真女神転生VV二次創作 牛蛇相克   作:dwwyakata@2024

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オーディンとの決戦です。

創世の女神編ではオーディンだけですが、復讐の女神編ではゼウスまでやってきます。

本作ではオーディンだけですが、その代わり北欧の神々も総出で迎え撃ってきます。





3、戦勝だけを求めて

現状、北欧勢は危険極まりない。そう戦闘を終えた後、煌は越水長官に報告。やはり最初に撃破するべきだという提案をした。

 

戦力を回復させるために、一日の休暇を貰う。

 

その間も煌は天使部隊を出して、拠点の側に張り付いて情報を探る。天使部隊は黙々と情報を集め、そして北欧支部の偵察も命がけでやってくれた。

 

そして、おぞましい情報が集まってきていた。

 

「明らかに素人の死霊をエインヘリアルに仕立てている!?」

 

「はい。 この東京の魔界に落ちて死んだ人々です。 しかもそれを最前列に配置しています」

 

「そうか。 非道をするものだ」

 

「狙ってやっている、と見て良いでしょう」

 

煌は静かにそう越水長官に告げた。

 

その報告を聞いて吹き上がったのは、天津神と国津神である。

 

どちらも長く日本の民から信仰を受けてきたのだ。天津と国津の対立はあったかもしれないが。どちらも神社に祀られ、素朴な信仰を受けてきた。

 

東京受胎という事件の後、戦力の空白が生じたのは事実だ。

 

だが。まさかこれほどの非道をしてこようとは。

 

流石に彼らが吹き上がるのをとめることも出来ない。ただ、越水長官が手を叩いて、冷静に彼らをいさめていた。

 

「オーディンは戦争に勝つことに特化した神格で、戦争に勝つためであったらどのような手段でも執る。 我らの冷静さを失わせるためにやった事に違いない」

 

「しかし、これではあまりにも……」

 

「僕が倒します。 その後、救ってあげましょう。 幸い仏教系の神格も手持ちにはいますので、成仏を促すことも出来ます」

 

「う、ううむ……っ」

 

フツヌシが怒りの声を上げる。

 

体の周囲に無数の剣を浮かべた頑固そうな老人は。頑固であっても非道とはほど遠い。だからこそ、怒り狂っているのだろう。

 

煌だって許すべきではないと判断した。

 

しかしオーディンはまず間違いなく、越水長官がいったように、こちらが冷静さを失うのを見越して行動している。

 

更に言えば、既に戦端が開かれ。それが故に、勝つための手を打ってきたとみて良いだろう。

 

トールはあれほど気持ちが良い武神だったのに。

 

オーディンは、北欧神話で三番目に信仰された主神だ。秩序と司法のテュールが最初に、次が個人武勇のトールで。そして最後が戦勝のオーディン。

 

この順番で信仰が変わる例はあまり多くない。主に北欧神話を信仰したノルマンの民が、如何に戦争ばかりしていて、勝つためになら何をしても良いと考え。倫理なんて放り捨てていたのがこの経緯だけでも分かるのだが。

 

それにしても、いくら何でも酷すぎる。

 

偵察の部隊を出していても、やはり消耗はする。

 

北欧側も兵を出していて、それに倒される天使部隊がいるからだ。

 

その都度蘇生させるが。

 

その都度煌の体力回復も遅くなる。

 

ギュスターヴも、随分強くなったから、回復が遅れると愚痴を言っていた。この先は、もっときつくなるだろう。

 

睡眠はとっくに必要なくなっているが。

 

それでも越水長官に、休むように言われたので、言葉に甘えることにする。

 

今の日本支部が展開した前線基地の守りは、エジプトの神々や、同盟を組んだ神々の助力もある。

 

オーディンが攻め込んできても、簡単に陥落することはないだろうという判断をされている。

 

一度仮眠を取る。

 

アオガミが、その時に言った。

 

「煌。 私は常に冷静であろうと考えている。 だがオーディンの行動は、あまりにも醜悪だと感じている」

 

「アオガミさんは戦乱が絶えなかった時代の神です。 アオガミさんでも、オーディンは許せませんか」

 

「許せない」

 

