廃墟に潜む道化師人形は、ひっそり静かに暮らしたい   作:糸守ものち

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十三話目です。騎士団が動き始めます。


一章 第十三話「報告と、嗅ぎ回る影」

 

 

【ウェイブ視点】

 

 数日後、王都に戻ったウェイブは、その足で蒼剣騎士団の詰め所に向かった。

 

 廃墟での目撃情報。これは立派な報告事項だ。しかも自分が直接確認してきたのだから、信憑性は抜群だ。

 

――(ふぅん↑ この俺が直接確かめてきたのだから、これは間違いなく大手柄になる)

 

 詰め所の扉を開けると、団長室の前に衛兵が立っていた。

 

「マグナス団長に報告があります。ウェイブ騎士、ただいま参りました」

 

「……今は来客中だ。少し待て」

 

――(む。来客中か……まあ、待ってやろう。俺ほどの騎士には余裕がある。ふぅん)

 

 しばらくして、団長室から人が出てきた。黒いローブの男だった。細身でガリガリとした体型。目の下に隈がある。

 

――(あれは……魔法師団のザガン師団長か?)

 

 ザガンはウェイブをちらりと見た。興味なさそうな目だった。

 

「……くひひ」

 

 小さく笑って、廊下を歩いていく。

 

――(何がおかしいんだ、あの人は……まあいい)

 

 ウェイブは団長室に入った。

 

 マグナス・グロウンは大きな椅子にどかりと座っていた。貫禄のある体格。立派なひげ。少し出ている腹。

 

「おう、ウェイブか。何の用だ」

 

「はっ! 報告があります団長! 辺境の廃墟の件についてです!」

 

 マグナスが眉を上げた。

 

「廃墟? ああ、あの噂の廃墟か?」

 

「はい! この俺が直接現地を確認してまいりました!」

 

「ほう!」マグナスが身を乗り出した。「それで、何がいた?」

 

「白い髪の娘が廃墟に住んでいることを確認しました。魔物の気配はありませんでしたが、普通の人間ではない可能性があります」

 

「ふむふむ!」マグナスが腕を組んだ。「して、その娘は危険か?」

 

「……詳細は不明です。ただ、目が合った際に……」

 

「目が合った!?」マグナスが立ち上がった。「それは一大事ではないか?! 吾輩が直接乗り込んでやろう!」

 

――(え、そんな話になるのか……?)

 

「だ、団長! まだ危険かどうか確認できていないので、慎重に……」

 

「慎重? 吾輩に慎重は不要だ! 力で解決するのみ!」

 

――(あ、これは止まらないやつだ……)

 

「し、しかし団長、調査もなしに突撃するのは……」

 

「調査など不要! 行ってみればわかる! 吾輩の勘がそう言っている!」

 

――(勘で動く人だったのか……)

 

「……では、念のため魔法師団にも協力を仰いではいかがでしょう。ザガン師団長が先ほど……」

 

「ザガンか!」マグナスが手を振った。「あ奴は難しい話ばかりする。吾輩には向かん。よし、明日にでも廃墟へ向かうぞ! ウェイブ、お前も来い!」

 

「は、はい……」

 

――(ちょっと待て。明日? 俺も行くの? 廃墟に? あの廃墟に??)

 

 ウェイブは引きつった笑顔で頷きながら、心の中で盛大に後悔していた。

 

――(……余計なことを報告してしまった気がする。ふぅん……)

 

 

   *   *   *

 

 

【ミネルバ視点】

 

 王都の酒場は、いつも情報が集まる場所だ。

 

 ミネルバは隅のテーブルでジョッキを傾けながら、周囲の会話に耳を澄ませていた。冒険者として長年培った習慣だ。

 

 最近、気になることがある。

 

 廃墟の噂が広まっているのは知っていた。でもそれ以上に、騎士団の動きが少し慌ただしくなっている気がする。

 

「……聞いたか。蒼剣騎士団が廃墟の調査に動くらしいぞ」

 

 隣のテーブルから声が聞こえた。

 

――(来た)

 

 ミネルバは表情を変えずにジョッキを傾けた。

 

「マグナス団長が直々に動くとか」

 

「あの人が動くのか。大げさな……」

 

「でも団長が動くってことは、公式の調査になるってことだろ」

 

――(……まずい)

 

 ミネルバは素早く立ち上がり、酒場を出た。

 

 外の夜風が頬に当たる。頭の中を素早く整理する。

 

 騎士団が動く。マグナスが直接来る。それはつまり……ネルの廃墟が、公式に「要調査対象」になったということだ。

 

――(思ったより早かった……)

 

 ミネルバは足を速めた。クロウに連絡を取らなければならない。情報を集める必要がある。騎士団がいつ動くのか、何人で来るのか、目的は何なのか。

 

 角を曲がったところで、見知った顔と鉢合わせた。

 

「……ミネルバか」

 

 クロウだった。黒髪を少し乱して、いつもの軽い皮鎧姿。

 

「クロウ。ちょうどよかった。蒼剣騎士団の動きについて何か知らないか」

 

「……知ってる」クロウが静かに言った。「さっき詰め所の近くを通ったら、マグナス団長の声が聞こえた。明日動くらしい」

 

「明日!?」

 

「ああ。人数は……団長含めて五、六人といったところか」

 

――(明日。五、六人……)

 

 ミネルバは舌打ちしたい気持ちを堪えた。

 

「……わかった。ありがとう」

 

「ミネルバ」クロウが続けた。「もう一つ」

 

「なんだ」

 

「蒼雷魔法師団のザガンが、同じ頃に騎士団詰め所に出入りしていた。何かを話していたようだが……詳細は不明だ」

 

――(ザガンまで……)

 

 ミネルバの表情が険しくなった。

 

「……そうか。引き続き頼む」

 

「ああ」

 

 クロウが闇の中に消えた。

 

 ミネルバは一人、夜の王都に立っていた。

 

――(ネルに伝えなければ……そして、どうするか考えなければ)

 

 明日、騎士団が廃墟へ向かう。

 

 ミネルバは走り出した。

 

 

   *   *   *

 

 

【ネル視点・深夜】

 

 ミネルバが廃墟に飛び込んできたのは、夜も更けた頃だった。

 

 息を切らせながら、単刀直入に言った。

 

「明日、マグナス団長率いる蒼剣騎士団が廃墟に来る。五、六人だ」

 

――(……!)

 

 ボクは固まった。

 

 明日。明日来る。

 

――(早い。早すぎる……!)

 

「逃げるか?」ミネルバが聞いた。「それとも……ここに残るか」

 

 ボクは少し考えた。

 

 逃げる。でもどこへ。この廃墟はボクの家だ。人形の素材も、アウラも、ロイドがくれた白い石も、窓際の花も……全部ここにある。

 

――(逃げたくない)

 

 ボクはゆっくりと首を横に振った。

 

「……そうか」ミネルバが頷いた。「なら、俺も残る。一緒に考えよう」

 

 廃墟の中に、静かな夜が続いていた。

 

 アウラが窓際の花に水をやっていた。深夜なのに。誰も言っていないのに。

 

 ボクはその様子を見ながら、明日のことを考えた。

 

 平穏を守るために。この場所を守るために。

 

 道化師の人形は、初めて「戦う」ことを考え始めていた。

 




最後まで読んでいただきありがとうございます。「明日、マグナス団長率いる蒼剣騎士団が廃墟に来る」……ネルはどう動くのでしょうか
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