真女神転生VV二次創作 牛蛇相克   作:dwwyakata@2024

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ついに。奴らが仕掛けてきます。

原作で妖精の楽園を塩漬けにし、イチロウ君を塩漬けにしたあいつですが、本作では意外な横槍の結果……

この辺りから、快調に悪巧みをしていた黒いあいつに、影が落ち始めます。






3、塩

魔界の歌舞伎町から戻り報告をしていると、白衣の人が来て越水長官に耳打ちした。煌は既に合一を解除しているが、それでも聴力は非常に高くなっている。だがマナーもある。一応意識を反らして、聞かないようにした。

 

しばしして、越水長官に言われる。

 

「何かが魔界の新宿近辺で発生したようだ」

 

「またですか?」

 

「イチロウ、話を聞こう」

 

戻ってきていたユヅルがいう。

 

イチロウは頼りになるようになったが、こういうところはまだ変わっていないな。経験を積んでも、変われないところはあるし。

 

それは周囲が補えば良い。

 

越水長官も、それは分かっているようだった。

 

「今も天津と国津が合同で魔界に多数の使いを放って調べているのだが、あれだけ見張りについていた黒い天使達が一斉に姿を消したようだ。 何か大きな問題が発生したとみて良いだろう」

 

「天使の守っていたものを探れる好機ですね」

 

「ああ、そうなる。 少数での潜入と行ってほしいが、此処は全員で出てほしい。 守りにはまだ病み上がりだが、ツバメくんについてもらう」

 

「大丈夫ですか」

 

「大丈夫ッスよ。 これでも鍛え方が違うんでね」

 

いつもみたいに狸みたいな表情で、ツバメさんがくる。どてらみたいなしゃれっ気の欠片もない服。

 

いつも通りだ。

 

今の時点では全快ではないが、あの死の呪いは既に排除完了したという。リハビリもかねて、東京に湧いている雑魚程度なら片付けるということだった。

 

ならば、任せてしまって良いだろう。

 

流石に休憩を入れる。

 

その間、ミヤズがアリスとアニメを見ているようだった。ミヤズが好きなアニメとアリスが好きなアニメは趣味が一致したようで、今の子ってこんなにおしゃれなんだとアリスが感嘆していた。

 

もっとも、そんなアニメ的なおしゃれを実際にしている子供はほぼいないが。

 

煌も皆にあわせて休憩をしておく。

 

しばし時間を待ってから、魔界に。

 

皆、既に補給も済ませ、準備も終えていた。煌も、恐らく今までで最強の手札となるアリスを戦闘で暴れさせる限界については分かってきている。

 

また、あの戦闘のあと、クルースニクが恩を返すと言って、仲魔になることを申し出た。悩んだ末に、ミヤズの護衛を頼むことにした。

 

ミヤズの手札が回復と支援に特化していることも告げると、確かにそれならばとミヤズの仲魔になってくれた。

 

クルースニクの力は元々低くない。

 

クドラクが倒れたことで、相克の相手がいなくなったという懸念点もあるにはあるのだが。

 

仲魔になってしまった今はそれほど問題もないだろう。

 

魔界の新宿近辺となると、あの巨大蛇やゴグマゴグがいる危険地帯だ。話によると、天使達が守りを固めていたのは、煌達が進んだのとは逆方向、であるらしい。

 

勿論罠の可能性もある。

 

ともかく、気をつけていかなければならない。

 

魔界に出る。

 

すぐにユヅルがハルパス一家を出す。煌もジャターユを上空に。ジャターユを展開することでの消耗は問題なくなった。吉祥天も同じく。アナーヒターも、ほぼ負担なく展開できる。

 

今問題になりそうなのは、アリスを全力で暴れさせた時くらいだろうか。

 

マーメイドが側に出ると、提案してくる。

 

「あの蛇の悪魔は、恐らく振動を検知して襲ってきます。 私が足音を消すことが出来ますが」

 

「ありがたい。 皆の足音を消してくれ」

 

「はいあるじさま」

 

さっとマーメイドが水で地面を覆い、皆の足音が伝わらないようにする。

 

