真女神転生VV二次創作 牛蛇相克 作:dwwyakata@2024
※アバドン
メガテンでも常連な蝗害の化身ですね。体内が地獄という大げさな設定があり、真Ⅱでバルハラエリアをまるごと平らげた衝撃的なシーンが印象に残っている人も多いかと思います。
蝗害はそれだけ古くに恐れられていた、ということです。
今ですら、大きな被害が出るのですから。
在来の天狗達が、見張りに立ってくれていた。奴はたらふく辺りにいた悪魔を食い荒らしまくり、それで満足したようで。
今は寝ているそうだ。
悔しそうに様子を見ている天狗達に敬礼して、様子を見る。
その中には鞍馬天狗も混じっていたが。
物陰からのぞき込んだ先にいるのは、体全てが口とでもいうような、巨大で、おぞましい塊だった。
あれが分霊体ではないアバドンか。
ツバメさんは分霊体を従えているそうだが。恐ろしい力を感じる。生半可な存在ではないだろう。
今回はイチロウの代わりにユヅルに来て貰っている。
ミヤズはこの間。アモンを倒した結果、太陽神の力を吸収したらしく。また力が上がったようである。
人の生を終えた後でいい。
新しいラーとなってほしい。
その願いを、ミヤズは聞くつもりのようだし。
今から、太陽神系統の神々の力を取り込んでおくのは悪くはないだろう。
ただ、ユヅルはミヤズがどんどん危ない戦いに乗り出していくのを、流石に良くは思っていないようだ。
それに関しては、仕方がないだろう。
また、今回はタオではなく、ヨーコに来て貰っている。
ヨーコは聖マリナ女学院の制服を捨てて、今は真っ黒なドレスを着込んでいる。闇の力の権化と言うこともある。
この方が、自分に合っていると思っているのだろう。
険しい顔も多少和らいではいるが。
どちらかというと、自信に溢れた邪悪な笑顔のようにも見える。
ただ、煌も分かっている。
清濁併せのんでこそだ。
タオの光の力だけに頼るのではだめだ。
ヨーコの闇の力も受け入れなければならない。
天空神系統一辺倒による座の独占の時代を終わらせるには。
闇と結びつけられた大地の力も、扱っていかなければならないのだ。
それを分かっているから、煌はヨーコとももっと話し合っていきたいと考えている。ヨーコも、それはやぶさかではないようだ。
「側で見ているだけで、凄まじい力だと分かる。 倒せるのか……?」
「倒さなければ、あいつはあちこちに出張って、やがて恐らくは東京にも侵攻してくるし、他の地域も襲う。 今のあいつに襲われたら、百万単位の犠牲者が出る」
「絶対に倒さなければいけませんね」
「いっそ、すぐ近くにいるギリシャ神話の神々にけしかけたらどうかしら」
ヨーコが言うが。
それはあまり気が進まない。
ゼウスは極めて狡猾でクレバーな神だ。
間抜けで陽気なスケベ爺という後世のイメージとは、万魔会談でみたゼウスは乖離していた。
あれはどちらかというと、かなり古い時代のゼウスのイメージに沿った存在だとみて良いだろう。
だとすると、そんな策に乗ってくれるとは思えない。
「煌どの。 我らも決死隊として、戦闘に参加いたしまする」
「いや、貴方達は、日本支部とエジプト支部、それに同盟を組んだ神々が作り上げた拠点を守ってほしい。 まだ敵対勢力多く、守りが十分ではない」
「しかしあの巨怪めには、多くの仲魔が食い殺されたのです」
鞍馬天狗が血を吐くように言う。
義経公が姿を見せると、鞍馬天狗がおおと声を上げていた。
「義経公」
「久方ぶりだお師様方」
「ご立派になられましたな」
「ありがとう。 貴方方には、頼みたいことがある」
はっと、声を上げると、天狗達は一斉に傅く。
義経公は頷くと、いくつかの地点を指さしていった。
