真女神転生VV二次創作 牛蛇相克 作:dwwyakata@2024
勢力に所属しない大物が倒れ、いよいよ大勢力どうしがぶつかり合い始めます。
インド支部と北欧支部の小競り合いが開始され、日本支部もまた……
序、戦況の変動
最初は小競り合いだったようだ。
だが、徐々にぶつかり合いが激しくなってきている。
高所に出て、様子を見る。
インド支部と北欧支部が、盛大につぶし合いを始めていた。
インド支部はとにかく消耗が激しいようで、戦闘神格が多いにもかかわらず、北欧の神々に押され気味のようである。
とはいっても、情報を集める限り、インドはヴィシュヌが出てきている。
ヴィシュヌはもっとも有名な鳥の神格、鳥王ガルーダを従えている。ガルーダはヴィシュヌを超える武勇を持つと神話的に言われている存在で、その実力は侮れない。
北欧支部も小競り合い以上の本格衝突をするようには見えない。
全体的にインド支部の戦力を削りながら、様子見。
それがどうやら、動きとしては正しいようだった。
北欧支部はブロック状の構造物を積み重ねて、その上に陣地を構築している。これに対して、インド支部はすり鉢状になっている砂漠を利用して、陣地を作り上げているようである。
相手を高所から観察し、的確に戦力を派遣する北欧支部に対し。
インド支部は戦いづらい場所を陣地にして、其処でひたすらに防御を固める。そういう戦略的構想が見える。
煌はしばらく様子を見ていたが、今は仕掛けるべきではないと判断。
一度戻る。
ただ、戻るだけでは芸がない。
少し前に日本の陣地に合流した天津神の武神、フツヌシ。剣がものを絶つ時の音を神にしたと言われている武神で、様々な武勲で知られる存在だが。
フツヌシが、話を持ち込んできたのだ。
アドラメレクが、具現化しつつあると。
何度かアブディエルに倒されたらしいのだが、この大混乱である。更には、アブディエルも身動きがとれなくなった、という状況もある。
どうやら分霊体達を使うのではなく、本体が出てくるつもりになったらしい。
強烈な気配がある。
アドラメレクは堕天使としてもかなり上位に入り、その性格は残虐だ。
そして見過ごせない要素が一つある。
バアル由来の堕天使なのだが。
アドラメレクは、太陽神系統のバアルを由来としているのだ。
無数にいるバアルの中でも、元は太陽神だった存在。
それはつまり。
ミヤズにとっては、倒せば大きな力に出来るはずだ。
戦闘の結果は、ユヅルのハヤタロウが陣地に届ける。そのまま、煌とユヅル、ミヤズでアドラメレクのところに出向く。
途中で、多数の悪魔が群れているが。
煌達が黙々と歩いてくるのを見ると、ほぼ全てが襲いかかってくる、のだが。
蹴散らしていくと、いずれもがさっと逃げ散っていく。
どれもこれも意気地がないというよりも。
戦場の気に当てられて、ハイになっているだけなのだろう。
そんなことでアティルト界でせっかく具現化したのに、機会をドブに捨てるのはもったいない話である。
此処か。
ユヅルとミヤズと頷く。
ビルから、おぞましい気配がしている。
ビルは半壊していて、そこから覗く事が出来たが。そこにいたのは、クジャクの羽を背負ったロバのような悪魔だ。
魔界の議長であり、サタンの衣装係であるとか言う適当極まりない設定の存在、アドラメレク。
概ね伝承通りの姿だ。
そいつはくちゃくちゃと何かを食らっていた。
どうやら戦闘で倒されたインド系の神格の残骸を拾ってきて、マガツヒの足しにしているらしい。
煌達にも気付いているようだった。
「食事中だというのに礼儀がなっていませんね。 この魔界の議長にて、サタン様の衣装係であるアドラメレクの御前です。 控えなさい」
「議長で衣装係とは随分適当な設定だな元バアル」
「……何ですって?」
「太陽神が堕落したものだ。 議長だの衣装係だのの設定を勝手に与えられて、それを誇るようでは貴方もおしまいだな。 バアルの誇りはどこかに捨て去ったか」
食事の手を止めると、こちらに向き直るアドラメレク。
凄まじい熱が辺りに吹き荒れ始める。
それはそうだ。
逆鱗を敢えて踏んだのだから。
最初から、ミヤズとユヅルには話をしてある。意図的に挑発すると。
ちなみにアドラメレクは男性神格だ。いわゆるオネエしゃべりをしている理由は分からない。
「日本支部のナホビノのようね。 多少調子に乗っていると聞くけれど、あたしにそのような口を利いたこと、後悔させてやるわ」
