真女神転生VV二次創作 牛蛇相克   作:dwwyakata@2024

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ヒュドラとの戦いです。

原作最初の壁ボスですね。流石にⅢやⅣにくらべるとぐっと楽ではありますが、それもあくまで難易度ノーマルまでは、です。メガテンシリーズのハード以上は余程のマニア以外は手を出さない方がよいかと思います。

原作だと水弱点のヒュドラですが、神話においてヘラクレスとヒュドラとの戦闘で決定打になったのは火です。

故に本作では、火を弱点としています。原作とは違いますので、それはご承知おきください。





3、塔の龍

マガツカやグラシャラボラスと戦ってきた煌にとって、この程度の悪魔はもう敵ではなかったし。

 

ユヅルとヨーコの立ち回りも想像以上で、瞬く間に戦いは終わった。

 

捕まっていた悪魔達を解放してやる。礼を言いながら、逃げ散っていく悪魔達。

 

その後は、手刀を振って、一本ダタラという悪魔の残骸を落とす。最後まで立ち塞がってきた一本ダタラが一番強かったが、正直先に戦ったマガツカと比べれば塵芥に過ぎなかった。

 

さて。視線をリャナンシーに戻す。煌を見て、完全に腰を抜かしたリャナンシーが、這いつくばって懇願を始める。

 

「ゆ、許して、許してっ! 夢が、夢が見たかっただけなの! それだけなのよ! 好きになった人間を殺してしまうこの身よ! せめてこの辺りの顔役になって、それで……!」

 

「そんな夢か。 そんな夢のために、貴方は命乞いする相手をどれだけ殺したのか」

 

「そ、そうだ! み、見て! 私の体綺麗でしょう! ちょっとこれでも自信があるのよ! 最初の内は用心棒を見つけるために、体使ってたんだから! テクニックも自信があるわよ! この体、好き勝手にさせてあげるわ! だから許して!」

 

そう言って、胸をはだけて見せるリャナンシー。

 

その瞬間、煌はリャナンシーの頭を唐竹に両断していた。

 

馬鹿馬鹿しい。

 

今更ハニトラなんか通じるか。

 

消滅するリャナンシー。

 

怪我は、皆ないか。

 

嘆息する煌に、ユヅルが言う。

 

「情報を引き出しておいた方がよかったんじゃないのか」

 

「いや、大丈夫だ。 今、リャナンシーの情報を取り込んだ。 この辺りで有用なことは知らない。 それに……魔界には時々人間が迷い込むようだ」

 

リャナンシーが履いていたヒールが、そういう人間の遺品だったらしい。

 

迷い込んだ人間は、見つけ次第全て食らってしまっていたようだ。

 

食べられた人間の残骸はどこにも残っていない。

 

だとすると、悪魔はやはり取り込んだ栄養を、全て活用できるのかも知れない。そうだとすると、この有様でも死体が一切見つからない事にも説明はつくのだが。

 

いや、それでもおかしい。

 

一千万からなる都民が全滅したのなら、やはり遺体は相応に見つかるはずだ。

 

ともかくツバメさんと合流する。

 

その上で、話をした。

 

状況を説明すると、ツバメさんはクスクスと笑う。

 

「うーん、そういう事だったっすか。 ま、ハングリー精神は認めるっすけど。 男女の分断が進んでいる今、色仕掛けで命乞いってのは、ちょっとオツムが古いっすねえ」

 

「そういう問題かしら。 それと殺した悪魔からも情報を吸収できるなら、さっき雑魚を逃がすべきではなかったと思うけれど」

 

「悪魔は取り込んでみて分かったが、やはり契約に縛られる存在だ。 先に与えた「恩」はそれなりに縛りになる。 何かあったときに、その恩を無駄には出来ない。 些細な情報よりも、こういう過酷な場所では、それが生きる可能性がある」

 

「理屈としては間違っていないわね。 ただ、アプサラスが危険な悪魔であることは忘れないで。 ああいうタイプは、カルトの教祖と同じように、甘い言葉で近づいて、最終的には自分や手下の肥やしにする。 そういう意味では、今のリャナンシーとアプサラスの根は同じよ」

 

ヨーコの厳しい言い分だが。

 

アプサラスの本性は今の時点では分からない。

 