「あのアバドンめとの戦いは、恐らくここにいる煌どのを持ってしても総力戦となる。 その場合、問題になるのは倒した後だ。 現在かなりの長距離を遠征してきており、帰路が課題になる。 貴方方は帰路にて、疲弊した煌どのを護衛すべく、敵の排除と、要所の確保をお願いしたい」
「はっ!」
「貴方方にしか頼めぬ事だ。 お願いする」
「必ずや成し遂げまする!」
天狗達が行く。
ユヅルが、煌に良いのかというが。煌は頷いた。
義経公が立派に皆を導いてくれた。
流石は源頼朝の勝利に最大貢献した存在だ。
戦略家としてはともかく、戦術家としては日本史上屈指の存在。それを知っているからこそ、天狗達も従った。
此処からは、実際に天狗達が話を聞いてくれたのを無駄にしないように。
一気にあのアバドンを打ち倒す。
策は既に練ってある。
アバドンはなぜこれほど強大な存在か。
それは、アバドンが蝗害の神だからだ。
古くから中東やアフリカで猛威を振るった蝗害は、作物を食い荒らすという観点では、最悪の災厄だった。
如何に牧畜の民とはいえど、農耕民を支配下に入れて発達した側面は否めないし。何より牧畜には多くの草が必要になる。
あらゆる人々にとって、蝗害は恐怖でしかないのだ。
だからこそ、アバドンは体内に地獄を持つ凶悪な悪魔として知られるようになった。
あれは恐らく分霊体ではない、極めて本体に近い凶悪な存在。
此処で倒さなければならない。
さっと展開して、相手に接近する。
ギリシャ支部は恐らくだが、様子見に徹して、仕掛けて来る事は簡単にはないだろうと判断するが。
ただ、どんな予想外の事が起きるか分からない。
展開を終える。
ある程度相手を囲んだ後、仕掛けようとした瞬間。
いきなり、アバドンが空に向けて大口を開けていた。そこから現れたのは、全身が燃え上がったような、不可解な神だった。
「アバドンよ、良く私に食事を提供してくれた」
「なあに、私としてもいい暇つぶしであったよ。 で、周りにいる連中とは連携して戦おうか。 タルタロスの主」
「そうだな。 親和性が極めて高い存在同士、連携して戦うとしようか」
気付かれていたか。
みるみる不可解な神が形を為していき。
程なく、逞しい体を持つ、だが目が狂気に染まった男性に変わっていた。
状況証拠からして間違いない。
あいつは。
「クロノスか……!」
「煌先輩、それって確かギリシャ神話の」
「そうだ。 ゼウスの父親。 ゼウスとの戦いの末、敗れてタルタロスに幽閉された、ギリシャ神話におけるタイタン神族の長にて、ウラノスの子。 二代目のギリシャ神話の主神だ」
「はっはっは。 よく知っているではないか。 ヘカトンケイレスどもがいなくなった今、脱獄を果たすことに成功したのだ。 そして今! 力もほぼ取り戻した! 忌まわしいオリンポス十二神も近くにいる! まずはさび付いた腕を戻すためにも、ウォーミングアップと行こうか!」
手に巨大な鎌を出現させるクロノス。
恐らくあれがアダマスの鎌。
クロノスはあれを用いてウラノスの寝込みを襲い、男根を切り落とした。それによってウラノスは神々の王の資格を失い、追われたのだ。
使われ方はともかく、神殺しの必殺武器といっていいだろう存在。
食らったら、神であればほぼ必殺だ。
まずいな。
かなり厳しい相手だ。
しかもあのアバドンも同時に相手となるのか。力を増しているとは言え、かなり危険である。
だが。
しゅっと音を立てて、降り立つ戦士。
展開していたフィンが、おおっと声を上げていた。
「何やらまがまがしい気配を感じたと思ったら、おぞましい輩がいるな。 子を食らった邪神に、全てを食らう地獄そのものか」
手に槍を持ち、白い鎧に身を固めたその戦士。更に、正座したまま浮いている。威厳のある女性。
フィンが、クーフーリンどのと、声を上げていた。
