真女神転生VV二次創作 牛蛇相克 作:dwwyakata@2024
※尋峯ヨーコの正体
というわけで本音の彼女との対面です。
天使どもに裏切られ、混沌の信奉者となった彼女ですが。原作ではナホビノくんには心を開いたものの、結局カオス思想に傾倒したまま最後まで行ってしまいましたね。
本作では……此処からです。
研究所の休憩所で遮音の魔法を展開すると。合一を解除した煌とアオガミに、ヨーコは話をしてくる。
周囲の人間は視線を向けてくるが。
この遮音の魔法、口元も読めないようにする効果がある。
いずれにしても、話している内容は悟らせない。
「いい加減極まりない座と創世。 それによって左右されるこの世界の……人間社会のあり方。 貴方はこれをどう思う?」
「人間という生物は不完全極まりない存在だ。 少なくとも世間に溢れているようなありのままの人間が素晴らしいだの、万物の霊長だのという言葉は当てはまらない」
「冷静で助かるわ。 その通り。 人間は不完全でいい加減な生物。 それが作り出した神魔も同様よ」
それだけを話したい訳ではあるまい。
ヨーコは煌を信頼している。
それは分かっている。
それでいながら、何か大事なことを隠してもいる。
それもまた、分かっているのだ。
「例えばの話をするのだけれどね。 何かを作り出した時、それが根底から間違った設計になっていた場合、貴方はどうする」
「その何かにもよる」
「聞かせて」
「例えばそれが誰も人間が住んでいない家、誰も使っていないインフラなどであったら、全て壊して作り直すのはありだろう。 だが、誰かが住んでいる家、誰かが必須としているインフラなどであったら話は別になる。 最低でもそれらの人の生活などを担保するものを用意してから、その何かを作り直すか。 それらの人に迷惑を掛けない形で、時間を掛けて作り直しをするだろう」
ヨーコはしばし黙り込んで。
大きくため息をついていた。
「人間はくだらない事を認めているのに、それでも人命を考えるのね貴方は」
「当然だ。 人間は知的生命体を自称するにはあまりにも愚かしい生物であり、都合が悪くなると人権を主張し、蛮行を働く時は動物である事を主張し、あらゆる悪逆を重ねてきた存在だ。 神魔もそれの影響を受けていることは、魔界で様々な神魔を見てきて良く理解できた。 ろくでもない悪魔は、どれもこれも人間の悪影響を最大限受けている存在ばかりだった」
勿論善良な神魔だっていた。
話せば分かる相手だっていた。
だが最初の頃に暴威を振るっていてそれを悪びれもしていなかったリャナンシーをはじめとして。
カスとしか言えない神魔も多くいた。
だが、それでもだ。
「クロマニヨン人が世界にいたのは四万年ほど前。 人間が都市文明を構築したのが一万年前だ。 世界の資源が枯渇しかけてきている今の時代だが、だからこそ何もかも壊すのは少しばかりリスクが大きいだろう。 ヨーコさん。 あなたが言っている根底から間違った設計になっているというのは、この世界そのものだな。 そしてアティルト界とアッシャー界のあり方、そのものだな」
「ええ、そうよ」
「現状の貧富の格差が極大化した世界を是正するのは必須だ。 だが、これでも一万年前に比べるとまだマシになってはいるんだ。 ただ、この世界は人間の私物ではないのも事実だ。 人間の可能性がだとか、未来にはきっと良くなるだとか言いながら、世界の全てを蹂躙して、未来の為だの言い続けるのはただの蛮行だ。 明確な答えがない物事もあるかも知れないが、それをずっと何の答えも出さずにただ人間が世界を踏みにじり続けることを許すのは、それはただの怠惰だ」
煌としても、こういった人間のあり方を脊髄反射で肯定するような言説……。無責任極まりないタイプの人間賛歌は嫌いだ。
人間の可能性をだしにして、全てを人間が踏みにじり続けることを肯定する。
一体何様のつもりなのか。
結論を急ぐ云々の言説は馬鹿馬鹿しいばかりだ。実際問題として、現状のまま行くと、人類は宇宙進出する前に破綻する。そして地球はそのつけを資源枯渇という形で払わされ。人類が滅んだ後、出現する次の種族はその影響をもろに受けることになるのだ。場合によっては放射性物質てんこ盛りというおまけ付きで。
神魔の中には、とてつもない傲慢な言動を見せる存在も多々いたが。
あれは人間の映し鏡だ。
「やはり貴方は熱がどれだけこもっても論理的で冷静なのね。 私としても、貴方の意見はとても面白いわ」