だから、分かった、とだけ答えておく。

 

とりあえず、情報だ。

 

歩きながら整理するが、この辺りの悪魔は漠然と東京タワーには絶対に近づかないようにと情報を共有している。

 

なんでも「龍」が住んでいて。

 

何でも食べてしまうから、だそうだ。

 

龍、か。

 

アマノザコに聞いてみるが、知っていた。

 

「あ、そいつならあたい知ってるよ!」

 

「知っているなら先に言え」

 

「んべー! あたいは煌のパートナーだもん!」

 

ユヅルに、舌を出してみせるアマノザコ。色々と面倒くさい奴だな。ともかく、歩きつつ話を聞く。

 

東京タワーの側に危険な悪魔がいて。

 

そいつが最近、ギリシャ系の悪魔によって配置されたらしい、というのが大まかな内容だった。

 

ギリシャ系の龍と言うと、色々いる。

 

最悪なのはテューポーンだろう。半人半龍のこの怪物は、ギリシャ神話の最高神ゼウスを倒すために大地神ガイアが作り出した最強の存在で。あまたの高名な怪物の父である。その実力はゼウスを圧倒し、一度は完全に勝利したほどだ。

 

他にもヘスペリデスの園を守っていたラドンや、ヘラクレスの十二の難行で知られるヒュドラなどがいる。

 

龍と言って良いかは分からないが、蛇の要素が強い存在としてはメデューサなどもいるが。

 

あれは人を石にしても、片っ端から食べるようなことはしないだろう。

 

それらについて話すと。

 

詳しいなと、ユヅルが感心してくれた。アマノザコは無邪気に喜ぶ。

 

「わー、あんたと契約して良かった! なんでも知ってるね!」

 

「いや、僕はまだまだ知識が浅い方だ。 本当に詳しい人間は、僕の何百倍も詳しい」

 

「そうなの?」

 

「今の時代は上には上が際限なくいる。 自分の持っている知識なんか、所詮たかが知れたものだとしっかり認識しておかないと、痛い目にあう。 だから、情報は大事なんだ」

 

ただ、それでもだ。

 

そもそもいくつか候補が絞れたからといって、対策できるかは話が別だ。

 

テューポーンだったらはっきり言って即時撤退以外に手がない。勝てるわけがない。世界で最も有名な雷神であるゼウスを打ち倒すほどの相手だ。手持ちの手札に、勝てる手段が存在しない。

 

かろうじて勝てそうなのはラドンか。

 

しかしそれもかなり手強いはずで、はっきり言ってかなり怪しいと見るべきだろう。

 

アプサラスのところに戻る。

 

そういえば餓鬼がいるな。

 

前に飢えていた餓鬼から、食事を探しに行った餓鬼の特徴は聞いていた。だから、見分けはつく。

 

どうやらその一体のようだ。

 

ただひたすらにアプサラスをあがめていて、なんだか哀れだった。

 

アプサラスは、リャナンシーの撃破を聞くと喜んだ。

 

ここで守人をしてくれないかと頼まれるが、断る。即時に断った事に対して、アプサラスはそうですか、と静かにいうばかりだった。

 

「それよりも、この魔界から脱出する方法を知らないか」

 

「あなたたちには弱い悪魔を守って貰った恩があります。 それは返しましょう。 まずこの近くには国会議事堂という建物があります。 其処に今、天使達が集っているようです」

 

「!」

 

「時々魔界に迷い込んだ人間が、其処に連れて行かれるのが目撃されています。 或いはそこからなら、魔界を脱出できるかも知れません」

 

これは大きな情報だ。

 

天使と聞いて露骨に顔をヨーコがしかめるが、今は我慢して貰うしかない。

 

ともかく、もう少し情報を聞いておきたい。

 

「もう一つ良いだろうか」

 

「良いでしょう」

 

「この辺りに塔の龍という存在がいるらしい。 東京タワーの近くに住んでいるようだが」

 

「東京タワー? ああ、あの鉄の塔ですね。 18年前の戦いで、あの辺りに大魔王が降誕したのです」

 

大魔王。

 

そんなものがいるのか。

 

アプサラスもあまり何が起きたか詳しい事は分からないようだが。集結していた天使の大軍の前に大魔王が降臨。

 