「出来るものならやってみろ」
「やってやるわ!」
突貫してくるアドラメレク。早い。
そして、予想通り。
ミヤズの方にいきなり向きを変えて、歯茎をむき出しにかぶりつきに来るが。
その前にすっと立ちはだかったホルスが、全力で光を展開する。ぎゃっと悲鳴を上げながら、アドラメレクが下がる。
下がった先には、既にテュールがいて、豪腕一閃。
上に逃れる。
だが上にも、酒呑童子がいて、鉄棒を振るう。それも空中で火炎を炸裂させて、機動して逃れるアドラメレク。
腐っても高位堕天使だ。
けらけらと笑いながら、巨大な焼きごてを出現させようとするアドラメレク。
だが。
その焼きごてが、消し飛んでいた。
ミヤズが、ホルスとともに力を向けたのだ。既にミヤズは少しずつ太陽神の力を得つつあり、ホルスがそれを支援した。アドラメレクは愕然として、一瞬動きを止める。
その瞬間、義経公が四方八方から八艘跳びによる剣撃をたたき込み。更には大獄丸が、地面にアドラメレクを蹴り込んでいた。
砂の中にたたき込まれたアドラメレクが、砂を溶解させながら、飛び出してくる。同時に、多数の悪魔が周囲に姿を見せる。
どれもこれもアドラメレクだ。
分霊体である。
「あたしを舐めたこと後悔させてやるわ! 馬鹿なインド支部と北欧支部が小競り合いを繰り返してくれたおかげでマガツヒは足りているのよ! こんな程度の力で、あたしをたおせると思ったのかしら?」
「一つ言っておく。 僕たちは全く本気を出していない」
「は……」
辺りが、いきなり冷気に包まれる。
大量に出現したアドラメレクが動きを止める。マーメイドは、この戦闘前からずっと詠唱を続けていたのだ。
更に、アドラメレクの太陽の力は、アモンの力を取り込み、ホルスの力を借りたミヤズが押さえ込んでいる。
そしてアドラメレクの素の身体能力は。
煌が出るまでもない。
次々に倒れていくアドラメレクの分霊体。右往左往しながら、おのれと叫ぶアドラメレクだが、其処に巴御前が容赦なく矢を射かける。必死に矢を回避するアドラメレクは、更に分霊体を出そうとするが、うまくいかない。
それはそうだろう。
この辺りは、既に氷のルールが支配している。
太陽が力を失う氷のルールの場。
多数の神魔のマガツヒを吸収したマーメイドは、そういった事が出来るまでになっている。
勿論アドラメレクが本調子であれば、そのルールを自分のルールに書き換え直すこと出来ただろう。
腐っても元太陽神なのだ。
だが、その太陽神の力は、ミヤズとホルスが押さえ込んでいる。
フィンが斬りかかり、アドラメレクを見る間に押していく。アドラメレクは必死に炎を剣にしてフィンの猛攻を防ぐが。
フィンの剣技は鋭く、ついにアドラメレクの右腕をたたき落としていた。
「お、お、おのれえええええっ!」
喚き散らしたアドラメレクが、空中に飛び上がると、本人自体が太陽になろうとする。
さっきの焼きごての技だろう。
だが。
「わっ!」
「何っ!?」
わーがとても楽しそうに、完璧なタイミングで脅かす。
その時には、煌が既に至近に迫っていた。
塗り壁がジャンプ台になり。
それを踏んで、煌が至近に到達したのである。
アドラメレクは太陽になり損ね。
次の瞬間には、唐竹にたたき割られていた。
着地。
アドラメレクが消えていく。分霊体達も逃げようとしたが、一体も逃がさない。ユヅルが丁寧に指揮をして、一匹残さず刈り取っていた。
ほどなく全滅したアドラメレクを見て、おこぼれに預かろうとした悪魔も、恐れて逃げ散っていく。
マーメイドが氷の世界を解除。
ふうと、大きくため息をついていた。かなり疲弊したらしい。
「片付きましたね、煌先輩」
「僕は大丈夫だが、二人は体調に問題はないか」
「平気です」
「ねえねえ、お兄ちゃん、見てみて!」
アリスが手を振っている。
そして引きずってきたのは、この様子を見ていたらしい悪魔だった。悲鳴を上げて暴れているが。
アリスは直に引っ張っているのではなくて、死の力をヒモのようにして、悪魔を拘束しているようだった。
見た感じ、名前もないような堕天使だ。
台東区にどこかしらの勢力の使い走りとして連れてこられたのだろう。煌達に囲まれると、ひいっと声を上げていた。
「ま、まま、まってくれ! 何でも話す! 仲魔にでも眷属にでもなる! だから助けてくれ! 助けてください!」
「この悪魔さん、ずっとこっちを見張ってたよー」
