真女神転生VV二次創作 牛蛇相克   作:dwwyakata@2024

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至聖所が片付いたことで、ついに期が来ました。

カディシュトゥとの決着です。

総力を持ってカディシュトゥが挑んでくることになります。






3、仕掛け来るカディシュトゥ

ほとんど一日がかりで、都庁の内部の修復というか、悪趣味な金箔の撤去を終える。魔界の都庁とはいえ、魔王城となっていた東京駅と同じ。勝手にこのような事をされると迷惑だし。悪魔の拠点になられても困る。

 

そして確認するが。

 

既に創世の女神の封印は壊れた。

 

この場所で散々戦闘をしたのが要因であるらしいが。

 

いずれにしても、枷は外れたのだ。

 

「こっち終わったぜ!」

 

「ありがとう! こちらももうすぐ片付く」

 

「全部呪いの力で排除するわよ」

 

「お願いね」

 

皆がそれぞれ口々に言いながら、大型の眷属や仲魔が運んできた金箔……光の力で作られた壁を全て運んできて。

 

それらをヨーコがまとめて中和してしまう。

 

ヨーコの力は反転して闇の力になっているようだが。

 

別に仲魔にも眷属にも闇の力を使う者はいる。

 

ヨーコはそこまで戦闘意欲は強くないが。

 

それでも最前線で命を張ってくれている。

 

今更背中を刺すつもりはない。

 

そう判断して、皆も信頼して背中を預けていた。

 

ヨーコが裏切るつもりがなさそうというのは、アマノザコも言っている。アマノザコの嘘を見抜く力は頼りになる。

 

だからこれでいい。

 

さて、問題は。

 

もう一つある。

 

都庁入り口付近で、あまり機嫌が良くなさそうなアブディエルが来ていた。至聖所に仕立てた都庁が、メッキが剥がされている。

 

それを見れば、天使であれば機嫌が悪くなるのも仕方がないのかも知れない。

 

だが、タオが出て行って、話をする。

 

「マンセマットは取り逃がしましたが、彼の部下の悪魔と黒い天使は全て討ち取りました。 更には彼は首だけになって逃げ、力の99%以上を喪失しました。 それに……」

 

「ああ、分かっている。 奴が逃げた先に待ち伏せを、しかも奴を恨んでいる者達をおいていたのだろう」

 

「はい。 それを知ったのは後からですが」

 

「……分かった。 どのみちこの至聖所は限界を迎えていた。 確かにおまえ達の国の行政府を、魔界に落ちたとはいえ勝手に改造したのは我らの落ち度だった。 それに、万魔会談をこれから行う。 争っている余裕はないのでな」

 

行くぞと声をかけると、アブディエルとわずかな配下達が飛んで去って行く。

 

一人残ったメルキセデクが、煌に話があると言ってきた。

 

メルキセデクは以前からそれほど悪印象がない。

 

ただ周囲は、天使というだけであまり良くは見ていなかったが。

 

「煌どの。 話があります」

 

「僕にか。 なんだろうか」

 

「我々は既に戦力の大半を喪失し、今のままではベテル本部の維持どころか、そもそも滅亡の危機に瀕するだろうと判断しています。 しかし、それらを覆す手が一つだけあるのです」

 

「……」

 

まさか煌に手伝えというのか。

 

無言でいると、メルキセデクは続ける。

 

「恥を忍んで頼む事なのですが、いずれ荒事を依頼するかもしれません。 このままでは我らは、文字通り全滅することになるでしょう」

 

「全滅しなさいよ」

 

ヨーコが冷たいことを言う。

 

ユヅルも同じ意見のようだ。

 

二人はあまり仲が良いようには見えないのだが、それでもこれに関しては意見が一致するのだろう。

 

ユヅルは如何にベテル本部が強権的に振る舞ってきたか、間近で見ている人間である。ならば余計にそうなのだろうから。

 

メルキセデクは膝まで突く。

 

「お願いいたします。 ベテル本部の瓦解は避けられないとしても、もはや他の支部と対抗する力すら失うのは避けたい。 創世の後も、一神教を純粋に信じる人々のための力くらいは残したいのです」

 

「……内容次第だ。 その時に聞かせてほしい」

 

「分かりました。 越水長官にも話は通しておきます」

 

