真女神転生VV二次創作 牛蛇相克   作:dwwyakata@2024

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※セト

エジプト神話の砂漠の戦神です。悪神のように勘違いされやすいですし実際神話ではそういう存在として描かれていますが、実のところエジプトが中東の強大な外敵……ヒッタイトやヒクソスに襲われていた時は、ラーよりも信仰されていました。

戦時に戦神をあがめるというのは、まあどこの文明でも同じようですね。

良い例としては日本でもっとも信仰されている八幡で、あれは起源はよく分からないものの、基本的には源氏の軍神です。





2、アモンとセト

砂漠と言っても様々だ。

 

砂だけがどこまでも広がる砂漠というのは、意外と多くはない。

 

岩石の荒野が広がる岩石砂漠というものもあるし。

 

雨期には緑が広がる砂漠も存在している。

 

砂漠によっては雨期には洪水が起こるような場所だってある。内陸の砂漠と沿岸の砂漠では、大いに性質が違う。

 

エジプトの砂漠は。

 

極めて厳しい気候に曝された、過酷な土地だ。

 

だから其処の風は、時に悪魔とされ。時に戦に勝つための力ともされた。

 

太陽は作物を育てるのに必須であると同時に。

 

砂漠では大いに牙をむき、うかつに立ち入る人間を生かして返さぬ悪霊の刃と化した。

 

だからそれらは神格化された。

 

古き人々が神としてあがめたそれらの自然の驚異が。

 

今、煌の目の前に立ち塞がるアモンとセトが体現している。

 

火炎竜巻を必死に相殺するアマノザコとマーメイド。激しい雨が辺りを叩く。それはぬるくて、決して気持ちが良いものではない。

 

だが既に雷雨は煌の味方だ。

 

激しい戦いが、四方八方全てで繰り広げられている。セトを相手に善戦しているイチロウとミヤズ。

 

それに、吹き付ける強烈な死の力を中和するタオ。

 

セトが吠え、アピスの群れが躍りかかってくるが。

 

それをイチロウとミヤズの仲魔が、或いは煌の眷属が、それぞれ引きちぎる。食いちぎる。だが白蛇の群れは、次々に砂漠から湧いて出てくる。

 

アモンが気合いとともに、火炎をたたき込んでくる。

 

これは凄まじい火力だ。

 

悪魔と貶められたとはいえ、元は太陽神。

 

気合いと友に、手刀で一閃。はじき返す。だが、アモンは一撃くらいなんだと、立て続けに火炎をたたき込んでくる。

 

火球の温度は、それぞれが恐らく数千度に達している。一撃はじき返すごとに、体力がごっそり削られる。

 

水なんかで中和できる火力じゃない。

 

「四文字の神めが倒れてから、少しずつ太陽神としての力が戻りつつあるわ! このまま貴様を打ち倒し、再び座についてやろうかのう!」

 

「そうはさせるか」

 

横殴りに飛んできたソニックブームを、割り込んだテュールがはじき返す。隻腕の剣士の振るった無骨な剣は、セトが死角から放ってきた一撃を余裕を持って防いでいた。流石だ。

 

無言でジグザグに走る。

 

マーメイドが詠唱を開始。その分、アマノザコが気合いを入れて風を操る。マーメイドを見て、なんだとアモンがフクロウらしく首をぐりんとかしげた。その辺りは、フクロウと体の構造が同じなわけだ。

 

体を器用に動かし、アモンが煌から距離を取る。

 

安全策に移ったな。

 

だが、それが命取りだ。

 

気合いとともに、雷撃を放つ。それがアモンの放ったプラズマ火球とぶつかり合って、炸裂する。

 

同時に、マーメイドが詠唱を完了。

 

戦場に、多数の氷の板が、それも巨大な奴が。一斉に降り注いでいた。

 

「!? こんなもの、何のために……」

 

「しまった!」

 

叫んだのはセトの方だ。

 

こちらは、アマノザコと情報を共有していた。だから即時に対応できる。だが、風を操作していたセトにとってはこれは不意打ちである。

 

そして、小柄な体を生かし。

 

義経公と、酒呑童子が。

 

アモンの死角に潜り込んでいた。

 

アモンは即応。

 

酒呑童子に対応しようとする。だが、それは判断ミスだった。源義経公があまりにも速かったからだ。

 

音速をとっくに超えているかも知れない。

 

その斬撃が、アモンの腕をたたき落とす。

 