「……そうですね。 僕もオーディンは倒すべきだと思います。 ですが、そう思わせる事が、オーディンの作戦でしょうね」

 

オーディンはそれに特化した神だ。

 

油断はしてはいけない。

 

感情で勝てるような甘い相手ではない。

 

丁寧にそれを説明すると、アオガミはなるほどと納得してくれた。

 

アオガミが怒りをあらわにしたことは、見たことがない。それでも醜悪だと断言するほどに、確かにやり口が汚い。

 

煌もそれは全面的に同意する。

 

既に亡くなった人たちについては仕方がない。

 

アティルト界を用いて、擬似的な輪廻をしているという話もあるのだが。

 

だとすれば、余計にさっさと成仏させてやらなければならないだろう。

 

それにだ。

 

ヴァルハラなんて最悪の天国も。

 

オーディンを倒した後、潰してしまう方が良いかもしれない。

 

オーディンに対する報復は、倒す、なんてことじゃない。

 

そのやり方の全否定が良いはずだ。

 

策は練っておく。

 

無理に仮眠を取って。起き出して。

 

そして朝の早い時間に会議に出る。

 

既に情報を取得したオーディンの陣地だが、立体的に構築されていて、地上から攻め上がることは困難である事が示唆されている。

 

自衛隊の参謀部隊がアドバイスをしてくれるなか、煌が作戦を提案。越水長官が、皆に確認を取り。

 

それで策が決まった。

 

自衛隊の参謀部隊の長が嘆く。

 

「攻撃機やヘリを動員できれば、少しは支援も出来るのですが」

 

「台東区の悪魔の強さを考え見ると、自衛隊機を動員しても出すだけ破壊されるだけだ。 君たちは東京や各地に現れる悪魔の足止めのために、命を大事にしてほしい。 くれぐれも、命を無駄にするようなことだけは避けてくれ」

 

「は……」

 

越水長官が彼らをたしなめる。

 

さあ。作戦開始だ。

 

 

 

可能な限りの総力を挙げ、まずはオーディンのいる陣地に向かう。

 

この作戦には煌とユヅル、ミヤズ、イチロウ。タオ、ヨーコの全員が参加する。イズンには、既に話はしてある。

 

恐らくはブラギが出てくる。

 

ブラギは詩の神で、イズンとはとても仲が良いことで知られている。

 

イズンは神話においても無邪気な性格でしかも聡明だとされていて。

 

詩の神であるブラギとも、仲が良かったのは分からないでもない。ただ、北欧神話の神々は、ほぼ全てが戦神だ。

 

これは北欧の民が、それすなわち古くは全てが戦士であった事を意味している。

 

神話は民族性の鏡だ。

 

北欧神話の荒々しさは、ヴァイキングとして各地で残虐非道の限りを尽くしたノルマンの民の性質そのものなのである。

 

地形的な問題で、いきなり南に向かって、北欧神話の神々の陣地を直撃する訳にはいかない。

 

まずは西側から回り込んで、そこから南下。その後、東に進むことになる。

 

これは、インド支部が東側に展開しているのが要員である。東側から南に回り込む事も出来るのだが。

 

その場合、最悪インド支部に背後を突かれることになる。

 

今インド支部は大混乱に陥っているのが確認されているが。

 

それでも可能な限りリスクは避けたい。

 

相手は今までに倒してきた神々と違って、物語に落ちたとは言え現役の主神である。あらゆる勝つための手は講じなければならない。

 

移動している間にも、煌の天使部隊と、ユヅルの天狗部隊を出して、偵察を続ける。

 

北欧神話の神々は、地上にエインヘリアルを展開。

 

空中にヴァルキリーとディースの軍勢を展開しているが。

 

先の戦闘による消耗もあり。

 

ヴァルキリーの部隊は数を減らしているようだった。

 

その代わり、エインヘリアルの数が多い。

 

ラグナロクのためにオーディンが各地からかり集めている兵士達だが。それを前倒しで出してきたというべきなのか。

 

それとも、今をラグナロクだと考えているのか。

 

南下して、アドラメレクを打ち倒した辺りに到達。

 