「ああ、頼む」

 

メルキセデクが去る。

 

都庁の光の力は撤去が終わる。膨大なマガツヒが、外に溢れているかと思ったのだが。大規模会戦が行われたはずの外は、ほとんどマガツヒがなかった。

 

妙だな。

 

ともかく、一度龍穴に戻る。

 

回復を済ませてから、一度東京に戻る。越水長官に戦果を報告。だが、その途中。おぞましい何かの気配を感じた。

 

越水長官も、感じたようだった。タオもヨーコもである。

 

「!」

 

「煌、どうしたんだ」

 

「いや、何か嫌な気配だ。 ただ此処ではないようだが」

 

「魔界で何か起きたようだな。 それも都庁の近くだ。 今、都庁には自衛隊とサマナーの部隊が調査に展開している。 激戦を終えたばかりですまないのだが、すぐに戻ってくれるか」

 

勿論言われるまでもない。

 

ツバメさんはというと、池袋に出現した邪神への対処を今丁度しているところであるらしい。

 

かなり強力な神格らしいが、それでもツバメさんだけで対処はすると言うことだった。

 

ともかく、急ぐしかない。

 

現地にありったけの戦力で急行する。

 

龍穴を出ると、自衛隊の部隊が、必死に逃げてきているところだった。サマナーが真っ青になって怯えきっている。

 

彼らはこの辺りの魔界で通用する実力ではないのだ。

 

その上、この気配は。

 

見える。

 

とんでもないマガツヒの量だ。

 

空が赤くなるほどの強大なマガツヒが収束し、周囲にあからさまな悪影響を与えているほどである。

 

「即時撤退を」

 

「分かってる!」

 

「逃げ遅れた人はいませんか?」

 

「奥で一班が孤立してる!」

 

僕が行くと言って、ユヅルが即座にハヤタロウを出し、先行する。

 

皆ももう慣れたもので、仲魔を展開。煌も眷属を出す。

 

これは、とんでもないのがいる。

 

先行していたユヅルが、自衛隊の一小隊と、護衛されていたサマナーと研究者を連れて戻ってくる。

 

とはいっても魔界では自衛隊員が如何に訓練を受けていても、役に何て立てないのだが。

 

ともかく判断が早くて、誰も巻き込まなくて済んだ。

 

それだけで充分だ。

 

「一体あれは何の……」

 

「見つけたぞ夏目煌!」

 

鋭い声とともに降りてくる、やたら色気過剰の女悪魔。ナアマだ。

 

そして、すっと降り立ってくるのは、エイシェト。顔がない、コンプレックスの塊の女悪魔。

 

ミヤズが険しい顔になる。

 

更に、箒に横乗りで、囲むように飛んでくるのはアグラト。

 

更に更に。

 

まるで今までそこにいなかったように、突然出現したそれは。

 

体に蛇を巻き付けた全裸の女性。

 

そう、リリスだ。

 

カディシュトゥが勢揃いである。

 

しかも、まとめて出てきたと言うことは、何かしらの目的を果たしたからだとみて良いだろう。

 

ハンドサインを出す。

 

皆、頷いていた。

 

どうやら決戦を挑んでくるとみていい。

 

そして今の煌達なら、彼女らをまとめて相手することも出来る。リリスの力も、昔は国会議事堂で戦った時のジョカ並だと感じていたが。今だったら、どうにか勝負が成立する。

 

それだけじゃない。

 

更に降り立つ存在がいる。

 

巨大な赤い蛇に、多数の翼を持つ存在。

 

「頭が高い。 余こそが、サマエル。 蛇の神の王である」

 

「貴方が?」

 

煌が冷静に指摘する。

 

サマエルが出てくる可能性は、カディシュトゥの面子を見ていればあるだろうと考えてはいた。

 

だが、サマエルが蛇の系譜の王に位置するなどとは片腹痛い話だ。

 

「これらカディシュトゥは全て私の妻にして、配下である。 そして余は、今、目的を達しようとしている」

 

「ユダヤ神秘主義が完成したのは12から13世紀だ。 しかも楽園の蛇は貴方であるという以外も様々な説がある。 ましてや描写さえ安定しない貴方が、蛇の系譜の神の頂点であるなどとはおかしな話だ」