四本ある腕の一本だが、それでも激甚な痛みに、わずかにアモンが動きを鈍らせ。其処に、フルスイングで酒呑童子が金棒をたたき込んでいた。

 

「ぎゃあああっ!」

 

盛大に吐血しながら、アモンが吠える。

 

上空から、アルテミスが氷塊をたたき落とす。

 

それを必死に爆散しながら、炎の塊を四方八方に放って、義経公と酒呑童子を必死に追い払い。

 

アモンは大上段からたたき込まれたテュールの剣を、片腕を振るって受け止める。

 

手を剣に出来るのか。

 

流石はもと最高神。

 

だが、テュールもそれは同じ。

 

そして拮抗する両者の間に、煌が入り込んでいた。

 

突貫と同時に、手刀を突き刺す。

 

腹にもろに突き刺さった手刀が、アモンの体内で風の力を爆発させる。派手に体が内側から破裂し、原形をとどめないほど崩れるが。

 

それでもアモンは、まだ戦う。

 

残った三本の腕を振り回し、必死に周囲を遠ざけようとする。

 

その勢い凄まじく、マーメイドが作った氷の壁が、この瞬間全て破砕されていた。だが、其処に。

 

真横から、他化自在天が突っ込む。

 

アモンが、完全にくの字にへし折れる。

 

とどめだ。

 

しかし、まだまだと言わんばかりに全身を一気に燃え上がらせるアモン。

 

「この程度で諦めてなるものか! 一神教でここまで貶められ、やっと復権の機会が巡ってきたのだ! この程度の障害、全て焼き尽くしてくれるわ!」

 

「その意気やよし……」

 

跳び下がると、煌はマーメイドとアマノザコに思念を送る。

 

セトの方も攻めきれていない。

 

こっちに視線を送っているようだが、介入する余裕はないようだ。イチロウとミヤズがそれだけ善戦していると言うことである。フィンも頑張ってくれている。

 

灼熱が辺りを舐めつくすが、同時に暴風雨が煌を包み込む。

 

そして、空に天叢雲剣を掲げる。

 

タオが気合いとともに、光の力を全力で解放。

 

邪と化しているセトとアモンの力を、瞬間的に押し返す。

 

「煌くん! 長くは持ちません!」

 

「充分だ。 行くぞアモン!」

 

「おのれ、太陽神の力、侮ってくれるなよぉおっ!」

 

アモンの全身が燃え上がる巨大な蛇と化していく。それはむしろ好都合だ。煌は大きく息を吐くと。

 

全力を集中。

 

躍りかかってくる巨大な炎の蛇に向け。

 

龍殺しの必殺の一撃。

 

天叢雲剣を振り下ろしていた。

 

 

 

断末魔を挙げながら消えていくアモン。それと同時に、熱が一気に和らぐ。イチロウはハンドガンのマガジンを換えながら、走る。

 

セトは多数の顔と目があり、全方位が見えている。だから猛攻を仕掛けていても、全てに対応してくる。

 

だが、アモンが倒れた以上。

 

形勢は逆転するはずだ。

 

そう思った瞬間、セトが跳び上がる。

 

「ちっ。 アモンが倒れた以上、もう無理だな。 おまえ達、時間を稼げ。 俺は撤退する」

 

「セト様!?」

 

「雑兵の役割は盾になることだ。 さっさといけ!」

 

困惑するアピスを、次々に切り払うと、森可成が叫んでいた。

 

その声には、純粋な怒りが含まれていた。

 

「貴様それでも総大将か! 貴様はそのような考えだから、都合の良い時にしか信仰されなかったのだ!」

 

「何だとたかが知れた人間風情で」

 

「俺も同感だ。 あんたの身勝手さ、反吐が出る。 上に立つ人間だから何をしても良いってその考え方、今まで倒してきた悪魔達の歪んだ思考……多分今社会の上層で好き勝手してるカス達から影響を受けたのとそっくりだ! あんたは所詮人間の操り人形に過ぎないって事だな!」

 

「小僧……死にたいようだな……」

 

セトの考えが変わった。

 

これでいい。

 

あいつは多分、どっかで何か悪い事をするつもりだったのだ。それを防ぐには、此処で倒すしかない。

 

ミヤズが姿を消している。

 

多分だけれど、何かしらの戦術的行動に出るつもりだ。

 

イチロウは更に叫ぶ。

 

「どうした怖いのかよ! 俺みたいな雑魚相手に、そんな高いところでしか戦えないのか! 臆病で情けないな! それでも神様かよ!」

 

