真女神転生VV二次創作 牛蛇相克   作:dwwyakata@2024

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現在のロシア近辺で信仰されたのがスラブ神話です。ですが、一神教によって根底から消し去られた信仰の一つです。

スラブ関係の神話はほとんど詳細が分かっておらず、メガテン常連のチェルノボグもそれは同じ。

一神教に対して、強い恨みを抱いているのは、まあ仕方がないでしょうね。





1、スラブの黒い神

東京駅の内部は完全に別の場所になっていた。

 

煌も東京で暮らしていたから、東京駅は行ったことがある。新宿や渋谷のようなダンジョンそのものの複雑さではないし。品川駅のような不便極まりない構造ではないのだが。いずれにしても、こんな場所ではなかった。

 

内部はブロック状に仕切られ。

 

あちこちが激しい戦闘で破損している。

 

あちこちで瀕死の天使が呻いていて。多数の悪魔が、同じようにして息も絶え絶えで転がっていた。

 

「地獄かよ……」

 

イチロウが呻く。

 

ミヤズが死にたくない人は手を挙げてくださいと声を張り上げる。だが、誰もそうはしない。

 

それどころか、瀕死のまま、まだ斬り合っている天使と悪魔もいるほどだ。

 

「もう放っておきなさい。 付き合うだけ時間の無駄よ」

 

「ヨーコ先輩! どうして貴方はいつもそうなんですか! 命を奪う時は本当に一瞬! 助けるのは本当に大変なんです! 地球にある命は、どれも46億年の歴史の果ての可能性の欠片ばかり! 簡単に失われていい命とか、どうでもいい命とか、そんなものはありません!」

 

「そうかも知れないわね。 でも貴方のその気高さは、届かないわ」

 

ミヤズにヨーコが行くように促す。

 

ミヤズはそれでも、声を掛けるが。

 

瀕死のまま近寄ってきた悪魔が、かぶりつこうとしてくる。それに対して、嘆息すると。呼び出したクルースニクが、一撃で斬り倒していた。

 

悪魔が消えていく。

 

「急ごう」

 

「煌先輩、終わらせましょう。 こんな戦い、あってはいけないはずです」

 

「そうだな。 その通りだ」

 

どちらも自分が正しいと思っている。

 

だから、戦いは凄惨になる。

 

そんなことはわかりきっている。どれだけ腐った独裁体制でも、侵攻を受ければ兵士達が必死に抵抗したりする。

 

そういうものだ。

 

罠もある程度破壊されている。古典的な刃が行ったり来たりするようなものが、血だらけになって停まっている。

 

岩が転がってくる罠もあったようだが。多数の天使を巻き込んだ挙げ句に停まったようである。

 

風が吹いてくる罠も設置されていた。

 

それも、どういう風に通れば良いと、血文字が書かれている。そして罠の辺りには、戦いの跡が大量に残されていて。

 

フロック状の地形が破壊されていたり。

 

悪魔の残骸がマガツヒをばらまきながら、積み上げられたりしていた。

 

生きている天使を見つける。

 

パワーだ。

 

「日本支部の。 この先はまだ敵の勢力が強い。 気をつけてほしい」

 

「こんな泥沼の戦い、もう少しどうにかできなかったのかしら?」

 

嫌みをいうヨーコ。

 

煌もそれについては、同感だ。

 

もう少しましな指揮をしていれば、被害をここまで出すことはなかっただろう。馬鹿正直に、罠に片っ端から引っかかっているとしか思えない。

 

「我らは閉所での臨機応変を主とする戦いが苦手なのだ。 それに……」

 

「自分で考えるのも得意じゃない、んですね」

 

「そうだな……」

 

イチロウが言うと。

 

パワーが悔しそうに答える。

 

このパワー、自主的に考える事自体が罪だとする一神教の思想に毒されている身を、歯がゆく思っているのか。

 

昔だったら堕天していたのかも知れない。

 