水たまりを踏むと足音は響くが、砂を水で固めることによって、足音を緩和する仕組みのようだ。それを移動する度にやってくれる。

 

勿論会話の声までは消せない。

 

皆、準備してきているタオルなどを口に含む。

 

あの巨大蛇は早速姿を見せていて、辺りを悠々と回遊していた。つまり、隙を見せればいつでも襲ってくる。

 

しかしあいつ何者だ。

 

スルトを倒した今、古くには魔の頂点だった相手と相対したと言ってもいい。それなのに、あの巨大蛇は。

 

ただでかいというだけじゃないな。

 

煌は龍殺しについて、現時点では自覚している。

 

恐らく蛇の系統の神に対して、ある程度強く出られる性質があると見て良いだろう。

 

だが、あの巨大蛇は、その相性があってもなお勝てないようにさえ思える。

 

本当に一体何者だ。

 

無言で砂漠を行き、砂丘を越える。

 

ユヅルの展開していたのはハルパス親子だけではなく、カラス天狗達もだ。先に戻ったのは、カラス天狗の一体だった。

 

「ご注進!」

 

「聞かせてくれ」

 

「この先、確かに天使の姿、ありません。 砂丘を越えた先には、多少の破損した建物と、それに緑があります」

 

「了解した。 警戒を再開してくれ」

 

敬礼すると、カラス天狗が飛んでいく。

 

森可成が、注意を促す。

 

すぐに皆が砂丘の影に。

 

遠くを何かが飛んでいる。

 

あれはまた、随分と巨大な影だ。何だろうか。

 

ともかく、相手が行くのを見計らってから、砂丘の影を出る。暑さはほとんど感じない。だが、アマノザコが若干興奮気味だが。

 

「煌の眷属になってある程度平気になったけど、なんだか気持ちがいいねこれ!」

 

「ザコちゃん、まだ静かにして」

 

「はーい」

 

タオの言うことは、一応アマノザコも聞く。

 

ヨーコはじっと砂丘の向こうを見ていた。何かあるのかもしれない。

 

「急ぐぞ」

 

「ええ、分かっているわ」

 

砂丘を越えた。

 

遙か遠くで、あの巨大蛇がうねっている。

 

寄生虫でも落としているのだろうか。あの巨大さで、よくあんな動きが出来るものだと感心する。

 

砂丘が固まってきた。

 

そろそろ大丈夫だろう。かなり距離も出てきたし、何より龍穴も見つける。一度休憩を入れる。

 

周囲は引き続き警戒するが、既に天使はおらず。代わりに様々な雑多な悪魔がいる。必ずしも敵対的な悪魔ではない。

 

戻ってきた猫又が、同類がいるという。

 

話を聞けるかも知れない。

 

皆が回復するのを待ってから、様子を見に行く。そこにいたのは、編み笠を被り、しましまの体をした、女性悪魔だった。顔も厳つくて、猫と言うより豹のようである。体もどちらかといえばマッシブだった。

 

「センリさんだにゃあ!」

 

「おや、人間かえ」

 

「センリというと、中華妖怪の」

 

「ああ、そうなるな。 日本でいうならセンリと読むのが正しかろう」

 

仙狸とは狸の妖怪ではなく、高度な力を身につけた山猫の妖怪である。

 

元々中華では「山猫」が人間を化かす存在として恐れられたのだが。その漢字である「狸」が誤解されて日本に伝わり、いわゆるタヌキの事になった上に。更に面倒なことに、妖怪として人間をたぶらかす存在として「狸」が伝わったこともあって。元々猫がやっていた人間を化かす行為が、狸がやることに入れ違ってしまった。臆病でおとなしいタヌキが、人を化かす妖怪の代表みたいにされたのはこれが要因である。

 

一応日本の妖怪談でも、猫が人を化かしたり害を為す例は多数あるが、それでも狸が大幅に悪を押しつけられたのは事実である。

 

日本と中華では同じ漢字でも意味が違う事が多く。

 

これはそれによる弊害とも言える。

 

イチロウは説明を受けると、しばらく真顔でセンリを見て、そして猫又を見て。すごく悲しそうな顔をした。

 

猫又はきょとんとしているが。

 

センリはからからと笑った。

 

