真女神転生VV二次創作 牛蛇相克 作:dwwyakata@2024
現在発見されている世界で最も古い都市の遺跡は現在からおよそ9500年前のものです。オリエントですね。
その時の文明でいかなる神話があったのかははっきり分かっていません。
その後様々な変遷を経て、バビロニア神話が登場します。
バビロニア神話の神祖こそティアマト。
後にマルドゥークに倒され、体を世界を作る材料とされてしまいますが。間違いなく神話として残される最古の蛇の神。
ドラゴンという存在の残されている最古の先祖なのです。
序、蛇の神の祖に近きもの
リリスとぶつかり合う。以前は総力を挙げても勝てる気がしなかったが、今は違う。激しく切り結ぶ。肉弾戦ではこっちに分がある。凄まじい体術を使ってくるリリスだが、それでも、だ。
経験を積み重ねてきた。
アオガミが力を取り戻してきた。
膨大なマガツヒを取り込んできた。
何よりも、多くの眷属が支えてくれている。
凄まじいリリスの蹴りが、うおんと虚空を抉る。
それを回避しつつ、手刀で切り上げる。リリスに巻き付いている蛇がそれを防いでくるが。
蛇に大きな傷をうがつ。
大技を入れる余地はなかなかないが。それでも、小技で確実にダメージを入れていく。
詠唱をほとんどせず、ノータイムで大きな魔法をたたき込んでくるが、こっちもそれは同じだ。
至近で煌の雷撃と、リリスの雷撃がぶつかり合う。
魔法の力は相手が少し上か。多少ずり下がる。
リリスが距離を取って仕切り直そうとするが、そうはさせない。
塗り壁がリリスの背後に壁となり、そして。
左右からアルテミスと義経公が躍りかかる。頭上にはホルス。舌打ちしたリリスは、前に出てくる。
この状況なら、一点突破を狙う方がマシ。そう判断したのは確実だ。
蛇を振るってアルテミスと義経公を牽制。
更に、煌と体術でぶつかり合う。
裸体にほとんど目を奪われることはない。或いは煌がまっとうな男だったら、色香で頭がおかしくなりそうになるのかも知れないが。
そんなことにはならない。煌の肉体ではそうはならないからだ。
激しく切り結び、そして弾き会う。
リリスの眷属である多数のリリムがひっきりなしに仕掛けてくるが、アマノザコが突風で吹き飛ばし。
更にはモーショボーが風の魔法で追い散らす。
「良い腕だ。 合一しているその神の力か」
「それもある。 だが、戦ってきた相手達や、眷属達から得た知識もある」
「そうか。 だが、貴様の努力も感じられるな」
「……」
リリスは意外にも、煌を認めているようだ。
まあいい。
ともかく激しく切り結ぶ。火花が散る中、多数の雑魚は眷属が引き受けてくれている。
突然リリスに絡みついている蛇が食いついてくる。奇襲的な攻撃だが、それも手刀ではじき返す。
踏み込むと、切り下げに行く。
それを体術だけで、すっと刃をよけてみせる。
ものすごい体術だ。
だが、接近戦の技量は煌の方が既に上である。
態勢をそのまま低くし、抉り挙げるような回し蹴りに移行。
それを腕でガードするリリスだが。明らかにみしりと音がして、吹っ飛んでいた。
立ち上がってくるリリス。
空中に浮き上がり、そして体勢を立て直す。折れた腕を、即座に再生させたようだが。ダメージまでは回復できない。
それにだ。
リリスは時間稼ぎをしている。
時間稼ぎが出来れば充分だという雰囲気だ。
「エイシェトは駄目だな。 ナアマは論外。 アグラトまで押され始めたか」
「やはり時間稼ぎが狙いか」
「その通りだ。 まもなくティアマトが目を覚ます」
「ティアマトを復活させてどうする。 今更バビロニア時代の理を世界に敷いたところで、何か意味があるのか」
この様子だと。
もう時間稼ぎは充分という風情だな。
リリスは髪の毛をさっとよけると、答えてくる。
「此処での意味は、押さえ込まれていた蛇の神の系譜にとっての希望が生じることだ」
「ずっと天空神の下に甘んじてきた大地神の復権が狙いか」
「それもあるがな。 私は常々思ってきた。 どちらにも平等な機会があっても良いのではないかとな」
なぜ、天空神ばかりが上に立つ。
