真女神転生VV二次創作 牛蛇相克   作:dwwyakata@2024

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対トール戦です。

トールは北欧神話で二番目に主神となった存在です。あまりにも強大な力は、主神時代の名残ですね。

北欧の人々が自分が大好きな要素をこれでもかと詰め込んだのがトールなのです。

ただその強さはあくまで個人武勇に関するものであって、やがて個人武勇では通用しない集団戦の時代が来ます。そうすると戦争での勝利に特化したオーディンの信仰がトールの信仰よりも力を持つようになり、神話でオーディンが最高神に据えられることとなるのです。





1、外堀からの攻略

北欧神話におけるトールは、テュールの後に信仰が勃興した神格で、やがてオーディンにその最高神としての座を奪われた。

 

これはローマから持ち込まれた司法と秩序の神であるテュールが、荒々しい北欧の民には受け入れられず。

 

戦闘神格としてこれ以上もないほど強さを詰め込んだトールの方が、蛮族というも生やさしいほどのノルマンの民には愛されやすかったから、である。

 

だがやがて個人武勇の時代は終わり。

 

個人武勇ではどうにもできない時代に愛されたのは、圧倒的な個の戦闘力ではなく、どんな手を使ってでも戦争に勝つ神、だった。

 

だからオーディンの信仰が、北欧で勃興したし。

 

どんな手を使ってでも勝利するオーディンの残忍さが、最高神として求められたのである。

 

もっともこんなやり方には色々と反発もあったのだろう。

 

北欧の民はやがて衰退していき、そこに一神教が入っていくと、北欧の神話は野蛮なものとして否定されていき。「文明的な」一神教が北欧の支配者階級によって採用されていくことになった。

 

確かにあらゆる残虐な手を使ってでも勝てば良いと考え。

 

相手を殺すことしか考えていないような信仰よりは、まだ文化的かも知れないが。

 

ともかく、そうして北欧から、北欧神話は追いやられたのである。

 

それらの話をしながら、煌はイズンが指定した場所に赴く。

 

イチロウはそれらの話を、なるほどなと真面目に聞いていた。

 

今回は総力戦だ。

 

準備もしてきている。

 

トールと真正面からやり合うのは無謀も良いところである。

 

今まで最高神やそれに準ずる神とやり合ってきたが、セトやアモンは弱体化や一神教に寄る涜神を受けていた。

 

クロノスは元最高神に過ぎず、所詮は信仰もとうの昔に失われた存在であり。物語を通しても今では邪神としてしか認識されていない。

 

トールは違う。

 

現在でもその荒々しさが愛され、勇敢なる存在として好まれている。

 

真正面からやりあって簡単に勝てると思うほど、煌も相手を侮っていない。

 

「煌先輩、この辺りで戦うんですね」

 

「イズンによるとそうだ。 準備を一つずつしていこう」

 

「分かりました」

 

事前に話したとおりに、皆が散る。

 

今回は越水長官とツバメさんは来ていないが、日本支部の総力を挙げての戦闘になる。恐らくだが、おびき出せば出てくるのはトールだけではないだろう。

 

天津神としてフツヌシとタケミカヅチも来てくれている。

 

ただ二柱は、東京の維持を少しでも長引かせる仕事がある。

 

戦闘ではなく、後方からの神の加護を与える役割だ。

 

陣を構築していく。

 

ユヅルが丁寧に細かいところを指示して、天狗達と天使達が、それらを遂行していく。

 

天使部隊のうち、もっとも最初に仲魔になった元パワーのソロネは、転化が近いと言っている。

 

そろそろケルビムに転化できるかも知れないそうだ。

 

だとすれば心強い。

 

ともかく陣を敷いて、そして準備が整ったところで、フィンが出る。

 

ルーンを展開。

 

イズンもまた、それを支援する。

 

オデットが皆の力を増幅。同時に、サマナーの皆は、さっと物陰に隠れていた。

 

トールの雷は、あまりにも火力が凄まじい。

 

それは戦わなくても分かる。

 

この辺りは泥濘地で、トールが雷を落としたら全員感電死だ。普通に戦っていたら、だが。

 

それをコントロールしなくてはならない。

 

そのために、煌はルーンでの作業を横目に、準備を進めていた。

 

程なく、準備が仕上がる。

 

イズンが手を振ってくる。

 

イズンと煌だけでその場に残り、皆周囲に伏せて貰う。

 

其処にあるのは召喚用の魔法陣である。

 

呼び出すのは、勿論。

 