とんでもない何かが起きた。

 

それだけは分かっているそうだ。

 

「その事件以降、現在はベテルと言われる部署に分割されている各地の神々が、積極的に動き始めています。 一方混沌の悪魔達は動きを一度止め、守りに入っているようですね。 何かが其処でおきたのは確実でしょう。 それで龍ですが、その塔の監視役に、ギリシャの神々が比較的最近配置したようです。 多数の……九つの首を持つ危険な存在で、おぞましい毒を持ち、近寄る全てを食らってしまうようですね」

 

そうなると正体はヒュドラか。

 

極めて厄介な相手だ。

 

ギリシャ神話最強の英雄であるヘラクレスが滅ぼせなかった相手である。殺すことが出来ずに、最後は封印するのでやっとだったほどの者だ。

 

もしもそんな存在がいるのだったら。

 

かなりの危険を覚悟しなければならないだろう。

 

或いは迂回するか。

 

それもともかく、周囲を探索してから判断するしかない。この辺りから、一気に地形が厳しくなっている。

 

煌もアオガミと合一した状態であれば空を飛べると言っても、それほど長時間の飛行は出来ないし。

 

地面から離れると、力を失うようなのである。

 

ともかく情報は得た。

 

後は、餓鬼に話をしておく。

 

餓鬼は、あいつらかと、知っているようだった。

 

「ここに集まるか、或いは食べ物を持ってやって行った方が良いだろう」

 

「こっちにはこないと思う。 あいつら、俺もそうだけど、前に結構強い悪魔の使いっ走りにされてたんだ。 こき使われるだけ使われて、何も食い物ももらえなかった。 挙げ句に格上とかち会った時に肉盾にされてな。 命からがら逃げ出して、それからは誰かの下に着くのはもう二度と絶対に嫌だって言ってな」

 

「君はその仲間だというのであればどうしてここにいる」

 

「妥協だよ。 アプサラス様は最終的に俺達を兵隊にするかもしれないけれど、それでも今日明日の話じゃないし、少なくとも食い物はくれるからな。 俺達にはそもそも未来どころか、明日さえないんだ。 あんたも分かるんじゃないのか」

 

なるほどな、確かに一理あるだろう。

 

嘆息する。

 

前にアマノザコを襲った餓鬼達は、満足すると消えていった。

 

恐らく仏教的な観点での成仏か、或いは輪廻の輪に戻ったのだろう。

 

同じようにしてやるか。

 

龍穴を使えば移動できる。

 

それについては、ギュスターヴに言われた。

 

一度龍穴を実際に利用して、座標を覚える必要があるらしいが。以前田町の辺りの龍穴の座標は覚えた。

 

片手間に行くのは簡単だろう。

 

「ユヅル、少し行ってくる。 すぐに戻る」

 

「分かった。 煌の事だ。 放っておけないんだろう」

 

「そうだ。 時間は掛けない」

 

「餓鬼とはいえ気をつけろ」

 

頷く。

 

冷たい目で見ていたヨーコだが。論理的に話が出来るタイプだからか、煌に対してあまりおかしな主張をするつもりもないようだ。

 

一理はある事を言うし。

 

それが過激すぎるだけである。

 

それにしても、一体どういう事なのだろう。あの過激さは尋常ではない。昔何かあったとしか思えなかった。

 

 

 

尋峯がトイレに行くのを確認した後、ユヅルは咳払いしていた。

 

時間がなかったので、どうしても出来なかったことをしておく必要がある。

 

ミマンに遺物と化している人間が作ったものを気前よく渡している、平塚ツバメと名乗っているあの人と話があるのだ。

 

ユヅルが側で咳払いすると、「ツバメさん」はミマン達を送り出して。

 

にやりとした。

 

日本に残っている数少ない一線級のデビルサマナー。ユヅルの師匠である。

 

「何をなさっているんですか先生」

 

「ま、あの子とあの子、どっちとも距離がとれなかったからね。 それでユヅルくんこそなんで魔界に?」

 

「その様子だと地力で来ていますね」

 

「当然。 帰り道も知ってるけれど、まだちょっと用があってね。 何より「一般人」が通るのには問題があってねえ。 教えられない」

 

ため息が出る。

 