「それで、君はどうして僕たちの側にずっといる。 カディシュトゥに情報を流していたのは君なんだろう、ヨーコさん」
アオガミがぴくりと反応した。
ヨーコは黙り込んだままだ。
分かっている。
ヨーコがずっと隠し事をしていたこと。
あの露悪的な言動。
あれは、明らかに既存の秩序に対する敵意からだ。
そして、カディシュトゥが集めていた膨大なマガツヒ。あれは恐らくは。コンスが言っていた通り、ティアマトの復活に用いるためのもの。
マルドゥーク以降、天空神系統の神による支配の仕組みは、ずっと続いている。形は色々変えながら、だが。
理由は簡単で、それが人間社会を支配したいと考える連中には都合が良かったからだ。
多数の家畜と、一部の支配者。
富の分配が政策の形であり。
今までどんな政治制度も、結局そこから一歩も出ることは出来なかった。
あらゆる政治制度に欠点があり。
だがそれは。
蛇の系統。
母系社会を主体とした、世界とともにあるあり方でも、変わらないのではあるまいか。
ティアマトが負けたのはマルドゥークに武力で敗れたから。
これは事実だ。
世界中で天空神系統の信仰が席巻していったのもこれはまた事実。それには大きな問題があったのも確かだろう。
だが。
今更ティアマトの時代の古い母系社会の仕組みを持ち出したところで、新しい活路など作れるだろうか。
恐らくそんなものは生じない。
中華の前漢の時代を終わらせた悪党に王莽という存在がいる。此奴は少し後の時代の董卓と並ぶ極悪人として知られているが、政治制度などの思想は古代の周に傾倒しており、それに無理矢理戻そうとして国家は大混乱に陥った。光武帝が出現しなければ、漢という統一王朝は早々に瓦解していただろう。そういうものなのだ。
下手をすると、アティルト界からの破滅が世界中に影響して、人類はほぼ全てを失い。ごくわずかな数だけに成り果てるかも知れない。
その時座に着いていた存在は、文字通り新しい世界の創造主を気取れるかも知れないが。
残念ながらそんな状態になったら人間が再度世界を支配するのは不可能だし。
これだけ資源を食い荒らした後だ。
前のような文明など、構築は出来ないだろう。
「ヨーコさん。 カディシュトゥがティアマトを呼び出そうとしている目的は、今僕が指摘したような内容ではないのか。 天空神系統の支配を終わらせ、ティアマトを呼び出す事により、大地神系統の支配をよみがえらせる。 だけれども、貴方は更にその先を考えていて、この世界そのものを一度終わらせる。 だが、それは結局のところ、人類が迷惑をかけ続けたこの地球に、とどめを刺すだけの結果に終わるはずだ」
「……」
「今なら間に合う。 馬鹿なことは、やめさせてほしい。 カディシュトゥの面々は、とてもこの世界のことを考えているような連中じゃあない。 エイシェトのような残虐なただの復讐鬼もいる。 あのような連中の活動で、世界が良くなることなどあり得ないだろう」
しばしの沈黙。
やがて、ヨーコは大きなため息をついていた。
「一つ昔話をしましょうか」
「ああ、話してくれ」
「私はね、18年前に既に存在していたの。 この年でね」
「……」
どういうことだ。
順を追って、ヨーコが話してくれる。
18年前。
四文字の神が倒れた。
これについては、ヨーコ自身も状況や過程、経過を良くは分かっていないらしい。少なくともその時、尋峯ヨーコという人間は別の名前で、熱心な一神教徒の家庭で育ち。更には、将来的には一神教によるもっと強力な支配体制を作るための組織の中核として期待されていたという。
様々な魔法を教え込まれ、戦闘技術も身につけた。
周囲とはまるでできが違うヨーコに対して、両親は途中から褒めるのではなく崇拝し始めた。
天使が姿を現し。
有望だと告げてきた時には、ヨーコは感動で涙まで流したという。ましてやその天使が、四大筆頭、ミカエルとなれば。
ただ、その頃から、何かがおかしいとは感じていたという。
一神教が当たり前の世界。
一神教以外の信仰は全て邪教で、それを信じている人は全て悪魔に誑かされている可哀想な人たち。
そうヨーコは本気で信じていた。
信じていたはずなのに。
様々な知識を得れば得るほど疑念は膨れ上がっていった。
一神教は、支配のためのシステムツールに過ぎず。世界で受け入れられているのは、少数の「神の代理人」と、それに絶対忠誠を誓う豚の群れを作り出すのに都合が良いからではないのか。
