真女神転生VV二次創作 牛蛇相克   作:dwwyakata@2024

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魔王城は陥落しましたが、ベテル本部の被害は甚大。

また、そもそもとして魔界新宿区の方でもまだまだいくつも問題があります。

敗戦処理をしつつ、色々と対応していかなければなりません。





3、戦後処理

龍穴経由で研究所に戻る。

 

アリオクを仕留めたことを報告すると、後は休むようにと言われた。ユヅルとタオ、フィンも戻ってきている。

 

そちらでも進展があったようだった。

 

「都庁近辺で戦闘が始まっている。 黒い天使が都庁を攻め立てている」

 

「マンセマットだな」

 

「ああ、間違いないだろうな」

 

「ともかく今は疲弊が酷い。 回復を優先しよう。 それに……」

 

越水長官が、早速ベテル本部と話を始めているようだ。

 

ベテル本部は、混沌の悪魔達を倒したことを喧伝。これから、万魔会談というものをするつもりのようだが。

 

それで煌を締め上げるつもりであったらしい。

 

少なくとも、東京駅近辺での戦いが始まる前は、だ。

 

だが、越水長官の調べたところだけでも、ベテル本部の大天使の数体が既に都庁の攻略戦に参加。

 

つまりマンセマット側についている。

 

それだけではない。

 

ベテル本部の天使は、東京駅近辺の戦いで77%以上を喪失。

 

しかも喪失した天使の中には、アブディエルが鍛え上げていた精鋭が多数含まれており。特にアブディエルが親衛隊として鍛え上げてきた精鋭は、壊滅状態にまでなっているという。

 

その上生き残りの半数以上が離脱したという話まである。文字通りの全滅状態だ。

 

各ベテル支部がこの期に動き出している。

 

万魔会談は、ほぼ間違いなくベテルの終わりになる。

 

既にアブディエルは強権を振るう事など出来ない。

 

それに、である。

 

「都庁を勝手に至聖所などという場所に改造したことは許しがたい。 ただ、今の状況からして、恐らくアブディエルが籠城戦に参加するはずだ。 しばらくは状況の混乱が続くだろうな」

 

「お兄ちゃん、いい?」

 

「どうしたミヤズ」

 

「アブディエルさん、無傷じゃなかったよ。 あの状態で戦うつもりなのかな」

 

そうだろうなと、ユヅルは言う。

 

まあそうだろう。

 

あの頑固そうな鉄の女と言われそうなアブディエルだ。どれだけの深手を負っていても、あのマンセマットに屈するとは思えない。

 

至聖所に創世の女神の力が封じられているとする。

 

だとすると、その力を狙ってくるのは。

 

恐らくだが。マンセマットだけじゃない。

 

煌が見たところ。

 

恐らくは、カディシュトゥも動くはずだ。

 

今の実力なら、リリス相手に手も足も出ないという事態は避けられる。というか、以前は勝てる気がしなかったジョカを相手にしても、ある程度立ち回る自信がある。

 

ともかく、一度解散して、それぞれ休憩に入る。

 

とはいっても。

 

煌はベッドで横になっても疲れなんてとれないし。

 

ギュスターヴのところで回復した後は、ぼんやりと蔵書を崩すだけだったが。

 

力がかなりついてきたこともある。

 

吉祥天を強化しよう。

 

そう思って、軽く蔵書を崩した後、ソピアーのところに出向く。

 

ソピアーと軽く話をして、吉祥天を更に強化するための話をいくつか。更には、マーメイドがもっと上に行きたいというので、いくつか手を打っておく。

 

手間暇は掛かるが、戦力強化には仕方がない。

 

マッカも大量に消費したが。

 

今回の戦いでは、受けたダメージよりも、得たものの方が大きかったはずだ。

 

やることをやった後は、寮に戻る。

 

近代哲学をいくつか読んでいたが、どれも駄目だな。

 

どうしても西洋発の近代哲学は、一神教の手のひらの上だ。その鎖からどうしても外れられていない。

 

これをどうにかしないといけない。

 

それは煌も分かる。

 

いずれにしても、四文字の神が座から降りた今は確かに好機だ。

 

ずっと西洋文化圏をむしばみ続け。他信仰に対するあらゆる収奪と虐殺を肯定してきた一神教の時代は、そろそろ終わらせなければならないだろう。

 

一つの信仰として存在するのはそれはそれとして構わない。

 

だがこれが世界を支配し。

 

