廃墟に潜む道化師人形は、ひっそり静かに暮らしたい   作:糸守ものち

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十八話目です。ロッシュの報告と、予期せぬ鉢合わせが起きます。


一章 第十八話「報告と、予期せぬ鉢合わせ」

 

 

【ロッシュ視点】

 

 蒼雷魔法師団の執務室に戻ったロッシュは、緊張した面持ちでザガンの前に立っていた。

 

「……報告します。廃墟の監視を三日間行いました」

 

「うん」ザガンが羽根ペンを弄びながら言った。「聞かせてくれたまえ」

 

「白い髪の娘が確認できました。ただ……」ロッシュは少し言葉を選んだ。「近づこうとすると気配が消えます。まるでこちらの動きを把握しているかのように」

 

「くひひ……面白い」

 

「それと……娘と目が合いました。ただ見ているだけではなく、明らかにこちらの存在を認識した上で見ていました。威嚇、あるいは……牽制のように感じました」

 

 ザガンの細い目がさらに細くなった。

 

「牽制……ねえ」ザガンが呟いた。「白い娘が、ね。くひひ」

 

「他にも……廃墟の周辺にBランク冒険者が頻繁に出入りしています。蒼剣騎士団の調査の際に交渉した女冒険者と同一人物かと」

 

「ほう」ザガンが初めて羽根ペンを置いた。「Bランクが……廃墟を庇っている?」

 

「推測ですが、そのように見受けられます」

 

 しばらくの沈黙。

 

「……くひひ。面白い面白い」ザガンがゆっくりと立ち上がった。「ご苦労だったね、ロッシュ。引き続き監視を続けてくれたまえ。ただし……次は、もう少し慎重に」

 

「はっ」

 

「見られないように、ね。くひひ……」

 

 ロッシュが部屋を出ていった後、ザガンは窓の外を見た。

 

――(普通の白い娘ではない。Bランク冒険者が庇っている。そして……こちらの監視に気づいている)

 

「……実に、興味深い」

 

 ザガンは資料に新たな走り書きをした。

 

「廃墟の件 直接介入の準備を始める」

 

 

   *   *   *

 

 

【ネル視点・翌日】

 

 その日は穏やかな朝だった。

 

 ミネルバが依頼で出かけて、アウラが窓際の花に水をやっている。ボクは人形の素材を整理していた。

 

――(昨日の監視者は……今日はまだ来ていない)

 

 アウラの視界で周辺を確認しているが、今のところ異常はない。

 

 少し油断しかけていたとき。

 

 廃墟の入り口から、足音が聞こえた。

 

――(! また来た?)

 

 慌てて気配を確認する。重い足音ではない。軽くて……どこか自信満々な感じの足音だ。

 

――(……この足音、知ってる)

 

 入り口から白と青の鎧の騎士が顔を出した。

 

――(ウェイブだ……!!)

 

「……よし。今日こそ」

 

 ウェイブが拳を握りしめながら廃墟に入ってきた。そしてボクを見て、また固まった。

 

「……麗しきマドモワゼル」

 

――(また言った!!)

 

 ウェイブが膝をついてボクの手を取ろうとした……そのとき。

 

 廊下の奥から、重い足音が近づいてきた。

 

「ネル、今日の依頼は早めに終わった。夕飯の素材を――」

 

 ミネルバが廃墟に入ってきた。そして固まった。

 

 ウェイブも固まった。

 

 ボクも固まった。

 

 三者、沈黙。

 

「……誰だお前」

 

 ミネルバが低い声で言った。そしてすぐに目を細めた。

 

「……待て。お前、先日マグナス団長と一緒に来た騎士じゃないか」

 

「っ……! き、気づいてたのか……! ふ、ふぅん」

 

「廃墟をじろじろ観察していた若い騎士だろう」ミネルバが腕を組んだ。「名前は?」

 

「……ウェイブ! 蒼剣騎士団の騎士だ! ふぅん↑」

 

「騎士団の人間がなんでここにいる」

 

「そ、それは……視察だ! 視察のために来た! ふぅん↑」

 

――(視察って何だ……)

 

「視察……」ミネルバが眉をひそめた。「騎士団の正式な調査なら、先日マグナス団長が来ただろう。それとは別に何をしている?」

 

「そ、それは……個人的な……視察だ! ふぅん」

 

「個人的な視察」ミネルバが静かに斧を手に取った。「……廃墟に無断で侵入して、個人的な視察とはいい度胸だな」

 

「ひ……!」

 

 ウェイブが後ずさった。ミネルバの目が笑っていない。

 

「待て。逃げるなら追いかけるぞ」

 

「に、逃げてない! 俺は全然怖くない! ふぅん……ふぅん……」

 

――(「ふぅん」が増えてる……)

 

「……名前はウェイブと言ったな」ミネルバがため息をついた。「いいか。ここは俺が管理している場所だ。次に無断で入ったら、騎士団に報告する」

 

「わ、わかった……!」

 

「今日は帰れ」

 

「……帰る! でも俺は全然怖くなかったからな! ふぅん!」

 

 ウェイブが足早に廃墟を出ていった。その背中を見送りながら、ミネルバがため息をついた。

 

「……さっきの騎士、また来るぞ」

 

――(絶対来る……)

 

「騎士団の人間なら、下手に追い払いすぎるのも問題だ。うまく付き合う方法を考えないとな」

 

――(うまく付き合う……ウェイブと?)

 

 ボクはその言葉の重さを噛み締めながら、廃墟の外へ去っていくウェイブの気配を感じていた。

 

 廃墟の外で、夕暮れの風が木々を揺らしていた。

 

 平穏を望む道化師の人形の日常は、今日も賑やかすぎた。

 

 けれど、廃墟の外では——本当の脅威が、静かに動き始めていた。

 




最後まで読んでいただきありがとうございます。「悪い奴じゃない。ただの馬鹿だ」……ミネルバのウェイブ評、いかがでしたでしょうか?
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