ロキだ。

 

生け贄なんか必要ない。今の台東区は、おぞましいほどのマガツヒが漂っている。これはあちこちで、今この瞬間も大物神格が殺し合っているからだ。このマガツヒを、そのまま使う。

 

程なくして、魔法陣が輝き。

 

ロキが出現していた。

 

前の姿のままだ。

 

「お、ナホビノじゃねえか。 て、イズンかよ」

 

「お久しぶり。 少しは反省しましたか?」

 

「反省ってな。 俺がそんなことをするタマに見えるか? 俺は最初から最後まで悪党だよ」

 

「そうでしょうね。 それが分かっているから、此処に呼び出したのです」

 

咳払いしたイズンが、備えなさいと言う。

 

えっとロキが言うが、先に煌がアマノザコと連携して、即座に真空で壁を作り出す。

 

凄まじい雷撃が直撃したのは、その瞬間だった。

 

辺りが吹っ飛ぶような破壊の中。

 

煌とイズンは即座に逃れる。

 

以前偉そうに世界の富と信仰心を独占するとか粋がっていたロキは、ひいっと悲鳴を上げながら、頭を抱えていた。

 

戦闘には適した神ではないのだ。

 

凄まじい勢いで飛んできて、降り立ったのは。

 

トールだった。

 

見上げるような巨大な神だ。巌のようなたくましさで、手には名高いミョルニルを。腰にはベルト、そして厳つい手袋をしている。

 

ミョルニルはトールでさえ素の状態では持ち上げられない武器であり、用いるにはこのベルトと手袋が必要になる。

 

それだけの手順を踏まなければならない事もあって、投げたら必中。そして必殺なのである。

 

北欧神話のエピソードでも、このミョルニルに頭をたたき割られた巨人は枚挙にいとまがない。

 

唯一これに耐えきったのは。

 

世界蛇であるヨムルンガルドだけで。

 

そのヨムルンガルドも、北欧神話の終わりであるラグナロクでは、トールと相打ちになるのだ。

 

「ロキ。 貴様、こんなところで何をしている」

 

「トール、そ、それはだな。 俺とおまえの仲じゃないか。 助けに来たんだよ」

 

「違うな。 おまえがイズンのリンゴを利用して、くだらん金儲けを企んでいたのは分かっている。 始めたら頭を即座にたたき割りに行くつもりだったが、どうやらやめたようだから行くのは抑えてやっていた。 だが、またイズンと接触したと言うことは、くだらん事をやはりするつもりだな」

 

「ち、違う違う! 俺、呼び出されたんだよ! 頼むからその恐ろしいミョルニルは下げてくれよう!」

 

半泣きになるロキ。

 

まあ、分からないでもない。

 

神話においてロキはトールと何度も旅をしている。悪友ともいう仲だ。少なくともトールとロキの間には、北欧神話の早い段階では友情があったのだ。

 

それも今では、すっかり冷え切っているようだが。

 

いずれにしても、トールの側にいたのだ。ミョルニルの恐ろしさを、ロキが知らない訳がない。

 

煌は咳払いすると、ロキを魔法陣からアティルト界に戻す。

 

いても意味がない。

 

今のロキでは、この戦場に立つのは無理だ。

 

「トール神。 貴方をおびき出したのは僕たちだ」

 

「日本支部のナホビノだな。 今の雷の一撃を防いだからくりはなんだか知らないが、私を呼び出して何のつもりだ」

 

「単刀直入に言う。 オーディンの非道をどう思っている。 ミマンにされたディースから話は聞いている。 「後のために」ディースをミマンにして、使い捨てているようだな」

 

「……」

 

トールが黙り込む。

 

事前にイズンに話を聞いている。

 

トールは竹を割ったような性格で、オーディンがやっているような非道を好ましく思っている筈がないと。

 

もしも説得して仲魔に出来るのならそうしたいところだが。

 

まあうまくはいかないだろうな、とそれは覚悟しておく。

 

トールとしても、信仰が弱体化している今、北欧の勢力から離れるのは自殺行為だ。オーディンに粛正されるようなことはないとしてもだ。

 

降り立つのは、目が覚めるような美男子の神。厳しく鎧を着込んでいるが、兜から覗く目鼻立ちは、彫刻のように整っていた。

 

「トール殿」

 

「フレイ、分かっている。 フレイヤもいるな」

 

「ええ、いますわ」

 

すっと姿を見せるフレイヤ。

 

フレイとフレイヤが出現しただけで空気が露骨に変わる。辺りが強烈な催淫効果で満たされる。

 