 

「生意気な小僧であると聞いていたが、どうやら本当のようだな。 まあいい。 今日の余は機嫌が良い。 無礼は許してやろう」

 

「そもそも貴方が王であるような神話的な記述は存在していない。 余などとは滑稽極まりない一人称でしかないが」

 

指摘していくのには理由がある。

 

見ていて理解できた。

 

リリスをはじめとして、カディシュトゥはサマエルに忠義なんて誓っていない。

 

此奴は恐らくだが、ただの張りぼてだ。

 

今は時間を稼いで、リリス達の対応を見るのが先だろう。

 

ただでさえ囲まれている状態だ。

 

はっきりいって戦下手のマンセマットと、統制がとれていないその配下達との戦闘を行ったついさっきより、状況が良くない。

 

サマエルは指摘を無視した。

 

そして、リリスに命じる。

 

「たまったマガツヒを用いて、あれをよみがえらせよ」

 

「は。 それには生け贄が二柱必要となります」

 

「ふむ、申せ」

 

「一柱は既に」

 

上空で無数のおぞましい鎖に縛られ、磔にされているのは、あれは。

 

雷の神のようだが。

 

典型的な天空神、牛の神の系譜の存在のようだ。だが、どうにも正体が見えてこないのだが。

 

「あれは誰だ」

 

「スラブ神話の最高神ペルーンだ。 スラブの神々は今回の件でほとんど知られていない日本に相性が悪いにもかかわらず出向いてきていてな」

 

あっさり答えてくれるリリス。

 

ペルーンか。

 

スラブ神話の伝承はほとんど失われてしまっているのだが、その中でよく分からないながらも、ある程度名前が分かっている最高神。

 

雷神であり、臼に乗って空を飛び、ゼウスの影響を受けた神であるらしいというのは分かっているが。

 

分かっているのは其処までだ。

 

ぐったりしているペルーンについて、リリスが説明する。

 

「何しろ弱り切っていたからな。 チェルノボグのように混沌の悪魔達と連携するでもなく、ただ漠然とこの地で覇権を握ろうとしてはいたが、一神教に迫害されてスラブの神話は既に破壊された。 捕獲するのは容易であったよ」

 

「それでもう一柱は」

 

「ああ、そこにいる」

 

「……は? リリス、何を言っている!」

 

カディシュトゥ達が、サマエルを見る。

 

サマエルは、威嚇の音を立てながら、妻という設定の女悪魔達を見る。だが、夫としてサマエルに敬意を払っている者なんてこの場にはいない。

 

それは一目で分かっていた。

 

空気が。

 

一瞬で代わる。

 

凍り付いたような威圧感だ。

 

ペルーンに、凄まじいマガツヒが収束していく。それだけじゃない。サマエルが、一瞬にして。そのマガツヒの塊から伸びてきたサマエルよりももっと巨大な蛇にばくんと一口にされ、暴れるまでもなく引っ張り込まれる。

 

悲鳴すら上げる暇もなかった。

 

ペルーンとサマエルを取り込んだマガツヒの塊が、まがまがしく脈動する。

 

これはまずいな。

 

即座に仕掛けようとするが、リリスがすっと壁になってくる。

 

「多少時間が掛かる。 その間、遊んで貰うぞ」

 

「……その前に聞きたい。 何をもくろんでいる。 やはりティアマトの復活か」

 

「その通りだ」

 

「それでどうするつもりか。 蛇の神の始祖に近い存在をよみがえらせて、それで創世をするつもりか」

 

リリスはふっと笑う。

 

どうやらそれすらも違うのか。

 

いずれにしても、相手はやる気だ。

 

大量の悪魔が出現する。

 

カディシュトゥに加担している堕天使が多数いることは分かっていたが、それら。恐らくは、ナアマの麾下。

 

大量の、不定形の悪魔達。

 

これはインキュバスやサッキュバスと同じ、夢魔の類だろう。エイシェトの配下達だ。

 

更には、大量の人狼達。

 

アグラトの配下達。その先頭には、数度刃を交えた。あの強力なルーガルーもいた。

 

そして、大量の女性悪魔。

 

これこそ恐らくは、リリスの子とされる存在。リリムだろう。

 

空を埋め尽くすほどの数だ。

 