言いたいことが幾らでもあるのだが。

 

その前に確認しておくべき事がある。

 

「ミヤズが心配なんです。 煌が的確に逃がしてくれたようですが、ここは一体なんなんですか。 東京はまだあるんですか」

 

「心配しなくてもあるよ。 「今のところは」ね。 ミヤズちゃんも、向こうで通り魔的に悪魔に襲われていなければ無事なはずだよ。 あの子、君が思ってるよりずっとしっかりしているし」

 

「それは分かっているつもりです」

 

「二度相談を受けたんだけどなあ。 君が過干渉気味だって」

 

うっとユヅルは呻いた。

 

煌と再会したとき似たようなことを言われて、それで一瞬熱くなったが。それは図星をさされたからだ。

 

必死に過干渉にならないように勤めてはいるが。

 

どうしても唯一の肉親という事もある。

 

それにしっかりしているとは言ってもどうしても体が弱いという事もあるのだ。

 

勉強も運動も、ユヅルと比べると本当に出来ない。

 

それを見ていると心配でならないのである。

 

「話を聞く限り、トンネルの崩落事故に巻き込まれていなければ大丈夫だよ。 だから天使に連れて行かれた子も、その先でトラブルにあっていなければ問題はなし」

 

「天使に連れて行かれた男子は特徴を聞いて分かりましたが、太宰と言ってかなりの問題児なんです。 家庭の方に色々問題がありましてね」

 

「心配なのは分かるけれど、それでも人間には出来る限界がある。 いや、人間以外でもそうか。 大魔王や最高神だってそれは同じ事でね。 今は心配しても仕方がない。 とにかく、あの子。 煌だったか。 あの子と連携して、ここを脱出することを目指すんだね。 あたしは手伝う事はしないよ。 別にやることがあるから」

 

「こんな状況で、別のことですか」

 

声を荒げかけたが。

 

追っている対象の名を聞いて、それで思わず口をつぐむ。

 

話は聞いている。超危険人物としてサーチ&デストロイが掛かっている存在。よりにもよって、この近辺にいるそうだ。

 

ユヅルは、見かけても絶対に手を出すなと言われている。

 

それだけ危険な使い手なのである。今のユヅルなんて問題にもならない実力者である先生が、直に出てくるほどの相手だ。

 

先生が顔を上げる。狸みたいな無害な見かけで、この人はとにかく鋭いのだ。

 

「おっと、帰ってきたな。 じゃ、知らない振りをしてね」

 

「全く……」

 

煌が戻ってきた。食事とトイレはユヅルも済ませてある。ちょうどヨーコも戻ってきたので、これからについて話す。

 

餓鬼達は、食事を振る舞うと、もっとくれもっとくれとせがみ。挙げ句に襲いかかってきたらしい。

 

それ見たことかとヨーコが顔に書くが。

 

そのままたたきのめして灸を据え、もういい加減に今の食事で満足するか、それともアプサラスのところで妥協するかと丁寧に話すと。その場で全員が成仏したらしい。

 

それはそれで徳が高い行いなのかも知れないなと、ちょっとユヅルは思ってしまった。なんだか不思議な説得力が煌の言葉にはあるのは分かっていたが。

 

「こちらの問題は片付いた。 それで、帰るついでにミマン達に話を聞いてきたが、この辺りは険しい丘状になっていて、東京タワーの辺りを通らないとどこにも行けないらしい。 国会議事堂は、東京タワーを一度通って、その先からまた降りて、更に登らなければならないそうだ」

 

「厄介だな。 君が言うところに寄ると、恐らく相手はヒュドラと言うことだが」

 

「火の力を持った悪魔を用意してくれ。 は虫類というと冷気に弱いようなイメージがあるが、ヒュドラ退治の逸話を考えると、炎が有効なはずだ。 僕がヒュドラの頭を落としていくから、確実に焼き払ってくれ」

 

「分かった。 どうにかしてみよう」

 

先生が動いてくれない限り、この場にいる最大戦力は煌だ。

 

現時点では仲魔(悪魔使いが使役する悪魔を仲魔と呼ぶ。 煌の場合は眷属化しているので、厳密には違いそうだが)込みでも恐らくユヅルと同等以上の実力の筈で、ここはどうにか連携して危地を突破するしかない。