「わしは元々デビルサマナーの仲魔でな。 わしを猫又からセンリに育ててくれたデビルサマナーも、この姿になった時に「なんかちがう」といって悲しんでおったよ。 その後も、邪険にはしなかったがな」

 

「い、いや……はい。 がっかりしました。 すんません」

 

「イチロウ先輩、そういうところは相変わらずですね……」

 

「返す言葉もない」

 

ミヤズに冷静な突っ込みを入れられたが、それでもイチロウは逆ギレしたりしないだけ立派だ。

 

ともかく、辺りにはセンリが数体いるが、それほど敵対的な様子ではない。話を聞くにはいい。

 

天使がいなくなった事について、センリは知っていた。

 

「ああ、天使どもか。 あれはみんなまとめてあっちにいったわい」

 

「あの方角は……都庁か」

 

「そうそう。 魔界になる前に、人間の行政の中心地があった場所やろ。 なんか騒いでおったが、ケルビムだとかいうかなり高位の天使もおったぞ」

 

「ケルビムだって……?」

 

ケルビムと言えば、ケルプともいわれる上級二位の天使だ。最高位の熾天使に次ぐ智天使であり、その力量は天使達の中でも最上位クラスに属する。

 

それが飛んでいったというのは、明らかにただ事ではないな。

 

それと、と言われる。

 

センリが、あっちに変な建物があるという。

 

「18年前の事件でな、そこで何かあったらしくてな。 爆心地自体は新宿の辺りだったらしいが、その建物にいた何かが、なんかやったらしいんだわ」

 

「それだと曖昧すぎる。 何か詳しくはわからないか」

 

「わからん。 わしもここに来たのは十二年前。 天使どものああでもないこうでもないって話をきいていただけだからな。 連中、要所を固める戦力しかないらしくて、わしらにはお構いなしだったし、ある程度は楽にやれたわ」

 

とりあえず、礼を言っておく。

 

ただどうにも嫌な予感がする。

 

「どうする煌。 このまま進むか」

 

「いや、これは一度越水長官の指示を仰ごう。 勝手に判断して良いことだとは思えない。 今の証言は……恐らく嘘ではない」

 

「どうして分かるのかしら?」

 

「あたいのおかげだよー。 嘘、なんとなく分かるんだ」

 

皮肉交じりのヨーコに、ひょいとアマノザコが顔を出して答える。

 

ヨーコはそう、とだけ言った。

 

そして、アマノザコは引っ込むと、煌の中で、煌にだけ話しかけてくる。

 

「知ってると思うけど、ヨーコって隠し事してる」

 

「ああ、理解している。 ただ、それがどの程度危険なことなのかまでが分からない。 越水長官も警戒しているようだ。 どうも外部に情報が漏れている節があるからな。 ただ、スパイがヨーコであるかまでは特定できていない。 だから、まだ何かをするのは早いと思う」

 

「煌優しいよね。 でも、最悪背中刺してくると思う。 気をつけて」

 

アマノザコは、眷属になってからぐっと態度が柔らかくなり、なんでも話してくれるようになった。

 

ともかく、一度龍穴に戻る。

 

天使がおかしな動きをしていること。都庁に向けて動いている事。それが確認できただけで大きい。

 

そもそも「何もなかった」事を確認するというのだけでも意味がある。

 

偵察任務というのは、そういうことだ。

 

これに加えて龍穴を確保して拠点を広げ、現在の地形について詳細な情報を確保。更には他の情報もいくつか入手してきた。これだけやれば充分だ。

 

一応周囲に展開していた足が速い悪魔も戻ってくるが、それらも天使は見ていない。ただ、一体だけ、黒い天使がいたそうだ。それも明確に高位の。

 

この先、今までの上り坂とは真逆に下り坂になっているようなのだが。

 

そこで、腕組みして何かを待っているようだ、とか。

 

しかも見られていることに気づいていた節まであるという。

 

黒い天使の親玉か、或いは幹部か。

 

少なくとも、今まで情報を得ているカマエルや、煌が直に対戦したサリエルとは、証言から得られた姿がだいぶ違っていたが。

 

全て越水長官に報告する。

 