そういう疑念さえあった。
それが確信に変わったのは、天使達が「異教徒」を守りもしないのを見てしまってから。
神の愛は誰にでも注がれている。
そのようなことをほざいておいて、明確に人間を選別している。
それを見てしまった。
そのタイミングで、四文字の神が滅びた。
そして、明確な異変が発生したという。
「魔法が多少使えて、戦闘技術がある。 その程度の私だったのだけれどね。 四文字の神が滅びた瞬間、全身に異変が生じたのよ」
「異変とは、具体的になんだ」
「創世にはね、導くための女神が必要なの。 まあこれも、本当は少し違うのだけれどね。 貴方なら知っているでしょう。 天空神系統の神々には、大地神系統の配偶女神がいるのが普通だって」
「その通りだ。 一神教でさえそれは例外ではなかった」
古い古い昔。
農耕系の民族。蛇の系譜の神々を信仰していた母系社会が、先にあった。
それを支配していったのが、牧畜を主体とする牛の系譜の神々を信仰する父系社会だ。
これは男女差別だのという話ではなく、農耕民を牧畜民が支配した、というだけの事である。実際問題、蛇の系譜の神にも男性はいくらでもいるし。牛の系譜の神にも女性は普通にいる。両方を兼ね備えている存在もまた多い。
ただ特に信仰には、男性が女性より上という教義を持つものが多く。一神教だけではない。仏教などでもこれは同じだ。
ただ、それでも。
農耕をどれだけ否定しても。農耕が作り出す豊富な食料と人口は、どうしてもただ武力が強いだけではあらがえないものがあった。
だから、牧畜を上。
農耕を下。
そう考えることで、各地の信仰は妥協した。天空神の最高神と、大地神の配偶神。夫が上で妻が下。
勿論例外はあるが。
このパターンが作り上げられたのは、それが理由だ。
天空神で女神の場合もあるが、それは大地神を女神が兼ねたり、或いは大地神を女神の配下にする場合もあった。
いずれにしても、牧畜が上であり、農耕が下。
それが世界的な信仰の基本形態だった。
一神教は非常に先鋭的にそれをやった。結果として、天空神である四文字の神が、大地神である配偶女神の性質まで吸収してしまったのだ。その女神の性質は、聖母マリアやユダヤ神秘主義のソピアーなどで残されてはいるが。
ヨーコがはあとため息をつくと。
とんでもないことを言う。
「私はね、その女神になったのよ」
「……なんだって」
「創世が始まったと言うこと。 今まで座にいた四文字の神がいなくなったことでね。 四大も七大も主要な天使はあらかた死んだ。 そんな中、大混乱するベテル本部は、ナホビノになりそうな人間を片っ端からヒステリックに殺した。 そして創世の鍵になる可能性がある私を、よりにもよって生きたまま封じ込めた。 それに私の両親も加担したわ。 崇拝していた私を、悪魔と罵りながらね」
それは、酷い話だ。
一神教は座から四文字の神を失った反動で、そんなことをしていたのか。
確かに主力の天使達が失われた状態で、創世を起こそうと様々な神が動き出したら。
その場合は、今まで一神教がしてきたことを、恐らく全てやり返されることになる。
アブディエルはそんな状態で、ベテル本部による支配を18年間も維持したのか。
思った以上にやり手だったのだなと、呆れ気味に感心した。
ただ、分からない事がある。
「女神というのはどういう意味だ」
「言葉通りの意味よ。 古くにあった、人間でありながら神でもある存在。 一神教ですら、預言者というような存在を神であるとしたでしょう」
三位一体説のことか。
父と子と聖霊の御名において。
一神教徒なら誰でも知っていることだ。これは四文字の神とイエスと天使を同一の存在とする言葉である。
それが瓦解した訳だ。
新しい人間でありながら神でもある存在が身内から登場した。
そうなると、一神教の天使達は、パニックに陥った。それもまた、納得が出来る話ではある。
ヨーコはその過程を全て見た。
善良な人を、一神教徒ではないナホビノ候補だからといって殺戮し。それを神の御心がどうのと言いながら正当化し。
一神教徒の中ですら事実を秘しながら、あらゆる暴虐を重ねていく天使と一神教徒の幹部達。
封印が決まった時、それはおかしいと言ったヨーコに。魔女裁判に掛けてやると、年老いた枢機卿が怒鳴りつけてきたという。
もはや、愛想が尽きたのは、その時だったそうだ。