「そうか。 誰の差し金だ」
「そ、それは……」
オデットが出現すると、縛られているいかにもな羽が生えて尻尾があって、子悪党みたいな姿をした悪魔に手を置く。
そうすると、悪魔の体に仕込まれていた巨大な針が、胸を突き破って出てきて。そして消えていく。
悪魔が、呆然とそれを見ていた。
「吐いたらこれが作動して殺す仕掛けになっていたんですね」
「……か、完敗だ。 そうだよ。 話したら殺されるようになってた。 あんたらの仲魔になって潜入して、情報を届けろって……」
「それで、タイミングを見て暗殺しろと言う訳か」
「そうだ。 でも、俺も逆らえなかったんだ」
しくしく泣く悪魔。
煌はしばらく厳しい目で悪魔を見たが、ユヅルに声を掛ける。
「任せても良いだろうか」
「ああ、分かった。 僕の手持ちにして、しばらくは様子を見よう」
「お兄ちゃんにですか?」
「ユヅルの観察力は非常に優れている。 何かしらの造反はしたくても出来ないだろう」
まあ、ミヤズが関係しなければ、の話だ。
とりあえず、引き上げながら話す。
ユヅルが丁寧に尋問をしていくが、悪魔に悪辣な呪いを仕掛け、こちらに来るように仕向けたのはオーディンであるらしかった。
「オーディンが」
「オーディンの奴、とにかく恐ろしいことをずっとしてやがる。 手下とか、捕まえた悪魔を連れてきて、死人と合体させて、なんだか実験みたいな事をやってやがったんだ!」
「死人と神魔を合体?」
「そうだ。 そうすると、なんか赤くて小さい奴になるんだ」
物陰からこちらを覗いていたのは、ミマンだ。
さっと身を隠す。
アマノザコが飛んでいって、すぐに連れてくる。ミマンは怯えていたが、煌がギュスターヴのところに連れて行くというと、頷いてついてきた。
「そ、そうだ。 こいつらだ」
「……なんだか嫌な予感がするな。 ミマン達は一体何者なんだ」
「俺は分からない」
「本人か或いはオーディンに聞くのが早いのではないでしょうか」
ミヤズが提案。
煌は頷くと、まずは日本の陣地まで戻る。
先にアドラメレクの討伐を報告。
フツヌシも、以降は安心して陣の守備を行えると頷いてくれた。
それから、ミマンに安全な場所で聴取する。
あくまで怖がらせないように、丁寧にミヤズが聞いていくと。無邪気な様子だったミマンが、ある時点で不意に口が軽くなった。
「私は、元はディースだったのです。 素質のある人間と強制的に合一した結果、この姿に」
「何だって……」
「相手が死人であり、ただナホビノの素質があったから、に過ぎません。 オーディン様は、「次のために」この実験をしてると仰せでした」
「オーディンって有名な、俺でも知ってるような神様だってのに、そんな外道だったのかよ……! あの万魔会談でもろくでもない奴だと思ったけどよ、ここまで酷かったのか……!」
イチロウがわなわなと震える。
明らかに怒りが抑えきれない様子だ。
煌は丁寧に説明する。
オーディンは戦に勝つ神であって、そのために手段を選ばない残虐な存在であるのだと。
勝利を最優先する神なのだ。
だからこそ、そのやり口は際限なく冷酷なのだと。
恐らくは、創世についてオーディンは今回勝てなくてもいいと判断している。次の機会があった時、アドバンテージを握る。
そのために、非道な実験をしている。
そう判断して良かった。
ユヅルが怯えきっている悪魔を連れていく。まだ何かしらのタチが悪い呪いがかかっているかも知れない。
タオとヨーコに見てもらうと言っていた。
煌は元ディースだったミマンをギュスターヴのところに届ける。
そして、報告をもう一度、越水長官にする。
越水長官は、うむ……とだけ頷いていた。
「何者かがナホビノの人工的な作成実験をしている事はなんとなくつかんでいた。 オーディンであったのか……」
「これ以上下手に動かれると極めて厄介だと思います。 最優先で撃破するべきでしょう」
「……そうだな」
煌はこの話を聞いて。
オーディンを感情的に許せないと判断する以上に、危険だと感じた。
そもそもオーディンは既にゼウスと同様に信仰を失っており、更には現地ですら物語となりはてている。
つまり現役の神ではない。
それが日本という知名度の高い場所で今回の創世騒ぎだ。
それに乗じて、出来る限りの手を打ってくる可能性が極めて高い。
事前にギリシャ支部と組んでいるという噂があったが、現在は意図的に距離を置いて陣を組んでおり。