思想を押しつける事はあってはならないと、なんどでも思い知らされる。

 

とりあえず、娯楽本でも読むか。

 

そう思っていると、スマホが鳴る。

 

ほとんど使っていなかった個人用だ。まあ、こちらに連絡が来ることは、今や滅多にないのだが。

 

連絡を入れてきたのは、イチロウだった。

 

「な、なあ。 いいか」

 

「どうした」

 

「ちょっと聞こえちまったんだ。 煌、なんか体に問題があるんだろ」

 

「……そうか。 別に話すようなことでもないと思ったから、言っていなかっただけなんだが」

 

多分健康診断とかで、聞こえてしまったのだろう。

 

イチロウの声には明らかに同情が含まれているが。

 

別に煌としては、どうとも思っていないことだ。

 

煌の体には、確かに明確な欠陥がある。

 

そろそろ、話しておいた方が良いだろう。

 

「僕は簡単に言うと、男でもないし女でもないんだ」

 

「え……」

 

「両性具有って奴だ。 ただ、実際にはその両方ですらないんだけどな」

 

これが分かったのは、まだ幼い頃だ。

 

男性器はあるが、男性機能を有していない。

 

機能していない女性器があるが、それは一種の奇形だ。

 

男性としても女性としても子孫を残すことは出来ないだろう。幼い頃にそう言われて、そして両親は煌を捨てた。

 

正確には、以降興味を見せなくなった。

 

後から弟が出来たと事務的に言われて。そうかと答えたことはあるが。それだけだ。東京の親戚に「訳あり」として送られたが。

 

幸いその親戚がとても親切な老夫婦で、煌には実の両親と言えばその老夫婦である。

 

今では引退して、奥多摩で静かに暮らしている。

 

幸い東京受胎の範囲外だ。

 

シャカイナグローリーが解けたとしても、影響を受ける地点ではないことも、越水長官から聞いている。

 

「そ、それは……。 ごめん。 なんだかすごく悪い事を聞いたような気がする」

 

「別に構わない。 僕の身体能力は女性準拠で、それでいながら女性的な特徴は体に出ていないだろう? 基本的に全裸をさらすようなことはなかったから、今まで学校では誰にもばれなかったがな」

 

「いや、おまえ自覚はなかったかも知れないが、結構話題になってたぞ。 偉い目力の強いべっぴんがいるとか」

 

「そうか」

 

あまり興味がないが、そんな風に思われていたのか。

 

どうでもいい話だ。

 

そんなだから、性欲というものがほとんどなかった。

 

アオガミが体のことを知って、少年と呼ぶのをやめたのもそれが理由である。

 

「古くから両性具有は神性とされることが多くてな。 神々には両性具有の存在が結構いるんだ」

 

「そ、そうなのか」

 

「ああ。 だから僕は、ナホビノに適合したのかも知れないな」

 

「そうなんだな……」

 

イチロウはすまんと素直に謝ったが。

 

別に煌としても、隠しておくつもりはなかった。

 

実際問題、この女子基準の体力には随分困ってきたが。

 

それも昔の話だ。

 

今では合一を解除しても、オリンピック選手なんて鼻で笑う程度の身体能力を手に入れているし。

 

何かに困ってきたこともなかった。

 

煌の目力の所以はよく分からないが。

 

これがなかったら、いじめられていたかも知れない。

 

だが、もはや今ではどうでもいいことだ。

 

通話を切ると、鏡を見る。

 

瞳は完全に黄金になっている。

 

そういえば、気付いているだろうか。ミヤズも既にそれに近い状態だし。タオやヨーコも。

 

それに、ユヅルとイチロウもだ。

 

恐らく、膨大なマガツヒを吸収し続けているのが要因だろう。

 

魔界での戦闘がかなり頻繁に行われている。

 

それが成長と同時に。

 

皆の体を、作り替えているとみて良かった。それにだ。情報を整理する限り、縄印に集められていたのはナホビノ候補だ。

 

だからこそカディシュトゥはナホビノ候補をさらったのだ。

 

人質として、有効活用できるから。

 

やるせない話だった。

 

いくらか娯楽本を読んでいるが、面白くてもほとんど感情が爆発するような事はなくなっている。

 

げらげら笑ったりは今後はないだろうな。

 

そう思って、わりと面白かった娯楽小説を閉じる。いずれにしても激戦を経たイチロウとミヤズは、今日はもう動けないだろう。

 

寝てももう意味はないが。

 

一応、寝ておくことにした。

 

 