 

しかも先生が追っている相手は、この辺りにいていい存在じゃない。もしもそれに襲われた場合、先生がかかりっきりになるだろう。

 

どのみち、それは考えない方向で行くしかなかった。

 

移動を開始する。

 

崩れたビルの間を抜ける。

 

壊れたショーケースの中に、女児向けのおもちゃが並んでいるのを見て、心が痛んだ。

 

ミヤズと一緒にずっとシリーズが続いている女児向けアニメを見たっけ。

 

祖父母の家での事だったから、とにかくミヤズを心配させないようにしなければならず。テレビは使えなかったので、中古のスマホで見ていた。ミヤズは女児向けアニメのキャラクターでは活発な子よりも知的な子の方が好きだった。見ている内に、ユヅルも知識は身についた。ミヤズが嬉しそうにしているのもあるし、思ったよりずっと話もしっかり考えられているので、馬鹿にするような内容ではないと今でも考えている。実はミヤズも今でも好きなようで、特にアニメを見ると意味不明の罵詈雑言を喚き散らしていた祖父母がいなくなった今は、堂々と最新シリーズを見ているようだ。

 

見た感じ、ユヅルとミヤズが幼い頃に最初に見たものよりもっと古いシリーズのグッズだ。18年前に何かあった、というのは本当なのかも知れない。

 

ともかく、先生が嘘をつくとも思えないし。

 

あの場にいなかった先生がここにいるのだ。

 

今は手札を調整しながら、ヒュドラとの戦いに備えなければならなかった。

 

 

 

険しい丘だ。

 

苦労しながら上がる。一番苦労しているのは意外にもヨーコだ。

 

運動神経抜群のイメージがあるが。

 

意外とそんなこともないのかも知れない。

 

途中で人魚、マーメイドが実体化しないまま言う。

 

東京タワーの事は知っていた。ただ、地中を潜行して移動していたので、龍には襲われなかったらしい。

 

あまり強い悪魔ではないので、役に立てなくてごめんなさいと謝られるが。

 

なんでも眷属は、契約先の悪魔に力が引きずられるらしい。それは煌が強くなればいいだけの事だ。

 

その気になれば、眷属は意思疎通を図ってくる。ただ、普段はできるだけ喋らないようにしてくれとも頼んでいた。

 

ここではいつ奇襲を受けてもおかしくないからだ。

 

マーメイドは役に立たないと言うが、この辺りの地形について丁寧に教えてくれる。

 

川が流れている。この上流に、マーメイドの一族がいるらしいが。今は皆錯乱してしまっているそうだ。

 

あちこちに滝があって、川を上っていくのも難しい。

 

高速道路の残骸らしいものが転々としていて。

 

それらのがれきを上手に超えて、少しずつ進んでいかなければならない。

 

上空に意識を飛ばして辺りを確認し。

 

ユヅルの悪魔や煌の眷属を出して、がれきなどを調整して、人間が上がれるようにしていく。

 

襲いかかってくる悪魔もいるが。

 

大半の悪魔は、人間を物珍しそうに見るばかりだ。中には、本当に無邪気に近づいてきて、そのまま眷属になった悪魔もいて。

 

こういう悪魔を恐らく食い荒らしていただろうリャナンシーの一味達には、煌も怒りを感じていた。

 

「あ、リャナンシーから助けてくれた神様と人間!」

 

「!」

 

「登ろうとしてるの? だったらこっちがいいよ!」

 

声を掛けてきたのは、体にうろこがある子供だ。半裸だが、一応ぼろを身につけている。確かに逃がした悪魔の一体にいた。

 

オラン・イカンと名乗ったその悪魔は、登りやすい道を教えてくれる。

 

ツバメさんはひょいひょいと平気で上がってきて、むしろユヅルよりも機敏なくらいだ。ユヅルは運動神経抜群であり。スポーツ大会なんかにユヅルが出ると、入っているチームが必ず勝ってしまうので、半分禁止カード扱いされているのに。

 

勿論煌も、アオガミと合一していなかったら、こんなところ登れなかっただろう。

 

随分と助かった。

 

かなり高度を稼げた。この辺りまで来ると、もう東京タワーが見えている。かなり痛んでいるが、まだしっかり原型はとどめていた。

 

