真女神転生VV二次創作 牛蛇相克 作:dwwyakata@2024
ついに魔王城での戦闘開始です。
ベテル本部が手に負えないという事で、日本支部に支援を求めた。
これは大きな意義があります。
ベテル本部にやりたい放題をずっとされていた日本支部。しかしこれによって、ベテル本部と日本支部の力関係が逆転したことを意味しているからです。
序、加勢
東京駅に出向く。今回は、煌とイチロウ、ミヤズとヨーコだけの編成だ。ユヅルは新宿区をタオとともに偵察。
ツバメさんは東京に残る。
現在のユヅルは、あのホワイトライダーの猛攻を短時間とはいえしのぎきるほどの実力者である。
従えている手持ちの悪魔も強くなっている。
それもあって、更に力を増しているタオの助力があれば充分。
そう越水長官は判断したようだった。
ちなみに、フィンもこちらの用心棒に入って貰っている。
東京駅の入り口は、天使達が固めていたが、あからさまに動揺している。戦況が良くないのは、一目で分かる。
出向いたことを告げると、様子を見ていたどこかの神が、せせら笑って去る。人型だったが、あれは恐らくヘルメスか。
日本支部がまた出てきたこと。
アブディエルが、自分たちだけで攻略すると息巻いていたのに出来なかったこと。
その二つを報告しに行くのだろう。
アルテミスからも情報が行っている筈だが。
それでも一応、というわけだ。
天使達に話を通すと、奥から出てきたのはアブディエルだった。
見るからに鎧が輝きを失っている。また、明確に疲弊がたまっているのが分かった。
「話は聞いた。 背信者のカマエルとサリエルを討ち取ったそうだな」
「たまたまだ。 遭遇して襲ってきたから倒した」
「……」
「恐らくだが、インド支部のラーマ王子を闇討ちしたのはカマエルだ」
それを聞くと、露骨に天使達が動揺する。
もしそれが知られたら大変な事になる。
そういう表情だった。
煌が倒してマガツヒとともに情報を取り込んだ。それを敢えて告げている。アブディエルは、それの意味を理解しているだろう。
また貸しが増えた。
もはや日本支部に対する彼らの貸しなどないに等しい。
これをインド支部に黙ってやる。
だから、これ以上日本支部に干渉するな。
そういう意図がある。
ちなみに告げるように指示してきたのは越水長官だ。
ベテル本部にとっては特大のスキャンダル。
インド支部の弱体化したヴィシュヌならともかく、シヴァに至っては、今のベテル本部では束になっても倒せるか分からない。
だから、敢えて知らせてやることは。
強烈な抑止になるということだ。
咳払いして、煌は続ける。皆は重要な話と言うこともある。黙っていて貰う。
「情報の共有を」
「……東京駅内部の空間の四割ほどにまでは到達した。 悪辣なトラップが多数仕掛けられており、日本在来の悪魔どもが多くいる。 閉所での戦闘に慣れない天使達は苦戦を強いられ続け、多くの部隊が連絡を絶った。 だが、それでも現在これだけの地図が出来ている」
「四割という情報は信頼できるのか」
「それは此処から感じるマガツヒの量からして間違いない」
なるほどな。
アリオクとチェルノボグの力を加味すると、それが妥当という範囲を割り出せると言うことか。
情報を取り込む。
地図があちこち欠けている。かなり面倒なトラップが仕掛けられていると言うことだろう。
また、地図に関しても。
これは何というか、トラップというか。
「アスレチック?」
「なんだそれは」
「体を動かすための遊技場だ。 立体的に作られていることが多い」
「……そうか。 或いはそうやってアリオクは我らをもてあそんでいるのかもしれぬな」
アブディエルが忌々しげに言うが。
本当にそうか。
その割には何というか。判明している地点にあるアスレチックは、入った相手を苦しめようとか皆殺しにしようとか、そういう悪意はあまり感じられない。
むしろ何というか、本人が面白おかしく楽しく設置したような。
そのような雰囲気まで感じてしまう。
ともかくだ。
罠に引っかかると、ヨーコはともかく、ミヤズとイチロウは危険だ。二人には、先に空中でも移動できる足としての神魔を仲魔にして貰う。