 

久々に夢を見る。

 

明晰夢だ。

 

天に昇る巨大な階段。

 

其処を歩いていた。

 

側にいるのは、人間味をなくした機械のような姿になったタオ。そして、後ろで倒れて動かないのは、イチロウとユヅル。

 

イチロウは人相から変わってしまっていた。

 

階段の最後で待っていたのは、八雲ショウヘイ。

 

ジョカもろとも打ち倒して、座に。

 

不意に時間が戻る。

 

目の前でイチロウが死ぬ。

 

ユヅルが死ぬ。

 

八雲ショウヘイが死ぬ。

 

越水長官が死ぬ。

 

何度も何度も。

 

血に染まった天への階段を、何度も歩く。少しずつ、思い出していく。

 

そうだ。

 

誰かの思想を優先すると、何度やっても駄目だったのだ。創世の結果、東京は守ることが出来た場合はあった。

 

だが。神魔を全て消し去ったところで、どうせすぐに新しい神魔が現れる。

 

四文字の神をよみがえらせたところで、その強権が戻るだけ。世界はまた法という名の、四文字の神の機嫌次第で決まるルールで縛られることになる。

 

多様性を実現するという方法も試した。

 

多様性は確かに保たれたが、何かにすがらないと生きられない存在は、誰もいきられなくなった。

 

そして、だ。

 

ヨーコが姿を見せる。

 

何もかも消し去ってしまおう。

 

そう、絶望の目をしたヨーコに言われて。世界を消し去ってしまう。人間の世界に致命的な破壊が巻き起こり。

 

漆黒の楽園の中で、蛇を身に纏ったヨーコがただひたすらに狂笑していた。

 

だめだ。

 

誰か一人の願望を叶えるのでは。

 

座は、そんなに良く出来たものではない。そもそも、こんなものは人間が作り上げた集合的無意識の深奥にあるだけのただのモノ。

 

人間を変えることが出来るかも知れないが。

 

その効果だって、限定的なのだ。

 

目が覚める。

 

ため息をつきながら、首を振る。

 

今見たのは、恐らくは正夢だ。考えてみれば、やはりおかしかったのだ。煌はずっと、最善手を選んできた。

 

それが偶然だとは思えない。

 

偶然は三回重なったら、もう偶然ではない、だったか。今までに重なった偶然は、あまりにも多すぎる。

 

妙な勘が働くことも、また多かった。

 

これもまた。とてもではないが、偶然の産物だとは思えなかった。

 

だとすれば。今まで起きてきたことは、既に経験したことなのではないか。それを少しずつ、思い出しているのではないのか。

 

ため息をつきつつ、ベッドから降りる。

 

かなりうなされていたと思うが、ベッドには汗一つしみこんでいなかった。

 

研究所に出向く。

 

皆と合流した後、軽く体の秘密について話をしておく。ミヤズは両性具有が極めて不便なことは知っていたようで、大変でしたねと言ってくれた。

 

それだけで充分だ。

 

「それで、越水長官は?」

 

「この機会に、都庁も取り戻すつもりになったようだ。 これから都庁側に仕掛ける話になるだろうな」

 

「アブディエル、戦ってるんだろ。 もう意地なのかな」

 

「……」

 

イチロウの言葉に、ユヅルがうつむく。

 

煌には分かる。

 

アブディエルは意地なんかじゃない。使命感と責任感に全身を縛られて、出来る事を必死にやっている。

 

それだけなのだ。

 

最初の一歩を間違えなければ。

 

天使達の長なんて席に着かなければ。

 

優秀な……あくまで天使としては、だが。優秀な存在でいられたのだろう。だが、器でもない席に着くと悲惨だ。

 

人間でもそう。人間の思念から作られた神魔でもそれは同じだろう。アブディエルの悲劇は、歴史で人間が幾らでも繰り返してきたものだ。

 

程なくして、越水長官が来る。

 

会議室で、軽く話す。ヨーコも交えているのは。東京駅攻略戦で、相応の成果を示した、その結果であるらしい。

 

「いくつかの支部が、同盟を申し出てきた」

 

「同盟、ですか」

 

「ああ。 その中には勝手にアフリカ支部を名乗っている者達もいる。 アナンシというアフリカの神だ」

 

どういうことだろうとイチロウが小首をかしげているので、タオが説明した。

 

要するに、ベテルが瓦解を始めたのだと。

 

エジプト支部の時に、既に兆候はあった。

 