此処から東に進むと、オーディンのいる陣地だが。既にこの辺りで、小競り合いが始まっている。

 

オーディンは周囲の雑多な神魔をエインヘリアル達に刈り取らせており。

 

逃げ出してきた神魔が数体、命乞いをしてきた。

 

仲魔として加えるかは、皆に判断を任せる。

 

無言で険しい顔のイチロウが、彼らを仲魔にして。それでおしまい。

 

皆、それぞれかなりの数の神魔を既に従えている。

 

こちらも陣立てをして、相手側とにらみ合う。しばし小競り合いが続いたが、やがてテュールが前線に出ると、その時点から戦闘は本格化した。

 

激しくエインヘリアルと、皆の仲魔、煌の眷属がぶつかり合う。

 

イチロウがかなり前に出ている。

 

エインヘリアルはどれもこれも荒々しい鎧に身を包み、大きな斧や槍を手にして襲いかかってくるが。

 

見た目は生きた人間とほとんど変わりがない。

 

リングメイルやスケイルメイルを身につけていて、それぞれが筋骨逞しい。

 

ただし、最前線にいるのは、やはりこの土地で収穫されたらしい、魔界に落ちて殺された人々だ。

 

中にはまだ幼い女の子もいた。

 

イチロウは歯を食いしばって、多数の眷属を森可成の指揮に任せて、最前線で暴れ回る。許せない。そう言っていた。

 

だが、既に前線で戦えるイチロウは、剣技も鈍っていない。

 

許せないからこそ、早々に終わらせる。その凄まじい意気が感じられるし。

 

何よりも、皆がそれで消耗するのを、自分が盾になって防ぐ。そういう意気も感じ取れる。

 

エインヘリアルは、どれだけ倒れても、満面の笑みで向かってくる。

 

それらを、タオとヨーコが順番に面制圧の光の力と闇の力で、交互に討ち減らしていく。

 

見た目、イチロウより頭二つは背が高い男ばかりで、筋肉からも勝ち目はないが。

 

所詮はマグネタイトやマガツヒで強引に具現化している存在。

 

何よりも、イチロウは神魔とやりあって、マガツヒを吸収してきたのだ。

 

互角どころか、それこそ鬼神のように最前線で暴れ回っていた。

 

森可成もとめない。

 

「懸かれっ!」

 

「おう! 行くぞオラァ!」

 

「戦争ごっこばっかりしてる脳筋のアホども程度に負けるな! ぶっ潰せぇ!」

 

ファランクスを組んだユヅルの河童達も、ミヤズとイチロウの金鬼と鵺も奮戦している。

 

数多の雑多な悪魔達も、このやり口は相当に腹立っているようで、暴れまくる。だが、エインヘリアルの数は無尽蔵だ。

 

徐々に消耗戦になりつつある。

 

最前線で暴れている部隊同士は、だ。

 

こちらは主力をほとんど温存している。

 

他化自在天が、煌に言う。

 

「前に出て良いか? 蹂躙してやりたいんだが」

 

「まだ駄目だ。 僕だってさっさとあれらは片付けてしまいたい。 我慢してくれ」

 

「ちっ。 まあ今の俺はおまえさんの眷属だ。 それに、おまえさんの冷静さは認めているしな」

 

「……来ます!」

 

イズンが言う。

 

同時に、最前線で多数の河童が吹き飛ばされていた。

 

出てきた。北欧の神々が。

 

角笛を吹いているのはヘイムダル。

 

ラグナロクの始まりを告げる神だ。

 

その角笛に合わせて、エインヘリアルが押し返しに来る。更に、上空からヴァルキリーとディースが、急降下攻撃を仕掛けてくる。

 

空中と地上からの同時攻撃。

 

かのナチスドイツが得意としていた電撃作戦に似ているやり方だ。

 

最前線に出てきた神々には、トールの息子であるマグニとモージもいるようだ。北欧神話において、ラグナロクを生き残る数少ない神々。父にも近い武芸を誇る強敵である。どちらもトールによく似ていて、ただかなり小柄だ。

 

彼らはオーディンに疎まれた話があるが、それでもトールが倒されたことの方が怒りを呼んでいるのだろう。暴れぶりは凄まじい。

 