この間の黙示録の四騎士戦でも、また膨大なマガツヒを取り込んだ。
ミヤズは支援魔法に関して、かなり凄いと眷属の神魔が口をそろえている。
だが、身を守れないと、ここから先は厳しい。
二人には、龍穴の側で悪魔合体をして貰う。
それを見て忌々しげなアブディエルと、今のうちに話をしておく。
「チェルノボグとアリオクは遭遇し次第倒してしまう。 構わないな」
「好きにするが良い。 出来るものならな」
「出来ると断言は出来ないが、やれるだけはやる。 それよりも足下を固めなくて良いのか」
「背信者どものことか。 そのようなことは分かっている。 どうせ奴らに与している大天使が他にもいるのだろう。 その程度、把握できていないと思うか」
また強がりを言うものだ。
そもそもとして、日本支部の介入を越水長官が提言した時。複数の大天使が、アブディエルに受けるべきだと諫言したのを見ていると言う。
それだけベテル本部の戦力が枯渇してきているということだ。
それにアブディエルの求心力も低下している。
いつ瓦解してもおかしくないベテル本部をまとめてきた鉄の女大天使の手腕にも、こう敗戦続きだと限界が見えてきている。
他の支部が既に完全に侮り始めているのも、敏感にアブディエル以外の大天使達は察しているのだろう。
或いはそういった別支部に鞍替えする者が出て来る可能性すらあるし。
何よりも。
コンスが言っていた、ベテルの瓦解すら見え始めているのだ。
ベテル本部はこれでも悪あがきはしている。
ただし各地からかき集めたデビルサマナーは出がらしの戦力にすらならず、此処に投入するどころではない。
支配下にある国の軍まで投入する計画を立てていたと言うが。
投入するだけ死ぬだけだ。
戦車砲が通用しない相手だ。
ミヤズやイチロウが渡されている銃弾は、一発ずつ呪術的な処置が施され、単価は十万を超える。
銃弾一発がである。
此処にそんな兵器を潤沢に投入するのは無理だ。
ドローンの類は完全に悪魔にとっては餌。
電子戦において人間なんて悪魔の足下にも及ばない。悪魔に対しては、ドローンなんか文字通りカトンボにすらならないだろう。世界最強のハッカーが味方にいても結果は同じだと、越水長官は断言していた。
そういうものなのだ。
二人が戻ってくる。準備が出来た、ということだ。
「煌、準備できたぜ」
「私もです。 空中戦をある程度こなせる手持ち、そろいました」
「風の罠はあたいがなんとかするよ。 他のトラップは、とにかく踏まないようにしないと」
アマノザコが提案する。
マーメイドも、ヨーコも含めた三人が、直に床を踏まないように、水魔法を展開してくれるそうだ。
アブディエルは不愉快そうだが、それでも仕方がないのだ。
空間の裂け目から、東京駅に入る煌達を、とめることはなかった。
アブディエルは分かっていた。
言われるまでもない。
ベテル本部は終わりだ。瓦解の時は近づいている。力が足りないからだ。
世界的に信仰心が薄れてきている。
一神教文化圏でも、若い者達は教会に行かなくなり、一神教への反発が強まる一方である。
強権的に一神教を強制する国もあるが。
それらは世界中から破落戸として嫌われ。
挙げ句にテロまで輸出したりしている有様だ。
勿論自浄作用を働かせようと、アブディエルも苦労はしてきた。だが悪知恵という観点では、人間の方が上手だ。
神がいた時代から、それは変わっていない。
それにだ。
アブディエルは見ぬようにしてきたが、天に戴く神がどんどん変質している事は、認めざるをえなかった。
そんなことは、アブディエルにさえ分かっていたのだ。
至高天の座に着いた時には、既にそうだった。
最初は、理も法もない民を厳しくしつけるためだった。
そもそもとして最初に神を戴いた時、そのもの達は獣も同然だった。
男を知らない女だけ生かして、後は全部殺せ。
そういう指示をモーセは出した。
そんな存在に率いられた連中が、一神教の最初の民だったのだ。そもそもその時は、一神教でさえなかったのだが。