「図に乗りおって……! まあいい。 弱体化したアモンなど、所詮最初から当てにしておらなかったわ。 サタンの原型ともなったこの俺の真の力、見せてやろう。 エジプト文明を育てたのはラーかもしれん。 だがエジプト文明を中東の侵攻から守り抜いてきたのは、このセトと知れ!」

 

あっさり乗ってきた。

 

そのまま剣を抜いて、迎え撃つ構えに。

 

フィンが隣に降り立つ。

 

ずっとアピスを倒して回ってくれていた。

 

「今の啖呵しびれたぞ。 前はあれほど頼りにならなかったのにな」

 

「本当っすよ。 今もすっげえ怖い。 でも、あんな反吐野郎にだけは負けてたまるか……!」

 

「その意気だ。 少しだけ、時間を稼ぐだけでいい。 後は俺の主があいつをどうにでも料理してくれる」

 

頷く。

 

セトが姿を変える。

 

巨大な蛇か、あれは。翼のある巨大な蛇が、凄まじい勢いで襲いかかってくる。その勢いや、まさにミサイルのようだ。

 

口を開いたそのすさまじさ、以前だったら漏らして逃げ惑うだけだっただろう。だがイチロウは、仲魔達に指示を出す。

 

さっとスクラムを組んだ鵺達が、セトの前に立ちはだかる。

 

突撃してきたセトが、それをまとめてかみ砕くが、その動きが止まる。一斉に、ミヤズの仲魔達もそろって、その体に組み付いたのだ。

 

巴御前が放った矢、森可成の射撃。更にはフィンの放った氷の魔法が、一斉にセトを襲う。

 

だがセトは嘲笑いながら、全身を揺すってそれだけで集る悪魔達を蹴散らす。だが、上空からたたきつけられたアールマティの強烈な光を受けて、うめき。

 

更には、全力でタオが光を締め付けてきたので、それで明らかに不快な声を上げていた。

 

「雑魚どもが、よってたかって!」

 

収束していく風。

 

セトは恐らく、風圧を極限まで圧縮してぶっ放すつもりだ。

 

イチロウもちょっとは勉強した。

 

ソニックブームが如何に恐ろしいかは、既に分かっている。だが、そんなもの、恐れていられるか。

 

走りながら、イチロウもセトの口の中にハンドガンの弾をありったけたたき込む。セトはこちらを目でだけ追いながら、更に全身をくねらせる。それだけで、味方の神魔が蹴散らされて吹っ飛ぶ。

 

相手は一時期だけとはいえ、エジプト文明の主神を務めたことすらある神格だ。

 

ちょっとやそっとの神魔では、手も足も出ない。

 

だが。

 

組み付いたクルースニクと森可成を、セトが振り切れない。

 

これは、恐らくだが、支援魔法によるものだ。

 

二人が強くなっただけじゃない。

 

セトが弱体化させられている。

 

「お、おのれっ! この俺に、こざかしい呪いをかけようてか! そんなもの、吹き飛ばして……」

 

「そうはさせん!」

 

空から躍りかかった隻腕の巨人。

 

煌の眷属のテュールが、背中からセトに剣の一撃を通していた。

 

弱体化したセトの背中の鱗が弾き飛ばされ、剣がもろに体内に潜り込む。セトが絶叫しながらもがく。

 

其処にフィンが突貫。

 

口の中に、剣を突き立てる。同時に、今の攻防の間に完璧な位置取りをしていたらしいミヤズが狙撃。

 

セトの右目に、弾丸が直撃。

 

それでもはじいたのは凄まじいが、流石のセトも一瞬視界を奪われる。その間に突貫したイチロウが、傷ついた目に、霊刀を突き刺していた。

 

喚きながら暴れるセトの上で振り回されるが。

 

その時には、既に煌が突貫。

 

手刀を見て、セトが明らかに焦る。

 

あれが龍殺し。

 

蛇の系譜の神に絶大な破壊力を誇る代物だと、一目で見抜いたのだ。必死に逃れようとする。

 

だが、ここぞとタオがセトを押さえ込み。

 

更に風と雨に押されて、煌が加速。

 

突貫しつつ、セトを頭から、尻尾まで、一閃していた。

 

美しい音が響いた。

 

あまりにも凄まじい剣技だと、それはむしろ美しい音になるのだと分かる。セトが、文字通り開きにされていく。

 

すっと煌が手を振り下ろすと。

 

セトがマガツヒに代わりながら、砕け散っていた。それでなお、恨み言をいうのは流石だったが。

 