更に暴れている中には、北欧神話であの最強の狼の魔、フェンリルを打ち倒すヴィーザルがいる。オーディンの息子である。

 

オーディンを瞬殺したフェンリルを、即座に殺し返した強力な神だ。彼もまた、ラグナロクを生き残る強力な神である。

 

ヘイムダルを加えた四柱が前線に出てきたことで、戦況が一変する。

 

だがそれも、一瞬でしかなかった。

 

乱戦の中、既に狙撃ポイントを確保していたミヤズが狙撃を開始。最初にマグニの額に、弾丸が直撃。

 

ガツンと、凄まじい音を立てて、マグニが吹っ飛ぶ。モージが兄貴、と叫ぶ。即死とまでは行かなかったが。景気よく暴れていたのに、いきなり出鼻をくじかれた感じだ。

 

更にユヅルが前に出て。

 

大獄丸、フィン、義経公、酒呑童子、テュールらの重量級、純粋戦士の神魔達が前に出る。

 

大獄丸が、ヴィーザルと組み合う。凄まじい剛力同士のぶつかり合いだ。ヴィーザルと、犬の悪魔は相性が最悪だから戦うな。それは事前に通達してある。大獄丸と、更にはユヅルが最前線に出て、ヴィーザルを攻め立てる。

 

義経公と酒呑童子がモージを。ヘイムダルにはテュールが。それぞれ前線に出て、主体的に相手をする。他化自在天が戦車を繰り出し、エインヘリアルを蹴散らしに懸かった。

 

フィンが叫ぶ。

 

「来たぞ!」

 

「!」

 

煌は即座に力を展開。

 

同時に、ハヤタロウが動いていた。

 

ミヤズがオデットの力で増幅した支援魔法を用いて、最大限まで強化されているハヤタロウが、閃光のように飛んできたそれを、真正面から受け止める。

 

完璧な狙撃だったが。

 

だからこそ、通じない。

 

煌の胸の寸前で、それをかみ砕くハヤタロウ。

 

そう。

 

グングニルだ。

 

冷静さを失い、乱戦になったところを高所からのグングニルで仕留めに懸かってくる。それはわかりきっていた。

 

だが、そんなのは序の口だろう。

 

煌は皆に戦闘を任せて、マーメイドとアマノザコ。イズンとアリス。それにわーをつれて、前線に出る。

 

まだ幼い女の子のエインヘリアルが、まともな意識もない様子で、襲いかかってくる。

 

見かねたタオが、即座に浄化。

 

糸が切れたように倒れると、エインヘリアルは光になって消えていく。

 

森可成が叫ぶ。

 

「戦場全域の指揮は任されよ!」

 

「頼む。 タオさん、ヨーコさん! 皆の支援を! 広域攻撃で、上空の制空権を確保してほしい!」

 

「分かった!」

 

「ええ、任せなさい」

 

突っかかってくるエインヘリアルを、そのまま歩きながら左右に斬り伏せる。前に立ち塞がってきたのは、目に知的な輝きを持つ男性神格だ。

 

間違いなくブラギだ。

 

イズンが、目を伏せる。

 

「あなた……」

 

「イズン、すまない。 私も北欧の神だ。 貶められたままは嫌だ。 勝たせて貰うぞ」

 

「オーディン様のやり方は明らかに今の時代に沿っていません。 我ら神々は人の鏡。 であれば。 この乱れた世界を、良き方向に動かそうと考える存在が座に着くべきです。 少なくとも、あのようなこと……幼子や戦いと無縁な現地の者達をエインヘリアルにして前線に出すようなオーディン様が座に着いたら、世界はもう」

 

「分かっている、分かっているのだ。 だが、それでも……私は、醜いデーモンと蔑視され続けるのには、もう耐えられぬ!」

 

北欧神話は、野蛮とされた。

 

まあ言わんとすることは分かる。確かに野蛮だ。

 

だが一神教によって信仰が潰された北欧神話だが。一神教がそれより文明的だったかというと、非常に疑問が残る。

 

北欧に一神教が入り込み、北欧神話を消し去っていった頃には。

 