蛇の系譜の神が頂点にいる信仰には道教など例外もあるが、道教は別に熱心に信仰されているわけでもなく。中華文化圏では信仰化した儒教の方が熱心に信じられている現実があるし。道教神格でも二郎真君やナタクの方が最高神であるジョカと伏羲よりも人気がある。
それらの現実に対して、リリスは異を唱えたいというのだ。
「ティアマトはな。 一時期座に着いていたのだ」
「!」
「マルドゥークが最初に座に着いた、座を創造した。 そういう話があるが、おかしいとは思わなかったか」
「それはおかしいとは思っていた。 マルドゥークの伝承はバビロニア神話だが、それより前に既に世界には文明が勃興していた。 名が残っていない神々も既にいた」
ふっと、リリスが笑う。
そして、手を横に。
それで、戦闘中の悪魔達が、下がり始める。ナアマとエイシェトは、必死にリリスの方に。アグラトも、これ以上の戦闘を諦めたようだった。
「では仕上げだ。 最後の一手。 我らのマガツヒを捧げることにより、ティアマトはよみがえる。 ティアマトがどう振る舞うかはしらぬ。 別に私たちが其方等に倒されてしまっても構わなかったのだがな。 これだけの膨大なマガツヒとともに捧げれば、今まで不完全な状態でしか具現化出来なかったティアマトが、あらゆる枷を外した完全状態として復活できるだろう」
「お、おい! まずいんじゃないのか!?」
「いや……そうは思わない」
邪悪な儀式によって作り上げられているティアマト復活の状況だが。
どうしてだろう。
忌むべき、倒すべき相手には、煌には感じられないのだ。
むしろ空にある巨大なマガツヒの塊からは、リリス達を哀れむような感情すら出ているように思う。
タオとヨーコには、するべき事がある。
二人は無事だな。
一瞥して、状況を見守る。ティアマトの復活は、恐らくは悪い結果を生み出すことにはつながらないはずだ。
これが破壊しか考えていないような太古の邪龍の復活であったら、話は別だ。
だが、今よみがえろうとしているティアマトは、むしろ慈悲深い存在であった事が神話には語られている。
バビロニア神話でもギリシャ神話でも、大地神や蛇の系譜の祖神と天空神の戦いの経緯は、基本的に天空神の方に非がある。
それを思うと。
ティアマトをただの敵だとは思えないのだ。
「よし、タオさん! ヨーコさん!」
「分かりました!」
「ま、仕方がないわね」
だから、二人の力は温存した。
ヨーコを見て、ふっと笑うリリス。既に体が崩れ始めている。アグラト、エイシェト、ナアマもだ。
アティルト界に戻る彼女らは。
具現化に用いていたマガツヒを、ことごとくティアマトに捧げる。
それにより。
ティアマトの復活の儀式は。
完全に完成するのだ。
凄まじい圧力が来る。
分かっていた。
だから、此処からは防御だ。
タオが光の力を全開に、壁を張る。今までとは桁外れの出力だ。ヨーコも凄まじい闇の力で、その内側に壁を展開する。
凄まじい斥力が、たたきつけられてくる。
神話に封じられた存在が。
今よみがえろうとしているのだから。
「他の皆も、防壁を張れる者は一人でも協力するんだ!」
「分かっている!」
「任せてください!」
ユヅルとミヤズが即座に切り替えて、仲魔達に壁を張らせ、支援魔法を使わせる。支援魔法で更にタオとヨーコの壁の出力が上がる。
下手をするとこの東京の魔界が消し飛びかねないほどの力が収束しているが。今だったら耐えられる。
ホルスが一声鳴くと、タオに更に力が収束。
アールマティも光の壁を展開。
アルテミスは氷の壁を。アマノザコは風の壁を。皆、出来る範囲で壁を展開していく。
そして、空が爆ぜた。
核攻撃なみの火力だ。
凄まじい破壊がたたきつけられてくる。それは、恐らく意図的に、真下に。こちらに。もっとも守りが分厚いこちらに。
厚く厚く固めた守りが、凄まじい斥力に押しつぶされそうになる。タオが既に後光まで背負っているのに。それでも必死になっているのが分かる。
ばりんと、ものすごい音がする。
砕けたのだ。
それも物質がじゃない。
恐らくは空間が。それほどの破壊が、吹き荒れている。これは都庁をまるごと巻き込むのではないか。
至聖所とされていた都庁だが、元に戻したばかりだったのに。
煌も力を展開。
必死に壁を補強する。
凄まじい斥力に、更に押し込まれる。