そう思うと、哀れでならない。

 

考えて被害を減らそうとか、工夫しようとした存在が、堕天させられる。そんな仕組みが、正しい訳がない。

 

「後は任せて下がるべきだ。 後方には貴方の味方が多数瀕死の状態でいるのを見かけた」

 

「私は此処を死守するように言われている」

 

「まだそんなことを……!」

 

「それが責務なのだ。 他の部隊は、私が此処を守っていることを当てにしているかも知れない。 非力な私には、それしか出来ないのだ」

 

ミヤズの言葉に、パワーは本当に悔しそうに答えていた。

 

ミヤズもそれを聞いて、もう何も言えないと判断したのだろう。頷くと、先に行こうと煌に促してきた。

 

罠がまだ残されている。

 

風が派手に吹いたり停まったりを繰り返していた。たくさんうろついている悪魔は、あれは何だ。

 

巨大なレッサーパンダだろうか。

 

「風だね! ね!」

 

「アマノザコ、風をとめることは出来るか」

 

「無理かな。 でも、風が出る気配とかは分かるよ」

 

「よし。 まずは情報だが……」

 

この辺りまでか。

 

どうにかこの辺りまで、アブディエルの麾下達は道を開いたと言うことだ。だがこの先は、進んだにしてもほぼ生還できなかったのだろう。

 

狭い通路からはじき出すようにして、風を吹き出す装置が並んでいて。

 

通路からはじかれると、奈落の底に真っ逆さまという仕掛けだ。

 

ちょっといたずらにしても度が過ぎていると煌は呆れる。しかもそれを越えても、あの巨大なレッサーパンダの群れをどうにかしなければならない。

 

「よし、つかんだ! 風は、向こうから出て止まるを一つおきにやってる!」

 

「だとすると、一つの装置を越えたら、次の装置の風が止まるのを待ってすぐに走るべきだと言う訳だな」

 

「そうなるね! 多分天使が一度にたくさん通れないように、そんな風にしているんだと思う」

 

「ちょっと見やすく出来ないかな」

 

イチロウが言うと、マーメイドが側の床から顔を出す。そして、提案してきた。

 

霜の粒を飛ばすことが出来ると。

 

空中に浮かせておけば、恐らくは風が出る予兆が見えるし、風が吹いていれば霜が飛ばされると。

 

「かなり細かい技が使えるようになってきているな」

 

「モーショボーさんに教わりました。 モンゴルの寒い冬の事と一緒に」

 

「分かった。 やってくれ。 風を出す装置はかなり大きいが、見た感じ風の出る間隔はかなりシビアだ。 走り抜けるのと停まるのを繰り返すから、体力の消耗も大きくなる。 ましてや邪魔の悪魔もいる。 悪魔が群れている辺りは、風は出ていないようだが、気をつけてくれ」

 

風が止まる。

 

行くぞと声を掛けて、煌が出る。

 

マーメイドの霜が、たしかに風を可視化してくれている。それで皆が走って止まり、停まって走りを繰り返す。

 

どうも魔法の風のようで、生半可な力では逆らえそうにないとアマノザコが言ってくる。分かっている。

 

はた迷惑な仕掛けだ。

 

風が止まる。また進む。進みすぎないように気をつける。

 

霜が飛んでいく凄まじい有様から、風の威力がよく分かる。あちこちの床が欠けていて、戦闘が行われたり、装置をとめようと天使達が四苦八苦したのも見て理解できる。

 

近づいてくる煌達を見て、レッサーパンダの群れが警戒態勢に入っている。あれらも決して無事ではないようだが。

 

最後の風装置を抜ける。

 

一斉に仕掛ける。

 

レッサーパンダの怪物達が、一斉に凄まじい雄叫びを上げた。人間の恐怖心を煽るような声。

 

聞き覚えがある。

 

トラツグミだ。

 

なるほど、この姿、だとすると、正体が分かる。

 