クーフーリン。
ケルトにおける伝説的英雄。
クランの猛犬の異名を持つ、魔槍ゲイボルグを振るう日本でもよく知られている戦士だ。
近年では荒々しいイメージが強いが、実際には若々しい感性豊かな好青年として神話では描かれている。
そして、側にいる女性は。
「お師様。 あのまがまがしき者どもは倒さなければなりますまい。 あのような輩が創世でもすれば、世は地獄となりましょう」
「そうさな。 ならばそこなナホビノ。 手を貸してやろうぞ」
「貴方はスカアハですね」
「うむ。 紹介を省けて良かったか」
からからと笑うスカアハ。
影の国と呼ばれる地の女王で、クーフーリンに武技やゲイボルグを授けた女傑だ。
実に心強い。
煌は戦力を見て、それで決める。
「皆、総力でクロノスを食い止めてほしい。 あの鎌は神的存在には必殺の武器だ。 くれぐれも気をつけてくれ」
「分かりました」
「ああ、任せてくれ」
「すぐに終わらせなさい。 あまり長い時間は持たないわよ」
クーフーリンとスカアハも、クロノスの抑えに回って貰う。
そして、煌は。
巨大な口を開けているアバドンの前に降り立ち、手刀を振るって構えを取っていた。
「僕はアバドンを倒す。 行くぞ」
「笑止! 多少は弱体化した神魔を倒してきているようだが、所詮は不完全状態のナホビノ! その程度の力で、数多のマガツヒを取り込み、体内に地獄を持つ私に勝てると思うなよ!」
「やって見なければ分からない。 それに貴方は所詮蝗害の権化だ。 大仰な設定は、所詮は後付けに過ぎない」
「ほざけええええっ」
巨体が襲いかかってくる。同時に、クロノスが残像を作りながら、ユヅル達に襲いかかっていた。
アバドンの圧迫感が凄まじい。巨体を使って、とにかく吸い込みに懸かってくる。口に入ってしまえば終わりだ。
それに、である。
フィンをはじめとして、眷属が一斉に攻撃魔法をたたき込むが。
それが全て吸い込まれてしまう。うかつな接近は自殺行為だ。
マーメイドに指示。
マーメイドはかなり下がると、詠唱を開始。それを見て、アバドンは高笑いしながら、更に吸い込む力を強くする。
「なんだか知らないが、この私の体内は無限の容量を持つ! 取り込んだ存在は、ことごとく時間を掛けてゆっくりとかして養分にしていくだけだ! 勿論私の判断次第で、溶かさない事も出来るがな!」
「そうか。 それで」
「貴様も食らって溶かしてやるわ!」
ものすごい風圧だが。
いきなりそれが、ぴたりと停まる。
アバドンがなんだ、という顔をするが。理由は簡単だ。
アマノザコが、真空の壁を作り上げたのである。
結果、空気の流れである風の吸引が届かなくなった。アバドンは慌てるが。そのままアマノザコが、一気にその真空の壁を押し込む。
「えーい! 食らえっ!」
「なっ! 貴様……っ!」
「空気を操作している時点で、どうということもない。 なんなら空間でも操作して見せるんだな」
「やれないとでも思ったか?」
アバドンが笑うと、真空の塊をかみつぶしてみせる。
だが、その瞬間を待っていたのだ。
一斉に散った皆が、アバドンに全方位から仕掛ける。フィンの剣技がアバドンに突き刺さり、義経公がアバドンを滅多斬りにする。テュールが口を押さえ込み、酒呑童子が脳天に金棒をたたき込んだ。
だが、アバドンがでかすぎる。
そのまま巨体を振るって、皆を吹っ飛ばしながら、煌の足下を操作してくる。
空間の穴。
しかし想定済みだ。
挑発すればやってくるだろうと思っていた。
アバドンは体内に地獄を持つという設定の悪魔だ。
それくらいはやってきてもおかしくはないだろう。
分かっていたからこそ、備えていたのだ。
「その穴は、私の胃袋に直結……何っ!」