「今のおまえ達は、出し惜しみせずに戦う価値がある。 簡単に壊れてくれるなよ?」

 

「……煌、あのアグラトは俺がどうにかする」

 

「行けるか」

 

「ああ、どうにかしてみる」

 

そうか。

 

ミヤズが続けていう。

 

「エイシェトは私が相手します」

 

「大丈夫か」

 

「はい。 あの人は、此処で倒さないといけません」

 

そうか。ミヤズにも思うところがあると言うわけだ。

 

ユヅルも言う。

 

「ナアマは僕に任せろ」

 

「分かった。 確認のために言っておく。 本人はあまり頭が良くないが、面制圧攻撃に気をつけてくれ」

 

「大丈夫だ。 僕も戦った相手だ。 戦闘データは把握している」

 

フィンが前に出た。

 

ふっと笑うと、アグラトを見る。イチロウだけでは心許ないと判断してくれたのかも知れない。

 

「あの魔女は俺も相手をしよう」

 

「手強いですよ。 気をつけてください」

 

「ああ、だが俺が生きていた時代の魔女ほどではない。 どうにかしてみせるさ」

 

リリスは煌が相手しないと厳しいだろう。

 

じりじりと両者の間の殺気が高まる中、リリスが思った以上に威厳がある声で、号令を掛ける。

 

「虐げられてきた我らが配下、私の子達! 今こそ、蛇の神の始祖ティアマトを復活させる時だ! 牛の神は支配の神! 知恵と生の輪廻を司る蛇の神は常にその下に置かれてきた! それらの理を此処で覆し、そして世界のあり方を変える! 今まで半端な状態でしかよみがえることがなかったティアマトを、元の力でよみがえらせる。 さすればあの明けの明星ですらかなわぬ! 今こそ踏ん張りどころだ!」

 

「おおーっ!」

 

「虐げられた今までの時、全てこの復讐のために!」

 

「天を裂け! 我らが時は、ついに来たのだ!」

 

演説に呼応した悪魔達が、一斉に襲いかかってくる。

 

こちらも全ての眷属を出して、皆も全ての仲魔を展開して、それを迎え撃つ。

 

戦いが始まった。

 

 

 

無数の堕天使が迫る中、大獄丸と猪笹王の突破力を全力で活用して、ユヅルは悪魔を片っ端からねじ伏せる。

 

問題はナアマだ。

 

詠唱を続けるナアマは、煌から聞いているが肉弾戦はどうってことがなく。その代わり面制圧の火力が凄まじい。

 

ファランクスを組んだ河童達。上空で堕天使達と戦う天狗達に任せて。ユヅルは突撃。突撃を邪魔する相手を、大獄丸が次々とたたきのめした。

 

「おらあ! この国最強の鬼神様が相手だ! 半端な伝承しか残ってない堕天使なんて相手じゃねえんだよ!」

 

「おのれ、異郷のデーモンごときがあ!」

 

叫びながら、堕天使達が大獄丸に突貫。

 

大乱戦だが、それでもユヅルが飛び出す。

 

ナアマが詠唱を終える寸前。

 

ドロップキックを、もろに腹にたたき込んでいた。

 

なんだかとてもかわいい悲鳴が聞こえた気がするが。ともかくナアマはふっとんで、何度か砂でバウンドして。

 

更には都庁の壁にべしゃとたたきつけられて。ずり落ちる。

 

ずり落ちたナアマを見て、なんだか少し罪悪感が湧いた。

 

それでも高位悪魔だし、以前戦闘した経験もある。

 

そのまま突貫。

 

後方を守ってくれるハヤタロウ。

 

任せる。

 

乱戦の中、ユヅルが霊刀を振り下ろすと、あわてて必死にナアマが飛び退いていた。

 

「ちょ、加減しなさい! 何よもう!」

 

「加減していたらあの面制圧が飛んでくる。 悪いが皆の支援もしなければならないのでね」

 

「あいつといい今時の子供はどうしてこうかわいげがないのよ! もうきらい!」

 

「子供のような言い分だな」

 

なんだか子供みたいな癇癪を起こすナアマに、立て続けに仕掛ける。

 

これでも魔界で苛烈な戦闘を繰り返してきたのだ。大量のマガツヒを回収して、力は大いに上がっている。

 