そういう神格だ。

 

フレイヤは豊穣神系の女神の極北にいるような神格で、性欲の権化である。

 

全ての神(老若男女関係なし)の恋人と言われるほどで、ギリシャ神話のアフロディーテと並ぶくらいの悪名を漂わせるビッチオブビッチだ。

 

現れたフレイヤは、金髪透け肌の欧州的美人だが、裸にほとんどローブ一枚という挑発的な格好で、頭が痛い。体型もばいんばいんで、性行為に特化したような肉体だ。

 

性欲の権化である事を隠そうともしていない。

 

「日本支部のナホビノ。 そちらも多数を用意してきているようだから、こちらも相応の数を準備した。 フレイ、フレイヤ、他の者達を倒せ」

 

「承知」

 

「うふふふ、男の子は食べてしまっても良いかしら?」

 

「好きにしろ」

 

トールがうんざりした様子でフレイヤに返す。

 

煌も呆れて、思わず頭を振っていた。

 

トールが、煌に静かに言う。

 

「おまえが言いたいことは分かるつもりだ。 だから、せめて一対一で決着をつけたい。 眷属の支援くらいは構わないが、せめてもの事だ。 私の挑戦を受けてくれるだろうか」

 

「構わない」

 

「……では行くぞ! 北欧の武神トール、参る!」

 

「日本支部のナホビノ、夏目煌! 受けて立つ!」

 

空に大量のディースとヴァルキリーが出現する。そして、一斉に襲いかかってくる。それらは、トールの意をくんだのか、交戦を開始したユヅルとミヤズ、イチロウ、タオとヨーコに向かった。

 

乱戦が始まった中。

 

煌は左右にマーメイドとアマノザコを呼び出し。そして、続けて他の眷属達も呼び出すが、マーメイドとアマノザコ以外は皆、仲間達の支援に向かわせる。

 

わーだけは残るが、具現化はしていない。

 

「煌ちゃん、強いよあのおじさん。 でも、一対一でやりたいんだよね」

 

「ああ。 正々堂々で倒さなければ、トールは納得してくれないだろう」

 

「分かった、じゃ、脅かすのはなし。 ちょっと違う方法で手伝っちゃうよ」

 

「……頼む」

 

わーの正体は。

 

最近少しずつ分かってきた。

 

脅かすだけの妖怪、か。

 

間違いではない。だが、そんな程度の存在であるはずがないのは、最初から分かってはいた。

 

正体に気付いたのは最近だが、そうだったのかと納得もした。

 

手刀を作り出すと、トールとの間の間合いを計る。周囲の乱戦は、まるでこの場にはないようだった。

 

トールが踏み込むと、ミョルニルを振り下ろしてくる。

 

凄まじい勢いだ。

 

防ぐのは簡単ではないだろう。半浮遊でかわす。圧力、速度、ともに簡単によけられるようなものではない。

 

超重量武器は、遅いのは初速だけだ。

 

速度が乗り切ると、それは凄まじい圧をもって襲いかかってくるし。トールはその最高速に乗せるのが早すぎる。

 

それでも回避しきる。

 

最初から、アマノザコが風の力で全力支援してくれている。マーメイドは距離を取りながら、詠唱続行。

 

マーメイドを狙ったヴァルキリーがいたようだが、無粋と言って、森可成が切り伏せていた。

 

ありがたい。

 

立て続けに飛んできた大砲みたいな前蹴りを、バックステップして勢いを殺しつつ受けるが。

 

凄まじい破壊力だ。

 

それだけで吹っ飛ばされて、泥濘にたたき込まれる。

 

即座に上から、ミョルニルで潰しに来る。

 

だが。トールは気付いたか、ミョルニルを振り下ろさず、飛び退いていた。煌も即座に其処を離れる。

 

「これは……!」

 

「貴方は様々な要素を足し合わせた神格だ。 この泥濘がなんだかわかるようだな」

 

「……ちっ」

 

トールが構えを変える。

 

ミョルニルを振り下ろすのではなく、横薙ぎ、投擲、それらの方法で戦うつもりになったようだ。

 

この大地は、事前に準備をして、泥濘。それも、極めて粘性が高い代物にしてある。しかも一部はいわゆるダイラタンシー流体になっている。

 

ミョルニルを下手にたたき込めば、一気に食い込んで、トールの剛力でも引き抜くことは困難。

 

振り下ろすパワー次第では、文字通り鉄壁となって、トールを思わぬ反発力で襲うことになるのだ。

 