はっきり言って動きを非常に読みづらい。
ギリシャ支部は恐らくだが、極めて好戦的に見えたゼウスのこともある。タイミングを見て、全面攻勢を仕掛けてくるとみて良いだろう。
だが、北欧支部は、攻撃をのらりくらりと避けながら。
最悪のタイミングで、背後を突きに来る予感しかしないのだ。
「分かった。 一度会議に掛けよう。 それで決議が出たら、攻勢に転じる。 オーディンは確かに恐らく今鍵を握っている存在の中では、もっとも頭が切れる上に、悪い意味で狡猾だ。 此処で倒してしまうのが、一番安定していると私も判断する。 だが、それは多数決で決めるべきだな」
「はい。 会議の調整をお願いします」
「ああ、任せておけ」
陣地は万全とは行かない。
今も定期的に悪魔が仕掛けてくるし、その中にはかなり強い奴が珍しくもないのである。
それでも、多少は周囲を片付けてきて、守りは楽になってきたか。
丁度良いタイミングで東京に戻り、会議に入る。
議題はいうまでもなくオーディンの討伐だ。
エジプト支部は守りに徹して貰う。
不安要素であるセトとアモンが倒れたこともある。
更にはミヤズが太陽神の力を、アモン、アドラメレクと順番に吸収して、死後ラーになるための準備が着々と整っていると言うこともある。
それらもあって、エジプト支部は好意的だ。
背中を任せてしまって問題ない。
コンスもミヤズへの恋慕もある。今更裏切ることはないだろう。
問題はオーディンだ。
北にギリシャ支部がいることもあって、簡単には仕掛けられない。念入りに相手の戦力を測り、削り取ることが必要になる。
最大の課題がある。
それは、北欧最強の神格をどうするか、である。
「オーディン自身は、実のところたいした戦闘力を持っていない。 あくまで戦争で勝利する神だからだ」
越水長官が皆に説明する。
これは煌としても納得できる。
北欧神話でも、オーディンは暗躍がメインで、ルーンを編み出して身につけたなどの逸話はあるが。
本人が激しく戦って、巨人を倒したような逸話はほとんどない。
名高いグングニルも、巨人を貫いて倒した逸話が存在していないのだ。
強いて言うなら北欧神話の始祖神ユミルを倒した逸話があるが、それもオーディンが倒したのではなく、何人かがかりで倒している。
戦闘に関する逸話では、トールの足下にも及ばないのが、オーディンの実情なのである。
つまりだ。
「つまりどうすれば良いんだ」
「北欧神話には、何柱か強大な戦闘神格がいる。 それらをおびき出して、各個撃破する必要がある」
「まず最大の危険要素はトールですね」
ユヅルが言うと、越水長官は頷いていた。
その通りだ。
トールをどうにかしないと、恐らくオーディンとの一対一の状況を作り出せたとしても、勝ち目なんか万が一もないだろう。
ゼウスと並ぶ世界で最も高名な雷神の一柱だ。
物語に落ちた今でも、ヒーローコミックなどに出てくることがあるくらいの存在である。
欧州で暴威を振るったノルマンの民が信仰していた神だけあって、それだけ破壊的な力の持ち主なのである。
「神話通りだとすると、勝利の剣を恐らく失っているから、フレイは問題にしなくても良いだろう。 フレイヤは逆に厄介だ。 男性のサマナーだと近づくだけで動けなくなる可能性がある」
「それならば私が中和するわよ」
ヨーコが提案。越水長官はしばし考えてから、頷く。
他にもヘイムダルなどの神格がいるが、いずれも決して侮れる相手ではない。ただ、北欧支部が日本で知名度があるとは言え、どれほど彼らを具現化出来ているか。それが分からない。
手があるとしたら。
イズンがぽんと具現化する。
「提案があります」
「イズン神か。 話してくれるか」
「はい。 トール様をおびき出すには、一つ手があります。 今の煌さんであれば、恐らくは可能でしょう」
「詳しく頼めるか」
イズンは言う。
ロキを用いる、と。
原作でもこの辺りで、ミマンの正体について触れられますね。本作でもそれをベースに話を進めています。
ちなみにオーディンは原点北欧神話で本当にこういうことを平気でやる神格です。戦いに勝つためには何でもやる。本当にそういう神なんです。
北欧神話の専門書を読んだ時、当時の北欧の人々は本当にすさんでいたのだなと、強く印象に残りました。
神話では残虐話が幾らでも出てきますが、オーディンはちょっとその中でもかなり強烈な陰謀屋ではありますね。