既にノルマンの民は、その戦士としての優位性も、海における強さもとっくに失っていた。

 

個人武勇の時代が終わり。

 

集団戦の時代が来ていたからだ。

 

厳しい冬の世界で生き抜いてきたノルマンの民は確かに精鋭がそろっていたかも知れない。

 

だがそれにも限界がある。多数を用意し、組織的に運用していた欧州の民には勝てなかったのだ。

 

そして北欧は「田舎」になった。

 

北欧神話は田舎の民が信仰する野蛮なものとなり。そしてその神々はデーモン呼ばわりされて、貶められていったのだ。

 

そんなことをする一神教が、文明的で理性的だっただろうか。

 

煌にはブラギの怒りはよく分かるのだ。

 

前に出ようとするが、イズンが首を横に振る。

 

イズンは戦闘向きの神格ではない。アリスが前に出た。

 

「私がイズンさんと残るよ。 任せて」

 

「分かった。 頼むぞアリス」

 

「任された」

 

二人が戦いを始める。

 

既に乱戦は混戦になりつつあり、皆の仲魔や煌の雑多な眷属も、周囲で激しくエインヘリアルとやりあっている。

 

煌はマーメイドとアマノザコ、わーだけつれて進む。

 

アールマティが面制圧で、多数のエインヘリアルを塵にしたのが見える。

 

少なくとも、日本でヴァルキリー達が収穫したエインヘリアル達だけでも、成仏させてやらないと気の毒だ。

 

複雑な地形を上がっていく。

 

空中から、横殴りにヴァルキリー達が突っ込んでくる。

 

「フレイヤ様の仇だ!」

 

「たたき落としてやる!」

 

「なーにが仇だ! 戦争なんだよ! 殺す殺されるの世界だよ!」

 

アマノザコが、烈風を吹き付ける。

 

突貫を阻止されたヴァルキリー達が算を乱したところに、マーメイドが雹をたたき込む。烈風と混ざり合った雹は凶悪な殺傷力を発揮して、次々にヴァルキリーをたたき落とす。それでも一騎、突っ込んでくるが。

 

横殴りの一矢を首に受けて、きりもみしながら落ちていった。

 

巴御前の完璧な支援射撃だ。

 

一礼。そのまま、雪崩を打って降りて襲ってくる雑多な神々やエインヘリアルを、蹴散らして進む。

 

下の戦場に向けてオーディンが投擲するグングニルは、ハヤタロウがことごとく防いでいる。

 

ユヅルが冷静にハヤタロウに指示を出し、オーディンがいる地点からの狙撃可能点を割り出して。狙撃を防いでいるのだ。

 

それでも狙撃は極めて危険だ。

 

オーディンがいるのは、奇怪なブロック状の足場が積み重ねられたこの陣地の頂点。高さは三百メートルほどの地点だ。

 

抵抗が目に見えて減ってくる。

 

すべりながら襲いかかってきたのは、恐らくはスキーの神であるウルだ。

 

ウルはトールの義理の息子で、北欧神話も他の神話と同じように雑多な神話を取り込んでいった存在なのだが。そうやって取り込まれた、ローカルな信仰の天空神だった存在である。

 

弓矢が得意で、スキーの神ではあるが武神でもある。

 

足場を滑り降りてきながら、弓矢を立て続けに放ってくるウル。煌はその全てを丁寧にはじき返しつつ、風の力を受けて突貫。

 

ウルも矢をはじき返されて、剣を抜くが。

 

三合で剣をはじき返し。

 

四合目で、肩口から切り下げていた。

 

「ぐ、うっ……」

 

「今楽にする」

 

そのままウルの首をはねる。

 

オーディンに従うのも本意ではなかっただろう。だが、怒りは抑えろ。元々感情を制御できる煌だが、だからこそ分かる。

 

オーディンは捨て駒のように敢えて神々を使っている。

 

最終的に自分だけ勝ち残れば良い。

 

そういう思想なのだ。

 

トールでさえ、恐らくは邪魔だから使い捨てた。

 

進む。

 

ほどなくして、頂上が見えてくる。

 

以前、イズンを護衛していたヴァルキリー達が見えた。煌が歩み寄っていくと、露骨に恐怖の顔を浮かべる。

 