「あれは鵺だな」

 

「聞いたことがある! 日本の妖怪だよな!」

 

「ああ。 日本の妖怪だからアドバンテージがある。 気をつけろ!」

 

退路がない上に、相手は多数でこちらを囲んでいる。

 

要塞などの内部に作られるいわゆる死地だ。相手を囲む仕組みになっている。これで、多数の天使を仕留めてきた。この先に進めないように。

 

他にもこういう場所が山ほどあったのだろう。

 

だから、ベテル本部を退け続けられたわけだ。

 

襲いかかってくる鵺の群れ。

 

大型の悪魔は出せない。しかも近距離での乱戦となる。

 

だが。

 

森可成と義経公が煌と一緒に前に出ると、鵺の群れを食い止める。後方からアールマティとヨーコが火力を投射し、更にはミヤズが腰を落として、アサルトで乱射を浴びせる。しかも集弾率が高い。

 

鵺と切り結ぶ。

 

煌の今の実力よりだいぶ落ちるが、やはり強さがかなりパンプアップされている。義経公はテンションが上がっているようだが。

 

「私の先祖も倒した大妖怪! 戦えるのは光栄の極みだ!」

 

「おまえ、源の一族! マルカジリしてやる!」

 

「ちなみに拙者の元の主は自称平家の子孫だ。 まあ自称だがな」

 

森可成が、巨体の一撃を受け流しながら、槍で突き返す。

 

後方からの援護射撃に辟易している鵺を、一体ずつ煌が切り崩し。更には、後ろから飛んできた一撃に、ヨーコが即応。

 

札を展開して、壁を作っていた。

 

「壁の風があるのに後ろから!?」

 

「奈落をカモフラージュに使って、潜んでいた部隊だろう。 ミヤズさん!」

 

「はい、分かっています!」

 

クルースニクを展開して、後ろから迫る相手を防いで貰う。その間に煌は、瞬く間に傷ついた鵺四体を斬り伏せ。更に数を削り取る。

 

狭そうにしながら、でかい巨人が進んでくる。天井をこすりそうな大きさだ。

 

ただ、全身傷ついている。

 

混沌の悪魔達も、激しい戦いで無傷とはいかなかったのだろう。

 

「鵺ども、代われ! 俺がやる!」

 

「すっこんでろ金鬼! オレサマ、源の一族、マルカジリする!」

 

「邪魔だっていって……」

 

義経公が、まだ何か言おうとした金鬼と言われた鬼を、なます斬りにしていた。体の頑強さには自信がありそうだったのに。一瞬で切り裂かれて、呆然としているところに。マーメイドが、気合いとともに水の一撃を入れる。

 

完全に尻餅をついた金鬼に、鵺がなんだってという顔をするが。

 

その時には、森可成と煌で、その鵺に肉薄。

 

一瞬後には倒していた。

 

後方から来ているのは、赤い二本足の馬のような悪魔だ。

 

炎の魔法を連続して放ち、遠距離から上手に攻撃してきている。風の仕掛けも、上手に回避しているが。

 

その背中から、槍が突き刺さっていた。

 

「ぬあっ……!」

 

足を止めた馬の悪魔が、風に吹っ飛ばされて、奈落に落ちていく。

 

遠くで、先のパワーが手を振っていた。彼が投げた槍だ。

 

ミヤズが礼をしている。

 

いずれにしても、この場の安全は確保した。イチロウが、冷静に皆の状態を確認。ミヤズがアマビエを出して、一緒に回復を始める。

 

ミヤズ自身も強い回復の魔法と、医療知識を同時に使えるようになっているのだ。非常に態勢を整え直すのが早い。

 

「手当、終わりました」

 

「ありがとう。 龍穴を見つけられればいいが、そうはいかない可能性も高い。 一戦ずつ、丁寧に片付けるぞ」

 

「おう。 可成のおっさん、いつも頼りにしてすまない」

 

