくれれば、君の無作為に死をまき散らす力を制御できる。 君は誰も不幸にしなくて良くなる」

 

「……うん」

 

小さなアリスの手を取る。

 

その手に、わーが手を重ねた。

 

周囲の死の力が、急速に収まっていく。そして、魔界の歌舞伎町に満ちていた、死の地獄が、収束していくのが分かった。

 

 

 

クドラクが迫ってくる。

 

ただし、それは一体や二体じゃない。数十体のクドラクが、奇声を上げながら襲いかかってきていた。

 

痩せこけた元伊達男。

 

そういった風情のおぞましい吸血鬼が、ミヤズを狙っている。吸血鬼をエロティックな存在として描く創作もあるが。

 

今襲ってきているクドラクは、明らかに人間を餌としか見ていない、明確な敵だ。

 

クルースニクはただでさえ力が弱体化しているのに、この数相手だ。確かに接触してくる訳だ。

 

アサルトライフルの弾は通じる。

 

一発十二万三千円もする弾だが、クドラク一体を東京に解き放つだけで、どれだけの惨劇が起こるかわかったものじゃない。

 

マガジンを取り替えて、弾をばらまく。

 

アールマティとアナーヒター。巴御前と森可成。フォルネウスおじいちゃん。頼りになる皆が、必死に戦ってくれているが、それでも多勢に無勢だ。

 

一体が抜けてくる。

 

口を開いたクドラクの中には、おぞましくとがった牙が並んでいて。食いつかれたら、即死だろう。

 

血を啜るというよりも、食らいに来ている。

 

ミヤズはそれでも恐れずに、冷静に至近から十発以上の弾丸をたたき込む。下手なダンスを踊ったクドラクが、巴御前に大太刀で切り伏せられるが。

 

そのクドラクの後ろから、更にもう一体。

 

マガジンを換えるのが間に合わない。

 

だが、その瞬間だった。

 

「しんじゃえ」

 

冷え切った声。

 

同時に、クドラクが、真っ黒になった。

 

分かる。

 

これ、死の力だ。

 

クドラクは吸血鬼で、闇の眷属だが。それはつまり、闇の手下と言うこと。

 

今聞こえたのは、それの上位。闇そのものの声。

 

更に上位の死の権化が、死を命じればどうなるか。

 

瞬時に爆ぜ散るクドラク。

 

煌先輩だ。タオ先輩は疲弊しきっているが、にっと笑って親指を立ててくる。どうやら、問題を解決できたらしい。

 

そのまま、煌先輩が突入。

 

眷属達と一緒に、手当たり次第にクドラクを斬り伏せ始める。

 

やはり強い。

 

ミヤズもマガジンを換えると、逃げ腰になったクドラクを背中から撃つ。形勢不利とみた、一番強そうなクドラクを、先回りした酒呑童子が蹴りを入れ。

 

地面にたたき込まれたクドラクが、クルースニクに押さえ込まれていた。

 

大量の雑魚クドラクが掃討されるまで、そう時間は掛からない。暴れ狂っていた源義経公が刀を鞘に収める。

 

クドラクと一緒に襲いかかってきていた悪魔達も、根こそぎ消し飛んでいた。

 

煌先輩の側に、青い服の金髪の女の子がいる。

 

嫌な気配はあるけれど、耐えられる範囲だ。多分、あの子が死の力の根源。それを恐らくは、煌先輩が制御したのだ。

 

イチロウ先輩が、片膝を突く。

 

かなり息が荒いが、戦い抜いてくれた。森可成と連携して、存分に戦えていたと思う。昔の頼りなさは、もうない。かっこよくは勝てないかもしれないけれど。

 

クルースニクが、クドラクの頭を抑える。

 

「年貢の納め時だ外道」

 

「はっ! 餌を食い散らかして何が悪い!」

 

「餌? それは貴方のことだけど?」

 

冷え切った声で女の子が言うと、クドラクがあからさまに怯えきった声を出した。確かにミヤズから見ても、一目で分かるほど力が違う。

 

歩いてきた女の子は、クドラクに慈悲をかけるつもりは微塵もないようだった。

 

「私の家族にちょっとだけの時間だけれど、なってくれた人たちは、みんないい人ばかりだった。 それを良くも殺してくれたね」

 

「お、俺が力を得て成り上がるためだ! 人間どもだって、他人がどうなってもいいって考える奴が今は出世する時代なんだよ! 「先進国」だのじゃ、ドラッグ売りさばくのを「ビジネスチャンス」とか言ってやがるんだぞ! それを「インテリ」が当たり前だと思い込んでいる時代なんだ! 他人は全部餌、って考える人間が金を独占して権力も得る時代なんだよ! それを人間がやってるのに、俺がやってなんでいけないんだ!」

 

「黙れ外道」

 

流石に頭に来たのか、森可成がクドラクの首をたたき落とす。

 

クドラクの首を女の子が拾い上げると、見る間にその顔が苦痛に歪んでいく。

 

「大サービス。 貴方が殺して加工した人間の苦しみと悲しみと痛みは私が正気になった今は全部記憶してるんだ。 それ、全部貴方に百倍にして返してあげるね」

 

「ひっ! や、やや、やめてくれ! そんなことされたら、アティルト界にいる俺の本体まで崩壊しちまう!」

 

「崩壊すれば?」

 

「や、や、ぎゃああああああああああああああっ!」

 

クドラクが、凄まじい絶叫の中、圧搾されて消滅した。

 

これは、クドラクという悪魔は二度と出現しないか、或いは出現するとしても何百年も掛かるかも知れない。

 

煌先輩が、一度戻ろうと提案してくる。

 

アリスと言う悪魔の女の子を紹介してくれた。出来るだけ優しくしてあげてほしい、とも。

 

ミヤズも子供への接し方は習っている。

 

気配が露骨に変わり、雑多な悪魔が逃げ始めた歌舞伎町を去る。この辺りは、これで一気に安全になった。

 

そう判断してよかった。







※クドラクとクルースニク

相克関係にあり戦い続けるヴァンパイアとヴァンパイアハンターという、今ならとても喜ばれそうな設定の二人です。メガテンでも良く出てきますね。

真VVでも個別のイベントがありますが、原作ではまたしてもヨーコさんのあり得ないカオス礼賛意見炸裂により、外道の限りを尽くしているクドラクに加担しないと嫌みを言われるという胸くそイベントですね。復讐の女神編のカオスルートに行くにはこれを選択した方がいいというのがまた……

本作ではその辺は色々思うところがありますので、クドラクには相応の報いを受けてもらいました。



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