それでも、必死に斬りかかってきたのは流石だろう。煌も容赦しない。

 

右左に斬り倒す。

 

そして、目の前には。以前、万魔会談で見た、オーディンがいた。金の鎧を身につけたオーディンは、八本足の馬に乗っている。あの馬こそ、スレイプニル。オーディンの愛馬だ。肩には二羽の鴉。そして手には、グングニルである。

 

「ほう。 側近だけを連れてくるだろうとは思っていたが、女子供ばかりか。 そんな戦力で、私に勝つつもりか」

 

「勝つつもりだ。 皆貴方が思っているよりも遙かに強い」

 

「そうか。 ではその強さ、見せて貰おうか!」

 

オーディンはルーン文字の発明者だ。

 

そのまま、ノータイムでルーン魔法を発動してくる。ソニックブームが飛んでくる。アマノザコが相殺。だが、その時には、スレイプニルが駆け、オーディンは上空に躍り出ていた。

 

投擲されるグングニル。

 

徹底的な塩試合をするつもりか。

 

それは上空から攻めれば有利に決まっている。

 

しかもこちらの冷静さを失わせる布石を徹底的に打ち、なおかつ消耗した状態でここに来るようにも仕向けた。

 

その上で、勝てば儲けもの。

 

そのように考えているのは確実だ。

 

必中という設定のグングニルだが、即座に側に出現させた毛皮で受け止める。ほう、とオーディンが呟く。

 

ガルムの皮だ。

 

北欧神話では、ヴァルハラに行かない人間は、ヘルという冥界に落ちる。文字通り地獄を意味するヘルの語源であり、冥界の女神ヘルの支配する土地である。

 

其処の番犬こそガルム。

 

ギリシャ神話の心優しい勇敢な冥界の番犬であるケルベロスと違う、ただ獰猛なだけの邪悪な存在だ。

 

今の煌は、ガルムを呼び出すよりも、その皮を呼び出して、盾として使う事が効率的だと判断できる。

 

トールのミョルニルをヨムルンガルドの装甲で防いだのと考えは同じだ。

 

しかも、グングニルが犬の神魔に無力である事はハヤタロウが証明してくれた。それもあって、堂々とこれで防げる。

 

「少しは考えているではないか。 それで、高速で移動する私に、どうやって対応するつもりかな?」

 

「こうする」

 

それも決めてある。

 

オーディンがスレイプニルに乗ってくることくらいは想定済みだ。

 

移動しながら、さっきまでオーディンが居座っていた高所に出る。オーディンは不審そうにしながら、スレイプニルを駆る。

 

此処では狙い放題だからだ。

 

だが、即座にアマノザコが烈風を引き起こす。

 

猛烈な風は、アマノザコが煌と一緒に大物神格を倒し続けた事で、更に苛烈さを増している。

 

スレイプニルの足が鈍る。

 

更にマーメイドがぬるい雨を降らせる。雷雨、しかも生ぬるい雨だ。

 

トールにも有効だったぬるい雨だ。

 

トールより個人武勇が落ちるオーディンに、通じないはずがない。

 

「ぬ、ぬうっ!」

 

「どうした、自慢のグングニルは僕には届かない。 下の戦場にだって、既に視界不良で届かない。 だとすれば、接近戦を挑むか、魔法戦を挑むしかないが?」

 

「舐めるな小僧。 ルーン文字の発明者である私に、魔法戦だと!」

 

風を相殺しながらオーディンが速力を上げる。アマノザコが複雑に風を操作するが、オーディンは更に上回る技量でそれを回避し続け。またグングニルを投擲してくる。だが、ガルムの皮ではじき返す。

 

ラグナロクでフェンリルに手も足も出ず食い殺されるオーディンだ。

 

実際のところ、グングニルはあくまで勝利のシンボルに過ぎず。

 

その武器としての力は限定的なのだ。

 

それに、である。

 

アマノザコには勝てるとしても、マーメイドはどうする。

 

吹き付けてくる凄まじいぬるい雨に、オーディンは苛立ちを募らせ。戦術を変えてきた。

 

「其処の人魚の小娘から始末してくれる! 死ね!」

 