「ちっ……まさかこの俺が……! 相性が悪いとはいえ……!」

 

「貴方はただ自分の力を過信しただけだ。 確かに貴方は強かった。 全盛期であれば勝てなかっただろうな」

 

「……」

 

セトが消えた。

 

大量のマガツヒを取り込みつつ、皆の手当を進める煌。

 

イチロウは違和感とともに辺りを見た。

 

真っ先に動くだろうミヤズが動けないでいる。回復と支援を優先して、自分を後回しにした結果だ。

 

手を振って、皆を呼ぶ。

 

頑丈になったとは言え、無理をしすぎだ。

 

ユヅルが悲しむだろう。イチロウだって、心配である。

 

すぐに来てくれたイズンが回復をしているが、それでも間に合っていない。アマビエも回復しているが、それでもまだ厳しいか。

 

既に大量のマガツヒを取り込んだ結果、虚弱体質からは解放されたらしいミヤズでも、神々の戦場にいたのだ。

 

それに、この状況。

 

回復の主軸にいるミヤズが動けないと。更に被害が拡大する。

 

セトとアモンの猛攻で、消し飛ばされてしまった仲魔や煌の眷属は多いし。

 

タオですらかなりの手傷を受けているのだ。

 

「オデット」

 

「はい」

 

煌が声を掛けると、ヴァルキリーの小さな女の子が具現化する。

 

いや、これはちょっと違うぞ。今までの鎧に着られていた姿じゃない。イチロウは砂に落ちて、立ち上がりながら、それを見る。

 

前は鎧に着られていた。それくらい似合っていなかった鎧が消えていき。

 

ゆったりとしたローブに替わっていく。

 

見かけは子供のままだが、明らかに違う存在に転化していた。

 

「転化に成功しました。 私は既にヴァルハラに戦士を選んで連れて行く死神ヴァルキリーではありません。 私は女神ブリギッド。 数多の性質を持つ存在です。 今、その力を使います」

 

煌が説明してくれる。

 

ブリギッドはケルトの女神であり、複数の女神として扱われることもあるのだという。

 

豊穣や癒やしを司る、荒々しいケルトとしては珍しい穏やかな神格であり、後に一神教でこの名を名乗った聖人が多数出たほどなのだとか。

 

恐らくだが、オデットがなったのはブリギッドの一つ。

 

その中でも、癒やしと救いに特化した存在なのだろう。

 

なるほど。

 

イチロウが見ていても武働きとしては無理がある存在だった。

 

それに対して、医療関連では役に立てるのがわかりきっていた。

 

ミヤズの助手としては、極めて有能だけれど。

 

本人は違う方法で役に立ちたいと考えていた。

 

ブリギッドとなったオデットが両手を広げる。まだ子供の姿のままだが、それで辺りの魔法の力が一気に増強されたようだ。

 

イズンやアールマティによる回復が一気に促進される。

 

それで、ミヤズが動けるようになっていた。

 

「オデット……?」

 

「女神ブリギッドとなりましたが、複数の女神の集合体を意味する存在でもありますので、今でも私はオデットです。 もう私は、オーディン様の配下で、死者をヴァルハラに運ぶだけの存在ではありません。 生きている人を救い、助ける存在へと変わることが出来ました」

 

「……良かった。 私の助手ではなく、私を、みんなを助ける存在になることを選んだんだね」

 

「はい」

 

子供なのに、随分と優しい笑顔を浮かべるものだ。

 

前のどうにかして役に立ちたいと焦っていた子供の姿はもうない。そう思うと、イチロウはなんだか凄いなと思った。

 

ろくでもないものばかりみていたし。

 

こういう風になれるのだと思うと、自分も負けていられないと思う。

 

すぐに仲魔を展開して、更には怪我をしている者も連れてくる。

 

森可成と一緒に息を合わせて、体が大きな仲魔や眷属も連れてきて。

 

回復したミヤズの手当に任せる。

 

ある程度回復が進んだ後は、森可成と一緒に警戒に当たる。

 

セトが倒れたことで、セトのテリトリが消えた。

 

そして、周囲の悪魔達は、おこぼれにあずかれるのではないかとこっちをみているし。

 

何より、万魔会談で好き勝手を言っていた神々が、この戦闘の結果を見ていないとは思えない。

 

いつ何が仕掛けてくるか、分からないのだ。

 

後ろではミヤズがテキパキと回復を進めてくれている。煌とタオも、それを的確に手伝っているようだ。

 

