廃墟に潜む道化師人形は、ひっそり静かに暮らしたい   作:糸守ものち

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二十三話目です。新たな協力者が動き始めます。


一章 第二十三話「情報屋の警告」

 

 

【クロウ視点】

 

 ザガン・クロイスという男を、クロウは以前から追っていた。

 

 別に依頼があったわけじゃない。ただ……あの男の動きは、情報屋として見過ごせないものがあった。蒼雷魔法師団の団長でありながら、独自の情報網を持ち、団員を私的に動かし、王国内で密かに何かを進めている。それだけなら、権力者の横暴として片付けられる話だ。

 

 でも最近、ザガンの視線が一点に集中し始めた。

 

 最近、もう一人この男に関心を寄せている人物がいる。女王直属近衛兵のレイニー。彼女が動き始めたという噂は、王都の情報屋たちの間でも広まりつつあった。

 

――(女王が動いているなら……急ぐ必要がある)

 

――(辺境の廃墟……か)

 

 クロウは酒場の片隅でエールを一口飲んだ。

 

 ミネルバが関わっている廃墟だと気づいたのは、つい最近のことだ。あいつが辺境に足繁く通っていることは知っていた。でも、まさかザガンの標的と被るとは思っていなかった。

 

――(……面倒なことになってきた)

 

 クロウは立ち上がった。

 

 今夜、ミネルバに話しかける必要がある。

 

 

   *   *   *

 

 

【ミネルバ視点】

 

 依頼を終えて酒場に戻ってきたミネルバは、入り口で気配を感じた。

 

「……クロウか」

 

 振り返ると、黒髪の男が壁にもたれていた。いつも通りの飄々とした顔だが、目だけが少し違う。

 

「珍しいな。お前から接触してくるとは」

 

「……話がある」クロウが静かに言った。「ザガンのことだ」

 

 ミネルバの目が鋭くなった。

 

「……入れ」

 

 二人は酒場の奥の席に移動した。クロウがエールを一口飲んでから、口を開いた。

 

「最近、ザガンの動きがおかしい。辺境の廃墟に何度も人を送り込んでいる。お前も知っているだろう」

 

「……ああ」

 

「何がある?…あそこに」

 

 ミネルバが少し間を置いた。

 

「……俺の口からは言えない」

 

「そうか」クロウが静かに頷いた。「詮索はしない。ただ……ザガンは本気だ。今まで遠巻きに観察していたが、そろそろ直接動くつもりだと思う」

 

「……根拠は」

 

「蒼雷魔法師団の精鋭が、ここ数日で三人姿を消している。依頼もなく、報告もなく。公式には『個人的な用事』となっているが……ザガンが動かしていると見て間違いない」

 

 ミネルバが腕を組んだ。

 

「……三人か」

 

「しかも全員、廃墟がある方角に向かっている。俺の情報網ではそこまでしか掴めていないが……お前なら意味がわかるだろう」

 

――(三人……。ネルは一人で追い払ったが、次は無理かもしれない)

 

「……わかった。助かった」

 

「礼はいらない」クロウが立ち上がった。「ただ……一つだけ聞いていいか?」

 

「何だ」

 

「あの廃墟に、守る価値があるのか?」

 

 ミネルバはしばらく黙っていた。それから、静かに言った。

 

「……ある」

 

「そうか」クロウが短く答えた。「なら……手伝う。金はいらない。ただ、一度会わせろ」

 

「……廃墟の主にか」

 

「ああ。自分で確認する」

 

 ミネルバが少し目を見開いた。

 

「……お前が無償で動くとは珍しいな」

 

「……腐れ縁だ。仕方ない」

 

 クロウが踵を返した。その背中に、ミネルバが言った。

 

「……ありがとう、クロウ」

 

 クロウは振り返らなかった。ただ、少しだけ足が止まった。

 

「……次の依頼まで時間がある。それだけだ」

 

 そのまま酒場を出ていった。

 

 ミネルバはエールを一口飲んで、静かに考え込んだ。

 

 

   *   *   *

 

 

【ミネルバ視点・翌日】

 

 廃墟に来たミネルバは、いつも通りネルに状況を報告した。

 

「クロウという男を知っているか? 俺の昔からの仲間だ」

 

 首を横に振る。

 

「そうか。……ザガンが本格的に動くかもしれない。精鋭を三人、廃墟の方角に向かわせているとの情報だ」

 

――(三人……。やっぱり次は無理だ)

 

 ネルは廃墟の奥の方をちらりと見た。

 

「……お前が何かを考えているのはわかる」ミネルバが静かに言った。「ただ……一人で抱え込むな。俺がいる。そしてクロウも動いてくれる」

 

――(クロウ……。ミネルバが信頼している人物なら……)

 

 ネルは少し考えてから、頷いた。

 

「……よし」ミネルバが立ち上がった。「次に来たときは、クロウも一緒に連れてくる。いいか?」

 

 頷く。

 

「……ネル」ミネルバが珍しく、ネルの目をまっすぐ見た。「お前は一人じゃない。忘れるな」

 

――(……わかってる。でも……ありがとう、ミネルバ)

 

 アウラが窓際でこちらを見ていた。その表情が、いつより少し……穏やかに見えた。

 

 廃墟の外で、夕暮れの風が木々を揺らしていた。

 

 平穏を望む道化師の人形は、初めて……自分以外の誰かを、信じようとしていた。

 




最後まで読んでいただきありがとうございます。「金はいらない。ただ、一度会わせろ」……クロウはどう動くつもりなのか...気になりますね?
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