「空間をなんでも自在に操作できるのなら、それこそ有無を言わずに台東区をまるごと飲み込んでしまえば良いだけのことだ。 それをやらないと言うことは、貴方も所詮アティルト界の住人であり、一悪魔に過ぎないと言うことだ。 そして、そんな半端な空間操作なんて、この通りだ」
ゆっくり進んでいく。
アマノザコが真空から風の操作に切り替えて、それの上を渡っているのだ。
それを見て、周囲から滅多斬りにされ続けているアバドンは、流石に呻く。そして、短い手を振るって皆を追い払おうとするが。
その腕を酒呑童子がつかんで、食い止める。
凄まじい剛力である。
慌てた様子のアバドンがクロノスを見ようとするが、その真横から、他化自在天が突貫。
ワハハハハと笑いながら、盛大に張り倒していた。
「ぬ、うぬうううっ!」
「なぜ貴方を僕が相手にする事を選んだか分かるか」
「し、知るかっ!」
突貫。同時に、アバドンの全身を、氷が包み込む。それはマーメイドが詠唱して作り出した。絶対零度の牢獄だ。
アナーヒターから冷気の魔法を教えて貰ったマーメイドは、氷の魔法をついにここまで極めたのだ。
凍り付いたアバドンが、必死に暴れようとするが。
全身が、ぼろぼろと崩れていく。
所詮は蝗害の悪魔である。
こんな強烈な冷気を受けてしまえば、ひとたまりもない。
どれだけ大仰な設定を積み重ねても、根底になる部分を崩されれば、それでおしまいなのだ。
それでも、必死に全身を揺すって、氷の束縛を弾き飛ばすアバドン。
古豪の意地だろう。
だが、その時には煌が、既に空に向けて、天叢雲剣を掲げていた。
アバドンは必死に空間操作で壁を作ろうとするが。
その体に、テュールと酒呑童子が組み付いて、横にひっくり返す。アバドンが空間制御がうまく出来ず、巨体が全身ひび割れていく。
そして砕けていく体が、バッタになって飛び散っていく。
蝗害は蝗の害と書くが、実際にはトノサマバッタの仲間が引き起こす。
つまり、地獄を体内に持つとか言う大げさな設定の底が割れたのだ。
飛び散るバッタもまた、即座にマガツヒになって消え去っていく。
アバドンが、悲痛な声を上げていた。
「お、おのれ! 時間を掛けてここまで強大化したのに! こ、こんなところで、こんな相手に!」
「その驕りが貴方の敗因だ」
「畜生ぉおおおおおおっ!」
天叢雲剣が、アバドンを一刀両断する。
悲鳴と絶叫を挙げながら、アバドンが消えていった。
「役立たずが……」
倒されたアバドンを一瞥して、クロノスが吐き捨てる。
周囲に多数のティターン神族を展開するクロノス。実際には十数柱しかいないのだが、現在ではタイタンというのは「邪悪な巨人」の一般名詞みたいに扱われている。だから、こうやって多数呼び出す事も出来る。
人間の兄妹らしいサマナーの連携をいなしながら、クロノスは戦況を見やる。
アバドンは取るに足らない小物だった。
それはそうだ。
蝗害の権化に過ぎず、後の時代に体内に地獄があるなどという大げさな設定を付け加えられた存在に過ぎない。
文字通り最悪の地獄であるタルタロスに幽閉されていたクロノスから言わせれば、笑止の極みだ。
ともかく、一旦撤退するか。
そう思った瞬間、横殴りに闇の力が襲いかかってくる。舌打ちして、それを必死に受け流す。
これは。
「逃がさないわよ」
「ほう。 創世の女神か。 それも闇に染まり、どうやら蛇の系譜に染まってもいるようだな」
「その通り。 貴方みたいなタイプにはこちらの方が良いかしら?」
「悪いが闇はこれ以上は御免被る。 タルタロスで嫌になるほど見てきたのでな」
押し返しながら、気付く。
次々と打ち倒されているティターン神族達。あれらは所詮は雑兵だが、倒される速度が速すぎる。
クーフーリンとスカアハの暴れっぷりもそうだが。
在来の存在らしい巨大な怪物が荒れ狂っている。