だから厳しくしつけるための法が必要だった。
なぜなら。
一神教は、別に他の信仰と古くには変わらなかったのだから。
悩むアブディエル。
追って、ナホビノを倒すべきなのではないか。
そうとさえ思う。
だが、四半減している麾下の精鋭達ですら、この先に進むのは無謀だと告げてきている。彼らはアブディエルの麾下で必死に戦い抜いてきた者達だが、それですらも腰が引けてしまっているのだ。
天の主と、四大と七大。
それにどれだけ依存してきたか。
それをアブディエル自身が今思い知らされている。
それがなくなった今、本当に一神教の天使達は脆弱の極みだ。内部ですらまとまらないほどに。
何体かの大天使が来る。
いずれもが、内通を疑っている者達だった。
「日本支部のナホビノと精鋭デビルサマナーが来たようですな」
「連携して戦闘に当たっては」
「黙れ。 おまえ達は後方でずっと何をしていた。 私の麾下の精鋭が血を流しながら道を開いた迷宮に対して、物怖じするばかりではなかったか」
「我々は戦いにむいておりませんので」
いけしゃあしゃあとよく言う。
どいつもこいつも名前だけ存在するような大天使ばかりである。確かに戦闘力は低いかも知れないが。
それでも最前線でゴミのように切り裂かれているパワー達よりマシの筈だ。
更に良くない情報もある。
パワー達の中に、堕天するものが出始めているという。
パワーがこれほど堕天するのは、あのルシファーめが堕天した時以来だ。
現在は箝口令を敷いているが。
それもいつまでもつかどうか。
堕天というのがそもそも起きる事事態が珍しくなっている状況なのだ。何しろ、もはや神は。
ともかく役にも立たない連中を下がらせる。
そして龍穴の側で力を補給する。少しでも補給して、ナホビノの後を追わなければならないだろう。
あのナホビノ。
既に力を越えられたか。
そういう焦りすらある。
まだ勝てるとは思うが。焦りが確実に、鉄とまで言われた心をむしばんでいた。
だが、それでもアブディエルは神への忠義を崩すつもりはない。
どれだけ最初が血塗られていても。
一神教ですらなかったとしても。
それでも、アブディエルのよりどころは、忠誠心だけなのだ。
「アブディエルどの」
「どうした」
メルキセデクが来た。
メルキセデクが、まとめた報告書を提出してくる。受け取り、内容を確認。
どうやらウリエルに続いて、ラファエル、ガブリエルも見つけたようだ。ただし全員バアルにまで戻ってしまっている。
無言になる。
ミカエルに至っては、恐らくだが。
更に以前の状態。
原型の中の原型。マルドゥークにまで戻ってしまっているとみて良いだろう。マルドゥークはアティルト界からなぜか姿を見せない。
座に興味を持っていないと公言しているのは知っているが。
理由はアブディエルも知らなかった。
「今、お三方を元に戻すための道具を作成中です。 しかし、問題は元に戻ったところで、恐らくは主の御許に戻ることはない、ということですな」
「もはや四大ですら神を見捨てたもうたか」
「ご心中察します」
「良い。 ともかく今は、出来る手段をとるしかない。 私はナホビノ候補を可能な限り始末してきた。 その中にはゼウスやオーディンのナホビノ候補もいた。 全て、主の座を守り、取り返すための布石だ。 そのためだったら、どれだけでも我が手を汚そう」
頭を下げるメルキセデク。
一度、言われたのだ。
天使なのに、人々を守らないのか。
それが悔しくてならないのだろう。
アブディエルだって、悔しいに決まっている。
異教徒は本来殺戮する存在ではなく、教化して正しい教えに導き諭すためのものである。
それが主が座に着いてからというもの。
いやそれ以前から。
異教徒を皆殺しにするのが、当たり前になっていた。
異教徒の思想を全て否定し、一神教の思想を押しつけ。支配のために用いるのが当たり前になっていた。支配の刃は一神教の内側にすら向けられた。天使は人など守りはしなかったのだ。
どこで間違えた。
人間どもに都合良く利用された結果がこれだというのは分かりきっている。