越水長官は、良くやってくれたと手放しで褒めてくれた。

 

それから、いくつかの指示を受ける。

 

まず第一が、合流だ。

 

よっと声を掛けてきたのは。

 

フィンだった。

 

「久しぶりだな。 おや、そちらのお嬢さんはデビルサマナーになったのか。 しかも短期間で随分修羅場をくぐったと見える」

 

「その節はお世話になりました」

 

「当然のことをしただけだ。 俺の方も魔界の東京駅近辺での傭兵働きが終わってな。 混沌勢も魔界の東京駅に閉じこもった気合いが入った連中以外は、形勢不利とみて逃げちまったし、もうやることもなくなった。 東京駅は難攻不落で頭に血が上ったアブディエルの攻撃にびくともしてやがらねえ。 いずれにしても、俺たちは契約解除。 戻ってきたってわけよ」

 

誰にも雇われておらず。

 

妖精の楽園も今は安泰。

 

それならば、こちらの支援をしてくれるという。

 

「俺のせいで守れなかった命もある。 代わりにはとてもならないが、出来る限りの手伝いはするつもりだ」

 

「心強いことです」

 

煌はすぐに握手する。

 

それから、次の指示。休憩。

 

これより自衛隊と越水長官のブレインで、情報を精査に掛けるという。アオガミが電子機器に、見てきた情報をそのまま流し込める。それを用いてプレゼンなどをするそうだ。これは前からやっていたらしい。

 

その間、実働部隊は休憩を入れておくことになる。

 

会議を無駄に長くやるのは日本の会社や組織の悪弊だが、越水長官はそれを排除して、最短時間で最高効率の会議をするようにしている。

 

このやり方は越水モデルと言われていて、各地の省庁などで使われているそうだ。

 

ミヤズとユヅルは話があるようで、休憩に一緒に行った。イチロウは一人で休憩に行く。タオとヨーコもそれぞれ一人で休憩所に出向いていった。

 

案外休憩は一緒にしないものだ。

 

煌はギュスターヴが提供してくれた安全地帯を使う。

 

また変化している。

 

これはどこかの駅だろうか。ほとんど砂に埋もれてしまっている。だが、特に敵対的な気配はなかった。

 

アオガミはいないが、此処なら眷属を展開しても大丈夫だ。

 

不満などがないか話を聞く。

 

酒呑童子は毎回戦闘で激しく傷ついているが、不満はないそうだ。

 

「力量が近い相手と白熱した喧嘩って訳にはいかねえが、今の境遇に不満はないぜ。 毎回ひりつく喧嘩が出来て、やられてもすっきりするしな」

 

「私もそれは同じかな」

 

義経公が言うと、酒呑童子はちょっとびびる。

 

まあご先祖に叩き潰されたわけだし。

 

義経公にも、似たようなものを感じるのだろう。

 

「それはそうと、そろそろわしは新しい力を得たいと考えています」

 

そういったのはジャターユだ。長いこと前線で頑張ってくれた老兵だが、限界を感じているのか。

 

同じように、吉祥天も強くなれるなら、と手を挙げる。

 

分かった。

 

二人については考えておくことにする。

 

わーとアマノザコは相変わらず追いかけっこをしているが。以前よりアマノザコがわーに肉薄している。

 

或いはだが、嘘を見抜ける力を、行動解析に活用しているのかも知れない。

 

アナーヒターが、マーメイドに魔法を教え込んでいたが。こちらに来て、軽く話してくれる。

 

「いいわよあの子。 もっと強くなるわ。 モチベがあるってのは良いことねえ。 貴方がそんな体じゃなかったらね」

 

「それについてはもうどうしようもないことだ」

 

「……世の中は残酷ね。 あの子はそれでもなお貴方に絶対の信頼を寄せているわけだけれど」

 

そうだな。

 

それについては、確かに残酷な話である。

 

眷属の皆を好き勝手にさせて、それでしばらくぼんやりする。

 

アリスは熊のぬいぐるみを貰ったようで、それを壊さないように魔法で強化しているようだ。

 

わーとは昔の知り合いのようだが、前は姿が違っていたとも言っていた。

 