礫を飛ばしてくるオーディン。

 

いきなり荒っぽい魔法に切り替えてきたが、だからなんだ。即座に盾になって、その全ての礫をはじき返す。

 

やはりトールには武勇で及ばないな。

 

恐らくだが、先代最高神であるトールを始末してそれで不安要素を消したつもりだったのだろう。

 

トールがこの場にいたら。

 

煌ももっと慎重に攻め上がらなければならなかったものを。

 

下で戦っている皆からも、思念で戦況は把握している。

 

大乱戦だが、現状では不利ではない。

 

そして、風が完全に止まる。

 

アマノザコの力を、オーディンが凌駕したのだ。高笑いしながら、速力を上げようとしたその瞬間だった。

 

スレイプニルの脇腹に、大穴が開く。

 

悲痛な悲鳴を上げて、スレイプニルがオーディンを空中に放り出していた。

 

ミヤズによる狙撃である。

 

眷属の一人をミヤズの側につけ、狙撃のタイミングを話したのだ。

 

そしてミヤズは、見事に決めてくれた。

 

オーディンはそれでも、空中で態勢を整えてみせる。アマノザコの風操作を抑えつつ、である。

 

流石と言うほかないが、だがそれが限界だ。

 

どれだけ処理能力があっても、大きな隙が出来る。

 

煌が切り札を切った。

 

全てを吹き飛ばし、その場に出現したのは、光の鳥。

 

ホルスである。

 

ホルスにまたがる。

 

必死に足場に着地に懸かるオーディンは、グングニルの投擲も、風魔法による防御も、いずれも「それどころではない」。

 

落下すれば乱戦に巻き込まれ、スレイプニルを失った現状では、それこそテュール等に袋だたきにされて終わりだ。

 

そして足場に着地した瞬間には、既にアマノザコとマーメイドの支援を受けた煌が、暴風神としてのフルパワーで、オーディンに迫っていた。

 

それでもなお、ルーンで壁を展開しようとしたのは流石だ。

 

普通だったら間に合っただろう。

 

だが。

 

「わっ!」

 

「なにっ!」

 

わーが完璧なタイミングで脅かす。

 

わーとしても、これだけ非道をしでかしたオーディンには、思うところが山ほどあったのだろう。

 

普段は楽しそうに脅かすのに。

 

今回は明らかに鼓膜が破れそうな勢いで脅かしていた。

 

まさかこんな存在に脅かされて、決定的な隙を曝すとは、オーディンも思っていなかったのだろうか。流石に対応できない。

 

凄まじい形相になるオーディンだが。

 

その時には、太陽神と暴風神の渾身のチャージを受けて、空中に投げ出されていた。

 

「お、お、おのれえええええっ!」

 

「それで、此処からどう逆転する」

 

「私が戦闘での駆け引きで後れを取るなどあり得んことだ! それが如何にトールを正面から倒した相手であってもだ!」

 

「貴方はラグナロクで事前に全て予言で知っていたのに、策も何もないフェンリルに手も足も出せずに敗れる程度の存在だ。 それは早い話、貴方が神話の時点で、ただの陰湿な陰謀屋で、戦士としては三流だという良い証拠だ!」

 

もはや鬼相を浮かべ、喚き散らすオーディンを、そのままチャージで押し込んでいく。見る間に山が近づいてくる。

 

ホルスも速度を落とさない。

 

煌も、厳しい言葉を掛けていた。

 

「貴方がもてあそんだ死者達のように、砕け散れ」

 

断末魔も何もない。

 

山にたたきつけれたオーディンは、その場でマガツヒとなって消し飛ぶ。

 

北欧神話の主神が、このとき。

 

真っ先に創世を巡る戦いから、陥落したのだった。

 

 

 

乱戦が程なく決着する。マグニ、モージ、ヴィーザル、ヘイムダルらは戦死。北欧神話の神々は、ほぼ全滅した。

 

エインヘリアル達はほとんどその場で消滅。北欧の神々達は、諦めて逃げ散るか。その場で名誉の戦死を選んだ。

 