「封印を解除してくれたのは貴方よ、煌くん」
「……」
そういえば。変な夢を見た。
あれはまさか。
だとすると、その時には既に、煌はナホビノである以上の何かを有していたということなのだろうか。
しばらく考え込む。
何かがおかしくないか。何かを見落としていないか。
そういえば。こうするとまずいという勘が働くことが一度ならずあった。それを後から見返してみると、多くの事が変わったような気がする。
特にイチロウだ。
イチロウはもしもあのまま行っていたら、誰も救えず何も出来ず。無力感に苦しんだ挙げ句、アブディエル辺りに傾倒していた可能性が高い。
今でこそイチロウは頼りになるムードメーカーだが。
しばらく黙り込んだ後。
煌は、ヨーコを見る。
「ティアマトの復活はともかくとして、これ以上カディシュトゥに情報を流すのは辞めてほしい。 これからやるべき事は、神々の馬鹿騒ぎをとめる。 それになるはずだ。 ヒステリーを起こして、既存の全てを壊し尽くすことじゃない。 この世界は人間と、人間から派生した存在の粘土細工じゃないんだ」
「……一つ、まだ勘違いしていることがあるわね」
「どういうことだ」
「カディシュトゥは私の同志でも上司でもない。 あれらは私の部下よ」
いくつか話をした後、ヨーコを連れていく。
越水長官は、コンスの話についてブレイン達と話をしていたようだが。緊急事態だと告げて、それで時間を作って貰う。
恐らくあまり猶予はないとみた。
最悪の形でティアマトが復活することは避けなければならない。
ヨーコもずっと悩んでいたらしい。
この世界を破壊することは正しいのか。
確かに行き詰まった大国によるパワーゲーム。あまりにも愚かしい人間の増長と暴走。地球を食い荒らす人間という寄生虫は、既に全てを食い潰して、自滅するフェーズにまで入っている。
宗教は人間を進歩なんかさせなかった。それは人間の歴史が証明している。人間が現実逃避をするために使われ、支配のシステムとして使われた。
哲学もイデオロギーも、その類種に過ぎなかった。
そして今、その宗教から生まれた神魔も含めて、世界が争いに争っている状態である。
人間など滅びてしまえ、というのは一理ある。
だが。
煌は思う。
最低でも責任を取るべきだと。
宇宙進出し、更に技術を進めれば、やがて人間はテラフォームの技術や、環境再生、勝手な理屈で滅ぼした生物たちの復活。更にはアティルト界の住人との、よりよい関係構築だって出来るはずだ。
創世で出来る事には限度がある。
それについては、今までそもそも創世を経験している存在から、それは幾度も証言を得ている。
だが、ある程度変えることは出来るのではないのか。
このままだと地球は人間に食い潰される。これはそのまま行けば確実に来る確定の未来である。
煌は別に悲観主義者でもなんでもない。
ただ現状の資源浪費のすさまじさを見ていれば、それくらいは誰でも想像できる、というだけの事だ。
越水長官に、話をする。
越水長官は、今までとはまるで違う険しさを目の奥に讃えていた。
「天使どもが18年前に何かとんでもないことをしでかしたのは知っていた。 その時に天照大神の存在に大きな影響が出たからな。 しかも日本でそれをやった。 君が関係していたのか」
「あら、知っていて泳がせていたと思ったのですけれど」
「君が何かしらの悪巧みをしているのは知っていた。 流石にカディシュトゥの頭目とまでは思わなかったが」
「正確にはカディシュトゥは勝手に私の前に現れて、勝手に忠誠を誓っただけよ。 貴方達に怪しまれない程度に交戦もしたけれど。 だから、あれらが部下だというのは正しいけれど、動向を全ては把握していないわ」
沈黙は鉛より重い。
それでも、越水長官は、ヨーコに手をあげる気はないようだった。
「それで、どうしてそれを言う気になった」
完全に越水長官は頭に来ているみたいだな。
それもまあそうだ。
今までカディシュトゥには散々リソースを割かれたし。縄印の襲撃では40人弱の死者を出す事になった。
ヨーコにも責任がある。
それに、今までのヨーコの言動。もしも煌がはいはいと従っていたら、被害は更に拡大していただろう。
それも見越して、過激な言動を取っていたのかも知れないが。
「全てぶっ壊すつもりだった。 ナホビノやナホビノ候補をとりあえず見て、みんな片端から始末するつもりだった。 だけれどね、二人目にみたナホビノが彼だった」
「……」