あれはなんだ。
一瞬、気がそれた瞬間。
額に、人間の銃とか言う武器の弾が直撃していた。
ぐっと呻く。
たかが銃弾が、この破壊力。あり得ない。ぐっと顔を上げるが、また闇の力が押し込んでくる。
アバドンを倒したナホビノとその眷属も、これではまもなく押し込んでくるだろう。形勢不利とまではいかないが。
これ以上、力の出し惜しみはしている場合ではない。
そうクロノスは判断すると、すっと横に手を。
その瞬間、時間が停止していた。
クロノスは本来は豊穣の神であった。
クロノスという時を司る同名の神がややこしいことに存在していて。それとは別の存在であったのだが、後の時代に同一存在とされた。
更にクロノスはティタノマキアで敗れてタルタロスに幽閉されたこともある。
様々な複雑な設定を内包する中で。
それらの設定を力に変えていったのだ。
ただ、流石にクロノスでも、時間を自由自在というわけにはいかない。時間を停止できるのは十秒ほど。
時間を停止させている間は、空気は鉄壁のように堅くなることもある。
クロノスほどの存在でも、その中で動くのは容易ではなく、せいぜい相手の背後に回ること、くらいだ。
時間停止、解除。
狙撃をしてきた女サマナーの背後に回り込むと、アダマスの鎌を振り下ろす。反応できない女サマナー。
その首、貰った。
だが。その瞬間。
アダマスの鎌を、二体の悪魔が食い止めていた。
一体はヴァンパイアハンターらしい若造の悪魔。もう一体は、この国の鎧を着込んだ女だ。
ぐっと、クロノスは呻く。
同時に跳び下がり、また時間停止の準備に掛かる。
「今の奇襲、何だ!?」
「分からない。 ただ……」
「もしも好き勝手に移動し攻撃できるなら、全員を即座に殺せば良い。 出来ない、ということだ」
「ちっ!」
ナホビノ。至近。
振り下ろされた手刀を、アダマスの鎌で受け止める。そのままインファイトを挑まれる。次々にティターン神族が倒されていく。
また増援を呼び出すが、ちょっとまずいな。
着地。
そのまま激しく切り結ぶ。アバドンを倒しておきながら、消耗はほとんどなしか。舌打ちしながら、クロノスは吠える。
「雑魚どもを盾にして、良いように暴れた訳か! 創世をもくろむ輩が、好き勝手をするものだ!」
「違う。 皆であれば、貴方程度なら食い止められるのは分かっていた」
「私程度だと!」
「そうだ。 貴方は所詮ゼウスに敗れ、それ以降も敗れた存在として誰からも信仰など得ていない。 だから如何に設定が強大でも、その力など知れていることは分かっていた」
吠える。
怒りに。
ずばり事実を突かれると、確かに怒りが沸騰するものであるらしい。
言うまでもないが、ギリシャ神話の三代にわたる骨肉の愛憎劇は、そのまま信仰対象の変遷を意味する。
クロノスが信仰されていた時代も確かにあった。
だがそれはあまりにも古くのこと。
ゼウスですら物語に貶められた今。クロノスはその時代の残滓と。物語としての邪悪で残虐な悪役としての存在感だけで、強さを担保している。
時間を停止。
必死にナホビノの攻撃範囲から逃れる。
こうなったら。
一旦ティターン神族を全て盾にして、それで。
だが、その時気付いてしまう。
自分が、面制圧攻撃に囲まれている事に。
絶叫している間に、時間停止が解ける。
恐らくはクーフーリンのゲイボルグ。それも多数に分裂して敵をうがつタイプのものと。先の闇の創世の女神の攻撃。更には、多数のナホビノの眷属が放ったらしい魔法が、ことごとくクロノスに直撃していた。
悲鳴を上げながら、地面にたたきつけられる。
その全身が、水に包まれた。
そしてその水が、上からたたき込まれた拳によって凍り付く。
これは、アルテミスか。
「ぐ、お、おの、れ……?」
上空。