「おいらこの辺りの川にいるんだ。 本当は海の悪魔なんだけど、川しかないから仕方がなくて」

 

「ありがとう、助かったよ」

 

「お礼、出来たかな」

 

「充分だ」

 

腰をかがめて視線を合わせて言うと、それだけで嬉しそうだ。ぱたぱた走って川に戻っていく。

 

とりあえず、助けた意味は充分にあったな。

 

勿論恩を仇で返すようなやつもいる。それはしっかり煌も分かっている。性根が腐っている奴は、人間にも珍しくないのだから。

 

アオガミが話しかけてくる。

 

「煌。 強力な気配だ。 今まで遭遇した悪魔とは比較にならない力を感じる。 煌の知識によると、ギリシャ神話のヒュドラという悪魔の可能性が高いのだな」

 

「恐らくはほぼ間違いないだろうと思います」

 

「もしも相手がヒュドラであれば想定通りで問題ない。 ただ、もしもヒュドラではない場合、更に増援がいる場合を考慮してほしい。 固定観念は危険だ。 相手の正体がこうだと考えて、そうでなかった場合は、非常に危ない。 ましてや命のやりとりだ」

 

「分かっています。 最悪に常に備えないと」

 

さて、ここからだ。

 

前から悪魔が来る。人面の蟹みたいな奴だ。大きくて獰猛そうである。

 

「おい、どこの神かしらねえが、この先はやめとけ! 今日は一段と荒れ狂ってやがる!」

 

「……!」

 

ずんと、強烈な揺れが来た。

 

不思議なことに、こんな砂だらけの場所なのに、雪崩のように砂が落ちることはない。一体どういうことだ。

 

まあいい。ともかく、片付ける。それだけだ。

 

ユヅルとヨーコと頷く。ツバメさんは、アマノザコを連れて隠れていて貰う。いつも通りである。

 

知らねえぞと、蟹みたいな悪魔が言って逃げていった。

 

坂をある程度上がると、平地に出る。

 

なるほど、この辺りの土地全てを結ぶ要地になっている訳だ。ギリシャ神話の神々がなぜヒュドラをおいたのか。

 

可能性としては、恐らくはこの辺りの地形の掌握が目的なのだろう。

 

また強烈に揺れが来る。

 

来たな。

 

そう思うと同時に、砂を吹っ飛ばしながら、それが姿を見せていた。

 

散開。

 

叫ぶと同時に、眷属悪魔全てを展開する。

 

九つの首。

 

ただし、一般的にイメージされる姿じゃない。木の枝みたいに、中心の首からかなり不格好に枝分かれしている。

 

顔も蛇と言うには少し違う。舌は蛇のものに近いが、口に臼歯がびっしりあって、凄まじい毒の霧が漏れ出ていた。

 

どうやらヒュドラで間違いないか。

 

「ヒュドラだな」

 

「なんだてめえ。 ほう、牛の系譜の力を感じるな。 ま、どうでもいい。 雑魚悪魔ばっかりでつまらなかったところだ。 たまには神を食うのも悪くねえ。 抵抗しても無駄だからな、さっさとくわれちまえや!」

 

凄まじい勢いで、首九つが突っ込んでくる。

 

伸縮自在か。

 

散開した眷属の悪魔、ユヅルとヨーコに、ヒュドラが凄まじい火球を連続して放ってくる。

 

スライムが一瞬で巻き込まれて灰燼に。

 

反撃に、眷属それぞれが得意とする力を放つが、冷気はやはりはじかれている。炎については、明確に避ける様子が見えた。

 

マーメイドが、離れた地点で、何か詠唱している。任せて良いだろう。そのまま、突貫。

 

弱い眷属が、片っ端から粉々に打ち砕かれている。弱いのは煌のせいでもある。そのまま、走りながら隙を探す。

 

すっと、何かの札が滑り込んできた。

 

それが炸裂して、わずかにヒュドラに隙が出来る。ヨーコの支援攻撃と見ていい。踏み込むと、引っ込むのが遅れた首を、手刀でたたき落とした。

 

恐らく強烈な毒を含んでいる血がまき散らされる中、ユヅルが叫ぶ。

 

「火車!」

 

「お任せを!」

 