「構わぬ。 生前の最後の時。 拙者は主君信長公のための時間稼ぎしかできなかった。 子供らはほとんどろくでなしであったしな。 拙者としては、きちんと戦えるようにイチロウ殿がなっているのを見ているだけで嬉しいし、それを守れるだけでもののふの誉れというものだ。 戦いしか出来ぬ無骨なもののふ故、それくらいしか出来ぬし、それで役に立てるのなら本望であるよ」

 

森可成は、この間の黙示録の四騎士との戦いで大きなダメージを受けた。復活させるのは、生半可な労力ではなかった。が、それでも採算度外視でイチロウが復活させたのだ。それくらい、頼りにしているのが分かる。

 

事実本物の戦闘のプロだと一目で煌にも分かるほどだ。

 

頼りになる。

 

次に進む。

 

今度は風を下から吹き上げて、高いところに進む仕組みか。

 

途中で散々悪魔の迎撃を受けたが、手傷を受けている悪魔が多い。混沌勢も、迎撃のために戦力を惜しんでいなかった、ということだ。

 

アブディエルの配下の精鋭達の犠牲は、無駄にならなかったのだ。

 

ただしアブディエルにはこれ以上進むのも無理だった。

 

そこで決断できただけでも、アブディエルは立派なのかも知れない。

 

虹色の蛇が消えていくのを一瞥だけすると、見上げる。風に吹かれて上に行くにしても、その先が不安だ。

 

先にマーメイドの霜とアマノザコの解析で、風で天井にたたきつけられるようなことはないことは確認しているが。

 

それだけではちょっと不安か。

 

だとすると。

 

「塗り壁」

 

無言で塗り壁が、床に張り付く。

 

この風は魔法の風で、質量関係なく吹き飛ばす仕組みになっている。

 

風が止まったタイミングで、皆で塗り壁に乗る。万が一に備えて、風が天井との間で潰そうとしてきた時に備えもする。

 

それをやるのはアマノザコだ。

 

恐らくだが、素戔嗚尊の力の一部、暴風としての力を引き継いでいるのがアマノザコだとみていい。

 

どうしてそうなっているのかは分からないが。

 

今のアマノザコは、それだけ信用できる。

 

風が来る。

 

調整は、煌がやる。それでも揺れる。うわっとイチロウが声を上げる。ヨーコは腕組みして仁王立ちして微動だにしない。

 

天井近くの床まで上がる。

 

「走れ!」

 

ちょっと距離があるが、どうにか跳ぶしかない。

 

イチロウが必死に跳ぶ。ミヤズも跳ぶが、わずかに足りない。だが、その手を、即座にクルースニクが引く。また、しがみついたアマノザコが、落ちないように持ち上げる。

 

「は、はやくー!」

 

「分かっている!」

 

ミヤズがわたりきる。ヨーコは余裕の様子で跳び越え。

 

他の仲魔や眷属も、わたりきっていた。

 

風が止まるが、その時には塗り壁を戻す。

 

見ると、天使の部隊がいる。ドミニオンが率いているようだ。

 

「ベテル日本支部の……!」

 

「良くここまで突破できたな」

 

「ああ、でも立ち往生していた。 前後ともに悪魔が多くてな。 特にこの先に向かった部隊は、一人も戻っていない」

 

「……そうだろうな」

 

強い気配。恐らくだが、アリオクかチェルノボグのどちらかだ。

 

ミヤズが手当を申し出る。

 

異教徒の情けなど受けぬと威勢良く叫んだパワーがいたが、ドミニオンが静かにたしなめていた。

 

「既に我らベテル本部の戦力は半壊状態。 これ以上、無為に戦力を減らしてはならぬ。 すまぬ。 今の無礼を許してほしい、日本のデビルサマナー。 回復を頼む」

 

「分かりました」

 

ミヤズがテキパキと回復させていく。

 