今の水など余技に過ぎないと言わんばかりに、凄まじい暴風に押されて、こっちに突っ込んでくるナホビノ。
もはや見栄も外聞もなく、必死にティターン神族を集めて壁にしようとするクロノスだが。
その全てが、サマナーの悪魔どもと、ナホビノの眷属に蹴散らされる。
そして、ナホビノの手刀が、クロノスの腹を抉り去る。
絶叫するクロノスが。
内側からむしばまれていく。
「き、貴様、貴様ァアアアアア!」
「一つだけ勘違いしているようだから言っておく。 アバドンを格下だと貴方は考えていたようだが、今戦ってみた感じでは、其処までの差はなかった。 其処まで貴方が強力ではないことを理解していたから、僕は仲間に貴方を任せた」
「……っ!」
もはや言葉も発せられなかった。
ナホビノが、更に力を込めると同時に。
クロノスは消し飛び。
その意識もまた、消し飛んだのだった。
ティターン神族が倒れていく。クロノスがいなくなって、操作するものが消えたからである。
即座に回復開始。
オデットが回復の力を増幅。
今回は手傷も少なかったミヤズが、すぐにトリアージを始めた。
短期決戦ではあったが、手傷を受けた仲魔や眷属も多い。相手には暴言をぶつけたが、決して弱い敵ではなかったのだ。あくまで戦闘時、こちらを侮っているのが分かったから。それに返しただけ。
ただ、少なくとも。
アバドンもクロノスも、尊敬に値する存在ではなかったと思う。
回復を進めて貰う。龍穴まではかなり距離がある。
今回の戦闘では、ユヅルの大獄丸が大暴れをしてくれた。ティターン神族を一番倒したのは、ユヅルと大獄丸だ。
更には、ハヤタロウが的確に戦況を見てくれた。
わーが介入しなかったのは、それをする必要もなかったからだろう。
わーはひょいひょいと手傷を受けている悪魔を運んできてくれている。力が上がって来ているというより。
子供の姿をしていても、元々これくらい簡単に出来る力があったとみるべきだ。
本当にこの子は何者だ。
アリスと息ぴったりで、負傷者を板に乗せて運んでくる。アリスも的確な指導を受けて、負傷者を運ぶのがどんどんうまくなっていた。
座り込んで回復を待つ。
強烈なオデットの回復もあって、戦力が戻っていっているが。問題もある。
クーフーリンとスカアハが、備えろという。
すぐ側に、それが降り立ったのは直後だった。
「おう、日本支部のナホビノじゃねえか」
「ゼウス……!」
ゼウスだ。
ただ、ゼウス単独。
腰を上げたミヤズと構えを取ったユヅルだが、ゼウスに戦う気はないようだった。
「汚らわしい蝗害の悪魔とあのクソ親父がつるんでいるのは知っていたが、倒してくれたんだな。 礼を言うぜ。 ありがとうよ」
「礼は受け取っておく。 ただクソ親父というが、クロノスと貴方はそう変わらない。 クロノスは自分の子である貴方の兄姉達を皆食らった。 だが貴方もまた」
「ああ、親子で相争う悪しき輪廻は断ち切らなければならなかったからな。 俺を脅かす可能性がある子は食った。 その程度で神は死なないから、いずれ俺の腹から出てきて、俺を殺すかも知れないがな」
「それを外道という。 なぜ自分の権力を素直に子に引き継がせない」
あまり知られていないが。
子を食らったおぞましいエピソードで知られるクロノスと同じ事を、ゼウスもしているのである。
またティタノマキアのような世代交代の凄まじい戦いを避けるため。そして食ったところで、ギリシャの神々は死なない。そういう理由もあるが。
それにしても、許されることじゃない。
だが、ゼウスに戦うつもりも、挑発に乗るつもりもないようだった。