だが、ベテル本部の力が決定的に低下して、ついでに邪魔だった混沌の悪魔達も今回の一件で動けなくなった。

 

勿論大物はまだまだいるのだろうが、大規模拠点を失い。これ以上は出来る事がなくなってしまったのだ。

 

だとすれば、次にやるのは。

 

創世か、創世を行える存在への友好的な接触だ。少しでもおこぼれに預かるため。もしくは、身を守るためだ。

 

「エジプト支部もそうだし、オセアニアの神々、更には南米の神々なども連携を申し出ている。 此処で、ベテル本部には、そろそろとどめを与えておくつもりだ」

 

「あの、越水長官」

 

「イチロウくん、どうした」

 

「俺、東京駅で色々見たんです。 アブディエルは、その。 無能なのかもしれませんが、それでも最前線で戦っていました。 自分で育てた精鋭達が倒れていくのを見ても、引く事はありませんでした。 なんとかなりませんか。 日本支部が、酷い目に遭ってきたのは事実だと思います。 俺もアブディエルが正しいとは思いません。 決断することの強さ、正しさも理解できました。 でも、決断できない奴、弱い奴がただすりつぶされていくのは、動物の理屈だと思うんです。 人間だったら、違う結論が出るはずです」

 

そうか。

 

やっぱりイチロウはそう結論を出すんだな。

 

煌としても納得できる。

 

越水長官は、頷いていた。

 

「アブディエルに傾倒しなかったのは立派だ。 そして、希望は煌くんが出してくれた。 確かに盲点だったが、バアルの前例を見る限り、皆で座に着くことは可能だ。 無論、それについては私も手助けしよう」

 

「……お願いします」

 

「だが、その前に。 世界中で強権を振るって、多くの迫害を繰り返してきた一神教の絶対支配は終わらせなければならない。 都庁での戦いで、創世の女神の力を、我々が主体的に解放する。 都庁にいる全てが敵だと思ってくれればいい。 可能であれば全て殲滅してほしい。 状況次第だがな」

 

厳しい言葉だが。

 

タオも、それには異存はなさそうだな。

 

煌が助け船を出す。挙手して、意見を述べておく。

 

「まず創世の女神の力が其処に本当にあったら、になると思いますが」

 

「ふむ、聞かせてくれ」

 

「既に見て感じるんですが、タオさんもヨーコさんも、既に人間の枠をはみ出し始めていると思います。 これは都庁なんか放って置いても、勝手に覚醒するのではないでしょうか」

 

要するにだ。

 

都庁で行われているのは、ただのベテル本部の権力争い。それも末期。

 

実際には、創世の女神の力など、其処に封印されて等いないのではあるまいか。

 

そう、煌は思うのだ。

 

ヨーコは創世の女神として封印されていたが、何らかのきっかけでそのくびきから逃れた。

 

それを考えると、封印は既に機能していない可能性が高い。

 

それならば。

 

「僕が説得します。 アブディエルは恐らくこのままだとマンセマットに負けます。 マンセマットはアブディエルの比にならないほど邪悪な考え方を持つ野心家で、もしも奴がベテル本部を掌握したら、何をしでかすかわかりません。 それにカディシュトゥもこの期に動くでしょう。 ベテル本部の天使達が激突して双方壊滅したら……それこそ好機であるからです」

 

「そうだな。 分かった。 ただし、説得はあくまで試みるだけにしてほしい。 今都庁で戦闘している天使の規模は、昔日とは比べものならないほど少数だ。 マンセマットの麾下の黒い天使達も数を減らしているが、アブディエルの私兵以外は、ほとんどが離脱してしまったのだろう。 アブディエルを倒してしまうのが一番早い。 それを忘れないようにな」

 

それは分かっている。

 

だが、イチロウがそれでは納得しないだろう。

 

分かっている。

 

イチロウも恐らくはナホビノ候補なのだ。座に着く権利はあるはず。

 

そのナホビノの半身が誰かは知らないが。それでも、イチロウの考えはよく分かる。

 

何より、だ。

 

誰か一人だけが座についても、恐らくはうまくいかないとみていい。実際問題、今まで座に着いた存在の思想には、問題が少なからずあったのだから。

 

また、今回もツバメさんは東京に残って貰う。

 

混沌の悪魔達が壊乱したとはいえ、まだまだ大物が東京を狙ってきている。

 

それに、カディシュトゥがこちらでティアマトを復活させようともくろんでくるかも知れない。

 

それを考えると、押さえはいるのだ。

 