ますますわーが分からない。

 

ともかく、ベンチでしばらくぼんやりしてから、戻る。丁度良い感じで、時間も経過していた。

 

皆が集まる。

 

越水長官が、次の指示を出してきていた。

 

「ベテル本部が魔界の都庁を利用しているのは、恐らく何かしらの意図がある。 ベテル本部ではないかも知れないがな」

 

「黒い天使達が集まっているとすると、妖精の楽園を襲った連中かもしれないですね」

 

「ああ、最大限の注意を払ってくれ。 煌くん、君はスルトを倒した。 生半可な悪魔では相手にならないだろうが、それでも絶対はない。 油断せず、事に当たるようにしてほしい」

 

「分かりました」

 

再潜入開始。

 

この辺りは水も流れていて、空気も綺麗だ。

 

ほどなく、坂を登り切って、丘に出る。

 

其処に、得体が知れない気配がある。即座に総員で戦闘態勢を取る。気配は極めて強いが、なんだ。

 

これはどちらかというと、戦闘能力というより、悪意が近い気がするが。

 

「急いで撤退した方が良い。 今の君たちでもそれを受けると危険だ」

 

「!」

 

「こちらだ。 急いでくれ」

 

何か、光が差す。柔らかい光だ。

 

導いてきた声の主は聞いたことがない男性の声。

 

煌は即時でアナーヒターを。イチロウがアールマティを展開。下がる。これは、ひょっとして。

 

待ち伏せされていたか。

 

声に従ったのは、アマノザコが嘘ではないと警告してくれたからだ。

 

それにこの悪意。

 

今まで感じたことがないタイプのものだ。

 

次の瞬間、空から光の柱が降り注ぐ。

 

「まずい! そちらを見るな!」

 

「振り返るな! 走るんだ!」

 

「ち、畜生、なんなんだよ!」

 

危なく振り返りそうになったイチロウを、森可成がぐっと抱えて走る。イチロウも悪気があったわけではない。

 

走って、離れる。

 

しばらくして、光が収まる。

 

アナーヒターとアールマティが壁を作ってくれていて、光による直撃は防いだ。だが。

 

二人は塩の柱になってしまっていた。

 

アナーヒターを即座に戻す。眷属として回復させるのは、相当に時間が掛かる。振り返ったらああなっていたのかと、イチロウが愕然としつつも、アールマティをハンドヘルドコンピュータに戻していた。

 

男性の声。

 

空から降り立ったのは、青白い肌をした、だが逞しい体の男性だ。しかしながら背丈はそれほど高くない。

 

格好はエジプト風で、目には強い光がある。

 

「危なかったな。 あれはソドムとゴモラを滅ぼした光と同じものだ」

 

「貴方は?」

 

自己紹介をそれぞれする。

 

ミヤズが少し遅れていたが。

 

煌はそれを見て、悟る。

 

「私の名はコンス。 ベテルエジプト支部を現在統括している。 たまたま通りかかってね」

 

「コンスさん……?」

 

やはりだ。

 

ミヤズが、普段と違う様子で声を掛ける。

 

コンスは、それに寂しそうに、静かに笑った。

 

「龍穴をつなげておいた。 エジプト支部の前線基地に来てほしい。 そこのフィンどのも一緒に来てくれ。 少しばかり、まずい事態が起きている」

 

「どういうことだ。 一介の傭兵の俺もか」

 

「貴方はケルトの顔役だ。 あのダグザどのも含めて、ケルトの神々は現在姿を見せていない。 アーサー王やクーフーリンが主体的に活動していない以上、今声を掛けるのは君だ。 私としては味方が一人でもほしいのでね」

 

「この人、悪意はないよ。 嘘もついてない」

 

アマノザコがそう言う。

 

なるほどな。悪意はないにしても、これは普通の事態ではないだろう。それに今の攻撃。ソドムとゴモラを滅ぼした光と言えば、一神教の勢力によるもの。

 

黒い天使か、それともベテル本部のアブディエル麾下かは分からないが。

 

トラップとして仕込まれていたにしてはおかしい。

 

「ユヅル、どう考える」

 