そして、此処でとどまり、守りを固めるようにとアドバイス。煌達は、そのまま進む。ずっと、あの威勢が良いパワーだけは、敵意の視線を変えなかったが。

 

「助けて貰ったのに、なんだよ」

 

「イチロウ先輩、頭を切り替えましょう。 私は見返りを求めてはいませんので、気にしていません」

 

「はあ。 年下だってのに凄いな。 俺だったら絶対イラって来る」

 

「同感ね」

 

ヨーコがイチロウに同意を示しているとは。ちょっと驚かされた。

 

いずれにしても、まだ悪魔が仕掛けてくる。

 

何度か交戦したが、あの二本足の馬の悪魔は堕天使オロバス。ソロモン王72柱の一角のようだ。

 

ただ大量に分霊を出してきているようで、本体は別にいるのかもしれない。

 

気配が強くなってくる。

 

階段がずっと続いて。周囲は奈落。辺りには、天使と悪魔の死骸が山となり、大量のマガツヒがまき散らされていた。

 

そして階段の先では、丁度今。ドミニオンを剣で串刺しにした、黒衣の骸骨顔の老人がいた。傘を被っている。

 

特徴からしてチェルノボグか。ドミニオンがマガツヒになって消えていく。周囲から、キノコのように死の気配が湧き上がってきている。

 

チェルノボグも無事ではなさそうだ。連戦につぐ連戦で、かなり疲弊しているようだった。

 

「やれやれ、老人相手によってたかって。 その姿、噂の日本支部の。 あのスルトどのを良く倒したものだのう」

 

「立派な武人だった。 手傷を受けていなかったら、勝てたかは怪しかった」

 

「そうさな。 見事な武人であったよ」

 

「僕は夏目煌。 貴方がチェルノボグか」

 

いかにも、と応じてくる。

 

すっとイチロウが仲魔を展開。すっかり慣れたものだ。

 

足場が狭い。更には、立体的な戦闘がしづらいように、あちこちにワイヤーが仕掛けられている。

 

なるほど、天使の強みを完全に殺す戦場か。

 

一人ずつ行くしかなさそうである。

 

「煌先輩。 支援魔法行きます」

 

「ああ、ありがとう。 僕が直に仕掛けるしかなさそうだ。 これでは一斉に掛かるのは難しい」

 

「来るがいい。 若い可能性を摘むのはあまり良い気分ではないが、これも仕事なのでな」

 

頷くと、煌は仕掛ける。

 

すっと構えを取ると、チェルノボグが突き込んでくる。いや、これは。二度三度、ほとんど同時に突きが飛んでくる。しかも重い。手刀ではじき返しながら、即座に理解する。これは剣ではなく、ほとんど槍の間合いだ。しかも槍も普通の手槍ではなくて、馬上槍。重装騎兵が突貫とともに繰り出すランスチャージの火力だ。

 

「細い老人と油断したか? これでもスラブの神格でな」

 

雷撃を浴びせてみるが、ばちんと剣術で弾き飛ばしてみせる。なるほど、魔術は基本的に使わない。

 

剣だけでの勝負にこだわるストロングスタイルの戦闘タイプだ。

 

義経公が代わろうかと言ってくるが、首を横に振る。

 

確かにこういう超重量級相手の戦闘は義経公がなれていると思う。だが、経験は出来るだけ積んだ方が良い。

 

これからは更に強い神魔と戦闘になるのだ。

 

此処で引くのではだめだ。更に自力をつける必要がある。

 

後方から、悪魔多数。

 

鵺とオロバスの分霊体。

 

更には、あの金色の巨大な鬼もいる。

 

イチロウとミヤズが対応を開始。ヨーコも札を展開して、防衛線を構築し始める。煌も眷属をそちらに回す。

 

後方はしっかりやってくれるはずだ。それに、残敵をまとめて片付けられるのであればそれはとても大きい。

 

切り込む。

 