装備を調えると、皆で都庁に向かう。龍穴に関しても、ユヅルが都庁近くにあるものを抑えてくれていた。

 

流石の手際だ。

 

フィンもやるかと、剣を数度素振りしてからついてくる。

 

フィンは煌に対しては、いくつも話を聞いてくる。

 

創世はどうしたいのか。どういった相手が敵になることを想定しているのか、とか。

 

既にフィンは、煌に対して腰を低くして接してきている。

 

それを見ると、フィンは。

 

今度こそ、まっとうな騎士としてありたいと考えているのかも知れない。

 

龍穴を抜けて、都庁近くに出る。

 

既に拠点は作られていたが、周囲は地獄絵図だ。空には白黒天使が入り乱れて戦っているが。

 

白い天使の数が明らかに少ない。

 

空には、大天使らしいのもいる。

 

それらの数体が、こちらに降りてきた。下級二位の方ではなく、天使の幹部達の方だ。

 

タオが皆の前に立つ。大天使達は、タオを知っているようだった。

 

「日本支部の聖女よ」

 

「我らの加勢に来たと見える。 殊勝なことだ」

 

「すぐにあの石頭めを倒して、至聖所を制圧するべし。 そうすれば、日本支部にあらたな長であるマンセマットどのが便宜を図ると言っておいでだ」

 

「あれだけの事をしておいて……」

 

珍しくタオが激昂するのが分かった。

 

大天使達は全く気にしている様子がない。人間が何を考えようとどうでもいい。そういう態度だ。

 

その上、こいつらはマンセマットについたのか。

 

だとすると妙だ。

 

マンセマットが単独で動いているとは思えない。あいつの背後には、何かいるのではないのか。

 

「マンセマットは邪悪な野心家です。 貴方達は利用されているだけです」

 

「なんと。 聖女が天使に疑念を抱くか。 それも相手は大天使であるぞ」

 

「人間は聖典の言葉を疑わず、ただ信じていればそれでいい。 聖典を知っているはずだが。 聖女でありながら不勉強が過ぎよう」

 

「その後ろにいるゴミ虫どもの影響か。 ならばそれらを駆除する必要が……」

 

黙りなさい。

 

そう一喝したのはタオだ。

 

タオの体から溢れている光の力が凄まじい。これは、煌も瞠目するほどの力だ。

 

創世の女神とやらに覚醒しかけているのは分かっている。

 

これは、既に力そのものは、覚醒しているのではないのか。

 

大天使達が恐れの声を上げる。

 

明らかに格上の存在だと理解したのだろう。

 

慌てた様子の大天使が、一人膝を突くと。他もそれに習った。明らかに、脂汗を掻いているのが分かる。

 

「貴方達はマンセマットについたのですね。 あのものは、私の仲間を塩の柱にし、脅迫しようとした性根が腐った存在です。 大天使でありながら、恥ずかしくないのですか」

 

「ひっ……」

 

「わ、我らはずっとアブディエルに独裁を握られ……!」

 

「貴方が受けている光の寵愛については理解しました。 どうか、どうかお許しを……!」

 

フィンが流石に不快感を刺激されたのか、剣を抜いて前に出るが、煌がとめる。

 

こいつらは、もう終わりだ。

 

だから、最後に聞いておく。

 

「マンセマットの背後には何かがいるな。 それは何者だ」

 

「わ、分かりませぬ!」

 

「圧倒的な力を持つ存在です! 我らが主がお隠れになったあと、姿をお見せになったと聞いております!」

 

「四文字の神は恐らく完膚なきまでに滅びたはずだ。 だとすると、一神教の関係者で強大な存在……?」

 

煌としても見当がつかない。

 

一瞬サタンが思い浮かんだが、サタンというのは古くは敵対者を意味した言葉であり。元々は神の目を盗んで悪さをする天使、くらいの意味に過ぎなかったのである。それがいつの間にか、大魔王に祭り上げられた存在に過ぎない。

 

ムスリムだとコーランでサタンは「シャイターン」として扱われ、キリスト教のサタンに比べるとだいぶ格下の存在として扱われているが。これくらいが本来のサタンの立ち位置である。

 

ちなみにセトの影響を受けているという話も有るが。

 

無数の習合を繰り返している一神教だ。根底にセトがいてもおかしくはないだろうが。

 