回転しながら、燃え上がる猫みたいな悪魔が、全力でその傷口に突貫。凄まじい回転をしつつ、焼き払う。

 

一つ。

 

呻きながら、ヒュドラが体をしならせて、炎の雨を降らせてくる。

 

その体に体当たりしたのは、ユヅルの召喚した鬼だ。ぎりぎりと締め上げるが、体格が違いすぎる。

 

食いつきに掛かるいくつかのヒュドラの首。

 

すまない。

 

そのまま跳躍して、ヒュドラの上にでると。

 

空中機動して、鬼に気を取られている首を、もう一つたたき落とす。

 

だが、鬼自体は食いつかれて、一瞬でどろどろに溶けてしまった。

 

これが、ヒュドラ最大の武器。不老不死の者すらも地獄に落とす恐怖の毒だ。ヘラクレスが以降活用した、恐るべき毒。

 

食らったら煌だってひとたまりもない。

 

二つ目の首を焼き切るが、ヒュドラは余裕綽々である。そのまま体をふるって、たたきつけてくる。

 

ピクシーが雷撃をたたき込んだ直後に消し飛ばされ、マンドレイクが逃げ惑って一瞬だけ気を引いたが、毒を食らって溶け散る。

 

「ちょろちょろ逃げ回りやがって、だが俺には大して効いていねえ!」

 

「それはどうだろうな」

 

「何だと」

 

行くぞ。

 

攻撃のパターンが読めてきた。

 

眷属の悪魔達が、気を引いてくれた故だ。

 

幼い子供の姿をした眷属の悪魔が、わっとヒュドラの首の一つの耳元で声を張り上げる。あの口からして、明らかに蛇とは頭の構造が違う。だから人間のように音が聞こえたのだろう。ヒュドラが思わずびっくりして、子供の悪魔を探したが。既にいない。

 

この子供悪魔、眷属になったのだが、それなのに正体がよく分からない。

 

ただ戦闘中、相手の耳元で大声を出し。すぐに相手の攻撃圏内から消えるという、色々よく分からないが便利な能力を持っていて。

 

これが意外と効くのだ。

 

ちなみに眷属にしたから姿は分かるが、灰褐色のロングヘアの幼稚園児くらいの女の子である。服装も近代的で、ボアなんかついている。或いはだが、名前がない怪異なのかも知れない。

 

ヒュドラが油断した瞬間に、三つ目の首をたたき落とす。だが、ヒュドラもそれで頭にきたのか、毒を一気に周囲にまき散らし始める。

 

「触れるだけで溶けるぞ! さあどうするどっかの神……何っ!?」

 

マーメイドが詠唱完了。

 

辺りに、凄まじい雨が降り注ぎ始める。

 

一瞬にして毒の霧が、それに吸い込まれて地面に消えていく。ヒュドラが困惑する中、プラズマ塊のような超高熱球となったユヅルの悪魔が、三つ目の首を焼き切り。

 

煌が立て続けに四つ、五つと首をたたき落としていた。

 

マーメイドは祈るようにして全力で雨を降らせている。恐らくあれが、今できる精一杯の力なのだろう。

 

混乱した様子ながらも、ヒュドラが炎で雨雲を、更には発生源であるだろうマーメイドを吹き飛ばそうとするが。

 

その瞬間、ユヅルの雷の獣と。

 

煌の雷撃。

 

更には、ヨーコの爆発の札が、同時に炸裂していた。

 

特に雷撃は、雨の中で最大限火力が増幅された上に、今までにないほどの力が出ている。

 

竿立ちになるヒュドラだが。

 

しかし、次の瞬間。凄まじい火炎が煌にたたき込まれていた。

 

回避しきれず、吹っ飛ばされて、地面にたたきつけられる。火炎の熱量よりも、その圧力が凄まじかった。

 

全身が焼け焦げながら、ヒュドラが呻く。

 

「どうだ、俺も炎には散々やられたからな。 炎をまとめて返してやる技を身につけたんだよ! 手こずらせやがって、食ってやる!」

 

今の総攻撃で首が一つだけになったヒュドラだが、此奴の首の一つは不死だ。だから、岩で潰して、ヘラクレスも封印することしか出来なかった。

 

そんな巨大な岩、用意できない。

 