「論理的に物事を解決し、邪悪な悪魔ですらも理詰めで黙らせる。 不思議な威圧感も面白かったけれど、バカを正論でぶった切っていくのが面白かった。 私も自分が無茶苦茶を言っているのは分かっていたわ。 それを理詰めで正面から否定できる存在が出てきたのは面白かった。 数学者ほどの頭の回転ではないのかも知れないけれども、高い説得力があった」
ひょっとしたら。
「現実主義」を掲げながら、結局は一部の人間が多数を支配するだけのシステムツールとして座を利用してきた、今までの座の主とは違う事をしてくれるかも知れない。
そう、ヨーコは考えたという。
同時に悩みも増えてきた。
天使達の愚かしさは、18年前と全く変わらなかった。この世界に解き放たれてから、髪の色も人相も名前さえも変えた。
昔の自分を知っている人もいるだろうが。
会っても絶対に気付かれないようにまで変えたのだと、ヨーコは言う。
そうまでして、世界を根底からひっくり返すつもりだった。
蛇と牛の争いなんてどうでもいい。
そんなものが始まる以前から、全てやり直させてやろうと。
そう思っていた。
そうらしかったのに。
「何ででしょうね。 煌くんが。 彼が、人間の可能性が、きっと未来に素晴らしい世界がとか抜かしながら、現実主義を掲げて殺戮を繰り返すような輩だったら、私は躊躇なく頃合いを見て背中から刺していたでしょうけれど。 あれほど既存の支配や秩序を憎むようになっていたのに。 どうしてか、いつのまにか無に帰す行動を、喜ばしいとは思えなくなったわ」
「……そうか。 いずれにしても分かった。 君に忠誠を誓った存在が、勝手に縄印を襲ったというのなら。 そして今、ティアマトをよみがえらせ、好き勝手をしようとしているというのなら。 君は、それをとめて、償いにするのだな」
「その前に聞かせてもらえるかしら。 私は彼を信用はしたけれど、貴方を信用はしていないのだけれどね。 天津神月読尊」
「……」
なるほど、そうだったのか。
月読尊。日本神話の三貴神の一角。月の神格とされるが、実のところそうであるとされるだけで、本来の記述は極めて簡素だ。
越水長官が人間ではないことは察しがついていたが。
思った以上の大物が出てきた。
そして、越水長官の態度が、それが事実である事を告げていた。
「貴方は創世で何をさせるつもりかしら?」
「まずは東京を復旧する」
「その次は?」
「僕に全権委任と言うのも妙な話です。 何かしら、もくろんでいたのではありませんか?」
煌としても既に乗りかけた船だ。
話を聞いておく必要はある。
何より、だ。
此処ではっきりさせておかないと。まずい気がするのだ。
この妙な勘、所々で働いているが何だ。ともかく、話を聞いておくべきだろう。
しばしして、越水長官は大きくため息をついていた。
「四文字の神の敷いた理……絶対存在による絶対統治。 その理さえ崩せれば、他はどうでもよかった。 だから、ナホビノ候補を集めた」
「縄印の事ですね」
「ああ、そうだ」
やはりか。
煌は、アオガミに視線を送る。そして、アオガミも、頷いていた。
「分かりました。 此処で情報を共有しましょう。 今、魔界に挑んでいる面子も全員。 後は……日本支部の最大戦力であるツバメさんも呼んだ方が良いと思います」
「どうしてかね」
「僕の予想では、このまま行くと最悪全員での殺し合いになります。 そして、僕が見たところでは、恐らく座なんてものは、殺し合わなくても良いはずです。 バアルが座に着いていたことをご存じでしょう」
結論を、先に言う。
それが必要だと判断したからだ。
「座に単独神格が着くというのは恐らく間違いです。 今、僕とともにこの戦いに挑んでいる全員で座に着くこと。 それも可能かと思います」
※座のトリックについて
これは事前から伏線を撒いていましたが、ついにこの話が出ました。
そもそもバアルというのは単一神格ではありません。中東に割拠した数多の神々の事です。
これが座に着いていると言うことは、そもそも単一神格が座に着くわけではないという事です。
それだけではありません。
そもそもエジプト神話におけるラーというのは太陽神を示す言葉で、これもまた「ラー」という単一存在が座に着いていたというのはおかしい話につながるのです。
つまり座には。
単一の神格でなくてもつける。それが本作の結論です。
感想評価などよろしくお願いします。励みになります。