「そうだな、越水長官と話してから、足を運んでみても良いだろう。 エジプト支部は今まで接点がなかった。 話をする意味はある」

 

「お兄ちゃん、なんだか声がいつもより据わっているよ?」

 

「そんなことはないぞ! 決してそんなことはないミヤズ!」

 

これは、ユヅルもミヤズの様子が違うことに気づいたな。

 

そしてミヤズの反応、コンスの反応を見て確信した。

 

コンスとミヤズは、前から接点があった。夢だと思っていたのは、まあ夢だったのだろうが。

 

完全にただの乙女の願望とかそういうのではなく。

 

何かしら意味があるものだったのだ。

 

タオが咳払い。

 

「確認してもよろしいですか。 危険はありませんね」

 

「ベテル日本支部の聖女どのだな。 話には聞いている。 エジプト支部も必ずしも一枚岩ではないのだが、危険はない。 今、君たちと対立する理由がないからね」

 

「創世という観点でも?」

 

「私は座を狙っていない……そうとだけ言っておこう」

 

創世は越水長官が言うとおりであれば、狙う神々は多いはず。煌としても、問題がない創世が出来るのならやりたい。

 

東京を救うための創世であれば、なおさらやらなければならないだろう。

 

問題は他の勢力の思惑だ。

 

煌は疑っている。

 

ロキなどは創世を経験したと言っているが、一神教の神が創世を行って、他の神話の神々は別に消滅していない。

 

創世なんて、別に絶対やりたいと思っている神は、そう多くはないのではないだろうか。

 

越水長官に、龍穴で今起きたことを話す。

 

そうすると、しばし悩んだ末に、エジプト支部へ様子を見に行ってほしいと言われた。

 

確かにあのソドムとゴモラの光の第二波を食らったら、ひとたまりもない。

 

それに安全な場所で、ギュスターヴに大金が掛かるかも知れないが、塩の柱の呪いを解除して貰わないといけないだろう。

 

煌は光が降り注いだ方をもう一度見やる。

 

さっき感じた気配は、既にもうなかった。

 

 

 

舌打ちしたマンセマット。全てを塩の柱にする光。それを放ったのは、マンセマットだった。

 

一人か二人塩の柱にして、人質にするつもりだった。

 

今、仕上げに掛かっている。

 

もう少しで、至聖所を乗っ取る企てが成功する。そのためには、後一押しが必要なのだが。

 

アブディエルの麾下の大天使の何体かは抱き込んであるが、それでもアブディエルの動き次第では、力を増しているマンセマット達が後れを取る可能性もある。

 

だから最大限慎重に動きたかった。

 

それにはあのナホビノを動かすために、適当に何人か塩の柱にしたかったのだけれども。

 

特にあの小僧。

 

一目で分かった。振り返りそうになったデビルサマナーの小僧。

 

あいつは。

 

アブディエルの。

 

あれをちょっと弄くれば、面白い事になったのに、そうはいかないか。まさかエジプト支部が此処で横やりを入れてくるとは。

 

腕組みして考え込むアブディエルの側に、カマエルが並ぶ。

 

「珍しいな。 貴様が悪巧みで後れを取るとは」

 

「そのままでいればまず成功したのですがね。 コンスが此処で横やりを入れてくるとは、流石に想定外でしたよ」

 

「コンスか。 エジプト支部はあれで侮れん。 放し飼いにされているセトの戦闘力は、我らでも手を焼く。 それに……」

 

「座に着いていた経験がありますからね。 神権政治を定着させた文明だけはある。 その神々は古く強靱です。 今、オシリスもホルスもいないからといって、侮って掛かったら痛い目に遭うでしょう」

 

ふむと、考え込んだ後。

 

いくつか策を巡らせる。

 

カディシュトゥの者どもが、恐らくはベテル本部への当てつけに、至聖所近くで事を起こすだろう。

 

それをアブディエルに知らせてやったのは、マンセマットだ。

 

このためアブディエルは、ただでさえ少ない精鋭を割き、至聖所に回している。そこを、マンセマットが麾下にした精鋭が囲んだ。

 

後はカディシュトゥの者どもが事を起こしたタイミングで仕掛ける。

 

それでうまくいく。

 