それに対して、ナアマは以前戦った時より強くはなっているが。

 

それも想定の範囲以上ではない。

 

守りなさい。

 

そうナアマは叫んで堕天使を呼び寄せようとするが、気をそらした堕天使を、大獄丸が即座にラリアットを食らわせて赤い塵に変える。

 

火車が暴れ回り、辺りを火の海に変え。

 

更には麾下の悪魔達も、それぞれ大暴れを続け。堕天使の群れに一歩も退いていない。地力では、大獄丸を除くとどうしても劣る。

 

だが指揮が雑だ。

 

だから、どうしても分はこちらにある。

 

とにかく距離は取らせない。上空に出ようとした場合、銃で即座に牽制。天狗部隊が、上を塞ぐ。

 

体術を仕掛けてくるが、ユヅルは既にあらゆる体術も魔界の戦闘で伸ばしに延ばしている。

 

飛んできたナアマの蹴りを余裕を持って回避すると、そのまま当て身を浴びせて。また都庁の壁にたたきつけていた。

 

むぎゅっと呻いて、壁にて目を回しているナアマ。

 

そのまま霊刀でとどめを刺しに行くが。その前に降り立ったのは、かなり強い堕天使だ。これは、ソロモン王72柱か。

 

「頼りにならないお姫様だな。 時間を稼いでやるから、とっとと距離をとれ」

 

「な、生意気なのよどいつもこいつも……」

 

足下が明らかにおぼつかない感じで、ナアマが距離を取ろうとする。

 

ユヅルは剣の構えを取り直す。この堕天使、侮れる相手ではない。

 

堕天使が名乗った。

 

「俺はパイモン。 簡単に通してやると思うなよ」

 

「敦田ユヅルだ。 行くぞ!」

 

そのまま斬りかかる。

 

乱戦は、加速していく。

 

 

 

ミヤズは冷静に相手の動きを見ながら、一体ずつ確実にアサルトライフルとスナイパーライフルに機能を切り替えながら倒していく。側についているクルースニクと巴御前が頼りになるし。

 

大量に魔王城で契約した悪魔達が、乱戦で暴れ狂っている。

 

エイシェトが展開した悪魔は、どれもこれも所詮は闇の中でしか活動できない存在ばかり。

 

夢魔なんてものは。

 

起きている時には、所詮は無害なのだ。

 

エイシェトが突貫してくる。

 

即応したクルースニクが、エイシェトの爪を受け止める。ミヤズは冷静にマガジンを換えながら、アマビエが側で踊って、周囲に支援魔法をばらまいているのを助ける。エイシェトが吠える。

 

「小娘ぇ! おとなしい顔をして、随分と男をたらし込んだか! 分かるぞ! エジプトの神の加護が貴様にはある! どうやってエジプトの神なんてたらし込んだ!」

 

無視。

 

たらし込んだつもりなんてない。

 

あの人は、最初から壊れている。壊れている人と対応してもいいが、今はまだその時じゃない。

 

背後から襲ってきたもやもやを、巴御前が一刀両断にする。

 

ミヤズは順番に、面倒な暴れ方をしている夢魔を射撃で仕留めていく。

 

クルースニクはエイシェト相手に押され気味だが、決して即座に斬り倒されるほどでもない。

 

やれる。

 

冷静に考えをまとめながら、確実に敵を削ぐ。

 

お兄ちゃんの専売特許だと思っていた冷静さだが。実のところ、お兄ちゃんは結構簡単に熱くなる。

 

ミヤズはむしろ、コンスが本当にいたこと。コンスがずっと思ってくれていたこと。ミヤズを最大限尊重して、人間としての生を全うする手助けをしてもくれるし、その後太陽神としてエジプトを支えてくれればいいし。それまでいつまででも待つと言ってくれたこと。

 

その全てが嬉しかった。

 

だから力を出せる。

 

だからこんな壊れてしまった相手には負けない。

 

また一体、仕留める。マガジンを冷静に換えて、至近に迫っていた一体を即座に撃ち抜く。

 

エイシェトは激しくクルースニクと切り結んでいるが。

 

どうしても突破できない。

 

クルースニクは守りの剣技に全力を注ぎ。それをアマビエ達支援魔法の使い手が支援している。

 