明らかなプレッシャーに、皆の仲魔や眷属が悲鳴を上げるが。
森可成が、声を上げた。
「タオ殿ヨーコ殿を信じよ!」
「おう! アールマティ、後で回復する! 悪いが、全力でやっちまってくれ!」
「心得ました」
「まったく、仕方がないわねえ」
アールマティだけでなく、アナーヒターも壁を展開。複層の壁がどんどん砕かれていくが、内側からどんどん補強していく。
それでも破壊が迫ってくる。
その破壊を、耐え抜く。
それ以外は、此処でする事はないのだ。
眷属達に限界まで力を送る。
立ち塞がった霜の巨人と塗り壁が、煌の前で砕け散る。ぐっと歯を噛んだ。第六天魔王が立ち塞がると、ワハハハハと笑いながら、流れ込んでくる光の奔流をわずかながら受け止め、反らし。
それを見た皆の仲魔や眷属が、それに習って、身をもって壁になっていく。天使達はスクラムを組み、皆が砕けながら、少しでも時間を稼ぐ。天狗達が、天使達と連携して、壁になる。普段あれほど仲が悪いのに。それでもだ。
ほどなくして。
タオが膝を突き、倒れたところをミヤズが支える。
ヨーコはいつもにはないほどに冷や汗を掻き、肩で息をついていた。
煌は顔を上げる。
壁は全部打ち破られ、ホルスとわーとアマノザコ以外の眷属は全滅。皆は、どうにか無事だが。
仲魔達も、ほぼ全滅にまで追い込まれていた。
静寂。
それを破るように、大きな羽音とともに降り立ってきたのは、黒い龍だ。
複数の頭を持つ、巨大で力強く。だが、それでいながら。優しい目をしていた。翼持つそれは、西洋的なドラゴンそのものの姿をしていた。違う。ドラゴンの祖こそ、この存在なのだと分かる。
「私の名はティアマト。 私が復活するのを見越し、最大限の防壁を展開してくれていたのは貴方達ですね」
「……そうなります。 貴方がバビロニア神話の創世神ですね」
「はい。 今、名前が残る中ではもっとも古い蛇の神の祖。 大地の神であり水の神でもあり、農耕民にとって必要な全てを備えた、輪廻を司る蛇の神の系譜の最も古い存在に近きものです」
柔らかい光だ。
一気に力が回復していく。
見ると、周囲はほとんど破壊されていない。とりあえず、一息はつけるか。ティアマトが、挨拶代わりに回復してくれたのが分かった。
「どうやら座から主が失われ、既に世界の理も限界に来ているようですね。 私はこれから、貴方達の住まう東京と呼ばれる地がこれ以上不安定になり、消えるのを防ぐために動きましょう」
「助かります。 しかし、良いのですか」
「私はそもそも、人という存在、農耕の民のあってほしいという願いより生まれた神。 後に牧畜の神であるマルドゥークの信仰の勃興によって、倒され世界の材料とされるという逸話の主役となった存在。 ですがそれは、ただ牧畜民が農耕民を征服したという歴史に基づいただけの話に過ぎません。 私が人という存在を嫌ったことは今まで一度もありませんよ。 悲劇が起きようとしているのであれば、それを防ぐために尽力いたしましょう」
翼を広げると、ティアマトは飛んでいく。
予想通り、だったな。
ティアマトについては、既に聞いていた。
今まで、中途半端な状態で具現化したティアマトは、いずれも凶暴で人間に敵意をむく文字通りの邪龍に過ぎなかった。
何度もデビルサマナーの歴史の中で出現し、世界各地で大きな破壊を振るってきたのだという。
だが。
越水長官も、ティアマトの神話については知っていた。
本来のティアマトは、穏やかなことで知られる慈悲深い神であったのだ。
邪悪で凶暴な龍というのは、後世にてゆがめられた存在に過ぎない。
だとしたら。
カディシュトゥがよみがえらせようとしているティアマトを、いっそのこと完全状態でよみがえらせてしまえばいい。
皆もそれは知っていた。
だから、カディシュトゥを必要以上に追い詰めないこと。
更には、儀式の邪魔をしないこと。
それら全てを、戦いながら実行し。
下手をすると魔界の東京も、皆が住む東京も、ともに破壊しかねないほどの余剰破壊を、どうにか防ぎきる。
そのために、タオとヨーコには体力を温存して貰ったのだ。
龍穴に向かう。
其処で、皆の手持ちや、煌の力を回復させる。
カディシュトゥの麾下にいた悪魔達は逃げ散ったようだ。ただ、複雑そうな様子で、あのルー・ガルーだけはこちらを見ていた。