「マンセマットに伝えなさい。 至聖所を抑えることで、天使達の主になろうともくろんでいるようですが、そもそも都庁は人が建てた行政府にすぎません。 勝手に行政府を神殿にし、それを勝手に使っている時点で万死に値します。 これから日本政府として、至聖所などと改装された都庁を接収します。 それにはベテル本部であろうと容赦はしません」

 

「は、ははーっ!」

 

「わ、我らは、こ、これで……え?」

 

大天使達の体が崩れ始める。

 

悲鳴を上げる大天使達は、程なく全身が真っ黒に染まり、それぞれが爆ぜてしまった。

 

イチロウが思わずひえっと声を上げた。

 

ミヤズが目を背けている。

 

ヨーコが鼻で笑う。

 

「大天使ともあろうものが、何度も背信を犯した結果よ。 よりにもよってマンセマットについて、その所業に手を貸した。 アイデンティティクライシスを起こしたのね」

 

「精神生命体ってのは色々不便なんだな……」

 

「人間だって精神を病むと、十年以上、下手をすると一生苦しむことになります」

 

ミヤズの言葉にイチロウはすんとなる。

 

ともかく、行くしかない。

 

無言で進む。辺りには、ばたばたと天使達が落ちてきている。そもそもどうして殺し合いをしているのか、分からない天使もいるようだ。

 

黒い天使の方が優勢のようだが、白い天使達もアブディエルの指揮で奮闘しているようである。

 

だが、どうみても勝ち目はない。

 

都庁の麓に出向く。

 

アブディエルが指揮をしていたが。出向いてきたのを見て、思わず絶句したようだった。

 

「何をしに来た。 此処は人間が立ち入ることは許されぬ聖地ぞ」

 

「ただの都庁です。 貴方達が勝手に改造しただけの」

 

「後から改造したのはそうだが、それでも今は聖地だ。 聖女であろうと、近づくことは許されぬ」

 

「違います。 大天使アブディエル、此処には創世の女神の力を封じ込めたのですね。 しかし、創世の女神は何をしようともう復活します。 旧あしらえの封印などでは、とめられません」

 

アブディエルも気付いたのだろう。

 

タオが纏う凄まじい光の力に。それに、ヨーコが纏う、それとは対になる強大な闇の力に。

 

アブディエルの配下の天使達が前に出ようとするが、アブディエルが手を横に。

 

「聖女であろうと、聖地に無断で入ることは許されぬ。 だが既にこの聖地は、魔に浸され始めている……」

 

「マンセマット一派が入り込んだのですか」

 

「そうだ。 それに聖女が言うとおり、既に封印は壊れかけている」

 

「でしょうね。 私が出てこられたのだから」

 

アブディエルがその言葉を聞いて、ヨーコを見る。ヨーコが、恐ろしい笑顔を浮かべていた。

 

ヨーコにはどれだけでも天使達を罵倒する資格があるだろう。

 

「名前すら与えられなかった聖女が帰ってきたわよ。 さっさとその道を空けなさい、端女」

 

「……っ」

 

「新たなる聖女も貴方に命じます。 此処を開けなさい。 此処を政治利用することは許しません。 何が聖地ですか。 此処はただの行政府です」

 

その瞬間、輝いていた都庁が揺らぐ。

 

聖地であるという設定を、聖女自身が。それも今、恐らくもっとも強い光を纏っている存在が否定したのだ。

 

それだけで揺らぐ程度の「聖地」、ということである。

 

「分かった。 今はいずれにしてもマンセマットを倒すのが先だ。 内部に入るがいい。 外の雑魚どもは私が始末する。 内部は……任せる」

 

肩を落とすアブディエル。

 

イチロウはそれを哀れみの目で見たが、ユヅルに行くぞと言われて。煌達とともに、都庁へ進む。

 

煌としても少し心配だが。それでもイチロウは、顔を上げていた。

 

「あのローブのクソ天使をぶん殴ってやっつければいいんだよな」

 

「逆さ磔にしましょう」

 

「ええ……」

 

過激なことをいうタオに、イチロウがちょっと困惑したが。それで空気は逆に緩和されたようだ。

 

ともかく、内部でも戦闘が行われている。そして、悪魔が多数入り込んでいるのも分かった。

 

此処で。マンセマットと。決着をつける。







というわけで。

立て続けに至聖所での戦闘、開始となります。

原作と違ってアブディエルは既に煌と戦う気はありません。それ以上に、マンセマットの脅威が大きいというのもありますね。

何より既に創世の女神として半覚醒しているタオとヨーコの存在もまた大きいのです。


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