それにだ。

 

ずっと煌先輩の眷属である女神イズンが、黄金のリンゴの力を分け与えてくれている。ものすごい効果で、格上の相手ともこれなら渡り合える。

 

飛び退いたエイシェトが、口から泡を吹いて叫ぶ。

 

「埒があかん! 貴様等、全て融合しろ!」

 

「えっ! そ、そんなことをすれば、個が……」

 

「エイシェトの命令だ! さっさとしろ! それで突撃して、あの小娘を押しつぶせ!」

 

「やめなさい」

 

ミヤズが、初めてエイシェトに今日の戦いで答える。

 

エイシェトが、冷え切ったミヤズの声に、振り返る。もう、あんな悪魔は怖くない。ミヤズは、冷静に告げる。

 

「貴方は不幸ないきさつで作り出された。 それは認めます。 だからといって、周りに不幸をばらまいていい訳がない。 貴方がしていることは、貴方を貶めた存在と同じです」

 

「お、おのれ、このあばずれが、言うことに事欠いて……!」

 

明らかに動揺した夢魔の一体をつかむと、放り投げてくるエイシェト。凄まじい肩で、まるで砲丸だ。

 

間に立ち塞がった鵺が、木っ端微塵に砕ける。

 

更にもう一体をつかもうとするエイシェトだが。そうはさせじと、クルースニクが斬りかかる。

 

エイシェトは余裕を持って受け止めようとしたが、その剣技は今までとは違って、明らかな圧力があり。エイシェトが押し込まれる。

 

更に、だ。

 

「わっ!」

 

「ま、またかこのガキがああっ!」

 

わーちゃんが、エイシェトを脅かす。

 

それで態勢が崩れたエイシェトの爪を、クルースニクが切り割る。飛び退こうとしたエイシェトから、明らかに夢魔達が逃げ出す。それはそうだ。前だって多数が置き去りにされ、使い捨てにされた。

 

今度は全部まとめて使い捨てになれなんていわれ。

 

更には砲丸になんてされて、嬉しいわけがない。

 

これ以上は愛想が尽きた。

 

そういうことだ。

 

そして、此処で狙い澄ました一撃を見舞う。

 

先に巴御前が、一射確殺の気迫で一矢を通す。それはあまりにも美しくて、見惚れるほどの動作から放たれていた。

 

完璧な矢。

 

だが、だからこそエイシェトはその矢を、全力で残った爪を振るって、はじき返す。更に返す刀で、クルースニクを蹴り飛ばす。

 

クルースニクの全力での一太刀を見抜いていたと言うことだ。

 

だが、だからこそ。

 

このときのために特注で用意して貰っていた、単価250万円の、これ以上もないほど呪術的に強化した一発。

 

特注品の中の特注である狙撃用ライフル弾。

 

それを、狙っていたミヤズが。撃ち込む。ここまでの流れ、完璧に読んでいた。そして、今まで温存していたラマシュトゥが、万が一のために上空に飛び、エイシェトが逃れるのを塞いだ。

 

その必要もなかったが。

 

肩に一発が直撃。

 

ミヤズも狙撃になれてきている。この距離だったら、絶対に外さない。相手が如何に異常な速度で移動できるとしてもだ。

 

自衛隊の精鋭達から、習ったのだ。

 

俺たちに出来る事は少ない。子供を戦わせて本当に申し訳ないと思っている。だからこそ、出来る範囲の技は全部教える。

 

それでくそったれの悪魔どもを、倒して。

 

東京の人たちを守ってくれ。

 

その思い、弾丸に乗せた。

 

エイシェトの肩が、えぐれて吹っ飛ぶ。腕一本、まとめて消し飛んでいた。

 

頭は最大限に警戒されているからこの状況でも恐らく当たらない。狙うなら腹だが。今は肩を貫く自信があった。

 

そして、その自信は。成果を上げたのだ。

 

「ぎゃあああああああっ!」

 

痛打を浴びたエイシェトを、更に巴御前の第二矢が貫く。それでふっとんだエイシェトに、更にクルースニクがとどめを刺しに行くが。必死に飛び退いて、エイシェトが距離を取る。

 

エイシェトに肉薄するクルースニクとラマシュトゥに後は任せて良いだろう。

 