立て続けに繰り出される刺突は、一撃がそれぞれトラックが突進してくるような破壊力だ。それが数十と驟雨のように飛んでくる。

 

はじき返しつつ、隙を狙う。

 

様々な魔法も合間に掛けていくが、かなり厳しい。そもそも剣の勝負にこだわる存在が、それだけでここまで来たアブディエル麾下の精鋭部隊を退けてきたのだ。その気迫、正直簡単に突破できるものではない。

 

激しい音とともに、互いに弾き会う。

 

ミヤズの支援魔法つきでこれか。

 

後方に展開したイズンが、リンゴを投げてよこしてくる。黄金のリンゴの強化効果。神々を不老にするリンゴだが、短期的には能力を跳ね上げる。それでもなお、まだチェルノボグの剣は突破できない。

 

「いい戦士だ。 あらゆる創意工夫でわしを突破しようとしてくる。 ここに来た天使どもは、どれもマニュアル通りの動きしかしなかった。 それでも流石にアブディエルが鍛えた精鋭なだけはあったがな」

 

「そうか。 褒めてくれるのはありがたいが……」

 

突貫。

 

更に速度を上げていく。

 

アマノザコが風魔法で支援。更には、マーメイドが局所的な雨を引き起こす。む、とチェルノボグが呻く。

 

徐々に拮抗していく。

 

これ以上煌も身体能力を跳ね上げられない。

 

その代わり、アオガミが一秒ごとにチェルノボグの剣技を解析してくれている。それだけで充分すぎるほどだ。

 

チェルノボグがついに一歩下がる。

 

気迫を込めて、上段から切り込んでくる。

 

横にはねのけるが、二刀目。

 

もう一本剣を抜く。

 

両側からの一撃を防ぎ抜くが、更に剣を出してくる。

 

上空に躍り上がった多数の剣が、一斉に襲いかかってくる。

 

「煌!」

 

「大丈夫!」

 

全てはじき返す。チェルノボグも焦っている。今までの戦闘での疲弊もある。ここまで天使の部隊が到達しているのだ。しかも恐らくはひっきりなしに。休憩もろくに取れず、乱戦の指揮だってしていただろう。

 

この状況、チェルノボグが奥義を出さざるを得ないほどだということだ。

 

雷雨を味方につけながら、煌は更に剣戟を交える。チェルノボグとの間に、凄まじい火花が散り続ける。

 

徐々に押し込み、逆に押し返される。

 

何度も相手の剣がかすめ。

 

こちらも相手の体を何度もかすめる。

 

苛烈な火花を散らしながら、不動の剣神に思える存在と、どれだけの時間剣を交えただろうか。

 

アオガミが言う。

 

「解析完了。 私の指示通りいけ」

 

「分かりました!」

 

無数に飛んでくる剣の中、明確に光が走る。いや、そういう動きをしろという指示だ。それに従って、弾き、かわし、時にはかすめさせ、そしてついに。

 

チェルノボグの懐に飛び込んでいた。

 

「……見事」

 

繰り出した手刀が、チェルノボグの体を貫くと。

 

スラブの黒い神チェルノボグは、満足そうに消えていく。

 

後方でも、丁度戦闘が終わっていた。

 

「チェルノボグ様がやられた!」

 

「くそっ! アリオク様に知らせろ!」

 

「まずいぞ! ここまで攻め込まれるなんて!」

 

悪魔達が逃げ散る。ミヤズがすぐに回復を始める。チェルノボグがいた地点のすぐ後ろに龍穴を発見。

 

だが、状況はそう簡単じゃない。

 

チェルノボグの強さは本物だった。後にいるアリオクだって、弱くはないはずだ。

 

これは腰を据えていかないと危ない。

 

煌もそう感じていた。







一神教への恨みはありつつも、それでも誇り高くチェルノボグさんは戦い、そして散りました。

最後の魔王城の主、アリオクまではもう少しです。





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