仕掛けてこないなら、それでいい。
あいつは無差別に人を殺すようなことはしないだろう。
煌は力が上がってきたこともあって、回復に時間が掛かる。ユヅル達も、仲魔の回復に、膨大なマッカが必要なようで、頭を抱えていたが。
それについては、越水長官が支援してくれるのを待つしかない。
ともかく今は、一秒でも早く体勢を立て直す。タオとヨーコも、力の消耗の回復に、時間が明確に掛かっていた。
イチロウが腰を上げる。
「俺、報告してくるよ」
「僕が行こうか」
「いや、ユヅルは主力の悪魔がまだ回復してないだろ。 俺の方は可成のおっさんがいれば最悪どうにかなる。 それに、こういうのを、ちゃんと報告できるように経験も積んでおきたいんだ。 いつもユヅルがやってくれただろ」
「……分かった。 頼むぞ」
イチロウが先に龍穴の向こうに消える。
ミヤズはその次に立ち上がると、皆の手傷を回復させる。自身でも回復の魔法を使えるのだ。
これくらいはしたいのだろう。
「ヨーコ先輩、珍しく怪我をしていますね」
「ああ、これは光の力を浴びたからよ。 もう体質的に、呪いの力で体が構成されてしまっているから」
「治します」
「好きにしなさい」
ミヤズがテキパキとやっていく。近代医療と魔法回復の強みをどっちも知っている上に、手際が見る度に良くなっていく。
煌は力がだいぶ戻ってきた。
ルー・ガルーは気持ちの整理がついたのだろう。すっといなくなる。これからあいつはどうするつもりなのだろう。
一神教への恨みはずっと口にしていた。
だが、そもそも一神教の天使勢力は既に壊滅状態。
更には牛神系統に対する最強のアンチ存在としての蛇神系統のカリスマ、ティアマトがよみがえったのだ。
カディシュトゥはやり方を色々間違えたが。
ティアマトの復活に関してだけは、悪い事ではなかった。ティアマトも、完全状態であれば、理性的で話も出来る存在だった。
後は此処からだ。
ティアマトがいる以上、牛神系統が一方的に何もかも創世を独占できる時代は終わった。それだけでカディシュトゥは目的を果たしたと言える。
そのやり方は良くなかったが。
その結果そのものは、受け入れるしかないし。結果自体は歓迎すべきだと煌は判断する。
回復が済んだ頃、イチロウが戻ってくる。
越水長官に、森可成にアドバイスを受けながら報告を終えたそうである。越水長官は、そうかとだけ答えて。
それから指示をくれた。
これから万魔会談が行われる。
世界中のベテル支部のトップが姿を見せ。更にはベテル本部がそれに指示を出すという体裁だが。
実際には、ベテルの瓦解を確認するだけの会議になるだろうという話だった。
もはや一連の戦いでベテル本部の戦力が枯渇したのは周知の事実。
勢いがある日本支部と同盟を結ぶ勢力も増えており。
更にはギリシャ支部や北欧支部は離脱の構えを見せている。
ギリシャ支部と北欧支部は同盟を結んだという話も聞こえてきているという。
インド支部はルドラの秘法を進めている可能性もある。
もしもシヴァが出てこなければ、それはほぼ確定だという話だった。
「だいたいこんなところだ。 すまん。 わかりにくかったら許してくれ」
「いや、充分だ。 要点はきちんとまとまっている」
「そうか、それなら良いんだけど」
「自信を持たれよ。 スマホでやりとりを録音されておられたが、それを何度も聞き込んで、きちんと要点をまとめられたではないか」
森可成が励ましとも言える言葉を掛ける。
フィンはこれから一度越水長官と話すという。
恐らくは、傭兵としてではなく、ケルトと日本支部で正式な同盟を締結するためだろう。フィンは煌を見ると、悪いようにはしないとだけ言った。
回復がほぼ完了する。
タオとヨーコも。
二人とも、既に人間ではないようだ。姿は人間のままだが、感じる気配が完全に違ってしまっている。
ともかく。
今は、これより万魔会談とやらに望むだけだ。
ティアマトが本来の形でよみがえった。
これは大きな事を意味しています。
凶暴な邪龍ではなく、神話に残る慈悲深い神として顕現したのです。
それは牛の系譜の神々が座を独占してきた流れに、巨石を投じる結果となります。