ミヤズは此処からは支援だ。

 

支援魔法と回復魔法を準備。展開している悪魔達にも符号となる言葉を言って、以降は支援に徹した。

 

 

 

イチロウは走る。

 

あまりまだアグラトに勝てる自信はない。ただフィンもついてくれている。絶対に勝ってみせる。

 

アグラトは多数の魔法弾を作り出すと、驟雨のごとく打ち出してくる。

 

以前、二度見たが。とんでもない破壊力だ。

 

しかも魔法による障壁を簡単に貫通してくる。走りながら、斉射をかわす。

 

フィンが言う。

 

「腕を上げてきたな! 安心して戦いを見ていられるようになってきた!」

 

「すまねえっす! 俺に手助けしてくれて!」

 

「構わない! あいつはナアマやエイシェトとは段違いだ! 傭兵である俺は、これくらいはしなければならないさ!」

 

ばっと左右に散る。

 

森可成はあのルー・ガルーと互角にやりあってくれている。森可成自身がマガツヒを吸収して強くなっているのはある。

 

だがそれにしても、凄い。

 

イチロウはあの人から教わったのだ。戦いのイロハを。あの戦国時代に名を残したほどの人に。

 

今更怖じ気づいて何ていられない。

 

アールマティが光の力で支援してくれている。多数の雑多な悪魔が、人狼の群れを相手に戦ってくれている。

 

何よりフィンが絶倫の剣技で、右に左に人狼を倒してくれている。

 

此処で道を作らなければ。

 

男じゃない。いや、今だと時代的にそういう言い方は良くないか。戦士じゃない、の方が良い。

 

そうだ、イチロウはもう周りに嫌みばかり言われているだけの足手まといじゃない。

 

今度はイチロウが皆を助ける版だ。

 

「こっち見ろ、魔女ッ!」

 

ハンドガンで弾をたたき込む。うるさそうにアグラトがそれらを防ぐが、特注品だ。魔法の防御に想像以上のダメージが入ったようで、鉄面皮が少しだけ驚きに揺れた。そのまま走って、乱戦の中に。

 

通り抜けざまに、煌の眷属やイチロウの仲魔と斬り合っている人狼を三体、立て続けに斬った。

 

剣技だって腕が上がっている。

 

向こうで激しくルー・ガルーとやりあっている森可成にはまだまだ到底及ばないが、これくらいなら。

 

「旗色が悪いですね。 まあ別に構いませんが」

 

「煌! 今の聞いたか!」

 

「ああ」

 

リリスと激戦を繰り広げている煌がそれだけ答えてくれている。

 

そして、タオとヨーコが戦闘に加わらないのには理由がある。

 

イチロウは乱戦を抜けると、跳ぶ。

 

マガツヒを大量に吸収して、身体能力は跳ね上がっている。

 

更にはこの間配下にした鵺が、肩を貸してくれたこともある。上空から魔法弾を放ちまくっていたアグラトに接近。

 

霊剣で切りつける。

 

凄まじい火花が散る。アグラトが少しだけ驚いたようだった。

 

「明らかにみそっかすの貴方が、随分と力をつけましたね。 ここまで接近できるとは思っていませんでしたよ」

 

「だが俺は此処までだ」

 

「!」

 

横殴りに、フィンがフルパワーの一撃をアグラトにたたき込む。剣に魔法を纏わせた、凄まじい剣技だ。

 

ついにアグラトの防御が消し飛ぶ。

 

イチロウは目立つのが仕事。

 

雑魚を切り払っていたフィンがいつの間にか潜伏するのを、アグラトに悟らせない。其処までが役割だ。

 

着地。

 

アグラトがフィンの猛攻に押されている。人狼が何体か支援に行こうとするが、アールマティが光の力で押さえつける。

 

呻く人狼達。

 

「おまえ達の相手は俺だ! 懸かってきやがれ!」

 

イチロウは吠えると、うるさそうに振り向いた人狼達を見る。

 

もうこいつらなんて。怖くなんてない。







皆、既に大きく成長しています。

カディシュトゥが縄印を襲撃した時には何も出来なかった状態とは違うのです。

それぞれが立ち向かい、カディシュトゥに渡り合えています。

それだけ激しい戦いが、皆を成長させたのです。


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