だがそれにしても、あまりにも無様すぎるではないか。
このような状態を見て、神の子イエスはどう思うのだろう。喜ぶとはとても思えない。アブディエルは、こういうとき、心が張り裂けそうになる。
アティルト界のものであっても、心はある。
天使のあるべき姿とはなんだ。
負ければ負けるほど、それが分からなくなってきていた。
「アブディエルよ」
「!」
「私の下を去った時、随分と貴様は気勢を吐いていたではないか。 現実に打ちのめされて、それほどしおれるものなのか。 私は貴様にむしろ期待していた。 どれだけその信念を貫けるのか、とな」
この声は。どこからともなく聞こえてくるこの声は。誰の声だ。
嘲るような要素はない。
むしろたしなめるような声だった。
慈しむようですらある。
声の正体は誰だ。いや、わかりきっている。ずっと部下だったのだから。そして離反したのだから。
「おまえではもはやあのナホビノには勝てぬ。 この東京駅の守りさえ抜くことは出来ぬ。 なぜか。 それはおまえがどうしても最後の一線を踏み越える勇気がなかったからだ」
「蛇め……」
「楽園の蛇というのは私のことではない。 おまえも分かっている筈だ。 なぜ神は人間に知恵の実を食べることを禁じた。 勿論分かっているのだろう。 人間が楽園にいたなどという史実は存在しない。 知恵の実の逸話は、ただの神話的なメタファーだ。 知恵の実を人間が食べるように蛇がそそのかしたのではない。 人間の側にいた蛇を、神が引き離した。 知恵の実は、人間が最初から何世代も掛けて育ててきたものだった。 それを奪い取ったのは、誰であったのか」
「黙れ……!」
明らかにメルキセデクが困惑している。
だが、アブディエルは、その言葉を聞き流せなかった。
「もしも、おまえがどうしてもおまえの主の支配を取り戻したいというのなら、やるべき事は一つだ。 ナホビノの半身は既におまえから心が離れている。 ならば、合一することは不可能だ」
「……っ」
半身。
分かっている。
あの太宰イチロウという小僧のことだ。一目で理解できた。だが、あいつは知恵をどんどんつけていった。
だから、半身にはなり得なくなった。
知恵がある存在はいらない。
一神教では、神とその奴隷だけの世界だ。愛と慈悲という名目で、奴隷を如何に飼い慣らすか。
それが一神教のツールとしての使い方だ。知恵なんて、神の代行者を名乗るものだけが独占すれば良い。
その思想は、最初から今に至るまで、全く変わっていない。
今でも一神教の聖典には、神の言葉を疑うな。その言葉を全て受け入れよという文言が踊っているのだから。
その醜悪さに、アブディエルだって気付いていた。だが、それは深慮遠謀の末にだと思っていた。
モーセの邪悪な所業を知っていれば。
あのようなことをさせないためにも、人間は自発的に思考なんてしない方が良い。そうアブディエルは思ってきたのだから。
「おまえがするべき事は、既存の常識を変えることだ。 一神教は最初は一神教ではなかったのだ。 一神教ですらそうだ。 おまえが何かをこの時代にしたいのなら……考えて、根本的な考えを改めることだな」
声は止んだ。
アブディエルは、ずっと無言だった。
もはや、何も。
喋ることが出来なかった。
悩みは頂点に達している。少なくとも、ベテル本部をもはやまとめきれないのは、アブディエルにも分かっていることだ。
だからといって、何か今するべき事はあるのか。
チェルノボグとアリオクさえ倒せないこの身だ。
四大や七大と比べるとあまりにも非力すぎる。
しかし、主の座への復帰については、今でも考えている。裏切ることは、絶対に出来ない。
ふと、自分の足に鎖がついているのを感じた。
勿論物理的についているわけではない。だが、囚人と同じ。奴隷と同じ。そう、アブディエルは。
このとき初めて、自覚していた。
此処での決断は、アブディエルとしても苦渋です。
元々力が落ちてきている事は分かっていても、ついにそれを組織として認めざるを得なくなった。
それでも勝つことを優先した。
アブディエルも、血を吐く思いで決断しているのです。