それに気づいたのは流石だ。

 

煌は構えを取り直す。

 

アマノザコが本腰を入れて、風の支援を開始。更に、である。ダイラタンシー流体を制御しているマーメイドも、詠唱を進める。

 

トールはふっと笑う。

 

そして、突貫してくる。

 

ミョルニルを空中に放り投げると、拳で殴りかかってくる。煌はそれを紙一重で回避しつつ、手刀で迎え撃つ。紙一重で回避するだけで、抉られるような凄まじい圧力だ。風の力で支援を受けていなければ、皮ぐらいえぐれていたかも知れない。

 

トールも手刀を驚くほど機敏に回避すると、足で踏み潰しに来る。それをすっとよけつつ、背後に回ろうとするが。

 

丸太みたいな拳が飛んでくる。

 

真空の壁で防ぐが、吹っ飛ばされる。トールは即座に追いついてくるが、下がる。煌がカウンターで手刀を用意していたことに気付いたか。煌は凄まじいダメージだと思いながらも、即座に体勢を立て直す。

 

その間も、回復を続ける。

 

戦場全体にオデットの強化効果が及んでいる。回復魔法の効果が倍増ししている。それでも、トールの重すぎる一撃をまともに受ければ、ただではすまない。

 

落ちてきたミョルニルを手に取ると、雄叫びを上げながらトールが来る。煌も前に出ると、ミョルニルを真空の壁で防ぎつつ、わずかに速度を削る。そして、そのまま、懐に潜り込んで、トールのベルトに手刀をたたき込む。

 

がつんと、凄まじい反発とともにはじき返される。

 

トールが踏みとどまると、全身を丸めるようにして、拘束に懸かってくるが、即座に逃れる。

 

トールは北欧の伝承で、他の神々全てをあわせたより力が強いとまでされている。流石にそれは過大評価だろうが、力勝負になれば分が悪い。ましてやつかまれたりしたら、ほぼ負け確定だ。

 

回避するが、わずかに擦って、それだけで吹っ飛ばされる。態勢を立て直すが、その時にはトールが至近に。

 

巨体なのに、なんという速さか。

 

火花が散るような勢いで、巨体が突っ込んでくる。

 

舌を巻きながら、煌はむしろ前に出る。トールが拳をうなりとともに振るってくるが。その瞬間。

 

マーメイドの詠唱が完成していた。

 

戦場に豪雨が降り注ぐ。

 

本来寒さは北欧の民にとっては味方だ。しかしながら降っているのはただの雨。しかも、かなりぬるい、気持ちの悪い雨だ。

 

それを受けて、トールがぬうと呻く。

 

それはそうだろう。

 

暑さは北欧の民の敵だ。

 

更に温度が上がっていく。

 

冷やすことが出来ると言うことは、温めることも出来る。更に言えば、マーメイドに魔法のあれこれを教え込んだアナーヒターは中東の神格だ。

 

むしろ熱の方が、教えるのは得意だっただろう。

 

ぶるっと身震いをすると、トールは吠える。それだけで、辺りに衝撃波がほとばしり、空気を蹴散らしていた。

 

アマノザコが露骨に慌てる。

 

「やばいよ! 抑えきれないよ!」

 

「可能な限り頼む」

 

「わずかな側近だけで私に挑むその度胸、素晴らしい。 倒れたら、ヴァルハラに迎えてやろう」

 

「悪いが断る。 ヴァルハラに行くことを喜ぶ者だけとは思わないことだ」

 

再び間を詰める。トールは満面の笑みに変わっていた。明らかに楽しんでいる。拳を連続して振るってくる。

 

一発一発が、ビルを瞬時に粉々にする破壊力だ。

 

下手をすると山が潰れるかも知れない。

 

その全てを紙一重で交わす。一発でも貰ったら終わりだ。そしてトールは、狙っている。

 

恐らくだが、ミョルニルを投擲するつもりだ。

 

ミョルニルはグングニルと違って、数多の巨人を討ち取った逸話を残している。倒せなかった相手もいるが、それでも投擲すればほぼ確定で相手を打ち砕く。

 

だが、その時こそ勝機だ。

 

アオガミの指示で、トールの格闘戦闘にしばし付き合う。これも全て布石。一手一手が死に直結するほどの圧力を受けるが、それでもオーディンやゼウスまで同時に相手をするよりはマシだ。

 

ぐおんと拳が振るわれて、飛び退く。

 

距離を取った瞬間、トールがふんとうなりを上げて。

 