「まあそれはそれだ。 戦いを見ていたが、なかなかやるな。 今の状態じゃつまらねえから、ベストの状態で来い。 俺は別にフェアな方ではないが、ちょっと興味が湧いてきた。 台東区にはまだまだ有象無象のカスみてえな連中が集まってる。 それらをぶちのめしてから、マガツヒを集めて挑んでくるんだな」
「……」
「じゃあな。 待ってるぜ」
ひらひらと手を振ると、ゼウスは消える。
強い。
近くで見たが、途轍もない。
クーフーリンが、ゲイボルグを手元に戻す。敬礼するフィンと、煌を交互に見て、言う。
「ケルトの神々はまだ離散しているが、君の話は聞いていた。 我々も日本支部と連携しよう。 あのゼウスが創世を行うよりは、君が創世を行う方がずっとマシなはずだ」
「ありがとうございます。 ケルトでも名高い貴方が加わってくれれば、言うこともありません」
「そうか。 では、私は先に日本支部の拠点に向かう。 守りは任せてくれ」
「同じく。 我らが雑魚どもに好き勝手はさせん」
ありがたい話ではある。
ともかく、帰路はどうにかなる。
義経公の言うとおり、魔法で狼煙を上げて、天狗達と合流。天狗の中には、ユヅルの手持ちになりたいと申し出る者もいた。
アマノザコを見て、鞍馬天狗は複雑そうな顔をしたが。
しかし、妖怪達が悪いようにはされないという煌の説明を受けて、それで納得はしてくれた。
「一神教の思想の下では、我らはデーモンでしかない。 そのような理は、どうか廃止していただきたい」
「ああ、それは問題なくするつもりだ。 神は神で、魔は魔で、それぞれの仕事がある。 人間が現状から一段階上に行くとしても、いきなり神魔の存在を排除するのは不可能だし、まだ人間は信仰からは抜けられない。 それならば、神魔と共存しながら、少しずつ人間という種を改善し、この世界を愚行の道連れにして人間が滅ぼすのを避けるのがもっとも建設的だ」
「そ、そうか。 其処まで考えているのだな」
「ああ、どうにかする」
これは気休めの言葉ではない。
やはり夢で見るのだ。
うまくいかなかった世界のことを。
どうしてうまくいかなかったのかも。
途中で敗れた世界の夢も見た。様々な理由で敗れてしまうこともまたあった。だが、それでもだ。
何もかもが無駄になるのではなく。
煌のところに情報が集まっている。
やはり神魔の存在を全て消し去るのは、まだ人間には早すぎる。それならば、アティルト界があるのを素直に認めて、神魔との共存をするのが理想的だ。
縋り付くから調子に乗る。
突き放すから敵意を抱く。
だったら、最初からいる事を認めて、折り合いをつけるしかない。それが神魔との理想的な付き合い方になるだろう。
他の世界ではどうかは知らないが。
この世界ではアティルト界が存在し。
神魔が実在するのだから。
帰路でも悪魔に襲われたが、ことごとく蹴散らして戻る。やはり悪魔がかなり好戦的になっている。
だが、好都合だ。
好戦的なだけの悪魔は、此処で片付けてしまった方が良い。
東京にでも出られて被害が増える前に。
それでいいのだ。
※クロノス
ローマ神話ではサトゥルヌスです。あの恐ろしい我が子を食らう絵を知っている人も多いかと思います。
クロノスが我が子を食らうという凶行に及んだのは、子に地位を奪われるという予言があったからですね。古代の神話では、北欧神話なんかもそうですが、予言には神でさえ逆らえませんでした。
元々クロノスはウラノスから座を奪い取ったこともあり、ガイアがヘカトンケイレス達への扱いを良く思っていないことを知ってもいたのでしょう。いつ地位を追われるか、ずっとびくついていたのですね。そして予言は成就して、ティタノマキアの末にゼウスに追われることとなります。
ちなみに真VVで追加された裏庭でクロノスからその時の話が聞けます。仕方がなかったのだと、力なくクロノスは凶行について言うのですが。まあ所詮は哀れな言い訳ですね……