そのはずなのだが。

 

どうにも嫌な予感がするのだ。そしてマンセマットの嫌な予感は当たるのである。

 

「一度距離を取りましょう。 恐らくは今仕掛けてもうまくいきません。 あの光は私の奥の手だったのですがね」

 

「あのナホビノは切れ者だ、という貴様の評価だったな」

 

「ええ、侮れませんよあれは。 何回か使い魔を放って話しているのを見ましたが、豊富な知識に整理された頭脳。 武力もそうですが、あれの武器は頭脳です。 今のも、恐らくは二度は通じないと考えた方がよいでしょう」

 

「……で、どうする。 仕掛けないという訳にもいくまい。 あのナホビノは成長速度も速い。 最初のうちであれば倒せるめどはあったが、今は確実にやれるかは分からん。 我らの悲願を達成するためには、手に負えない強さになる前に仕留めないといかんぞ」

 

その通りだ。

 

創世など、誰がやってもいい。

 

主の言葉だが。

 

それが流石に、四文字の神の復権を招くようでは困る。

 

今のマンセマットの主はそうではないからだ。

 

「他のナホビノ候補をたきつけるか、それとも……」

 

「次の機会を待つか、か?」

 

「ええ。 しかし次の機会などあるかどうか。 今それぞれの神々も、目的にむいて動いています。 したたかなギリシャ支部は策に乗らないでしょう。 北欧支部は戦力が少なすぎて、下手に小細工を仕掛けると真っ先に脱落しかねない」

 

「やれやれ、困ったものだな。 いっそ貴様の攻撃を退けたナホビノを見極めて、四文字の神を復活させるつもりがないのであればそれでいいと判断できれば……。 後は見ているだけで良いのではないか」

 

カマエルはそういうが。

 

マンセマットとしては、自分で創世をしたい気持ちはある。

 

エジプト支部やインド支部にその気がないのは分かってはいるのだが。

 

ギリシャ支部は何を考えているか分からないし、日本支部は急激に力をつけてきている。

 

シャカイナグローリーの破綻が近い今、日本支部はその再建、もしくは現実の東京の回復のために、創世をもくろむ可能性が高い。

 

そしてあのナホビノが。

 

越水と対立しているようには見えないのだ。

 

「仕方がない。 少し手の内を見せるとしますか」

 

「ほう。 如何するつもりだ」

 

「エジプト支部は監視で。 どうせ日本支部は、至聖所について近々気付くでしょう。 彼らが抑えている龍穴は把握済み。 至聖所がある都庁に行くには、此処を通るしかありません。 そうでなくても都庁を探るつもりのようですからね。 その時、裏切り者を教えてやればいい」

 

「悪辣な事だ」

 

カマエルが笑う。

 

マンセマットもにんまりと微笑んでいた。

 

その時、決定的な隙が出来る。

 

頭が切れる奴だからこそ、どうにも出来ない状況を作り出してやればいい。

 

マンセマットも長年苦労を続けてきたのだ。

 

悪知恵については、多少の自信くらいはあった。

 

どこかの本に、人間を進歩させるのは悪人だという話が載っているとかいないとか。

 

もしそうだったら、社会に法など必要ないし。

 

倫理も理性も必要ない。

 

そんなものが存在しない人間社会が、果たして存続しうるだろうか。

 

結局のところ、馬鹿げた弱肉強食論や、ただの屁理屈をこね回すだけの阿呆が偉そうにしていて。それらが成功しているのが人間という存在の社会だ。

 

マンセマットは極悪人だと自覚しているからこそ。

 

人間の自分以上の邪悪さを理解していたし。

 

心の底では何もかも殺し尽くして奪い尽くしたいと誰もが願っていると信じていたし。

 

正論を嫌って他人を痛めつけることをよしとすることも知っていた。

 

こんな生物を支配して何が悪いというのか。

 

それがマンセマットの。悪人なりの結論だった。







マンセマット、イチロウ君の掌握に失敗っ!

これが原作との大きな分岐になります。

復讐の女神編では、終盤のイチロウくんはマンセマットに半ば洗脳されていたようなものでしたが。此処から運命が変わり始めることになります。


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