連れてこられたのはブラギである。アリスにかなり痛めつけられたようだが。後ろ手で縛られて。憔悴しきった様子ながら、死を選ばなかったようだった。

 

「降伏する」

 

「煌様、私からも頼みます。 この人は」

 

「分かっている。 ブラギ、僕は一神教の理は破棄し、そもそもどこかしらの神が貶められる世にはしないつもりだ。 貴方は力を貸してほしい。 北欧の神々を、蛮族が信じる野蛮な信仰ではなくすことを約束する」

 

「……分かった」

 

うなだれるブラギ。

 

戦力は高い方ではないのだ。とてもアリスにはかなわなかったのだろう。

 

無力感に打ちひしがれていて、痛々しかった。

 

乱戦の中、傷だらけになりながらも、生き残ったイチロウが、契約して手持ちにする。次だ。

 

他化自在天に頼もうと思ったのだが。

 

戦場跡に来た人がいる。

 

悟劫だった。

 

「北欧支部が何かしているとは聞いていたが、これはまた随分と酷い死者の貶め方をしたものだ。 拙僧が彼らを戦闘傀儡としての存在から解放しよう。 もっとも、望んでヴァルハラに行った者達は、自身の意思を尊重するが」

 

「お願いします。 他化自在天に頼もうと思っていたのですが……」

 

「他化自在天か。 第六天の長とは言え、成仏させるのは少し苦手であろう。 やはり拙僧に任されよ」

 

煌が見たところ、悟劫は恐らくは相当高位の仏だ。

 

仏は悟りを開いた段階によって如来、菩薩、羅漢の三段階に別れるのだが、恐らく如来級の仏であるだろうと煌は睨んでいる。

 

悟劫が読経を始めると、無理矢理エインヘリアルにされていた死者達の魂が。束縛から解放されていく。

 

そして光になって、消えていった。

 

元々北欧の戦士達だったエインヘリアル達は、ヴァルハラに帰るようだ。

 

それはとめない。

 

戦争が三度の飯より好きだというのなら、それは個人の価値観だ。

 

それをこちらに押しつけられない限り、こちらからどうこういうつもりはない。オーディンは最悪の形で押しつけてきた。だから徹底的に叩き潰した。それだけだ。ヴァルハラの解体については、座に着いてから考える。解体する場合でも、戦争が好きな魂をそれから無理矢理引き離すつもりはない。迷惑が掛からないところで勝手にやるように促すだけだ。

 

乱戦に勝利したとは言え、こちらも消耗が大きい。

 

特に六度にわたってグングニルを防いだハヤタロウは、かなり酷い手傷を受けていた。

 

トリアージをミヤズがしているが、顔はずっと険しい。

 

タオが壁を展開して、周囲からの干渉を防いでくれている。ヨーコは力を温存して、タオが防げない相手が来た時のために備えてくれていた。

 

なお、マグニとモージを倒したのは、眷属達と情報を交換する限りヨーコだ。

 

遠距離からの闇の力で、トールの息子達を容赦なく闇の中で始末した。恐ろしい力である。

 

敵対していたらと思うとぞっとしないが。

 

積極的に味方をしてくれていると思うと助かるし。

 

何よりも闇をも受け入れてこそ、創世はなせるだろう。

 

「ミヤズさん。 応急処置はまだかかりそうか」

 

「もう少しかかります。 煌先輩も、出来る範囲で自己回復をお願いします」

 

「ああ、分かっている」

 

これで、北欧支部は落ちた。

 

次に狙うとしたら、ギリシャ支部か。インド支部はシヴァが不安要素だが、今仕掛けてくる力は恐らくない。

 

あの狡猾なゼウスは、早いうちに倒した方が良い。

 

そう、煌は判断していた。







・バルハラについて

世界の神話でももっとも羨ましくない天国ですね。延々と ス ポ ー ツ と し て 戦争というか殺し合いを楽しみ、死んでも生き返り続け、そして最終戦争ラグナロクではそれも無駄に全部敗死。

他にも世界の神話にはろくでもない天国はいくつかあるんですが、バルハラはその最たるものでしょう。

これが天国として受け入れられていたというのが、当時の北欧が色々な意味で凄い土地だったのだなというのを示していますね。


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