ミョルニルの投擲の態勢に入った。

 

来た。

 

煌は即座に詠唱を開始する。北欧の神々との戦闘に備えて、準備をしてきた。マーメイドも、詠唱を切り替える。

 

トールが全力で踏み込むとともに、裂帛の気合いとともにミョルニルを投擲する。恐ろしいうなりとともに、それが飛来する。

 

まともに直撃したら、水爆並みの破壊力かも知れない。

 

だが。

 

煌が展開したそれをみて、トールが目を見張る。

 

それは、鱗の壁だ。

 

ミョルニルがぶつかり、凄まじい音と熱が辺りを蹂躙する。展開する鱗の壁を、内側から強化し続ける。

 

びりびりと、全身が壊れそうなほどの衝撃が来る。ずり下がる。マーメイドが、必死に耐えてくれている。

 

だったら、これを煌が制御しきらないと。

 

側で、すっと手を向けたのは、わーだ。

 

「ちょっと、違う意味で脅かしてみようかな」

 

「……分かった」

 

「はっ……!」

 

わーが小さな手を向けると、見る間に鱗の盾が強化されていく。ミョルニルがまき散らす絶対的な死が、それに吸い込まれていく。だが、ミョルニルは回転しながら、鱗の盾をなおも削り続ける。

 

更にずり下がる。

 

わーが珍しく、冷や汗を掻いているのが分かる。だが、それでもだ。勢いが止まり始める。

 

ほどなくして。

 

鱗の盾がはじけ飛ぶと同時に、トールが大きくのけぞり。吹っ飛んだミョルニルが、地面に突き刺さっていた。

 

「ぬううっ! 今のは、ヨムルンガルド……!」

 

「正解だ。 そして、貴方にはこれが最大の特攻になる!」

 

突貫。

 

煌は使う。

 

今のは、以前倒したヒュドラから派生させ、作り上げたヨムルンガルドの力。北欧神話のラグナロクにて、トールと相打ちになる世界を取り巻く最強の蛇。ただし、ヨムルンガルドは流石に今の煌では制御しきれない。だから、その頑強な鱗と、もう一つ。

 

大きな隙を曝したトールに、手刀をたたき込む。

 

手刀から、ヨムルンガルドの毒を、トールへと流し込むと。トールは凄まじい絶叫を挙げていた。

 

よろめくトール。

 

七歩巨体が下がる。

 

そして、砂漠を蹴散らして、どうと倒れていた。ビルが倒れるような、凄まじい迫力だった。

 

ほとんど力が残っていない。

 

人間だったら、呼吸を必死に整えていただろう。

 

合一した状態だから、煌は力が消耗して、体の維持が危ないとだけは思ったが。頭は働いている。

 

流石だ。

 

神話を失い。日本での知名度に助けられた。それだけの不完全状態でも、まさに雷神の中の雷神。

 

武神の中の武神だ。

 

トールが消えていく。マガツヒになって散っていく。だが、悔いはないようだ。

 

「はっはっは。 負けた負けた。 だが、貴様ほどの益荒男に負けたのであれば悔いはない。 ……私もそうだが、オーディン王が創世をすれば、きっと世界は戦乱だけの場所になる。 そのようなことは望まないであろう」

 

「もちろんだ。 今は酷い世の中だが、それでも人間の歴史の中ではまだマシな時代なんだ。 この時代を先に進めなければならない。 元に戻すことは、絶対にあってはならないんだ」

 

「うむ……新時代を作る益荒男にふさわしい言葉だ。 もしも……力が足りたら私を呼べ。 相手が何であろうと、かならず打ち砕いてやろう」

 

頷く。

 

そして、へたり込んでいた。

 

少しずつ回復はしているが、それでも厳しい。わーがすぐにイズンを呼びに行く。

 

ユヅルとイチロウとミヤズは、ヨーコとタオの支援を受けて、互角以上に戦っているようだ。

 

今は足手まといになるのを避けなければならない。

 

それにしても凄い神だったなトールは。

 

そう、煌は掛け値なしに、今戦った雷神に敬意を抱いたのだった。







原作真VVだとイズンに化けたトールが出てくるイベントが追加されましたが、実はこれ、神話にある女装エピソードの再現ですね。

北欧神話のエピソードに、トールが女装して、ロキと一緒に巨人達の宴に潜入。そのまま巨人達をしばく話があるんです。

もっとも女装に向いていなさそうな神ですが、まあトールも女装という意外な特技があるわけですね……





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