イチロウを信頼して、背中を預けてくれている。

 

だとしたら、その信頼は裏切りたくない。

 

森可成が、周囲を見回って、戻ってくる。

 

手傷を受けているが、それでも平然と動いているのは、流石だ。

 

「あちらにいた、こちらを伺っていた草の……いや今風に言い換えましょうぞ。 斥候が引き上げていきましたな。 どこの勢力の者かは知りませんが、この戦いの結末を知らせに行ったのでしょう」

 

「分かった。 あまり長居はしない方が良さそうだ。 可成、あっちはどう思う?」

 

「ふむ、まだこちらを見極めていると見ますな。 あれらは見たところ、インド系の神々の斥候でしょう」

 

「インド系か……」

 

イチロウも話には聞いている。

 

世界そのものを終わらせようとか考えている可能性が高いとか。

 

だとすると、手当たり次第に他の勢力に仕掛けてくるのかも知れない。それはまた、厄介な話だ。

 

ともかく油断しない。

 

常世長鳴鳥を何体か放って、辺りの見張りを手伝って貰う。程なくして、わーがこっちに来る。

 

この子はかなり人なつっこくて。

 

気がつくと、イチロウの肩に登って遠くを見ていたりする。

 

別に嫌な気はしない。

 

イチロウはろくでもない子供時代を送ったからだろうか。

 

今では、子供には笑っていてほしいと思うのだ。

 

わーは多分イチロウよりずっとずっと年上だろうけれども。

 

子供に好かれるのは、決して嫌ではなかった。

 

「イチロウちゃん、そろそろ一旦引き上げるよ。 応急処置は終わったって」

 

「おっけい。 煌に、インド系の神格がこっちを伺ってるって伝えてくれ。 俺は少しずつ下がるから、仕掛けてきたら支援してくれって」

 

「分かった! 気をつけてね」

 

「ああ、任せてくれ」

 

そのまま、森可成と一緒に周囲を警戒しながら後退することにする。

 

その前にイチロウは大きく嘆息すると、顔を叩いて、気合いを入れ直す。

 

そして、仲魔を集めると、殿軍となって、少しずつ下がる。インド神話系の神々はこっちをじっと見ていたが。

 

やがて、引き下がっていったようだった。

 

それを見届けてから、急いで煌に合流する。

 

ミヤズがイチロウに、即座に回復をかけてくれる。どうやらブリギッドの力で回復力が増強されているようで。

 

森可成の手傷も、イチロウの疲労も、溶けるように消えていった。

 

「殿軍と見張り、ありがとうございますイチロウ先輩」

 

「ああ、このくらいならどうにでもするよ。 それよりも大丈夫か」

 

「ええ、なんとか。 お兄ちゃんに無理をしないようにと怒られますね。 体が頑丈になったからって、ちょっと過信していたみたいです」

 

「俺も気をつけないと……」

 

それから、陣に戻る。

 

休憩を入れるようにと、越水長官に言われた。その後、一度東京に戻る。

 

食事が用意してあったので、ありがたく戴く。マッカを用いて、やられてしまった仲魔を蘇生させる。

 

食事を終えると、そのままベッドで休む。

 

休むのも以前とは違って、理論的に、効率的に出来るようになっていた。

 

マガツヒを取り込んで、強くなったのは体だけじゃない。

 

きっと心もだ。

 

目が覚めると、歯を磨いたり顔を洗ったりのルーチンを済ませてから、研究員がまとめてくれた現在の状況に目を通す。

 

イチロウも煌に頭を任せっぱなしじゃいけない。

 

聞き役をすることで、周りがわかりやすくする役目もあるが。それはそれ。戦況を理解はしていないといけないのだ。

 

偵察に派遣している煌の天使達やユヅルの天狗達によると、やはりかなりの数の悪魔が小競り合いをしているらしく、凄惨な事になっているようだ。

 

幸い魔界の台東区で問題はほぼ完結しているので、それ以上に問題が波及しないようにしていけばいい。

 

森可成に色々な事を教わって。

 

イチロウも、それを地力で理解し、判断できるようになっていた。

 

次はアバドンとの戦いだ。

 

恐ろしい悪魔だと聞いている。気合いをまた入れなければならなかった。







苛烈なアモンとセトの猛攻をかいくぐり、ついに撃破に成功。

続いて不確定要素のアバドンを仕留めに行きます。

ただし、こちらはさらなる不確定要素が加わることになります……


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