だから、悪魔であり、恐らく完全顕現していないことを利用して、倒しきるしかない。

 

必死に立ち上がる。

 

眷属達を維持できる力がなくなったので、そのまま回収する。わずかに残った力、辺りがぬれている状況。いや、ぬれていながらも焦げている中、こちらにヒュドラが来る。

 

ユヅルも今の炎で吹っ飛ばされて呻いている。

 

ヨーコは恐らく支援する余裕がない。

 

ならば。

 

「死ねや!」

 

真上からかぶりついてくるヒュドラ。

 

空に向けて手刀を向ける。そのまま丸呑みにしてこようとするヒュドラだが。

 

その内側に、光が突き刺さっていた。

 

手刀が、実際に振るうときに剣になっている。

 

それは分かっていた。

 

アオガミが、何かの剣を振るうイメージを使っていると言っていたのだ。

 

しかもその気になれば、剣は伸ばせる。

 

口の中を剣で突き刺されて、悲鳴を上げてのけぞるヒュドラ。今までの間合いと違ったので、目測を誤ったのだ。

 

そのまま、麁正をたたき込む。

 

ヒュドラの体が砕けはじめる。

 

本来だったら不死の相手だ。だが、やはり日本ではその力に限界があるようだ。

 

「ぐ、くく、畜生! ぎ、ギリシャだったら、こんなことには……っ!」

 

ひびが入ったヒュドラの体に、そのまま手刀を突き刺すと。

 

呼吸を整えながら、一気に下から上へと切り裂く。その時、どうしてか。龍殺し、というイメージが浮かぶ。

 

凄まじい、想像よりも遙かに凄まじい勢いで、ヒュドラが真っ二つに切り裂かれ。

 

悲鳴を上げながら、消えていった。

 

煌も力を使い果たし、仰向けに倒れる。体中の力が抜けているが、どうやら勝利は出来たようだった。とにかく回復しないと。ユヅルが手を差し伸べてくれる。ありがたく、煌はその手を取っていた。

 

 

 

倒れている煌を、ユヅルが助けている。ヨーコはそれをじっと冷たい目で見ていた。更にその様子を、少し離れてツバメは見ていた。

 

ふうん。

 

やはりな。

 

ツバメはアマノザコが凄い凄いと喜んでいるのを、すごいねーと答えながら。とりあえず、温存しておいた魔石を取り出す。まあ魔石なんぞなんぼでもある。本職なんだから。

 

立ち上がるのにも四苦八苦している煌に使えるよね、と渡すと。

 

頷いた煌は、魔石を飲み下して。体力に変えていた。

 

近くに龍穴がある。あのヒュドラが抑えていたのだろう。其処で回復できる。

 

回復している三人を笑顔で見ているが。ツバメの心中はあまり穏やかではない。いくつも計算をしている状況だ。

 

ツバメは思う。まずいのは、ナホビノとしてこの子が日本神話系の存在だと言うこと。

 

もしこの魔界であの事が行われるのなら。

 

勝利候補の筆頭だろう。

 

今まで見ていて、極めて論理的で、理性的に振る舞っているのは理解できた。それでいて、リャナンシーの命乞いを一刀両断したりと、厳しいところではきちんと厳しい。言動には筋が通っているし、厳しいところではきちんと厳しく振る舞える。

 

ただこういうちゃんとした考えを持っている立派な子が、闇の底にまで落ちるのを一度見ているのだ。この子はそうならないと言い切れるだろうか。

 

若い子の成長を見守るべきだ。

 

そんな風にツバメの師匠は言っていたっけ。そんな師匠は、あの事件に巻き込まれてしまって。生還できなかったが。

 

ぼっさぼさの髪の毛を掻き上げる。

 

とりあえず、近場にはあいつはいないな。しばらくは様子を見守ろう。それが、仕事だ。この国を守れなかった、八咫烏の者としての。







※「脅かすだけの妖怪」

様々な妖怪の伝承がある日本にも、失伝してしまった妖怪はいます。

この子供の姿をした妖怪もそう。名前が存在していません。ちなみに今風の子供の格好をしているのにはある理由があります。

この子が煌くんの眷属に積極的になったのには、それなりの理由があります。

いずれわかりますので、お楽しみに。


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